白菜はチョコレートの代わりになるか

    作者:泰月

    ●奪われたチョコ
     茨城県の、とある大型スーパー。
     その食品売り場に髭のある白菜頭がいた。何か知らんがいた。
     白菜頭がいるのが野菜売り場なら、販促辺りで納得できそうなのだが、何故かお菓子売り場である。
    「全く……近頃の若いもんは『ばれんたいん』なんぞにうつつを抜かしおって」
     『バレンタインフェア開催中』と書かれた、赤をメインに煌びやかに飾られた特設ディスプレイの前で唸る白菜頭。
    「コサックコサック!」
     と、そこに全身黒タイツの3人が、何故かコサックダンスの動きで軽快な靴音を響かせつつ現れた。
     ついでに白菜山盛りのショッピングカートを2つ、空のショッピングカートを1つ引き摺って。
    「ひょひょっ。やっと来たのう。では、かかるのじゃ!」
     白菜頭の号令の元、白菜頭と黒ずくめ達は陳列されたチョコを片っ端から空のカートに積み込み、代わりに白菜を陳列していく。
     山積みだったチョコはあれよあれよと言う間に、白菜のピラミッドに姿を変えた。
     バレンタインフェアの文字も、いつの間にかコサック戦闘員の手で『白菜フェア』に書き換えられている。
    「ちょこなんぞなくとも、2人で白菜の鍋を囲めば良いのじゃて。と言うわけで、このちょこは儂らが全て処分しておくのじゃ! ひょーっひょっひょ!」
    「コサックコサック!」
     そう言い残すと、白菜頭と黒マスク達はカートに満載したチョコを奪い去ったのだった。

    ●その名は白菜斎
    「集まってくれてありがと。バレンタインデーが近づいてるわよね」
     教室に集まった灼滅者達を出迎えた夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)は、彼女にしては珍しい空気を纏っていた。
     何と言うか、目が笑っていない感じだ。
    「バレンタインに関係する話よ。全国のご当地怪人達がバレンタインのチョコを狙った事件を起こそうとしているわ」
     バレンタインデーも近いと言うのに、傍迷惑な事である。
    「茨城で白菜斎と名乗る白菜のご当地怪人が、バレンタインフェアのチョコを強奪するのを予知出来たわ」
     白菜のご当地怪人がチョコを奪う。
     いまいち繋がらない組み合わせに『?』な空気が教室に漂う。
    「バレンタインのチョコを狙う理由は判らないけど、そんな不届き者達に情けは要らないわ。白菜斎とコサック戦闘員達を倒して来て」
     この言葉で柊子がご立腹らしい理由は判った気がしたが、それよりも気になる一言があった。
    「コサック戦闘員?」
    「そうそう。今回の怪人、コサック戦闘員を3人連れてるのよ」
     と言う事はロシアン怪人なのか――と思いきや、白菜斎は日本のご当地怪人で、別にロシア化してもいないらしい。
    「白菜斎とコサック戦闘員達が現れるのは、市街地から少し離れた所にある大型スーパーよ」
     現れた怪人達は、チョコを奪うと白菜を残して去って行くと言う。
    「お菓子売り場を固めるとか、強奪前に阻止しようとすると、敵のバベルの鎖に気づかれるわ。だから、狙うのは強奪した後の去り際にして」
     店内を出るぎりぎりか、外に出た瞬間を抑える、辺りだろうか。
     どちらにせよ周囲に人がいるだろうが、怪人達は一般人に被害を加えようとする事はないと言う。
    「戦闘能力だけど、白菜斎は拳法的な格闘スタイルよ。ご当地ヒーローと同じのに加えて、閃光百裂拳みたいな連打技と、白菜で守護を高めるサイキックを使うわ」
     ご当地怪人の中には、戦いにも己の象徴たる食材を組み込むタイプがいるが、白菜斎もその1人のようだ。
    「コサック戦闘員は、まあ、コサックダンスよ」
     能力的には大した事ないのだが、割と果敢に攻めて来る筈との事。そんなにチョコが欲しいんだろうか。
    「判らない事もあるけど、バレンタインのチョコを狙う不届き者達、きっちり倒して来てね。気をつけて行ってらっしゃい」
     大事だから2度言ったんですかね、不届き者って。


    参加者
    東当・悟(の身長はプラス十センチ・d00662)
    笠井・匡(白豹・d01472)
    エルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)
    三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)
    桎梏・凍染(鎮魂の雨歌歌い・d06917)
    リーグレット・ブランディーバ(紅煉の獅子・d07050)
    岡崎・多岐(右手の先・d09003)
    リステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506)

    ■リプレイ


    「ひょーっひょっひょ!」
    「コサックコサック」
     特徴的な笑いと掛け声を響かせ、チョコレートを満載したカートを押して行く白菜の怪人、白菜斎とコサック戦闘員達。
    (「来たか」)
     その微妙に鬱陶しい様子を、岡崎・多岐(右手の先・d09003)は店内の自動販売機の陰に隠れて見ていた。
     入り口近くの雑誌売り場で立ち読みの振りをしていた東当・悟(の身長はプラス十センチ・d00662)と目配せし、怪人達の後ろへ移動する。
     堂々と正面から出て来る怪人達の姿は、外のベンチで休憩を装って待機していた仲間達も目にしていた。
    「うわぁ、白菜だ。全体的に白菜だねぇ」
     白髭を蓄えた白菜頭の姿を遠目に見て、この距離だと太めの長ネギに見えなくもない、なんて思いながら笠井・匡(白豹・d01472)が飄々と言う。
    「本当にチョコを運んでいるな……何をしたいのかさっぱりわからん。そもそも白菜のご当地怪人ってなんなんだ」
     一方、リーグレット・ブランディーバ(紅煉の獅子・d07050)はご当地怪人の行為に理解が追いつかず、眉をひそめている。
    「……ん、なんで……チョコレート……?」
     バレンタインが何で盛り上がるを理解っていないリステアリス・エールブランシェ(今は幼き金色オオカミ・d17506)も、疑問に首を傾げる。
    「何が目的だろうが、怪人達なんかに甘いチョコ祭りの横槍入れさせるかよ」
     ご当地ヒーローとして宿敵の目論見阻止に燃える三國・健(真のヒーローの道目指す探求者・d04736)は、実にシンプルな方針を口にして、ベンチから立ち上がる。
     怪人達の後に多岐と悟が出て来ていた。作戦開始だ。
    「じゃ、あいつらは一旦任せるよ」
     どこかのんびりと言いながら、礼服で決めたエルメンガルト・ガル(ウェイド・d01742)は周辺の客へと向かう。
    「誘導終わったら、すぐに行くからね」
     桎梏・凍染(鎮魂の雨歌歌い・d06917)も反対側の客達へと、駆け寄って行った。
     残る4人は頷き合うと一斉に怪人の前に躍り出る。
    「ぬぉ!? な、なんじゃ」
     突然取り囲まれて驚く白菜斎。コサック戦闘員のコサックダンスも、思わず止まる。
    「……ばれんたいん……は、よくわからない……けど、商品……強奪は、ダメ」
     そんな怪人達に、リステアリスが静かに怒りを込めて告げる。
    「広いとこで思い切り白菜について語ろうや……拳でな」
     背後からは、悟が固めた拳を見せながらニヤリと笑みを浮かべて白菜斎へと告げる。
     後ろは続いていた2人で固めていた。
    「ひょぅっ!」
     だが、白菜斎はいきなり背後へと回し蹴りを放つ。
    「うぉっと!?」
     咄嗟に避けた多岐の伊達眼鏡が、弾き飛ばされた。
    「ちょっとちょっと。白菜を買って美味し~く食べてくれるかもしれない人達を巻き込みたくないでしょ?」
    「その手には乗らんぞい!」
     宥めようと匡がかけた言葉も、白菜斎は一蹴する。
    「お主ら儂らを逃がす気などないんじゃろうが! そのくらい判るわい!」
     逃がさない為に取り囲んだのは、正しい判断だが、逃がさないと言外に伝えたも同じである。
     また、白菜斎達はチョコレートを強奪――つまり奪い去ろうとしたのだ。
     白菜の普及と言う目的の為だけならば、奪い去る必要はない筈だ。
     そんな白菜斎達を囲んだ上で場所を移す提案をした所で――相手にそれを飲むメリットは存在しない。
    「ふん。何処の若い者か知らんが……軽く捻って揉んでやるわい」
    「コサックコサック!」
     その場で構えた白菜斎に続いて、コサック戦闘員達もコサックダンスの構えを取る。
    「どうもお前達ご当地怪人は理解出来んが――倒してしまえば関係ないか」
     この場の戦いを避けられぬと踏んだリーグレットの体から、濃密な殺意が周囲に溢れ出す。
    「買い物は終わりました? なら急いで帰った方がイイと思いますよ! お気をつけて!」
    「ただのトラブル対応だよ。気にせず、店内へどうぞ」
     その気配に周囲から離れ始めた人々に、さも店員であるかの様に振舞うエルメンガルトと凍染が声をかけて誘導する。
     ESPの効果もあり2人を店員と思った人々は、その言葉に従って動き出した。


    「天が呼ぶ地が呼ぶ白菜が呼ぶ! 野菜大嫌い東当悟! 千切りの炒めもんにして阻止したる!」
     名乗りを上げる悟の足元で、影が蠢く。
    「コサック! コサーック!」
     刀の様に鋭く伸びた影が、ぴょんぴょんとコサックダンスで跳ねる戦闘員の1人を斬り裂いた。
    「ほぁたーっ」
     戦闘員の陰を上手く使って間合いを詰めた白菜斎が、リーグレットへと飛び掛る。
    「おっと。させないよ、白菜さん」
     白菜斎の飛び蹴りが届く直前、前に出た匡が代わって受ける。
    「僕は野菜全般大好きだ。白菜も大好きだよ。漬物も鍋も味噌汁も美味しい」
     受けた腕に残る鈍い痛みを隠し、光を纏った刃を高く掲げる。
    「人参はもっと好きだけど!」
     人参好きをカミングアウトしながら匡が斬り付けた先は、先ほど影に斬られたコサック戦闘員。
     白菜斎は既に、戦闘員達の後方まで一気に間合いを広げていた。
     追って間合いを詰めようにも、コサックダンスを踊る戦闘員達が非常に邪魔だ。
     配下を利用した一撃離脱。
     己の魔力を以って正面から火力で捻じ伏せると言う、リーグレットの好む戦いとは真逆とも言える戦法だ。
    「邪魔な奴らだ……まとめて葬ってやる、行くぞ!」
     その苛立ちをぶつけるかの様に、リーグレットが左腕に装着した黒い巨大な鉄の塊を、足元に叩きつけた。
    「コサックッ!?」
     その衝撃で生じた地を這う振動が、コサック戦闘員達の足を僅かながらしかし確実に乱していく。
    「その鬱陶しい動き、止めてやるよ」
     乱れたステップを直そうとする戦闘員達に、多岐が銀色の銃口を向ける。
    「コサーック!?」
     更にライドキャリバーのジルも機銃を重ねた。幾つもの銃弾に撃ち抜かれ、よろめく戦闘員達。
    「行くぞ! 播磨の旋風、ドラゴンビーム!」
     それでも、完全にコサックダンスを止めない戦闘員を、健の放った光線が貫く。
    「コサック!」
    「来やがれ! 播磨の旋風ドラゴンタケル、お前らの攻撃を阻止してやる!」
     怒りに支配された1人に釣られる様にして殺到する戦闘員達に、健は顔の前で腕を組んで待ち構える。
    「ぐ……っ」
     3連続で叩き込まれた蹴りの衝撃に呻きを漏らした健の背中に、後ろから光が注がれる。
    「ん……大丈夫?」
     リステアリスの放つ陽光の様な輝きは、敵には滅びとなり味方には救いとなる裁きの光条。
    「お待たせ! 誘導完了だよ!」
     そこに、エルメンガルトが戦線に合流した。
     樹木の枝を象った杖の石突をコツンと足元に叩きつければ、戦闘員達の周囲で風が渦を巻く。
    「Verbrecher hellfire sollte brennen」
     生まれた竜巻に飲み込まれた戦闘員達の1人が倒れるのを見ながら、凍染の口がドイツ語を唱える。
     バベルの鎖を瞳に集めながら、凍染は変わらぬ笑みを浮かべて大きなライフル銃を残る2人の戦闘員へと向けた。


     突撃したライドキャリバーに跳ね飛ばされた戦闘員は、地面に落ちるとそのまま動かなくなった。
    「戦闘員だと、まあこんな所かな?」
    「やれやれ。鬱陶しいのはこれで後1人か」
     倒れて動かなくなった戦闘員を見て、多岐と凍染が小さく息を吐く。
     多岐の歌声が精神を揺さぶり、そこを凍染の強力な魔力光線に撃ち抜かれた上で突撃したライドキャリバーに跳ね飛ばされたのだ
     手負いの戦闘員にそれに耐える力はない。
    「……風を、吹かせる、ね……」
     前線を支える仲間のダメージが嵩んできたのを見て、リステアリスが剣を抜いた。
     リステアリスの白い指が刀身をなぞると、そこに刻まれた言葉が風となり吹き渡る。
    「なあ、東当兄ちゃん」
     暖かい風を感じながら、視線を敵から外さずに健は悟に声をかける。
    「確か去年、年野菜嫌いって言ってて白菜みたいな形のチョコ貰わなかったか?」
    「白菜の野菜チョコな。美味いで」
     悟の脳裏に浮かぶ、菜っぱ型。ホワイトチョコと抹茶チョコのバランスが絶妙だった。
    「その翌年にこんな怪人が現れるなんて、まさか宿命の対決?」
    「ああ、出会う気しとった……運命や」
     白菜がもたらした一年越しの出会い。そんな運命でいいのか。
    「じゃあ、あいつをとっとと倒して白菜を灼滅しないとだな!」
     なんだか神妙な空気で頷き合い、まず健が駆けた。
    「播磨の旋風、脚技――ドラゴンキック!」
     一気に間合いを詰めて跳び上がり、縦回転の回し蹴りを戦闘員の脳天に叩き込む。
    「もお寝とけや」
     よろめく戦闘員の前で、キンッと刃を鞘に納めた小さな音が鳴ったその直後。
     抜き放たれた炎の刃が疾り――戦闘員の足が止まり、ぐらりと倒れる。
     これで残るは白菜斎、ただ1人。
    「美味しい野菜の選び方って、叩いて音を聞くんだってね?」
    「それがどうしたのじゃ!」
     動き回る白菜斎を追う匡の拳が輝きを纏う。
    「なに、白菜さんが美味しいのか、叩いて聞いてあげようと思ってね。礼は要らないよ!」
    「余計なお世話じゃい!」
     匡の両拳の連打を、しかし白菜斎の拳がそれ以上の速さで迎え撃った。
     相殺してのけた上に直後に振り上げた足で匡を蹴り飛ばす。
    「まだまだ若いもんには負け――うぬっ!?」
     勝ち誇る白菜斎の手足に、エルメンガルトの影の触手が絡みつく。
     その頃には、戦闘員を倒しきった事で全員の視線が白菜斎に向けられていた。
     更に、エルメンガルトの背後から放たれた一発の銃弾が、白菜斎を撃ち抜いた。
    (「やっぱ、エルくらいでかいと利用出来るな」)
     そんな事をしなくても充分攻撃を当てられるのだが、多岐はなんとなくエルメンガルトの動きを利用していた。
    「この程度で儂を止められると思うなぁ!」
     白菜斎が影を振り解くが、既に全員の視線が白菜斎に向けられている。
    「甘いな」
     小さく告げたリーゼロットの声をかき消す程に、ジェット噴射の音が響いた。
    「ぐぉぅ!?」
     轟音と共に打ち出された杭に貫かれ、苦悶の声を上げる白菜斎。
    「白菜は好きだけど、一応バレンタインだしさ。遠慮はしないよ」
     カチャリと凍染の腕にある手錠が音を立てる。
     構えたライフルから放たれた、暗い想念を集めた漆黒の弾丸が白菜斎を捉え、その体を蝕んでいく。
    「白菜なんか凍らせたる!」
    「喰らえ、ドラゴンブリンガー!」
     悟の槍から放たれた鋭い氷を追いかけるようにして、健が注射器を突き立てる。
    「お日さま……たっぷり、浴びて……?」
     更に、リステアリスの構えるロッドの先端が輝く。向ける先は、仲間ではなく白菜斎。
     陽光を思わせる暖かい光が、白菜斎へと放たれた。


    「ぐはっ!」
     吹き飛ばされた白菜斎が、チョコを積んだカートに突っ込む。
    「くっ……近頃の、若いもんもやるのう」
     散乱したチョコの中からよろよろと起き上がる怪人。
     まだ立ち上がる力は残っているようだが、その姿はもうボロボロ。あと数撃が決まれば決着が付くであろうと誰もが思っていた。
     だが、白菜斎はそこで予想外の行動に出る。
     1つのチョコを取り、その包装を破るや否や、大口を開けて食いついたのだ。
    「まさか、単にチョコ食いたかっただけか? 俺ァチョコより白菜貰えた方が嬉しいんだがな」
     多岐が訝しむ目を向けた、直後。異変が起きる。
     白菜斎の姿が、大きさを増していく。
    『みぃなぁぎぃーるぞぉー!』
     灼滅者達の目の前で、白菜怪人、白菜斎はみるみる内に巨大化を果たしていた。
    「ちょ、な、な……何で白菜巨大化するんや!」
     響く悟の絶叫。
     野菜嫌いの彼にしてみれば、白菜の巨大化なんて悪夢そのものだろう。
    「うわぁ……こんな事になるなら、スピード決着しとけば良かったなぁ」
     メンバー最長身のエルメンガルトも見上げる大きさである。
    「……ばれんたいんのチョコレート……食べると、大きくなるの……?」
     リステアリスの表情に驚きは見えなかったが、不思議そうに呟く。
     そんな事はない。
     そんな事はないのだが、この状況に誰からもツッコミが出てこない。
    「いやいや、もうすぐ白菜の旬が終わるからって、巨大化しなくても」
     匡の言葉は本気なのか冗談なのか、いまいち判らない。
    「つくづく理解の及ばん奴だな……」
     リーグレットも流石に驚きを隠せない。
    『驚いたか、若造どもが!』
     その声と巨大白菜斎の大きな掌に光が灯る光景が、灼滅者達を現実に引き戻す。
    「させるかよ!」
     放たれたビームの前に、健が躍り出る。
    「巨大化したくらいで……怯むドラゴンタケルじゃねえ!」
     膝が落ちそうになるのを精神力で堪え、巨大白菜斎を見据える。
    「んー……狙い易い大きさの的になってくれたと思えば、いけそうじゃない?」
     その口元に変わらぬ笑みを浮かべ、凍染が告げる。
    「さっさとやっつけて、バレンタインの支度をしたい子達を助けなきゃね」
     妹の事を思えば怪人のせいでバレンタインが滅茶苦茶になるのは耐え難い。
     ましてや、巨大化など見過ごせるものか。
     凍染のライフルから放たれた魔力光線が、巨大白菜斎をあっさりと撃ち抜いた。攻撃は通じる。
    「そうだね。お料理の仕上げと行こうか!」
     膨れ上がったエルメンガルトの影が、巨大白菜斎をすっぽりと覆い尽くす。
    『ぬぅぁぁぁ!』
     影の中から、巨大な拳が振り下ろされる。
    「させない、よ」
     激しさを増した白菜斎の攻撃に、リステアリスは裁きの光を仲間へと向ける。
     彼女の回復量を大きく上回る程になっていたが、しばらく支える事は可能だ。
     その間に、残る仲間達は巨大白菜斎に攻撃を叩き込んでいく。
    「いっちょ焼けてみる?」
     炎を縛霊手に纏わせて、匡が叩きつける。
    「鍋を囲めとか名言だろ。それ推してりゃ良かったのに、何してやがる」
     いつも以上に目つきを鋭くし、多岐が至近距離で銀のリボルバーの引鉄を引く。
    『うぐっ!』
     膝を撃ち抜かれ苦悶する巨大白菜斎へ、悟が鞘から刃を抜き放つ。
     そこに刀身はなかったが、非物質化した刃が敵の魂を切り裂いていた。
    「その巨体、私が捻じ伏せてやろう! 朽ち果てるがいい」
     高らかに正面から言い放ち、リーグレットが煉獄の右腕たる杖を叩きつける。
    『おのれ……もっと早く巨大化しておけばぁぁぁぁっ!』
     リーグレットの魔力が内側で爆ぜると同時に、驚愕を浮かべ巨大白菜斎の体が大ききな爆発を起こす。
     ややあって爆風と煙が収まった後には、散乱したチョコレートだけが残されていた。

     その後。
     無事なチョコレートは灼滅者達によって集められ、店に返却された。
     そのお礼に、と渡されたのは白菜斎達が持ち込んだ白菜。
     売り物には出来なかったようだが、白菜に罪はなし。ノルマは1人3玉。
    「お疲れ……さま、です」
     と、リステアリスが作って来たクッキーもそこに加わる。
     こうして野菜嫌いもチョコ嫌いも等しく、今回のお土産は白菜とチョコクッキーになったのであった。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月14日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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