わたしを早く眠らせて

    作者:呉羽もみじ


    「ねぇ、もう止めよう。今は殺し合うより、ここから抜け出す方法を一緒に考える方が先じゃない?」
     涙交じりの少女の訴えに応じる声はない。
     彼女が着ているサイズの合わないコートは、戦闘の際に、どこかに引っかけでもしたのか、あちこちに大きな傷を作っていた。
     いや、この怯えようから推察するに、ただひたすら逃げ惑っていただけなのかもしれない。
    (「――チョロい」)
     少女を追い詰めた男は、勝利を確信し笑みを浮かべる。

     その辺りに漂う塵と同等レベルにまで気配を殺している少年は、じっとその様子を見守っていた。
    (「勝負あったね」)
     結末を見ることなく、その場から姿を消す。
    「あのオジサンも悪くはなかったんだけど、観察力が足りないな。あの子のコートと、身体の傷の量の差に気付けたら逆転もありえたのに。
     なーんて、その程度に気付かないなら六六六人衆なんてやってられないよね」
     
     少年の呟きとほぼ同時刻。
     廃ビル全体を覆っていた半透明の壁が壊れる音がした。
    「やっと終わり? あー、疲れた。オヤスミー、ってここじゃ駄目だよね。せっかく寝るならふかふかのお布団――ううぅ、想像するだけで眠くなってきたよ。
     いっそここでちょっとだけお昼寝……ってここじゃ駄目だってば。もー、早く寝たいよー」
     ここに、新たな六六六人衆が誕生した。

    「六六六人衆が、また面倒なことをやらかすつもりみたいだよー。
     もう少し大人しくしてくれてても良いと思うんだけどねー」
     春が近いからって動きが活発化って、カエルじゃないんだから、と、六六六人衆が聞いたら、笑顔で抹殺されそうなことを言いながら、黄朽葉・エン(ぱっつんエクスブレイン・dn0118)が皆に向き直る。
    「さらっと言うと『六六六人衆量産計画』って感じかなー」
     はぁ!? とんでもないことをさらっと言うエンに灼滅者が目を丸くする。
    「暗殺計画を失敗した六六六人衆が、効率的に強い同胞を産み出す為の儀式を行うんだ」
     首謀者は、縫村針子とカットスローターらしいが、今回の事件で彼らと相対することはできない為、確証を得ることは出来ない。
    「彼らに浚われた一般人達が、閉鎖空間で強制的に殺し合いをさせられるんだ。
     生き残った最後のひとりが、六六六人衆の仲間入りをするって訳。
     六六六人衆は強敵だけど、連戦に次ぐ連戦で多少なりともダメージを受けているのが不幸中の幸いとでも言うべきかな」
     首謀者の六六六人衆が儀式の場所として選んだのは、とある廃ビル一棟全て。
     そこの一室で、新美スイという少女が最後の生き残りとなる。
    「彼女は、元々は昼寝好きなおっとりとした子だったようだよ。
     儀式に連れられてきた時も昼寝の最中っていうくらいだから、意外に図太いのかもしれないね」
     華奢な身体に、サイズの合わないコート。眠そうな垂れ目気味の瞳に、か細い声。
     人殺しとは対極に位置するような外見。
    「だけど、それは彼女の武器になった。容姿に油断した敵の隙を見て……っていうのが彼女の戦闘スタイルみたいだねー。
     ぼんやりして見えるのは外見だけで、相手のことはしっかり観察してるって訳」
     傷を負っているスイは、戦うことよりも逃げることを優先する為、戦闘に持ち込む場所・タイミングが重要となる。
    「儀式中、ビルは首謀者の力によって結界みたいなものが張ってあるんだ。
     彼女の勝利が確定した瞬間、結界が解かれて、君達も出入り自由になるよ。
     ビルの中に飛び込んで戦うか、外に出てから戦うかは君達の判断に任せるよ。
     ちなみに彼女のいる部屋は3階だけど、すぐに脱出する気配はないから、結界が解かれた後、侵入しても充分間に合うよ」
     外では遮蔽物がないぶん、戦いやすいが逃げられる確率も高い。
     ビル内ではすぐ逃げられることはないが、侵入のタイミングを誤れば、ビル内追いかけっこというオプションがつく可能性もある。
     スイの使用サイキックは殺人鬼と影業相当。
     閉鎖空間に取り込まれた直後からでもサイキックを使いこなしている辺り、彼女の戦闘センスが並はずれていることの証拠であるといえる。
    「強制的に殺人ゲームなんかやらされて、漸く、解放されると思いきやダークネスとして開花……彼女の運命に同情するよ。
     だけど、可哀想だからって見逃すのは、更なる被害者を産み出す結果になるんだ。
     それに、同情しながら戦える程やわな相手じゃない。
     だから、一切の手加減はせず、彼女に灼滅という名の安らぎを。よろしくね」


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    周防・雛(少女グランギニョル・d00356)
    アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)
    天方・矜人(疾走する魂・d01499)
    ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)
    犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)
    不動峰・明(高校生極道・d11607)
    野乃・御伽(アクロファイア・d15646)

    ■リプレイ


     目の前に見えるのは、既に役目を終え、朽ちていくのを待つばかりとなった廃ビル。
     以前は賑わいを見せることもあったかもしれないが、それはもう昔の話。
     傾いてさえ見えるその廃ビル全体を守るように、半透明の壁が隙間なく覆い尽くしていた。
     ――いや、この壁は守る為のものではない。
     六六六人衆が、生贄を逃がさない為に作った檻だ。
     結界さえなければ、すぐさま飛び込んで、助けられる命は助けたい。
     それが出来ない悔しさを滲ませ、石弓・矧(狂刃・d00299)が歯噛みする。
    「効率と結果重視の量産計画……悪趣味なグランギニョールね」
     周防・雛(少女グランギニョル・d00356)は、眉を潜ませる。
    「闇に落ちたヤツが悪いんじゃねぇ、そう仕向けたヤツが悪いんだ。だが」
    「境遇には同情するが……ここから生きて帰すわけにはいかねぇな」
     言葉に詰まる、ファルケ・リフライヤ(爆走する音痴な歌声銀河特急便・d03954)の後を天方・矜人(疾走する魂・d01499)引き継ぐ。
     不意に半透明の壁が揺らぐ。
     新たな六六六人衆が誕生した瞬間だ。
     皆の表情が自然と引き締まる。
     不動峰・明(高校生極道・d11607)が、先行してビル内に入り、出入り口から最も近い部屋番号を確認。それにより301号室の位置が確定した。
    「301は一番奥だ」
    「了解。それじゃ、手筈通りに」
    「オオカミパワーで壁を歩けるんだよ!!」
     アリス・バークリー(ホワイトウィッシュ・d00814)と、犬蓼・蕨(犬視狼歩の妖異幻怪・d09580)は窓からの侵入を試みるべく、魔法の箒・壁歩きで301号室へと向かっていく。
     移動し始めた二人を見送ることなく、正面突破班がビル内に侵入する。
     扉を開けると、むせかえるような血の匂いが灼滅者達を出迎える。
     無理やり押し込められ、殺人を強要された者達の哀れな亡骸がそこかしろに転がっている。
     こちらを向いた亡骸の目が不自然な程に大きい――いや、眼球が潰されている。
    『死にたくない』
    『どうしてこんなことに』
    『やらなくては、やられる』
    『死ね。死ね死ね死ね』
    『――死にたくない』
     聞こえる筈のない声が聞こえる。
    (「六六六人衆ってのはタチわりぃな。すぐこう言う遊び考えつきやがる」)
     二度と光を見ることのない瞳が、命のある灼滅者達を恨みがましげに見ているような……。
     ねとつくような感覚から逃れるように、野乃・御伽(アクロファイア・d15646)は視線を正面に向け、歩みを速める。


     ドアの前に立ち、聞き耳を立てる。
     とぎれとぎれではあるが、少女の声が聞こえてくる。
     のんびりとした独り言は、ここが廃ビル――ましてや、殺し合いのあった場所だ――でなかったら、なんてことはない日常のひとコマとしてすぐに片づけられてしまうことだろう。
     アリスと蕨は一直線に3階へと進んだから、正面組より遅れて到着するということはまずないだろう。
     矜人が携帯電話を皆に見えるように翳し、アリスへと合図を送る。
    『発信中:アリス・バークリー』
     すぐに通話を切る。これで後戻りは出来ない。
     明が部屋に乱入する。
     驚いたような表情をしているスイに接近。勢いを殺さない儘、クルセイドソードを薙ぎ払う。
     ガラスの割れる大きな音。
     アリスが窓を突き破り部屋に侵入した。
    「初めまして、ニューフェイスさん。闇の世界へようこそ」
     その後から続くのは、三角耳をつけた少女。
    「……犬?」
    「犬じゃないっ、オオカミなの!!」
     スイの呟きに律儀に突っ込みながら部屋の中を確かめる。
     瓦礫や家具等があれば、窓を塞いで脱出経路を減らす算段だったが、即座に動かせそうなものは見当たらない。
     ならば、と目標を変えスイに向き直り杭を突き立てる。
    「別部屋に続くドアはなし。ワンルームだ」 
     明と蕨がスイを牽制している間に、御伽が部屋の構造を後発部隊に知らせる。
     それを聞いて、矧、雛、矜人、ファルケが部屋になだれ込み、逃走経路を塞ぐ。
     先発部隊が最小の人数で最大のことを行う、各自の役割を最も合理的に果たした、見事な作戦だった。
     突然、集団で囲まれ攻撃を受けたスイは、茫然としたようにへたりこんでいた。
     心底怯えたような表情は、見る者の同情心、或いは加虐心をかきたてる。
    「ま、待って。私は、あなたたちに手出ししない。ほら、武器だって持ってないし。ね?」
     窓から入る太陽の光が、スイの顔を儚げに照らす。
     光の加減だろうか。彼女の影が揺らいだように見える。
     その瞬間。感情を持たない筈の影が、悪意を持って伸びあがった。
     蛇のように鎌首をもたげた影は、真っ直ぐにアリスへと向かう。
     狙われたアリスは、それを避けずに相殺する構えを取った。
    「扱ってきた年季が違うのよ」
    「ダメッ、ここはわたしがっ!!」
     クラッシャーのアリスに何かあれば、これからの戦闘が一気に不利に傾く。
     蕨は、小さな身体を精一杯大きく広げて、影の前に立ちはだかる。
    「――っく、が」
     鈍器を叩きつけられたかのような衝撃。飛びそうになる意識を必死に保ちながら足を踏ん張る。
    「オオカミ、は、こんなことじゃ、倒れないの」
     強がる蕨だが、ダメージは相当なものだ。慌ててファルケが回復を行う。
     天使の歌声……とは程遠い位置にあるファルケの歌声だったが、効果は非常に高い。
     切なくなる程に部屋に共鳴し蕨の傷を癒した。
     少女の誤算。それは、今相対している相手が、ダークネスになりきれなかった一般人止まり程度の実力だと思っていたこと。
     己の見通しの甘さを悟り、虫も殺せないような可憐な少女の仮面を脱ぎ去る。
    「あは、ごめんね? でも、手出ししないってのは嘘じゃないよ。ま、影は出したけどね」
     ふてぶてしい程の態度で立ち上がる。


    「私は疲れてるし、眠いし、帰りたいの。ぶっちゃけ邪魔。どいて?」
    「逃げるなんて寂しいわ、マドモワゼル。同じ『殺戮者(ころしや)』同士……楽しみませう?」
     芝居めいた口調で、操糸「ドールズウォー」で結界を作りだす雛の攻撃をかわす。
    「逃亡は難しいのでは? ここは三階ですし」
     矧は、窓からの逃亡は危険であることを仄めかしながら除霊結界を展開。少女の動きが僅かに鈍る。
     御伽と矜人が息を合わせて距離を詰める。
     御伽が振り下ろすクルセイドソードを、腕で受け止め余裕の笑み。
     しかし、この一撃は積極的にダメージを与える為のものではない。
     次に繋げる為の、最初の一撃。
    「さあ、ヒーロータイムだ!」
     腰を落とし、低い位置からのアッパーカット。
     顎を殴られ目眩を起こしたのか、上体を大きく揺らすが、すぐに持ち直し態勢を立て直す。
    「自分でヒーローなんて言ってちゃ世話ないよ」
     殴られた拍子に口の中が切れたのか、血が混じった唾を拭いながら憎まれ口を叩く。
     明は交戦しながら、まだ闇落ちしていないスイの姿を想像する。
     彼女は、元々はおっとりとした少女だったらしい。
     この儘平和に暮らしてしたら、このような大立ち回りを演じることなく、人生を謳歌していたことだろう。
    (「しかし、今のこの状況……不条理と言っても良い」)
     少女にではなく、背後にいる六六六人衆への怒りがこみ上げる。
     だが、今はそれを考える時間ではない。軽く息をつくと戦闘に集中する。
     小柄な体を活かし、スイの背後に回った雛は急所を狙って手を滑らせた。
     確かな手応えを感じながら後ろに下がると、次の一手を狙う。
     雛が注意を逸らした隙に、アリスはマジックミサイルを撃ち込む。
     空気の歪みに気付いたスイは、ミサイルをかわそうと身をよじるが、身体はその場に張り付いたように動けない。
     攻撃をまともに受けたスイはその場に膝をついた。
    「頭では分かってるのに、身体が動かないって、何か歯がゆいね」
     弱気な発言に、戦意を喪失し始めたのかと、灼滅者達は掃討戦へと移行しようとする。
    「でも、まだ平気。まだ、立てる」
     確りと立ち上がり、余裕めいた表情をしてみせる。
    「窓から乱入された時点で、仮説を立ててみたの」
     不意に饒舌になるスイを不審に思いながら、明が圧縮したオーラを解き放ちスイに撃ち込む。
    「入ることが出来るんだったら、出ることも出来るんじゃない? って」
     蕨が突き出したバベルブレイカーを抱えるように持つと、反対側の手で蕨のイヤーデバイスをちょんと突いてにっこり笑う。
    「あなたたちに出来て、私に出来ないってことはないでしょう? まあ、この時点ではただの仮説でしかなかったんだけど」
     矧が展開した結界に動きを阻まれながらも、影を従えしなやかに舞う姿は、一層凄みを増していく。
    「そうしたら、どうよ! 窓もきっちりガードしてるし、行かせない工夫もさりげなくしてる! 逃走不可能な場所を守る理由なんてないよね。だから、私の仮説は間違ってない……筈」
     ファルケは攻撃か回復。どちらを優先すべきか少しの間逡巡するが、回復が間に合わずその儘……という可能性も考慮し、回復を選択した。
    「せっかくだから答え合わせしよ? あなたたちが私を窓に近づけたくない理由。答えは、ドアより窓の方が、逃げられる可能性が高いから。……正解?」
     咄嗟に答えられない灼滅者達を見て、確信めいた笑みを浮かべる。
     ひとつひとつは些細なこと。
     しかし、それが少しずつ積み重なり綻びが生じる結果となってしまった。
     灼滅者達の過失。それは、防除主体で戦闘が長期化してしまい、結果、スイに考える時間を与えてしまったこと。
    「行かせねーよ。お前は危険な存在なんでな」
    「意地悪な人。私は今すぐいきたいの。次に会ったとき、たっぷりサービスしてあげるから」
     御伽の拳を掌で受け止め、どこか艶を帯びた声で囁くと、力一杯拳を握り込み骨も砕けよと握りこむ。
    「私はここから出るの!! 誰にも邪魔はさせない!!!」
     スイの発生させた殺気の渦に半数が巻き込まれ、形勢はダークネスに傾いた。
     急襲を警戒しながら、じりじりと窓に近づいていく。
    「落ちて死ぬだけだぜ?」
     矜人の言葉に一瞬きょとんとした後、呆れたような笑みを浮かべる。
    「今まで私を殺そうとしていた人が言う台詞? 女の子を引き止めたいなら、もう少し工夫しないと逃げちゃうよ?」
    「っ、待」
     勝利を確信したスイは、折れた歯を見せつけるように唇を歪ませる。
    「――ここから出られればゲームクリア。これで、私はもう、自由っ!!!」
     狂気めいた笑い声を置き去りにして、一切の躊躇なく窓の外へ飛び出した。


    「これまでか……」
    「いや、まだだっ!」
     諦めかけた明の言葉に被せるようにして、動いたのはファルケとアリス。
     ファルケはエアライド、アリスは箒を使い一気に急降下する。
     それを見たエアライド持ちの御伽、雛、矜人も弾かれたように反応。次々と窓から飛び降りる。
    「まだ追いかけてくるの!? しつこすぎ!」
     さすがに追いかけてこないと思っていたのか、金切り声を上げるスイ。
    「くらいやがれ、これがサウンドフォースブレイクだっ」
     スイの身体がくの字に曲がる。
     まだ態勢も整わない儘、ファルケの首根っこを掴み動けないように固定する。
    「しつこい男は嫌われるよ?」
     逃走の邪魔をした者を速やかに排除しようと、片手を振り上げる。
    「残念ね。ヒナ達もいるのよ」
     鋼糸で腕を縛り上げ動きを止める。
    「でぇいやぁぁっ!!」
     追手を探そうとするスイの腕に矜人のマテリアルロッドが叩きこまれた。
     腕の骨が砕かれる音が広場に響く。
     間を開けずに御伽が生み出した影に少女を飲みこませる。
    「ったく、厄介な奴」
     毒づくその声は、少女の悲鳴に掻き消されて聞こえることはなかった。
     3階から降りてきた蕨が、スイのファルケを掴む手の力が弱まったのを見て取り、彼をスイの手から解放する。
    「大丈夫?」
    「平気。足止め位にはなったかな?」
    「充分だよ」
    「ふざけないで!!」
     スイの叫び声に顔を上げる。
    「最後まで生き残れたら、自由にしてくれるんじゃなかったの!? ゲームだったらルールは守ってよ!」
    「他の人間殺しといて、自分だけ逃げられると思うなよ?」
    「だからお前も死ねって!? あの状況で殺さなかったら殺されるのはこっちだった!!」
     血を吐きながら訴えるスイの姿を見て、明は眉間にしわを寄せる。が、目は逸らさずしっかりと彼女を見据えている。
    「そろそろお仕舞い」
    「さよならだ、アンハッピーガール」
    「畜生、揃いも揃って……あなたたち、いえ、てめェら全員」

     死にやがれぇぇぇぇぇ!!!!!

     その言葉は、「生きたい」と言っているように聞こえた。
     スイが消滅していく前に、矜人が手向けの花を一輪添える。
    「どうか静かで優しい眠りを」
    「六六六人衆のやりようは……どうにも許しがたいものばかりだ」
     御伽と明は、消滅していくダークネスを見守る。
    「……あの」
     スイの見送りが終わった後、やんわりと矧が手を上げる。
    「彼女には出来ませんでしたが、せめて、ビル内にいる人に人間らしい最期を送らせてあげたいのですが」
     ビル内の遺体は走馬灯使い、或いは擬死化粧を施し、それすら不可能な遺体はせめて目を瞑らせ、それぞれの旅立ちの準備をさせる。
     矧は、がらんどうになったビルの中を振りかえる。
     作戦決行前は見るも無残な状態になっていた哀れな遺体は、今は穏やかな表情をしてビルと共に朽ちていくのを待っている。
    「――っ」
     やりきれない思いを抑えきれずに、力任せに壁を殴り付ける。
    (「おやすみなさい、どうか良い夢を……」)
     ドアノブを両手で握って、丁寧にそっと閉じる。
     ため息をついて空を見上げると、夕日の色が毒々しい程に赤かった。

    作者:呉羽もみじ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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