路地裏ニンジャ・スクワッド

    作者:本山創助

    ●新宿の路地裏
     深夜三時。
     人気の無い路地裏に、不気味な炎が揺らめいた。赤黒い炎を纏ったライオン大の猫が、音もなく歩いているのだ。一見太った猫だが、その模様も顔も、どこかカエルを思わせる。
     その後ろに続くのは、巫女とナース。
     さらにもう一人。まるで真横に重力があるかのようにビルの壁を歩く、忍装束の男。
     彼らは一言も発せず、身を潜めながら、路地裏をさまよう。
     彼らを目撃して生きて帰った者は、居ない。

    ●教室
    「今度の相手は、かなり厄介だと思う」
     皆に資料を配りながら、賢一が説明を始めた。

     深夜三時、新宿の路地裏に、病院勢力の灼滅者を元にしたアンデッドが現れるんだ。キミ達にはこれを灼滅してもらいたい。
     もう知ってるかもしれないけど、この手のアンデッドは、他のアンデッドよりもかなり強力なんだ。人目を避けながら新宿で何かを探しているようだけど、誰かに見つかったらその人を殺そうとする。だから放ってはおけない。
     今回戦う灼滅者アンデッドは、猫、巫女、ナース、忍者の四人グループだよ。巫女とナースはキミ達二人分、猫と忍者はキミ達三人分程度の強さだ。敵の戦力は配った資料に書いてあるから、よーく見て、作戦を考えてね。
     今回の敵が厄介なのは、基本的に一人を集中攻撃してくる所なんだよね。しかも、一番確実に仕留められそうな所を狙ってくる。だから、それに備えた作戦を練らないと、大変なことになるかもしれない。他にも、キミ達の作戦に穴があったら、そこを突いてくるかもしれないから、活性化するサイキックは慎重に選んだ方が良いと思う。
     敵はかなり強いけど、どうすれば勝てるのかをみんなで考えれば、たぶん大丈夫!
     それじゃ、頑張ってね!


    参加者
    天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)
    瑠璃垣・恢(崩壊症候群・d03192)
    綾峰・セイナ(銀閃・d04572)
    ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    相馬・貴子(高でもひゅー・d17517)
    レナード・ノア(都忘れ・d21577)
    ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)

    ■リプレイ


     深夜三時。
     オフィスビルに挟まれた狭い夜空に、丸い月が浮かんでいた。
     真新しいアスファルトに、汚れ一つない街灯が向こうまで並んでいる。
     その明かりが、奥の方から、ふ、ふ、と消えていった。
     消えた街灯の真下には、赤黒い炎を纏ったライオン大の猫の姿が見える。
     猫の後ろには、黒髪ストレートの巫女と、ふんわり巻き毛の金髪ナース。
     灼滅者達との距離は、街灯二つ分。約六〇メートル。
    (「猫にも巫女にもナースにも興味はない」)
     学帽の奥で、乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)の瞳が油断なく動く。
    (「用があるのはニンジャ、ニンジャだけだ」)
     歩くペースを変えずに、聖太は忍者を探す。手に提げたガトリングガンは、いつでも発射できる構えだ。
    「ニンジャ! ニンジャに会える聞いたヨ!」
     どこぞの民族衣装に身を包んだちびっ子忍者(?)――ンーバルバパヤ・モチモチムール(ニョホホランド固有種・d09511)が、目を輝かせながら足を速める。
     しかし、忍者の姿は見えない。
     街灯が、ガマガエルのような猫の模様と口元を照らして、また、ふ、と消えた。
     相手までの距離は、街灯一つ分。
     瑠璃垣・恢(崩壊症候群・d03192)が、首に掛けていたヘッドフォンを耳に当てた。
    「相馬、援護」
    「まーかしといてー!」
     相馬・貴子(高でもひゅー・d17517)とナノナノの『てぃー太』が、親指をぐっと立てる。
    「ミュージック、スタート」
     スイッチと共に、脳髄を叩くようなビートが溢れ出す。
     ズン、ズン、ズン!
     地を蹴って突撃する恢。並んで走るのは、ハレルヤ・シオン(ハルジオン・d23517)。
    「ボク達の『穴』、見つけられる?」
     くい、と首を傾げるハレルヤ。
    「来てごらぁん。こっちが突かれる前に、ボクがブッスリしてあげるからさあ……♪」
     ハレルヤが縛霊手を構えた、その時。
     空から忍者が降ってきた。
     猫の背中に跨がり、両手で印を結ぶ。
     猫の口が開き、渦巻く火種が、爆発。
     一気に吹き出した炎の奔流が、灼滅者達を飲み込んだ!
     髪が、皮膚が、肺が、灼熱の業火に炙られる。
     その紅蓮地獄から、まるで肉食獣のように飛び出す恢。火の粉を舞い上げ、右腕を大きく振りかぶりながら、巫女の懐に飛び込んだ!
     紫電を纏ったその腕が、空気を切り裂く。
     雷鳴と共に真横に走った稲光が、巫女のボディーに突き刺さった!
     紫電は巫女の腹に吸い込まれ、発火の時を待つ。
    「飛び散れ」
     ボンッ!
     くの字に折れ曲がった巫女が、大量の血を吐いた。
     恢の背後からジャンプ一番、ハレルヤが巫女の頭上で縛霊手を振りかぶる。
     そこに突き刺さる、ナースの跳び蹴り!
     ミニスカートから伸びる網タイツの脚。その先端のピンヒールがハレルヤのみぞおちに食い込み、今度はハレルヤがくの字に折れ曲がった。
     腹部に嘔吐感と圧迫感。だが痛みはない。改造による無痛覚症――ハレルヤは、笑った。
    (「もっと教えて。痛みってヤツを、もっと、もおっと、頂戴……♪」)
     巫女とハレルヤが、弾けるように吹っ飛んだ。
     アスファルトに背中と後頭部を打ち付けながら、ハレルヤは見た。
     夜空。
     満月。
     それを背に降ってくる、忍者の足の裏。
     ドガンッ!
     アスファルトの破片が舞い上がる。
     ハレルヤの顔面に、腕を組んだ忍者が直立!
     ハレルヤの後頭部がアスファルトにめり込み、体と両足が跳ね上がった。
     忍者の背後から、ドデカい右フックがブンッ!
     忍者が消え、ハレルヤが真横に吹っ飛ぶ。
     バァンッ!
     右のビルに叩きつけられたハレルヤ。壁に小さなクレーターができた。
     くるりと一回転する巫女。
     黒髪と巫女服をふわりとなびかせながら、異形化した腕を元に戻す。
     そこへ鉄塊が一閃!
     天祢・皐(高校生ダンピール・d00808)の無敵斬艦刀が、横薙ぎに巫女の腹を掻っ捌く!
     さらに、斬艦刀の上に乗ったンーバルバパヤが、同時に裏拳をお見舞いした!
     さっきとは逆に回転しながら吹っ飛び、巫女が左のビルの壁に叩きつけられた。
     逆さまになったハレルヤが、ずるり、壁から滑り落ちる。
     ぽふん、と肩を支えるてぃー太。その温もりが、薄れかかったハレルヤの意識をつなぎ止めた。
     反対側のビルに叩きつけられた巫女が、ずるり、壁から滑り落ちる。
     ぷん、と鼻につく油の臭い。木の葉が巫女に舞い降り――その足が着かないうちに、聖太のガトリングガンがうなりを上げた!
     ズガガガガガガガガンッ!
     弾丸の帯が、巫女を壁に縫い止め、油の染みこんだ木の葉を燃え上がらせる!
     ボワワッ!
     燃え上がった巫女にさらに飛びかかるは、綾峰・セイナ(銀閃・d04572)だ。両拳に集中したオーラを、一気に解き放つ!
     ドガガガガガガガガンッ!
     腕を十字にして、閃光百裂拳とブレイジングバーストを浴びる巫女。
     ナースが巫女に手をかざした、その時。
     魔力の風が吹き、レナード・ノア(都忘れ・d21577)の魔導書『オリガ』のページがバラララッとめくた。蛍光色の紋章が二つ、蝶のように舞い上がり、光の弧を描きながら対象に襲いかかる!
     ジュワッ!
     ナースの首に原罪が焼き付いた!
    「死してなおチームワーク抜群なご一行ってか? 妬けるねえ」
     そして、その連携を絶つのがレナードの役目。
     怒りに顔を歪めたナースが、レナードに向かって一直線!
     戦いはまだ、始まったばかりだ。


     体をぶつけ合う音。
     体が地を転げる音。
     かけ声。
     機銃音。
     雷鳴。
     ビルとビルの間に、激戦のサウンドが反響する。
     いつの間にか、全ての街灯が消えていた。
     路地を明るく照らすのは、月の明かりと、猫の炎。
     それともう一つ。
     巫女が、今、火だるまになっていた。
    「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ」
     熱風に黒髪を逆立てながら、絶叫する巫女。
     ボンッ!
     巫女のドデカい右ストレートが、ンーバルバパヤの体全体を打ち据える!
    「ンぎゃあーっ」
     背中を丸めてゴロゴロ転がるンーバルバパヤを、貴子が受け止めた。すぐにてぃー太がふわふわハートを飛ばし、ンーバルバパヤを立たせる。
     そこに飛び込む忍者!
     二人とてぃー太はWの字に離散!
     忍者は着地と同時に貴子を振り返るが、そこに、貴子の姿はない。
     Wジャンプで空を蹴り、さらに、てぃー太の頭を踏んで高く舞い上がった貴子は、忍者の背中に急降下!
    「毒々の術ー!」
     デモノイド寄生体によってアームキャノンと化した右腕が、緑色の光線を吐き出した!
     振り向きざまにブン、と腕を振る忍者。手裏剣ビームだ!
     二つの光は空中ですれ違い、光線は忍者の顔面に、手裏剣は貴子の胸に直撃!
     吹っ飛ぶ貴子に、ナースが跳び蹴りをかます。
     が、これは届かない。射程が短すぎる!
     カララン。
     鳴子が乾いた音を鳴らした。見れば、ナースの脚が、アスファルトに展開されたしめ縄を引っ張っている。と、同時に、感電したかのような衝撃が、ナースを貫いた。レナードの結界に触れたのだ!
     結界にシビれるナース。その目の前で、巫女が炎にのたうち回っていた。
     巫女の炎を癒やすはずのナースも、巫女自身も、怒りに我を忘れてしまっている。
     敵の連携はバラバラだ!
     ハレルヤの影が鋭利な刃物となって、巫女の脇腹に突き刺さった。
    「ブッスリ♪」
     巫女が断末魔の叫びを上げる。
     恍惚の笑みを浮かべるハレルヤ。その真上から、猫が降ってきた!
     ガブリッ!
     猫に押しつぶされ、ハレルヤは火だるまになった。
     牙が喉に突き刺さるのを感じる。
    (「ボクもボクの友達も、キミみたいになってたかも。考えるとゾッとしないねえ」)
     自分を貪る猫を見つめたまま、ハレルヤの意識が暗転した。
     バコンッ!
     猫の脳天に、セイナがマテリアルロッドを叩きつけた。舞い上がる長い銀髪が、両手に込められた力の強さを物語る。
     ボンッ!
     猫の中で小爆発が起き、耳から血と炎を吹き出した。
     首を振って立ち直ると、猫が素早い身のこなしでセイナに襲いかかった!
    「ガウウッ!」
     猫の大口に、ガトリングガンがズボッと差し込まれた。割って入ったのは聖太。猫に押し倒されながらも引き金を引く。
     ガガガガガガンッ!
     弾丸は喉を突き抜け、猫を吹き飛ばした!
     皐の足下から真っ黒い犬の影が飛び出し、猫を空中でガブリッ!
     そのまま地面に叩きつけて組み伏せる。
    「ニャァァアウッ!」
     猫がもんどり打って暴れ、影の犬を八つ裂きにした。
     体勢を立て直そうと顔を上げた、その時。
     ベキッ!
     恢の拳が、猫の頬にめり込んだ
     ベキッ! ベキッ!
     さらに、左、右、と拳が顔面をえぐる。
     ベキッ! ベキッベキベキベキベキベキッ!
     吹っ飛ぶ猫を追走しながら、恢が猫の顔面、喉、腹をボコボコにぶん殴る!
     ベキンッ!
     脳天に一発。
     猫はアスファルトにアゴを叩きつけた。
    「ウウウウニャァァァァァアアアアッ!」
     這いつくばったまま、猫が叫ぶ。
     気合いが充実し、猫の体はみるみるうちに回復していった。
     戦いは、まだまだ長引きそうである。


     満月が、ビルの影に隠れようとしていた。
     ビルとビルの間を跳ね回る、二筋の黒い影。
     忍者と貴子だ。
     壁と空中を交互に蹴りながら、必死になって高度をとる貴子。すでに高さは十階程度。苦痛に歯を食いしばりながらも、反撃のチャンスを狙って下を振り返る。
     そこに、追っ手の姿はない。
     事態を把握するよりも早く、貴子は後頭部に重い衝撃を感じ、意識が飛んだ。
     貴子の後頭部には、腕組みしながら直立する忍者。
     いま、二人は地面まで急降下している。
     そこへ、魔法の光線がまっすぐに伸びた。
     忍者が跳躍。光線は空を切る。レナードが舌を鳴らした。
     貴子が地面に叩きつけられる寸前、てぃー太が受け止め、下敷きになって衝撃を和らげた。
    「てぃー太ちゃん、貴子ちゃんを脇に寝かせたら、回復だけに専念して!」
     貴子に代わってセイナが指示を出す。と、同時に猫が襲いかかってきた!
    「きゃっ」
     真横から押し倒され、セイナは肩からアスファルトに叩きつけられる。
     のど元を狙って大口を開ける猫。その中に、セイナがマテリアルロッドを突っ込んだ!
     ズボボボボッ!
    「ォェェェッ……」
     ロッドは喉を通って胃袋まで到達!
    「これでおしまいよ!」
     猫の口から、耳から、目から、つぎ込まれた魔力が溢れだし――。
     ボボンッ!
     アワレ、猫は爆発四散!
    「あと二人」
     皐が忍者の姿を探してビルを見上げる。そこに鋭く踏み込むナース。正拳突きだ!
    「んっ」
     皐は後ろ足を引きながら斬艦刀を振り下ろし、その突きを叩き落とした。
     バランスを崩したところに、返す刃が一閃!
     ズシャァッ!
     ナースは真っ二つだ!
     残るは忍者ただ一人。
    「ウオオオオッ!」
     レナードが忍者を追う。怒りに震えるその背中に、てぃー太が抱きついた。
     ふわふわハートが、レナードの体と心を癒やす。
     怒りを解いて、我に返るレナード。今すべきことは、回復だ!
     縛霊手を自分に向け、癒やしの光を浴びる。そこへ忍者の一撃!
     ドンッ!
     突きを腹に食らって膝を突くレナード。
     その背後から現れたのは、右腕を大きく振りかぶった恢!
    「塵に帰れ」
     ドカンッ!
     顔面にストレートを食らい、忍者はくるんと半回転。後頭部からアスファルトに叩きつけられた。
     忍者は見た。
     夜空。
     満月。
     それを背に降ってくる、ンーバルバパヤの足の裏。
     ドガンッ!
     アスファルトの破片が舞い上がる。
     忍者の顔面に、腕を組んだンーバルバパヤが直立!
    「ドーモ、ニンジャ先輩。ンーですヨ!」
     先輩の顔面の上でおじぎするンーバルバパヤ。
     忍者はンーバルバパヤの脇を両足で挟むと、跳ね起きると同時に吹っ飛ばした!
     先輩は怒り心頭だ!
     忍者は、ンーバルバパヤとレナードを怒りにまかせて攻め立てた。
     ンーバルバパヤとレナードもまた、怒りに囚われて忍者を攻めた。
    「ナノッ!」
     必死でレナードを回復するてぃー太。レナードが立っていることで、ンーバルバパヤとのダメージ分散がギリギリ間に合っていた。聖太も時々、二人を庇った。
     その間、クラッシャー陣の猛攻を食らっていた忍者が、ついに膝をつく。
     顔を上げた忍者が目にしたものは、地を這うように飛んでくる巨大な手裏剣!
     飛んで逃げようとする忍者――だが、巨大手裏剣は忍者の手前でホップ!
     ズシャシャシャシャァァッ!
     忍者のボディーを何度も切り刻むのは、聖太のピンと伸ばした二本の手刀だ!
     己の肉体を一個の手裏剣と見立た、聖太決死の回転体当たりが炸裂!
     忍者は空高く吹っ飛んだ。
     そして、着地する事もなく、塵と消えた。

    「さすがはニンジャ。恐るべき相手だった」
    「でも、ンーが想像してたニンジャと違ってたヨ」
     忍者を楽しみにしていた聖太とンーバルバパヤが、しみじみと語る。
    「まあ、あれはご当地怪人形態の人造灼滅者のアンデッドだからね」
     また騙されたヨ! とじたばたするンーバルバパヤ。
     そんな中で、皐は静かに黙祷する。
     戦い散って逝った者に敬意を。
     どうか、安らかに眠って下さい。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ