流水、血に染まりて

    作者:立川司郎

     その日、川は真っ赤に染まった。
     古いたたらの地に眠る、一つの伝説が鎌を擡げる。巨体を引きずり、ぞろりと川から這い出る。白い体は真紅に染まり、まるで血を浴びているかのようであった。
     見上げる程の、それは美しき一匹の巨大な蛇。その体に巻き付いた鎖が、どこか痛々しい。
     蛇と対峙しているのは、これもまた純白のケモノであった。艶やかな毛並みと、すらりとした体躯。だが耳は少し、千切れている。
     白き狼は、蛇を満足そうに見上げていた。
     それから大きく一声咆えると、身を翻したのであった。
     それを追うように白蛇が動き出すと、川は波打ちざあざあと飛沫をあげた。濁流を生み、下流へと押し流していく。

     真っ赤に染まった水からは、少し鉄の臭いがした。
     
     相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)から連絡を受けたのは、野馬の事件からしばらく経った頃であった。
     丁度スサノオの事件報告を引っ張り出していた、ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)と木元・明莉(楽天陽和・d14267)の元に、衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)が野馬に関する報告を持ってきた時である。
    「丁度いい、スサノオの尻尾が掴めそうだぞ」
     隼人に言われ、七は報告書をひらひらと泳がせた。
     じゃあ、この報告書は無駄だったかしらと笑う七に、明莉は首を振って受けとる。幾つも島根に関わる本を広げたベルタが、ちょいと横の椅子を引いて七を呼ぶ。
     少し長くなりそうな話だ。
    「今までの話に共通するのは、鍛冶。金屋子神に代表されるように、一つ目は鍛冶の象徴だ。……だけど、そもそもヒトの味方である金屋子神を都市伝説として呼び出しても、ヒトに害するものなのかなぁって思うわけ」
    「せやけど、スサノオが大蛇を呼び出すっちゅうのも変な話やで。大蛇と鍛冶もつながらへんし」
     ベルタが返すと、隼人が手を振った。
     いやいや、そもそもあのスサノオを伝説のスサノオと結びつけるのがおかしいと隼人は言い張る。
    「それを言うなら、神様のスサノオがあちこちで伝説ほじくり返すのがおかしいって話になるぜ。それは分けて考えておけよ」
    「それで、やっぱり大蛇について調べてみたんだよ」
     明莉は地図を指し示しながら、話し出した。大蛇は『おろち河川群』という言葉があるように、山陰の幾つもの河川とその支流を指しているという考えがある。
     たたら製鉄により木々を切り出された山や川の氾濫、そして砂鉄が流れ出して汚染された河川が染まる様子を、血の流れる大蛇に例えた……と。
    「せやったら、島根のあちこちで大蛇の伝説があってもおかしゅうないな。別に八岐大蛇やのうても、たたら場の公害で蛇や龍に例えた伝説があるって事や。このおろち河川群ってのと昔のたたら場、重なってるって事やろか」
    「遠からず、って所かな」
     今までの情報から隼人が調べると、斐伊川でスサノオの出現が予測された。近くに金山神社という小さな神社があるのが目印であるという。
     金山、とベルタが呟く。
    「それって、あの金山神社の系列やろか」
    「それも鍛冶の神様だったりするの?」
     七が聞いた。
     金山彦、天目一箇神と同一と考えられる神様であり、金屋子神とも何らか関わりのあるといわれている神々である。
     あのスサノオが、そこまで考えていた……とは考えられないが。だが、隼人はにたりと笑う。
    「まあ、そういう話は嫌いじゃないぜ。古代のたたら製鉄が生み出した、都市伝説。の集大成ってわけだ」
     スサノオは、河川敷に深夜現れて古の畏れである大蛇を呼び出そうとする。
     大蛇とはいえ、河川の氾濫を現した一匹の巨大な蛇であり、八つの頭を持っている訳でもなければ伝説の八岐大蛇のような凄まじい力を持っている訳でもないと隼人は言う。
    「スサノオが大蛇を呼び出そうとした直後に攻撃を仕掛けると、六分以内に倒さなければ大蛇が出現する。短期決戦に勝利すりゃあ、大蛇とは戦わずに済むな。次に、スサノオがすっかり大蛇を呼び出した後で戦う場合……スサノオがある程度古の畏れから離れた後で襲撃すれば、両方相手にする心配は無い。ただし、大蛇を放置して帰る訳にゃいかねぇから両方片付けて帰らなきゃならんな」
     スサノオは炎と雷をあやつり、多彩な攻撃を操るという。
     一方大蛇は、水辺からあまり離れる事はなく、水を使って攻撃をする。体は大きいが、動きは素早い。
    「……ま、あまり気負うな。別に伝説の大蛇と戦えってんじゃないんだ、こいつは古い都市伝説……それだけだ」
     隼人はそう言い、肩を叩いた。


    参加者
    椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)
    ベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)
    衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)
    シェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521)
    王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)
    木元・明莉(楽天陽和・d14267)
    英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)
    セトラスフィーノ・イアハート(編纂イデア・d23371)

    ■リプレイ

     闇の中、遠くに映る家屋のあかりが星のように輝いていた。
     河原の近くに身を潜め、息を殺してその時を待つ。彼らの目的は、一体のケモノであった。そっと身を乗り出した王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)は、周囲にまだ何も現れないのを確認すると小さく息を吐く。
     白い息が、山陰の夜の寒さを現していた。
     どこから来るのか?
     そして何処に去るのか?
     あのケモノが現れるのを、今か今かと待ち続ける。しゃがみ込んで落ち着きが無い様子なのは英田・鴇臣(拳で語らず・d19327)もそうで、こちらは戦いを待ちわびている様子。
    「まだ来ねぇの?」
    「もう少しじゃないですか?」
     そう答え、椎木・なつみ(ディフェンスに定評のある・d00285)は空を見上げた。
     瞬く星を見つめ、ふと微笑するなつみ。だが、三ヅ星が肩にそっと触れたのに気付いて視線を落とした。
     闇の中、静かにケモノが現れたのである。
     彼は、闇の中からぬうっと姿を現した。どこからともなく、暗がりの向こうから……気配もなく、静かにケモノは河原へと向かう。
     その白いケモノの片耳は千切れており、まさに隼人から聞いていた通りの容貌であった。
     四つ足で仁王立ちをしたスサノオは、河原をじっと見つめる。
     彼の一挙一動に、三ヅ星……そして灼滅者達は目を見張った。
    『ウォォォォォォォン』
     河原にケモノの鳴き声が響き渡る。
     河を見つめたスサノオは、身を震わせながら咆哮をひとつ上げた。その鳴き声に呼応するかのように、ざわざわと河が波打つ。
     波打った河は月の光に映し出され、濁った色を吐き出していく。
    「……大蛇」
     鎖を体に巻いた白い蛇が、河から姿を現した。
     やはり大きさからしても首が一つである事からしても、とうてい八岐大蛇とは言えない代物であった。
     ちらりとベルタ・ユーゴー(アベノ・d00617)が衣幡・七(カメレオンレディ・d00989)を見ると、彼女は肩をすくめた。
     むろん、浪漫を感じないかと言われれば否である。
     目の前にいるのが八岐大蛇だろうが、単なる大蛇であろうと……だ。
     鉄の臭いがする赤い水を体に纏わせ、大蛇がぞろりと河から上がる。スサノオはそれを見届けると、満足そうに一声上げて身を翻した。
     彼は元来たほうに引き返していく。
    「南の方に向かうよ」
     セトラスフィーノ・イアハート(編纂イデア・d23371)がスサノオの消えた方を見ながら言うと、地図を手にシェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521)が目を細めた。
    「ここから北はもう市街地と海だからね、海に出る以外はどこに行くにしてもこの方角に行くと思うよ」
     行く先を探りたいのは山々だが、長時間の尾行を続けなければどこに向かうのか知るのは難しい。次の畏れを探して歩き回るのか?
     それともどこかに行くのか?
     考えても仕方ないとセトラスフィーノは歩き出した。
     スサノオの消えた方へと、気付かれないように駆け出す。河原の茂みを抜け、車道に出る。車の通行が無かったのは幸いで、スサノオは更に金山神社の方に向かう道を駆けていった。
    「国道沿いの民家から金山神社までの間は民家がないみたいだよ。戦うのなら、この辺りがいいんじゃないかな」
     シェレスティナに言われ、木元・明莉(楽天陽和・d14267)はスサノオを見やった。
     確かに、民家の近くで戦うのはあまり気乗りがしない。時計を取り出し、明莉は時間についてシェレスティナと話し始めた。
    「今後もスサノオは現れるだろうから、短期決戦が可能か制圧時間を計っておくよ」
     シェレスティナは明莉とそう話して、皆に聞いてみた。
     ある程度の目安にはなるかもしれないが、今回のスサノオを倒して別のスサノオであれば、個々に持ち合わせた力も違えば対峙する灼滅者の能力も作戦も別となれば、長期戦になる場合もあれば短期で済む事もあろう。
     隼人に六分と言われているならば、上手くやれば短期決戦も不可能ではない……といった所だろうか。

     シールドを構えたなつみが、明莉を振り返る。
    「じゃあ、カウント開始お願いします」
     闇の中、三ヅ星がライトを付けるとなつみが飛び出した。引き返していたスサノオが、灯りと人の気配を察して振り返る。
     白い巨体は、月夜にはよく映えた。
    「逃がしませんよ!」
     シールドごと突撃したなつみの衝撃を、スサノオは足を踏ん張って耐える。手応えはまるで岩のようで、なつみの目論見にはまるで乗っかる様子もないスサノオ。
     嘲笑するように、咆哮とともに炎を吐き出した。
     炎は闇を照らし、駆けつけたなつみやセトラスティーノを焼き払う。
     とにかくスサノオの攻撃を引きつけようと、なつみは拳を交えながら隙あらば盾で組み付いた。
    「くっ……」
     躱される……。
     なつみは、スサノオの動きが速い事を分かって居てなお押しにかかったが、思った以上に相手の方が上手であった。
     スサノオはこちらの動きを見切っており、なつみやセトラスフィーノがガードするのにも限界が来ている。
     焦りは、相手にも見透かされているようだった。
    「……そうは言っても、フォースブレイクじゃ当てられるかどうか…」
    「大丈夫、手が空いたら何とかするわ」
     七は落ち着いた声でなつみに言うと、影を闇に這わせた。大丈夫、集中力は高まっている……行ける。
     自身に言い聞かせ、七は影の刃でスサノオの足を切り裂いた。足を攫うように切り裂いた影に、スサノオが飛び退く。
     ぎろりと眼を七へと向けると、距離を開けた七へと高音の鳴き声上げた。激しい音波に、思わず七が耳を塞ぐ。
    「狼の鳴き声じゃない……ああもう!」
     あまりの衝撃に、立ちすくむ七。
     するとベルタがちらりと七を振り返ると、こくりと頷いた。
    「夜ならなおさら、影は見つけにくいやろ!」
    「スサノオのトラウマって何なのかしら」
     七とベルタは、同時に影をスサノオへと食らいつかせた。とにかく搦め手で攻める……七もなつみも、スサノオへの攻撃の手は緩めない。
     明莉は石化。そしてスサノオに冷気を放ったシェレスティナも、ダメージを下げない為に積極的に前へと飛び出した。だがその分、どうしても威力は落ちる。
     短期決戦というには総じて後ろに下がって戦う仲間の方が多く、そうこうしているうちに六分が経過した。
     あらかじめ想定していたとはいえ、明莉は言葉なく時計の針を見つめる。
    「暗はそのまま。……ともかくスサノオは逃がさない事が大事なんだ、時間はかかってもキッチリ倒そう」
     ビハインドに攻撃を指示した後、明莉は仲間にそう言った。
     明莉の話を聞いて、剣を構えたシェレスティナがちらりと道の後ろを振り返る。ここからは大蛇の姿が見えないが、人を襲ったりしていないだろうか。
     こちらに来る事もないだろうか。
    「……。ありがとう」
     体に感じた癒やしの矢の衝撃で、ふとシェレスティナは考えを止めて踏み込んだ。矢は七の放ったもので、視界にいた七が次にベルタへと放つのが見える。
     追撃はベルタに任せ、シェレスティナは剣をスサノオへと突きつけた。
     鋭い突きに、スサノオが体勢を崩す。
    「これで終わり……ね!」
     スサノオが立て直すのを待たず、シェレスティナは一刀のもとに切り裂いた。

     しんと静寂が戻ると、シェレスティナは時間を確認した。
    「10分と少し。……やっぱり、足止めをするまでに時間がかかり過ぎるのかな」
     だがパワーもスピードも高いスサノオの個体に対し、有効な手があまり無かったのは仕方ない。その上で、二体倒す作戦を選んだのだ。
     三ヅ星は足元をあかりで照らして見ていたが、スサノオの姿は他のダークネスのように消えて何も残ってはいなかった。
     やれやれと呟き首を振り、三ヅ星は仲間の怪我を確認する。
     なつみやセトラスフィーノは炎による攻撃を幾度か受けて消耗していたが、少し休んで処置をすれば何とかなりそうだった。
    「……後は、大蛇だね。じゃあ、次はボクが前に出るよ」
     三ヅ星がロッドのミカヅキを握り、歩き出す。
     ディフェンスに暗と鴇臣が加わり、セトラスフィーノは後ろへと下がった。怪我の具合は見た目ほどではないが、大蛇戦では自力で回復が出来ない為、念を入れての事である。
     河原に居座った巨大な白い蛇は、ぬるりと動き始めていた。
     引き返してきたシェレスティナが、その体に絡みついた鎖を見る。
    「都市伝説というからには、ここから遠くには行けないんじゃないかとは思うけど……」
     むろん、それは希望的観測には過ぎないが。
     鎌をもたげた大蛇が、こちらに気付いてずるりと体を動かす。回り込んで、大蛇の前へと鴇臣が立ちはだかった。
     見上げた鴇臣に、大蛇が大きく頭を引くと一気に頭をぶつけてきた。
     思わぬ頭突きを、鴇臣はとっさに影を蜘蛛の糸のように搦めて阻止する。衝撃は何とか受け止めきれる程度であった。
    「……力はそう強くないな」
     鴇臣が呟き、お返し!と叫びながら拳を突き上げた。
     左右はなつみと暗が囲んでおり、ここからは大蛇は一歩も逃がさない。シールドを構えたなつみにも、大蛇はぐるりぐるりと頭と目を動かして睨んでいる。
     どうやらスサノオよりは、戦いやすそうだ。
    「こいつ、動きがてんで遅い……っ!」
     鴇臣から鮮血の十字が放たれ、大蛇がゆるりと体を揺らした。
     雷や水流を放ってこちらの動きを阻止しようと計るが、大蛇の攻撃はあまり広範囲に及びはしなかった。
     攻撃に注意しつつ、鴇臣が赤いオーラをナイフに纏わせた。
     目を回した大蛇が攻めあぐね、はたと飛び込んで来た鴇臣へと風刃を放った。身を切り裂かれてながらも、鴇臣は刃を構えて斬りかかる。
     もう一撃……と大蛇が鎌をもたげた所に、三ヅ星の巨大な腕が叩きつけられた。
     大蛇の巨体に掴みかかる、三ヅ星の腕。
     どこかすずしい顔をして、三ヅ星はカラカラと笑った。
    「ハハ、やっぱりボクは前衛が性に合ってる。さて、攻撃のチャンスじゃないか?」
     三ヅ星が視線を向けると、攻撃の隙を伺っていたセトラスフィーノが飛び込んで来た。三ヅ星が押さえた瞬間、大蛇が振り上げた尻尾をベルタが叩く。
     鴇臣の背に隠れるようにして、大蛇の横に回り込むと注射器を我が腕のようにその体へと叩き込んだ。
     注射器が穿たれたまま、大蛇がのたうち回る。大蛇から注射器を引き抜かず、セトラスフィーノは毒を流し込んだ。
    「ごめんね、でもキミはこのまま放置しておく訳にはいかないんだ!」
     キミはきっと、良くない事を招くから。
     セトラスフィーノは暴れる大蛇に弾き飛ばされ、七に支えられた。もう終わりそうよ、と七に言われて彼女はゆっくりと立ち上がる。
     暗に合わせて大蛇に殴りかかった明莉が、大蛇の白い体躯を貫いた。
     迸るのは、血か……河に流れる土か。

     その後、三ヅ星は周囲を隅々まで歩き回って異変がないか調べた。
    「何かあったのか?」
     川辺に座った鴇臣が、ひょいと見上げて三ヅ星に聞く。
     見下ろしながら、大きく首を振った。
    「ない。……何も無いよ残念ながら」
     というか、手伝ってくれてもいいんじゃないか、と三ヅ星が鴇臣に言うと鴇臣は笑ってごまかしたのだった。
     戦うのは得意だが、考えるのはあまり得意じゃないと鴇臣は言う。
     だが三ヅ星は、ふと柔らかな笑みを浮かべた。
    「ボクだって」
     ボクだって、智恵や強さは無いよ。
     それでも『無い』と言った三ヅ星の笑顔は、とても柔らかくて優しい。
    「一つだけ分かって居るのは、このスサノオが使っていたのは今までの畏れが使っていた力に似てるって事かな」
     ちょんと鴇臣から少し離れた所に座り、セトラスフィーノは言った。
    「そういえばそうね、じゃあ畏れから力を吸い取ったって事? それとも何か別の理由があるのかしら」
     七は目を輝かせながら、セトラスフィーノに聞き返す。
     七も今までの報告書は目を通したが、確かにそう思える節がある。七がそれについて明莉に聞くと、明莉もまたあの音波攻撃は勢子に受けたものに似ていたと答えた。
     だとしたら、とセトラスフィーノは続ける。
    「だとしたら、もっともっと畏れを呼び出したら、もっと強くなるのかな」
    「なんだか、大変な話ですね」
     柔らかな声で、なつみが言った。
     大変ではあるが、きっと何とかなるし何とかする。なつみの笑顔は、そんな風に見えた。こくりと頷き、セトラスフィーノは口を閉ざした。
     そういえばベルタはどこまで行ったんだろう……と、明莉が見まわした。
     ベルタを探してみると、ぽつんと河原に佇んでいた。
     さわさわと流れる水は、月光を浮かべて流れゆく。静寂の中の水音は心地よく、疲れを癒してくれた。
    「色々考えてんけどな、今の段階じゃ分からへん。結局の所、こうして一つ一つスサノオを倒して行って、それで今後の調査やエクスブレインに頼るしかないねんなぁ」
     ベルタは、懐中電灯に照らして本を眺めて居た。
     実はここに来るまでに、七は近所のお年寄りに話しを聞いてまわっていた。結果、思ったような結果は得られなかった訳だが。
    「龍脈ってエネルギーの流れがあるって言うやん? そういうのに関わってるかなぁとか思たんやけど、そもそも龍脈とかボクら見た事あらへんしね」
     龍脈とか神話とか、色々調べて回った。
    「そういえば金屋子神って荒神の一種じゃないの? たしか、たたら場に死体を集めたりした神様だよね」
     シェレスティナが聞くと、よく知っているねと、明莉が少し嬉しそうに笑った。たしかに金屋子神は死体をたたら場に集めたと言われている、ちょっとおどろおどろしい神サマだ。
     明莉はその神が、木花開耶姫と同一だという見方もあると話した。
     本を見つめていたベルタが、ふと視線をあげる。
    「しかし荒神と言うてもたたらの人にとっては守り神やしな。死体は土属性やから、土は金を生むちゅうて五行で言うやろ。せやから死体を集めた、って説もあるらしいで。そもそも野馬に襲われた人を助けたんも金屋子神やしな、たたら場の人の事は大事にしてたはずや」
     阿用郷の鬼が火、石を使った勢子が土、のうまは金屋子神に関連して金、今回の大蛇が水……となると、次に木が来るかもしれんへんなぁとベルタは呟いた。
     むろん、あのスサノオは倒してしまったから……彼が出てくる事はもうないのだろうが。
     追ってきた個体が消えた事を考え、ベルタは口を閉ざした。
     目を細め、ふんわりと髪を揺らしてシェレスティナが吐息をつく。
    「もしかして、これはもっと大きなものの布石……だったりして」
     それが杞憂である事を祈り、明莉が笑顔で返した。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月25日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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