滝壺の魔性

    作者:君島世界

     静岡の山中にある滝でのこと。人気の絶えた滝の側、林の陰から痩せた狼が姿を現した。
     スサノオである。その、片目の潰れた四つ足の獣は、轟音立てて流れる清水を舐め取ろうともせずに、それからしばらく瀬の端に居て滝壺を眺めていた。
     夕陽は既に沈み、ざあざと鳴る音があたりの大半を占めている。鬱蒼とした茂みから微かに漏れる星明りが、スサノオの目を輝かせた。
     スサノオは瞬きし、滝壺に背を向けて歩き始める。その姿は現れた時と同じように闇の中へ去り、入れ替わりに別の何かが、周囲の空気を重く支配した。
     和装の女が一人、いつの間にか、滝壺を臨む切り株の上に居て、脚を崩して座っている。その足首には太い鉄鎖がくくりつけられていて、どうやら近くの地面に縛められている様ではあった。
    「フフ……フ……フフフ……」
     女はしかし、凄惨に笑っている。と、その指先からするすると銀色の糸が伸び、近くの木の幹を辿り始めた。
     ぐしゃりと、有機物がいくつかまとめて絞り潰された音がする。
     
    「『絡新婦(じょろうぐも)』という妖怪伝説が、スサノオによって古の畏れとして呼び出されるようですの。呼び出された絡新婦は、周囲を通りがかる生き物全てを捕らえ、殺害しようとする危険な存在となりますので、犠牲者が出る前の灼滅をお願いいたしますわ」
     鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)は、そう言って教室内を見回す。いつどおり真剣に話を聞いてくれる彼らを、仁鴉は心強く思い、微笑んだ。
    「現場となるのは、静岡県伊豆市の山の中にある滝ですわ。観光地として有名な場所で、日のある間は人通りも多いのですが、幸いなことに事件が発生するのは夜間でして、その頃には周囲に一般人は残っていないはずですの。
     現場へは通常の順路を通って行き、午後11時になったら滝壺近くの広場に入ってくださいませ。ちょうどその頃に、絡新婦が皆様の前に出てくるはずですの。それ以外の接触方法は何らかの危険を招く可能性がありますので、避けていただけたらと思っておりますわ」
     
     伝説によれば、絡新婦は犠牲者を糸で捕らえ滝壺の底に引きずり込んだという。しかし、今回灼滅者たちが出会う古の畏れとしての絡新婦は、自ら出向いて手を下すやり方も好むようだ。滝壺にさえ近寄らなければ安全、ということは決してない。
     使用するサイキックは、ダンピールと鋼糸のものに酷似している。ターゲットとして決めた人物に捕縛や催眠をかけ、ドレイン効果を持つ噛み付き攻撃で追撃するといった連携を使うことが多い。前衛・中衛の誰か一人に攻撃が集中することとなるので、そのための準備はしておいて欲しい。
     
    「この事件の元凶であるスサノオの行方は、依然明らかになっておりませんの。今回の現場にも、それらしい痕跡は残らないようですわ。
     ですがきっと、解る時が来るはずです。
     いつか敵の尻尾を掴むその日のためにも、まずは目の前の事件を解決すること、ですわ。武蔵坂学園で、皆様の吉報をお待ちしておりますわね」


    参加者
    二夕月・海月(くらげ娘・d01805)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)
    月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)
    八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)
    皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)
    海堂・月子(ディープブラッド・d06929)
    リーファ・エア(夢追い人・d07755)
    葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)

    ■リプレイ

    ●滝へ
     夜、肌寒い水辺を、灼滅者たちは歩いていた。
     ごくまれに街道を車が通るとわかるくらいで、人工の騒音は、山を越える途中で森に吸い込まれて消えるらしい。静かな場所だ。遠くない滝からひっきりなしにざわめきが聞こえては来るが、それは静寂の印象をけして損なう物ではない。
     この奥に、古の畏れ『絡新婦』がいるという。現場へ近づくにつれて、特にリーファ・エア(夢追い人・d07755)を顕著な例として、彼らのテンションは暖まっていった。
    「そう! こんな夜遅くに、セクシー系の美女が! しかも寒いですし、これで楽しませてくれなかったら訴えますよ!」
    「安心せい、何もないなどということはありゅまい。……じゃが、各所でスサノオの本体も捕捉しておりゅようじゃし、この騒動そろそろ終わりにしたいものよの」
     シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)は毅然とした態度で言う。その一方、戦いへの不安から小さく動悸を乱す者もいた。
    (「回復役は久しぶりだな。体が覚えていればいいが」)
     二夕月・海月(くらげ娘・d01805)だ。海月はふと、近くに浮かんでいた仲間のナノナノ『九紡』を手招きすると、その肩に相当する部分を手もみでマッサージし始めた。
    「今回は頼りにしてるからなー、九紡」
    「ナ、ナノ、ナノナノ。ナ~ノ、ナノ……」
    「ま、リラックスのためならいくらでも揉んでやってくれ。九紡も本望だろうさ」
     八槻・十織(黙さぬ箱・d05764)は、九紡をさせるがままにして手元の時計を見る。時間調整の必要は、どうやら無いようだ。
    「このまま広場に踏み込もう。滑るのも相変わらずだから、続けて足元には要注意だ」
    「美女にみとれてふらふら~ってもナシですよー?」
     リーファが口元に指を立てると、十織は苦笑して頭をかいた。と、シルフィーゼが取り出した日本刀の切っ先を、すっと奥に向ける。
    「そこに居りゅようじゃな。その姿を儂に見せりゅがよい、絡新婦!」
     ごう、と風が吹く。木々の葉をばたばたと騒がせた風の向こうに、すると女の肌が見えた。
    「アア」
     場違いなほど薄い絹の衣。だらしなく肌蹴た裾から、鎖に繋がれた白い足がのぞく。長い黒髪が木々の闇から抜け出すと、女――絡新婦は、一見人懐っこく笑った。
     その掲げる右手に、小さな赤い糸の塊がある。いや、満遍なく赤いのではない。その赤は中心に近いほど濃く、外側、あるいは女の手元では、月光を紡いだかのような清楚な白色をたたえていた。
     ぞく、という寒気と共に連想したものが、そのまま答えであった。血の赤。
    「アマイ、アマイワ……フフ、フ、ヒ」
     肘にまで染み出した血を、異様に長く紅い舌が舐め上げていた。
    「これが古の畏れ、絡新婦ですか……」
     葦原・統弥(黒曜の刃・d21438)は呟き、無敵斬艦刀『フレイムクラウン』を斜に構える。鋭い視線と『殺界形成』を、刃越しに流した。
    「生き物を無差別に襲うとは、どうしようもない相手ですね。伝説の方がまだマシです」
    「ああ、気味の悪い敵だ」
     言葉短く断じて、月岡・朗(虚空の紅炎・d03972)も立ち位置を定める。ビハインドの『燿子』とは一旦離れて、己は統弥と並んでのスナイパーを行うつもりだ。
    「手早く終わらせたいものだ。あの姿、見続けるには厭わしい」
    「それに、一般人の被害が出るのもいけないからね♪ 『さあ、狩りの時間だ!』」
     皇樹・桜(家族を守る剣・d06215)が、前に歩み出て殲術道具を取り出す。眼前を得物の刀身が横切ると、桜の雰囲気が戦いのそれに切り替わった。
    「――殺し甲斐があるといいが。せいぜい、楽しませてもらおうか」
    「ふふ、焦っちゃダメよ皇樹さん。絡新婦が誰を狙うのか、まずはそこを見極めないと」
     海堂・月子(ディープブラッド・d06929)がたしなめるように囁く。そんな警戒の言葉とは裏腹に、彼女は嫣然と笑いかけ、手招きした。
    「でも、アナタ如きに怯える理由はないわ。――溺れる夜を始めましょう?」
    「シチニン、ハチニン」
     絡新婦は、血に汚れた口を拭いもせず、凄惨に笑う。
    「タリナイワ」

    ●蜘蛛の狩場
    「嫌な顔を――」
     統弥が地を蹴った。跳ねた石が音を立てるより早く、青い電光の拳が絡新婦の腹を打つ。
    「伝説と現実は別物です。犠牲者は出さずに、ここで倒す」
    「……ヒ、フヒ」
     間をおいて、衝撃が敵の背に抜けた。打点から白煙を上げるのは、しかし、糸の防護幕か。
    「アミモノジョウズ、ヨメニ、ホシカロ?」
    「さすが蜘蛛女、って所ですかー!」
     と、リーファが駆け出していた。手にしたクルセイドソード『L・D』が、対照的に赤く、軌道に斬線を描いていく。
    「図らずもここでトリコロール成立ですけど」
     聖剣が、蜘蛛の縦糸をまとめて切り払った。刃に残るそれ以外の手応えに、リーファは挑戦的な表情を強めていく。
    「その白、いらないですよねっ!」
    「トリ、コロ、ス……」
     絡新婦は頬の傷を撫でた。指先に残る新しい糸が染まるのを、無感動に見て。
    「……ソレモ、トクイヨ?」
     まばたきを一つすると、瞳から怪しげな赤光が発せられた。視線の先に、十織の両目がある。
    「っ!」
     ず、と十織の身中を何かが走った。正面から怪光を当てられ、たじろいで一歩を退く。
    「俺狙いかよ……ただの綺麗なオネーサンなら、願ったり叶ったりなんだがな」
    「ナノッ!」
    「八槻! 大丈夫か、今……」
     九紡と海月がほぼ同時に反応を見せた。十織は掌をそちらに向け、制止のしぐさをとる。
    「大丈夫だ。作戦通り、俺はこのまま――」
     ――意図に反して、十織はクルセイドソードを手に取った。その刀身から風が吹き出すと、海月は制止を無視して同じサイキックを用意し始める。
    「もう、言わんこっちゃない……行こう、九紡!」
    「ナノナノ!」
     絡新婦へのセイクリッドウインドこそ止められなかったものの、メディック両名の治癒サイキックが十織の催眠を払い飛ばした。絡新婦は、依然微笑み続けている。
    「やれやれ。守りを固めねばならんのは億劫じゃのぅ」
     溜息をついて、シルフィーゼが懐からリングスラッシャーを撒き散らした。少女が指を鳴らすと、それらは絡新婦の攻撃対象である十織の周囲へ滑空していく。
    「多少は攻撃を耐えりゅ助けにはなりゅじゃろう。何にせよ精進じゃぞお主。慎め」
     応援しているのか苦言を呈しているのか。ともあれ――新局面を迎えた戦場に、朗が意を決して駆け上がっていく。
    「この一閃、見切れるものならそうしてみろ」
    「タヤスイ、タヤスイ……ッ!?」
     突き進む朗と迎え撃つ絡新婦。激突の寸前で、攻め手が太刀筋をねじり、変化させた。空中にほどけたリボンのような残光を引いて、炎剣が縦に落ちる。
    「せいっ!」
    「クァ……! イケズナ、トノガタネ……ェ」
     斬られた絡新婦は肩口の移り火を消そうともせず、その大顎をがぶりと開いた。人を模したその顔の裏側、頬から舌まで何もかもに、鋭利な牙が生えている。
    「マタアトデ、ジックリ、アソビマショ!」
    「――あら、意外と一途なのかしら」
     鎖を鳴らしながら駆け寄る絡新婦を、飛び込んできた月子が妨げていた。力のせめぎ合いが、こらえる彼女の全身に震えを強いる。
    「ふふ、何処を見ていたの? アナタの相手はこちらにもいるわ」
    「オドキ! アノオトコハ、ワラワノモノゾ!」
    「なるほど。そういうタイプの……ねっ!」
     月子はようやく身を翻し、直撃を回避した。と、絡新婦は即座に間合いを離し、顔を背けて、後ろから掛かってくる桜を捉える。
    「ツギカラ、ツギニ!」
    「そうだ、そうこないとな! 絡新婦ッ!」
     張り巡らされる巣の防壁を、しかし桜は一刀のもとに切り裂いた。全身に纏う魔力の霧が、その威力を後押ししたようだ。
    「――!」
     刀を引き、突きに構え直す桜。呼吸を止めた専心の先に、赤い飛沫がぱぁっと咲いた。

    ●蜘蛛を殺す
    「準備完了。いくかの」
     桜の霧を身に帯びたシルフィーゼが、絡新婦へとステップを踏んだ。ドレスのフリルが、それにあわせて揺れ動く。
    「シツコイ、メスドモ……メ!」
     絡新婦が腕を振ると、糸は直線形の罠として張り巡らされた。しかしシルフィーゼは、それらを滑る独楽のようにさらりと抜ける。
    「無駄無駄、無駄じゃ」
     低姿勢からの回し斬りが、絡新婦の横腹を打った。その攻防に、いつになくやる気の十織が己を交えていく。
    「ホワイトデーはまだ先だが、熱視線の礼だ。三倍にして返す」
     その爪先から、狩り蜂の影業が飛び立った。レギオンを組んで飛ぶそれらは、次第に個のシルエットを失っていく。
    「だが勘違いするな絡新婦。俺は、命を粗末に扱うヤツと付き合う気はねぇ」
     と、目をすがめて言い捨てる十織。絡新婦の表情は蜂に隠れて見えず、また見ようともせず、統弥は横構えのフレイムクラウンを振り払った。
    「砕けろ……!」
     ゴゥウウッ!
     超重量の鉄塊が、相応しい膂力で扱われる時、全くの粉砕をそこに現す。……が、敵も超常の者、目尻を痙攣させながらも、絡新婦は五体満足でそこに立っていた。
    「ワラワノ、スニ、フミコンダコト……」
    「…………」
    「コウカイスルコトヲ、ユルソウゾ!」
     裂帛の怒声と共に、灼滅者たち数名の足元から蜘蛛糸の塊が吹き上げた。十織をはじめ、その周囲にいた前衛たちが飲み込まれる。
    「八槻、シルフィーゼ! 海堂もか……!」
     難を逃れた海月が、聖剣を再び逆手に提げ持った。体を繭に包まれた仲間たちを前に、息を鋭く吐いて集中を高めていく。
    「フフフ……ヒヒ、ヒ……」
     絡新婦が嘲笑う。複眼がぐるりと巡り、歓喜の光を湛えるのを見ると、海月の意識は白熱した。
    「お前なんかに、仲間を渡してたまるもんか!」
     暴発――に見まがう程の勢いで、浄化の風が蜘蛛の巣を吹き払う。風圧に洗われた地上を、すると桜の影業がざわざわと這い進んでいった。
    「これ以上好き勝手させるかぁっ!」
     桜が手を横に振り払うと、青筋の浮いた額が露になった。同時に、絡新婦の周囲から、影の触手が何本も立ち上がる。
    「閉鎖しろっ、私の影業!」
     襲い掛かる触手に、絡新婦は身を捻って回避を狙う。が、動きに遅れた袖端がついに捉えられた。
    「ク、シクジッタカ……!」
     粘る影に動きを止められた敵を、朗はまず指で指し示した。その背後、少し高い位置に漂うビハインド『耀子』に、彼は静かな声色で呟く。
    「お願いします、耀子さん」
    「…………」
     首肯した耀子は、先に走り出した朗を追い、飛ぶ。目的地へと急ぐ彼の背中に、追いついたとしても追い越さず……無言で了解し、タイミングを合わせた。
    「!」
     姉弟の重ね打ちに、絡新婦は弾かれ水辺へと転がる。と、そこへ詰めかけたリーファが、一旦足を止めた。
    「足元注意、っと。伝説のように、引きずり込まれても事ですしねー」
    「クライ、ミズ……ソチラニスレバ、ヒトリクライハ……?」
    「さて、どうですかねー。ここは一つ、いちばん当たるこの技でっ!」
     距離を保ったまま、リーファは咄嗟にマジックミサイルを組み上げる。身を転がす絡新婦を掠めた魔弾が、いくつかの水柱を上げた。
    「ハァ……ハァ……!」
     息を荒げた絡新婦が、掌を付いて立ち上がろうとする。と、その細い首筋に、月子のマテリアルロッドが冷たく当てられた。
    「興ざめは私もかしらね。同じ蜘蛛でも、アナタは――」
     ――魔力奔流が奏でる絡新婦の悲鳴が、呟かれた言葉をかき消した。その名を、月子は再び己の物として、胸の内にしまいこむ。

    ●戦い終えて
     雪が降り始めていた。ひらひらと、弱い氷は落ちた所で姿を儚くし、ただ寒気だけを跡に残す。
    「コ……アァ……」
    「さらばだ、蜘蛛」
     刀身を燃やす炎は、しかし、雪の降るのを妨げはしなかった。朗が、絡新婦を貫いた刀をゆるりと引き抜くと、女はおとがいを反らして天を見上げる。
    「これにて成敗、じゃな。儂らにまみえた事、地獄で自慢でもすりゅとよい」
     シルフィーゼは、もはや追い討ちは不要とばかりに刀を収めた。口元を扇で隠し、その場を離れると、背後にどさりと重い物が落ちる音を聞く。
    「犠牲を出さずに、済みましたね」
     張り詰めた緊張を抜いて、統弥は絡新婦が消えていくのを眺めた。数秒を数えぬうちに、古の畏れは跡形も無く姿を消す。
     と、思い出したかのように、周囲の自然音が意識されるようになった。消失の瞬間を思い返すべく、統弥は強く目を閉じる。
    「ふぅ……」
     海月は疲れの篭った溜息をつき、その肩に影業『クー』をぺたりと乗せた。今回出番のなかったクーを、何とはなしに撫でる。
    「誰も滝壷に落とされなくて、本当に良かったよ、クー」
     仮にそういう事態が起こったとしても、海月は必ず仲間を救うつもりであった。その場合、代わりに自分が沈んでいく可能性は大だったのだが。
    「あー、終わっちまったか。いろいろ酷い目にあったぜ……」
     十織はいつの間にか、近くの切り株に座っていた。話によれば、かつて絡新婦がそこに座っていたというのだが……、悪くない景色だと、彼はしばらく滝壺を眺めていた。
    「皆、お疲れ様。怪我はない?」
     深呼吸した月子は、仲間たちの様子を確認していく。特に被害が大きいと思われる十織に対しては、念の為に近くでの観察を試みた。
    「大丈夫そうね。でも、景観を愉しむのはいいけど、冷えるわよ?」
    「言うのが遅え……いっきし」
    「はーい、それじゃあこれどうぞーっと」
     通りがかったリーファはそう言って、切り株の上にコーヒーの入った紙コップを置いていった。こっちもー、という桜の声に呼ばれて、間もなく引き返していく。
    「んっ……ん……っはあ! ありがと、用意がいいねリーファさん♪」
    「いえいえそれほどでもー。楽しい戦いでしたし、後で風邪引くのは面白くないですからね」
     瞬間で空になった髪コップを受け取りつつ、リーファは微笑む。桜は軽く肩を回して、周囲の仲間たちに声を掛けた。
    「病院送りなケガ人もいないようだしさ、街に戻って何かご飯にしようよ♪ どう?」
    「「おー」」
     あちこちから、仲間たちの同意が上がる。折角の観光地で何も楽しまないのは、やはり損だ。
    「と言っても、この時間だとファミレスか何かだけど、大丈夫だよね♪」
    「ふぁみれす? 知っておりゅぞ、この時間だと深夜料金がかかりゅとな?」
    「妙に限定的だな、シルフィーゼ……。月岡もそれでいいか? 反応が薄いが」
    「――問題ない。断る理由も無いさ、二夕月」
    「この辺りだと、伊豆か熱海まで戻っちゃう? いいお店あるかなあ」
    「すぐに街道へ出ますから、道ながらでいいお店は見つかると思いますよ、海堂さん」
    「統弥統弥、俺にもよくわからんが、『いいお店』のニュアンスが微妙に違うような気がするぞ」
    「つまり、静岡の夜はこれからってことですよねー」
     と、明るく語らいながら、灼滅者たちはこの場所を後にしていった。
     雪はまだ降り続けている。

    作者:君島世界 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月25日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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