目覚めさせられた殺人鬼

    作者:奏蛍

    ●出口のない場所
     気づいたら、そこに立っていた。なぜここに来たのかも、どうやって来たのかもわからない。
     意識がなくなっていた。ふと気づくと、周りにも突然目覚めたかのようにはっと瞳を見開く人たちがいる。
    「ここは……」
     霧に覆われてしまったような記憶を思い出すように首を振るが、霧は晴れない。ざっと見たところ、そこには十五人前後の人がいるようだ。
     性別も年齢もバラバラ。なぜここに来たかを理解するものは誰もいない様に見える。
     閑散として、何の音も存在しないシャッター街は晴れているというのに不気味だ。
    「んっ!?」
     カランと急に鳴った音に全員が体をびくっとさせる。ただ風が吹いて空き缶が落ちただけだとわかって、ほっと息を吐いて力を抜いた。
     せめて見知った者はいないかと、再度瞳を走らせるが見知った顔はいない。けれど、違和感を覚えた。
     最初に見た時と何かが変わっている気がする。また風が吹いたのか、転がった空き缶がカラカラと音を立てて転がっていく。
    「どうなってるの……」
     横にいた女性が震えながら声を絞り出している。女性が見ているものを見た時、自分の体も震えた。
     さっき感じた違和感の理由がわかった。一人数が減っていたのだ。
     そして、その一人は戻ってきていた。無残な死体となって。
    「うわぁあ!」
     反対側から上がった悲鳴に全員が注意を向けた。そこにはもう一人の死体が転がっている。
     一瞬目を離した隙の出来事だった。何が起こっているのかわからない。
    「こ、殺されたくない!」
     走り出した女性の声に、全員が霧散して行く。二つの死体と一緒にただ立ち尽くしていた。
     遠くの方から何で出られないのよとヒステリックに叫ぶ女性の声、男性の声、少女の声……色々な音が混じり合う。そしてひとつの悲鳴。
     頭のどこかで、また死体が出来たんだと思った。
    「殺されるくらいな殺してやる!」
     狂気に蝕まれた男性の声に、周りから恐怖の声が上がる。そうだ、殺されるくらいなら殺してしまえばいい。
     必要なものを探しに、シャッター街の中を歩き始めた。
     
    ●灼滅という名の救い
    「武蔵坂の灼滅者を襲撃してきた六六六人衆に、新たな動きがあったみたいなんだ」
     真剣な瞳で灼滅者(スレイヤー)を見つめながら、須藤まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が、口を開いた。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     みんなの活躍のおかげで、たくさんの六六六人衆を灼滅することが出来た。けれどそれに危機感を覚えたのか……新たな六六六人衆を生み出す儀式を始めてしまったらしいのだ。
     この新しい儀式を行っているのは、縫村針子とカットスローターという二体の六六六人衆のようだ。
    「閉鎖空間に連れて行かれちゃうみたい」
     どこかしょんぼりとした様子でまりんが詳細に入る。縫村委員会と呼ばれる閉鎖空間の中に、六六六人衆の素質を持っているであろう人間を無差別に放り込むのだ。
     そして殺し合いを始めさせる。殺しの動機を与える方法は様々なようだが、結果は同じだ。
     たった一人残ったものが、野に放たれることになる。この儀式によって生み出された六六六人衆は、縫村委員会から出てきた時点で完全に闇堕ちしてしまっている。
     救うことは不可能だ。そして残念ながら、縫村委員会の中に入って殺し合いを止めることも不可能なのだ。
     出来ることは野に放たれることになった六六六人衆となった少年、真尋を灼滅することだけだ。出てきたばかりの真尋は、ある程度の傷を負っている。
     そして配下もいない。強力なダークネスとなってしまったことない間違いはないが、灼滅する好機であると言えるだろう。
     この儀式によって残虐な性質を持つようになってしまっているため、ここで灼滅することが出来なければ大きな被害を出してしまう可能性が高い。これを防ぐためにも、みんなには確実に灼滅してもらえたらと思う。
     真尋についてだが、元々は大人しい性質の少年だった。確かに六六六人衆になり得る素質が秘められていたのだろうが、その素質が表に出てきたことは無かった。
     今までは……。縫村委員会の中で自ら守ることがきっかけではあったが、殺し合いをした結果変貌を遂げてしまっている。
     口調も荒々しくなり、自分の目の前にあるものを斬り捨てる。今までは避けたりしていたものを、容赦なく破壊する。
     これは物だけに言えたことではない。摩擦を避けて穏便に接していた人に対しても、真尋は刃を平気で向けるだろう。
     縫村委員会から出てきた真尋は、全てを力でねじ伏せ解決しようとする。そして、力を振るうことが喜びとなってしまっている。
     真尋は殺人鬼とサイキックと日本刀を使ってくる。真尋が現れる場所だが、閉鎖空間と、化していたシャッター街となる。
     人に捨てられたシャッター街であり、過疎化が進んでいるせいか近隣に人は住んでいない。真尋一人になるまでは閉鎖空間が開かれることはない。
     透明なプラスチックに覆われている様な状態になっているため、解かれるまでは内部に侵入出来ないのだ。この壁がなくなった瞬間に、シャッター街に突入して真尋を灼滅してもらうことになる。
     正確な場所はわからないが、南口付近に真尋はいるようだ。
    「無理やり闇堕ちされたと思うと、ちょっと同情したくなっちゃうけど……」
     まりんの声が小さくなっていく。けれど意を決したように、顔を上げたまりんの表情に迷いはない。
    「他の一般人を殺してしまった以上、真尋くんを助ける方法は灼滅だけだと思うんだ!」
     これ以上の被害を出さないためにも、頑張って来て欲しいとまりんが送り出すのだった。


    参加者
    沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)
    桐谷・要(観測者・d04199)
    志那都・達人(菊理の風・d10457)
    志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)
    アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607)
    犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)

    ■リプレイ

    ●開かれた閉鎖空間
     そっと手を伸ばすと、何かに触れる。目の前には寂しいシャッター街が広がっている。
     耳を澄ませても中の音は何も聞こえてこない。この閉鎖空間が解かれるまで何も出来ない。
     そして真尋に対して出来ることも灼滅しかない。そんな自分の無力さに沢崎・虎次郎(衝天突破・d01361)がもう片方の拳を強く握る。
     無力さと同時に六六六人衆の残忍さに我慢ならない憤りを感じていた。
    「完全に闇堕ちしたのであれば、灼滅しか解放の手段は無い……まあ、これが普通ですよね」
     どこか無感動に華鳴・香名(エンプティパペット・d03588)が呟く。自分には闇堕ちした時の記憶がないが、運が良かっただけなのだろう。
     けれど香名にも色々思うところはある。闇堕ちしてしまった部員が、前の戦争で灼滅された。
     しかし色々思うこの気持ちが、寂しい悲しいというような気持ちである事を香名は理解出来ていない。
    「起こってしまったことを悔やんでも仕方ないし……」
     今、自分たちに出来る最善のことをすべきと答えた桐谷・要(観測者・d04199)がためらいは禁物だと付け加える。
     きっちり灼滅して、被害を広げないことが要たちに出来る最善なのだ。
    「真尋がこれ以上罪を重ねないようここで灼滅するのが、せめてもの救いだと信じてるっす」
     後悔は後ですると、虎次郎が一度瞳を伏せて再びまっすぐシャッター街を見つめる。しかしそうするしかないと納得してみせたところで、折り合いをつけるのは難しい。
     何も語らないが、アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607)の周りは隠しきれない怒りが滲み出ている。溢れた怒りが殺気となって空気を震わせる。
     いつもはあまり表情が変わることがないアインの瞳が険しくなっている。望まない戦いを強要させた六六六人衆に対する怒りはとどまることがない。
     ふっと虎次郎の手を支えていた壁が消える。
    「行くっす」
     消えた瞬間に言葉を発すると共に、虎次郎は駆け出していた。同じく犬祀・美紗緒(犬神祀る巫女・d18139)も霊犬のこまと一緒に走り出す。
     迷いなく隣をかけるこまを見て美紗緒がふと思う。霊犬の嗅覚はいかがなものかと。
     普通の犬と同じであるのならば、こまの嗅覚で敵を見つけることが出来れば楽なのだが……。しかし風に乗ってきた血の匂いに、美紗緒は諦めた。
     十五人前後の人の血の匂いが充満している。限定された空間とは言えシャッター街。
     広さはそこそこあるはずなのに、血の匂いが漂ってくる。犠牲になった人たちのことを思って、周囲を警戒しながらも志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)は表情を曇らせる。
     遥斗の心を占めたのは悲しみと怒りだった。何の罪もなかったであろう人たちを無理やり戦わせたことへの怒り。
     奇襲を警戒して志那都・達人(菊理の風・d10457)の後ろを走りながらも、犠牲者のひとりである真尋のことを考えさらに苦い表情に変わっていく。前を走る達人は常に微笑みを浮かべているが、どこか雰囲気が暗くなる。
     六六六人衆がこんなことをしなければ、他の人が殺される理由はなかった。そして、真尋も殺す理由はなかった。
     微かな音に前を歩く灼滅者の足が止まった。
    「雪は、全てを覆い隠す」
     何の感情も映し出さず、梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)が解放の言葉を口にする。綺麗な白髪が微かな風に揺らされる。
     灼滅者たちの目の前には、血で汚れた少年が立っていた。同情はするが、手加減はできない。
     殺人鬼たる自分の、風花なりの終わらせ方だと思っている。だからこそ手加減はしない。
    「終わらせます」
     どこか納得させるように呟いた風花の表情は変わらない。けれど、風花が真尋を見る瞳にはどこか同情が漂っている気がする。
    「は~い真尋くぅ~ん、これで終わったと思ったァ~?」
     香名の言葉に、真尋がのろのろと顔を上げる。
    「おまえらみたいのいなかったよなぁ?」
     最初にいた人間を思い出すように真尋が首を傾げる。どこか人形のような動きに、人だった時の感情も記憶もなくなってしまったのがわかる。
    「まだ出られんぞ。俺たちもここに閉じ込められているんでな」
     未だ出口は解放されてないとアインに言われて、真尋が微かな笑いを漏らす。
    「じゃあ、まだまだ殺さねぇと」
     ゆっくりと灼滅者の方に真尋が体を向ける。
    「それが残念! ここで君の冒険は終わってしまうのでしたァーッ!!」
     言うのと同時に爆炎の魔力を込めた大量の弾丸が真尋に向かって連射される。香名の容赦ない攻撃を受けながらも、真尋の表情は変わらない。
     その間に真尋を包囲するように動き始める。包囲に気づかれないように慎重に立ち位置を選んでいく。
    「あぁ、そういうこと」
     香名の攻撃を受けていた真尋が呟くと、近くにあった壁を蹴った。ふわりと軽い体が空に浮く。
    「空我!」
     ライドキャリバーを呼ぶのと同時に達人が走り出す。空我が横に並んだ瞬間に飛び乗った。
     身軽な動きで屋根に飛び上がり走り出している真尋を追いかける。次の通りで地面に再び戻った真尋の前に達人が立ち塞がる。
     真尋の口元が弧を描くのだった。

    ●包囲網
     瞬きした瞬間だった。次に瞳を開いた時には真尋の姿は消えていた。
     そして足元を襲った衝撃に急いで間合いを取るように空我を走らせた。斬られた足からはポタポタと赤い血が溢れ出る。
     後ろから真尋を負って来た遥斗が視界に真尋を捉えて、魔法の矢を出現させる。みんながたどり着くまでの繋ぎとなるよう矢を放つ。
     放たれた矢に真尋が振り返るが、避けられる距離ではなくなっていた。最小限に傷を抑えるように身を捻った真尋に達人が氷のつららを放つ。
     遥斗と達人の攻撃に挟まれた真尋の動きが一瞬止まる。その足元に黒い影が忍び寄る。
     風花の影が大きく口を開けて、真尋を飲み込もうと伸びる。しかし気づいた真尋が影に飲み込まれる前に地面を蹴った。
    「逃げてばかりでは、終わらんぞ」
     何事もなかったように着地した真尋の瞳がアインを見て微かに見開く。思い切り杭を撃ち込むアインの姿がある。
     そして振動波が一気に襲って来る。衝撃に身を低くして真尋が堪える。
     その体に美紗緒が片腕を異形巨大化させて突っ込んでいく。こまもまた、美紗緒に合わせるようにスピードを上げていく。
     斬り裂こうと飛び出したこまを避けた真尋の目の前に美紗緒が迫る。避けることが出来ないと悟った真尋が身を守るように構えるのと同時に、美紗緒が殴りつけた。
     最小限に衝撃を抑えた真尋はすぐに身を翻して体勢を立て直す。
    「待たせたっす!」
     指先に集めた霊力を達人に撃ちだしながら虎次郎が声をかける。どう動くかと言うように真尋が視線を走らせた時には、真尋を囲むように灼滅者たちが陣取っていた。
     真尋を負うために箒に乗った要が、ふわりと地面に降りる。そして自らを覆うバベルの鎖を瞳に集中させていく。
    「もう逃がしません」
     真尋に向かってまっすぐ地を蹴った風花がオーラを拳に集束させていく。連続で繰り出される風花の拳、全てを避けることは出来ない。
     出来る限り最小限に抑えようとする真尋の死の中心点めがけてアインが飛び込む。拳で真尋を抑えていた風花が、ジェット噴射で一気に距離を縮めるアインに気づきさっと身を翻す。
     突然止んだ拳に真尋が気づいたときには、アインがその体を貫いていた。
    「いてぇだろうが……」
     忌々しそうに呟いた真尋だが、まだ表情には余裕がある。カチャリと言う耳心地のいい音を立てて、綺麗な刃が日の中に晒されていく。
     闇堕ちするまでは間違いなく握ったことすらないであろう日本刀。けれど今の真尋は流れるような美しい動作で刀を構える。
     そして一瞬のうちに鋭い一閃を放っていた。冴え冴えとした月のように、どこか冷たい衝撃が灼滅者を襲う。
     避けることが出来ない衝撃に、後ろにいた四人と一匹は身を守るように構えるのだった。

    ●選択肢のない答え
     剣に刻まれた祝福の言葉を風に変換させた虎次郎が、傷を負った仲間を癒していく。
    「やってくれんじゃん」
     仲間に対しての態度に比べると、かなり凶暴で粗雑な物言いだ。両親を殺された記憶と、ダークネスへの殺意だけがある香名が冷たい瞳で真尋を見る。
     そして躊躇なく漆黒の弾丸を真尋に向かって撃ち出した。衝撃に微かに眉を寄せた真尋をさらに要が放った魔力の光線が貫く。
     こんなことに巻き込まれてしまった真尋を同情するべきなのかもしれないと美紗緒が思う。そしてすぐに意を決するように微かに首を振る。
     どんなに同情したとしても、美紗緒は助ける手段を持ち合わせていない。出来ることは終わらせること。
    「ここで終わらせるよ、こま!」
     美紗緒の声に反応したこまが再び走り出す。放たれた氷のつららに真尋が貫かれるのと同時に、こまが斬り裂く。
     傷を負っていく真尋の姿に、遥斗は再び表情を曇らせる。
    「本当は君のことを救ってあげたいけど、ごめん……こうするしかないんだ」
     助けたくても助けるという答えは用意されていない。悔しそうに溢れた遥斗の言葉に真尋が首を傾げる。
     その冷たい表情には人としての名残はない。遥斗は鋭い裁きの光条を放つ。
     善なるもんなら救われる。けれど、光条は真尋を滅ぼそうと光を放つ。
     遥斗に受けた傷の痛みを飛ばすように、真尋が微かに首を振る。そしてキンと言う金属音と共に刀を納刀する。
     そして飛び出した。素早い身のこなしは未だに衰えていない。
     目の前に迫られたアインが身を固くする。ぞっとするような笑みを浮かべた真尋が一気に抜刀した。
     斬り裂かれた衝撃に、アインの体が揺らぐ。しかし膝をつくことなく痛みに耐えた。
    「そう簡単には殺されはしない」
     アインの反応に気を取られていた真尋がふわりと地面を蹴って間合いを取ろうとする。しかし一歩遅かった。
     影を触手に変えた達人が、真尋の体を絡め取っていく。自由を奪われた表情は不機嫌としか言い様がない。
    「まじでうぜぇ」
     不愉快な感情を隠そうともしない真尋が忌々しげに呟く。逃れようとする真尋を逃がすまいと達人とはさらに影の触手を伸ばす。
     いま達人たちに出来ることは、殺される理由のない人を殺されないようにすることだ。真尋を逃せば確実に殺される理由のない人が殺される。
     全力でそれを阻止すること。それが達人に出来ることだ。
     身動きが取れなくなった真尋に、風花が再び迫る。表には出していないが、こんな事件を起こした六六六人衆が許せない。
     避けられない風花の攻撃の衝撃で、真尋は影の触手から逃れる。地面に手を付けて、その反動で一気に風花との間合いを取る。
     その間に虎次郎がアインを回復する。短期決戦で終わらせたいという灼滅者の思いは霧散するのだった。

    ●消えた命
     鮮やかな赤い髪を微かに揺らしながら要が魔法弾を放つ。同時に真尋に逃げられないよう、空いてしまったスペースを塞ぐように立ち位置を微調整する。
     さらに美紗緒が氷のつららで真尋を追い詰めていく。少しずつ負わされてきた傷に、真尋の息が微かに上がっていた。
     素早かった身のこなしに疲れが見え隠れし始める。
    「くそ……」
     刀を握る手が滑る。片方の手で刀を受け取った真尋が流れた血を振り払うために腕を振り下ろす。
     落ちた血が地面に跡をつけていく。再びしっかりと刀を握った真尋が飛び出す。
     上段に構えた刃が振り下ろされる。風花はその重い斬撃をその身に受ける。
    「あとちょっとっす!」
     頑張ってと言うように、虎次郎が風花を回復していく。間合いを取るように離れようとする真尋の体を、遥斗が魔法の矢で撃ち貫く。
     動こうとしたところを攻撃されて、真尋の体勢が崩れる。その体を達人が影の触手で再び絡め取った。
     身動ぎする真尋の目の前に香名が迫る。
    「はい、それじゃこれでオサラバ! まーた来世ー、アデュー!」
     もうそろそろ限界だろうと言う様に告げながら、香名が真尋を殴りつける。同時に流された魔力が内部から爆破した衝撃に、真尋の体が転がった。
     影の触手から逃れた真尋が何とか立ち上がった時、目の前にはアインが迫っていた。そして真尋の死の中心点が再び貫かれる。
    「恨んでくれてかまわん。……背負うよ、お前の恨みも、悲しみも……」
     瞳を見開いた真尋の体が地面に崩れ落ちる。そして跡形もなく消えていく。
     再びシャッター街が静寂に包まれる。
    「もうこんな悲劇を二度と見たくないな」
     ポツリと呟いた遥斗がそっと地面に触れる。真尋がいたはずのその場所は、何事もなかったように冷たい。
    「……せめて、安らかに眠ってください」
     その言葉は真尋だけではなく、巻き込まれた罪の無い命たちに向けて紡がれる。シャッターが落とされて、人の気配が全くしない姿を美紗緒は無言で見渡す。
     まるで死んでいるようだ。再びシャッターが上げられることのないシャッター街は、街が死んだ姿の様に美紗緒には映る。
     巻き込まれた人たちを探して、美紗緒はこまと一緒に歩き出した。このシャッター街が息を吹き返すことはない。
     ただ静かに、消えた命と共に眠り続けるのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月20日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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