●地蔵谷
月夜の晩。
白い炎を纏った狼が、林を歩いていた。
周囲には木々の他に、うち捨てられた地蔵がゴロゴロと転がっている。
地域の住民は、この場所を地蔵谷と呼んで恐れていた。
狼は、赤い頭巾を被った地蔵の前に座ると、その匂いをかいだ。
やがて黒いオーラが立ち昇り、渦を巻いて赤鬼となった。
同じようにして、狼は、青鬼と緑鬼を呼び出した。
どの鬼も、足には鎖がつながれている。
鬼達は、まるで獲物を探すかのように、地蔵谷を徘徊し始めた。
狼は、いつの間にか居なくなっていた。
●教室
「赤目の動向を掴んだよ」
皆に資料を配りながら、賢一が説明を始めた。
僕が追っているスサノオ――『赤目』って呼んでるんだけど、そいつが、三度目の事件を起こすのを予知した。赤目に呼び出された古の畏れは、山道を通りかかった人を殺そうとするから、放っては置けない。だから、これを灼滅して欲しい。
古の畏れは三体の鬼として現われる。赤鬼がボスで、後の二体はその配下。この三体を一体も逃さずに灼滅して欲しい。
鬼達の強さは、赤鬼がキミ達四人分、他の鬼達はキミ達三人分くらいの強さだよ。その他の細かい戦力は渡した資料に書いてあるから、参考にしてね。
鬼達は、どうやら、射程内にいる女子供を優先的に狙うようなんだ。つまり、男よりも女、年上よりも年下を狙う。だから、その性質に注意しないと、大変な事になるかもしれない。でも逆に、その性質を利用する事も可能だね。赤鬼の射程は短いから、上手くすれば、相手の狙いを分散出来るかもしれない。色々考えて、工夫してみてね。
相手はなかなか強いけど、みんなで協力し合えば、きっと大丈夫。
それじゃ、頑張ってね!
参加者 | |
---|---|
迫水・優志(秋霜烈日・d01249) |
ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068) |
狼幻・隼人(紅超特急・d11438) |
片倉・光影(神薙の戦巫者・d11798) |
由比・要(迷いなき迷子・d14600) |
橘樹・慧(月待ち・d21175) |
夕鏡・光(万雷・d23576) |
神代・桐生(中学生ファイアブラッド・d23988) |
●
夜。
林の中を、灼滅者達が歩いていた。
木々に葉はなく、空には綺麗な満月が浮かんでいる。
「んーなんで地蔵さんばっかり転がってるんやろ?」
月明かりを頼りに、狼幻・隼人(紅超特急・d11438)が辺りを見渡す。
そこら中に転がっている地蔵は、おそらく誰かが捨てたのだろうが、それにしても数が多く、無作為だ。この光景は、人の手によるものとは思えない異様さがあった。
「象の墓場みたいに集まってくるもんでもないやろうになぁ」
隼人の脳裏に、寿命の尽きた地蔵が行進してくる謎光景が、ふと浮かんだ。
(「……そうだったら、ちょっとおもろいな」)
林を抜けると、開けた場所に出た。緩やかなすり鉢状に凹んでいて、所々に、まるでキノコが群生するかのように、地蔵がびっしりと並べられている。
広場の真ん中に、三体の鬼が居た。
身長は、バスケットボールのリングの高さに近い。皮膚の色はそれぞれ、赤、緑、青。まるで浮世絵のような色合で、絵からそのまま抜き出したかのようにも見える。
(「うち捨てられた地蔵が置かれた地蔵谷で、鬼の出現か」)
片倉・光影(神薙の戦巫者・d11798)がスレイヤーカードを構えた。
「真風招来!」
一陣の風と共に、ライドキャリバー『神風』が現れる。
(「スサノオの狙いがなんなのか不明だが、現れて災いをなすなら倒すのみだ」)
鬼達が、灼滅者達に気付いた。赤鬼を先頭に、緑、青の順に近づいてくる。
ジャラリ、ジャラリ……足の鎖を引きずりながら、灼滅者達を睨み付ける。
隊列を組む灼滅者達。
敵までの距離は、約三〇メートル。
神代・桐生(中学生ファイアブラッド・d23988)が、眼前に無敵斬艦刀を構えた。天を突く巨大な鉄塊は、桐生の身の丈ほどもある。
「ぶった斬ってやるぜ!」
気合いと共に、桐生の体に戦神が宿った。刃先のない刀身がギラリと輝く。
地蔵を拾った青鬼が、おもむろに振りかぶった。
青鬼と目が合い、ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)の背筋が、凍る。
地蔵の頭が、今、目の前にあった。
バガンッ!
石の砕ける音と共に、ライラが二歩後退した。クロスした腕の奥で、紫の瞳が光る。
「……女子供から潰していくなんて、下衆な連中ね」
灼滅者達が、一斉に地を蹴った。鬼達に向かって突撃だ!
赤鬼が拳を振り上げ、迎撃態勢をとる。
ゴツンッ!
橘樹・慧(月待ち・d21175)の脳天に、赤い拳が直撃!
「いってええっ!」
両腕ガード越しだというのに、頭が胴体に埋まるかと言うほどの衝撃。踏ん張った地面が凹んだ。それでも、慧の表情に焦りはない。WOKシールドの輝きが慧を癒やし、強固にした。隼人の霊犬『あらかた丸』も、癒やしの眼差しで慧を助ける。
赤鬼の脇をすり抜け、灼滅者達は緑鬼を取り囲んだ。
胸一杯に空気を吸い込む緑鬼。
「来るぞ!」
迫水・優志(秋霜烈日・d01249)がライラに呼びかける。と同時に、強烈な吹雪が二人を吹き飛ばした!
ブオオオオオオオッ!
耳が千切れるほどの冷気。その中で、優志はライラの後ろに黒い縛霊手を回す。
温かな浄化の光に背中に感じながら、ライラは右腕を振りかぶった。
吹雪が止むと同時に、緑鬼の顔面にドカン!
緑鬼の左頬に巨大な拳がめり込む。紫色の筋繊維。牙が数多く生えた、シャドウの怪腕――ライラの鬼神変だ!
さらにドカン!
右頬にも、黒赤く肥大した拳がめり込んだ。由比・要(迷いなき迷子・d14600)の鬼神変左フックだ! ごめんね、と小さく呟きつつも、柔和な笑みは絶やさない。
二本の巨腕に突き上げられ、緑鬼の足が少し浮いた。
「オラァッ!」
もうひとつオマケに、ドカン!
夕鏡・光(万雷・d23576)の鬼神変アッパーカットが炸裂! 一九〇センチ近い背丈に黒曜石の角二本。鬼は、ここにも居た。
緑鬼のアゴが跳ね上がる。
空を仰ぐ緑鬼。
彼が見たものは、月を背に巨大な右腕を振りかぶる、黒漆の武者鎧。
最後に真上からドカン!
緑鬼の鼻っ面に、光影が鬼神変右ストレート!
緑鬼の後頭部が地面にめり込んだ!
神風と慧のライドキャリバー『ママチャリ号』が、倒れた緑鬼の腹に乗り上げる。
ズバババババンッ!
顔面めがけて機銃掃射だ!
緑鬼はキャリバーを撥ねのけると、顔中から血を流しながら立ち上がった。
「ウオオオォォォッ!」
緑鬼の怒号が、地蔵谷にこだました。
●
それから、どれほどの時が流れただろうか。
互いにディフェンシブな陣形であり、自陣の弱体も相手の強化も打ち消すことが出来る。互いのディフェンダーが攻撃の集中を防ぎ、回復がよく機能することもあって、均衡はなかなか破れない。これといった決め手もないまま、両陣営はじりじりと消耗していった。
ズシャァッ!
影の刃に胸を切られ、緑鬼が吹っ飛んだ。
「どやァッ!」
足下に刃を収めながら、隼人が叫ぶ。
這いつくばった緑鬼が、地蔵を貪るように口の中に入れた。
バキバキ、バキゴキン。
咀嚼しながら、獲物を探す緑鬼。
「また来るで!」
ブブブブブーッ!
緑鬼の口から、石つぶてが放射状に噴射!
狙われたのはライラ。とばっちりを食らうのは優志。
そこに、隼人とあらかた丸が割って入る!
「絶対阻止や!」
地蔵の破片を全身に食らいながらも、隼人とあらかた丸は、気合いで一歩も引かない。
「悪いが……誰一人倒れさせやしないぜ?」
黒いギターを流れるように演奏する優志。その調べが、前衛陣の心身に活力を与えた。
「おりゃああああっ!」
斬艦刀を上段に振りかぶった桐生が、緑鬼に飛びかかる。
「当たれえええっ!」
斬ッ!
緑鬼の左肩に、斬艦刀が食い込んだ!
すかさず光影と要が緑鬼に突進!
そこに赤鬼が立ちはだかる。
「フンッ!」
光影の非物質化したクルセイドソードが、赤鬼の足をすり抜けながら弧を描く!
「グオオオッ!」
膝を突く赤鬼。その肩を踏み台にし、要が大ジャンプ!
緑鬼の頭上で一回転しながら、その脳天を指さす。
「さよなら」
ズドンッ!
青い魔弾をぶち込まれて、白目をむく緑鬼。
そのまま二~三歩よろけると、巨大な石像となって地に倒れた。
「……次はそちらのサポートを潰させて貰う」
光線ライフル銃を構えるライラ。狙うは青鬼――しかし、赤鬼の陰に隠れている。ライラは冷静に機を待った。
「ムンガァァァァァッ!」
赤鬼が、手に持った地蔵を振りかぶりながら、慧を睨んだ。
「耐えてやるぜ……!」
肩で息をしながらも、慧が重くなった腕を上げる。顔も腕もアザだらけだ。
赤鬼のフルスイング!
バガァンッ!
地蔵が粉々に砕け散る。その粉塵から現れたのは、慧を庇ったママチャリ号だ!
「耐えろよ、キャリバー」
ヴォォォンッ!
慧の言葉に応えるように、ママチャリ号がフルスロットル!
前屈みになった赤鬼に、慧が飛びかかった。体をひねり、左拳を右腰に溜めながら、赤鬼の左頬に狙いを付ける。
「この、弱い者いじめ野郎っ!」
バッコーン!
慧の裏拳を食らってよろける赤鬼。その目が、怒りに燃えた。
その時。
ピシュウンッ!
赤鬼の耳元を弾丸がすり抜けた。
「グァァァアアアッ!」
その後ろで、青鬼がのけぞって悲鳴を上げた。ライラのデッドブラスターがクリティカルヒットしたのだ! 顔面を押さえた両手の下から、緑色の血がしたたり落ちる。
「ハッハーッ! 怒ってる怒ってるーっ!」
光が赤鬼を囃し立てる。赤鬼はひたすら慧を追っていた。
「その怒り、使わせて貰うぜ!」
光の足下から漆黒の雲が伸び、赤鬼を飲み込んだ!
「グオオオォォッ!」
頭を振りながらよろける赤鬼。その体を覆う結界が、次々と破壊されていく。
長い間続いていた均衡がいま、破れつつあった。
●
緑鬼が倒れてから、数分が経った。
青鬼が、地蔵を貪り食っている。
地蔵はよく見ると、赤子を模したものが多い。
赤子か、もしくは妊婦だ。
それらを食らいながら、青鬼は己の傷を癒やしていた。
「無駄だ」
光影が、両手に持った剣で円を描いた。身に降りたカミの力が、激しく渦を巻く。
青鬼が光影を振り向いた瞬間。
バツンッ!
風の刃が吹き抜け、青鬼の首が宙を舞った。
「ガァァァァッ!」
怒りに燃える赤鬼が、両腕を伸ばして慧に飛びかかった。
慧は落ち着いてバックステップ。
ドッシーンッ!
赤鬼は地べたにヘッドスライディング! 攻撃は空を切ったが、怒りを静める結界が、赤鬼を包んだ。
「その射程じゃ届かねーだろ、どんなもんだっての!」
地を這う赤鬼の背中に乗って、慧がWOKシールドを振りかぶる。
ドギャッ!
シールドバッシュが脳天直撃だ!
「鬼さん、こちらっと!」
すぐさま離脱する慧。赤鬼の顔は怒りで最高潮に赤くなっていた。
「オラオラァ、キリキリ戦えやあ!」
光の鬼神変右フックが炸裂! 赤鬼の首がぐるんと回る。
「完封だな」
優志の暗い想念が、胸の前で渦を巻き、漆黒の弾丸へと姿を変える。
ビシュゥンッ!
優志のデッドブラスターが、赤鬼の胸を貫いた!
「そら、もう一発や!」
引き絞られた隼人の弓が、ブンッと弾ける。
「ガァァァァッ」
赤鬼の右目に矢が突き立った!
絶え間ないブレイクで、赤鬼のBS耐性は意味をなさない。赤鬼は慧に叩かれる度に怒りを増幅し、ジャラジャラと鎖を引きずりながら慧を追い回す。その攻撃は、決して届かない。
「その足かせ、邪魔そうだね。灼滅ついでに外してあげるよ」
要の体で渦を巻いていた風が、一斉に解き放たれた。
ズシャシャァッ!
赤鬼がもんどり打って倒れた。右足首の鋭利な断面から、血が噴き出す。鎖の付いた右足は、遙か後方に置き忘れていた。
絶叫する赤鬼。
ライラのライフル銃に取り付けられた剣が、光線を刃に纏って輝いた。
「……もうここに囚われることはない。還りなさい、無へと」
ドンッ!
ライラの神霊剣が、赤鬼の胸に突き刺さった!
「ォォォッ……」
よろける赤鬼。
「これで終わりだぜ!」
斬艦刀を振りかぶった桐生が、赤鬼めがけてジャンプ!
バツンッ!
鉄塊が一閃し、赤鬼の首が、地に転がった。
「どんなもんよ!」
斬艦刀を地に突き刺し、桐生がニッと笑った。
「ちょっと遅い節分やったな」
あらかた丸を撫でながら、隼人が言った。
「お地蔵さん、直せないかな」
ランプを片手に、要はバラバラに散らばった地蔵を見渡した。かなりの損傷だ。直すのは難しそうである。
「しかし、どんな謂われがあったんだろうな、あの鬼達には……」
優志が、赤子の地蔵の前にしゃがんで呟いた。赤子や妊婦の地蔵と、それを食らう鬼達。何らかの伝承が、この地に畏れを定着させたのだろう。
光線ライフル銃『アスカロン』をカードに収めながら、ライラが呟く。
「……赤目のスサノオ、早く止めないとね」
この戦いによって、灼滅者達はまた一歩、赤目に近づいた。
元凶と対峙する日は、そう遠くないだろう。
作者:本山創助 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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