バレンタインデー2014~想いを閉じ込めて

    作者:東城エリ

    「そろそろバレンタインデーですね」
     そう切り出したのは、斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)。
     手にしている黒革のファイルから1枚の用紙を取り出すと、場所と日時の記されたおもてを向けてきた。
     書かれているのは、調理実習室で行われるチョコレート製作の案内。
     チョコレートを手にして食べるタイプのものではなく、スプーンで掬って食べるタイプのチョコレートを作るらしい。
     どのような物なのか、晄が説明をしていく。

    「チョコレートはある程度の堅さがありますが、生クリームを入れることによって、柔らかくなります。そうすると、スプーンで掬うことができる堅さになるのです」
     材料は用意されているので、どのようなフレーバーにするのかを考えてから、調理にかかることになります。
     ベースとなるチョコレートの種類は、ミルク、ビター、ホワイト、ストロベリー、アーモンド、抹茶。
     この中から1つ選んだあと、混ぜ合わせる生クリームの準備にかかります。
     生クリームと一緒にグラニュー糖を混ぜ合わせ、バニラビーンズを浸しておきます。
     一般的なのはバニラビーンズですが、代わりに胡椒や挽いたコーヒー豆、唐辛子、荒く砕いたクッキー、ドライフルーツを使っても構いません。
     ここで加えるのは、水気厳禁な素材です。
     それさえ頭に入れておけば、いろんな素材でチョコレートが作れそうですね。
     ボウルに刻んであるチョコレートに沸騰直前まで温めた生クリームを混ぜ合わせ、なめらかになるまで続けます。
     バニラビーンズを使っていれば、ザルでこしながら混ぜます。
     最後は、浅型のスフレ皿に流し込み、20分ほど冷蔵庫で寝かせればチョコレートは完成です。
     チョコレートの表面が寂しいと感じるなら、クラッシュアーモンドやココアパウダーを振りかけても良いかもしれません。
     スフレ皿は色が12色、形もハートやオーバル、ラウンド、スクエアと種類があります。
     冷蔵庫から取り出した後は、器に添って細幅のリボンを掛けたり、添えるスプーンの色やデザインを選んだりと、ラッピング作業に移行します。
     薄型の箱に入れて、リボンを掛けたり、カードに想いを綴ったりとする事は多いですね。
     それだけ手間を掛けて作られ、手渡される相手は幸せですね、と続けた。
    「以前は女性から男性にという風潮でしたが、最近ではお世話になった同性にという気軽さも出てきています。気持ちを感謝を、想いを伝える気持ちには変わりありません」
     完成した後は、部屋の一角でティータイムを楽しめます。
    「作ってみませんか」
     と、晄は誘ったのだった。


    ■リプレイ

    ●チョコレートに気持ちを込めて
     調理実習室は、甘やかな香りで満たされていた。
     広く感じていた部屋も、テーブルに立って調理を始める人達が動き出すと、室温も少し上がり、賑やかな雰囲気へと変わっていく。
     選んだフレーバーと器、ラッピングを想いを込めて、かたちに。

    「わたくしにはまだ意中の殿方はおりませんが…、こうして皆さんと楽しいひと時を共有できる機会は嬉しいものですね」
     りらくぜ~しょんぷらざ・びゃくりんの3人で始めたチョコレート作り。
     去年背伸びして難易度の高い物に挑み大失敗をした真琴は、じっくり作ると決めて取りかかる。
     そんな真琴を分かってか、先輩である向日葵とセカイはフォローをしてくれる。
     真琴はミルクを選び、型はスクエア。ハートは少し気恥ずかしかっただ。底には荒く砕いたクッキーを敷き詰める事にした。
    「こーら文太、これは食べたらダメなのー!」
     材料のクッキーを両手に掴んでいるのを文太から取り上げる。文太は向日葵のペットのリスだ。尻尾がふんわりとしていて可愛らしい。
     時短料理ということで、向日葵はレンジでチョコレートを溶かし、チョコレートケーキにするらしい。作り慣れているのか、手早い。
    「チョコのお菓子はなにしろ時間との勝負だから♪」
    「生クリームが煮えちゃったー!」
     工程が進むごとに真琴の材料が目減りしていく。
     セカイは元々クラブの皆や友人にチョコを作ろうと考えて居たので、楽しみながら作れるのは嬉しく上機嫌だ。
     ホワイトチョコレートをバニラビーンズで香り付けし、円形のスフレ皿に流し込む。仕上げにマジパンで作ったリスの文太を乗せた。乳白色のお風呂に浸かった文太の完成だ。
    「…わーい! よかったね文太、マスコットだよー♪」
     小さな自分の姿に文太は興味深そうに見ている。
    「何とか頑張ったんですけど、これだけになっちゃいました」
     何とか残ったのは3人分。半べその真琴だったが、チョコレートが残っただけでも由としよう。

     デートでチョコ作成も良いかと考え、蘇芳と朗は支度をする。
     初心者なので、多少の不安があったが、どうやら蘇芳が秘密の練習をしているらしく今日はその成果が見られるかもしれないと朗は思っていた。
    「何とかなるんじゃないですか? たぶん」
     と、割烹着に袖を通した後、蘇芳は朗のエプロンをつけるのを手伝う。
     朗は甘い物が好きな蘇芳には美味い物をとホワイトを選ぶ。蘇芳はというと、抹茶を選んだ。料理捌きに練習の成果が出ているかもしれない。
     何より、蘇芳の作った物なら何でも食べる積もりでいた。
     幸いにも失敗することはなく、順調に進む。
     朗のエプロン姿が様になっていて、蘇芳の視線は釘付けになる。はっと我に返り、チョコレート製作に戻るのを何度か繰り返した。
     上手くいくごとに蘇芳が嬉しそうに菓子作りに没頭している姿を見、そんな姿を朗は可愛いなと見惚れてしまう。
    「どうしたんです?」
    「いや、何でもない」
     そう言いながら、朗は照れを隠そうと顔を背けるが、
    「こうやって2人で過ごす時間が何より嬉しい。これからもよろしくな」

    「こんなに材料があると迷っちゃうな~」
    「拙者おーそどっくすに行くでござる」
     沢山ある材料の中から、矢宵は悩みつつベースにストロベリー、ブレイブはミルクを選ぶ。
    「いくでござるよ…! いざ!」
     手にした包丁を振り上げ、危なげに振り下ろす。だん! とチョコレートの下にあるまな板も砕きそうな音が響いた。
    「って、ハロウィンに続き、包丁の持ち方が危険すぎるわ、ぶれにゃん!」
     とことん可愛らしさ追求の矢宵はハートのスフレ皿の底に砕いたクッキーを敷き詰めていた手を止めて、何処からか取り出したハリセンでツッコミを入れる。
    「いざ! じゃないよ料理だ!」
     ブレイブはホワイトのスクエア皿を選んだ。食べる用とお持ち帰り用の2種類作ることにしていた。
    「生クリーム…混ぜる前に一口…!? あ、甘くないでござる…!?」
    「ぶれにゃん、その時点の生クリームはそんな甘くないよ…」
    「な、なぜ!」
    「だって、何もまだ加えてないでしょ」
     甘さを求めて刻んだチョコレートを口に放り込んでほんわりしているブレイブに、だからチョコレート加えるんだよとレクチャーするのだった。
     皿に流し込んで冷蔵庫で寝かしてできあがりを待つ間、後で食べるのが楽しみだと言葉を交わした。

     由希奈と桐香、いちごとビハインドのアリカで製作開始。
     初っぱなから桐香はピンチだった。料理は苦手な部類なのだ。なので潔くいちご達の手順を参考にする。
     今年のいちごは自分の物も作るがメインはアリカに教える事だ。アリカは不器用ながら、料理自体は好きなのか楽しそうだ。アリカはいちごの初恋のお嬢様で、向ける眼差しはつい優しくなる。
     それを見た桐香がすかさず行動に移す。桐香はいちごに淡い恋心を抱いているのだ。
    「あら? いちごさんはやっぱり上手ですわね」
     桐香がいちごの手元を覗き込む。腕と腕が触れあう。
    「桐香さんいきなりなんですか? やり方がわからないなら教えてあげますから、その、あまりくっつかれると…」
    「ふふっ、そんなに照れなくても大丈夫ですのに…」
     由希奈は手際よく進めていたが、ふと気づくと桐香とアリカの間でいちごが困っているのが見えた。
    「桐香さん、何いちごくんにくっついてるのっ!?」
     焦り気味のいちごの声に、アリカが反応した。
    「痛たっ!?」
     ぽかぽかとアリカが桐香を叩いている。
    「アリカさんも、急にポカポカ叩かないでください」
     由希奈は慌てて調理を中断し、嫉妬で胸が痛くなるのを堪えながら、アリカと共に桐香をいちごから剥がしに行こうとするが、ボウルが滑りテーブルの上で跳ねた。
     そして、転んだ。
    「大丈夫ですか?」
    「あぅぅ、少しだけど混ぜる前のクリームを顔に浴びちゃったよ…」
     顔を上げた由希奈の顔を見て、いちごの顔が赤くなる。
    「なんでいちごくん、顔赤いの?」
    「…その、なんだか…」
     思わず説明に詰まるいちごの顔を由希奈は覗き込んだ。
     アリカを撫でながら、桐香は笑みを浮かべる。
    「本番は後日、でもいいですわねぇ…」
     と。

    「鷹秋はどんなのが良い?」
     鋼は恋人の鷹秋が好きな物でチョコレートを作りたかった。
    「俺が好きな味か、チョコはやっぱその味まんまで、甘いのがいーな。ミルクベースって感じ? 具材は苺にすっか」
    「生クリーム作りお願いしていい?」
    「お安いご用さ」
     鋼はその間に他の事をする。鷹秋好みに仕上げて、喜ばせるのだ。
     添えたカードには、『いつまでも 一緒に旅をしたい貴方へ』と。

     庵子の誘いで命とレナータもチョコレート作りに参加。
     レナータはミルク。生クリームにインスタントコーヒーの粉を混ぜ、丸型の皿に流し込む。そして表面には、煎ったコーヒー豆を1つ乗せた。
     作ったのは、2人へのお土産用、試食用で3つ。
     そして、こっそりとミコト用の葉っぱチョコも作成する。
    (「細かい手作業は得意技だし…ミコト失敗してそうだし」)
     命は抹茶。生クリームに抹茶パウダーを混ぜ入れる所まで進むと、つぎはトッピングに掛かる。生クリームを少量乗せてその上に葉っぱの形をさせた抹茶チョコをと考えていたら、レナータが作ったのを乗せてくれた。
    「レナータ、ありがとうだよ~」
     手渡し分2つ、お茶会用1つが完成した。
     庵子が選んだのは、ストロベリー。生クリームにドライフルーツのイチゴを入れ、型に流し込むと表面に薄くイチゴジャムでコーティング。
     火加減が難しい所は2人に手伝って貰う。
    (「きゅうきょくのいちごちょこ」)
     満足げに庵子は頷いた。自分的ブームがイチゴなのだった。

     喧嘩友達であり相棒でもある柚羽から大きなチョコレートを作るからと手伝いで参加している貫。料理が得意という訳ではないが面白そうだから問題なかった。
     だが、柚羽としては、バレンタインのチョコを作る+男女という状況を感じて欲しいと思っていたが、言葉に出来るはずもなく。
     貫にユズと呼ばれるたびに照れてしまって、手元が疎かに。
     計画通りにできあがった物を前に苦労する事になる。

    「珍しいな」
    「何が?」
     上機嫌の朔之助の製作過程に史明がぽつりと零す。てっきり毒みたいな味のチョコを作るんだろうなと思っていたのだが、どうやらその心配はなさそうだ。だが、この幼なじみは油断できない。
     チョコを溶かして型に流し込む作業だしと、作業を続ける。
     強いて言えば大きさが普通じゃないので、固まるまでに時間は必要だろう。
     やがて冷え固まったそれを取り出す。
    「固まったら完成?」
    (「…ここから本番だ」)
     チョコを削って形にしていこう…とした瞬間、ちょっと待ってと史明が朔之助の肩をがしっと掴んだ。
    「どうした?」
    「何作る気なの?」
    「まぁ見てろよ♪」
     そう言って彫り進められてできあがって来るのは、マッチョ像。
    「引くわー」
    「何で? 超力作じゃん!」
     と朔之助が生き生きとして言うと、史明はマッチョ像の腕にチョップを喰らわせた。
    「こんな物を世に出したらいけないって僕の脳内神が囁いたんだ」
     壊れた! と慌てて確認する朔之助だが、幸運にも壊れては居なかった。頑丈だ。
     むっとした史明は、朔之助にチョップをした。
    「僕にチョップが! 何故ー」
    「何となく。腕痛かったからね」

     嵐は白いハートのスフレ皿に、甘酸っぱいストロベリーと砕いたクッキーを入れた。十分可愛らしい出来だが、何か足りない気がした。冷蔵庫で寝かせている間、瑠璃羽を見てイメージする。そして、浮かんだ物、苺を乗せた。
    「ん、これでよし」
     碧のリボンで結んだ、桃色のスプーンを添えて。
     瑠璃羽が嵐をイメージして作るのは、ホワイトチョコを桜の葉と花を使って桜フレーバーにしたもの。桜色を出すにはどうすればいいのかと悩むが、嵐の手にしていた苺が目に入る。これだ! と。苺果汁で可愛い桜色に染め、花型のスフレ皿に入れると完成だ。
     嵐のイメージは大和撫子…綺麗な花だ。赤いリボンと陶器で出来た桜の花弁スプーン。桜づくしで仕上げた。

     ソフィアリはお菓子の作る機会が無かったので、出来が心配だ。
    「めぐ、作り方、わかる?」
     めぐるの後ろから覗き込む。
    「ううん。初めてだから手探りで…ソフィも?」
    「うん」
     2人とも初めてなんだと思うと、少し安心する。勿論、美味しくできあがるように心がけるけれども。何より、一緒に作ると言うことが嬉しかった。
     ソフィアリは2種類に挑戦。ホワイトを星形にし、ストロベリーはこっそりとハートで。
     めぐるはミルクを選んだ。器はスクエア。生クリームに砂糖を入れ、バニラビーンズを入れた。他の物だと失敗しそうで怖かったのだ。ふわりと香る。
     ストロベリーだけバニラビーンズは抜いて、仕上げた。
     スプーンは青。自分の色。瞳と髪の色。めぐるもソフィアリとお揃いにする。
     あとはカードにメッセージを書き込むだけ。
    「…あ、だめだよ。まだ見ちゃだめ」
    「見たら、だめなの?」
     手で隠しためぐるに、
    「じゃあ、こっちも秘密ね」
     と、お互いに秘密のメッセージを書いた。
    (「渡すときまで秘密なんだから、ね」)
     色々な気持ちをこめたシンプルなメッセージは当日に読んで欲しかった。

     翼は一緒に参加してくれた律花に礼をいう。らしくないと思いつつも、1人で参加はハードルが高かったのだ。律花は別段らしくないとかは思ってはいなかったが、普段は格好いい翼が、今日は可愛いとこっそりと微笑んだ。
     律花は最初ハート皿を考えたが、らしくないとスクエア皿にした。同じように翼も照れたように違う白のラウンド皿を選んだ。
    「環だから、丸いのでいいんだ」
     と笑みを浮かべた。
     慣れない手つきな分、慎重に進める。時々律花にアドバイスを貰って。
    「私も手は抜いてられないわね…」
    「その…出来る限りはな。自分でやりたいかな、って…」
     ミルクチョコレートをベースに珈琲を使い、表面にはクラッシュアーモンドを散りばめた。
     律花は珈琲の苦みに合うように甘さ控えめのビター。スクエア皿に満たしたチョコレートを寝かせれば、その表面に振りかけるのは粉砂糖で雪化粧。
    「…喜んでくれるといいな」
     ラッピングの済んだ小箱を見つめ、呟いた。
    「絶対喜んでくれるわよ」
     可愛らしくラッピングを済ませた律花が翼に微笑む。
    「ありがとな。春翔もきっと喜ぶと思うぜ?」

    ●お茶会にて
     甘い香りに満たされた中、お茶会が開かれている。
     チョコレート製作を終えた人達は、ほっとしているようだ。
     明日には、送る相手へと渡っていく。
     余分に作って、味わっている者もいる。もしも失敗していたら、というのもあるのだろう。
     晄も、チョコレートドリンクを飲みつつ、幸せそうな様子を眺めていた。

    「侑、こういうチョコも…珍しくて、いいね…♪」
     瑞央は侑に微笑む。
    (「侑のはどんな味かな? 楽しみだな…」)
    「ああ、そうだな。…やっぱ紅茶とチョコって合うなぁ」
     瑞央は微糖のホットレモンティー、侑はアールグレイ。
     侑の作ったのはビターチョコレート。瑞央に手伝って貰ったとは言え、味には自信がなかった。黙々と自分で作ったチョコをスプーンで掬い口へと運ぶが、瑞央の作った苺味のチョコレートも気になった。
    「ね…食べさせあいっこ、しよっか…? ふふふっ…♪」
     瑞央は自分のスプーンでチョコを掬うと、侑の口元へと近づけた。侑は照れながらも口を開いた。
    (「どんな反応してくれるかな…」)
    「…ドキドキしすぎて、味わかんねえや」
     味に不安がある侑は言い訳をする。
    「ちょっと苦いかもしんねえけど。…はい、あーん」
    「あ、むっ…♪」
     瑞央は照れながらも、嬉しくて笑顔を浮かべ口の中のほんのり苦みのあるチョコレートを味わった。
    「本番は明日だから、これくらいでね」
     前日でこうなら、当日はどんなにどきどきするのだろうと思い乍ら。

     試食会を兼ねたティータイム。
    「庵子、苺一色だね…」
     それぞれが作ったチョコを一口ずつ味わう。
    「イチゴおいしー。アンコは甘口がいいの?」
    (「甘い、というより、苺がすきー」)
    「レナータのはコーヒーの味かぁ…ふむむ…」
     今後の味付けの参考にしようと、命は舌の上で味を堪能する。
    (「こーひー味か…あれ、甘いー」)
     苦いのを想像していた庵子だが、優しい甘さになっていた。
    「ミコトのは綺麗な緑ね」
    (「抹茶味のもいいんだぜー」)
     これでいつでもチョコレートが作れると、庵子は満足げだ。

     今日は、クリスマスに深隼からの告白されて、百花が答えを出すと決めた日。
     百花の作ったのは、ホワイトチョコレートをベースにしたもの。
     スプーンで掬えるのが何だか可愛いと思う。
    「めっちゃ美味しそうに出来たなぁー。百花ちゃん、前より上手くなったんちゃう?」
    「えへへ、深隼くんのいうとおり、去年よりも上手に作れたかも!」
     楽しい時間だったが、気持ちには確りと伝えなければ。
     百花が、深隼を見つめる。
    (「正直五分五分か、それ以下かなぁ…」)
     そう思うも、返事を聞かなければ、前にも後ろにも動けない。
    「返事、聞かせて貰ってもいいかな」
     怖々と、深隼はその時を待つ。
    「気持ちは本当にうれしい、けど…ごめんなさい。深隼くんのことは好きだけど、それは友達としての好きで。やっぱり友達としか思えないんだ。ごめんね…」
    「ん…そっか。こっちこそごめんな、ありがとう」
    「…好きになってくれて、ありがとう」
     百花は精一杯の笑顔を浮かべる。
     深隼には、甘かった筈のチョコレートが、少し苦くなっている気がした。

     見た目は大きなスフレ皿にドーム状に盛られた果物やクッキーの物体。
    「盛り付けてんこ盛り過ぎてチョコ部分が見えない…」
     失敗作だなんて、柚羽には言えなかった。
    「課題はクリアできてるけど、ちょっと気合入れすぎたか? まあユズと二人で食うんだし、これぐらい余裕だよな、いただきます!」
    「いただきます」
     トッピングに埋もれたチョコレートを2人で発掘する。
     漸くスプーンで掬うと口へと含む。
     一つの物を分け合う良くある光景の筈なのに。目指したはずなのに、どうしてこうなったと自問自答。
    「結構手軽に作れるし美味いなこれ」
     半ば自棄で『はいあーん』でもしようかと一口掬って考えて居た柚羽は笑みを浮かべた。「…そうか、美味いならよかった」
    「また作る機会があったら是非呼んでくれユズ!」
    「そうだな、また今度」

     鷹秋はアップルティを、鋼はストレートティを口へと運ぶ。
     鋼はスプーンを手にし、チョコレートを掬うと上目遣いに見上げる。
     あ~ん、と言い乍ら、鷹秋の口元にスプーンを近づけた。それは鷹秋の口の中に入る。
    「どう、美味しい?」
     出来が心配だったが、上手くいったはずだった。
    「鋼の気持ちがうまかったわ、詰まっててマジ美味いわ」
     褒められて鋼は
     お返しと、鷹秋も鋼の口元へスプーンを運んだ。
    「甘くて甘くていいな」
     もう暫く甘い雰囲気に酔いしれていたかった。

     聖バレンタイン。
     恋人達の日。
     近頃では、友人にも気軽に贈るようになっているが、甘やかな一日なのは違いない。
     蕩けるような甘い一日がもうすぐ始まる。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月13日
    難度:簡単
    参加:29人
    結果:成功!
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