キミと一緒に雪遊び

    作者:春風わかな

     ――雪が積もった日には、街外れの空き地へ行ってはダメよ。
     母親らしき女性の厳しい口調に、幼い子供は「どうして?」と首を傾げる。
     ――子供の姿をした怖い怖い幽霊が出るって噂があるからね。

     その街には昔、大きな病院があったという。
     今はすでになく空き地となっており近所の子供たちの遊び場になっているのだが、雪が降った翌日だけは近づく者はいない。
     その街に住む大人ならば誰もが知っている噂話。
     ――雪が積もった日に病院跡の空き地で遊ぶと子供の幽霊たちが現れ、一緒に遊ぼうと声をかけてくる。
     彼らは病院暮らしが長かったせいか雪遊びをしたことがないらしい。故に彼らが満足するまで遊ぼうと言ってくる。
     しかし、子供たちは日が暮れれば家に帰らないといけないわけで。
     ――自分たちを置いて帰ろうとすると、幽霊たちは子供たちを殺してしまう。
     
     だから、雪が積もった日は空き地に行ってはいけないの。
     母親はすっかりおとなしくなってしまった息子の肩をぎゅっと掴み、厳しい口調できっぱりと言った。
    「わかった? お母さんとの約束だからね――?」

     教室に集まった灼滅者達を物憂げに見遣り久椚・來未(中学生エクスブレイン・dn0054)はゆっくりと口を開いた。
    「新しい、都市伝説の出現を、予知した――」
     とある雪の多い街の外れにある病院の跡地に子供の都市伝説が現れるという。
     子供たちは全部で5人。全員パジャマ姿で現れる。どうやらこの病院に長く入院していた患者たちのようだ。ちなみに彼らの年齢は5歳~10歳くらいまでだという。
     ではこの子供たちを倒せばいいのかと灼滅者に問われると來未は曖昧な表情を浮かべた。
    「絶対に、倒さなきゃいけない、わけじゃない」
     彼ら5人の共通点は『雪遊び初体験』であること。だから、彼らが満足するまで雪遊びに付き合ってあげれば満足して自ら消滅するだろう。
     戦って灼滅をするのか、それとも一緒に遊んであげて満足させることを選ぶか。
     どちらでもよいが、方針はきちんと統一しておいた方が良いだろうというのが來未からのアドバイスだった。
     子供たちはそれぞれ男の子が3人と女の子が2人。
     戦闘になった場合、男の子たちは前に出て積極的に攻撃をしてくる。
     一方、女の子たちは後ろに下がって回復を中心に行動する。
     見た目は子供だがそれなりの強さであるから油断は禁物だ。
     一緒に遊んであげる場合は雪遊びが出来れば何でも構わないようだという。
     男の子たちは雪合戦、女の子たちは可愛い雪だるまに憧れているようだが、雪で遊べれば満足してくれるだろう。
    「ね、ね、來未ちゃん。ユメもいっしょに行ってもいい?」
     雪遊びしたいなぁ――。
     ちょこんと首を傾げる星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)に「いいんじゃない、かな」と來未はあっさりOKを出した。
    「やったー! 小梅もいっしょにあそぼうね!」
     霊犬の小梅も嬉しそうに尻尾をぱたぱたと振っている。
     今のところ、一般人の被害は出ていないという。しかし、いつ親の言いつけを守らない子供が出てくるかはわからないので早めに対応するのが吉だろう。
    「あ。寒いと思うから、風邪、ひかないように、ね」
     はぁい! と元気の良い夢羽の声が教室に響いた。


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    仙道・司(ばーにんぐびゅーてぃー司・d00813)
    棲天・チセ(ハルニレ・d01450)
    武野・織姫(桃色織女星・d02912)
    マロン・ビネガー(雪娘・d04996)
    近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)
    成瀬・透夜(アジュールオリゾン・d14113)
    暁文・橙迦(小丸好日・d24339)

    ■リプレイ

    ●真っ白な世界
     眼前に広がる足跡一つない雪原。
     冬晴れの空の下で太陽の光を受けてきらきらと輝く雪が眩しい。
     そっと一歩を踏み出すとサクッという軽い音とともに僅かに身体が沈む感覚。
     サクサクサク、ザクッ。
    「ふふっ、楽しい~」
     雪野原を歩いて足跡を付ける武野・織姫(桃色織女星・d02912)から明るい笑い声があがった。
     青空をまぶしそうに見つめていた成瀬・透夜(アジュールオリゾン・d14113)は視線を足元に向けるとそっと雪に手を伸ばす。真っ白な雪はひんやりとして手に載せてぐっと握り締めるとくしゃりと細かな粒になって弾け飛んだ。
    「さて、都市伝説が現れる前に出来ることから始めましょうか」
     近衛・一樹(創世のクリュエル・d10268)はぐるりと雪原を見回すと暫し考え込む。何しろ今日はやりたいことが盛りだくさん。時間は有効に使わなければならない。
    「まずはかまくら作りですかね」
    「あ、チーもお手伝いするんよ!」
     棲天・チセ(ハルニレ・d01450)が元気よく手を挙げる。
    「シキテ! おいで!」
     名前を呼ばれ、霊犬のシキテも真っ白な雪原を跳ねるようにして主人の元へと駆け寄っていった。
    「小梅! はいっ!」
     かまくら作りのため雪を集める仲間たちの傍で星咲・夢羽(小学生シャドウハンター・dn0134)は小梅(霊犬)に向かって雪玉を投げる。だが、雪玉は小梅が待機している場所とは全然違う場所へ向かってへろへろと飛ぶので小梅はただうろうろしているだけ。
     仲良く遊ぶ夢羽たちを見守っていた仙道・司(ばーにんぐびゅーてぃー司・d00813)だったが、ふと視線に気が付き振り返った。
    (「おっ、来てくれましたね」)
     少年が3人に少女が2人。灼滅者たちからやや離れたところに小さな5人の子供たちの姿が見える。
     司はにっこりと笑顔を浮かべると彼らに大声で呼びかけ手招きをした。
    「みんな~! 雪遊び致しましょうっ♪」
     突然の誘いに子供たちはびくりと肩を震わせ顔を見合わせる。
     戸惑う様子を見せる子供たちに向かってマロン・ビネガー(雪娘・d04996)はにこりと笑顔を浮かべると大きく手を振った。
    「こっちへおいで。一緒に遊ぼう」
     マロンの言葉に誘われ子供たちが嬉しそうに雪原を歩いて近寄ってくる。
    「はじめまして。私はマロン・ビネガー。よろしく」
     挨拶をするマロンに続き、みんな名前を名乗ったが……。
    「あれ? 歩さんは?」
     少年の姿が見当たらないと司がきょろきょろと見回すと、元気な子犬が子供たちに向かって走り寄ってくるとバッとジャンプ!
    「ワンッ!」
     おかっぱ頭の少女の頬をペロッと舐めるわんこは犬変身で姿を変えた海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)だった。
     子供たちの足元では歩の霊犬ぽちも一緒に嬉しそうにぐるりと駆け回る。
    「さっそく遊びたいけど、やっぱりその恰好だと寒そうよね」
     初めての依頼ということで緊張した面持ちの暁文・橙迦(小丸好日・d24339)が遠慮がちに口を開いた。子供たちは皆パジャマ姿に裸足という見ているだけで寒くなるような恰好。
    「ここは形から入るってことで……どう?」
     橙迦が持ってきた毛糸の帽子と靴下を始め、他の仲間たちも持参した防寒具を手際よく子供たちに着せていく。
    「あ、夢羽ちゃんの分もあるわよ」
    「わーい! ありがとう~♪」
     橙迦から受け取った帽子を被り夢羽はご満悦。
     そして、くるりと回って嬉しそうに皆を見つめて口を開いた。
    「ね、それじゃまずなにしてあそぶ?」

    ●雪だるまを作ろう!
    「まず最初に綺麗な雪を集めて固めてね……」
     お手本を見せる織姫の手元をじっと見つめていたおさげの少女が恐る恐る足元の雪に手を伸ばす。
    『!!』
     ひんやりとした感触にびくりと手を引っ込めるが、傍らの司がにこにこと笑顔で雪玉を差し出した。
    「さ、まずはこれを大きくしていきましょう~」
     おさげの少女はこくんと頷くと、ころころと器用に雪玉を転がす織姫を真似てそっと雪玉を転がし始める。
     大きくなった雪玉を慎重に両手で転がしてさらに大きくしていく。
    「この調子で沢山作ろう!」
     いろんな大きさの雪だるまを作って家族みたいにしよう――。
     マロンの言葉に2人の少女は目を輝かせて何度も頷き、すぐに雪玉作りに取り掛かかるのだった。

    「順調に雪だるまを作ってるみたいですね」
     かまくらを作る手を休め、透夜は嬉しそうに雪玉を転がしている少女たちに視線を向ける。透夜自身、かまくら作りは初めてだが見よう見まねで集めた雪は山のような形に積み上げた。
    「これだけ集めれば十分でしょうか」
     橙迦も雪を集める手を止めて一息つく。怪力無双を使って大量の雪を集めた後は、形を整えて水をかけて雪を固めていく作業へと移った。
    「ほら、固くなってきたよ~」
     雪山の上に登りてっぺんを踏み固めていた歩がぴょんぴょんと飛んでみせる。
    「いい感じじゃない……わふっ!?」
     柔らかい雪を踏んでしまったのか、ずぼっと歩が雪山の中へ落ちて行った。
    「!?」
     びっくりしたぽちが慌てて走り寄り、歩が埋まった場所で掘るような仕草を見せる。
     急いで一樹が雪の中から歩を助け出して一安心。
    「ぽちは主人想いですね」
     一樹に褒められ、ぽちも歩も嬉しそうに微笑んだ。
     雪が固まりかまくらの形ができたら今度は中を掘り抜く作業を開始する。
     一樹たちは再びスコップを握りしめ雪をかきだしていくのだった。

     雪玉を転がすコツを掴んだ少女たちはきゃっきゃと楽しげな声をあげながら雪原を走り回る。
    「そうそう、その調子だよ♪ もっともっと大きいの作っちゃおう!」
     織姫と夏奈(d06596)の手助けもあり雪だるパパのサイズはどんどん大きくなった。
    「どうしよう……これ、上手に乗せられるかな?」
     不安そうに雪玉を見つめる夏奈にチセが大丈夫、と笑顔を向ける。
    「大きな雪玉出来たらチーが乗っけるから大丈夫なんよ」
     そんなチセは雪像作りの真っ最中。リスと狼の雪像を作ったチセが次に作ったのは蛇。石や小枝で顔を書いて仕上げた姿は……。
    「チーおねーちゃ、焼売、作テくレた、の?」
     雪合戦用の雪玉を作っていた夜深(d03822)が嬉しそうな声でチセを見上げた。
    「どうかな? ちゃんと焼売くんに見える?」
    「焼売! 可愛!!」
     チセの問いに夜深はこくこくと頷き「謝々!」と何度も繰り返す。
    「私も、ゆ、雪兎作っても良い……かな?」
    「もちろんっ♪ 好きなのいっぱい作ったらいいと思うよ~」
     織姫の言葉に平静を装っていたマロンも瞳をきらきらとさせて雪兎を作り始めた。
     一方、夢羽もまたフィユ(d24810)と一緒に雪だる子供を作る。
    「ユメね、こんなにいっぱいゆきがあるの、はじめて見る!」
    「フィユは故郷のスウェーデンにいた頃もたくさん雪見たんだよ」
     いっぱい雪遊びもしたよ、と微笑むフィユに夢羽は羨ましそうな視線を向けた。
    「ね、夢羽ちゃん。こんな可愛いミニダルマはどう?」
    「わぁ、かわいい~! ユメも作る!」
     手のひらサイズの雪だるま作りに夢羽が夢中になっている頃、織姫たちは雪だるパパの仕上げの真っ最中。
    「ここに目をはってあげてね。おひげ付けて、マフラーと……あ、帽子も被せてあげて」
     織姫の指示に従って少女たちが雪だるまに顔を書き小物を付ける。さりげなくおへその位置には小梅の足型もついていた。
    「はい、出来上がり♪」
     やったね、と少女たちとパチンと手を合わせて喜ぶ織姫に夏奈が小さな雪兎を見せる。
    「見て、可愛くできたよ~」
     雪だるまの傍には雪兎を始めとした友達もいっぱい並び見ているだけで賑やかだった。
     ふと、ナノナノ雪だるまを作っていた司が顔をあげる。
    「そろそろかまくらも出来たんじゃないですか?」
     司が少女たちと一緒にかまくらを作っていた方へと歩いていくと、そこには予想を超える大きなかまくらが出来上がっていた。
     入り口の傍では一樹が作った2体のナノナノの氷像が出迎える。
    「……これは、すごい!」
     ぐるりとかまくらを見回し、きらきらと目を輝かせてマロンが感嘆の声をあげた。
    「皆さん全員が入れると思いますよ」
     一樹が言う通り、子供たちも含めて全員が入れるだけの十分の広さがあるようだ。
    「大丈夫? 少しお休みしてもいいよ?」
     体調を気遣う透夜に子供たちは一斉に首を横に振る。まだまだ遊びたそうな様子に透夜は雪原を指差した。
    「それじゃ、次は雪合戦しよっか」

    ●念願の雪合戦と初めてのソリ遊び
     賑やかな声とともに白い雪玉が宙を飛び交う。
     男女対抗の雪合戦は女子チームの方が人数が多かった。だが、これはハンデということで人数調整はしない。
    「勝負というからには負けません!」
    「むむむ、負っけないぞ~っ!」
     橙迦が両手に握った雪玉をえいっと気合をいれて投げると、犬変身した歩とぽちがぱくっとお口で雪玉をキャッチ。
    「ナイスキャッチ!」
     透夜が笑顔で声を掛け、傍らで雪玉を握りしめた癖毛の少年の肩をそっと叩く。
    「ゆっくり落ち着いて、投げてごらん」
     雪玉ならいっぱいあるよ、とあらかじめ作っておいた雪玉を見せると少年は嬉しそうに頷いて力いっぱい雪玉を投げる。
     おかっぱの少女に雪玉が当たりそうになった瞬間、さっと前に飛び出したシキテが盾になって少女を庇った。
    「やるなら相手が年下でも犬でも投げるよ」
     バリケード代わりの雪の壁を作っていたマロンも参戦。
    「お互い遠慮無用でかかってこい! ってね」
     最初のうちこそは初めての雪合戦で上手く雪玉を投げれなかった少年たちだが、一樹が少しアドバイスをしただけでコツを掴み、すぐ上手に雪玉を投げれるようになった。
    「わっ、危な~い! でも、当たらないもんね~」
     ひょいひょいっと持ち前のバランス感覚を駆使して織姫は器用に避ける。
    「ふふふ、数ではこっちが優位なのですっ、負けませんからねー!」
     気合を入れて投げた司の雪玉が青い帽子の少年の腕に命中した。
     悔しそうな表情を浮かべ、少年は次々と雪玉を投げる。
     その中の一つが橙迦に命中! それが彼女の心に火を点けた。
    「もーっ! 私も負けへんもん! 行くでー!」
     地元の関西弁が出ていることにも気づかず、橙迦は再び雪玉を握りしめるとぐっと力を込めて投げ返す。
     女子が投げる雪玉から少年たちを守りながら一樹は子供たちが怪我をしないかと注意を怠らない。
     きゃっきゃとはしゃぐ声は途切れることなく銀世界に響き渡っていた。

    「いっぱい、遊びました~」
     無事、少年たちの集中砲火から少女を守り抜いた司が雪まみれの髪を払う。
    「あれ? 濡れちゃった?」
     雪で濡れた子供たちの服をポンポンと軽くとあっという間に乾いた清潔な服へ。
    「ほいっ、これで大丈夫」
     念願の雪合戦が出来た少年たちだったが、まだ遊び足りない様子。
     そんな彼らににっこりと笑顔でチセは次の遊びを提案した。
    「ね、ソリ遊びしよっか」
     新しい遊びに目を輝かせる少年たちをチセはかまくらの傍に作った雪山へと案内する。
    「最初はチーがお手本みせてあげるね」
     手を繋いでいた夜深とともにソリに乗るとチセの合図でシキテが引っ張りソリは一気に斜面を滑り降りた。
    「ひゃわァああ!? 早! 早い、ネ…!?」
    「やみちゃん、大丈夫!? 目、回ってない?」
     心配そうに覗き込むチセに夜深は大丈夫と頷く。ほっと胸を撫で下ろしたチセは興味深そうにソリを見つめる視線に気づいてにこっと微笑んだ。
    「風になったみたいで気持ちいいんよ。みんなもやってみよ?」
     子供たちは一斉にソリを掴むと傾斜を転がるように駆け上っていく。
     しかし、一番幼い黄色い長靴の少年は不安そうな眼差しで雪山を見つめていた。
    「1人じゃ不安ですか? 大丈夫、一緒に滑りますよ」
     おいで、と差し出した一樹の手を少年はぎゅっと握り、2人はゆっくりと斜面を歩く。
     その横を小梅が引っ張るソリにのった青い帽子の少年と犬変身した歩が競争しながら滑って行った。
     びゅんびゅんと風をきるソリ遊びは雪合戦とはまた別の面白さがある。
     すっかりソリ遊びに夢中になった少年たちは何度も何度も雪山を駆け上ってはソリで滑り降りた。
    「きゃー! どいてー!!」
     夏奈と2人でソリにのっていた織姫だったが、勢いがありすぎて上手く曲がれずばふっと雪の上に投げ出される。
     髪や服についた雪を払い立ち上がると2人は同時に口を開いた。
    「「もう1回!」」
     皆の楽しそうな様子に心惹かれたのか、暫く休憩していた少女たちも遠慮がちに透夜の腕を引っ張る。
    「ん、元気になった? それじゃ一緒に遊ぼうか」
     ソリに興味を持った少女に気付いたマロンがおいでおいでと優しく手招きをして声をかけた。
    「一緒にすべろう。大丈夫、怖くないよ」
     おかっぱの少女は返事の代わりにマロンの手をぎゅっと握りしめて斜面を歩く。
     その横をぽちが引っ張るソリにのった歩と並んで橙迦が一気に滑っていった。
     夢羽もフィユや小梅と一緒に何度もソリで滑り降りる。
    「ね、最後はみんなで競争したいんよ」
     どう? と皆に問うチセの希望は満場一致で可決された。せっかくだから、と橙迦と透夜が中心になって大急ぎで雪を集めて雪山を大きく坂道の傾斜もつけた。
    「みんな、準備はできたかな?」
     全員がソリに乗ったことを確認しぐるりと見回すチセに子供たちが笑顔で頷く。
    「よーい、どん!」
     チセの掛け声とともにシキテが飛び出し、ぽちも飛ぶように斜面を蹴り雪を飛ばした。
    「きゃ~!!」
     楽しい悲鳴は止まらない。
     あっという間にソリは雪山の下へとついてしまったが、みんなの笑い声はいつまでも途切れることはなかった。

    ●さよならは笑顔で
     思い切り遊んで疲れた身体を癒すために一同はかまくらへと移動する。
    「ほら、中に入ると暖かいよ♪」
     ねっ、とウィンクをする織姫に一樹が笑顔で説明を添えた。
    「かまくらの中って風の出入りがないので温かくなるんですよ」
     日が暮れ始めた外はだんだん寒くなってきたが、皆でお餅の乗った七輪を囲むとなんだかほっとした気分になる。
    「お腹空いた? 何でも好きなもの食べていいよ」
     透夜が差し出した温かいおでんをはじめ、ミネストローネにお味噌汁。それに卵焼きとかやくご飯。甘いココアにホットミルク。スコーン、マカロン、チョコレートに金平糖……。みんなが持ってきた食べ物が所狭しと並んでいた。
     ご飯も、お菓子も、飲み物も、何でも好きなものが食べ放題。
    「お餅も焼けたんよ」
     七輪の上でぷくっと膨らんだお餅はマロンが作ったお汁粉の中へ。
    「ん~美味し♪」
     満面の笑みを浮かべ司はお汁粉のお餅をパクリと頬張った。思い切り遊んで冷えた身体に温かい料理が染みわたる。
    「えへへ、おいしい~」
     ホットココアにマシュマロを浮かべ、そっと一口飲むと夢羽も幸せそうに微笑んだ。両手に持ったマグから伝わる熱が心地良かった。
     
    「ちょっと、食べすぎたかもしれへん……」
     空になった皿にちらりと視線を向け、橙迦はぽつりと呟く。
     気が付けば持ち寄ったものは殆んどなくなり、いつしか外は完全に日が沈み真っ暗になっていた。
     遊び疲れたのかうつらうつらしていた青い帽子の少年がぱちっと目を開けると元気よく立ち上がる。そして、同じように半分眠っている子供たちの手をひっぱってかまくらの外へと出て行った。
     ついに彼らとの別れの時が来たと悟り、透夜もゆっくりとかまくらの外へ出る。
    「とても楽しかったよ。ありがとう」
     別れは寂しいが、悲しい顔では見送りたくない。透夜は笑顔で子供たちに手を差し出した。癖毛の少年がぎゅっと両手でその手を握り締める。
    「楽しかった? ホンマ有り難う……」
     瞳を潤ませた橙迦が差し伸べた手におさげの少女が自分の手をそっと重ねた。
     おかっぱの少女がマロンの腕にぎゅっと抱きついた後にバイバイと手を振る。
     ゆっくりと歩き出した3人の子供たちの身体がすぅっと溶けるように薄くなっていった。
    「もう帰らなきゃいけないんやね……」
    「いっぱい、楽シ、ネ! 再見!」
     チセは傍らに立つ夜深の手をぎゅっと握りしめ、2人一生懸命笑顔で手を振る。
    「またいつかどこかで会えると良いね……♪」
    「その時は一緒に遊ぼうね~」
     別れは辛いが織姫と夏奈も笑顔で子供たちを見送った。
    「また、会いましょうね……って!?」
     しんみりとしていた司の頭にぽふっと雪玉が命中。投げた犯人は青い帽子の少年だ。
    「こらー!」
     追いかける司から逃げるように走り出した少年の身体も徐々に闇へと溶けていく。
    「バイバ~イ、楽しかった~っ♪」
     両手を大きく振る歩の足元ではぽちも元気よく尻尾を振って子供たちを送り出した。
     最後に残ったのは黄色の長靴の少年一人。
    「お別れですね……。気を付けて」
     寂しそうにを見上げる少年の背を一樹はそっと押して先に行った仲間を追うように促す。
    「またね~!」
     フィユの隣で夢羽も一生懸命手を振っていた。
     今日はいっぱい遊んでいっぱい笑ったとても楽しかった特別な一日。

     一緒に遊んでくれて、ありがとう。
     いつかまた、絶対一緒に遊ぼうね。

     子供たちの姿が完全に見えなくなるまで、皆ずっと笑顔で手を振り続けるのだった――。

    作者:春風わかな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 6/キャラが大事にされていた 1
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