中洲そいね天国

    作者:本山創助

    ●添い寝だけでは済まない天国
     新しい畳の匂いがぷんと香る、真っ暗な部屋の中。
     ススス、とふすまの開く音がした。
    「失礼します」
     と、ふすまの方から少女の声。
    「あ、どうも……」
     部屋の真ん中辺からおじさんの声。
     畳を踏みしめる音、次いで、布団をめくる音がした。
    「それでは、おそばに添わせていただきますね」
     おじさんは、自分の脇に少女が滑り込むのを感じた。
    「まくらは……」
    「おう、俺が腕枕してやる」
    「では……」
     しばしの静寂。
     その後、他愛の無い会話が繰り返された。
     おじさんの愚痴だったり、少女の好きな食べ物の話だったり。
     しばらくして、小さな電子音がポーン、となった。
    「それでは、就寝時間となりました。おやすみなさいませ……」
    「お、おう、おやすみ」
     すやすやと寝息を立てる少女。
     ふんすふんすと鼻息を荒げるおじさん。
     すやすや。
     ふんすふんす。
     すやすや。
     ふんすふんす。
     すやすや……。
    「わおーん♪ もう辛抱たまらーん♪」
    「ほえ……? きゃっ」
     布団がバババッとめくれる音と、浴衣の帯がしゅるるーんほどける音がした。
    「や、だめです、あっ、そんな……あんっ♪」
    「わんわん♪ わんわんわんわん♪」
     何が起きてるのか、真っ暗すぎてぜんぜんわからない!
     ――数十分後。
     浴衣の帯を直しながら、少女が部屋から出てきた。
     明るくなった部屋には、カラカラに干からびた犬っぽいおじさんが横たわっている。その背中には、眼光鋭いポメラニアンの刺青が。
    「カグラ様、いかがなさいましょう?」
     部屋の外に立っていた浴衣姿の男が聞いた。
    「鹿児島駅に送って下さい」
    「ははっ」
     ひざまずく男。
    「いつもありがとうね、カイちゃん」
     少女は男に近寄ると、ふわりと抱きしめてあげるのだった。

    ●教室
    「賢一さん、俺の推理を聞いて欲しいっす!」
    「やあ、犬走。推理を聞かせてくれるのかい? 嬉しいな……て、近い、近いよっ!」
    「いまいちどこの手におっぱいを!! たゆんの福音を!!」
     すがりついてくる犬走・戒士(ブラッドバレット・d24427)に、賢一はヘッドロックで応戦した。
    「それのどこかどう推理なのか、全然分からないんだけど、ちょうど今、キミにピッタリの事件を予測したところなんだ。前回と似たような話だけど、聞いていくかい?」
    「はいっ!」
     もの凄い速さで着席する戒士。
     賢一は、教室に灼滅者達を集めると、しめやかに説明を始めた。

     博多の中洲地区で、HKT六六六の強化一般人が、刺青を持つ人たちを拉致してるんだ。この強化一般人はすごく人の心をつかむのが上手い少女でね、カグラって言うんだけど、自分のえっちなお店にお客を呼び込んでは、『刺青の調査』をしてるんだ。それに、このお店のお客はカグラに魅了されて、HKT六六六に協力するようになるみたいだから、それを防ぐ為にも、この店をなんとかしないといけないんだよね。
     やっかいな話だけど、カグラ達は、邪魔者が来たらいつでも逃げ出せるように準備してるんだ。だから、逃がさない為には工夫が必要になる。やり方は二つあるよ。
     一つ目は囮作戦。
     これは、誰かが囮になってカグラを引きつけるっていう作戦。カグラに営業させつつ、その隙に退路を断ってしまおう、という作戦だね。このお店は指名制じゃないから、カグラを指名することは出来ないんだけど、添い寝の女の子店員はカグラを含めて四名しかいないから、四人がお客になれば、かなりの確率で成功すると思う。カグラの相手をした人は、アレやコレやの末にカラッカラに干からびてKOされて戦闘不能になるから注意してね。他の女の子に当たった人は、普通に戦闘できるよ。
     二つ目は籠絡作戦。
     店員達はカグラのファンであると言う理由から絶対の忠誠を誓っている。カグラのためなら何でもするっていう強化一般人なんだ。でも、この忠誠心を揺さぶることができれば、カグラの撤退を阻止できるかもしれない。その為には、カグラの魅力を上回る何かを演出できればいけないんだ。店員達はカグラのトークと包容力に心酔しているから、そっち方面で、より強い魅力を演出しないと、成功は厳しいかも。カグラのお店は女性添い寝店員を募集してるから、募集を見たと言えば、男性店員に面接してもらえる。男性店員は三人居て、このうちの一人を籠絡できれば、カグラの逃走を阻止できる。でも、三人とも辛口だから、籠絡は難しいかも。面接にチャレンジする人は、多ければ多いほど成功の確率は上がるだろうね。
     この二つの方法が難しい場合は、普通に戦闘するしかない。その場合、カグラは簡単に逃げてしまうだろうから、根本的な解決にはならない。
     男性店員三名と女性店員三名を撃退してお店を潰せば作戦は成功だよ。
     HKT六六六と刺青羅刹には何らかの関係がありそうだけど、まずは、目の前のいかがわしいお店をなんとかしよう!
     それじゃ、よろしくね♪


    参加者
    陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760)
    神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)
    渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)
    黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    柴・観月(サイレントノイズ・d12748)
    十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    佐島・マギ(滑走路・d16793)
    犬走・戒士(ブラッドバレット・d24427)

    ■リプレイ

    ●うさぎ
     ここは、真っ暗な和室。
     真っ暗だから全然見えないが、その中央には布団が一組、敷いてあるはずだ。そういうシステムなんだから、きっとそうに違いない。
    「さあ、入っておいで」
     布団の中から、おじさんの声がした。
    「はいっ。失礼しますっ」
     ふすまが、すすす、と開く。
     浴衣の衣擦れの音がして、ふすまが閉じる音がする。
     ミシッ……ミシッ……。
     畳を踏みしめる音、次いで、布団をめくる音がした。
    「えーっと」
    「布団をめくったら、さっさと中に入りな。この部屋、わざと寒くしてあるんだから。ほら、寒い寒い」
    「はい。それではっ」
     するする、と布団に入る。
    「枕をどうするか、聞くんだろ?」
    「あ、そうでした。枕は?」
    「腕枕してやる」
    「えっ」
    「こらこら、その反応はないだろ。頑張るんじゃなかったのか? 病気のお父さんの為に、お仕事頑張るんだろう?」
    「あ、そうでした。それでは」
     もぞもぞと、動く気配。
    「名前は?」
    「き……じゃなくて、うさぎです」
    「そう。お前はうさぎだ。この仕事は、うさぎがやっている。心からそう信じることが、この仕事を続けるコツだ。分かるな、うさぎ」
    「はい」
     知らない男性、それも、すごくオジサン臭のきつい男性と、真っ暗闇の中で、布団を共にしている。添い寝だけだと思っていたが、たったそれだけのことでも、うさぎ――神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)の心臓は、張り裂けそうなほど、ドキドキするのだった。

    ●さよ
    「左腕を、俺の首に回すんだ」
    「そ、それは……」
     さよは、すでに相手の左腕で腕枕されている状態だった。その状態で相手の首に手を回したら、体がくっつき過ぎやしないだろうか。
    「おう、早くしろよ」
    「あ、はい」
     これは一種の、軽い抱擁だ、と思う。
    「そうそう、そうやってくっついてくんねーと、寒いんだよ。寒くなるように出来てんだ、この部屋」
    「そうです、ね」
     実際、さよも体が震えていた。怖いからだと思っていたが、寒さが原因だったようだ。
    「はーあ、何だってこんな仕事してんのかなぁ、俺」
    「こ、のお仕事、嫌い、なんですか?」
    「たまーに、悲しくなんのよね。お嬢ちゃんみたいな子が、ヘンな嘘ついてまでカネ稼ごうとしてるのを見ちゃうと、特にね」
     さよの体が、びくっと震えた。
    「嘘ついてま、せんよ」
    「へーえ……」
     しばしの沈黙。
    「えーと、さよちゃんは、見た目は中学生だけど、本当は一八歳で一児の母。夫は半年前に……ナニに殺されたって?」
    「……お、オオアリ、クイです」
    「ぶーっひゃっひゃっひゃっ!」
     男の体が跳ね上がった。
    「アハハッ! それ、やめて、ギャハッ、お腹痛いッ! 笑い死ぬ……!」
    「ほ、本当です、よっ。野生の、オオアリ、クイに、がおーって」
    「オオアリクイはアリしか食わねーだろ! ギャッハハハッ!」
    「うーっ……」
     さよ――渡橋・縁(かごめかごめ・d04576)は、じたばたと笑い転げる男の腕に、火照った顔を埋めるのだった。

    ●黒岩・いちご(ないしょのアーティスト・d10643)
    「ちょっと気になる女の子がいるんです」
    「はい……」
    「たまにデートしたりとか、こんな格好でも私も一応男なので……」
    「暗くてよくわかりませんが、お体は、男の方にしか、思えません……」
     いちごの脇には、カグラが寝そべっていた。足をからませ、手のひらをいちごの胸に這わせている。
    「ひゃううっ……」
     浴衣の隙間に手を差し込まれ、悲鳴を上げるいちご。
     カグラは、いちごが女性でないことを丹念に確かめていた。
    「わ、私、女の子と間違われるような、外見なんです。だから、どこまで男性にみられているのか分からなくて、踏み込んでいいものやら……」
    「踏み込む……?」
     カグラがいちごに覆い被さってきた。いちごの頬を、カグラの髪がくすぐる。
    「踏み込む、ていうのは、そのですね……んむっ……?!」
     いちごの呼吸が、急に荒くなる。
     ちゅ……ちゅっ、と、何かを吸い出す音が響く。
    「んんっ、ぷはぁ……はぁ、はぁ……」
    「いまみたいなこと、してあげないんですか?」
    「ええと、その……」
    「引っ込み思案な殿方には、女性のほうから踏み込むべきです……少なくとも私は、いつもそうしてますよ……」
     いちごにまたがったカグラが、いちごの帯を、しゅるん、と解いた。
     そしてもう一回、しゅるん、と帯の解ける音。
    「あのあの、だだだ、だめです。そそそ、それは、困ります……!」
     いちごは、浴衣が脇に滑り落ちるのを感じた。
    「他の女性に気を遣う必要はありません。その方達の踏み込みが甘いから、こうなるのです……」
     肌と肌を、ぴたりと合わせる二人。
     甘い香りが、いちごの意識をもうろうとさせる。
     いちごは、カグラに、全てをゆだねていた。

    ●クリーム
    「クリームには夢があるのです」
     男の肩に頬をのせながら、クリームが語り出した。
    「お母さんの様に、手の届く範囲の殿方だけでもいい、ひとときの安らぎを与える存在になりたい……」
     瞳をウルウルキラキラさせながら、男の胸をぽんぽん叩いてみる。ちなみに、クリームは高校二年生の割には幼くて世間知らずなので、自分の言っていることの意味は、よく分かっていない。
    「そうかい、クリームちゃんは、お母さんみたいな添い寝嬢になりてえのかい」
     クリームの頭を乗せた男の左腕が、ぐっと曲がってクリームの髪を撫でた。クリームは男に引き寄せられるがままだ。
    「そうなのです。お兄さん……純真無垢なクリームを、伝説に育ててみませんか?」
    「ふふふ……天然ぽくていいぜクリームちゃん……どれ、お兄さんが味見してやろう」
     男の手が、クリームちゃんの浴衣の帯を、くっと引っ張った。
    「ほえ? なにをするです?」
     浴衣の拘束感がふわっと無くなった事に、キョトンとするクリーム。帯を抜かれた事には、まだ気付いていない。
     男の手が、浴衣の下に滑り込み、クリームの肋骨に触れた、その時。
    「ひゃっ!」
     バコンッ!
     ビックリした拍子にオーラキャノンが暴発!
    「いってえーっ」
     男が顔面を押さえてのたうち回った。
    「お触りは厳禁ですよ! そんなにやすいおんなじゃーございませんのです」
    「ごめんごめぇぇん。でも、そういうことは、早く言って欲しいなあ、クリームちゃぁん」
     サイキックを食らっても、わりと平気な男。さすが強化一般人である。
    「分かればいいのですよ」
     そう言うと、クリーム――佐島・マギ(滑走路・d16793)はまた、男の腕に横たわるのだった。

    ●陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760)
     瑛多の左肩に、お姉さんの頬が乗っていた。
     お姉さんの腕は瑛多の首に回され、大きなおっぱいは、脇に密着したり瑛多の胸の上に乗ったりしている。柔らかい太ももが、瑛多の両足の上で、すりすりと動いていた。そういった感触を、浴衣越しのお姉さんの温もりを、瑛多は全神経を集中して、余すことなく感じていた。
    「あはは♪ カチカチになっちゃったねぇー」
     お姉さんが、瑛多の胸に指を這わせた。ついさっきまで、普通に会話してたのに、就寝の電子音が鳴ってから、お姉さんは豹変したのだ。
    「あ、あの、手とか握っても、大丈夫ですか?」
    「いいよー、はいっ」
     お姉さんは、瑛多の胸から手を離した。
    「ほら、手、握っていいよー。ここにあるから、えーた君の、胸の上」
    「えっと、ここかな?」
     おそるおそる手を伸ばす。
     ぽいん。
     あ、これは手じゃない。なんだろう?
     むにゅっ、むにゅん。
     いや、うすうす分かってるけど、念のため、もうちょっと確認……。
    「やんっ、くすぐったい♪」
    「あっ、ごめんなさい! つい」
    「まって」
     引っ込めた腕を、お姉さんが握りしめた。
    「あやまんなくていいんだよ? えーた君は男の子だもん。そういうことするの、ふつうだよ」
     瑛多の腕をバンザイさせるようにしながら、お姉さんが、瑛多に覆い被さった。
    「おっぱい好きなんだね、えーた君」
     お姉さんが、瑛多の頭を抱きかかえた。
     あまりの幸福感に、瑛多は夢心地だ。
    (「何か温かくていい匂いがする! それになんだかふくふくしてるね、うん。女の人ってやわらか……ZZZZZ」)
     両頬にお姉さんの膨らみを感じながら、瑛多は、どういうわけか、眠ってしまったのだった。

    ●犬走・戒士(ブラッドバレット・d24427)
    「女の子って、男のどんなところにぐっときたりするっすかね?」
    「そうだなあ、やっぱり、男らしいカラダに、ぐっときちゃうかなあ」
     戒士は左腕にお姉さんの頭の重みを感じながら、大胸筋や上腕二頭筋に力を入れてみたりした。
    「カイくんは、いいカラダしてるよねー」
     天井を向いていたお姉さんが、ころん、と転がって戒士の脇にピッタリとくっついた。柔らかな膨らみが、むにゅっと潰れたのが分かる。
    「あとはねえ、髪の毛を撫でられると、とろーんとしちゃうんだよ」
    「そ、そうなんっすか」
     戒士は、おそるおそる、お姉さんの髪に手をやった。
    「そうそう、なでなでしてー♪」
     柔らかな髪をなでる度に、いい香りがふわりと鼻をくすぐる。
    「女の子のにおいってほんとに甘いんすね……くらくらするっす!」
    「うふふ。ねえ、カイくん」
    「なんすか?」
    「ぎゅーって、して?」
     思わず、鼻血をぶゅーってするところだったが、なんとかこらえた。
    「そそそ、それじゃ……!」
     戒士も、ころん、とお姉さんに向き合って、右腕をお姉さんの腰に回した。おそるおそる、腕を絞る。自分の胸に、お姉さんの柔らかさを感じた。
     お姉さんも、戒士の首にすがりついた。そしてまた、ころん、と転がった。戒士は今、お姉さんに覆い被さっている格好だ。
     戒士は上体を上げると、お姉さんのお腹に両手を乗せた。そして、まるで登山家のような心境で、浴衣の上に這わせた手を、じりじりと二つの山に近づけていった。そこに山があるのだ。登るしかあるまい。
     だが、戒士はビビった。山の麓で、立ち止まってしまった。
     と、その時。お姉さんに両手首を掴まれた。
    「ね、はやく♪ ……しよ?」
     お姉さんの手は、山岳ガイドさながらに、戒士の両手を麓から山頂へと、ゆっくり、優しく、導いてくれるのであった。

    ●柴・観月(サイレントノイズ・d12748)
    「あはは。こんな仕事してるってバレたら、あたしきっと、カレシに嫌われちゃうよね」
    「そんなこと、ないよ」
     腕の中で笑うお姉さんに、観月は即答した。
    「うそばっかり。みーくんは自分の彼女さんがこんな所で働いていたら、どう思うの?」
    「なんとも思わない」
    「またうそついた」
    「嘘じゃないんだけど」
    「優しいんだね、みーくん。女の子に優しいんだ。あたしが泣いちゃいそうだったから、そうやって嘘ついて慰めてくれてるんだ。いいオトコだね、このー♪」
     観月は黙って、天井を眺めた。真っ暗で、なにも見えない。
    「知ってる? ココロとカラダはね、別なんだよ」
    「そうなの?」
    「こういうお仕事してる女の子なら、誰でも知ってるよ」
    「ふーん」
    「ごめんね、もう寝る時間なのにね」
    「別にいいけど」
     観月が微笑んだ。
     暗くて見えないはずだが、なんとなく、お姉さんには伝わったような気がした。
    「ねえ、優しいみーくん、これからあたしが言うことに、嘘でもいいから、全部YESって答えて? そしたらあたし、きっと良く眠れるから」
    「嘘でもいいなら、いいけど」
    「みーくんのこと、好きになってもいい?」
    「YES」
    「ココロとカラダは、別だと思う?」
    「……YES」
    「みーくんは、あたしのこと、好き?」
    「…………YES」
    「それじゃあ、あたしのこと、抱いてくれる?」
     観月は黙って、天井を眺めた。
    「嘘でもいいんだよ、みーくん」
     お姉さんが、そっと、観月の首に腕を回す。
    「ここで起きることは、みーんな嘘なんだから……」

    ●十六夜・深月紅(哀しみの復讐者・d14170)
    「腕枕を、して欲しいのですか……?」
    「して、欲しい」
    「あら、女性の方、なのですね。では、どうぞ……」
     深月紅は、柔らかな腕に、頬を乗せた。どうやら向かい合って寝ているようだ。カグラは自然と足を絡ませてきた。カグラの不思議な包容力のせいか、深月紅はそれを当然のように受け止めていた。
    「女性のお客様も多いのですよ……なにか悲しいことや辛いことがあると、ここに来るのです。なんでも話して下さいね。きっとすっきりしますよ」
     深月紅の脳裏に、ふと、殺された両親の事が思い浮かんだ。
     自分の目の前で、ヴァンパイアに全てを奪われた、あの日のこと。
    「私は、家族が、目の前で」
     自分を庇って倒れた、大好きな姉。
    「家族が」
     自分を庇って倒れた、大好きな妹。
    「目の前で」
     震える深月紅を、カグラが優しく抱き寄せた。
    「辛すぎるなら、無理に話さなくても良いんですよ……」
     カグラの胸に抱かれて、深月紅はその温もりにすがった。
    「生きてる、意味とか、もう、わかんないよ」
     カグラは、そっと深月紅の髪を撫でた。
    「私も……たぶん、深月紅さんと、同じです……」
     カグラの声が涙に震えた。
    「嬉しいことも、悲しいことも、分かち合いたいと思える人は、もう、この世にはいません……あらゆる感動が、虚しく思えます……自分が独りぼっちであることを思い出すと、生きているのが……とても辛くなります……」
     深月紅は、ただ、カグラの声に、耳を澄ませていた。
     二人は、静かに、涙の底へと沈んでいくのだった。

    ●うさぎ
    「本当に、良いんだな?」
    「触られるのくらい、平気ですっ」
     おじさんの手が、希紗の小さな膨らみに伸びる。
     ぎゅっと目を閉じ、必死で震えるのを堪える希紗。
     どのくらいそうしていただろうか。
     おじさんは希紗に触れない。
     ただ、肩をポンと叩き、不合格を告げるのだった。

    ●さよ
    「めっ」
     縁が男の手をつまんで、元の位置に戻した。
    「じゃあ、ここに着陸してみよう。ぴゅーん……」
    「あっ……」
     服の中に指先を感じて、縁は硬直した。
     自然と、涙がこぼれる。
     すん、すん、と鼻をすすって涙を拭う縁。
    「……この位で泣いてちゃ、こんな仕事、できねーぞ」
     男は、縁の頭を優しくぽんぽんすると、不合格を告げた。

    ●クリーム
    「さあ、クリーム伝説の始まりですよ!」
     しゃっ、とふすまを開けて、色々と真っ最中の個室に乗り込んでいくマギ。横に並ぶのは、希紗と縁。背後には、籠絡した男を従えていた。
    「悪い子はお尻にクリティカルフォースブレイクです」
     スパパパパーン!
     乾いた音と共に、強化一般人たちが次々とKOされていった。
     一部屋制覇するごとに仲間と合流し、最後にたどり着いたのはカグラの部屋。
    「いつのまに……」
     カグラはすでに観念しているようだ。
     灼滅者達のサイキックが、暗い和室に閃き、カグラは塵と消えた。
     同時に、強化一般人たちが正気に戻った。
     こうして、中洲そいね天国は、本日をもって閉店の運びとなったのであった。

    作者:本山創助 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 15
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