鎖縛の獣

    作者:東城エリ

     廃屋となったビルの屋上。
     ビルに踏み入れたときには、数多くの塾生たちがいた。
     20人ほどか。
     顔は何度か見かけたことはあるが、名前までは知らない。
     そのせいか群れのように固まることはなく、間隔をあけて立っている。
     手にしているのは、本の詰まった重い鞄ではなく、冷たい輝きを宿す凶器。
     慣れない感触に何度か持ち直したりしているうちに、凶器は冷たいものではなく、温かなものへと少しずつ変わっていく。
     自身に宿る凶性が徐々に目覚めていくようだった。
     外壁や床材は取り払われ、骨組みだけが寒々として見える。
     剥がれかけた錆止めの色が血色にも見え、思わず空を見上げた。
     夜空の色が一段鈍い。
     高層にあるはずなのに、吹き付ける風は少し優しい。
     それは、外とこの異質な空間を隔てる薄い膜のような壁があるからだ。
     逃げようと押しても破れずに、焦りを生む。
     逃げられないことに腹を立てた1人の男が喚いている。
     煩い! とすぐに声が上がり、押し殺すような唸り声と共に、静かになった。
     静かな場所に行きたい。
     そう思うも、行動に移せずにいる。
     それもこれも、カッターを手にしたルーラーの少年がゲームを始めたせい。

    『今から24時間戦ってもらう。この中から出られるのは、勝ち抜いて生き残った勝利者ただひとり。さぁ、殺し合いを始めろ』

     歪な感情を宿した声音で告げた後、恐怖が満ちた。
     本当に殺し合うのか、と。
     だが、それは杞憂。
     元々、粗暴さを内に秘めていた者達ばかりが集まっている。
     進学塾に通う生徒達は皆競争相手だ。
     数少ない枠を狙うのは、進学塾でもこのゲームでも変わらない。
     立体的な狩りの舞台で立ち回り、殺し合うだけだ。
     今はペンではなく、凶器を手にしている。
     刃は身体の一部のように馴染む。
     解き放たれた獣性のままに、手にした鋼の糸を振るい始めた。
     生き残るために。
     それからリミットの24時間が近づいた頃、最初はぎこちなかった1人の少年、佐々木・翼の動きがなめらかになっていた。
     高所から突き落とし、解答を導き出す頭部を切り飛ばす。
     立ちはだかってくる邪魔者を排除する。
     問題をひとつ解いていくように、ひとつずつ。
    「はははは! なんだ、簡単じゃないか。この中で一番になるのは」
     競争してきた相手が、こんなに弱いなんて思わなかった。
     赤い雫が鋼の糸からツ……っと垂れる。
    「僕が一番だ。出せよ、ここから!」
     もっと切り刻んで高みを目指すのだ。
     
    「それでは始めます」
     斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)は、集まった灼滅者たちに話を始める。
     武蔵坂学園の灼滅者を襲撃してきた六六六人衆ですが、新たな動きがあったようです。
     年明けから始まった暗殺ゲームでは、皆さんの活躍で多くの六六六人衆を灼滅する事ができました。
     ですが、そのことに危機感を覚えたようで、新たな六六六人衆を生み出す儀式を始めました。
     この儀式を行っているのは、同じく六六六人衆の縫村針子とカットスローターの2人。
     閉鎖空間に集められた一般人に殺し合いをさせ、最後に勝ち残った者が六六六人衆となることで、新たな六六六人衆が生み出される。
     この儀式によって生み出された六六六人衆は、完全に闇堕ちし、救うことは不可能です。
     儀式の過酷さのせいかどうかは不明ですが、六六六人衆の中でも、より残虐な性格へと変貌するようです。
     閉鎖空間から出てきたばかりの六六六人衆は、殺し合いのダメージを身体に受け、配下もいません。
     万全でない今は、好機と言えるでしょう。
     灼滅することが出来なければ、新たな六六六人衆を野に放つことになってしまいます。
     逃がすことなく、灼滅を。
     
    「六六六人衆として生まれた人物についてですが、佐々木・翼さんは、進学校に通う真面目な人柄だったようです」
     部活動をすることなく、下校後は塾に通い、深夜近くに帰宅する毎日。
     閉鎖空間、縫村委員会での殺し合いの結果、その真面目さは歪んだ方向に変化しました。
     進学校で人よりも上の順位を、誰よりも上を望んでいた心が顕在化。
     武力でも上を望むようになってしまったのです。
     殺し合いをしていく中で、自分の腕が上達していく様も上昇志向に合ったのでしょう。
     六六六人衆という性質が、不幸ながらうまく噛み合ったというしかありません。
     真面目だった彼は、殺しの技に魅入られてしまいました。

     六六六人衆、佐々木・翼の能力ですが、殺人鬼のサイキックと鋼糸のサイキックを使用します。
     殺し合いで勝ち抜いたものの、自身も無傷では居られなかったのでしょう、佐々木はダメージを受けています。
     2割ほどでしょうか。
     彼が現れる場所は、殺し合いの舞台となった廃屋のビルのどこかです。
     ほぼ骨組みとだけとなった廃屋のビル全体を使った殺し合いだったので。
     ビル自体は8階建てで、1階から屋上までが殺し合いの舞台でした。
     階を移動する為の手段は、建物内部にある2つの階段と、それよりも幅の狭い階段の3つです。
     幅の狭い階段は、非常階段だったのでしょう。
     外壁は取り払われていますから、空飛ぶ箒があれば、いきなり3階に乗り込むことは可能ではあります。
     灯りとなる物はありません。
     屋上は月明かりが届きます。
     1階の広さは、約30メートル四方。
     床材は、取り去られている箇所もあるので、注意が必要です。
     床から天井までの高さは、約3メートル。
     内部の構造は、殺し合いをした佐々木の方が熟知しています。
     皆さんには、閉鎖空間内での決着がつくまでビルの外で待機して頂くことになります。
     閉鎖空間が解除されたら、ビル内部へと侵入し、六六六人衆となった佐々木・翼を探しだし、灼滅をお願いします。
     舞台となった廃墟のビルでは、佐々木の競争者であった者たちの死体がうち捨てられているとは思いますが、目の前の敵に集中して下さい。
     
    「灼滅対象についての情報は以上です。強制的に闇堕ちさせられ、殺し合いをしなければならなかった境遇には同情すべき所はあるでしょうが、六六六人衆となったからには、助けることは不可能です。後は、被害が出る前に皆さんに灼滅していただく道しかありません」
     晄は、よろしくお願いします、と話を締め見送った。


    参加者
    陽瀬・すずめ(パッセロ・d01665)
    一・葉(デッドロック・d02409)
    三条・美潮(高校生サウンドソルジャー・d03943)
    紅羽・流希(挑戦者・d10975)
    下総・水無(少女魔境・d11060)
    星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)
    屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)
    藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)

    ■リプレイ

    ●闇夜捜索
     瓦礫となった廃材などは片付けられてあるのか、骨組みだけとなったビルだけが外からうかがえる。
     赤錆た骨格が、中で行われているであろう惨劇を思うと、血のように見えた。
     建物に近い場所に集まり、封鎖された空間が解放されるまで待つ。
    「ういっす。っても世間話するにゃ、空気悪過ぎッスけど」
     三条・美潮(高校生サウンドソルジャー・d03943)は苦笑を浮かべながら、一・葉(デッドロック・d02409)声を掛けた。
    「みっしー、おつ」
     葉は手を軽くあげ、応じる。手の中にコンパスが収まる。あとで捜索するときに役立てばと美潮が用意した物だ。
    「物音ひとつしてこないは不気味ですね」
     インバネスコートにハンチング帽という古きよき時代の探偵の服装をした星陵院・綾(パーフェクトディテクティブ・d13622)は、ビルの方へと視線を向けたまま、口にする。
    「競うとは時に、常軌を逸してしまう物なのでしょうかねぇ……」
     紅羽・流希(挑戦者・d10975)は、勝利者となって現れる佐々木の人となりを考える。
    「勉強が出来るっていうだけで尊敬しちゃうよ」
     勉強の成績は残念なことが多い陽瀬・すずめ(パッセロ・d01665)としては、勉強が出来るというだけで十分な美点だと思うのだ。
    (「上を望むようになったって、親の押しつけの反動か? ……気持ちはわかるけど一線超えちゃったら後戻りできないんだよな…」)
     殺人ゲームの生還者である屍々戸谷・桔梗(血に餓えた遺産・d15911)は、理解を示しながらも、片道切符を手に進んでしまった以上もう戻る事はない。
     ビルをぴったりと覆っていた半透明の壁はすうっと、夜闇に溶けて消えた。
     同時に風に運ばれてくる血臭。
    「一気に血腥くなりましたね」
     紫水晶の様な瞳をわずかに細めて、これから始まる戦いに下総・水無(少女魔境・d11060)は、口元に笑みを刻んだ。
    「1番なのは、ほんの少しです。ウザいですけど、教えてやりましょう」
     一房だけ色の違い毛先をくるりと指先で遊んでいたのを藤堂・恵理華(紫電灼刃・d20592)は手放した。
    (「閉鎖空間で殺し合い、生き残れるのは1人。蠱毒さながらの状況から誕生した六六六人衆。――絶対に逃がしません。果てるまでお相手して頂きます」)
     死の香り漂う舞台へと踏み入れる。
     籠もっていた熱が解き放たれたことで、新たな六六六人衆として生まれた佐々木・翼は冷静さを取り戻したのか、ビルの中に気配を溶け込ませてしまっているようだった。
     事前に決めて居たとおりに、行動を開始する。
     視界の確保に灯りは各自持っている。両手が塞がらないように、胸ポケットや腰に吊したりと、工夫をしていた。
     携帯番号の交換も済んで、通話中に変更してある。
     そのままハンズフリーで、互いの状況が分かるというものだ。
     1階に留まり、出入口を塞ぎ、階段から下りてくる場合に備えるのは、すずめと葉、水無と恵理華の4人。
     佐々木を捜索するのは、美潮と流希、綾と桔梗の4人。1階ずつ確かめて、範囲を狭めて行くのだ。

     佐々木捜索の為、階段を駆け上がっていった仲間を見送ると、1階で待機組は出入口をメインに、2つの階段と幅の狭い非常階段だったと思われる階段から降りてきた場合を備えて、目を配る。
    「襲撃に備え物音や動くもの、転がる死体等にも注意を払ってね」
     すずめはそう言いながら、周囲へと注意を払う。
     1階全体の全容が分かるように洋燈を床に置いてある。恵理華が設置を終え、出入口の方へと戻って来た。
    「死体の振りから奇襲、という可能性も捨てきれませんから」
     上階から降ってきた血の雫や血溜まりはあるが、死体はない。
     屋上から殺し合いが始まり、1階まで到達できた者が居なかったのか、それまでに殺し合いが始まり戦場となったのが1階より上階であったのかもしれなかった。
     血腥いはずの空間も仲間と繋がっているという安心感か、死体を見たとしても変に意識をしなくて済む。
     佐々木との戦闘が終われば、走馬燈使いの力でこのビルから解放することもできる。
     放置したままになっているのをすまないと脳裏で謝りつつも、今は脇に置いておくしかなかった。
    「2階に目標なしっすわ」
     美潮はネックストラップに繋げてある携帯電話へと意識的に向け、報告する。
    「おーけー」
     葉は応答しつつ、佐々木は出入口に近い階に居ないのなら、屋上に近い階にいるのではないかと考える。
     漸く解放されると思ったら、出入口には見知らぬ集団がやって来れば、よほどの馬鹿ではない限り、様子を見るだろう。
     数で負けるとは思ってはいないだろうが、ふと冷静になる時だってあるはずだった。
     そう考えると、上階へ上階へと追い詰めているということだ。
     順調に3階へと上る。美潮は床に転がった瓦礫や床の抜けている箇所を見つけると、後ろにいる仲間に注意を促す。
     流希は死体を発見すると、じっと見定める。動かないのを確認すると、次へと注意を向ける。目だけではなく、五感も研ぎ澄まして。
     桔梗を始め探索組はエアライドを活性化させてある。ローラー作戦で隅々まで捜索していっているが万が一、待機組の方に現れた場合に備えて一気に降りる為だ。
     逆に待機組は上階に現れたとき、階段を駆け上がらずともショートカット出来るよう、壁歩きを活性化させてあった。

    ●標的強襲
     4階へとあがり、何事もなく5階にと上がろうとしたとき、綾は灯りの照らした先で、階下で見たときよりも影が長いのが気に掛かった。
    「……発見したかも知れません。包囲お願いします」
     綾の示す先を中心に美潮と流希、桔梗が向かおうとするが、包囲網の完成していない部分からすり抜け、穴の開いた床に飛び込み、階下へと向かう。
    「漸く外にでられる筈だったのに。どうして邪魔ばかり!」
     ダッフルコートを真っ赤に染めた小柄な佐々木は悪態をつく。漸く出られると思ったら、すぐに現れた邪魔者。ダメージも回復しきっていないというのに、隠れるのは本意では無かったが、何のために来たのかを確かめたかったのだ。
     どうやら自分を探しているのだと気づき、逃げやすい場所に近づく必要があると、潜んでいたら用心深い探索者に見つかったと言うわけだった。
    「やっこさんは、床の穴から逃走中。1階を目指してるっす。出入口に近い壁をあるいて、2階に侵入、右側の階段近くで迎撃たのんますわ。こっちはエアライドで追いかけるっす」
    「了解」
     葉は言葉少なに答えると、即座に行動に移す。
     出入口から外へ出、壁歩きで2階へと上がると、通話中になっている探索組の物音が近くなる。
     一番最初に到着したのは、すずめと葉、水無と恵理華の4人。
     佐々木を迎え撃つように、立ちふさがる。
     追いかけてくるのは美潮と流希、綾と桔梗の4人。
     挟み撃ちされた佐々木は、床を踏みつけた。
     だん、と音が響く。苛立ちを隠しきれずに出た行動だろう。
     床から闇が解き放たれ、襲い掛かる。簡単に抜け出すのは難しいと踏んだ為に、守りの力を堅くする。

    「こういう無理やり歪めてってやり口は気にイラねぇッスわ。仕切ってる奴は叩いてやんねぇと」
     美潮は不快げに眉を寄せ、被害者であり加害者でもある佐々木を見やる。
    「他人を蹴落とすのですから、勿論、自分が蹴落とされる覚悟も出来てますよね?」
     覚悟は良いですか? と距離を詰める。
    (「強制的に殺し合いをさせられたことには同情しますよ。闇堕ちしてしまった以上、容赦はできませんがね」)
     水無は躊躇いなく接敵し、硬質な輝きを宿すマテリアルロッドを下方から振り抜き勢いをつけ、殴りつけた。同時に魔力が流し込まれ爆ぜる。
     跳ねながら一歩下がると長い金髪が揺れた。その中から覗く表情は、戦いに身を置くという状況を十分に楽しんでいるのが分かった。
     身を浮かせている佐々木の上方から、葉が影を宿した拳を叩き込む。
    「挨拶代わりだ。ゲームに隠しステージはつきもんだろ? 俺達を倒さねぇと、こっから出られねぇぜ、ルーキー」
     逃げられると思うなよと、精神的にも追い詰めていく。
     殴りつけた感触の残る拳を視界の端に収め、箍の外れた佐々木を見る。
    (「同情なんかしねぇよ。元々人殺しの素質がなきゃ生き残れねぇもんだしな。でもまあ、小テストで一番取ったくれぇで浮かれてんじゃまだまだだな」)
     ぎりと歯を食いしばった口の端から血が垂れる。
     多くは殺し合いの相手の流した血で汚れていた身も、佐々木自身の血でも染めていく。
    「さて、殺し合いの勉強時間だ。復習はあの世になるがな」
     堀川国広の銘を持つ日本刀を身体の一部であるかのように扱う流希は、佐々木の死角へと回り込み斬り裂き、冷酷さを秘めた声音で紡ぐ。
    「お前の境遇に同情の余地もあると思うが、人を殺す快感に目覚めた奴を野放しにはできないんでな。大人しくここで灼滅されておけ」
    (「……後で、哀れんでやるからよ」)
     妖の槍に捻りを加え、力を転化させた刃で突き入れた。
     佐々木の先ほどまでの自分優位だった世界とは違うと分かったのか、余裕のない表情を見せ始める。
    「1番だったらいいんだ。何だって殺して仕舞えば簡単なんだ」
     傷つけ、動かなくすれば勝ちという単純な世界。
    「プツンと吹っ切れて、いっぱい殺して……君のせいだけじゃないけど、やりすぎちゃったね」
     すずめは憂いを含んだ黒瞳で見つめた。
    「勉強の出来る奴らだってそうだろ。一緒だ」
     その手段が、殺すことなのか勉強なのかの違いだけだ。佐々木の中では天秤は傾いてしまっている。
    「君みたいな危ないのはいちゃいけないの。頭ぶっ飛んじゃった君にも、それくらいわかるよね?」
    「否定する奴は皆敵だ!」
     聞く耳を持たないとばかりに、遮る様に大声で返す。
     戦場に響く佐々木の叫び。
    「ウザいです」
     恵理華は無遠慮にも感じられるジト目を佐々木へと注ぎ、佐々木の近くに位置する仲間を癒し、殲術道具に破壊の力を付与した。
     綾は名探偵が犯人にするように、指を佐々木に突きつける。
    「今の貴方は、「一番」下劣で、「一番」頭のおかしい、そして「一番」裁きに相応しい人です!」
     雪の結晶が煌めくアイスクライムを振りかぶり、死の力を秘めた刃を振り下ろした。
    「煩い。煩いっ! 僕を否定するな!」
     面と向かって否定される事など無かったのだろう、聞き分けのない子どもが喚くようだ。
     聞く耳など持たない駄々っ子。
     美潮は後方から仲間の状態を確かめ、今は攻撃の時と判断すると両手からオーラを射出する。
    「似たもの同士、楽しく逝こうぜ!」
     WOKシールドの障壁を手の甲に展開し、佐々木に叩きつけた。ポニーテールにした黒髪が踊るように動く。
     後戻りできた者と後戻りできなかった者。
     もしかしたら自分であったかも知れない未来だと思うと、拳にも力が入る。
     佐々木は容赦なく攻めた立ててくる者達に舌打ちをした。
    「僕の邪魔をする奴は皆死んでしまえ!」
     赤く染まった鋼の糸を周囲に張り巡らせる。引き寄せ放たれる糸は、細いながらも十分に凶器となる。
     それは全てを拒絶する繭のよう。
     佐々木は内に籠もるでなく、凶性で押し潰そうとしているが。
    「どっせーい!」
     水無のかけ声と共に繰り出されるのは、ロケットハンマー。噴射の加速と共に殴りつける。
    「なりたては端からお呼びじゃねぇンだよ」
    ((用があるのは、アイツなんだわ」)
     葉は夜空に浮かぶ月を思い浮かべ、鋭い眼差しを向けた。
     流希は冷静に堀川国広を振るい、佐々木の足を切りつけ動きを鈍らせる。
     床には佐々木が他者を害した血ばかりだったが、自身の血も混ざり始めていた。
     元々ダメージを受けていたぶん、更に傷口が広がったということだろう。
     回復に努めないのは、数を相手にするには追いつかないと理解しているのだ。
     綾がサイキックソードを手に、横薙ぎに払う。
     光輝が一瞬残像のように現れ、消えた。
     すずめの召喚した赤いオーラを纏った逆十字が佐々木を切り裂こうと重なる。
     恵理華は腕を伸ばし、射貫くようにサイキックソードの刃を撃ち出す。
     クルセイドソードに刻まれた祝福の言葉を美潮は風へと変換し、癒していく。
     桔梗は拳にオーラを集中させ、その力を連打として叩き込むが、佐々木はまだ頽れること無く立ち続ける。
     多数を相手に仕掛けても大きく削ることは難しく、傷を癒されてしまう。
     ひとりに集中しても、落とすことも出来ず、八方塞がりだ。
     だが、佐々木には冷静に考える余裕など既に無かった。
     目の前の敵を排除する事に向いて、視野狭窄に陥っている事を理解できないでいた。
    「僕は、ここから出る、んだ」
     佐々木が桔梗の死角へ身体を回り込ませ、切り裂く。
    「僕は、ここから、出る」
     まるで自身に暗示をかける様に、何度も呟いている。
    「さようなら。どうぞ恨んで下さいませ」
     水無は、遭遇したときよりは飽いた表情を浮かべ、マテリアルロッドで強打した。
     流し込まれる膨大な魔力が爆ぜ、佐々木は後方に吹っ飛ばされ、床に叩きつけられる。
    「僕は……」
     自身の流す血の海に浸り、立ち上がる事が出来ないまま、動きを止めた。

    「……何とも得体のしれない怪物だったが……、自分の気持ちに忠実ってだけだったのかもな……」
     桔梗は佐々木をの倒れた場所を見つめ、呟いた。
     自分と似た境遇だった佐々木を簡易ながらも弔ってやりたいと思っていたが、消滅してしまった。
     灼滅する事でしか救いは無かったのだ。

    ●闇にとける
     戦いが終わると、走馬燈使いを使える者達で分担すると、探索時に見つけてあった死体に仮初めの命を吹き込む。
    「せめて、自然な最期を迎えられますよう……」
     綾は、目を伏せると次の死体へと足を向ける。
     動き出した者達へと向ける流希の眼差しは哀れみ。

    「ほんっと趣味悪い事してくれるよ、カットなんとかってやつ。この人も、殺されちゃった皆も怖かったし、痛かったし……想像したくないや。とにかく、私あいつ嫌い」
     すずめは湧き上がった怒りを口にする。
     仮初めの命を吹き込まれ、ビルから移動し始めた者達を見送り、殺し合いの舞台となった場所を去る。
     後には、血溜まりだけが残るばかり。

    作者:東城エリ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月24日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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