槍一本

    作者:相原あきと

     この空間に囚われてからそろそろ24時間が経つだろうか。
     最初にルール説明役だとか言って現れたカッターを持った少年の言葉を信じるなら、この山の中には16人のプレイヤーがおり、24時間殺し合いを行って最後の1人になるまで生きてここからでることができない……とのことだった。
     事実、ここは山の限定された空間とも言うべき場所で、なぜか端(という表現しかできない)は透明なガラスでもあるように行き止まりになっていた。
     元々武術を齧っており、趣味は山でのサバイバル生活である自分としては、決して悪い状況では無かったが、本当に殺し合いの必要があるのか、そこだけは疑問だった。
     しかし散策中に1人の少年が年端もいかぬ子供を殺しているのを見て、その瞬間に頭でなく心が理解した。
     ああ、ここはそういうルールなのだ、と。
     それから自らの手で殺した対戦相手は8人、実に半数を自ら殺した事になるが、あのカッターの少年が言うのもあながち嘘じゃないと感じていた。なぜなら、1人殺すごとに何か不思議な力が増して行く、そんな気がするのだ。
    「おい、おっさん、残すは俺とおっさんだけのようだぜ?」
     声を掛けられ草むらから立ち上がる。
     見ればピアスだらけのチンピラのようだ、返り血に染まった服に真っ赤なナイフを持っている、彼もどうやら勝ち抜いた者のようだ。
     しかし……。
    「しかし、本当に最近の子供は言葉づかいがなってない」
    「あぁ!?」
    「年上には敬語を使えと……そう親から習わなかったのか?」
     チンピラがケタケタと笑い、その次の瞬間、自分の手に持った先を尖らせた長枝がその首を貫き、チンピラを一撃の元に絶命させる。
     ブンッ!
     チンピラの首から槍と見紛う長枝を抜き、血糊を飛ばす。
    「あの世の先達に、しっかり教えて貰うが良い……さて、この少年が言う事が本当なら、これで私は唯一生き残ったプレイヤーとなるのかな? ふむ、油断するのは良くないな……警戒して、進むか」
     今ならこの山から出られる気がした。
     そして、槍術道場の師範であるその男――双海・流一郎(ふたみ・りゅういちろう)は、新たな六六六人衆として、縫村委員会の中から出てくることとなる。
    「……どこだ? 空気が変わった……だが山の中か、ふむ、まずは基本にのっとって行動するか……」

    「みんな、六六六人衆について新しい動きがあったみたいなの……」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に話す。
     年始に多くの六六六人衆を灼滅された事に危機感を覚えたのか、新たな六六六人衆を生みだす儀式を始めたらしい。これを行っているのは縫村針子とカットスローターという2体の六六六人衆であるようだ。儀式の内容は閉鎖空間に囚われた一般人に殺し合いをさせ、最後の生き残りが新たな六六六人衆として出てくるというものだ。
     この儀式によって生み出された者は完全に闇堕ちしており救うことはできない。
    「でも、出て来たばかりの六六六人衆は、ある程度ダメージを受けた状態だし、厄介な配下も連れていないわ。強力なダークネスには違いないのだけど、灼滅する好機とも言えるの!」
     逆にこのタイミングを逃せば、世に解き放たれた新たな六六六人衆がどんな被害を出すかは押して知るべし……という事だ。
    「みなに行って貰いたいのは関東のとある山よ、時刻は深夜24時、他に一般人がいることは無いからそこは心配しないで」
     ターゲットの六六六人衆の名は双海・流一郎、槍術道場の師範代でもちろん武器は槍を使う。呼吸を読むのが得意で、戦闘になれば防御より攻撃を優先すると言う。厳格な性格だった男だが、今では自分の技を殺しに使えるのが楽しいと思うようなゲスになり果てている。ただ、元性格の影響か、言葉使いがなっていない相手を見ると特に狙いたくなるようだ。
    「双海流一郎は怪我をしたままの状態よ。だいたい3割の怪我、とかそんな所かしら? とにかく、叩くなら今ってことね」
     珠希はそこまで説明すると、声を一段低くして次の説明に入る。
    「――と、問題は彼が用心深い性格のせいか、隠れならが山を降りようとしているって所なの。彼に接触するには以下の2択」

     ・中腹の開けた場所に向かう。そこにいると双海流一郎から奇襲される。その後戦闘。
     ・中腹の開けた場所に向かわず、双海流一郎を捜索する。発見後、戦闘。

    「後者の場合はどこにいるか見つける必要があるんだけど……具体的には双海は東側から下山しようとしているか、西側から下山しようとしているか、南側から下山しようとしているか、もしくは北側の山頂へ一度戻ってから下山しようとしているか……の4択よ」
     捜索する場合は以上の4択となる。
     ちなみに東側は川が流れており、西は背の高いシダ植物が多い、南はそのまま下りの斜面であり、北は山頂へ続いている。
    「確実に初撃を受けることになっても絶対に出会える方法を取るか、奇襲されないけど捜索次第によっては見つけられずに終わるリスクがある方法を取るか……それはみなに任せるわ」
     そして珠希は最後に釘をさす。
    「敵は六六六人衆のダークネス、怪我をしていない状態では勝てないような相手よ。今がチャンスではあるけど無理はしないで……それでも、私はみなを信じているわ」


    参加者
    篠雨・麗終(夜宵の咎荊・d00320)
    神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)
    丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)
    上木・ミキ(ー・d08258)
    太治・陽己(薄暮を行く・d09343)
    九重・木葉(贋作闘志・d10342)
    黒橋・恭乃(喰罪キョウノ・d16045)
    石見・鈴莉(影導く氷星の炎・d18988)

    ■リプレイ


     山の木々が自ら道を開け8人の行かんとする先に道を作る。
    「この寒い中登山かよ……変なとこに出没しやがって」
     歩きながら呟くは丹生・蓮二(パラダイムシフト・d03879)、少し前を進む霊犬のつん様がチラリと振り向くが、すぐに視線と鼻を周囲の警戒へと戻す。「今日も綺麗だよ。頑張ろうな」と、山に入る前に蓮二は自分の霊犬に語りかけていたが、どうにもこのコンビは一方通行に見える。
    「……碌でもねえことばっかしやがって。胸糞悪ィ……」
     苛立ちを隠そうともせず言い捨てるは篠雨・麗終(夜宵の咎荊・d00320)だ。正直、闇堕ちゲームに参戦し、さらに暗殺ゲームの標的にされ……ただでさえ他者を殺して死体の上で笑う六六六人衆達は大嫌いだと言うのに。
    「そろそろ中腹を過ぎます。ここからは会話も慎重に行きましょう」
     スーパーGPSで位置を確認していた上木・ミキ(ー・d08258)が言うと、他のメンバーもこくりと頷いた。

     もしターゲットが本当に山の北、山頂を目指しているとすれば登山中に遭遇する確率も高くなる……そう考える石見・鈴莉(影導く氷星の炎・d18988)は仲間に足音すら注意しつつ上を目指す。
     だが灼滅者達は誰とも遭遇する事なく山頂へと到着した。
     逆に遭遇しなかった事が不安をかき立てるほどに……。
     南側から物陰になる位置に隠れつつ、双眼鏡で対象を探すミキ。

     ――もしかして北以外に?

     西と南はともかく、東はサバイバル的には水が手に入るし、川を伝って行けば無事に下山も可能だ。
     ごくり。
     双眼鏡を覗くミキの喉が鳴る。
     北がハズレだった場合、どうやってフォローするかまでは考えていなかった。
     ミキと同じく望遠鏡を使って探していた神夜・明日等(火撃のアスラ・d01914)も不安な気持ちが首をもたげてくる。
     そして時間が刻々と過ぎて……。

     最初にソレに気がついたのは蛇に変身しながら探していた太治・陽己(薄暮を行く・d09343)だった。
     陽己と同じく蛇変身していた黒橋・恭乃(喰罪キョウノ・d16045)と協力し、小さく隠れやすいのを利用して仲間全員へ伝える。
     隠れながら慎重に登ってくる男――双海・流一郎を発見したのだ。
     灼滅者達は内心の安堵と共に気を引き締め、双海の死角に回り込むよう移動を開始する。
     双海の行き先へ先回りする選択において、一番難しいのは保険や念のためという考えを捨て去る事だった。北を選んだとして、もしもの時を考え他の3方向へ人を配置したくなる……それが人間だ。
     しかし、彼らは全員、北で待ち伏せる事を選んだ。それは賞賛に値する決断と勇気だったと言える。
     その結果……。

     ――轟ッ!

     背後から放たれた荒れ狂う雷の束が双海を撃った。
     九重・木葉(贋作闘志・d10342)が放った轟雷に続くように、他の仲間達も次々に攻撃をたたき込む。
     まさに不意打ち、防御も取れずに双海が攻撃の嵐に飲み込まれ、巻き起こる粉塵の中へと姿を消す。
     それはハイリスクな道を選び、その上で正しい決断をした彼らが勝ち取った、まさにハイリターンなアドバンテージだった。


    「こんばんは、双海・流一郎さん」
    「私の名を知っているとはな……」
     木葉の挨拶に、びゅんと枝で作った槍を振って粉塵を吹き飛ばす双海。
     そこには道義の上がボロボロになった男が立っていた。
     先ほどの奇襲は成功したが、それだけで押し込めるほど優しい相手では無い。
    「名前は、ね……けれど、一般人の彼は死んでしまった……堕ちて、呑まれて……」
     ――いつかの自分のように。
     木葉は思う。双海に恨みがあるわけじゃない……ただ、六六六人衆が大嫌いなだけだ。
    「死んだ、だと?」
     双海が怪訝な声で聞き返す。それに答えたのは陽己だった。
    「その通り。すでに起こってしまった悲劇はもはや覆らん。ならばせめて、閉鎖空間からは誰も出てこなかった事にしよう」
     陽己は答えながら刀の鞘を投げ捨て。
    「あなたを……双海流一郎を、六六六人衆ではなくただの一般人に引き戻す」
     双海の返事を待たず、前衛に立つ灼滅者達に炎の羽が舞い降り、破魔の力が付与される。
     ちらりと陽己が視線を向ければ麗終の背に炎の翼、麗終がコクリと頷くと同時、陽己は刀を持たぬ左手を鬼の腕へと変化させ双海へと接敵する。
     双海は木槍で鬼の腕を払いのける。だが、ピクリと陽己の日本刀の初動を感知、紙一重で刀での追撃をかわす。
     ゾクリ。
     刀を避けた瞬間、双海は悪寒を感じ、転がりながら身を地へ投げ出す。
     直後、心の臓があった位置を黒槍が貫く。
     それはまるで蜻蛉の羽のように軽く、そして躊躇いの無い一撃。
    「槍使いか……良い槍だ」
     転がり避けきれなかった脇腹の傷を押さえつつ双海が恭乃へ聞く。
    「黒羽蜻蛉」
     再び構えながら槍の名を言う恭乃。
    「……悪くない」
     双海が木槍を握り恭乃へ槍特有のリーチを活かした連突を行い、同じく槍を持つ恭乃が同じ間合いで双海の槍をさばく。
     だが、ダークネスへと覚醒した双海は強く、少しずつ恭乃が押され始め――。
    「おっさん、どーもー。元気ぃ?」
     馴れ馴れしく声をかけ、割って入って来たのは蓮二だ。闇喰いの魚に破邪の白光をまとわせながら切りかかる。
     双海が恭乃に打ち込もうとした槍を、ぐんっと石突きの方を振り回して蓮二を殴りつけ、わずかに狙いを反らして最小限の動きで回避。
     だが、避けられた蓮二が笑みを浮かべる。
     それに気づいた双海だったが、瞬後、横からぶん殴られたかのような衝撃に吹っ飛ばされた。
    「ほらほら、まだまだ行くわよ!」
     それはバスターライフルを構えた明日等だった。さらに追撃するようにライフルを撃つが、空中で宙返りをうちつつ姿勢を整えた双海は、近くの木を蹴りビームの射角から離脱。
    「今までは1対1の戦いだったが……なるほど、最終試験、とでも言う所か……」
     双海が息を整え右、左、と跳躍したかと思えば灼滅者達の前衛が集まるど真ん中へと飛び込んでくる。さらに右手一本で木槍の石突きを持つと最大リーチで円を描くように一振り、前列の灼滅者達が薙ぎ払われる。
     吹き飛んだのは麗終と鈴莉、そして咄嗟に前に出た霊犬のつん様と明日等のライドキャリバーだった。
    「それにしても、最近の子供は言葉遣いがなっていない。親の顔が見てみたいものだ」
     薙ぎ払った双海に、吹き飛ばされた者達が怒りに捕らわれる。
     しかし即座に吹き抜けた清らかな風が心を沈めて冷静さを取り戻させる。ミキの清めの風だ。
    「ねえ、双海さん。人を殺さないと死んじゃうから……殺したんだってね」
    「………………」
     鈴莉が立ち上がりながら言う。
    「あたしにはその行動を否定できない……でも、ここであなたを逃したら、あなたみたいな人がもっと増えちゃうかもしれない」
    「………だから?」
     答えが解っているかのように双海が続きを促す。鈴莉はまっすぐに双海の目を見て。
    「あなたを、ここで止める」
     鈴莉の言葉と視線を真っ正面から受け、双海は槍を構え。
    「甘いな……そこは『ここで殺す』だ」


     1人の槍使いと8人の灼滅者の戦いは続く。
     だが――。
    「(やりづらい……)」
     双海は内心、ほぞを噛んでいた。
     相対する8人は自分の得意分野を知っているかのように、8人全てが単純な攻撃ばかりしてくるのだ。
    「くっ」
     攻撃をさばくことに必死になる双海に、明日等が仲間の回復を行いつつ言葉を投げる。
    「偉そうにしているけれど結局は欲望に溺れているじゃないの!」
     しかし、明日等の言葉に答えたのは双海でなく、恭乃だった。 
    「それではあんまりですよ。彼だって、見方を変えれば犠牲者にも成りうる……同情もします」
    「そう?」
     明日等が口を尖らせて返す。
    「ほんの少しですけどね……ただ、武道の達人とは思えないほどの心の弱さは……見かねますね」
    「なに」
     恭乃の言葉に双海が反応する。
    「堕ちるなど心弱き証拠です。本当に弱い。同じく槍を使う者として……必ず、灼滅します」
     同時、恭乃と双海が大地を蹴り、槍と槍の穂先が火花を散らす。
     お互い即座に引き戻し次の突きへ備え……だが恭乃は僅かに握りを変える。
     バチッ!
     再度槍と槍が激突するも、弾かれたのは双海の槍だった。
     条件反射で半身になる双海だが、螺旋の力を加えた恭乃の黒槍が胸の上を削り取る。
     後ろへと倒れていく双海、だが。
    「ですます口調と年上への敬意は……別物だ」
     双海とシーソーのように木槍が持ち上がり、死角の下段から恭乃を襲う。とても避けられない。
     ドッ。
     木槍が突き刺さったのは恭乃……ではなかった。
     オーラを纏った体で強引に割って入った麗終が、恭乃の代わりにダメージを受ける。
     麗終は喉からこみ上げてくる血を飲み込むと。
    「言葉遣いだの礼儀だの、さっきからシツケェんだよ、クソが! 威張りくさりやがって!」
     双海が額に青筋を浮かべつつ槍を構える。
    「本当に……教育してやらねばならんようだ」

     双海の攻撃が終わるタイミングで、死角から飛び出した陽己が双海の首を狙い、木葉が魔力を込めたロッドで振りかぶる。
     双海は首を切り裂かれつつもカウンター気味に木葉の胸元へ穂先を伸ばす。だが木葉を突き飛ばすように鈴莉が飛び込み――。
    「ぐっ」
     鈴莉の腹へと深々と突き刺さる木槍。
    「こ……の……!」
     鈴莉が槍に貫かれたまま強引に前へでる。普通の武術家なら絶対に取らないその行動に、一瞬双海の動きが硬直する。
     そのままバベルブレイカーを強引に突き出す鈴莉。
     ギンッ!
     咄嗟に反応した双海だったが、その手から槍を弾かれ、遠く暗い草むらへと槍が落ちる。
    「一人殺ったと思ったのだが……残念だ」
     素直に驚く双海。
     さすがに膝を突く鈴莉に、ミキがエンジェリックボイスをかけつつ言う。
    「ムカつきますね。他のダークネスはそうでもないですが、六六六人衆だけはどうしてもキライです」
    「関係無い……邪魔する者は、あの世へ送ってやる、そこで先達たちから教えてもらうが良い」
    「ずいぶんと余裕ですね。見たところ、こちらの方が優勢に思えますが? それに、もう武器も無い」
     ミキの言葉に双海は口を結ぶ。
     確かにこの者達は手強い、自分の不得意な戦いを徹底しているし、役割分担も完璧だ。正直、穴が無い……。だが自分自身も戦いながら本当の力の使い方を少しずつ理解し始めているのも実感していた。
     そう、たとえば――。
    「確か羽黒蜻蛉……とか言っていたな、槍使い」
     双海が呟くと同時、自らの手の平からずぶずぶと朱色の長槍が出現する。
    「そうだな……朱角、とでも名付けるか」
     確実に六六六人衆として、ダークネスとしての強さを増していた。
    「すっげーな! 何その武器! 銛?」
     軽薄に笑う蓮二を双海が睨みつけてくる。
    「あんた……正直強いと思うぜ? でも俺たちは負けない。堕ちた奴に負けるわけにはいかねーんだ」
    「礼儀はなってないが、お前たちも十分強いぞ。だが私はこの力でまだまだ人を殺してみたい……ここで終わるわけにはいかん」
     双海の言葉に、一瞬だけ蓮二の顔に悲しみが浮かぶ。どんなに強気な発言を繰り返しても、今回の六六六人衆の理不尽なやり方や、殺意に呑まれた双海を見ると、どうしても自分を重ねたくなるのだ。
     ふと、自分の足下に暖かさを感じて見れば、霊犬のつん様が身を寄せており蓮二は我に返る。
    「つん様……」
     チラリと蓮二を見上げると、何事も無かったように身を離すつん様。
     蓮二は歯を食いしばると双海を見つめて。
    「行くぜ、そろそろクライマックスだ」


     薄暗い木々の間を幾人かの影が駆け抜ける。
    「同情してる……でも、戻れないならやるっきゃないね」
     ぼそりと呟きながら、双海へ急接近し貫き手を放つのは木葉だ。
     双海は六六六人衆のドーラクに巻き込まれただけだ……そういう意味では、彼に親近感を感じもする。しかし、しかしだ。
     双海の目はすでに殺人鬼のソレだ、口では礼儀だなんだと言っているが、根本の殺人衝動に身を任せているに過ぎない。
    「(ホント、ヤな誕生日だ……胸糞悪い)」
     双海はすでに血だらけだ。しかし獣のようにギラついた目だけは光を失わず、虎視眈々と灼滅者の命を狙ってくる。
     そして、そんな双海に対し、容赦無い斬撃を繰り出すのは陽己。それは常に急所を狙う非情な一撃だ。
     そんな陽己の攻撃に、命のやりとりが楽しいかのように双海も答える。
     紙一重の斬撃が繰り返される。
    「灼滅者になるくらいなら……」
     思わず言葉が口にでる陽己。
     それは心の片隅に小骨のように引っかかる想い。
     だからこそ、双海のような存在を消し去りたかった。
     例えそれが、罪悪感にかられる行動だとしても……。
    「太治」
     気がつけば麗終がすぐ横に立っていた。
    「行くぞ」
    「……ああ、わかった」
     人の本性は……との考えを振り払い、今は目の前の敵だと言い聞かせて日本刀を握る。
     息の合った麗終と陽己の攻撃を、朱槍を上段から叩きつけて日本刀とチェーンソーを大地に押さえ込む双海。
     だが、まるで申し合わせたかのように2人は武器を手放し、左右から双海に接敵。
     同時、左右から閃光百裂拳を双海へと叩き込む2人。
     殴られ続けても朱槍を離さず、ピクリと双海が動いた瞬間、槍の一撃を避けるように陽己と麗終が飛び退く。
     そして朱槍が引き戻されるタイミングで今度は蓮二が飛び込み、バベルブレイカーの杭をドリルのように高速回転させて突き刺した。
     ふらりと後ず去る双海。
    「わ、私は……まだ!」
     双海が朱槍を振り回し蓮二を牽制すると、そこに強引に黒い槍が突き込まれ、双海が朱槍で応戦する。
     黒と朱の乱舞。
     双海が大きく槍を引き、恭乃は槍を己が半身に隠すように構える。
     と、螺旋の回転力を加えて一気に突き出される朱色の槍。
     次の瞬間、聞き手の逆で持った黒き槍が、死角から双海の利き腕を切り裂いた。
    「ぐ……!」
    「口調を気にする気持ちはわかるわ……でも、それで腹を立てるような大人に、私はなりたいとは思わない」
     いつの間にか目の前には明日等が立っていた。
     スッと双海の顔の前へと掌が突きつけられる。
    「私が……1対1なら、決して負けない相手に……」
     明日等の掌にオーラが収束していき。
    「1人1人は小さな力でも……まとめて当たれば」
     山頂に光が瞬き、そして双海流一郎はどさりと大地へ倒れるのだった。
     
    「道場とかの『教えを請う』場なら、礼儀も作法も必要だとは思うよ? でも、命の取り合いの最中は……どうでも良いと思うな」
     倒れ、体の端々からチリとなっていく双海が、鈴莉の言葉に僅かに答える。
    「私が負けたのは……そこに拘った、から……か……」
     そう言って双海は完全にチリとなって消えた。 
     星明かりの下、薄暗い山の頂上付近で8人が佇む。
    「縫村委員会……しばらく寝覚めが悪くなりそうですね」

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月21日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 14/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ