バレンタインデー2014~ふんわり大福チョコの味

    作者:立川司郎

     梅の薫漂う二月の午後、教室の片隅で相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)はチョコレートフェアのチラシを目にしていた。
     手作りとか面倒くせぇ、という性格の隼人からすれば、適当に旨そうなチョコを見繕って持って帰ればいいだろうとしか考えていない訳なのだ。
     むろん、そのチョコフェアに取りそろえられたチョコとて面白いチョコや変わり種、高価なチョコもあるだろう。
     溜息まじりにチラシを見ている隼人の前の席に座り、クロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)は同じようにチラシに視線を落とす。
    「隼人は作らないの?」
    「作る? なんで親父や爺さんや兄貴にやるチョコを手作りしなきゃならねぇんだ、めんどくせぇよ」
     ああ、基本的に料理は極力したくないのだ。
     相良家では料理は兄貴二人、掃除は親父か爺さん、洗濯は隼人と決まっているのである。
     だがこういう時にそわそわしている女の子や男子を見ているのが好きなクロムは、せっかくのバレンタインデーなのだからチョコを作ってみたいと思っていた。
     それに海外では男の方から贈るのが珍しくなく、むしろ女からチョコを贈るという日本の風習の方が変わっていると言える。
     チラシを手に取り、嬉しそうに見つめるクロム。
     生チョコ? うーん、なんか違うな。
     普通の板チョコ……いや作るものじゃないしなぁ。
    「……このチョコ大福って作るの簡単なの?」
     クロムがチラシを差して隼人に聞いてみた。むろん隼人がそんな事を知っているはずもなく、クロムは携帯で調べ始める。
     チョコ大福は拘れば難しいが、簡単な作成方法もある。

     まず皮は白玉粉。
     中の生チョコはチョコレートと生クリームを解かして、生チョコを作成。
     あとはチョコを皮で包んで完成である。

    「隼人、これ作ろうぜ」
    「……お前、なんでそんなに意欲的なんだ」
     肘をついて、隼人が眉を寄せる。
     やりたくない、と顔に書いてある隼人に対して強引に説き伏せるクロム。イベント事には乗っかるべし。
     とろーり生チョコ。
     ほろ苦い抹茶チョコ。
     ココアパウダーを混ぜた皮で作ったココアチョコ。
     ホワイトチョコ。
    「隼人、バレンタインは贈り贈られしあうのが楽しいんだろ」
     調理室、借りられるかな。
     クロムは楽しそうに、チョコの算段をするのであった。


    ■リプレイ

     普段は拘る派のセシルであったが、今日は皆でワイワイ楽しむのが目的、とお手軽レシピを持ってきた。
     それでも材料は、セシルが選んだ良品。
    「先に生チョコ作って、冷やしてる間に皮を作ろうぜ」
    「皮は白玉粉かー。コレはチぃーとばかし丁寧にコネーて、耳たぶ程度の柔らかさ…だなや」
     軽い口調で皮を作るマサムネは、どうやら手伝いの心配は必要なさそう。
     錠はちらりと、凪流の様子を見に行った。
    「わぁ、錠先輩の楽しそう」
     凪流が感心した、錠の黄色い星形チョコ大福。
     でも本当に星に見えるか、錠はクロムを呼んで見せてみる事にした。
    「これ何に見えるよ?」
    「…あ、星形?」
    「何で疑問系なんだ、見えねぇのか」
     作り直そうと手を伸ばした錠を、凪流が制止した。
    「いえ見えます、見えますから先輩勿体ないです」
     慌てて凪流が止める。
     みんなすごく上手くて、凪流は必死に作って。
     セシルお手製のリンゴをちょっと入れると、ようやく完成した。
    「先輩のチョコ大福、どれも美味しそうです」
     目をキラキラさせた凪流の前で、マサムネはパクリと自作の大福を口にした。色々作ったチョコ大福の一つは、甘いホワイトチョコだったようだ。
     至福の表情のマサムネ。
    「あんま~!これはベーヤー級の甘い旨さ!だ!」
    「ベーヤー級か、ちょっと味見させてくれ!」
    「あかんわ、どれがどれか忘れた」
     錠にけろりと笑って、マサムネが色とりどりの大福を差しだす。
    「こいつも旨いぞ」
     先ほど凪流が戴いた、リンゴのコンフォートがセシルから差しだされた。
     リンゴ大福はやっぱり旨い、とセシルは目を細めて笑う。

     憧れていた先輩を兄に紹介してもらった瑞希は、会う前からソワソワしていた。
     『外見詐欺やで?』とあやかは内心思っていたが。
    「あやかちゃん先輩は、誰にチョコあげるんですか?」
     興味津々で聞く瑞希の様子に、あやかはふと笑って彼女を見返した。キラキラした目で見つめる瑞希に、笑顔で応える。
    「うちのチョコは、ええ子で待っとる大型犬にな」
    「ワンちゃんですか?」
     まじまじと瑞希が見つめると、あやかはけらけら笑った。
     差しだした写真は、あやかとちょいワルのツーショット。上げへんと拗ねる、と瑞希は目を細めて写真を見つめる。
     ちょっと可愛い彼氏さんだと瑞希も笑った。
    「ボクはジャンク好きお兄ちゃんと友達に渡す予定です!」
     手作りの良さを、兄に思い知らしめるのだ!

     材料を前にして、夜深はチセと顔を見合わせた。
    「チョこ大福、初体験!」
     ふんわり笑う夜深から、嬉しさが伝わる。
     チセも初めてであったが、二人一緒なら大丈夫と言葉を返した。
    「やみちゃんはミルクチョコ味? チーは苺チョコにするんよ」
    「チーおねーちゃ色!ぴッタり!」
     夜深にそう言われ、嬉しそうにチセは頬を赤くする。
     丁寧にチョコを混ぜると型抜きでチョコにハートにくり抜き、夜深の様子を眺めた。夜深も四苦八苦しながら、何とか生チョコ完成。
    「あイや?チーおねーちゃ、作成、大福。不思議、形ネ?」
     夜深が目にしたチョコ大福は、真白の生地に抹茶パウダーで目をつけ作った霊犬たち。焼売にシキテにピリカ。

    「バレンタインって素晴らしいイベントだよな」
     毎月やってくんねぇかなと呟きながら、千尋は割烹着を円理に手渡す。
     手慣れた様子の千尋の様子に感心しつつ、毎月バレンタインになったら限定チョコも安売りも無くなるんじゃなかろうか、と円理は心の中に言葉を仕舞う。
     説明をしながら作っていく千尋。
    「大福の皮は白玉粉から作った求肥にココアパウダーを…」
    「牛皮?」
     ああ何か勘違いしたなと千尋も思っていたが、そうしているうちに円理も作り始めた。
     ぼろぼろの皮にもっさりチョコ。
    「ふう、初めてにしてはそれなりに出来たんじゃないか?」
     満足そうな表情で円理は、出来たチョコ大福を千尋に差しだすのであった。

     聖夜に引き続き、男二人で過ごす1日。
     颯音は朔夜の肩をがっしりと掴み、揺さぶった。
    「な、朔夜。実は女の子でしたってオチはない? 女子ならドストライ……ぐあっ!」
    「えいや~」
     笑顔で朔夜は颯音を投げ飛ばす。
     大丈夫、そうは言っても颯音もチョコはちゃんと作ります。
    「朔夜って料理出来たっけ…難しそうなら、お兄ちゃんが手伝うし!」
     どんと頼れと振り返った颯音の口に、できたて抹茶チョコ大福が押しつけられた。
    「美味しい?」
    「もぐもぐ…」
     美味しいです。
     味見も終わり、朔夜はラッピングに取りかかる。朔夜はグロ可愛い編みぐるみとセット、颯音は銀色と猫のモチーフでラッピング。
    「ま、友チョコも悪くないっすね」
     颯音は楽しそうに笑った。

     喬市から丁寧に説明を受け、十織は分担して大福作りを進めていた。
     手にした大福の皮は、ふにふにと柔らかい。
    「日頃世話になっている皆に配るのはどうだ?」
     喬市はてきぱきと作業を続けながら、十織に言った。
     感心しつつ、十織は皆の事を思い浮かべる。
     出来上がっていく大福は、なんだかナノナノみたいで可愛らしい。さすが喬市、と感嘆の声を上げた。
     出来上がっていくナノナノを見つめる十織。
    「ああ、そうだ。中身の生チョコは大きすぎると…」
     言いかけた喬市の目の前に、失敗して破れた大福が。やっちまった、と笑う十織は一つをひょいと口に放り込んで証拠を隠滅した。
    「お前も共犯な」
     もう一つを喬市に差しだすと、指ごとぱくりと口にする。

     頼れる人も居らず、少し不安そうにさくらえは見まわした。
    「ねぇ、涼子さんは…やれば出来る子だよね?」
    「大丈夫だって、普通に授業に家庭科あるし、兄貴の妹だし」
     真新しいエプロンをつけ、涼子はレシピを開く。
     レシピ通りに作ればお菓子って失敗はないのよ、と涼子は言うが…。
    「涼子……さん?」
    「えーと、まずはチョコを割って生クリームと一緒に…」
     レシピから目を離さず、レシピに忠実に作り続ける涼子。この調子なら、大丈夫かも。
     ほっと息をつくと、さくらえもチョコを包むのを手伝いはじめた。
    「抹茶とココア、どっち掛ける?」
    「今回はココアにしよう」
     ちょっと不格好な大福からチョコが漏れていたが、上からココアを振りかけた。さくらえも気付かないふりをして話を続ける。
    「もう一つ、ホワイトチョコに抹茶餅っていうのはどう?」
     さくらえの提案で、もう一つ大福を作り始める。

     できあがりをそわそわと待つ雪音の横で、恭哉はチョコ大福を作り上げる。
     苺、ホワイト、キャラメル…それから、自分用にちょっと甘さを控えた抹茶。
    「美味しそう」
     笑顔で大福を見つめる雪音は、ふと別に置いた抹茶大福に目をつける。そっと手に取ってこっそりと口に入れると、苦みが口に広がった。
     眉を寄せた雪音に気付き、恭哉はふと気付く。
    「つまみ食いしただろう?」
    「…シテナイ」
     小声で言ったが、恭哉にはお見通しらしい。
     これでも食っていろと飴を渡すと、仕上げに入った。
     小さく切った苺をつけ、兎を作る恭哉。飴を食べていた雪音も、仕上げという恭哉の言葉を聞いてこっそり、チョコ大福を作り始めた。
     雪音の不格好なチョコ大福を、恭哉は目を細めて嬉しそうに微笑む。

     こちらも少し不安な、司と千架。
    「乙女の気持ちの代表くおんちかに任せろー!」
     と言った千架であったが、湯煎と言って湯でチョコを洗う千架。
     さすがにちょっと変だと気づき、司が千架をつつく。
    「ちょっと変じゃないですか?」
    「隠し味に苺を詰めちゃえ」
     と、ここで終わらないのが千架である。
     ちょっと小腹が空いて、チョコをひとつまみ。
    「ほら司さんも食べてみ?」
     司の口にチョコを押しつけ、千架も司からチョコを貰うと一息ついて作業続行。気になるのは、餃子の皮らしい。
    「揚げたらパイっぽいっすよ」
    「それは美味しそうですね」
     二人で合意に達し、目一杯詰め込んだ司のチョコ餃子と自信満々だった千架のチョコ餃子は、ご想像通りの結果に……。
     …何で揚げ物?という周囲の視線も気にせず、二人で笑う。

     幾つもの歪なチョコ大福がゴロゴロと転がっているのに気付き、クロムが足を止めた。
     悪戦苦闘しているのは、桜花である。
    「ううむ…中々上手く包めませんわ」
     チョココーティングした苺を、皮で包もうとしている桜花。
     何かコツとかあるだろうかとクロムに聞く。
    「不格好な方が手作りっぽくていいんじゃねえの?」
    「そ、そうですの? 見た目はともかく、味ですわよね、味!」
     気を取り直して桜花が高らかに笑う。
     紫芋とホワイトチョコを持ち込んだ狛は、紫芋をペーストにしてコーレーグースとチョコを刻んで入れる。
     ホワイトチョコが溶けてきたのを確認すると、これもペーストに入れた。
     後は求肥で包んで、チョコ削り節とホワイトチョコで飾って完成。
    「紫芋チョコ大福沖縄風味です」
     味見、と狛が隼人に差しだした。
     サンキューと笑顔で隼人が受け取り、パクリと口に放り込む。
     さて、お味は如何に?

     一先ずあちこち聞いて周り、クロムからレシピの覚え書きをもらうとヴェイグは真剣に読み込み始めた。
    「誰にあげるの?」
     興味津々のクロムに、エルメンガルトは好きな子はいるけど自分で…と笑って答える。
     大福が好きらしい。
    「アカちゃん先生、よろしくお願いします」
    「チョコ大福は初めてですが、まぁ何とかなるでしょう」
     レシピを見ながら、一途はさくさく作り始める。
     皮にココアパウダーを混ぜて、生チョコと苺を包む。
     エルは柔らかい方が好みらしく、生クリームを泡立てすぎたらしい。
    「なんか生クリーム大福って感じに…ほらヴェイグ食べてみろ」
    「今失敗っぽく言わなかったか?」
     ヴェイグは不安そうに言うが、これが思いの他美味しい。
     じゃあ次はヴェイグの…とエルと一途はヴェイグの大福を見る。気付くと、何時の間にか自分達のものに幾つか混ざっていた。
    「ヴェイグさん…」
     ぽつりと一途が、崩れた大福を差して聞いた。
     しん、と沈黙が三人の間に流れる。
    「…ごめんなさい」
     か細い声で、ヴェイグが言った。

     チョコ大福、と聞いてミカエラ。
    「そんじゃ、雪だるま作ろ-!」
     歌を歌いながらミカエラは、白玉をこねこねまんまるにしていく。
     銘子が慌てて、作り方を教える。
    「こうして…」
     銘子は半分白く、半分は黒ごまを混ぜて皮を作る。
     杣を作ろうとしたらしいが、なかなかこれが難しい。
    「美菜は猫さんにするでごぜーますよ」
     銘子を見て、さっそく美菜は大福に目とヒゲを書いていく。
     ちょっと歪んだけど、可愛い猫が出来上がり。
    「美菜の猫、可愛い!へへへ、あたいはウサ雪だるまー!」
     ミカエラが作ったのは、耳の立った兎。
     仕上げは真っ赤なおめめ、と赤いアラザンを付けた。
     そのうちの一つに鉢巻きを着けようとしているのを見て、銘子はくすりと笑う。やっぱり鉢巻きは赤かしらと見つめた。
     細長い箱を持って来ると、銘子は差しだした。
    「一つくらい持ち帰りましょ」
     どれにする、と聞くと美菜がじっと見上げた。
    「一人じゃ寂しいでごぜーます。家族やお友達も駄目でごぜーますか?」
    「よーし、じゃあ出来たのを入れられるだけ入れていこうか」
     ミカエラに言われ、出来上がった可愛い動物大福は箱の中に次々収まった。

     料理好き男子としては、腕前を見せるチャンスな訳で。
     思案し、雪郎へは抹茶生地に甘めのホワイトチョコを。日生へはクリームチーズと苺チョコを包んでチーズケーキ風にしよう、と遊は決める。
     それも、割烹着に三角巾と準備万端。
     うんうん背伸びをして料理台に手を伸ばした雪郎は、こっそり抜けだし十八歳になって戻って来た。
    「中々手つきがいいな、上手い上手い」
     遊に褒められ、雪郎は嬉しそうに皮を作り出す。
     二人とも手際が良くて、何だか女の子の立場が…と日生もちょっと焦ってしまう。ひとまず、トリュフを作成して爪楊枝で大福に差し…。
    「クマさん大福完成!」
     遊へはココア生地に生チョコと酸味のある苺ジャム。
     雪郎へは、ピンク色のお餅に抹茶チョコと、甘く煮た栗。
    「いつもどうもありがとう」
     日頃の感謝を込めて、日生は二人へと差しだした。
     上手に出来てるかな、と恥ずかしそうに差しだした雪郎のチョコと、ワクワクした様子で差しだした遊のチョコ。
     それぞれ交換し、残りはみんなへお土産に。

     大福が出来たアリアーンは、いよいよラッピングに取りかかる。
     箱と包みの布は白、その上に丁寧にリボンを巻いていく。リボンは翡翠色と銀色の細いものを二種類使い、レースと一緒に結う。
     一方翡桜は、白と黒を基調としたラッピング。
    「アリアさんっぽいのはやっぱり黒とか…ゴシック系でしょうか」
     呟き、翡桜は丁寧に確認しながら包んでいく。
     隅々まで神経を使い、仕上がるとほっと息をついた。
     振り返るのは翡桜の方が少し早くて、そっと目の前に差しだす。
    「和風のものなのでお口に合うか分かりませんが」
     中身はほろ苦い抹茶チョコ。
     びっくりした様子で、アリアーンは見つめる。
    「…ありがとう…。僕からも、はい…」
     アリアーンから受け取り、翡桜はもう一つココアチョコのものをクロムに渡した。
     こちらは、試食にどうぞ。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月13日
    難度:簡単
    参加:33人
    結果:成功!
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