●バレンタインには女の子が頑張るけれど男の子だって頑張ってもいいと思う
2月といえばバレンタイン。
なんとなく校内が浮き足立っている気がするのは、やはりバレンタインを控えているからだろうか。
「……よし、出来ました!」
廊下の掲示板にチラシを貼った向坂・ユリア(つきのおと・dn0041)は、同じチラシを何枚も抱えた状態で満足気に貼り終えたチラシを眺める。
『手作りアクセサリをバレンタインにプレゼントしてみませんか?
一点もの、二人でお揃い、大切な人たちみんなでお揃い、あなたのアイデア次第で簡単に作れます』
「今年は何をやるの? ……UVレジンアクセサリ?」
「! あ、瀞真さん!」
後ろからチラシを覗きこんだ神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)がチラシに書かれた文字を読み上げる。
「はい、樹脂を固めて作るアクセサリなんです。アイデア次第で色々なものが作れるんですよ。良かったら瀞真さんも参加してくださいね」
チラシ、配ってきます――ユリアは軽やかな足取りで、チラシの束を抱えて歩いて行く。
(「ふぅん……面白そうだね」)
しばらくユリアの後ろ姿を見送った瀞真は、再びチラシに目を移してその内容を読み込んだ。
●消えない想いの証
UVレジンアクセサリというのは、紫外線に反応し固まる樹脂を使ったアクセサリのことだ。刺激臭などは殆ど無く、幅広い素材に使える。天気のいい日に太陽光に当てておけば数時間で固まるのだが、今回は時間を短縮するためにUVレジンランプを使用する。このランプの光に当てれば、更に短い時間で固めることが出来るからだ。
まず用意するのはミール皿やフレームパーツと呼ばれるセッティング。ブローチやペンダントの台座をイメージするとわかりやすい。この台座に好みのものを閉じ込めて、オリジナルのアクセサリにするのだ。
台座の色をそのまま背景にするのもいいが、好みの古切手や包装紙、布などを切って背景とするのもいいだろう。この、背景として入れた布や紙の上にレジン液を入れて固めればそれだけで素敵なものが出来上がるのだが、どうせならばもう少しアレンジしてみてもいいかもしれない。
ビーズパーツやメタルチャームは星や花、音符や歯車、鳥など、レジンアクセサリ専用のパーツではないがいろいろな種類があるので、贈る相手の趣味に合わせても楽しい。花びらや小さな花を入れるのも素敵だ。ネイル用のシールやパーツにも可愛い物はたくさんあるので、それらを使うのもいいだろう。
また、レジン液はほぼ透明だが、液自体に色を付けたり、希望する場所だけ色を付けたりすることもできる。勿論樹脂用の着色剤もあるのだが、パール顔料やラメの入ったマニキュアなどを使うと意外と簡単だ。
閉じ込めるものを台座にセッティングして、レジン液を流し込む。色を加えたい場合は加えて、UVレジンランプに当てて暫し待つ。
出来上がったものはチェーンを通してペンダント、ストラップやキーホルダー、イヤリングやピアス、バッグチャーム、ベルト用のアクセサリなどにもできるし、指輪用の台座やヘアピン用の台座など使う手もある。アイデア次第で男性にも女性にもプレゼントすることができるだろう。
相手のことを考えながら、手作りアクセサリ。
樹脂の中に想いをこめるのはどうだろうか?
チョコレートの他にもう一つ、プレゼントを添えるのも素敵だ。
●想い
「エヘヘ、自作アクセサリー、素敵デス」
ドロシーが使う土台は、中央で二つに分かれたハート型の物。紐を通してペアアクセサリにするつもりだ。自分用には音符や音楽記号を入れて、彼にあげる方には雲や鳥を入れる。いつまでも一緒に、幸せを探して行きたい――想いをこめて。
【泡影の伽話】の真珠と夜深は詠のアドバイスを受けて思うがままに台座に手を加えていく。
「……同ジ、海、でモ……全然、相違ネ? 詠先輩、海。神秘的、雰囲気!」
夜深と詠の二人は海を描いた。夜深は白花の砂地に魚。そして色とりどりのお星様。仄かな青色。詠は真珠粒と珊瑚を濃紺からマリンブルーのグラデーションに閉じ込めて。作成途中で出来た気泡はあえてそのままに。まるで涙みたい。
「お二人ともとても綺麗に出来ましたのね」
「真珠ちゃんは……ふふ、蝶々……お好きなのよね」
真珠が選んだのは青から紺のグラデーション。閉じ込められたのは夜空。天の川と煌めく星が彩って。空を、蝶が舞う。
「真珠、は。夜空? キらきラ、天の川、素敵!! 喋々モ、可愛、ネ♪」
好きなものを閉じ込めた、素敵なアクセサリが出来上がった。
「わわっ! これ、あたしのイメージっすか?」
「玖さんは私をイメージして作ってくださったのですね……!」
玖が作ったのはピンク色の花柄の背景に白いレースと赤いイチゴを閉じ込めて、ショートケーキ風に。莉茉は牡丹柄の古切手を背景にパンダを置いて。金色の鈴を持たせて可愛らしい玖をイメージ。目移りしながらも真剣に選んだ甲斐があって。ハッピーバレンタイン、嬉しい気持ちで笑いあった。
赤黒紫の三色グラデーションの布を背景にするところまでは同じ。その後はあげる相手の事を考えつつ。菫のチャームは彼女が好きだといったから。すせりは隣で作成していた貴音が差し出した作品を見て驚きを隠せなかった。
「えっ!? えっ!?」
「ふふ、綺麗に出来たわ。貴女に持っていてもらいたくて……すせりさんのいつも着ている着物の柄のお花、とってもお綺麗だったから」
閉じ込められているのは曼珠沙華。花言葉は「想うはあなた一人」である。だが喜んでみたものの、全く深い意味はなさそうで。
「……そうね。そうよね。ええ、いいわ」
交換できただけでもうれしい。
「おお、透明な液に色を加えると綺麗じゃなぁ」
嬉しそうに額縁風フレームに夜空を映しだした千代子は、そこに大きな歯車と小さな歯車を噛みあわせて閉じ込めて。そんな彼女の楽しそうな様子を盗み見た咲月の心がふわり、暖かくなる。
雫型の台座に赤を基調とした千代紙。その上に大きな花と小さな花を閉じ込める。彼女には華やかな千代紙の柄がよく似合うから。ブローチにでもしようか、うん悪くない。
(「夜がな、似合うと思うたのじゃ。静かに包み込んでくれるじゃろう?」)
チラと隣の咲月を見る。恥ずかしいから言葉にはせずに、小さな夜に閉じ込めて。
「水仙と音符のチャームを使ってトランペットのようにしてみるのはどうだろうか?」
シグマのアドバイスでクレイはラッパスイセンの絵を、花の部分だけ台座に合わせて切り取った。そこにクレイが選んだ音符チャームを入れて。マニキュアを使って彩りを足してランプに当てて完成を待つ。
「ラッパかぁ、俺は吹けないなぁ。ギターやドラムならできるけど」
「ギターやドラム出来るのも凄いと思うぞ?」
自然と思い浮かべるのは、贈る相手のこと。
「できたの渡したら喜んでくれるといいなぁ」
「きっと喜んでくれるだろ、安心しろよ」
沢山ある可愛いパーツを前にして落ち着かないたまきと昭子。たまきは星型を選んだ。濃紺に金のラメを散らせば世界に一つの夜空。彼女は夜空に光るお星様のイメージだから。
丸い枠に小さな白い花とピーズ。パールラメを添えた昭子。陽だまりの中の花のようなあたたかなイメージはたまき。
「誘ってくれてあれがとぅ。これからもよろしく、ね」
たまきが笑顔で差し出したアクセには、昭子が勧めた桜色のリボンがついていて。これからも縁が続くことを祈ってリボンはお揃いに。
風景画の切手と共にすずらんとスターチスを閉じ込めて。家族の様に大切な少女の幸せの訪れを祈り、変わらぬ誓いを込める。色の薄い和紙を真ん中に挟むように桃の花を配置した物は、密かに想いを寄せる相手に。想いが伝わるといいなとも思うけれど、伊織が一番に願うのは相手の幸せ。
そこは思いの詰まった場所だから。大切な場所だから。お揃いの鍵を持っている直人と稲葉はそれをデコる事にした。二人にとって特別な鍵だから。
夜空っぽい紺色に星を散らして。銀の月と金の兎を配置する稲葉。
「なあなあ、直人はどうしたんだー?」
「稲葉が銀の月に兎なら……俺はこうだろう」
直人は漆黒地に金の粉。金環食の光輪と金の鳥。
「……ん、やっぱそうだよな。お前らしくてイイな!」
稲葉の笑顔が、一番喜びを与えてくれる。
「ユリアさん、ここを光の加減でキラキラするようにしたいのですが」
「このパールラメを使ったらどうでしょう?」
玖耀に問われたユリアは、ラメの小瓶を差し出した。玖耀は天使の翼飾りのついた台座に桜色の花びらを閉じ込め、パールラメを散らす。
「和風で素敵ですね」
ユリアの手元を覗きこんで感想を述べると、彼女は嬉しそうに微笑んだ。
ベンデラブルーの花びらにレジンを塗って。ラメでキラキラ感を出して。慣れた手つきでリボンやレースをつける心。出来上がったバレッタは二つの青バラと真っ白なカスミソウがリボンとレースで可愛く飾られている。隣で作業をしている依都はパステルカラーの水玉模様の布とリボンを敷いた上に小鳥と花のチャームを乗せた。最後に鍵チャームと花型レースと共に革紐に通して完成。
「わぁ、素敵なバレッタありがとう!」
「依都のペンダントもとってもステキ! 大切にするわ」
素敵な贈り物をありがとう。
ピンクが好きだと聞いたから、瑠依はピンクのビーズをいじり始めたのだがどうにも細かい作業に苦戦してしまう。視線で訴えれば気づいた奈那が手伝ってくれた。奈那にあげるものなのに手伝ってもらうなんて、恐縮するが彼女はいい思い出になると言ってくれた。
手伝いながらも奈那は暗い青から明るい色のグラデーションを背景に銀のメタルチャームを星に飾っていて。瑠依はウサギのマスコットにスイーツデコのショコラを持たせた。
「ナナちゃん、だいすきー」
ウサギで顔を隠した裏声の彼女が可愛くて。
「……私もだいすき。……瑠依ちゃん!」
思わず奈那は抱きついた。
葎にとって菊乃は太陽のようで。だから月たる葎は夜に咲く月見草を閉じ込めて彼女に贈る。太陽だと言われた菊乃は日輪草を閉じ込める。互いに自分自身を閉じ込めて贈る。いつでも側にありたいと願いながら。どこにいても貴方を思っているから。大切な、相手を想う。
「この気持ち、受け取っていただけますか?」
出来上がった品を、自分自身を互いに差し出して、そして――。
「あ、向坂先輩丁度ええところに! バランス見て貰てもええですか?」
ごちゃごちゃしすぎだろうか。ユリアを捕まえた希沙はどきどきしながら返答を待つ。
「大丈夫です、十分素敵だと思いますよ」
群青色に花柄レースを重ねて、小さな釦で森の息吹。いつもありがとうの気持ちを伝えたくて。
「きっと喜んでもらえますよ」
そう言われると安心できた。
「レミ、うまくできてるか?」
なにぶん初めての作業なのでなんとも言えない。金の唐草模様入りの色てビロード生地を敷いて紙で作った黒猫と赤いビーズ。ラメ入りレジン液を流し込むレミ。黒とピンクのリボンでストライプにした背景に四つ葉のクローバーのシール。周りにも星のシールを散らして、芥もラメ入りレジンを流し込んだ。
折角互いをイメージして作っているのだから、出来ることならプレゼントしたいが。
「固まったみたいですね」
ストラップ紐をつければ、完成だ。
作業をしながらこっそりユークレースの横顔を覗く火蜜。その横顔を見ていると喜ばせたいという思いが強くなる。お互い手元を隠し、いそいそ手を動かす。火蜜は子猫型の台座に白い粗めの布を敷いて大きな水色のハートを乗せる。青薔薇の造花を鏤めてラメ入りレジンで仕上げ。
ユークレースはまんまる台座に白いレジンを入れて、苺のパーツとチョコスプレーにピンクのアラザンでカラフルに。仕上げに雪の結晶型のスパンコールを散らす。デコレーションケーキをイメージしたのだ。
「バレンタイン当日も、楽しみだね」
黄色のアイスランドポピーにレジンを塗って固めた忍は、余白に穴を開けてライトブルーの紐を通した。完成品はいつもお世話になっているクラブの部長に渡そうかななんて考えていると、こちらを見ているまりと目が合った。
「……本当にご自分用、です?」
忍の様子が想いを込めていたように見えて。
「まり殿はどんなのを?」
まりの手元を覗き込むとそこに広がっていたのは光溢れる春の庭園。空と花畑の間には白いレースリボン。壊れたオルゴールからとれた銀の蝶のチャームを閉じ込めて。これはまだ未来も知らない、けれど幸福な今のまりの気持ちを表していた。
淡い色の紙の上に花弁を重ねていく。一旦レジンを流し込んで固めて、その上に桜の花びら型に切った紙を六枚。桜の花弁は本当は五枚だけれど、六枚であることに意味があるのだ。梗花はその上にもう一度レジンを流し込む。桜が浮いているようにみえるように。
(……さて、どう渡したものかな)
レジンが固まるまでそれを考えよう。
隣にいるひよりをじっと見つめて。お花かな、うさぎさんとねこさんどっちがいいかなと考える紗奈。
「なぁに?」
小首を傾げたひよりに慌ててなんでもないと笑って。鈍く光る金色の枠にお花の絵とうさぎのチャームをを閉じ込めて。最後に表面に時計のチャームを。
「……できたっ!」
「わたしも」
ひよりが作ったのはチョコレートみたいな赤銅色の枠にミントグリーンを敷いて。天使の翼のチャームに小さな星を散りばめたもの。最後にレースのリボンを結んで完成。
「素敵ね」
紗奈の作品を見て微笑むひより。どんな反応を見せてくれるかドキドキだったけど、好感触に嬉しくなる紗奈だった。
小さな三日月型に黄色のレジンとラメを入れて。シンプルだけどこれがいいのだ、パーツを付ければヘアゴムが完成。ゴムに水色の星型ピースを通してあるのは乙女座のスピカを模してあるから。髪を結った時に月と星が並ぶ。いつかこうして出会えたらいいなという、瑞樹のちょっとした願掛け。
完成してからのお楽しみと内緒にしているのはお互い様。勇騎は背景に青と白を使い、月と狐を描く。同じものを二つ作ったそれは、つい最近の思い出を形に残したもの。里桜は夜空色の布の上に星屑のようにビーズを散りばめて。銀十字と鳥の羽ばたきのパーツを込める。レジンは青色のグラデーションになるように。
本人に見せるのは恥ずかしい里桜の前に差し出されたのは。
「……カメラ持ってくの忘れてたからな。代わりだ代わり」
あの時の思い出が蘇る。
「凄い……あ、ありがとな……」
狭霧は銀古美の懐中時計にマニキュアで夜空を描く。天の川も描いた夜空に星屑を、何度もレジンを重ねて配置。立体的な夜空になった。後持参した素材は……壊れた懐中時計の部品。普段なら捨てるのだけど、これだけは残しておきたくて。
(「僕が、少しだけ乗り越えた証だから」)
歯車を配置して、ぷっくりするほど液を流しこめば完成。
最初はお互い作業に集中していた。蓮二は長方形の枠に赤と白のラメでボーダーを描く。王冠と小さな羽パーツを閉じ込めた。
(「……おっかしいな、青が好きなのに無意識に赤で作っちゃった……」)
鵺白は丸いシリコン型にオレンジの花と星屑を入れてレジンを流し込む。大好きな太陽と星屑を散りばめて小さな宇宙が完成。
「君は何を作ってるの?」
「んー? キーホルダー。かわいくね?」
見せられたそれが赤い林檎のように見えて、美味しそう、とぽつり。
「鵺白はー? どんなの出来た?」
「わたしのは完成するまで内緒」
ケチーとむくれてみたけれど、彼女のそんなとこも可愛い。
「初めてなので、上手く出来たとは言えませんが……心を込めて作りました。よろしければ受け取っていただけますか?」
セカイがユリアに差し出したのは、円形の台座に夜空色の布を敷き、三日月のチャームを置いた物。所々に星の光を模したラメマニキュアが散っている。かすみ草のドライフラワーを添えて閉じ込めたバレッタだ。
「私が貰ってしまって良いのですか?」
「ええ、ユリアさんをイメージして作ったのですもの」
「ありがとうございます」
笑みを向けられると、作ったセカイも嬉しくなった。
手際の良い樹は、瓶詰めの花束をイメージして、瓶型のソフトモールドにフィモで出来た淡い紫の薔薇の花束を入れる。シルバーのラメグリッターを垂らしてハードタイプのレジンで固める。
「こ、ここに置きたいのに……もうっ!」
「大丈夫です? 殊」
上手く配置ができない殊を彩歌が手伝うのを見て、樹も手を貸す。殊が作っているのはペンダント台座を三つ。それぞれにドライフラワーと羽のチャームを入れて。背景はそれぞれ昼の青空、夕方の茜色、月夜の青色をイメージしている。
「彩歌ちゃんは出来た?」
「せっかく三人での記念ですから、お二人を傍に感じられるアクセサリにしようかなって」
緑の草原と青空をイメージして、それぞれの誕生花、チューリップ、桜、ダリアのフィモを並べる。
「想いが固まって……これも、証だよね」
ぽつり呟いた殊は嬉しそうだった。
風を閉じ込めることは出来ないから。レインは花弁を風に吹かれて舞うように閉じ込めようと決める。渡す相手を思えば日本らしい花が良くて。丁度梅の花が咲いていたことを思い出して、取ってきた。そして、思いとともに固める。レジンが固まるのを待つ間、何に加工しようか思案しながら。
「……今年は素直に渡しに行くかね」
ぽつり、呟いた。
空色の紙に星のチャームや絵付き古切手の切れ端、英字フィルムを鏤めて。透明と紺のレジンをかき混ぜてマーブルにするのは、見えたり見えなかったりが暁には似合うと思うから。
懐中時計の型に水底、もしくは空を思わせる青を塗って。一部を重ねたふたつの歯車の傍らに、星を。まるで止まった時の記憶。空か水底か飛び込まなきゃわからない。けれど煌めく世界がアリスには似合うと思うから。
青い世界から、外の世界から、お互い何が見えるだろうね――ふふ、案外見えるものだと思うけど。そんな言葉を紡ぎながらルーペを覗いた。
かっこよく、ちょっと渋めに。ちょっと古めの黄色がかかった新聞を敷いて、小さい歯車と首に赤い布を巻いた黒猫のパーツを入れる。赤いマフラーが靡いている感じになるように調節して、空は思わず笑みを浮かべる。
「探偵小説をイメージして作ってみたのですけど、上手く伝わるといいな~♪」
作業を始めたら没頭してしまうのは供助も民子も同じだった。鈍い金の四角いブローチベースに、深めの赤に白抜きで蔦柄の入った布を半分に。残り半分は青。横向きの黒山羊と小さな銀花と星のシルエットモチーフを相対させるように並べる。レジンで閉じ込めるまで真剣に無言で作り上げた。ふと我に返ったのは、固めている最中。
「さわたみさんどんなんした?」
民子は、深めのラウンド型にホログラムを敷き詰めて一旦固めて。ステンドグラス風にするべく色のレースを分解して色を流し込む。所々ブリオン乗せて最後に6ペンスコイン風チャームを。
「お……ホロなのになんか渋い」
「キョンたは布かー、それもいいな」
互いに見せ合うのもまた、楽しいのだ。
【ウルフカオス】の綾香は星型の枠に黒い和紙。座っている人型メタルチャームを仲良く並べて、周囲にキラキラの星や月のシールを配置してレジンを流す。ずっと仲良くしたいなという気持ちをこめて。
固まるのを待つ間、仲間達の手元を覗く。那由多が用意したのは双子の妹の宝物。持参した中身のなくなったペンダント枠にレジンと星の砂を敷いて貝殻の破片を乗せる。ブルーに着色したレジンの所にはビー玉の欠片を散らして。キラキラした海の完成。壊れた宝物が新しい宝物に生まれ変わった。
七は押し花をレジンに閉じ込める。パンジーの表にレジンを塗って固め、裏にもレジンを塗って固める。余分な樹脂は丁寧に切り取ってヤスリを掛けて。最後にブローチにすれば出来上がり。折角綺麗なんだから、花に飾りは付けない。作業自体は単純なので早く終わってしまい、マフラーにブローチを付けてみんなの手元を覗きこむ。
「城守のは四季が盛り込まれてて贅沢ね」
七が見つめる千波耶の作品は、かなり本格的だ。枠だけの懐中時計型のフレームをシリコンシートに乗せて、薄く入れた液に青みがかったグリーンのパール顔料を混ぜる。何度かに分けてパーツを入れて絵を描いて。最後にラメを。
「固めちゃうと後戻りできないのがドキドキよね」
「この待ち時間がハラハラドキドキするっす!」
千波耶に倣ってパーツを浮かすような配置に取り組む善四郎。雫型の台座に青い和紙をグラデーションになるように敷いて、下部に錨のメタルパーツを置いてレジンを固める。固まったら台座の上部に銀のラメで魚群を作って。魚や珊瑚のネイルシールを中間に配置。そして再びレジンの登場だ。
「ふむ、ああいう手法もあるのか……」
二人のやり方を見て呟いた銀嶺は、懐中時計型の枠に五線譜の書かれた紙を敷いて。音符型のパーツを写してきた譜面通りに置いた。1小節だけであるが小さいからなかなか難しい。だがこれは幼なじみの好きだった思い出の曲だから。いつか渡せる日が来るのかはわからないけれど。
「なぁ銀河、今どんな感じだ?」
「あ、あの……ダメだって!」
あまり悪戯されると手元が狂う。それをわかってて黒虎はつついているのだ。けれども口でそう言いつつも、こんなひと時がたまらなく嬉しい銀河である。後で交換しようということで黒虎はモフモフな犬の型に細かく切り刻んだ銀紙を混ぜて「銀河」のイメージを形取る。銀河は台座の上よりに星型のビーズを鏤め、下寄りに黒猫のパーツを置く。テーマは「星空に抱かれた黒猫」。互いに気に入ってもらえることを祈りながら。
円形の台座に世界地図の古切手と楽譜の切れ端を敷いて。ピンクの鳥パーツとかっこいい青い剣を入れた順平。何にするかは迷っているから、チャームのままで。現したのは順平自身の世界。デモノイドっぽい色の剣と鴇色の鳥が共存する世界。
「邪聖さんは何が御好きで御座いますか?」
「空が好きかな、後は星」
答えを聞いて九里が思い出したのは夏に選んでもらった浴衣の色。色和紙の上にビーズを星に見立てて散らすことにする。邪聖は手漉きの橙の民芸紙を敷いて鳥のパーツを置く。橙のラメに一部紫を入れて。思えば仲良し一周年。
「いつもありがと……ちゅうりちゃン、これからも仲良うしてな」
「此れからも佳き友人で居て下されば幸いに御座います」
澱みない手つきで葉が作るのは、日が昇る方向を指し示す羅針盤。小さなパーツを一つ一つ並べていく。そんな彼の手つきに対抗すべく錠も手を動かす。目指すはフラミンゴ。シルエットと羽のスタッズを組み合わせて作る。迷ってばかりの錠をいつも導いてくれる、そんな相棒に胸いっぱいの敬意と感謝をこめて。
貰った指輪に籠められた意味を考えながら、葉は手を動かす。それは間違っていなかったから、今度は自分が陽の射す方向を教えてやろう、と。
クリアベースのネイルチップにドライフラワーのカランコエの花びらを添えて固める。それだけでも不器用な一平の手ではなかなかうまくいかない。でも諦めずに作り続ける。カランコエの花言葉は、たくさんの小さな思い出。隣で作業する模糊はアンティーク調のロケットペンダントに沢山の鏡の欠片と青い小花のドライフラワー、小さな小さな蝶の模型標本を閉じ込めて。レジンが固まり始めたのを確認すると、ロケットの蓋を殆ど閉めてしまった。そのままランプをあてて開かないようにするのは、想いがバレないように。
「楽しいこと、悲しいこと、そういうことがあったらまた作るよ」
あなたを守る、その花言葉は告げずに一平は囁いた。
煉はペンダントサイズのメッセージボトルに森色のラメを融かした樹脂を入れる。底で蝶が舞うように差し出すのはコブシの花。思い浮かぶのは花みたいな笑顔。大人びて穏やかだったり、女の子らしく柔らかだったり、年下に見えるくらい輝いたり。もっと知りたいって思う、友だち。
兄の誕生年に発売された記念切手を敷いて、レジンを固める。これだけ。兄にプレゼントするつもりなのは【はじめましての会】の翔。
「先輩達は何作るんですかー?」
「手伝って貰って良いかな?」
手伝いますよと告げると雛菊が差し出したのは細かいパーツを作るシリコン型。雅も型からパーツを外すのを手伝う。雛菊が作るのはSD人形型の携帯ストラップだ。SD人形的型にレジンを流して固めて、パーツをレジンで繋げる。仕上げに細かい所を着色料で塗るのだ。
「葛葉ちゃんは何を作ったの?」
雅が取り出したのはロケットトップ。棒・聖杯・剣・金貨のカードを眼前に並べ、魔法の杖を掲げる若い女性のイメージ。いつか再開したい人を思い浮かべながら、予め作ってきたパーツを埋め込んだ。艶が欲しくてレジンに微量のパール粉末を加えた。
「固めるだけなのに、こだわれば色々出来るなんて不思議ですよねー」
三者三様の作品が出来上がった。
迷い迷ってあれもこれも詰め込みたくなるけれどバランスが大事。芥汰は閉じ込める花を中心に煌めくラメと流れ星を浮かべる。想いごと、レジンの笑みに固めてしまう。
「芥ぼさんだーれにあげるんの?」
うりうりとやけにニヤニヤしながら様子を伺うシタは、自分がそっと閉じ込めた物は内緒と言って。
「したん先輩が内緒なら、俺もないしょ」
「んえっ! 内緒さんかやーっ」
笑顔のシタを横目で見ながら、芥汰は最後に、あの日の星月夜を籠めた。
きっと皆が迎えるのは、素敵なバレンタイン。
作者:篁みゆ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月13日
難度:簡単
参加:72人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 19/キャラが大事にされていた 0
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