「はぁ……卒業まで後何日だっけ」
少女はカレンダーを眺めると憂鬱そうな表情で呟き、自分の胸に視線を落とす。
「何か無いかな、こう簡単にできてセクハラを防げるような」
唸りつつ周囲を見回しても良さそうなモノは見つからず。
「ん?」
ふと目に付いたのは海苔で巻かれた餅のぬいぐるみ。
「これだぁ! うん、固くなった切り餅に穴を開けて帷子にすれば、いざというときにはおやつ……じゃなくて非常食にもなるし」
一瞬食欲的な本音がちらりと見えたような気もするが、不幸なことにツッコミどころ以外のモノがどこにもなさそうなアイデアにダメ出しする人物は誰も居なかった。
「よーし、完成。じゃあ、試しに着てみよっ」
故に、起こるべくして事故は起きる。
「うぐっ」
餅と餅の間で肉を噛んだのだ。
「うっ」
少女の目に涙がにじんだのは、餅に挟まれて痛かったからか、かといって愛する餅に当たれないやるせなさからか。
「うわぁぁぁぁ」
泣きながら部屋を飛び出す少女の肌の色が褐色に変わり身体の一部をぱりっとした海苔が覆ったのは、少女が怪人に変貌しつつあったからだろう。
「もっちぃぃぃぃ」
施錠どころか開けっ放しのアパートのドア、叫びながら出て行ったこと、ご当地怪人と化した少女の格好、どれもがツッコミどころ満載だったが、隣室は留守なのか様子を見に来る者すら居らず、後には脱いだ服と放り出された工具、余った材料だけが残された。
「いそべもちをみつけたのです」
腕を組んだ座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)の横で口を開いたのは、はるひ経由で君達を呼んだ綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)だった。
「一般人が闇堕ちしてダークネスになる事件が発生しようとしていることが判明したということだよ」
磯辺餅と鈴乃が言ったのは見つけてきた少女が磯辺餅のご当地怪人へと変貌したからなのだろう。
「もっとも、問題の少女は外観こそ変貌したとしてもまだ人間の意識を残している」
本来ならば闇堕ちした時に人間の意識はかき消え、ダークネスの意識に取って代わられてしまうのだが。
「つまり、ダークネスの力をもっちぃながらもダークネスになりきっていない状況に――」
なるということ。
「もし彼女に灼滅者の素質があるのであれば、闇堕ちから救いだして欲しい」
完全なダークネスとなってしまうようであれば、その前に灼滅を。
「もろん、私は救出を望むがね」
わざわざお餅好きの少女の中から闇堕ちに至る事例を探し当てた鈴乃もおそらくは同意見だろう。
「さて、それで今回闇もちぃする少女だが名は、磯野部・真紀奈(いそのべ・まきな)。現時点では中学三年生だな」
同性からのセクハラに悩まされていた少女は、よっぽど追いつめられていたのかアホの子だったのか、お餅で帷子を作るという暴挙に出たあげく、帷子にした餅に肉を挟まれてご当地怪人磯辺モッチアへと変貌する。
「褐色の肌に上は餅帷子、腰には海苔で出来たパレオっぽいものを巻いて、下着は着けていない」
「はいてないですか? このじきにそんなかっこうはとてもさむそうなのです」
想像でもしてしまったのか鈴乃は両腕で自分を抱き、どう見ても寒そうな格好のエクスブレインは全くだと同意する。後者の説得力はどう見ても行方不明を通り越して生死不明だったがそれはそれ。
「バベルの鎖を得たからか、ご当地怪人に変貌したからか、餅帷子が肉を噛むことは無くなったようだが、餅の間からかいま見える素肌は男性陣にとって目の毒になるかもしれない」
とは言うものの、今回の相手と戦うには男性が居た方が好ましいとはるひは言う。
「元々のきっかけになったセクハラというのが同性からのものらしくてね」
真紀奈は女性不信に陥っているらしい。
「闇堕ちした一般人に接触して人間の心に呼びかけることで戦闘力を下げることが出来るのだが、女性の説得では効果が薄くなると言わざるを得ない」
唯一の例外は同じように同性からのセクハラに悩まされている女性だろうが。
「故に今回は少年に声をかけてないのだよ」
「や、明らかにおかしいよね?」
などとはるひは言うが、女の子扱いされて呼ばれなかったと知れば鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)は間髪入れずそうツッコんだことだろう。
「ともあれ、闇堕ちした一般人を救うに戦いは不可避だ」
これは少女を救う為には一度戦ってKOする必要があるからであり、戦闘になれば磯辺モッチアはご当地ヒーローのサイキックに似た攻撃を行うほか、海苔パレオの一部を変形させることで影業のサイキックに似た攻撃で反撃してくるのだとか。
「少女の持つバベルの鎖に補足されることなく接触出来るのは、アパートの外にご当地怪人と化した少女が飛び出してきた直後だな」
これについてはアパートの外で待っているだけで良い。ご当地怪人になれば少女の方から戸を開けて出てくるのだから。
「ちなみに真紀奈の母親は同じアパートの住人と温泉旅行に出かけているらしい」
この為、アパートはほぼ無人で、接触後一時間までなら人よけの必要もないとのこと。
「故に激戦になるかさっくり終わるかは説得次第だと言わせて貰おう」
少女の境遇に同情する方向から攻めるのよし、残念な子と割り切ってお餅の帷子に八つ当たらなかったことを褒めてやるも良し。
「思うところもあるかもしれないが、一人の少女を救えるかどうかという状況だ」
ツッコミは救出後にして貰えるとありがたいと纏めると、はるひは君達へ頭を下げた。
「宜しく頼むよ」
参加者 | |
---|---|
七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504) |
風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133) |
備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663) |
夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385) |
水城・恭太朗(ふたこぶラクダ・d13442) |
綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
四季・彩華(双銀の片翼・d17634) |
●お待ちしてます
(「磯辺餅……ゆみかの大好物なのですぅ。そんな美味しいものを愛する子が、悪い子になっちゃうなんて見逃せないですぅ!」)
アパートの前に置かれたちゃぶ台を囲む一人となり、夢野・ゆみか(サッポロリータ・d13385)はじっとアパートのドアを見ていた。
「またもっちあがみつかってビックリなのです」
と発見当初のことを思い返した綾町・鈴乃(無垢な純白・d15953)が意気も盛んなゆみかと頷き会ったのは、先程のこと。
(「モッチア、かぁ……。もうちょっと真面目な理由で闇堕ちしてくれれば……いや、本人は大まじめだろうけど……」)
ドアがまだ開かないと言うことは、問題の少女は今だ闇堕ちに至っていないと言うことなのだろうが、この後どうなるかを知っている四季・彩華(双銀の片翼・d17634)としては、胸中複雑極まりない。
「なして鏡餅の次が磯辺餅よ。もっちあって一人見たら百人ぐらいいるのかな? ……餅娘、ニ連発かぁ」
別の餅とはいえ、モッチアと名の付くご当地怪人に変貌した少女をつい先日救った気がする備傘・鎗輔(極楽本屋・d12663)もまた何とも言えない気持ちで。
「うわぁぁぁぁ」
(「あのようなきっかけでも闇堕ちしてしまうのですね」)
やがて中から少女の泣き声が漏れてきて何かが決定的になったことを知り、セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)真剣な顔で一つ頷く。
(「精神的に不安定な時は気をつけるようにしないといけないですね」)
ツッコミは敢えてしなかった。可哀想とかいたたまれなくなるとか言う理由もあっただろうが、別に気になることがあったのだ。
「四季さんがエイティーンを使うみたいですけど、どんな姿なのでしょうか?」
と、口に出さないものの、セレスティの目は少女を待ち受ける仲間の一人に向いて。
「どうかした?」
神父服の様な改造制服に身を包む彩華が視線に気づき、尋ねた直後だった。
「もっちぃぃぃぃ」
餅帷子と海苔パレオだけを身に纏ったご当地怪人がドアを開け放って飛び出してきたのは。
「おおっ」
切り餅同士の間から見える褐色は部分的に抑圧を抗議するようはみ出し、パレオから伸びた素足が健康そうで、思わず水城・恭太朗(ふたこぶラクダ・d13442)は声を上げ。
(「前回といい、今回といい、餅娘にはまともなのがおらんのか。というか恥じらいを持ってよ。頼むからさ」)
冷めた目というか呆れを含んだ視線を向けつつ、鎗輔は片手で顔を覆った。
「も、もちぃ?!」
もっとも、飛び出してきた磯辺モッチアからすれば、アパートを飛び出したと思えばちゃぶ台を囲む見知らぬ男女が居たのだ。驚くのも無理からず、内の一人が向ける生ぬるい視線に気付き意図を察せと言うのは無理がある。
「これおいしいって噂の和菓子屋のおはぎとか黄粉餅なんだ。良かったら一緒に食べながら話そうよ」
「わぁ」
ましてや、ちゃぶ台の上にあるものを示して恭太朗が呼びかけた時点で、磯辺モッチアにはもうお餅しか見えていなかった。
「いただきますもちぃ」
即答だった。尻尾があったらきっとぶんぶん振っていただろう、元少女は目を輝かせて空いてるところに座りお餅に手を伸ばす。
「はむはむ」
お餅を頬ばる磯辺モッチアには、たぶん至福の一時だったのだと思われる。
「お話し、しましょう」
「な」
声をかけた七六名・鞠音(戦闘妖精・d10504)や他の女性陣の存在を忘れ去り再認識して驚くほどに。ちゃぶ台にのって自己主張する元少女の胸を眺める恭太朗にしても眼福だったかも知れないが、それは置いておこう。
「くっ、罠もちぃか!」
(「……同性に気づいただけでこうも変わるなんて」)
警戒を隠さず身構えたご当地怪人に、風舞・氷香(孤高の歌姫・d12133)は表情を曇らせた。
●壁を
(「……こうなってしまったのも、友達のセクハラからなのですか?」)
未経験故に元少女の胸中を知る術は、反応と言動しかない。
「……経験がないのでよくわかりませんが、辛い思いをしてきたのですね」
察せたとしても、触れようとすれば目の前のご当地怪人が拒絶するのは、想像に難くなく。救いたくても下手に手を出せないというジレンマを前に氷香に出来ることと言えば、優しく語るだけにし不用意に近づかないこと。
「同性からのセクハラに悩んでるんだって?」
自然と目は頼みの綱である男性陣へと向いた、説得を始めたばかりの。
「あ、そうもちぃ」
「奇遇だね、僕もよく受だとかマゾだとか言われる俗に言うカップリング? みたいな?」
警戒をあっさり解いて恭太朗の話にのってきたのは、たぶん恭太朗が餅を勧めたから。
「こればかりは、聞いていたことですものね」
鞠音を始め、氷香やゆみかもお餅は用意していたが、性別という一点が大きな壁になったのだ。セレスティは極端すぎる磯辺モッチアの反応を見つつ、ちゃぶ台の上の餅を口元に運び。
「いや、詳しく知らないんだけど、掛け算に含まれるんだよ。困っちゃうよね」
「かけ算? 九九もちぃ?」
(「このお餅、なかなか美味しいですね」)
微妙にかみ合っていない会話を聞きながら待つ、流れが変わるのを。
「セクハラは相手が悪戯のつもりでも、本人は苦しいんだよね……。どうにかしたかったのは分かるよ。それで、お餅も愛していた君の気持ちも素晴らしいよね!」
「そ、そうもちぃ?」
理解して見せた彩華は己が続けた賞賛の言葉に照れてもじもじする元少女を見ながら「でも」と前置きし。
「ね、一人で悩んでたら苦しいよ。僕らが一緒にいるから、セクハラに負けないで行こう!」
「僕みたいなのが説得すると警戒されるだけだろうね。けど、一言言わせて」
励まし、微笑みかければ、鎗輔も口を開き続けて言う。
「コンプレックスなんて誰でも持ち合わせているものさね。それに人は自分に無いものに憧れるもの、君にちょっかいをだした女の子達もきっとそうじゃないのかな? ……デブで根暗な僕が言うんだから間違いがないと思う」
「むうぅ」
「つまりね、自分がどうであれ周りの目って変わらなかったりするんだ。なら自分ではっきり意見を突き通して周りを認めさせるか、軽く受け流しながら前向きに考えていこうじゃないか。環境から逃げるより、形をかえて適応すると楽しいよ」
鎗輔の言に唸る磯辺モッチアを前にして、恭太朗は話を纏めつつ、更にもう一言。
「そうだね、揉む側になろう」
結果から言うと、一言多かったのだと思われる。
「なるほど、攻撃は最大の防……って、誰がやるかもちぃ!」
「おぶっ」
磯辺餅だけにノリツッコミの要領で激昂した元少女の一撃を受けて、恭太朗が吹っ飛び。
「あんなおぞましいこと人に出来るなんて悪魔もちぃ!」
プリプリ怒るご当地怪人を見て、鞠音は思う。
(「説得……初めてですが、難しいです」)
いや、と言うか単に地雷を踏み抜いたのが原因に見えるのだが、それを指摘する者は居らず。
「まきなさま、せいざ!」
かわりに一喝する者が居た。
「も、もちっ」
反射的に思わず従ってしまったご当地怪人を見据えるのは、鈴乃。男性陣主体と思っていた者にとっては予想外な女性陣による説得の始まりだった。
●すれ違い
「――それでもそのひとはさくらもちのヒーローとしてがんばっているのですよ」
だから真紀奈も負けては駄目だと説教する鈴乃の言葉を、ゆみかが継ぐ。
「ゆみかもセクハラされたりしますけど、そこに愛があるなら全然OKでした~。愛がないからきっといやなんですよぅ」
愛する人を見つけるべき。
「愛する……」
ゆみかが元少女に向けたアドバイスを磯辺モッチアが反芻したのは、何らかの感銘を受けたのか、それとも。
「はむっ」
いずれにしても男性陣の説得を受けて見つめ直そうとする下地があったからこそ、不信感を抱いていた同性の言葉にも耳を傾けた。ゆみかが持参した磯辺餅、北海道に産地を絞ったそれに釣られてでは無いと思いたい。
「綺麗なのは、だめ、なのですか?」
咀嚼によって訪れた沈黙の中、鞠音は問い。
「だからって、綺麗だからセクハラしていい理由にはならないもちぃっ!」
穏やかな時間は鞠音に真っ直ぐ見据えられたご当地怪人の叫びによって幕を閉じる。展開される霧の中、立ち上がって向かう先は、両手を広げた、恭太朗。
「ストレス発散は大事だよ、君のそのもやもや、憤りを全部ぶつけておいで! そのご当地たっぷりの胸で俺をビンタするんだ! さぁ! さぁ早ぶ」
最後まで言い終えるよりも早く豊かな胸に埋まることとなった恭太朗だが、これで終わりではない。
「もっちぃぃぃ」
恭太朗を抱き寄せた元少女は敵の身体を引っこ抜くと流れるような動きで180度回転させ、股で頭を挟み込んだのだ。
「I・SO・BE・ダイナミックもちぃぃぃ!」
胸は柔らかくても覆う切り餅が硬かったとか思う暇があったかどうかはわからない。
「もちぃぃふしゃぁぁっ!」
生じた爆発が晴れた先で鈴乃が見たのは、地面から生えた恭太朗の胴体と灼滅者達を威嚇するご当地怪人の姿だった。
「……さあ、唄を紡ぎましょう」
「Alice」
仲間達がスレイヤーカードの封印を解く中。
「ことばでとまらなければ、からだにいいきかせるのです」
そも、助け出すには倒さなくてはいけなかったから、鈴乃は宣言する。
「おいたするこにはげんこつでおしおきなのです!」
「お仕置き……正座じゃなくて、パンチ、やります」
握り拳を作れば、即座に鞠音が呼応し。
「そこ、です」
「もちっ」
三つの人影が交差する。それは、立ち位置をせわしなく入れ替える一対二の格闘戦。
(「餅帷子って焼かれるとどうなるのでしょうか?」)
死角から日本刀を手に乱入し、斬りかかるセレスティは、考える。相手の身を焼き焦がすようなサイキックを誰かが用意してきたなら、と。
「加勢するよ」
「たすかるのです」
低い体勢から雷を拳に纏わせた彩華が距離を詰めてきて、鈴乃が横に飛んだ。
「ゆみか達もゆくのですぅ」
「もぢべっ」
ライドキャリバーに声をかけつつ殲術道具の杭を高速回転させるゆみかの目に映ったのは、集中攻撃を捌ききれずアッパーカットで宙を舞う元少女の姿。
「今の内に水城さんを何とかしないと」
鎗輔は霊犬を地面から生えた仲間に向かわせると、己はそのまま味方が作るモッチア包囲網へと加わる。
「もぢっ」
白光を放つ斬撃を肩口に喰らってたたらを踏んだご当地怪人に肉薄し、担ぎ上げるまでがほぼ一動作。
「よし」
「しま」
叩き付けると同時に生じた爆発に元少女の声が飲み込まれ、戦いはなおも続いた。
「うぐ」
「俺たちは君の個性をからかうことも否定することも無く全部受け止めるよ。おいでマイエンジェエエル!!」
呻きつつ身を起こすご当地怪人へ呼びかけながら、恭太朗は欲望全開で影の触手を嗾ける。
「やったなもちぃぃ」
流石にその下心に気づいたのか、ご当地怪人は別方向に向かって飛んで。
「っ……怪我、ありませんか? 大丈夫ですか?」
跳び蹴りをモロに受けつつも、鞠音は首を傾げて二度鈴乃に問うた。
「すずのはだいじょうぶなのです。まりねさまこそ、へいきですか?」
このやりとりの間も攻防は続いている。
「そろそろ終わりにしよ」
鞠音を癒す氷香の歌声をBGMに彩華が斬艦刀の陰に隠した注射器を突き立て。
「がっ」
「雪風が、敵だと言っている」
膝をつき傾ぐ元少女が聞いたのは、一つの断定。戦いの終わる数秒前のことだった。
●誘い
「彼女って何も着てなかったんだよね……ここはよろしく」
鞠音が自分のコートを脱ぎ出したのを見て、鎗輔も開け放たれたドアの先へ姿を消す。おそらく少女の脱いだ服を取りに行ったのだろう。
「あ、着替えなら此処にあるので……行っちゃったのですぅ」
各々が少女を気遣い用意してきたが故のすれ違い。ゆみかはロリータ服を抱えたまま小さく息を吐くと、自分達の救った少女へ向き直る。
「っ」
恩人であるにもかかわらず、同性の接近に少女が身構えたのは、真紀奈の中にある不信感が相当根深いものであることを思わせた。
「あー、うー、えっと、その」
だが、氷さえはる季節の屋外でローライズビキニ姿になってまで上着を差し出す鞠音やどう見ても小学生であるゆみかへ取る態度ではないとは理解したようで、暫く言葉を探してまごいついた真紀奈は両手で自分の頬を思いっきり叩いた。
「ごめん……あと、ありがとう」
「気にしてない、です……それを、羽織ってて、下さい」
頭を振った鞠音は肩にかけた己のコートを示して言い。
「着替えもあるのですぅ」
ゆみかも手にしていた服を掲げてみせる。
「……どこで間違えてたんだろ」
自嘲気味にわらった少女は、俯いて足下でバラバラになった餅帷子に目を落とす。
「やっぱ、切り餅って焼いてないと直に肌にくっつけても冷たいよね?」
「そこなのです?!」
ポツリと漏らした言葉に手を差し伸べるつもりだった鈴乃が思わずツッコんでしまったとしても誰が責められよう。やはり、餅帷子を作ろうなどと考えたのは素だったと言うことか。
「間違ったのはどう考えてももっと前だと思うけど……餅は、こんな事に使うものじゃないよ」
「え?」
少女が声に振り返れば、そこには部屋で脱いだはずの服一式を持った鎗輔が居た。
「あ、あたしの服……そっか、ドア締めるの忘れてた」
ポンと手を打つ少女へ、いまさら気づくのかと誰もツッコまなかったのは、たぶん優先して言うことがあったから。
「……あの、服を着られては?」
少女を気遣い遠巻きに見ていた氷香が進言した直後。
「へくちっ……そ、そうだね」
真紀奈はくしゃみをし、同意した。
「お世話になりましたっ」
改まってぺこりと真紀奈が頭を下げたのは、ロリータ服に着替えた後のこと。
「こっ、このコートも」
「確かに、受け取りました」
緊張しつつも鞠音へ上着の返却を果たした少女を待ち受けていたのは。
「ゆみか達の学園にはお餅大好きな方がいっぱいですよぅ~。一緒に来て磯辺餅を広めてはいかがでしょう~?」
「まきなさまもがくえんにきて、おもちのヒーローのなかまいりするのですよ」
ゆみかと鈴乃からの言葉。
「っ……お餅かぁ」
差し伸べられた同性の手に怯みつつも、たぶん少女の中で答えは決まっていたのだと思う。
「そうだね、あんな人がいるんだもんね」
「えっ」
頷いた真紀奈が視線を向けた先には、鎗輔の姿。
「新しい場所で、愛する彼氏を作ってセクハラから守って貰えば全部解決ッ」
灼滅者達の説得を少女なりに噛み砕いた結果がそれなのだろう。そしてロックオンしたのが三人いる男性陣の一人だったのは――。
「あのっ、さっきはお餅ありがとう。それで……」
「……そう言えば、お餅あげてましたよね」
理由に思い至った氷香が目にしたのは、早速行動に移った真紀奈の姿だった。
作者:聖山葵 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 11
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