チョコレート没収! バレンタインは安倍川餅を食え!

    ●安倍川餅怪人のたくらみ
    「まさかチョコを貰えるなんて……!」
     足取りは軽やか。ときめく気持ちを抑えられない。
     貰ったチョコレートを大事に抱えた男子生徒は、学校から家へ帰る途中だ。
     かねてより想いを募らせていたクラスメイトの女子から、チョコレートを貰う事が出来たのだ。これが平常心でいられようか。
    「そこのお前、チョコレートを持っているな!? 寄こせ!」
     目の前に突如現れたのは、頭が安倍川餅の怪人、その名も『安倍川餅怪人』! ......シンプルかつ安直な名前だが、気にしてはいけない。
    「駄目だよ、これは絶対に渡すもんか!」
     少年は怪人に驚くよりも、チョコレートを守る事に必死だ。
    「おいおい、そのチョコを寄こせと言っているだろ。代わりにこれをやるから」
     あっさりチョコを奪い、怪人は安倍川餅を涙目の少年に押し付けた。
    「きな粉をまぶした餅と、白砂糖のハーモニー! 安倍川餅最っ高!! チョコレートよりもバレンタインにふさわしいと思わんかね? こうしちゃおれん、どんどん安倍川餅を広めねば!」
     唖然としている少年を残し、安倍川餅怪人は嵐のように去って行った。
    「もうすぐ2月14日、バレンタインデーですね……そのバレンタインデーを前に、全国のご当地怪人達が傍迷惑な事件を起こそうとしているんです……」
     園川・槙奈(そのかわ・まきな)は遠慮がちに話を切りだした。
    「安倍川餅怪人は道行く人からチョコレートを奪って、代わりにお餅を配っているんです。バレンタインのギフトは、チョコレートよりも安倍川餅の方がふさわしいと思っているようです」
     どういう訳かロシアンタイガー配下のコサック戦闘員を従えて、有無を言わせずチョコレートを奪いまくっている。
    「あの……どうか、チョコレートが奪われるのを阻止し、安倍川餅怪人達を倒して頂けませんか?」

    ●怪人達の情報
     チョコを持って下校する生徒達を狙い、安倍川餅怪人が現れる時刻は夕方頃。
     多くの生徒が通る通学路に面した、公園の入り口付近で待ち伏せしているようだ。
     公園はひと気が少なく、広場があるので、怪人を公園に誘導すると戦い易いだろう。なお、怪人は一般人に被害を与えようとしないため避難誘導は特に必要ない。
     安倍川餅怪人は、安倍川餅への熱い気持ちを込めた『安倍川餅キック』と、『安倍川餅型の爆発する何か』を一度にたくさん投げつけてくる攻撃を仕掛けてくる。きな粉餅に似せた物がメインだが、たまに抹茶っぽいのやあんこ餅っぽい爆発物も投げてくる。ちなみに威力や効果に差はない。
     さらに3人のコサック戦闘員を引き連れてくるので、安倍川餅怪人とコサック戦闘員を1人残らず倒して欲しい。
    「せっかく貰ったチョコレートを奪われてしまうなんて、今回の男子生徒はとても落ち込んでしまうと思うんです……どうか楽しいバレンタインを過ごすためにも、皆さんよろしくお願いします」
     槙奈は殲滅者達に向かって、ぺこりと頭を下げた。


    参加者
    鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)
    橘・清十郎(不鳴蛍・d04169)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    龍田・薫(風の祝子・d08400)
    焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)
    神楽・識(東洋の魔術使い・d17958)
    ミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)
    仁科・あさひ(明日の乙女・d19523)

    ■リプレイ

    ●べ、別に怪人のためにチョコ持って来た訳じゃないんだからねっ!
     怪人を誘き寄せるために用意した、囮のチョコレートを持って殲滅者達は公園前で待ち伏せ中。
     焔野・秀煉(鮮血の焔・d17423)はミツキ・ブランシュフォード(サンクチュアリ・d18296)に手を差し出した。
    「ギブ・ミー・チョコレート!! ギブ・ミー・チョコレート!!」
    「チョコ? うん、ちゃんとしゅーれんにあげよう、って思って持ってきた、よ?」
     ぱああっと顔をほころばせる秀煉だったが、
    「はい、犬用チョコレート」
     差し出されたチョコをみて固まった。
    「あとで焔玉にあげて、ね? あ、あと、一応、それ人間も食べられる、から……お返し楽しみにしてる、ね?」
    「……よかったなー焔玉、後で食おうなー」
     焔玉はしっぽをパタパタ振って喜んでいる。さすが霊犬使い同士のバレンタインと言うところか。
     怪人を待つ間は退屈なもので、囮用チョコを見せ合って時間を潰す。
    「今年もいい感じでチョコができましたね、バレンタインはこうでないと」
     鬼城・蒼香(青にして蒼雷・d00932)のチョコは、毎年恒例の手作り友チョコ。一方、橘・清十郎(不鳴蛍・d04169) は催事場で購入した物を持参していた。万一にでも最愛の彼女に貰ったチョコを奪われたりしたら――立ち直れないだろう。
    「ふんふふーん、好きなあの子にちょこれーとぷっれぜーんと。わたしのこころがすいーつはーと~♪」
    「チョコにうつつを抜かしておるとはけしからん奴ら!」
    「うひゃあ!!」
     楽しそうに歌っていた仁科・あさひ(明日の乙女・d19523)の背後で、安倍川餅怪人が大声を張り上げた。
    「か、怪人だー逃げろー」
     龍田・薫(風の祝子・d08400)はチョコをちらつかせつつ公園へ駆けて行き、仲間達もそれに続く。
    「あっ、コラ逃げるな!! 追うぞお前達!」
     怪人はコサック戦闘員達を引き連れて背中を追って殲滅者達の背中を追いかける。公園の中へ辿り着くと、足元にばら撒かれたチョコと共に、神楽・識(東洋の魔術使い・d17958)が待ち構えていた。『拾え』とばかりに怪人に冷視線を送る識と、それぞれにチョコを持った殲滅者達が目の前に立ち並ぶ。
    「お前達、おとなしくチョコを奪われろ! この安倍川餅をやるから、な!」
     威勢よく差し出された安倍川餅を、笙野・響(青闇薄刃・d05985)がサッと奪い、持参したチョコソースをかけたかと思うと、ぱくっと頬張った。
    「んー♪ 美味しいっ。スイーツ喧嘩せず! 安倍川餅もチョコも美味しいんだから!」
    「ななな、なんて事をー! 安倍川餅はチョコの力を借りずとも世界一美味いだろうがああ!」

    ●テンションマックス安倍川餅怪人
     もう戦う気満々の怪人は、何かをごそごそと取り出した。ちなみに3人のコサック戦闘員達が怪人の前にずらっと並んでいる。
    「お前ら全員倒す! これでも喰らえー!」
     安倍川餅のような爆発する何かをばら撒くと、前衛の殲滅者達の前で次々爆発した。やってやったぜ、と得意げな怪人だったが、目の前のコサック達が凍り付いていた。
    「飛んで火に入るなんとやらというけど……これは好き好んで寒中水泳したがる三流芸人ね」
     気づけば識が、氷のように冷ややかな視線と共にフリージングデスを放っていたのだ。
    「あなたが安倍川さんね。女の子のめいっぱいな想いを奪っちゃダメよ?」
     怪人の死角に回り込んで斬りかかりながらも、天然っぷりを炸裂させている響。どうやら、『安倍川さん』という名前の怪人だと思っている様だ。
    「ready to go!!」
     あさひが掛け声と共にスレイヤーカードを解放させ、
    「チョコをもらえた幸せを奪うなんて、ちょこっと悪趣味だよね!」
     と、冴えたギャグと共に、コサックに魔力を込めたパンチを見舞う。戦闘員はあさひをキッと睨みつけ、
    「コサーック!!」
     中腰になって、コサックダンスでも踊るのか? という体勢から、強烈な蹴りを繰り出した。
    「グルルル!!」
     あさひの前に飛び出した鯖味噌は、蹴り飛ばされてしまった。
    「いい子だ鯖味噌! その調子で前衛の守りは任せたぜ!」
     鯖味噌は体勢を立て直し、清十郎の呼びかけに答えて遠吠えを上げた。
    「さてまずは配下からなぎ払いますよ!」
     蒼香はメロンのように大きな胸をたぷんと揺らして、戦闘員にフリージングデスを見舞う。畳み掛けるように、ういろうと焔玉が刀を振るい、ミツキの足元からのびた影が襲い掛かった。
     極めつけに秀煉のシールドバッシュ。怒り狂ったコサックは脇目も振らず、秀煉をロックオン。
    「うおおおお!!」
     コサックの強烈な蹴りが当たって秀煉が痛みにうずくまっていると、清十郎は指先から癒しの霊力を彼に放った。
     調子づいたもう一人のコサック戦闘員が、ういろうに蹴りを入れたが、鯖味噌としっぺの六文銭射撃の返り討ちに遭った。
     なんだかシリアスさに欠ける奴らだが、攻撃力は侮れない。仲間の身を守ろう、薫は弓の弦に手を掛けた。弦を弾くと、つむじ風のような形の小光輪が現れてあさひへと向かい、彼女を守るシールドとなった。
     コサック達へ向けて、結界を展開するのは識。巨大な縛霊手から祭壇が展開される様子は壮観だ。
    (「バレンタインとか製菓会社の陰謀なんだけどな。まぁ想いの詰まった贈り物って事にはかわりはねぇ」)
    「込められた気持ちを蔑ろにする奴ぁ俺の炎でヤキ入れてやんぜ!!」
     体内から湧き出る炎を武器へ込める。秀煉の烈火のごとく激しい気性は、怪人の熱意に負けてはいない!
     武器で叩きつけられたコサック戦闘員は燃え上がり、わたわたと慌てている。
    「えいやー!」
     あさひは巨大な刀に変形した腕を、ずぶりと振り下ろす。
    「申し訳ありません……安倍川餅怪人様」
     とどめを刺されたコサックが、目の前に倒れている。怪人は見るからに動揺しているが、
    「お前達ひるんでいる場合ではないぞ! かかれー!」
     再びごそごそと、例の爆発物を取り出した。
    「「ラジャー!!」」
     怪人の後に続いて戦闘員達も爆発物を投げまくる。それぞれが別の隊列に投げ込むというチームワークを発揮して、殲滅者達は1人残らず攻撃を受けてしまった。
     きな粉っぽい色の爆弾に混じって抹茶色やあずき色の物も飛んでくるが、それを楽しんで眺める余裕もない。というかそんな物騒な物を投げてくるな!
    「けほっ……派手にやってくれましたね、皆さん大丈夫ですか?」
     もうもうと立ち上る煙が収まるのを見計らって、蒼香は魔法の矢を生成した。
    「覚悟はいいですか?」
     純度に詠唱圧縮された矢の威力は相当なものだ。コサック戦闘員は堪らず、力尽きた。
     コサックはもう一体残っている。薫は弓に矢をつがえて、狙いを定めた。
    「北西の端っことはいえ静岡出身だから、安倍川餅に思い入れが……ある訳でも無い。いくよ、しっぺ」
    「わんっ!」
     しっぺが放った六文銭が戦闘員にガンガン当たる。
    「いててて!」
     続いて、薫が弓を引くと、流星のように煌めく矢が飛んでいく。強烈な威力をもったそれは戦闘員に、とどめを刺したのだった。

    ●配下を失っても、怪人は餅愛で戦い続ける!
     あとは怪人を倒すのみ! 薫はある期待を込めて、怪人を斬りつけた。
    「もちもちしてないじゃない?」
     予想したのと感触が違う。なんだか残念で、ため息が出た。その後ろで、識が槍を冷気のつららに変形させた。
    「安倍川餅は好きよ。でも、それとこれとは話が別。静岡でやってなさい。その前に潰すけど」
     思い切り突き刺した槍を引き抜く。人騒がせな怪人相手に容赦は無用だ。
    「安倍川餅だけに、あべっ、なんて悲鳴でも上げてもらおうかな! いくよ!」 
     あさひは軽快におやじギャグを飛ばしつつ、魔力を込めたパンチを見舞う。体内から爆発した怪人へ追い打ちを掛ける、ミツキのオーラキャノンに、ういろうの斬魔刀。鯖味噌の六文銭も飛んできて、怪人はもうふらふらだ。
    「最後の手段、使わせてもらおう……」
     怪人はごそごそと、男子生徒から奪ったチョコレートを取り出した。
    「その奪ったチョコどうするつもり?」
     薫は怪人を睨みつけた。
    「ロシアンタイガーにあげる、の? まさか、転売して資金調達、とか、セコいコトしない、よ、ね?」 
     ミツキも疑いの眼差しを向けている。
    「う、うるさーい! これも偉大なる世界征服の為っ! にっくきチョコなんて俺の腹に収めてやる!」
     しかしそれは、男子生徒にとって特別な思い入れのあるチョコレート。
    「食べては駄目です! 代理品では済まないのですよ。男の子も悲しいですが渡した女の子はもっと悲しみます!」
    「ぬううう……そもそもチョコを贈ろうとする方が悪いのだ! こんなに素晴らしい安倍川餅があるというのに!!」
    「お前さんの、郷土愛。痛いほど感じるぜ。だが、道が間違っている。純情な男達からチョコを奪う罪、許し難し!」
     清十郎は怪人を持ち上げた。悲しみに暮れる被害者や、自分の恋人の姿を思い浮かべると、怪人への怒りがこみ上げて来る。その感情をこめて、思いっきり地面に叩きつけた。
    「俺は間違ってないっ!!」
     安倍川餅への情熱が、怪人のポリシーであり彼の全て。よろよろと立ち上がり渾身のジャンプキックを決めようと、目の前の響へ狙いを定めたのだが、
    「うわっ!」
     飛び出してきた焔玉を蹴り飛ばした。びっくりしている怪人へ、殲滅者達の猛攻撃が始まる!
     霊犬達は勇敢に刀を振るい、識が影の触手を使って敵を絡め取る。体の自由を奪われた怪人を、オーラを纏った拳でタコ殴りする秀煉。
     さらにミツキに服を切裂かれた所へ、蒼香が影を宿したバスターライフルで殴り掛ってきた!
    「安倍川餅も美味しいでしょう……ただし想いが込められたチョコレートには遠く及びません!」
    「うっ……やめろ……」
     トラウマに苛まれる怪人――彼に見えているのは、チョコを奪いまくっている時に会った女学生。
    (「安倍川餅なんて地味なお菓子、彼に渡せないよ。悩みに悩んで可愛いチョコ選んだんだから!」)
    「ぐはぁ!」
     恋する乙女の想いは、安倍川餅怪人の情熱に劣らない。ていうか地味なのを気にしていたのか!
     弱った怪人の前に立ちはだかり、響は颯爽と髪を掻き上げた。
    「体の中を『安倍川餅』にしてあげるわ?」
     魔力を宿した拳を見舞う。ドクドクと流れ込んできた魔力によって、安倍川餅怪人は木端微塵に大爆発した。

     見事怪人達を倒し、バレンタインデーの平和を取り戻す事が出来た。
    「行動自体はまあ、人命に関わるものじゃないんだけどえらい迷惑っていうか……さすがご当地怪人、って感じだよね」
     あさひは怪人の企てに少々あきれ気味。
    「チョコはチョコでいいところがあり、安倍川餅は安倍川餅でいい所があるよね。 別に争わなくてもいいのに」
     一方的にチョコと張り合って、しかし安倍川餅のために死を遂げた怪人は幸せだったかもしれない。
    「さ、帰るぞー鯖味噌。安倍川餅、お土産に買って帰ろうな」
    「わたしも、安倍川餅ほんとは好きなのよね。みんなにお土産、たくさん買っていこうかなっ」 
     チョコといい安倍川餅といい、なんだか甘い物が食べたくなる戦いであった。

    作者:koguma 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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