それは、氷のように冷たい夜だった。
空から降る月光さえも細い刃の如く鋭く、見上げた者を突き刺す程に。
氷月に照らされ、銀にも似た毛並みの獣がゆらと姿を見せる。
然は獣にして獣に在らず。時を経た赤銅の瞳が睥睨し、その色に似た怨嗟を呼び醒ます。
それを見届けることなく、獣――スサノオは踵を返し何処へともなく去っていった。
ずるり、と。
一対の娘が闇より出でる。
鈴を振るう音で笑うその身は鎖に囚われ、その周囲に血に濡れどす黒い肌の人影が立ち上がった。
笑うその声はひび割れ、次第に破れ鐘の如き大音声となり響く。
「生贄に捧げられた娘と、その復讐で滅んだ村の話をするよ」
普段は快活な笑みを浮かべる須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は、今は懊悩に近い表情を浮かべていた。
――今は昔のこと。
山奥の村に双子の娘がいた。鏡合わせの如くよく似通ったその姿の娘たちは、ただその瞳の色だけが違った。
故に一方は虐げられ、常に目隠しをして暮らすことを強いられた。
ある時、とある大きな事態の吉凶を占う祭りが行われ、忌み子の娘は神事を取り扱う巫女となる。
日陰者だった彼女の晴れ舞台を対の娘は喜び、そして祭りの日に忌み子の娘は殺された。
それは、巫女の血肉を神に捧げる祭祀だったのだ。
占いは吉を示し、ついでに忌み子を始末することができた村の衆は総出で祝う。
酒も飯も大盤振る舞いで皆大いに飲み食いし、そして皆混ぜられた毒に肺腑を焼かれて死んだ。
老いも若きも。男も女も。皆。ただひとりの娘を除いて。
忌み子の娘とまったく同じ衣をまとう娘は、目隠しをしたままの己の顔を、首だけとなった対の頬に摺り寄せた。
「もう誰も私たちの邪魔をしないわ。あなたを想うのは私だけ。私を想うのはあなただけ」
そこまでを語り、エクスブレインは集まった灼滅者たちを見回す。
「殺されたのは、どちらの『忌み子』だったのだろうな」
眉を顰めて白嶺・遥凪(中学生ストリートファイター・dn0107)が口にした言葉にまりんは首を振る。
「分からないけれど。分かるのは、ひとりは殺され、ひとりは殺した。そして『古の畏れ』となってスサノオに呼び起こされたことだよ」
もの言いたげな遥凪に事実だけを告げ、すっと資料を取り出した。
場所は朽ち果てて久しい廃村。廃屋が点々とあり、中央には集まり事のために用いられた広場がある。
膝ほどの高さの石柱が村の入り口の目印として置かれ、その内側に入り武器を抜き構えれば出現するようだ。
「敵の主力は双子の女の子。名前はヒナとセイ。忌み子とされて目隠しを強要されたのはセイちゃんのほうだけど、どちらも目隠しをしているからすぐには判断がつかないと思う。ヒナちゃんは弓と護符揃えを、セイちゃんは弓と魔道書を武器にしているよ」
髪型も服装もまったく同じ。違う得物を使わせるかその目隠しを取るなり何なりしないと区別がつかないだろう。
それから、殺された村人がざっと50人ほど立ちはだかる。こちらは大して強くないが、数が多いために手間取ると苦戦するかもしれない。
「もしも妹を手にかけられたら、……私も復讐するだろうな」
ふと、遥凪が口を開く。
咎める視線に手を振り、そうはさせないと笑った。
そう言えば双子だったっけ、とまりんが気付き、だからこそしっかりと頷く。
「もう二度と悲しいことが起きないようにしっかりと倒して、必ず無事に帰ってきてね」
言ってから、あっと声を上げる。
「そうそう。この事件を引き起こしたスサノオの行方は予知しにくくてね……でも、事件をひとつずつ解決していけば、きっとたどりつけるはず。そのためにも、がんばって」
ぐっと拳を握り締めて、エクスブレインは灼滅者たちを激励し送り出した。
参加者 | |
---|---|
千布里・采(夜藍空・d00110) |
九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065) |
村上・忍(龍眼の忍び・d01475) |
橘名・九里(喪失の太刀花・d02006) |
葉月・十三(我ハ待ツ終焉ノ極北ヲ・d03857) |
霧凪・玖韻(刻異・d05318) |
エリアル・リッグデルム(ニル・d11655) |
小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441) |
●
ざわり、と。風が木々を揺らす。
月光が冷たく降る空の下、ふたりがようやくすれ違えるほどの細い道を歩き、灼滅者たちはエクスブレインから示された場所へと向かう。
道としてそれなりに整備されているのは細い。だが、それを無視すれば移動には支障ない程度だろう。
「所謂、畏れや穢れの具現化とかそんな感じなんですかね?」
現状に則して言うなら伝承や信仰の負の部分の都市伝説だろうかと誰にともなく問う葉月・十三(我ハ待ツ終焉ノ極北ヲ・d03857)に、千布里・采(夜藍空・d00110)は夜明けの色の瞳を周囲に投げながら頷いた。
「そんな感じなんやろか。でも、やりきれんなあ……」
柔らかな口調に少々の悲しみを含む。
「畏れの基になった逸話、色々酷い話なの」
何にしても、灼滅はキッチリするけど、と思案し皆と一緒に進む小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)。
仲間の会話を聞きながら、何か思うところがあるのか口元を引き結び村上・忍(龍眼の忍び・d01475)は静かに、しかし重苦しく歩を進める。
と。道の途中に、膝ほどの高さの石が草に埋もれてぽつんと見えた。これが村の入り口の目印だろう。
その奥から、先行していたエリアル・リッグデルム(ニル・d11655)が姿を見せた。先に入って村内を見て回り、誘導に使えそうな場所をチェックしていた彼は、手短に自分が確かめたことを仲間たちと共有する。
今はもう動くものの気配もない廃村は朽ち果て、だが確かに『そこに生きて暮らす人々がいた』と雄弁に告げる。
「この有り様、他人を思い遣る気持ちが足りなかった故の顛末だね」
それは、村をひとつ滅ぼすほどの憎しみ。悲しくも禍々しい、恐るべきもの。
現に戻った憎しみの連鎖をここで終わりにしようか。青い瞳を伏せがちにし、呟く。
「何もかも気に入らない村に御座いますねぇ……」
心の奥底に沈む感情を遮るように橘名・九里(喪失の太刀花・d02006)は丸眼鏡をずり上げ、月光を反じたレンズでその瞳に映る表情は分からない。
灼滅者たちは村の中に入り、スレイヤーカードから殲術道具を解き放つ。
「要らぬ事を思い出す前に、全て消させて頂きましょう」
復讐者が繰る漆黒の鋼糸は石を音もなく切断し、ぞわりと立ち上る殺気。
人知れぬ思いに呼応してかあちこちに人影が生み出され、少し離れたところからくすくすと笑う声がした。
鮮やかな緋色の着物をまとう少女たち。黒い目隠しを共に着け、華奢な繊手にはその身の丈を遥かに超えた長弓がある。
ざらとその身を縛る鎖。あれが、『古の畏れ』だ。
その姿を見て、双子の霊か、と九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)がこぼす。エクスブレインから聞いていたが、双子の妹がいる彼にとっては他人事とは思えなかった。
それは白嶺・遥凪(中学生ストリートファイター・dn0107)も同じで、無敵斬艦刀を取る手に力がこもる。
「敵対行動まで取らねば出現しない静かな祟り……そう、この戦いはスサノオを追う為だけのものでしかありません。今更詫びは申しませんよ」
思うことは多々あれど決してためらわない。強い光を灯す青い瞳で忍はまっすぐに『古の畏れ』を見据える。
忌み子の少女たちから阻むように布陣する敵を冷静に見つめて、霧凪・玖韻(刻異・d05318)がすっとクルセイドソードを構え、美海も右手に護符を、左手に焔色の解体ナイフを構えた。
「……今日の私は、もふもふ抜きで、少し真面目に行くの。覚悟するの」
●
敵の数は50を数えた。灼滅者たちが実力的には上だが、数を恃んで攻撃してくる相手には慎重にならざるを得ない。
包囲されないように、攻撃が分散しすぎないように。或いはバッドステータスを受けないようにと、サポートする者たちも含めて注意しながら確実に敵を減らすべく戦う。
しかし。
「総取りで行かせてもらう!!」
威勢よく叫び得物を振り回す龍也は、好戦的な性格が災いしひとり突出して戦っていた。
それは征し易しと判断した忌み子の少女たちの格好の目標となり、笑いながら放たれる矢の雨が弄ぶように降り注ぐ。
分が悪い賭けが好きとは言えさすがにこれはまずいと判断し敵を引き離そうとするが、当然容易ではなくじりじりと削られていく。
「五樹、お願い!」
弥堂・誘薙(万緑の芽・d04630)の声が飛び、彼の霊犬・五樹が龍也の加勢に馳せ参じ浅からぬ傷を癒した。
ぐっと大地を踏みしめて敵を睨むその姿に、忌み子の少女たちは楽しそうに笑う。
「あの子、可愛いわね」
「あっちの子も可愛い」
采に従い戦う真っ白な霊犬を示す。耳をぴんと立てディフェンダーとして立ち回る霊犬に興味を示したようだ。
村人たちは、すべてがすぐに攻撃しては来なかった。完全にグループとして分かれているわけではなさそうだったが、一番数が多い一団が灼滅者たちを襲えばそれより少ない一団は支援するように構え、残った一団は忌み子の少女たちから灼滅者たちを離すように控えている。
それと気付き玖韻が皆に伝えると、幾人かが敵の誘導を試みる。完全に引き離すことはできず忌み子の少女たちへの突破口とはならなかったが、それでも攻撃が通りやすくなっただろう。
「数の暴力とはよく言うけど……これは骨が折れるなあ」
溜息交じりに言いながらエリアルが魔法を放った。集まっていた数人の村人たちは、自身に向けられた魔力に気付くことなく体温を奪われ喘鳴を上げてばたばたと倒れていく。
列攻撃で多数にダメージを与え、単体攻撃で確実に止めを刺す。数を恃む敵に対して灼滅者たちがとった作戦は効果的だった。
先行して戦う一団を撃攘し、次の一団へと得物を向ける。
「さっさと死ぬがいいですよ!」
九里が笑いながら濡烏を操り、村人の首をだつんざつんと重くも鋭い音を立てて落としていく。
指先で滑らせた得物はしかしわずかに逸れた軌道を取り、凶糸を避けた敵が一瞬の隙を突いて攻撃を仕掛けた。
ざんっ! 激しい一撃と共に飛沫が飛ぶ。
「橘名、しくじるんじゃないわよ」
倒れる村人へ業を放った姿勢で、詩夜・華月(白花護る紅影・d03148)は九里に檄を飛ばす。その後ろで、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)が穏やかながら凛とした表情で護符を構えている。
知己の言葉にふっと笑みを浮かべ、応える代わりに襲い掛かる敵を蹴り散らした。
サポートに回るグラジュ・メユパール(暗闇照らす花・d23798)や天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)の攻撃が敵の体力を削り、興守・理利(明鏡の途・d23317)の振るう一撃が倒す。
疾駆する影業がぞぶりと村人を飲み込み、波打つと主の元へと戻る。次の一手へ移ろうとする忍の耳に、不意に。
――奴らに忌み子を殺させるな。
――あれは、我々が殺す。
虚ろな声だったが、確かにそれは聞こえた。
「……どういうことなの?」
同じくそれを聞いた美海は口にし、しかし答えなどないと分かっていた。代わりにイフリートファングをかざす。
「毒の風、吹き荒ぶの」
呪詛が竜巻となり村人たちを襲い、十三がフリージングデスを放ってその仮初の命を奪う。
負けじと遥凪も炎をまとい戦うが、多数の敵を相手にするのに慣れず、ふとした瞬間に姿勢を崩した。
すぐに体勢を立て直せずずるりと敵に囲まれ、一方的に攻撃を受ける形になってしまう。
「遥凪!」
ギルドール・インガヴァン(星道の渡り鳥・d10454)の祭霊光が飛び、ふっと息をつき体勢を整えようとした時不意に引っ張られた。
ぽんと肩を叩いて一・葉(デッドロック・d02409)が彼女の傷を癒しながら、
「ここは俺達に任せて、先にいけ! すぐに追いついてやるからよ」
「それはフラ……」
不敵に笑って言う言葉に遥凪が言いかけ、突然響いた轟音に身を竦める。
「オオォォォあああッ!」
見れば、敵の注意を引こうと一際派手に攻撃を行うレオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)。
忌み子の少女たちもきょとんとして眺める間にそれは効を成し、一斉に村人たちが彼へ殺到する。
とは言え、残存している敵はそう多くない。ここは任せても問題はなさそうだ。
葉が差し出すサムズアップに応え、他の仲間たちと共に忌み子の少女たちの元へと向かう。
●
忌み子の少女たちの前に立ちはだかる村人たちは数えるほどしかいなかった。皆一様に呟きながら灼滅者たちへと攻撃を仕掛ける。
――奴らに忌み子を殺させるな。
――あれは、我々が殺す。
それが少女たちを守る理由だとするならば。
「……色々と、貴方達に思うところはあるけど、言っても詮無い事なの。……だから、キッチリ灼滅するの」
寂しげに美海が少女たちへと告げる。双子への浅からぬ思いがある者もためらいはない。
「どんな相手だろうと、ただ斬って捨てるのみ!!」
龍也が咆哮し一息に斬艦刀を振り抜き村人を一刀両断する。その勢いでびぢゃりと血飛沫が舞い、忌み子の少女たちの頬を赤く染めた。
己を濡らす血を華奢な指先でぬぐい、少女たちはくすくすと笑う。
「ねえ、あの人たちが私を殺すのね」
「ええ、あの人たちが私を殺すのよ」
笑ってはいるが、その瞳に浮かぶものは目隠しに隠されて見えない。
「本当に、何もかもが気に入らないですねぇ」
眼鏡をずり上げ九里が低く唸り風刃を奔らせ、その脇を忍が駆ける。得物にまとわせた烈火を、心の底に沈めた思いを払うように振るう。
神刃が少女たちに細かな傷をつけるが、静かな激情は届かない。
「お札さん、回復よろしくなの」
美海が守護符を展開させ、符を飛ばし守護の力を与える。
双子のうちセイのほうを狙おうとした采は、しかし判別がつかず列攻撃に切り替えた。大鎌に宿る咎を黒き波動と成し薙ぎ払い、彼に続いて霊犬が六文銭射撃で後を追う。
鉄球に棘がついたような形状のロケットハンマーを手にエリアルが地を蹴り、忌み子の少女たちの一方へと強烈に殴りつける。
避けられなかった少女は激しい勢いで地面に叩きつけられ、ざらりとその身を縛る鎖が鳴った。
はらりと。黒い布が落ちる。
「ヒナ」
片割れが倒れたのを見て、初めて、少女が、名を呼んだ。
いつの間にか現れた書物を手に、ゆらと灼滅者たちへと顔を巡らせる。
「私たちは、一緒なの」
ぞわり、と。柔らかな口調で呪詛が牙を剥く。
禍々しい気配を書物にまとわせ、隠された瞳で灼滅者たちを睨む。
――ただいっしょにありたいだけ。
悲鳴にも似た呪詛は灼滅者たちが心の底に隠している怒りを、沈めていた昏い闇をも引き摺り出した。
「くっ……」
幾人かの顔に、じりじりとした苛立ちが浮かぶ。それはいまだ叶えられない願いへの渇望と焦燥。
仲間の異変を見て取り、クルセイドソードで薙ぎ払うように玖韻が『祝福の言葉』を風と変え解き放ち、呪詛に引きずられた仲間たちを癒す。
熱を帯びた目から執着が消えるのを確かめて、ふと考える。
「(話を聞いた限りでは殺されたのは『忌み子』だろう)」
入れ替わっていない限り、『忌み子でない方』が殺される理由は無い。
仮に理由として考えられるのは『悪戯』と『身代わり』のふたつだが、『晴れ舞台を喜んでいた』娘が相方の役目を奪うような事はしないだろうし身代わりになるという発想自体が有り得ない。
だから実際には入れ替わってはいないはずだ。
そう考え、思案を払う。
分かったところで何があるわけではない。多少の憐れみを感じるくらいだ。
そして憐れみすら抱かず、十三が縛霊手を振りかざして飛びかかる。
「村一つ潰すくらいの度胸があったなら村から逃げれば良かったんでは?」
倒れたまま長弓をかざしてその一撃を防いだ少女に、ぎりぎりと得物を押し付け言う。
「結局、現状を打破しようとしなかった末路でしょ? 自ら事態を変えようとしない者に運も未来も微笑んではくれないんですよ」
がっ! 鈍い音を立てて縛霊手が振り払われる。
十三が次の手のために体勢を整える間に、少女も立ち上がり姿勢を正す。
「まぁ、今の貴方達に言っても詮無きことですけどね」
向けられる言葉に少女たちは応えず、ただくすくすと笑った。
何を言っているのか、と。
「みんなが私を殺したの」
すと護符を手に少女が微笑む。こちらがヒナだ。もはや隠すもののないその瞳の色は、瑠璃色。
では、もう一方……セイのほうは?
双子に思うところはあるが感傷はない龍也の斬撃を書物で受け、その勢いで目隠しが飛ばされた。
「私もみんなを殺したわ」
琥珀色の瞳が灼滅者たちを一瞥し、真紅の荒獅子をその得物ごと退ける。
その目に射られ心の底がざわめく。九里と忍が重ねて攻撃を繰り出すが、ヒナの放つ護符に護られ傷が癒される。
「……何故まだ目を隠すのですか?」
静かに忍が問うが、少女たちは花のような笑みを浮かべたまま。
「二人だけなら、もう隠す必要などありませんのに。それこそが貴女達が未だ違いに拘り、村からつけられた鎖に囚われている証です」
悲愴な指摘にざらりと鎖と鳴らし、鈴を転がす声を上げた。
「いいのよ、私は。私が無事なら」
「いいのよ、私は。私が無事なら」
ただその瞳の色だけが違う顔で笑い。
「……もしかして」
無意識に采が声をこぼす。
「殺されたのはどちらでもあり、どちらでもなかった?」
「何だそりゃ」
得物を構えたまま龍也に問われエリアルが応えた。
「多分、彼女たちにとって、どっちも自分のことなんだ」
隠すから同じだった。隠さなければ同じでなくなってしまう。だから、スサノオに呼び起こされてもなお目隠しをし続けていた。
「だから相手と同じである事に拘ったのか」
言いながら玖韻の放つ魔力の矢の雨を防ぐが、完全には防ぎきれない。間髪入れずに死角から繰り出される十三の凶刃にざぐんっ! と斬り伏せられた。
『古の畏れ』と言っても、それそのものは都市伝説に相応する強さだ。サポートも含めて攻撃を畳みかけられれば長くはもたない。
まして守る者は互いにしかいない。忌み子の少女たちは、灼滅者たちの前に膝を屈することになる。
「ちょっと試したいことあるんやわ」
采が言って、少女たち自身にではなく彼女たちを縛る鎖へと攻撃を当ててみるが、鈍く音を上げるも傷付けるには至らない。
「もしかして、殲術武器扱いやろか」
武器は壊せへんもんなぁ。と首を傾げた。
つっと滑らせた濡烏は少女たちを鎖ごと捕え、九里は心情を吐露する。
「……正直羨ましいのですよ。見事復讐を遂げた、貴女がね」
「貴女達は、もうここに戻る必要などないんです……未練を捨てて、あるべき所へ本当に旅立ちなさい」
悲しげに告げる忍の炎撃にその身を焦がす。
十三と龍也の斬撃に斬り伏せられても、少女たちは悲しみも苦しみも訴えなかった。
ただ、対がそばにいる。それだけが彼女たちには重要なことだった。
エリアルと玖韻が放った連撃がとどめとなり、『古の畏れ』は音もなく消えていく。
「……起こされた貴方達には、この一言で締めとするの。……おやすみなさい、なの」
さわりと渡る風に髪を押さえ、美海は優しく言った。
●
改めて村の中を見て回った采に仲間たちが問うと溜息が答えた。
忌み子の少女たちが存在したことを示すものは何も残されていない、と。
寂しげに目を伏せ、忍は村の中央へと向かう。線香を上げて弔いの経文を唱える彼女に倣い、灼滅者たちも手を合わせる。
「貴女達の来世が良きものでありますように。最早その眠りの乱される事がありませんように……」
告げる彼女の傍で、エリアルがフリージアの花を、沙月が白百合の花束を手向けた。
フリージアの花言葉は『親愛の情』。
「(畏れになってまで愛情で繋がった君たちに憧れるよ)」
その情愛は、決して忌まわしく呪わしいものではなかった。
優しい花を見つめ、きり、と九里は口元を引き結ぶ。
己がいまだ成しえていないことを成し遂げた少女たちに抱くのは歪んだ羨望。
「……精々、あの世で仲佳くどうぞ」
口に出してみて、ふっと苦笑する。
「あァらしくないですねぇ。全く、厭になる……」
自嘲に、遥凪は視線を落とした。
「帰ろうぜ。長居する理由もないしな」
龍也が促すと玖韻は頷き十三も従う。
各々に村の入口へと向かう中、ふと、美海はあるものに気付く。
拾い上げてみればそれは対のぬいぐるみで、『古の畏れ』の少女たちのようにそっくりだ。
「……たまには、もふもふ以外のぬいぐるみも有りなの」
優しく撫でてやり、帰路へと着く仲間たちの後を追いかける。
灼滅者たちが去った後には、ただ風が木々を揺らす音だけがするだけだった。
作者:鈴木リョウジ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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