脅威の巨大化チョコレート~降り立った白と緑の嵐

    作者:雪月花

     ザッザッザッザ!!
     今しがた着いたトラックの荷台から、戦闘員達がコサックのステップで規則正しくダンボール箱を運んでいる。
    「ウフフ……灼滅者達は囮に引っ掛かったようシカ。今が好機なのシカ」
     彼らを眺めながら、白と緑色が混在するヒラヒラした衣装を纏った淑女……淑女? はほくそ笑んだ。
    「皆さん、予定のチョコが全て集まりましたら、ロシア村に帰りましょうシカ。剥き出しでは品がありませんシカ、きちんと梱包なさいシカ」
     戦闘員達が敬礼を以って応える彼女は、ロシア名物オクローシカの怪人だった。
    「これで、全てのご当地幹部の頂点にロシアンタイガー様が君臨なさる日も、近付くでしょうシカ……グローバルジャスティス様に栄光あれ!」
    「「栄光あれ!!」」
     梱包作業中の戦闘員も復唱する。
     士気は抜群のようだ。
     おクロさんは傍らにあるチョコの山から、その一片を摘んでうっとりと眺めた。
    「日本のチョコレートは美味と聞きますシカ。わたくしが味見をしておきましょうシカ」
     
    「バレンタインのチョコレートを狙ったご当地怪人の事件は、無事に解決したようだな。どうやらその中にある、食べると巨大化するチョコが彼らの狙いだったようだが……」
     灼滅者達に説明を始めた土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)の視線は、何処か思案げだ。
    「何故こんなことが……いや、それは置いておいて、だ。ご当地怪人達はバレンタイン当日に動いた者達を囮にして日本全国で多数のチョコレートを集め、集め終わったチョコレートを彼らの拠点に運び込むつもりらしい」
     やっぱり何故巨大化するのかよく分からないが、ご当地怪人がそんなものを入手してしまえば、脅威になるのは確かだと剛は言う。
    「ここで活動しているのは、ロシアの『オクローシカ』というスープの怪人らしいが、珍しく(?)ドレスを着た若い優雅な雰囲気の女性だ。どうやら日本の怪人に言われた『おクロさん』という呼び方が気に入っているようだが……」
     彼女は潤沢な資金力で、周辺のチョコを根こそぎ買い取っているようだ。
    「既に本拠に運び込まれてしまったチョコレートもあるだろうが、少しでも収集を阻止しなければならない。急いで彼らがチョコを集めている中継地点に向かってくれないか?」
     剛が示した地図には、彼らが一旦チョコレートを集め、搬出している拠点のひとつが記されていた。
     人里から少し離れたところにある、廃工場のようだ。
    「西側が山の手で林など遮蔽物も多い。正面の平坦な道よりは面倒だが、こちら側から回り込んで建物の影を伝い、チョコの搬入・搬出に使っている倉庫を目指すのが良いだろう」
     だが、何分にもコサック戦闘員の数が多く、機を見ずに戦いを仕掛けては勝ち目がない。
    「コサック戦闘員達がチョコレートの搬入や搬出で外に出ている隙に、倉庫内にいるご当地怪人に戦闘を挑んでくれ。ご当地怪人は、特に仕事や配下に指示がない場合は倉庫内の暖かい小部屋で休憩している。いかにコサック戦闘員が戻る前に勝負を決められるかが重要になるだろう。指揮官ともいえるご当地怪人さえ倒せれば、戦闘員はどうにでも出来る筈だ」
     他にも、外で働いているコサック戦闘員を個別に襲撃し、確固撃破して戦力を減らしていくという方法もあるが、敵に動きが気付かれると正面決戦になってしまう危険性もある。
    「今回は巨大化チョコレートの強奪阻止が目的だから、戦いを避けてチョコレートだけを奪取するという手もあるだろう。だが、奪われたチョコレートはかなり大量だから、全てを速やかに運び出すのは難しい。工場にあるチョコレート全体の半分以上、と目標にするのが限度だな」
     どんな作戦を行うのか、よりアイデアが試される方法だという。
    「この計画、意外と周到な準備がされていたようだな……いずれのやり方でも、その点を踏まえて遂行して欲しい。もしご当地怪人が巨大化する事態になれば、通常よりかなり強力な力を発揮するだろう。どうか、気を付けてな」
     剛は神妙に灼滅者達を見据え、締め括った。


    参加者
    雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)
    日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)
    佐倉・千(有声の画・d01419)
    遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)
    今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)
    桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)
    南風・光貴(黒き闘士・d05986)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)

    ■リプレイ

    ●潜入、秘密の集荷場
     人の手の入っていない木々は、鬱蒼と茂っていた。
     それでも天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)のESPによって木々が避けてくれたお陰で、廃工場を囲む外壁まではすんなりと辿り着く。
    「(だが、油断は禁物だ)」
     小声で仲間に囁く彼の脳裏に、ゲリュック王国で灼滅者達を飲み込んだ現象が過ぎる。
    (「それに、これは死守せねばならないからな……!」)
     玲仁はバレンタインに貰ったチョコを持ってきていた。
    「(チョコを強奪する怪人は世の中のチョコ好きの敵よ)」
     絶対に許さない、と決意を固める今井・紅葉(蜜色金糸雀・d01605)に、雨咲・ひより(フラワーガール・d00252)がちょっと首を傾げる。
    「(あの怪人は、チョコを買い取ってるんだっけ。強奪じゃないんだね)」
    「(でも、チョコには恋の成分が入ってるんだもん。巨大化なんてさせちゃダメだよう)」
     可愛らしい想像を抱く日辻・迪琉(迷える恋羊・d00819)が眉を下げた。
    「(チョコってそんな成分あったっけ?)」
     巨大化と聞いて思わずそう呟いてしまった佐倉・千(有声の画・d01419)も、まぁいっかと気を取り直す。
     ご当地怪人のトンデモにいちいち悩んでも、何か無駄な気もするし。
    「(とりあえず今後の為にも叩きのめしておこう)」
    「(とりあえずなんだ)」
     ご当地怪人とまともにやり合うのは初めてという遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)は、怪人ってそういう扱いなんだなぁと思った。
    「(巨大化とか意味が分からないし、放っておいたら面倒そうだよね)」
     意味が分からないという部分で同意したらしく、側に付いてそぞろ進む犬が耳をぴんと立てた。
     犬に姿を変えた桜庭・理彩(闇の奥に・d03959)だ。
     この姿なら隠れるのにも場所をとらないし、人間サイズよりも見付かり難いので、まず彼女が外壁を登って人の姿がないのを確かめて、壁を乗り越え建物の裏手に降り立った。
     服装にも気を遣い、工場に馴染むような地味な格好をした南風・光貴(黒き闘士・d05986)も続き、安全を確認して仲間達に合図を送る。
     敷地内に入って暫く進むと、ライフルのようなものを持って見回りをするコサック戦闘員の姿が見えた。
     相手に見付かる前に素早く物陰に隠れ、その動向を見る。
    「(この周辺の担当なのかな)」
    「(あまり遠くまで行きそうにないね)」
     見張りの様子に千が呟くと、瑪瑙も小さく頷く。
    『さっき交代したばかりだから、暫くは新手も来ない筈だよ。あいつが反対側を向いた時にいこう』
     暫く観察していた光貴が、接触テレパスで知らせた後、タイミングを合わせて灼滅者達は飛び出した。
    「ふげっ!?」
     一気に攻撃を受けて、大声を上げる暇もなく戦闘員は倒れた。
     光貴は先程まで自分達が隠れていたところまで、戦闘員を引っ張っていく。
    (「見付からないように隠して……と」)
     理彩が再び犬に姿を変え、
    「ありがとう、響花さん」
    「バトルキャリバーにも戻っておいて貰おう」
     カードに吸い込まれる玲仁のビハインドを見て、光貴も自分のライドキャリバーをカードに戻すと、また慎重に移動していく。
     件の倉庫はそのうち見付かった。
    「(うーん、すりガラスで中が見えないよう……ん?)」
     窓から中を覗こうとした迪琉が何かに気付いて、変色した壁に耳を付けた。
    「(何か聞こえるよ。壁が古くなってて、どこかひび割れてるのかな?)」
     気になる仲間達も、同じようにしてみた。
     広い倉庫に戦闘員達の会話が反響して、漏れ聞こえてくる。
    「お前達、あんまり乱暴な梱包をするなシカ。我々の行動如何で、おクロ様の品位が疑われてしまうシカ」
    「了解であります!」
    「ありまシカ!」
     ……何か、気の抜ける会話だ。
    「(ここなら壊すのも簡単そうだけど……音で気付かれてしまうね)」
     瑪瑙は逡巡した。
     壁の綻びを壊すのも、窓の鍵を抉じ開けるのも、中の様子が分からないのが不安だ。
     その後、結局気付かれずに侵入出来そうな場所が見付からなかったので、彼らは倉庫の搬入出口が見える場所に回った。
    「(トラックはここまで入って来ないの)」
     物陰からそっと紅葉が確認する。
     道の脇に色々置かれて細くなっているせいか、離れた駐車場と倉庫を戦闘員が行き来してチョコを運んでいるようだ。
     効率は悪そうだが、こちらにとっては好都合。
    「(出入り口の見張りも1人だけみたい)」
     光貴も頷いた。
    『他の連中が出払ってから、あの見張りを倒したらいいか』
     新しくチョコを運んできたトラックが数台到着したらしく、大勢で荷車を転がしていく戦闘員達を見送ると、灼滅者達は搬入出口に突入した。
    「な……へぶっ」
     一気に見張りを伸して死角に隠し、見えていた小部屋の扉に向かう。
     小部屋の素材や組み方は簡素なもので、うっかり破壊しないように気を付けようと思いつつ、人の姿に戻った理彩はノブを回した。

    ●白と緑の嵐、オクローシカ!
    「ふー、くつろぎながら飲むオクローシカはやっぱり最こ……な、なんですシカ、あなた達!?」
     部屋の中には外装に見合わないお高そうな調度品が置かれ、ソファに掛けるドレスの美女がいた。
     オクローシカ怪人、おクロだ。
     スープカップを置いて立ち上がる彼女を、ディフェンダーの千と玲仁、クラッシャーの迪琉、瑪瑙、そして理彩が半月状に展開して取り囲む。
     おクロの背後には、小部屋の壁がある。
    「浪速ライダーブラック参上!」
     黒いスーツに身を包んだ光貴が、スナイパーを位置取りポーズを決めた。
    (「戦闘員はどう見ても一般人じゃない気がするけど、一応ね」)
     ひよりはサウンドシャッターを発動させながら、小部屋にある窓を確認する。
     屋内だからか覗き窓のような小さなものしかないが、やっぱり小部屋自体が脆そうな気がする。
     戦闘員達が戻ってくるまでに、怪人を逃がさず決着を付けなければ。
    「悪いけど手間取る訳にはいかないの。沈んで頂戴」
    「きゃあっ」
     早速日本刀『心壊』を抜き、デッドブラスターを浴びせる理彩におクロが悲鳴を上げる。
    「なんですの、あなた方!?」
     灼滅者達をキッと睨むと、白と緑の小さな旋風を幾つも呼び出した。
     おクロをしげしげ観察しつつ、千は口を開く。
    「私達の目的は、あの山のようなチョコレートだよ。速やかに明け渡すや良し、渡さねば実力行使とさせて貰おう」
    「ご、強盗!?」
    「ちっがーう! ……あ、あれ、違わない?」
     一旦否定しつつ、確かにこの人(?)チョコ買ってるし、むしろ強奪に来たのは自分の方? と迪琉は目をぐるぐる。
     後ろでキャスターの位置にいる紅葉が肩を竦めた。
    「あの怪人はやってなくても、仲間はやってるじゃない」
    「あ、そうだったよう!」
     導眠符を放ちながら、しげしげと怪人を観察してしまう瑪瑙。語尾とかも、なんだか気になる。
    「……時期外れなんじゃないの」
    「フフッ、売れ残りのチョコが大量に余っている今が丁度良いのですシカ」
     ポツリと呟かれた言葉に、何故かおクロは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
    「チョコを持ち帰ってなにするつもりかな」
     真面目モードで人差し指の指輪にくちづけ、紅葉が降臨させた十字架の光が降り注いだ。
    「くっ……あなた方には関わりのないこと。寄ってたかってか弱い乙女を攻撃するような方達には、負けませんシカ!」
     小さな旋風を集中させ、おクロは反撃してきた。
    (「……か弱い?」)
    (「か弱い?」)
    (「乙女なんだ……」)
     灼滅者達の頭に、ちょっと疑問が巡ったり。
     確かに綺麗な女性だとは思うけど、やっぱりアレとかソレとかに出てくる女幹部っぽい格好なんだよなぁコレが。
    「今回もディフェンダー、お願いしますね」
     響花さんと共にディフェンダーを担う玲仁は、彼女が霊撃を放つ間に天上の歌声を響かせ、紅葉の傷を癒していく。
    「とにかく、これ以上チョコを持って行かせる訳にはいかないんだよう。バレンタインチョコは巨大化アイテムじゃないもん、片思い女子のためのものなんだから!」
     ぴしりと指を差して言い放つと、迪琉は細腕には無骨な龍砕斧を振るい、なんだか微笑ましい気分になりながらもスナイパーのひよりが続けざまに契約の指輪から麻痺を誘う魔法弾を放つ。
    「必殺、オーラキャノン!」
     ホーミングの付いた光貴のサイキックが少し反応の鈍ったおクロに直撃し、バトルキャリバーが足許に銃撃を集中させる。
     更に千が雷に変えた闘気を打ち込む。
    「折角のドレスが台無しですシカ……」
     おクロはしょげつつも旋風を分裂させ、回復を図った。
    「ここには何人分ほどのチョコがあるんだ?」
     玲仁の問いにおクロは肩を竦める。
    「そんなの、数え切れませんシカ」
     既にある程度は本拠に送ってしまっているだろうが、まだ梱包済みでないチョコも含めて大量のチョコがあるようだ。
     とてもひとりで食べられる量じゃない。
    「俺もバレンタインに貰ったチョコを持っている」
     分裂し、盾となった旋風を破壊しながらが玲仁が呟くと、おクロはちょっと興味あり気に彼を見た。
    「あら、あなたも特別なチョコをお持ちなのシカ?」
    「まぁ、くれたのは男だが……」
    「え、なんかそういう企画? それともガチ?」
     目の下に縦線が入った顔で驚愕するおクロ。
    「語尾忘れて素で返すことか!?」
     なんかちょっと引いてしまった玲仁。
    「流石日本、進んでるシカ……」
    「話聞けよ」
     玲仁は思わず響花さんに視線を向ける。
    (「俺は……」)
     でも響花さん、一生懸命戦ってる最中でした。
     何せ、出来るだけ早く倒さなきゃいけないところですし。
    「まぁ……無駄口はそこまでで、いい?」
    「ひどっ!?」
     巨大化させた腕を振るう瑪瑙に、おクロはまたショックを受けた。
    「話を振ってきたのはあなた方でしょうに!」
    「そうかも知れないけど、それとこれとは別だよ」
    「ひどいっ!!」
     千に足蹴にされて、おクロはよよよと大袈裟によろける。
    「心身共に攻撃されて、わたくし大ピンチですシカ。かくなる上は……」
    「待て!」
    「させないのっ!」
     懐からチョコの箱を取り出した怪人を、光貴は光刃を、ひよりは魔法弾を放って妨害しようとした。
     しかし、渦巻く旋風がそれらを跳ね除ける。
    「甘~い! チョコより甘いシカ! それぱくっとな」
    「「あっ」」
     おクロはチョコを口の中に放り込んだ。

    ●巨大化も楽じゃないんだってば
     特撮番組で見たような効果がおクロを包み、そのシルエットが膨張していく。
    「いけない、ここから出ましょう」
     声を上げる理彩にはっとし、一同急いで扉に引き返す。
     内側から破裂するように壊れた小部屋から転げ出た灼滅者達の前で、おクロはぐんぐん大きくなって工場の屋根を突き抜けた。
    「……本当に巨大化するんですね……」
     頭の中でどうも想像出来なかった巨大化の光景が、理彩の目の前で起きている。
     これは、なんというか……アレだ。
     心の平穏の為にも、早くどうにかしないと。
    「くっ、防げなかったか……」
     悔しそうに呟く光貴だが、なんか闇堕ちする雰囲気じゃない。
    「ホーッホッホッホ、これでわたくしの力も大幅増……」
     高笑いしながら灼滅者達を見下ろ……せない!
    「や、屋根が邪魔!」
     屋内の灼滅者から見えるのは、ヒラヒラしたドレスの裾と2本のおみ足のみ。
     見上げたひよりの円らな瞳が、思わず点になる。
    「これ、逆にチャンスよね……?」
     パラライズとかバッドステータスも、掛かったままだし。
     やっぱりおつむが残念と刺々しさを覗かせ、瑪瑙は神霊剣を振るい皆を促した。
    「ダメージはそのままの筈だし、今のうちに」
    「あだっ、いだだだだ! こっちが見えないのに卑怯シカ~!」
    「「巨大化しといて言うことじゃな~い!!」」
     突っ込みを入れながらドンパチやっていると。
    「どうなさいました、おクロ様!」
     工場の屋根を突き抜けたおクロの上半身に、流石に異変を悟った戦闘員達がやって来た。
    「侵入者だ! お前達、おクロ様を援護せよ!!」
    「「コサーック!!」」
    「み、見付かっちゃった」
     迪琉はあわあわしながらおクロの脛を叩く。
    「いったーーい!」
    「あいつを倒すまで凌ぐしかない!」
     光貴の合図でバトルキャリバーが戦闘員達に機銃掃射を仕掛けた。
    「「あばばばば!」」
    「回復は紅葉がするから、今のうちに早く!」
     紅葉が生み出した光を負傷した仲間に注いでいく。
     一方、屋根の上のおクロ。
    「あ、ここの屋根壊せば見えるシカ」
     やっと思いついたように旋風を操って前方の屋根を破壊したものの、既に手遅れ感が。
    「ホットな味を喰らえ! スープカリービーム!」
     光貴のご当地ビームがクリティカルを叩き出す。
    「もう少しなのっ」
    「一気にやっちゃえーっ!」
     押し切る勢いでひよりと迪琉が攻撃を重ねる。
     理彩は一度刀を鞘に納め、
    「さようなら――心壊!」
     研ぎ澄まされた刃での居合斬り一閃。
     間髪入れず、瑪瑙と千のサイキックが目にも眩く交錯した。
     巨大な美脚がよろめく。
    「あぁん悔しいっ。ごめんなさい、ロシアンタイガー様ぁ!!」
     おクロさん、爆散。
    「お、おクロ様ぁ!?」
    「な、なんてことだ……っていうか屋根が!」
     バラバラと落ちてくる瓦礫に、戦闘員達が浮き足立つ。
     建物自体は倒壊しそうにないと見て、灼滅者達は混乱した戦闘員を次々と倒していった。

    ●勿体無いけど
     劣勢を知って一目散に駐車場へ向かった者達も、乗り込んだトラックの荷台が吹っ飛んでワラワラと逃げていく。
     トラックももうベッコベコで、使い物にならなそう。
    「他愛もないですね」
     背走者を眺め、理彩は刃を鞘に収める。
     何体かの戦闘員は逃げ果せたが、リーダーを倒されておめおめ本拠にも帰れないだろう。
    「……さて」
     赤い瞳が映すのは、荷台から零れたチョコ。

     千はアイテムポケットを開くと、瑪瑙にも手伝って貰いチョコを入るだけ詰め込む。
    「物を運ぶ時は便利ね」
     感心げにしつつ、ひよりも持ってきたリュックと袋にチョコを入れていく。
     めぼしい情報はなかったが、学園に持ち帰ったら何か分かるかも知れないと期待して。
     料理上手な迪琉には、あのスープも気になるけど……。
    「ううん、みちはお味噌汁派だもん!」
     首を振って、鞄にぎゅぎゅっとチョコを詰め込んだ。

    「こういう時トラックの運転が出来れば、ことが楽に運ぶのだろうな」
     チョコの詰まったダンボールを担ぎながら、玲仁はぼやいた。
    「春休みを利用して免許を取ろうか……」
     その視線の先にあるのはバトルキャリバー。
     バイクにも乗ってみたいな、と思ったり。
     ふと、チョコを持つひよりが手を止め、それを眺める。
    「巨大化チョコって、灼滅者がが食べたらどうなるんだろ?」
     じー。
     紅葉も思わず、じー。
    「……勿体ないけど、食べたら怪人になっちゃうかもしれないし」
    「そ、そうよね。何かあったら怖いから、やっぱり止めておこうー……」

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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