●雇うと偽るヴァンパイア
気に入らないことがあった、たまたま気が向かなかった……様々な事情により気分を害し、学校をサボった不良たちが六人。陽が落ち、空が深い藍に染まり、ひと気も失せ……静寂が訪れる深夜になってなお、陸上の四百メートルトラックほどの広さを持つ公園にたむろっていた。
何をするというわけではない。ただ、コンビニで購入した物を食い、口々に学校への不満を語り合う。時に柱や木を殴り、怒りを紛らわせてもいるようだ。
そんな彼らの前に、一人の少女がやって来た。
不良たちがメンチを切り威嚇を始めるも、少女が止まることはない。
「あなたたち! 私に雇われてみませんか!」
少女は不良たちの正面で立ち止まり、真っ直ぐに手を伸ばしていく。小首をかしげていく様など構わずに、更なる言葉を重ねていく。
「あなたたちには世界を変える力がある! 私についてくれば間違いなしです!」
――突然現れた、威嚇を物ともしない少女。明らかに胡散臭い存在を前にして、不良たちは……
●放課後の教室にて
集まった灼滅者たちを前にして、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は静かな調子で口を開いた。
「殲術病院の危機の時に、ハルファス軍から朱雀門高校に鞍替えしたソロモンの悪魔、美醜のベレーザが動き出しました」
彼女は朱雀門高校の戦力として、デモノイドの量産化を図ろうとしているらしい。
そのためにデモノイドの素体となりうる一般人を拉致して、デモノイド工場に運び込もうとしているので、その魔の手から一般人を救出する。
それが、このたびの目的となるのだ。
「皆さんが相対する事となるヴァンパイアの名は、三宅藍」
何度か相対したことのある、丁寧な物腰で明るい物腰とは裏腹に裏工作などを好む、少女。
「また、強化一般人の一人は美醜のベレーザの手で不完全ながらデモノイド化されていて、命令を受けると十分間だけデモノイド化して戦うことができるようです」
灼滅者の襲撃を受けた藍は、不完全なデモノイドをデモノイド化させて戦わせ、素体となる人間を連れて撤退しようとする。そのため、注意を払う必要があるだろう。
そこまで説明した後、葉月は地図を取り出した。
「藍さんたちが現れるのは、住宅街の内側にあるこの公園。深夜十時を過ぎた頃、この公園にたむろっている不良たちを勧誘にやって来ます」
構成は中学生の男が六人。
各々何らかの理由で学校をサボり、コンビニで買った食料を片手にたむろっている不良たち。
「皆さんが突入するタイミングは、藍さんが不良たちに勧誘を仕掛けたタイミングになりますね」
幸い、不良たちは藍の言葉を訝しがっている。そのため、言葉を投げかければこちら側へ意識を向けさせることも可能かもしれない。
また、同時に敵戦力も相手にする必要がある。
構成は藍の他、デモノイド一体に強化一般人が三人。
藍の力量は一人で八人を相手どれるほど高い。が、一般人を連れて行くという目的最優先で行動する上に、デモノイドを撃破すれば達成不可能と見て逃走を図るだろう。
技としては、ダンピールに似た力を用いてくる。
一方、デモノイドの力量は八人ならば倒せる程度。破壊力に優れており、技もデモノイドヒューマンに似たものを用いてくる。
残る強化一般人三人の力量は、各々一人でも十分倒せる程度。しかし藍同様一般人の拉致を最優先に立ち回り、硬い防御に身を任せて突っ込んでくる可能性もあるため、中々厄介な存在となるだろう。
「戦力的な説明は以上です。続いて……」
葉月は地図を手渡し、静かな溜息を吐き出した。
「今回の作戦は、量産型デモノイドの素体にされてしまう若者達を救出することです。ひとまずは八割以上……五人以上を救出する事が目標ですが、可能な限り全員救出を目指して下さい」
そして、戦力差を鑑みるに藍とデモノイド、配下の強化一般人の全てと戦った場合、戦闘で勝利するのは非常に難しくなる。朱雀門高校のダークネスについては、一般人の拉致を阻止しつつ、素直に撤退させてしまうのが良いだろう。
もちろん、灼滅できればそれに越したことはない。しかし、敗北した場合は若者達が量産型デモノイドにされてしまう事になるので、あまり危険は犯せない。
以上で説明は終わりと、葉月は改めて灼滅者たちを見つめていく。
「いつもとは勝手の違う、慎重かつ大胆な行動が求められる任務……皆さんならば解決できると信じています。どうか、全力での行動を。何よりも無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」
参加者 | |
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本堂・龍暁(流浪の龍・d01802) |
ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253) |
リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323) |
霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009) |
鳴海・優華(飢求焔拳・d03454) |
桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144) |
遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888) |
青山・紗智子(入神舞姫・d24832) |
●邂逅、再び
家々から灯りが消え始め、人々が安らかな眠りへと落ちていく深夜帯。未だ眠ることを拒否する不良たちが朱雀門高校の三宅藍からの勧誘を受けている公園へと、灼滅者たちは向かっていた。
さなか、リリシス・ディアブレリス(メイガス・d02323)は想い抱く。
最近、朱雀門のスカウト活動が活発だと。それだけ余裕が無いのだろうけれど、インスタントラーメンみたいなデモノイドを作ったところで相当数集めなければ役にも立たないだろうに、と。
あるいは、相当数集める算段がついているのだろうか? ならば厄介。何れにせよ……。
「この場を収めるために、行きましょうか」
姿勢を落として駆け出す先、住宅街の公園で、灼滅者たちに気づいたのか不良たちが振り向いた。
藍やその配下と思しき者たちが間に割り込まんと動く中、遠藤・穣(反抗期デモノイドヒューマン・d17888)が大きな声を張り上げる。
「おい騙されんな、そいつらは霊感商法の詐欺野郎どもだぜ!」
偽りの言霊。されど、不良たちはその真偽を疑うほど藍に心惹かれているわけではない。
「よくも俺とダチを騙してくれたな、サツ呼んだからこのまま突き出してやる!」
「そうだ! てめえのせいでどれだけの損害被ったと思ってやがる!」
藍どころか不良たちの反応すらも確認せず、鳴海・優華(飢求焔拳・d03454)が罵声を畳み掛けた。
切羽詰まった様子が功を成したのだろう。不良たちは浮足立ち、口々にどうする? と囁き合っている。
一方の藍はしばし目を丸くした後、ふっふっふ、と笑いながら声を上げた。
「皆様方、だまされちゃぁなりません! 彼らこそ、世界の変革を邪魔する敵なのです!」
小気味良く指を鳴らしたなら、藍に付き従う配下四人の内一人の姿が苦しみながら変貌する。
その者は不完全なデモノイドと化した上で、灼滅者たちへと襲いかかった。
「さあさあ、その者たちを消してしまいなさい! そのための力が……って、あれ?」
ノリに乗る藍とは対照的に、不良たちの様子は懐疑的。
追い込むなら今であると、霧島・絶奈(胞霧城塞のアヴァロン・d03009)が肩をすくめながら不完全なデモノイドを指し示す。
「付いていったらああなりますけれどそれでも行きます?」
「化け物になるくらいでしたら、自分達の力で手に入れた方が良いではないですか? その方が断然恰好いいと思いますよ」
桐屋・綾鷹(和奏月鬼・d10144)も言葉を重ね、不良たちに帰還を促した。
返答は、迷い。
曰く、藍についていく気は更々ない、世界の変革なんて胡散臭い。が、どう見ても良い奴らの側である灼滅者たちに従うのも気に入らねぇ……と。
危機が迫れば逃げるだろうか? あるいは力を使う必要があるだろうか?
何れにせよ仲間に任せ、綾鷹は不完全なデモノイドの動きを意識しながら藍へと向き直る。
「学校の占領作戦依頼ですね……会いたくは無かったのですが」
「おおっ、どこかで見たと思ったらやはり! あの時は良くもやってくれましたね!」
以前、ゴシップで学校を支配しようとしていた藍。その時の印象は、アホの子。果たした、今宵の出会いはどうだったのか?
表情に映すこともないままに、にっこりと微笑み告げていく。
「さて、今回はこの状況を、お得意の推理でどう切り抜けますか? 迷・探・偵さん?」
「ふふーん、名探偵とは見る目がある。そうですね……」
伝わらぬ言葉、交わらぬ想い。
されど状況は動いていく。
不完全なデモノイドが、刃に変えた腕を振り下ろし、公園の地面を打ち砕く!
●不良たちを巡って
不良たちが安全な場所へと逃げるため、逃げる際に後を追わせぬため、ヴァイス・オルブライト(斬鉄姫・d02253)は十字剣で不完全なデモノイドに切り付けながら藍へと言葉を投げかける。
「しかし、貴様も前に会った時時よりもずいぶんと小さな仕事をする様になったな」
「……おお、どこかで見たことあると思ったらあなたもですか! いえいえ、千里の道も一歩から、ですよ!」
が、まるで動じた様子はない。
気を引くことはできているから、更なる言葉を重ねていく。
「今や鞍替えしたぽっと出のソロモンの悪魔に顎で扱われる立場……過去の失態が祟って、組織内でも端役な立場に降格させられたか?」
「はっはっは、何を言うのです! 私は何も変わっておりませんよ! ただただ黙々と依頼を果たしていく……それこそが、名探偵の秘訣ですっ」
何でもかんでも前向きに、微笑みながら跳ね返す。
これ以上は通じぬだろうと判断し、ヴァイスは再び不完全なデモノイドへと注力する。
刹那、リリシスの描き出した魔法陣が不完全なデモノイドを拘束した。
「デモノイドは抑えます。今のうちに……」
魔法陣に更なる力を込めて不完全なデモノイドを抑えつつ、不良たちへと向き直ろうとしている藍へと言葉を投げかけた。
「そういえば、一つ聞いてもいいかしら?」
「なんですか?」
「最近スカウト活動が活発みたいだけど、インスタントラーメンみたいなデモノイドを作ったところで役に立つの?」
不完全なデモノイドは、長くは持たない。今、こうして交戦している間にも、刻一刻と死期が迫っている。
故に、数を集めなければ意味がないとは来るまでの間に抱いていた想い。対する藍の返答は……。
「一パーセントでも勝率向上の可能性があるのなら、それを拾い上げるために活動するのも策の内……ですよ!」
やはり、特に堪えぬ藍。
主の勢いに乗るかのように、不完全なデモノイドも拘束を引き釣りながら腕を砲筒へと変貌。青山・紗智子(入神舞姫・d24832)に向かって弾丸を発射した。
扇を模した盾で叩き落とし、口元を隠して笑っていく。
「女が男を求めるなぞ……何ともまぁ浅ましい」
「ふふーん、探偵とはそういう事もしなければならないお仕事です!」
やはり、通じない。
問題無いと舞い踊るように不完全なデモノイドに近づいて、体のバネを活かして盾突撃!。
「待った舞ったのとおせんぼ……世界を変える仕事の前に、余と共に踊ろうぞ」
呼応したか、不完全なデモノイドは紗智子を見下ろした。
細めた瞳で見つめ返しつつ、更なる言葉を重ねていく。
「まぁそう急くな。短気は損気であるぞ?」
挑発しておいてよく言う……とでも語るかのように、不完全なデモノイドは紗智子に砲筒を突きつけた。
放たれるだろう砲弾に備えつつ、あくまで静かな言葉を投げかける。
「うむ、よきにはからえ」
問題ない、不良たちへ意識が向いていないのなら。
徐々に逃げる気配を見せていく不良たちがいなくなれば、その勢いで全てを終わらせる事ができるだろうから……。
度々挑発に乗る藍とは対照的に、残る三人の配下たちは不良たちを一人でも多く連れ去る事ができるよう動いていた。
が、させぬと絶奈は舞い踊りながら剣を振るう。配下たちを牽制し続ける。
「……」
さなかに少しずつ離脱を始めていく不良たちへと視線を送り、静かな想いを巡らせた。
誘拐されて改造される。
聞くだけならばどこぞの変身ヒーロー。
されど、世界を変えられるのは自らの意志で道を切り拓く者の特権。そう言った者達でさえ夢叶わずに挫折する事はしばしばであるのに、与えられた餌に飛びつく様な飼われた走狗では成し得ない。
「……アウトローなら、自らの爪牙を磨いて不満をぶち破って見せて下さいな」
「あ?」
「さ、お帰りはこちらだぜ? 急げ急げ!」
敵意を持って反応してきた不良たちを、優華が囃し立てるように追い立てる。
複雑な表情を浮かべつつも……恐らくは敵わない事を悟っているから、不良たちは再び逃亡準備を開始した。
させぬと動こうとする配下たちは、優華が間に割り込み阻んでいく。
「……ただしてめぇらはダメだ。こっち来んな!」
「く……」
牽制され続けまともに動けず、配下たちは悔しげな言葉を漏らしていく。
が、間違いがあってはならぬから、おおよそ全力で追いかけても届かぬ距離まで不良たちがたどり着いた時、本堂・龍暁(流浪の龍・d01802)が大きな声を張り上げる。
「さっさと退かんかおどれらはーーーーーーッ!!!!!」
トドメの一括となったのだろう。不良たちは舌打ちを響かせた後、夜の住宅街へと消えていった。
その時になってようやく状況に気づいたのだろう。藍が小首をかしげ振り向いた。
「あら? もしかして任務失敗ですか?」
「……」
「仕方ありません。では、存分に暴れて行って下さい!」
不完全なデモノイドに全てを任せ、藍は配下と共に逃亡を始めていく。
元より追うつもりはない。
言葉くらいはぶつけてやると、優華が静かに紡いでいく。
「……こっちからすりゃ、てめぇらが変えた後の世界なんか想像もしたくないがね。どうせ人間牧場みてぇなもんだろ? 反吐が出るね」
返答はない。届いたか届かぬかわからぬ内に、藍たちも住宅街の闇へと消え去った。
残されしは不完全なデモノイド。
おおよそ五分もの時が経てば、崩壊を始めるだろう存在。
優華はため息を吐いた後、改めて不完全なデモノイドへと向き直る。可能な限り、その巨体が生み出す破壊を抑えるため……。
●終りへと向かう蒼との戦い
元は、望まずデモノイドヒューマンにされた身の上。故に、朱雀門のやり口には心底憤っていた穣。
幸い、今宵は阻止できた。
自分のような想いをさせずに逃すことができたのだと、心の内側で安堵していた。
故に……怒りと悔しさか。騙されるだけ騙されて、捨て駒にされた不完全なデモノイドへと抱く想いは。
「どいつもこいつも……馬鹿野郎が!」
破壊を抑える仲間たちを癒やすため、自身もいずれ抑える役目に迎えるよう。力強くも悲しき調べをこれより不完全なデモノイドが向かう星空へと響かせる。
万全の状態を整えたヴァイスが刃を受け止めていくさまを眺めながら、綾鷹が側面へと回り込んだ。
「余り動かないで下さい。苦しみが長く続いてしまいますよ」
霊力を込めた拳で殴りかかり、動きを縛る力で拘束する。ナノナノのサクラもしゃぼん玉を発射して、動きの自由を削いでいく。
力が緩んだ好きに刃を弾いたヴァイスは、果敢に踏み込み十字剣で切り上げた。
「主はすぐに逃げてしまったというのに、まだ戦うか。それとも、すでに理性などないのか……」
「……絶対に泣かす、あいつはいずれ」
勢いのままバク宙を決め対比していくヴァイスと入れ替わり、穣が鋭きビームを放った。
注意を引くも、穣は近接距離の向こう側。不完全なデモノイドは腕を砲筒へと変化させ、砲口を穣へと突きつけて……。
「おっと、余の相手も頼まれてはくれぬかな?」
紗智子がその腕に扇を模した剣を落とし、砲弾を明後日の方角へと吐き出させた。
地面に埋もれていく砲弾を眺めつつ、紗智子は終わりへと導くために手首を返して切り結ぶ……。
時間に直せば次か、その次が最後となる。
故に細めた瞳で軌道を見切り、紗智子は刃を受け流した。
「もう休め、お主はよう頑張った」
「念のため、だな。悪く思うなよ」
横合いから優華が盾突撃を叩き込み、不完全なデモノイドの巨体を揺るがした。
リリシスが魔法陣越しに魔力の弾丸をぶっ放し、蒼き外殻の隙間へと潜り込ませていく。
「……動かなければ、楽に逝けるわ」
警句に従わず体を震わせる不完全なデモノイドに、優華の霊犬ホムラマルが斬りかかる。
後方にて狙いを定めていた綾鷹も影を送り込み、刃へと変貌させて切り上げた。
「もうおしまい、ですね」
「ええ……」
動きを止めるため、これ以上苦しませぬため、絶奈が膝に杭を打ち込んだ。
トリガーを惹き地面へと縫い止めれば、グズグズと蒼き巨体が崩れ始めていく。
「……私も」
杭を引き抜きながら、絶奈は手向けの言葉を紡ぎだした。
「……私もダークネスが支配するこの世界を打倒したい。例え後に共存するにしても……です」
静かな誓いを、散りゆく不完全なデモノイドへと伝えるため……。
不良たちの立ち去った方角を、そして藍の逃げた方角を眺めた後、ヴァイスがベンチに腰掛けながら深い息を吐き出した。
「何とかなったな……正直、少し危なかった」
序盤から抑える役目を担っていたが故、治療では癒せぬ傷も多い。戦いが終わった今隠す必要もないだろうと、空を少しだけ引きつった笑顔で眺めていく。
休むしか癒す方法がない状態。穣は安堵の息を吐いた後、同様の星のきらめく夜空を仰いだ。
「無事に逃がせてよかったな……」
誰一人としてさらわれることがなかった、それが何よりもの幸いだと。
今宵もまた、朱雀門の活動は一つ潰えた。それが重なればきっと新しい……より良い方角へと向かうはずなのだから……。
作者:飛翔優 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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