世界に正義という名の秩序を

    作者:相原あきと

     そこは半年前までとある学習塾が存在した5階建てのビルだった。
     経営難で倒産してから放置されたままのビル、未だ黒板や学習机が並ぶその一室に数人の学生が集まっていた。
     彼ら彼女らは相手の素生も本名も知らない。
     ただ、ネットで知り合い1カ月前ぐらいからここで集まるようになった。
     見ず知らずの彼らにはただ一つ共通しているものがあった。
     すなわち――正義。
     なぜ悪が世にはばかるのか、正義を掲げても意味が無いのか、権力や金や地位に正義は屈するのか……。
     集まっているのは中学から高校の世の中の仕組みが解って来た年頃の少年少女だった。
    「大人が、国が、警察が裁きを下さないのなら……俺達でやるしかない」
    「ああ、ターゲットはすでにピックアップしたぜ。どいつも何度も罪を重ねるクズどもだ」
     彼らの正義感はいきすぎていた。
     純粋で曲がった事が嫌いで、だからこそ今の世界を許せない……。
     ギイィィ。
     扉が開いて誰かが入ってくる。
     部屋にいた誰もが知らない男だった。
     服こそどこかの高校制服だが、日本人離れした銀髪に碧眼、普通の人では持つ事の無い圧倒的なオーラに、集まっていた少年少女は息を飲む。
    「この世界を変えたいと思っている同志諸君……キミたちが望むなら、俺と一緒に来い……本当の力を与えてやる」
    「お、お前……いったい、なんなんだ!?」
     部屋にいた誰もが息を飲む。
     銀髪の青年は髪をかきあげると。
    「俺の名はクレール・竜崎・リュンヌ、力が無ければ正義が成せない世界ならば、俺がキミ達に力を与えよう。だが、力の代償は日常だ。己の正義の為、世界を正す為、今の日常を犠牲にする覚悟はあるか?」
     少年少女に日常の楽しい想い出が過る。
     しかし、それ以上に理不尽な出来事や悔しい思いが勝り、日常の想い出を塗り潰す。
     やがて少年少女は竜崎にゆっくり近づくと声を揃えて言うのだった。

    「みんな、雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔、美醜のベレーザが動き出したのは知ってる?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     ベレーザは朱雀門高校の戦力として、デモノイドの量産化を図ろうとしているらしい。
     彼女達はデモノイドの素体となりうる一般人を拉致し、デモノイド工場に運び込もうとしていると言う。
    「実際に指揮を取っているのは朱雀門高校のダークネス、銀髪の吸血鬼クレール・竜崎・リュンヌ(―・りゅうざき・―)と、その護衛の配下強化一般人が2人よ」
     ただ、強化一般人のうち1人は命令を受けると10分間だけデモノイドとして戦う事が可能らしい。もっともこれは不完全なデモノイド化の結果らしく、10分後には肉体が瓦解し死亡すると言う。
    「竜崎が狙っているのは世界に正義は無いと絶望している正義感の強い中高生8人よ」
     彼らが集まっているのはとある廃ビルの一室、時刻も深夜で多少騒いだ所で一般人が来る事は無いらしい。
    「8人を説得しようとした場合……竜崎は『できるものなら』と手を出さずに好きにやらせてくれるみたい。ただ、竜崎も口は挟んでくるし、ESPを使おうものなら、向こうも同じことをしてくる……正直、自信が無いなら説得を諦めるのも選択肢の1つよ」
     竜崎はダンピールとバトルオーラ、サイキックソードに似たサイキックを。
     不完全デモノイドはデモノイドヒューマンに似たサイキックを使い、気魄が得意、攻撃特化の戦い方をする。
     強化一般人は魔導書に似たサイッキックを使用し、守りに特化した戦い方をするらしい。
    「今回の目的は、量産型デモノイドの素体にされてしまう者を助けることよ。本当は全員と言いたいけど……現実的に6人以上の救出を目標にして」
     珠希は悔しそうにそう言う。
     実際、もし竜崎と不完全デモノイド、配下強化一般人の全てと闘った場合、戦闘で勝利するのは非常に難しいだろう。なんとか竜崎を撤退させ一般人を助けられれば良いのだが……。
     一般人を説得できれば、竜崎はプライドがあるのかそれ以上は強引に誘拐しようとはしない。
     逆に強引に行くなら不完全デモノイドだけでも倒すことができれば、竜崎は不利と考えて撤退するだろう。
    「どういう方向でやればいいのか迷う所だけど。そこはみなの判断に任せるわ。大丈夫、みなならきっとできると、私は信じているわ!」


    参加者
    七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)
    織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)
    月雲・螢(線香花火の女王・d06312)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    アデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871)
    システィナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)
    細川・忠継(裁く刃・d24137)

    ■リプレイ


     5階建ての廃ビル、その一室では世界を変えたいと理想に燃える8人の学生に、ヴァンパイアのクレールが「覚悟はあるか?」と質問した……まさにその瞬間。
     ザッと部屋に飛び込んでくる8人の影。
     思わず身構える学生8人と、クレールを守るよう隠れていた物影から現れる護衛の強化一般人2人。
    「だ、誰だ、お前達は!?」
     学生の1人が驚いたまま質問を口にすれば、七篠・誰歌(名無しの誰か・d00063)が、にやっと笑って口を開く。
    「私か? 私は『名無しの誰か』――悪の敵だ!」
    『!?』
     動揺する学生8人とは対照的に、腕を組んで余裕の表情を浮かべるのはクレールだ。
    「ほう……それで、その悪の敵が何の用かな?」
     クレールの言葉に「彼らに話があって来た」と宣言する灼滅者達。
    「先に話していたのは俺の方なんだが……キミたち、彼らは俺と違う立場の者たちでね、先に彼らの話を聞いてもらえるかな?」
     クレールが学生達を促すと、どちらも初見である学生達がとりあえず頷く。そして銀髪の吸血鬼は一歩下がり、灼滅者8人は学生8人と相対する事となった。


    「キミ達が世界を変えたいと思っているのは知っている。そして、その為に世界を変える『力』を欲していることも」
     誰歌の言葉に学生達が動揺するが、すでにクレールにも言われている事であり、人間、不思議な事が続くと感覚が麻痺してくるものだ。学生達の誰かが「その通りだ」とつぶやく。
    「それは違うな」
     ピシャリと断定する誰歌。
    「力があれば正義が成せる? それは力で他者をねじ伏せるだけ。そこに確固たる志がなければそれは正義を騙ったただの暴力だ」
    「なら、僕たちは正しい。僕たちの正義を以て世界を変えるのだから」
     学生の1人が反論する。対して誰歌は一度視線を外し。
    「君達は正義の敵が何か知っているか?」
    「は? そんなの悪に――」
    「違う。正義の敵は正義だよ。例え行いが外道であっても、それはその人の信じた正義だ」
     一瞬、誰歌の言っている意味がわからず黙る学生達。
    「相手にも人生があって家庭があって好きな人が居て……その人を好きな人が居る。君達は、自分の正義のために悪になる覚悟はあるか?」
    「悪……」
     学生が呟く。その言葉にかぶせるよう一歩前にでるのは織元・麗音(ブラッディローズ・d05636)だ。
    「人を殺めた事のある私だからこそ言いますが、どんな大義名分があれど、人を殺めたその時点で殺人者です。好きこのんで悪に堕ちるというのであれば歓迎致しますが――」
     麗音が赤い瞳で学生達をねめつける。
    「……ふふ、後悔の無い選択をして下さいね」
     狂気の光が宿る麗音の視線から、誰もが居心地悪そうに身じろぎする。
    「落ち着け。彼らの話を聞かずに決断を促すのは性急だろう」
     麗音の視線を遮る用に話すは片倉・純也(ソウク・d16862)だ。
     純也の仕切り直しにクレールが「話のわかる奴もいるようだな」と上から目線で呟くが、純也はその挑発に乗らず学生達へと話始める。
    「世界を変えたい……か、それぞれ、そうするだけの理由があるのだろう。それをふまえて1つ質問をさせてほしい」
     学生達が顔を見合わせるが、黙って純也の言葉を促す。
    「正義を志すきっかけとなった事件……今の8人ならどうソレにあたる? 条件は、他日常の被害最小、だ」
    「今ならか……そんなの決まっている。二の足を踏まず、即座に動くさ」
    「俺は、自分の命を賭ける。正義に殉じる覚悟はできてる」
    「ええ、私も同じ」
     次々に己の命に対する覚悟を口にする学生達。理想に殉じる自己犠牲に熱を帯び始める会話に、水を差したのはシスティナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)だ。純也に一度視線を送ってから言葉をつなげる。
    「人から与えられた力で何とかしようとか虫が良すぎるんじゃない?」
     その言葉に反応したのはクレールだ。
    「俺はきっかけを与えるに過ぎない、力は彼ら彼女らに元々存在するものだ」
    「例えそうだとしても」
     システィナがクレールの言葉を遮り、そのまま学生達の方を向くと。
    「力でねじ伏せようとか……それは結局君達の嫌いな『悪』と同じになっちゃうよ? それでもいいの?」
     さらにシスティナを援護するように月雲・螢(線香花火の女王・d06312)が続ける。
    「その通り。貴方達が毛嫌いする権力や金を使うクズどもと大差無い暴力に手を染めるの?」
     螢の言葉に何人かが怒ったように声を張り上げる。
    「違う! 俺たちをクズどもと一緒にするな! 俺たちは私利私欲の為に力を振るうんじゃない、正義の為に行使するんだ!」
    「そう……でも、暴力や人を超える力で世界を矯正しても、結局は何も変わらないわ」
     学生達の大声にもぶれる事なく冷静に螢が言う。
    「世界を変えたいのなら正当な手段で変化させなさい、でないと歪な歯車は更に歪になるだけよ」
    「正当な手段……」
     先ほど怒っていたメンバーとは違う学生が思い詰めるように呟く。
     螢はそれを見逃さず、呟いた学生へ向けて言う。
    「人は都合の悪いことは目を瞑ったり耳を閉ざしたりも出来るわ。けど貴方達は受け止め行動した……その点は褒めてあげる」
    「………………」
     先ほど呟いていたメンバーが視線を落として考え出す。
     そんな学生達を、ふと螢はうらやましいと思ってしまう。現実主義者の自分には無い、理想と夢を感情のままに追い求める彼らを。
    「そろそろ、儂の話もきいてもらえにゅかの」
     フリルで装飾されたロリータドレスに身を包んだ少女がスカートを摘んで優雅に一礼。シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)が、会話の止まった所で割って入る。
    「くず共を殺して世界をかえりゅというておったかの? 殺される側とて黙って殺されりゅわけでもない、となればいずれお主らが死ぬ番が回ってくる」
     しかし、覚悟を決めている数人がシルフィーゼを睨む。その視線を真っ正面から受け止めつつ、シルフィーゼはさらに続ける。
    「世界をかえりゅにはどうすりゅか……くずを殺す道ではなく、お主らが偉くなって世界を動かせる地位につけばよい。ありゅいは志を同じくすりゅ者をその地位にちゅければよい」
     堂々と宣言するシルフィーゼだが、学生達の反応は好意的では無い。
     その感情を代弁するように話すはクレールだ。
    「綺麗事ではこの世界は変えられない……そう思ったから彼らは力を求めた。そんな事もわからないのか?」
     灼滅者側が優勢だった部分もある、だが今の流れは正直芳しくない。
     正直、このまま行けば……。
    「確かに、この世界を綺麗事で変えるのは難しいであろうな」
     まるでクレールの、学生達の気持ちを理解するように頷くシルフィーゼ。
     そして。
    「だが、本当にくずを殺して世界をかえりゅなら……お主等は覚悟が足りぬ」
    「自分の命を捨てる覚悟なら――」
     即座に反応する学生、しかしシルフィーゼは落ち着いた雰囲気で冷たく言い放つ。
    「自らの命は、じゃろう。力を振るった結果、家族や友人が殺される覚悟はありゅのかの?」
    「そ、それは……」
     学生達の半数に今までに無い動揺が走る。
    「脅迫や報復のために、近しい者の命を狙うのはやつらの常套手段じゃぞ」
     確実に動揺したのは4人。残り4人は家族や近しい人物こそ悪と思っているか、それとも元々人付き合いの無い、または家族のいない構成なのかその顔から動揺は見られない。それでも、確実に半分は心が揺れだした。
    「彼女の言葉は真実だろう」
     口を挟んでくるのはクレールだ、目が細まり不機嫌さがわずかに垣間見える。
    「だが力は何かを守――」
    「クレール・竜崎・リュンヌ」
     突如名前を呼ばれ、それを発した者――麗音を睨むクレール。
    「お名前、間違っていませんよね?」
    「……ああ、俺の名だ」
    「クレールさん、実は私、あなたとお話がしたかったんです」
     笑みが消えたままのクレールが麗音を睨み、突然割って入った麗音に学生達も虚をつかれて麗音を見つめる。
    「朱雀門も大変みたいですね。こんなところに出向いてスカウト活動なんて」
    「………………」
     睨むクレールを気にせず麗音は続ける。
    「まして、一度限りで死んでしまう使い捨ての戦力の為に、ですものね」
     さらに麗音をアデーレ・クライバー(地下の小さな総統・d16871)がフォローするため言葉を続ける。
    「皆さんは権力に対する反抗心があるようですが……彼は支配する側の存在です。ただ自分たちの思い通りになる駒が欲しいだけです」
     クレールを指差し言い放つアデーレ。
     学生達の視線がクレールへと集まり、銀髪の吸血鬼は深くため息をつく。
    「はぁ……ヒドいな。使い捨ての駒だって? 力を得たからって自意識を失うわけじゃない、正義という強い意志を持つ彼らなら、ちゃんと力を使いこなせるさ」
     学生達に微笑むようにゆっくりと言葉を紡ぐクレール。
     クレールの言っている事は真っ赤な嘘だ。しかし、クレールも灼滅者も学生達から見れば両方初見の相手である、どちらが信用できるか、それこそ今回の説得の肝だといえる。
    「俺はキミ達こそ権力者の犬では無いかと疑っている……少なくとも、俺は彼らに共感し、その行動を支持するつもりでここに来た。しかし――」
    「悪いが、まだ此方のクライバーの話が途中だ。せめて最後まで話させてあげさせてくれないか?」
     クレールの言葉に重ねるように強引に話題を切ったのは純也だ。
     即座にアデーレに視線で続きを促す。
    「皆さんに見せてあげます。与えられる力がどういう物なのかを」
     アデーレの左半身が波打ち、ボコボコと蒼い筋肉が増殖を始める。
    「……コレが、力です。わたしは半ばですが、完全に取り込まれれば自我もなくなります」
     アデーレの蒼く膨張した半身、左手は鋭い爪と化し、盛り上がった肉片が床に落ちれば、シュウシュウと酸のように床から煙があがる。
     学生達も言葉を失い皆が黙っていた。
    「悪いことは言いません。おやめなさい」
     もちろん、学生の中にはその力を目撃して目を輝かせる者もおり……。
     だが、アデーレはその雰囲気を感じ取って、その学生を睨む。
    「やめろと言っているのに……どうしてもと言うのなら、悪い芽は早くに摘まなければなりません」
     アデーレのまとう空気が変わる、そして振り上げた蒼い鉤爪で、壁や地面を破壊して威嚇しようと――。
     ガッ!
     そんなアデーレの行動を察知し、振り下ろされる寸前に蒼い腕を掴んだのは純也だった。
     一瞬、アデーレが「どうして!?」との視線を送るが、すぐに思い至り拳を納める。
     ――チッ。
     かすかにクレールの舌打ちが聞こえた。力で威嚇したなら……それをきっかけに学生達の信用を得る予定だったのだろう。間一髪だ。
    「鋏が何を切りたいか、持ち主が気にすると思うのか」
     純也の問いかけに学生達が顔を見合わせる。何を言いたいのか……。
    「与えると言う力を実際振るうのは竜崎だ。自らの意思で自らの目的の為にこそ自力を尽くす、それこそ意味がある事だと俺は思うが」
     純也の言葉にクレールが笑いながら反応する。
    「彼女が振るった蒼い力……確かに、俺が与えようとした力だ。ならばこそ、キミ達も見ただろう。あの力は使いこなす事ができる。彼女が良い例だ」
     学生達の視線がアデーレの蒼い左半身に集まる。
     そんな中、クレールが学生達に甘美な言葉をトドメとばかりにかける。
    「キミ達の持つ正義の志と、あの力があれば必ずやこの間違った世界を正せる。キミ達こそ、悪を殲滅する使徒となれ」
     学生達がお互いを見つめ、今まであった事を頭で整理し、そして少しずつクレールのそばへと集まっていく。
     優しい笑みを浮かべるクレール。対する灼滅者達は苦渋の顔のメンバーもいる。
    「自分の信念は大事だが、その信念に溺れ、盲信し、他者の話を聞かず、一方的に悪だと決め付け蹂躙する……それが本当にお前達の正義か?」
     それは最後まで黙っていた細川・忠継(裁く刃・d24137)の声だった。
     自然、部屋にいる全てが忠継をみる。
    「俺も、年齢に対して背がでかすぎるからな……色々といわれのないことも言われてきた。だが、そこでその相手を排除して何か解決するだろうか」
    「………………」
     黙って聞く学生達。
    「俺は違うと思うな。……不器用で上手くいえんが、相手を理解し、自分の信念を清い方法で伝えることこそが本当の正義なんじゃないか?」
     清い方法で信念を貫く。
     それは完璧な正論であり、理想だった。
     しかし、理想に燃え夢を追う彼らは、そんな正論こそ心に響く。
     忠継が威風堂々と宣言する。
    「はっきり言おう。今貴様らがしようとしていることは、邪道、外道のすることだ。人間ならば力ではなく、言葉で示せ! 暴力は、暴力しか生まんのだ。だから……戻って来い!」
     そして……。
    「ゴメン、俺、俺は……」
    「私も……」
    「僕、父さんと母さんには……」
    「オレもダチに迷惑は……さ」
     クレールのそばを離れて灼滅者達の背後へと走る学生たち。
    「全員、力を得ることを諦めると言うのか」
     8人が移動したのを見て、クレールが呟いた。


     クレール達が去るとドッと疲れが身体を襲う。
     そんな身体を支えつつシスティナは呟く。
    「全員を助けてあげれて良かった……」
     今、学生達8人は無事に眠ったままだ、これで彼らが実験体に使われる事は無いだろう。
    「それにしても、もしかしたらくずを殺して世界をかえりゅ方が簡単なのかもしれん……」
     そんなシルフィーゼの台詞にアデーレが答える。
    「そうかもね……でも、納得はできません。こんな力、無い方が良いに決まってる……」

     ふと、忠継はクレールが去って行く間際の質問を想い出す。

    「これは俺の個人的な興味だが……」
     帰り際、警戒する灼滅者達にクレールが足を止めて振り返る。
    「お前達は『暴力で世界を矯正しても結局は何も変わらない。変えたいのなら正当な手段で変化させなければ、歪んだ歯車は更に歪んで行く』……そう言っていたな」
     何が言いたいのか解らず黙る灼滅者達。
    「それに『力でねじ伏せるのは悪と同じだ』とも」
     一度言葉を切り冷たく続きを言い放つ。
    「お前達の噂を聞き、俺の目で見た限り……お前達は自らの信念に溺れ、盲信し、他者の話を聞かず、一方的にダークネスを悪だと決め付け蹂躙している」
     すでにそれは問いでは無くなっていた。
     ただ螢だけが。
    「負け惜しみね」
     と切り捨てたが……。

     返事が聞きたかったわけじゃない……そう言ってクレール達は去って行った。
    「私、正義の味方になりたかったんだ」
     ふと呟いたのは誰歌だった。
    「でも、私は正義の味方にはならなかった。いや、なれなかったんだろうか? 私のはただの憧れでしかなかったから……」
     思う所は有る。
     だが今は……8人の犠牲者を救った功績を祝福しよう。
     キミ達は、ヴァンパイアのクレールに勝ったのだから……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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