闇夜に潜む辻斬五人

    作者:飛翔優

    ●輝きの失せた新宿にて
     終電も終わり、ひと気の少なくなった新宿の街。残されし人々はネットカフェやカラオケ……一晩を明かすための場所へと向かっていく。
     昼間でも人の通らぬような小さな道には、薄汚れた五人の男が徘徊していた。
     男たちは腰に刀を差し、ギラつく瞳で周囲を警戒し続けている。ひと目を避けるように移動しつつ、より深く、より暗い場所を目指していく。
     そんな彼らの前に、一人の人間が迷いこんできた。
     かなり酔っているのだろう。足元もおぼつかず、壁にもたれかかっては離れるという行動を繰り返している。
    「ん?」
     関係ない、といったところか。男たちは一斉に刀を抜き、迷い込んできた人間を切り裂いた。
     恐らくは目撃者を消すために。おおよそ、薄汚れた男たちに理性の光は見えないのだけれども……。
     ……当然だ。彼らはアンデッド。使役されるだけの存在なのだから……。

    ●放課後の教室にて
     灼滅者たちを出迎えた倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は、表情を若干硬くしたまま口を開いた。
    「病院勢力の灼滅者の死体を元にしたと推測される、アンデッドの出現が確認されました」
     アンデッドは灼滅者のような姿で武器を操ったり、ダークネスのような形態でサイキックを使ったりして攻撃してくる特性があり、普通のアンデッドよりはかなり強力な敵となっている。
     出現するのは新宿周辺。何かを探しているようにも見えるが、それが何かはわかっていない。
    「彼らは、普段はひと目を避けて活動しているようなのですが、誰かに見つかった場合、その相手を殺そうとしてしまいます。放っておくと被害が出てしまうことは想像に難くありません」
     故に、そうそうなる解決を。
     葉月は地図を広げ、新宿の裏通りを指し示した。
    「彼らが徘徊しているのはこの辺り。終電前の時間帯に赴けば、周囲にひと気のない状態で接触することができます」
     戦場としては暗いのを除けば、十分に戦える場所。
     肝心のアンデッドたちの数は五体。ダークネス一体分くらいの力量で、総員破壊力に優れている。
     得物は刀。一群の加護をも砕く月光衝、武器ごと敵を断ち切る雲耀剣、そして居合い斬り。
     この三種を使い分けてくるだろう。
    「以上で説明は終了します」
     葉月は地図など必要な物を手渡し、締めくくりへと移行した。
    「いつ、誰かが犠牲になってもおかしくない……そんな案件です。ですのでどうか、早々なる解決を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    十束・御魂(天下七剣・d07693)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)
    クーガー・ヴォイテク(白炎の速度狂・d21014)
    フィアッセ・ピサロロペス(モノトーンの歌姫・d21113)
    神代・城治(愛の貴公子・d24369)

    ■リプレイ

    ●闇へと囚われた者たちを救うため
     淡い街灯と数少ない商店の灯りに導かれ、人々は終電が近づく新宿駅へと向かっていく。その表情はほろ酔いか、はたまた馬鹿をやりあう笑顔か……何れにせよ幸に満ちていた。
     対照的に新宿の奥、暗い方暗い方へと向かっていく灼滅者たちの表情は概ね険しい。
     当然だ。今宵の相手は人を殺める以上の意味を持つ。灼滅者を元にしたアンデッドたちなのだから……。
     街灯の少ない暗闇をライトで照らし、より深い場所を歩く中、十束・御魂(天下七剣・d07693)が静かな言葉を発していく。
    「元病院の灼滅者を利用したアンデット……一体誰がこんな事を」
    「……」
     返事の代わりに、東雲・由宇(終油の秘蹟・d01218)が行軍を手で制した。
     視線の先、薄汚れた格好をしている五人の男たちが次々と日本刀を抜いていく。
     全て、志半ばで散った灼滅者。それだけでも悔しかっただろうに、今は体を手駒の様に操られている悲運の者たち。
    「……大丈夫、すぐに主の御許に送ってあげる。それしか、私には出来ないから」
     由宇は戦闘用のシスター服を身にまとい、ゆっくりと杖を構えていく。
     仲間たちと呼吸を重ね、駆け出し、アンデッドたちを安らかなる眠りへと導くための戦いが開幕した。

    ●暖かな眠りを導いて
     四人が四体を抑えている内に、四人が一体を倒す……そんな策を選んだ灼滅者たち。
     抑える約を担うのだと、クーガー・ヴォイテク(白炎の速度狂・d21014)は右手に持つ日本刀で左利きのアンデッドに斬りかかった。
    「お前の相手は……俺だぜ?」
     返答は、得物を狙った鋭き一閃。
     左手に持つ日本刀で防いだものの、衝撃は体の芯をも震わせ腕に細かな傷を発生させた。
     問題無いと傷口から炎を吹き上がらせ、攻撃を仕掛けるタイミングを伺っていく。
     刹那、隻眼のアンデッドが刀を鞘に収めた。
     居合い斬りが放たれる前兆だと、御魂が距離を詰めていく。
    「っ!」
     朱色の篭手で受け、衝撃のままに五歩分ほど後退する。
     されど隻眼のアンデッドからは視線をはずさない。
    「ここから先は一歩も進ませません! ここで眠っていただきます、永遠に!」
     病院の皆も、今は武蔵坂学園の仲間。これ以上利用させる訳にはいかないから、手を汚させる訳にはいかないからと、呼吸を整え体中に走る痛みを消していく。
     構えを整え、飛び込んできた隻眼のアンデッドを迎え討つ。
    「っ!」
     篭手を狙って放たれた突きを短刀で受け止め、衝撃を外側へと逃がしていく。
     すれ違いざまに周囲の状況を確認した時、火伏・狩羅(砂糖菓子の弾丸・d17424)が構築していた結界が発動した。
     若干勢いを弱めながらも、長髪のアンデッドが刀を鞘に収めながら狩羅の元へと飛び込んで来る。
    「倶利伽羅、ちゃんと動いてくださいね> いつもみたいにサボらないでね? ね?」
     足にしがみついていた霊犬の倶利伽羅を叱咤しながら、盾を構築し前方へと突き出した。
     刀がひらめく刹那、倶利伽羅が飛び出し斬魔刀で鋭き一閃を受け止める。
    「うん、その調子! それじゃ、いきますよー!」
     勢いのまま吹き飛ばされながらも、体を捻り着地していく倶利伽羅を横目に、狩羅は盾を突き出したまま突撃した。
     盾越しに長髪の個体を抑えこんでいく。
     横合いからスキンヘッドのアンデッドが切りかかってきたけれど、倶利伽羅が飛び込み防いでくれた。
     されど、衝撃は重く傷は深い。
     癒やすため、フィアッセ・ピサロロペス(モノトーンの歌姫・d21113)は歌声を響かせる。
     闇に包まれし裏通り、悲しみが生まれゆく戦場に。ただただ、目の前の元灼滅者たちが辿ったであろう道を偲び。
     ――悲しいです。一刻もはやく助けてあげたい。
     救済の調べを織り交ぜて。仲間を支え続ければ、きっと早くに訪れてくれるはずだから……。
     ……更に、想いを巡らせる。
     元灼滅者たちのルーツはなんだろう?
     殺人鬼? それとも、未来を引き換えとした改造を経てなお、ダークネスの力を引き出せなかった者たち?
     いずれにせよ、最後まで果敢に戦ったのだろう。今、容赦無い攻めを灼滅者たちへとぶつけているように。
     彼らに、身を癒やす術は存在しない。ただただ新たな傷を刻まれながら、それでも活路を見出すだけの、持たざる者の戦い方。
     恥じない戦いをするのだと、支える事こそが任じられた役目だと、フィアッセは更に高く歌声を響かせる。
     誘われたか、空に瞬く星々が僅かな光を運んできた。
     あるいは……そう。元灼滅者たちを迎えに来たかのように……。

     最初に倒すと決めた短髪のアンデッドが解き放つ、虚空を斬り裂く剣の如き斬撃。
     盾を模した影で受け流し、由宇は自ら打ち破りながら杖を突き出した。
    「っ! 流石は元病院……出会うなら、味方として会いたかったわ」
     刀に阻まれ、虚空に飲まれていく魔力。
     僅かに残る衝撃に立ち止まっていく隙を見逃さず、笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)もまた杖を振り下ろした。
    「灼滅者の亡者、か。よりにもよって、な。話は聞いていたが。こうして目の当たりにすると、ここまで腹の立つものだとは……」
     苛立たしげな言葉と共に魔力を爆発させ、一歩、二歩とよろめかせた。
     よろめくままに放たれた斬撃を、吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)は刀を振るい弾いていく。
    「辻斬とか、昔は江戸で流行ったって話だけど」
     刀を引き戻す勢いで体を回転させ、短髪のアンデッドを横に切り裂いた。
     更に体を捻り近づいて、握り柄の先端で後方へと押していく。
     先には、由宇。
     非物質化させた剣を突き出した。
     以前にも、相対したことのある病院の人達の亡骸を利用したアンデッドたち。未だになれない、恐らくは慣れることのない最悪の気分。
     せめて灼滅という名の救済を。
     同じ志を持って戦ってきた仲間に武器を向けるのは辛いけど。
    「……ごめんなさいね」
     小さな呟きと共に胸元に突き立てた刃で横に裂き、短髪のアンデッドのバランスを大きく崩していく。
     倒れそうになったその体を、神代・城治(愛の貴公子・d24369)の振るう蛇腹剣が巻き取った。
    「ほんと、こういう形で再開ってのぁ、ちょいと頂けねぇよなぁ」
    「……」
     動きの封じられた短髪のアンデッドを、昴が一閃。
     横に両断し、物言わぬ躯へと戻していく。
    「さ、次は……」
     あくまで軽く、前向きに、昴は次の相手を探り始めた。
     四人が抑えてくれている四体の内、誰が一番傷ついているのか。
     最も攻めやすい状態となっているのは誰なのか。
    「……」
     刀を鞘に収めることなく、昴は腰を落としていく。
     恐らく己が仕掛ける前に、仲間がゆくべき道を示してくれる。
     ならば、自分はそれに従い動くだけ。
     様々な思いを抱く仲間たちを勝利へと導くだけなのだから……。

    「次は、クーガーが相対していた相手だ」
     クーガーが主軸となって抑えていた左利きのアンデッドの死線を見切り、鐐は杭を突き出していく。
     右肩を貫いていく傍ら、全身を炎に染めたクーガーは左利きのアンデッドの後方へと回り込んだ。
    「一気に削り切る」
     鋭く二回、足を切り裂き、行動の自由を削いでいく。
     姿勢を見だした所に集う力。
     その果てに、城治の振る蛇腹剣が左利きのアンデッドを打ち据え永久の眠りへと導いた。
    「……」
     軽口を叩きはしたが、口元の笑みも変わらぬが、内心は腹が立っている。
     元は同僚だったもの。顔を合わせたこともあったかもしれない。
     それがアンデッドになっているというのは、実に面白くない状況。
    「……来いよ。手向けだ。容赦なく楽にしてやるから遠慮無く来い」
     次なる対象を狩羅と倶利伽羅が抑えていた二体のうちの片方、スキンヘッドのアンデッドだと指し示し、軽い調子で手招きする。
     城治に意識が無いた刹那、狩羅が盾をぶつけて押さえ込んだ。
    「今です! 押さえ込んでいる内に……」
     動けぬ所に、集う斬撃、打撃。
     攻め手が増え勢いにのる灼滅者たちを捌く余力など、アンデッドたちには存在しない。
     倶利伽羅の斬魔刀に切り裂かれ、あるべき姿へと回帰した。
    「次はこいつだ」
     即座に昴が体を反転させ、御魂の抑えていた隻眼のアンデッドの足を一閃。
     音も立てず、風も起こさず、ただ、深く鋭く切り裂いた。
     自由を奪われ、多勢に無勢。
     反撃の刃も御魂が受け止め、誰かに大事を与えるには至らない。
     これ以上、誰かを傷つけることはないのだと、鐐が懐へと飛び込んだ。
    「何もしてやれん。せめて、すみやかに常世へ赴いてくれ!」
     光を宿した拳で何度も、何度も殴りつけ、偽りの生を削り切る。
     人形のように崩れていくさまをかいま見て、深いため息を吐き出した。
    「ご当地怪人や淫魔どもの相手をしている方が、精神的には遥かに楽だったとはな……」
     死者を操る。人が夢見た力。
     力の善悪を語れる立場などにはない。ただ、この使い道が吐き気をもよおすものだとはわかる。
     だからこそ眠らせてやるのだと最後の一体、長髪のアンデッドへと向き直る。
     城治が、蛇腹剣を鞭のようにしならせ放っていた。
    「最後はお前だ。さっさと仲間のもとに送ってやるよ」
     言葉とは裏腹にどことなく優しい光を湛えながら、かつての仲間に挑んでいく。
     幸い、灼滅者たちの被害は少ない。そう長い時間がかかることもないだろう。

    ●今はまだ闇に閉ざされていたとしても
     手向けのため、仲間たちを支えるため、歌い続けてきたフィアッセ。
     今なお歌声を途切れさせぬのは、万が一を考えて。アンデッドたちをあるべき場所へと導くため。
     傷が癒える分、炎を更に逆巻かせながら、クーガーは二本の刀をクロスさせていく。
    「そこだ」
     真正面から突き出すように切り裂いて、長髪のアンデッドの刀を弾き守りを暴いた。
     一気に斬撃を、打撃を集わせるは、少しでも早く彼らを眠らせることができるよう。
     由宇もまた、杖で長髪のアンデッドの右肩を強打し語りかけた。
    「さあ、そろそろ武器を手放す時間。武器なんざ永遠に持たなくてもいい場所に送ってあげるから」
     魔力を爆発させ、仮初めの意識を刈り取っていく。
     物言わぬ存在へと……あるべき存在へと導いて、静かな息を吐いて行く。
     闇に静寂、空には星。
     御魂は瞳を瞑り、優しい風を天へと送る。
    「死してなお利用される彼等に鎮魂の風を」
     彼らが迷う事のないように。今度こそ、安らげる場所へと逝けるように……。

     傷を癒やした後、灼滅者たちは遺体を寄り添うように寝かせた。
     その上で、城治が花束を手向けていく。
    「ったく、前の襲撃といい那須の藤堂といい。最近は送ってばっかりだな。……あばよ」
     今度は悪いやつに利用されるなよと、最期の別れを告げるため。
     しばしの後ふりむく城治には、フィアッセが静かに語りかけた。
    「心中お察しします。皆、きっと神代さんに感謝しておりますよ」
    「……ああ、そうだな」
     望まぬ戦いを強いられていた元灼滅者たち。故に、眠りを導いてくれた彼らには、きっと……。
     ……ひと通りの対応が終わった後、昴が軽い調子で提案した。
    「んじゃ、小腹も空いたし飯でも食っていかねえか? ノーライフキングの連中が何か落とし物でもしたのかもしれんが、今の段階じゃちょいとわからんし」
     軽い推理を交えつつの提案に、狩羅が明るい調子で乗っかった。
    「いいね、私もちょっとお腹が空いてきたところだよ」
     重苦しい空気は引きずらす、明るい調子で先を目指す。
     狩羅は笑顔で仲間たちを見回した後、率先して街の方角へと歩き出した。
     仲間たちが次々と後を追っていく中、最後尾となった鐐は闇へと振り向き静かな言葉を口にする。
    「どこの不死王か知らんが、後悔させてやる……!」
     それは、決意。
     元灼滅者たちの……人の死を愚弄したノーライフキングへの。
     今は闇に抱かれていても、いずれは光に暴かれる。夜が明ければ、太陽が世界を照らしていくように……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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