●
大多数の男子にとっても、2月14日というのは特別な日だ。チョコレートを貰えるか貰えないか、そのわずかな違いが、今後の学生生活を決定づけるからである。
勝者は悠々と学校を後にし、戦わずして悟った敗者は肩を去っていった。完全下校時間直前となった今、それでも教室に残っているのは、諦めを知らない10人の戦士たちであった。
「き、きっと、渡すタイミングが無くて困ってるはずだし」
――彼女のいない、できない学生生活なんて、灰色そのものじゃねえか!
「もしかしたら教室を間違えて、俺を見つけられてないだけかもしれない!」
――せめて何年か後に思い返して、甘酸っぱい思いに浸れるような青春エピソードの一つや二つ、作っておく責務がある!
「チョコを家に置き忘れて今取りに行ってる最中ですよねわかります」
――というか、こいつらには男として負けたくねー。
口々に強がってはみせながらも、本音はそんなところであった。……ただ一人の例外を除いては。
(「さて、どうすっかなぁ……」)
彼の鞄の奥底には、午前の内に貰った手作りチョコレートの箱が隠されていた。人付き合いの良い男であった彼は、一緒に残ってくれとすがる友人に根負けして、結果ここに残ることとなったのだ。
実は貰っていたと白状するのは忍びないし、黙っているのも嘘をつくことになり心苦しい。板ばさみの思考を持て余していると、その時突然、教室の扉が開かれた。
「「来たか!?」」
一気に色めき立つ教室内。廊下にはしかし、期待とは全く逆方向に突き抜けた怪人の姿があった。
「見つけたゾッ! 手作りチョコレートはここにあるなアッ!」
緑色の、おそらくキャベツを模した頭部を持つ怪人が、チョコを隠し持つ学生へと飛び掛った。はためくマントの下、学生は無意識に鞄を抱え込む……が。
「な、なん――」
その両腕を、同時に現れたコサック戦闘員が羽交い絞めにした。宙に浮いた鞄を前に、怪人の目が光る。
「取ったッ!」
ズシャアと音立ててスライドする怪人の手には、例のチョコの箱が握られていた。鞄には大穴が開いており、そこにはなぜか丸々としたキャベツが突っ込まれている。
「キャベツは、糖分を持つ珍しい野菜だ。チョコの代わりに、甘い冬キャベツを存分に賞味するがよかろうッ。……さらば!」
箱をポケットにしまった怪人は、戦闘員を連れおもむろに教室から飛び降りた。いきなりの出来事に、あっけに取られる学生たちの視線が、裏切り者であった彼に向けられるのも、時間の問題だろう――。
●
「2月14日、バレンタインデーが近いですわね。この時期の学校というものは、どこでも独特な雰囲気に包まれているようですが……そんな大切な日に、全国のご当地怪人が事件を起こそうとしているようですの」
微笑みながら言う鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)の台詞に、集まった灼滅者たちから溜息が漏れる。なんとも、傍迷惑な話だ。
「ご当地怪人たちは、様々な場所で『バレンタインデーのチョコレート』の強奪を画策しているようですの。ここにいる皆様が担当されますのは、群馬の『嬬恋キャベツ怪人』の起こす事件となりますわね。
チョコレートが狙われる理由はわかりませんが、チョコレートが奪われるのを阻止し、この怪人を倒していただけますよう、お願いいたしますわ」
嬬恋キャベツ怪人が現れるのは、群馬県内のとある高校の教室だ。怪人はコサック戦闘員3名を連れ、教室中央にいる学生からチョコレートの強奪を狙う。怪人はその際に強引な手段を取ることはあるが、一般人を積極的に傷つけることはない。奪うだけなら、サイキックを使うことも無いだろう。
ただ、灼滅者が相手となれば話は別である。灼滅者の介入があれば、怪人はご当地ヒーローとマテリアルロッドに相当するサイキックを使い、その排除を狙う。コサック戦闘員も、ご当地ヒーロー同様のサイキックを使ってくるだろう。
バベルの鎖による予知能力を持つ怪人と直接対決に持ち込むには、今回は『怪人がチョコレートを手にするまで、現場の教室に入ってはならない』というルールを守る必要がある。隣の教室やベランダなど、隠れる場所は少なくないはずだ。
「楽しい……かどうかは当人の判断にお任せしますが、バレンタインデーの貴重なひと時を邪魔されないよう、皆様のご尽力をお願いいたしますわ。未来予測による優位はありますが、ダークネスの戦闘能力は侮れないことを覚えておいてくださいませね」
参加者 | |
---|---|
勿忘・みをき(誓言の杭・d00125) |
天上・花之介(連刃・d00664) |
烏丸・奏(宵鴉・d01500) |
不知火・レイ(シューティングスター・d01554) |
有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923) |
エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814) |
遠野森・信彦(蒼狼・d18583) |
湊元・ひかる(コワレモノ・d22533) |
●待ち伏せ
「――で、アリスちゃんのお兄さんって何部? 呼びに行くよ?」
「いや、それには及ばないよ。妹であるボクとしては、兄の邪魔はしたくないからね」
と、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)は女子高生たちに手を振った。彼女たちは笑顔で頷くと、荷物を取りにそれぞれの席へと向かう。
とある高校の最上階、事件の現場となる教室の一つ隣。ESP『プラチナチケット』を使って紛れ込んでいるへるの他にも、ここには3人の灼滅者たちが潜んでいた。
「……あちら、静かですね。本当に人がいて、呼吸してるのか疑いたくなるくらい」
壁に耳を当てて現場の様子を窺っているのが、エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)だ。同じ場所に天上・花之介(連刃・d00664)と湊元・ひかる(コワレモノ・d22533)もいて、この3人はESP『旅人の外套』で隠れているのだ。
「ベランダ側からも、教室に動き無しって聞いてるぜ。中の奴ら、『よっぽど』なんだな……」
花之介は、常時通話にした携帯電話から耳を離さずに言う。通話先は、現場のベランダに隠れている仲間たちだ。
「待ちましょう……。時間は、だいたいわかっているのですし」
ひかるは呟いて、さりげなく視線を先の女子高生たちに向ける。彼女たちのお喋りは、チョコレートを誰にあげた・あげなかったの話であり、ひかるは一人、ハンチング帽のつばを撫でた。
雰囲気に華やかさのある隣教室とは違い、ベランダから覗く現場の教室は、勿忘・みをき(誓言の杭・d00125)の目には荒野同然に見えた。彼はESP『闇纏い』を使ってはいるが、念の為か窓のギリギリまで身を屈めている。
残る三人の内、ESPを利用してベランダに隠れているのは、『猫変身』中の烏丸・奏(宵鴉・d01500)のみである。光源と地形の優位性もあり、また敵ダークネスの予知を回避する条件を満たしているため、大人しくしていれば誰にも見つかることはない――のだが。
「猫……猫、か。むむ……」
何故か、みをきが落ち着かない様子でいた。注視は教室内に注ぎながら、気配を頼りに手を伸ばそうと手を伸ばそうとしているようだが。そんな仲間の葛藤に気づかず、黒猫状態の奏はふと、傍らにいる遠野森・信彦(蒼狼・d18583)の膝を前脚で叩いた。
「ん、どうした猫奏ことかにゃで。……っと」
寒さをこらえ切れないのか、黒猫は信彦のジャケットに潜り込んでいく。懐の暖かさを心強いものと感じ、信彦は室内の監視に二人分の働きをすると心に誓った。ついでに、存分もふる。
ベランダ組の最後の一人、不知火・レイ(シューティングスター・d01554)は、いつもの警備服の中から特に黒いものを選んできていた。音を立てないように、体の動きは最小限。冷風に吹きさらし中で屈んでいると、まるで自分が置物になったかのような錯覚があった。
「…………」
それでもじっと、中の様子を窺う。視線の先、ダークネスが現れたその時も。
●包囲
「――取ったッ!」
教室内での一悶着の後、嬬恋キャベツ怪人はついにチョコレートの箱を手に取った。
ゴーサインに、一同が素早く行動に移る。手近な窓から入った信彦は、ここで『サウンドシャッター』を使った。続けてスレイヤーカードの封印を解除し、全武装を同時装着する。
「奏、宵月! 俺等の力、見せてやろうぜ!」
「なぁに……張り切ってんの?」
その背後で奏は『猫変身』を解除し、姿を現しながら信彦の肩に手を乗せる。霊犬『宵月』も、主人が言外に放つ気合を汲み取ってか、何度か前脚で床を叩いていた。
「あなや、伏兵か!?」
「何の目的か知らないが、そのチョコは守る」
驚きの視線を向ける怪人に、『殺界形成』を張るレイは表情を引き締める。……台詞の大仰さに反し、守る物のスケールが少々小さめなことは、ある程度自覚していた。
「守る? 俺は代価を置いていったぞ。チョコよりも甘い、上等の冬キャベツをな」
「……甘ければいいというものではない」
言いつつ、重心を下げていく怪人。レイと反対側の扉から来たみをきは、背後にある脱出ルートの一つを、身構えることで閉鎖した。
「そこまで言うのならば、身をもって試すか――」
怪人は油断無くマントの裏ポケットにチョコの箱を入れていく。入れ替わりに丸々としたキャベツを取り出そうとする怪人に、後方から少女の声が当てられた。
「キャベツは欲しいけど、そのチョコは返してっ! 女の子の手作りなんですよ!?」
声の主は、隣の教室から到着したエデだ。事前の打ち合わせもあり、彼女たちは流れるように敵の包囲へ合流していく。対応しようと構えるコサック戦闘員を、怪人は手を挙げて一旦制した。
「そうですよ。そもそも、代わりにキャベツと言うのは……無理がある、ような」
ひかるは言葉を繋げながらも、さりげなく一般人の生徒たちが去るのを見届けていた。戦闘を開始するのは、教室を『殺界形成』で空にしてからだ。
「キャベツでロンドン橋は作れないのさ。この日この時は、チョコレートだけが相応しい……なんてね」
わかるかなと、へるは傾いだ椅子の上で跳ねる。彼女の悪戯っぽい笑顔の中には、しかしシビアな気配も混じっていた。
廊下から一般人の足音が消え、学校ごと無人となる。お互いそうなることを待っていたかのように、教室内に気迫の衝突が発生した。
「……やれ」
怪人が指を弾くと、戦闘員たちが放たれた矢のように殺到していく。対し花之介が、最初の一歩を踏んだ。
「さあ、怪人退治と行こうか」
刃杭のバベルブレイカーが、敵の勢いに逆立てられる――。
●死を賭した戦い
「出でよッ、我が愛器『キャベツロッド』!」
戦闘員たちの後追いをしながら、怪人は改めてマントからキャベツを取り出した。大きな手でつかみ出したその先には、よく見ると短い柄が付いている。
「トウが立ったキャベツでさえ、俺は無駄にはせん――今こそ、葉菜と咲けィ!」
掛け声と共に、キャベツロッドの杖頭が爆発的に散らばった。葉の一枚一枚が鋭い刃となり、緑色の竜巻となって灼滅者たちに襲い掛かる!
「いきなり大技か? 宵月君、少し気合入れていこう」
「ワンッ!」
奏が、視線に力を込めた。仲間たちを――特に信彦を巻き込む軌道で進むそれを、何もせず見過ごすわけにはいかない。
「おおおおおおおおお!」
宵月と共に、竜巻へと突っ込む。インパクトの瞬間、触れた箇所から切り刻まれていくのを、奏は歯を食いしばって堪えた……しかし。
「勇ましさは認めるが、捕らえきれるものではないッ!」
バァン、と音立てて竜巻が破裂する。四散した葉刃が、信彦の手を掠めた。
「ッ!」
「く、ぁ……信、信っ!」
「奏、心配するな! 痛くはない!」
傷口から、青の炎が舌を出す。が、あえてその熱を抑え、殺人注射器を掴み取った。
「奏の作ってくれたチャンス、きっちり生かさないとな!」
狙うのは怪人ではない。作戦通りに、己の激情を殺してでも、まずは戦闘員の方から落とす。
「――パッ、パマギーチェェェェェ……」
毒を注入された戦闘員が、ゆっくりとくずおれていく。残る2体の頭上へ、間を置かず、身軽に飛び回るへるの影が落ちた。
「あははは、よーく狙えているよ……そっちの怪人君、キミも一緒にね♪」
へるは逆さまに跳ねながら、戦闘員たちと怪人とで作られる三角形を把握する。その全てを網羅する除霊結界を、縛霊手から抜き打ちで解き放った。
「古今東西、ボスがどーんと後ろで構えているのには、つまり理由があるんだってことさ」
着地したへるの前方で、強固な結界がぎちぎちと敵を締め上げる。戦闘員の片方が、耐えかねてそのまま戦闘不能となった。
「コサックの誇り、素早さ……今こそ!」
辛うじて身動きを取れた一体が、膝を曲げて腕を組む奇妙なポーズを取る。まさかと思う前に、戦闘員はその低姿勢を保ったまま猛然と駆け出してきた。
「ウラアアアアァァァァァ!」
「へっ、ただの雑魚かと思ってたが、根性あるヤツじゃねえか!」
花之介が再度対抗の構えを取る。赤熱の煙を上げるバベルブレイカーを縦に回し、大鉈めいた独特の刃杭を一気に射出位置へ引き下げた。
戦闘員のコサックダッシュが直前にまで肉薄する。花之介はどうにか防ぎ、しかし駆け抜けていった戦闘員の背中へ向けて、ジェット噴射の突撃を敢行した。
「捉えたぞ、死の中心点!」
瞬きの間に花之介は、その勢いのまま戦闘員を突き飛ばす。壁に激突し、動かなくなった戦闘員の前に、すると怪人が立ちはだかった。
「嘆かぬ、弔わぬ――言うに及ばず!」
その手に、新たなキャベツロッドが構えられる。
●争いの果てに
「豊穣の時よ! この力の下に今こそ結球せよ!」
怪人がロッドを天高く掲げると、その周囲に緑色のスパークが走り始めた。底知れぬ圧力に身構える灼滅者たちを、怪人は長身から見下ろして不敵に微笑む。
「手を出す相手を間違えていたなァ! だが、今更後悔してももう遅いィ! くらえッ!」
放電が一気に収束して雷撃と化した。轟と震わされる肌の感触に、それが計り知れない大きさの音を立てたのだと、攻撃の全てが終わってから気づく。
狙われたのは、最後尾のメディックにいたひかるであった。仰向けになぎ倒された彼女の周囲を、ナノナノが慌しく飛び回っている。
「ナノッ! ナノーッ!」
きらきらと輝く粒子が、ひかるの心に吸い込まれた。力を取り戻し、指先の僅かな動きから、己の存在をかき集めていく。
「は……! わ……私だって!」
――あの人が、誰かを救いたいって願うのなら!
「ナノッ!」
意思が、瞳の中に甦った。戦う、戦えると、展開するリングスラッシャーで語る。
「行ける、か……。ここまで厄介なキャベツは、生まれて初めてだ」
と、額に落ちる汗を手袋で拭ったレイ。逆の腕に浮いている寄生体を体内に戻し、飲み込まれていたウロボロスブレイドを露出させる。
「確実に、捕らえてみせる」
殲術道具を高速で振り飛ばすと、その青色は空気に溶けたかのように見えなくなった。音速突破の炸裂音に続き、怪人の周囲に鞭剣の鱗が再出現する。
「ギ……!」
レイは続けて、絞るように束縛を強める。苦悶の吐息を漏らす怪人へ、みをきと彼のビハインドが即座に駆け上がった。
「二手に――」
この一言で、アドリブの仕掛けが完了する。ビハインドの霊撃が描く光の軌道に、みをきは大外から回り込んでの時間差合流を図った。
狙うのは、効果的な打撃だけではない。すれ違いざまに、みをきは怪人のマントに手を伸ばす。
「奴のマントの何処かに、あのチョコがある筈……!」
「させ――るかァ!」
怪人は横っ面を強かに張られながらも、まるでマタドールのように身を回して見せた。が、その華麗な動きは、フォロースルーまで続くことは無かった。
その途中で、エデの槍に刺し止められたからだ。
「いくつか聞きたいことがありますが、それらを代表してまずは一つ」
エデは、敵の背から槍を引き抜かずにいた。怪人自慢のキャベツヘッドから、はらりと一枚の葉が萎れて落ちる。
「嬬恋キャベツは、どうやって食べるのがお勧めですか?」
「……身の……詰まった……冬キャベツ……」
一枚、また一枚と葉が剥がれる。葉にくっついているはずの顔のパーツは、何故かそのまま残っていた。
「煮込んで……甘し……」
怪人の膝が自然と落ち、両掌が床に付いた。情けは無用と、一斉に灼滅者たちが武器を向ける。
「甘いは……キャベツと……チョコレート……ッ!」
その刹那、カ、と怪人の目が見開かれた。マントを羽ばたかせ、裏ポケットに手を伸ばす。その行動の意図は、最後の悪あがきに例のキャベツロッドを取り出すこと――では、なかった。
チョコレートの箱が握り潰された。飛び出したトリュフに、怪人は口から飛び込む。
すると、嬬恋キャベツ怪人が、巨大化した。
●え……?
怪人の身長は見る間に天井の高さを突破し、校舎の屋上が内側から破壊される。瓦礫の隙間から見える夜空を眺めて、一同、最早呆然として立ちすくむほかになかった。
「ハ、ハ、ハ、ハハハハハハハーッ!」
そう、嬬恋キャベツ怪人が、巨大化したのである。デザインはそのままでサイズだけが大きくなっていくという、あの巨大化である。特撮で追い詰められた怪人がお約束として使うという、あの巨大化でもある。
「ハハハハ――アブッッ!」
と、高笑いする怪人は、赤い液状のなにかを吹き出した。勢い良く飛んだ為、幸いなことに教室の中へは降ってこない。遠くで、ビシャッ、という粘液質の音がした。
「ふ、ふふふ……! 瀕死の体で巨大化しても、流石にダメージ全快とは行かぬか……!」
口元を拭いながら、ご丁寧にも説明を入れてくれる怪人。その目がぎろりとこちらを睨んだことで、ようやく灼滅者たちは我に返り始めた。
「手負い、です! 大きくなっただけで、瀕死に変わりはないと!」
最も早く自分を取り戻したのは、みをきであった。チームの過半数を年上が占めることを考慮して敬語を使う彼に、奏と信彦の両名が自然な流れで背を向ける。
「――なんかさ、いきなり寒くなったな? 信、後でココアでも飲みにいかね?」
「――あー、寒いな。俺も一緒に行くぜ、奏。ついでにもう一度かにゃでやってくれよ」
「よしきた」
「よしきたって、その……怪人、すっごいこっち見てますから……」
二人が完全にこの場を後にする前に、ひかるがどうにか引きとめた。……もし許されるのなら、ひかる本人も学園に逃げ帰りたいような気分ではあったが。
「しっかし、正直なところ参ったぜ……。こんな相手、オレらのサイキックでどうにかできるもんなのか?」
花之介が腰を伸ばしながら至極当然な疑問を口にすると、文字通りに頭を抱えたエデが応えた。
「どうにかできなかったら、私たちおしまいかもですよね……やだなあ……」
エデは手にした槍で、恐る恐る怪人の足指を刺す。……すると。
「ウギャー! やられたあああああッ!」
怪人が真に迫った断末魔の叫びを上げた。本当の本当に、瀕死だったらしい。
「おのれ、俺の命もここまでか! グローバルジャスティス様に、栄光あれ……!」
巨大化怪人の体が、傷口から消えていく。かくして嬬恋キャベツ怪人は灼滅され、この地に再び平和が舞い戻ったのであった。
「爪痕は残り、取り返せなかった物もある。しかし、事件の解決に向けて灼滅者たちが尽力したことを、他ならぬ彼ら自身が、未来永劫その記憶に残すことであろう――というかボク、夢に見るかも」
へるが締めた。
静かな夜空を一人、レイは見上げている。やがて星の世界を離れると、彼は荒れてしまった教室を元に戻そうと、視線を床に戻した。
そして、呟く。
「――無理だな、コレ」
作者:君島世界 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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