●見沼の竜神
その外見は狼に似ていた。
燃え盛る炎のように揺らめいており、その額には三日月の如き傷が浮かんでいる。
スサノオだ。
月が見守るように照らす中、スサノオは眼前の池をただジッと見詰めている。
周囲に人影はなく、風すらも吹いていない。まるでスサノオだけがその場の主とでもいうかの如く存在していた。
そのままどれほどの時間が経過したか。周囲は何も変わらず、しかしそれは唐突に吼えた。
咆哮に空気が震え、伝わっていく。
それに応えるように、眼前に合った池の表面が揺れた。揺れは徐々に大きくなり、池の全てに伝わろうかというほどにまでなっていく。
そして、それが現れた。それは巨大な蛇の如き姿をしたもの――竜だ。
巨大な胴体が持ち上がり、天上に向けてその大きな口を開く。共に飛び上がった鎖が重力に従って引っ張られ、水面に音を立てながら落下した。
●三日月のスサノオ
「さて、スサノオの話をするのは、これで五度目だったかしら? けれど、今回はいつもとは違うわ」
四条・鏡華(中学生エクスブレイン・dn0110)はそこで言葉を区切ると、教室内を見渡す。
そして。
「今回判明したのは、スサノオが古の畏れを生み出そうとしている場所――即ち、スサノオを止めるチャンスが訪れたということね」
既に数度、他のスサノオでも同じようなことが起こっているが、こちらもようやく不完全ながらも介入することが出来るほどの因縁を持つ灼滅者が集まったということだ。
「スサノオが現れる場所は、埼玉県さいたま市。もう少し具体的に言うならば、その緑区にある磐船祭祭祀遺跡というところね」
そこにある池の前に、スサノオは居る。
「けれどもあくまでそれは最速で接触する場合の話。その場合数分もすれば古の畏れが現れてしまうから、敢えてスサノオがその場を離れてから戦うというのも一つの手ね」
つまりはスサノオと戦う方法は二つ。スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃するか、古の畏れを呼び出して去っていこうとする所を襲撃するか。
前者は六分以内にスサノオを倒すことが出来なければその場に古の畏れが現れてしまうが、逆に言うならば六分以内に倒すことが出来れば古の畏れとは戦わずに済む。しかし古の畏れが現れた場合、スサノオは戦闘を古の畏れに任せ撤退する可能性がある。
後者は時間の制限はないものの、既に古の畏れは呼び出されてしまった後なのでスサノオと古の畏れの両方と必ず戦わなければならない。
「どちらを選択するのかは任せるわ。短期決戦か、連戦か。どちらを選ぶにせよ、相応の力が必要になるのは間違いないでしょうけれども」
スサノオは今まで現れた古の畏れと似た攻撃をしてくる。多彩且つ強力な攻撃をしてくるスサノオは、決して油断できる相手ではない。
「古の畏れは短期決戦の方を選択した場合遭遇しない可能性もあるけれども、きちんと説明はしておきましょうか」
今回呼び出される古の畏れは、竜神だ。
「今では干拓されてなくなってしまったのだけれど、かつて埼玉県には見沼という名前の巨大な沼があったわ。今も名称等にその名残はあるのだけれども、その開拓が行なわれた頃に竜神が現れたという伝承があるわ」
干拓の命を受けた井沢弥惣兵衛という者の元に、ある夜女が尋ねてきた。女は自身を見沼の竜神と名乗り、次の棲み家を探すため九十九日待ってくれないかと告げる。
しかし弥惣兵衛はそれを夢だったのかと意にも介さず工事にかかってしまう。だが災難が襲い工事は一向に進まず、やがて弥惣兵衛も病に倒れる。そんな弥惣兵衛の寝床をとある晩覗いてみると、恐ろしい蛇女が炎を吐きながら弥惣兵衛の身体を舐め回していたというのだ。
「幾ら竜神といえども棲み家を追われれば怒って当然ではあるけれども……何にせよ、現れてしまった場合は倒すしかしかないわ」
竜神の攻撃方法は、主に炎と風を操っての攻撃だ。
戦う場合は連戦時となるだろうから、しっかりと作戦を立てておく必要があるだろう。
「このスサノオを倒せるチャンスは、おそらく今回のみよ。決して楽な相手ではないけれども、よろしくお願いするわ」
そう言って鏡華は、灼滅者達を見送ったのだった。
参加者 | |
---|---|
結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171) |
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464) |
神薙・弥影(月喰み・d00714) |
冴凪・翼(猛虎添翼・d05699) |
エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852) |
ミス・ファイア(ゲームフリーク・d18543) |
塚地・誇(淡碧・d19558) |
天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382) |
●
耳が痛い程に静かな夜であった。
風一つなく、空には煌々と輝く月。冷たく、されど優しい光が周囲を照らす中、灼滅者達は闇に紛れるように身を潜めていた。
スサノオが来る気配は未だなく、そもそも古の畏れが呼び出された様子がまだない。静寂が支配する中を、ただジッとその時を待つ。
と、その中の一人が、ふと身体を震わせた。
塚地・誇(淡碧・d19558)である。
恐怖からではない。いつもならば平常心を保ったままでいられる誇であるが、今回の敵は強くチャンスは一度きり、しかも連戦しなければならない状況である。
となれば、少しぐらいそわそわしていても仕方のないことだろう。
しかしその静寂も長くは続かなかった。それを破ったのは、不意に空気を震わせた狼の遠吠えに似た音。
「ようやく尻尾つかめたっていうのかな。因縁だとしても、ひとつの縁だね。精一杯、頑張るよ」
音の聞こえた方角を眺めながら呟いたのは、結月・仁奈(華彩フィエリテ・d00171)だ。
仁奈は以前、今回のスサノオが呼び出した古の畏れの一つと戦っている。因縁とはそのことだ。
そして誇もまたその縁を持つ者の一人であり――
「色んな所に出現していたようだけど、やっと追いつくことが出来たわね」
ミレーヌ・ルリエーブル(首刈り兎・d00464)もまたその一人である。
「後手に回らざるを得なかったけど、ようやく足取りが掴めたわね」
神薙・弥影(月喰み・d00714)は頷きながらも、笑みを浮かべ続ける。
「それにしても、一晩で神の名を冠する相手を二度も灼滅するとは、本物だったら末代まで祟られちゃいそう」
それは冗談交じりではあったが、仮にそうであったとしても彼女達のやることは変わりなかっただろう。
「やれと言われたからやるのではない。やると決めた事をやっているんだ」
スサノオと縁を持つ最後の一人――エリスフィール・クロイツェル(蒼刃遣い・d17852)の言葉が、その全てである。
「難しいゲームほど頑張るぞーって気分になるよね? うんうん、ファイアもゲームクリア目指して頑張んないと! 今度の相手はちょーっぴり、ヘビーだよ」
ミス・ファイア(ゲームフリーク・d18543)が言いながら向けた視線の先には、闇の中から浮かび上がるようにして現れた、真っ白な何か。
「勝っても負けても一度きりのこの機会、なんとしても物にしましょう」
ミレーヌの手にあるのはスレイヤーカード。頷く弥影の手にも同様に。
同時に掲げ、叫ぶ。
「刎ねろ、断頭男爵!」
「喰らい尽くそう……かげろう」
そしてそれが、戦闘開始の合図となった。
●
「……行きたくても行けなかった奴がいるのも知ってるからな。てめぇはここで灼滅する、是が非でもな」
戦闘開始と同時、殺界形成を展開しながら言い放ったのは、冴凪・翼(猛虎添翼・d05699)だ。友人が気にかけていたことを知っているため、その分もと自然に気合いが入る。
既にエリスフィールもサウンドシャッターを展開しているため、万が一にも一般人が立ち入る心配はない。遠慮は必要なかった。
とはいえ自身の役目は壁役だ。前列維持を最優先に、まずは様子を伺う。
「こんばんは、狼さん。アナタのお名前は?」
そんな中、ミレーヌがスサノオへと話しかけてみたのは、スサノオもダークネスだということを思い出したからである。
同じ獣系のイフリートも簡単な意思疎通は出来たのだし、スサノオとも会話出来るかもしれない。
そう思っての試みであったのだが――それに応えるように、スサノオの口が開く。
そして。
直後に響いたのは、甲高い音だ。
ミレーヌの眼前にあるのはスサノオの顔面。口が大きく開かれたそれが、しかし盾によって遮られている。
「ありがと。助かったわ」
「いえ、護るのが僕の役目ですから。それに、必要なかったようですし」
割り込み防いだ天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382)がちらりと視線を向けるのは、肩を竦めるミレーヌの手に持たれた槍。おそらくは防がなくともそれで迎撃していたことだろう。
もっとも無傷でいられたかは別なので、ミレーヌの言葉は本心からのものだ。
「それにしても、名前を尋ねただけで襲い掛かってくるなんて……どうやら躾がなっていないみたいね」
「そのようですね。僕を会話を試みようと思ってはいたのですが……まあそれでも、文字通りというか、やっと掴んだ尻尾です」
少しでも多くの情報を得られるようにと、スサノオを観察しながら耐えていたリンであるが、その視界の端を不意に何かが横切る。
ミレーヌの放った槍だ。
螺旋の如き捻りを加えられたそれがスサノオの身体を貫き、力の緩んだところをリンが押し込むように踏み込む。
そのまま盾で殴り飛ばした。
だがスサノオもただではやられない。
『――――――!』
吹き飛ばされながらも吼えると、その音が衝撃となり周囲へと広がる。
リンは咄嗟にミレーヌを庇うが、さすがに他の皆へと向かう分は防げない。追撃をしようと動いたその出鼻を挫くように、衝撃が皆の身体を襲った。
しかし直前に翼が盾を広げていたこともあり、衝撃に身を竦めることもなく、続けて放たれた風の刃をかわした弥影は、そのままスサノオの懐へと飛び込む。
「最初から全力で行かせてもらうわ」
その手に握られているのは、アンティーククラウンキーを模した杖――月后の冠。繊細で華やかなデザインではあるものの、振り抜かれたそれはしっかりと衝撃を与える。
直後、流し込まれた魔力が爆ぜた。
内側と外側、二つの方向からの衝撃にスサノオがよろめくが、その視線はしっかりと弥影へと向いている。
その周囲に水が集まり、纏まり――拳大となったそれが放たれる刹那、地面より伸びた影に身体ごと斬り裂かれた。
「ようやくスサノオに辿り着けたけど、古の畏れを生み出すのも今日で終わりだよ。今まで紡いだ因縁、撃破の終わりで、断ち切らせて貰うね」
仁奈の言葉と共に再度影が伸びるが、そちらは後方に飛び退くことでかわされる。
だがそれを追いかけるようにして飛び込む影が一つ。
「ファイア、こういうゲームってかなり燃えるタチなんだよね」
ファイアだ。
威嚇するように、先ほどの水の残骸である塊が放たれるが、ファイアは気にせずさらに踏み込む。
ファイアにとって、人生は全てゲームだ。だから危険が待っていようと気にすることなく、むしろハイスコアを狙うが如く積極的に突っ込んでいく。
「ファイアの炎、喰らって貰わないと! ね?」
言葉と共に斬り裂き、剣より伝わった炎がその身体を焼く。
「ミスター! ちゃんと気合い入れてよね!」
自身のナノナノを雑に扱い代わりに前に進ませると、傷ついた仲間へ向けて指先に集めた霊力を撃ち出した。
「大きな犬……可愛いけど……手加減無いから」
白い刀身、黒い鍔――鶴という名の剣を手に飛び込んだのは誇。
「よいしょー……」
真剣に、されど棒読みの台詞と共に振り下ろされた白光を放つ斬撃は、同時に守りを固めるためのものである。
仲間へと向けられる攻撃も防ごうとその前に立ち、だが轟音と共に視界の端に映ったのは、舞い散る星屑の様な燐光。
それを作り出した武器の名前はスターダスト・ストライカー。
「知らぬことだとは思うが、いつの間にやら奇異な縁ができた様でな。故にこうして相まみえる事が叶った様だ」
担い手はエリスフィール。
「ま、そちらとしては迷惑な話であろうが……因や縁に囚われるのは終わりにしよう。今ここにいるお前は、姿持つ因その物だ」
死の中心点を貫かれたスサノオが身体を震わせるが、攻撃の手は緩めない。
「後には古の畏れが控えているわ。だからこそ、こいつを早く倒して消耗を抑えておかないとね」
ミレーヌの言葉に応えるように、次々と攻撃が重ねられていく。
勿論スサノオも反撃するが、こちらの壁は厚く癒しも欠かさない。
癒せない傷は増えていくが、それが積み重なるのよりも、スサノオが限界を迎える方が早かった。
それでも最後の抵抗とばかりに、その口が大きく開かれる。
『――――――!』
咆哮と共に現れるのは、無数の鬼の形をした影。それらが一斉に放たれ――だがその全てを、翼と誇、リンの三人とミスターで強引に押さえ込んだ。
当然そんな真似がいつまでも持つわけがない。しかしほんの一瞬の道が出来ればそれでよかった。
その道を突き進むのは、仁奈の放った妖気のつらら。
着弾の衝撃によってスサノオの意識が乱れ、鬼の影が崩れ去る。
直後、ファイアの放った風によって浄化された身体で一斉に飛び込むのは三つの影。
死角からのミレーヌの斬撃によってその後ろ足が断たれ、がくりと後ろに倒れこむが、それを許さぬとばかりに弥影の異形巨大化した腕が振り上げられその身体を持ち上げる。
宙に浮いたその鼻先に突きつけられたのは、巨大な砲台と化したエリスフィールの腕。
放たれた死の光線をまともに受け、その身体は地面に落ちる間もなく。ぼろぼろと崩れ、やがて消滅したのだった。
●
さすがにそのまま即座に次に向かえるほど、皆が負った傷は浅くはなかった。
特に顕著であったのは、やはり壁役であった者達だろう。だがそれは同時に、どれだけ他の者を庇ったかということを示している。
「たはは。情けないですね……無理に身体張ってこの様です」
だからリンはそう言って苦笑を浮かべるものの、それは十分に誇れることであった。
ともあれ、心霊手術を行ないながら多少の休息を取ることは出来た。叶うならばもう少し休憩したいところではあるが――
「休ませてくれはしないってわけ」
溜息と共に弥影が視線を向けたのは、狙い澄ましたかのように轟音を響かせ始めた方向。
どうやら、休憩の時間は終わりらしい。
皆で顔を見合わせると、頷く。
そして、件の場所へ向けて走り出した。
そこへ辿り着くのに掛かった時間は、精々が数分程度である。だというのに、その時にはもう周囲は荒れ果てていた。
「……竜神さん、怒ってるね」
その光景を眺めながら、仁奈がぽつりと呟く。
「当たり前だよね。家を奪われて、そして今度は無理矢理起こされて」
けれど、そうして同情をしても――否、だからこそ。
「せめて速く、元のあるべきところに還そう」
それに異論のある者がいるわけがなく、それはある意味で竜神も変わらない。
本日二度目の戦闘は、竜神の口から炎が吐かれたことを以って開始された。
高所から吐き出されたそれは、当然の如く周囲へと広がる。故に最初に動いたのは、その被害を出来るだけ抑えようとした三人と一匹。
翼にリンとミスター――そして、ファイアだ。
基本的に皆の戦闘方針や役割は変わらないが、ファイアと誇だけは互いの役割を交換していたのである。
燃え広がった炎がそれを受けた者達の身を焼き、しかしそれはすぐに誇の招いた優しき風に癒される。
「ぽーん……」
風と共に放たれた棒読みの言葉に苦笑を浮かべながらも、翼は盾を周囲に広げながら竜神に踏み込む。同時に振り下ろしたのは右手に持つ短剣。白光を放つ斬撃が振るい、直後に離脱。
入れ替わるように迫った仁奈の影がその身体を斬り裂けば、竜神は痛みを叫ぶ代わりにその口を開いた。
その口内に再び炎が集まり――だがそこへ、冷気のつららが撃ち込まれた。ミレーヌの放ったそれは口内で小さな爆発を起こし、さすがの竜神も呻く。
その隙に飛び込むのは二つの影。左からは月后の冠。右からはスターダスト・ストライカー。
弥影が少しだけ早く、体内で魔力が爆ぜた直後にエリスフィールの一撃がその身体を貫く。
さすがにその痛みに竜神が吼え――突如、その周囲に凄まじい勢いの風と雨が吹き荒れた。
その勢いに二人の身体が吹き飛ばされ、だがリンは逆にそこへと構わず突っ込む。
「ファイアがサポートしてるんだから、この程度で倒れるなんて許さないよ!」
癒す風と共に放たれた言葉に、少しだけその口元が緩んだ。踏み込む足は力強く、一足飛びに懐へと飛び込む。
構えた盾で、全力で殴り飛ばした。
傷は癒えても、疲労は抜けきらない。特に、心のそれは余計に。
「連戦は堪える、ね」
呟きながらも、仁奈は気を引き締める。前に立ってくれる人はもっとキツイはずだから。
戦闘はそろそろ終焉に向かい始めていた。重ねた攻撃は確実に竜神の身体を傷つけ削っている。
もっともそれはこちらも同じことだ。余裕など欠片もないし、気を抜けばきっと自分以外の誰かが倒れる。
だから。
「皆の負担を少しでも軽減するために自分の精一杯を込めて撃つよ。悲しいのも、痛いのも全て一撃に込めて」
言葉と共に踏み込み、その手に持つ槍を突き出す。螺旋の如き捻りを加えられたそれが竜神の身体を貫いたのと、逆側から翼が飛び込んでいたのはほぼ同時。
地面を蹴るとその身体を宙に浮かせ、勢いのままに雷を纏った右の拳を振り上げる。直後、衝撃が伝わり、雷が竜神の身体を焼く。
だが竜神はその怒りを溢れさせたかの如く、瞬時に口内に炎を宿らせると、そのまま吐き出した。
周囲に向けられたそれは、最も近くに居た二人へと早く、そして強烈に降り注ぐ。
だが。
「護り、ます……例えこの身が砕けようと、僕が護ります――ッ!」
それを防いだのはリン。二人分の攻撃を強引に自分のところへと引き寄せ、その身を以って守る。
それは攻撃に身を投げ出す、という表現がピッタリとくる行動であった。先の戦闘からそうであったが、それは今この時になっても変わらない。
――リンは今回の戦闘に少なからず引け目を感じていた。それは男が自分だけだということもだが、何よりその中で最弱であるということから来るものだ。
口には出さないがそれを気にしていて、だから必要以上に攻撃を引き付け守ろうとしていたのである。
とうに倒れる覚悟などは完了している程度には、それは重い。
だが同時に、その心配はないだろうということも、何となく分かってはいた。
何故ならば。
おそらくはその前に、彼女達が何とかしてしまうだろうから。
炎に焼かれるその身は、しかし次の瞬間には痛みから解放される。その周囲を舞うのは、異なる二つの種類の風。
ファイアと誇の放った心地よいそれをすり抜けるように、三つの影が前に出る。
エリスフィールの放った斬撃が竜神の霊魂を破壊するのとほぼ同時、仄青い燐光を周囲に舞わせた弥影の腕が、その身体を撃ち抜く。
直後死角より放たれたのは、ミレーヌの斬撃。それは急所どころかその身体をも斬り裂き――ずれた。
地響きを立てながら、その身体がゆっくりと倒れていく。
そして。
「皆ありがとー……」
その結果を見ながら放たれた、相も変わらずの棒読みの誇の言葉に、皆の間から自然と笑みが零れ落ちたのだった。
作者:緋月シン |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月22日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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