伝説の彫師拠点強襲~鹿児の褥に

    作者:那珂川未来

    ●呼びかけの、覚悟
    「急な呼び出しなのに、集まってもらってすまないね。特殊な依頼だけれども、協力してもらえないだろうか」
     仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)そう前置きして。
    「先日、刺青羅刹事件について調査していたメンバーのおかげで、刺青を彫ることで一般人を強化一般人とする、ダークネスの存在を探り当てたことは知っているね。これを放置すれば、罪のない一般人が、次々と刺青持ちの強化一般人にされる」
     そんな事を決して許すわけにはいかないから。一気に拠点を潰して、刺青強化一般人を生み出しているダークネスを灼滅する作戦を行う。
    「今回は、バベルの鎖によって事前に予見されない程度の規模、8人1チームの、計15チームに分かれ、作戦を行うことになったんだ。他班との連携や、班自体の役割、その作戦の密度など、考えることは多い。一つ一つの作戦が上手く働かなければ、失敗するだけでなく、この勢力拡大にも繋がるし、次回があるとも限らない」
     それだけこの作戦は大事なものなのだと、沙汰は付けくわえた。
     
     
    ●作戦概要
    「じゃ、説明に行こうか」
     一人ひとりに解析資料を配り終え、早速内容へと。
    「敵の拠点は、鹿児島県の山中」
     地図はあるので迷うことはないだろう。拠点は人里離れた場所に作られた和風の屋敷で、土蔵や、幾つかの建物がある事が判明している。
    「土蔵には、一般人が捕らえられているらしい。どうやら福岡から人間が運ばれてきているみたいだ。例の中州の事件が係わっていると思われるよ」
     敵の戦力は100体以上と思われるが、くわしいことはわからない。もしかしたら少ないかもしれないし、倍以上いるかもしれない。
    「まぁ、楽観はしない方がいいな。少なくてもそれ以上いるという仮定のもと作戦立てないと、生きて帰れないくらいの気構えは必要だろう」
     かなり脅すような言葉を掛ける沙汰だけれども、しかし不明瞭な部分もある拠点を攻めるということは、それくらいの覚悟を持って挑まねば、話にならないのだ。
    「バベルの鎖に察知されないにしても、作戦開始後に、敵が通信機などで援軍を呼ぶ可能性は高い。まぁ、人里離れた場所にあるから、援軍が来るまでには時間がかかるだろうがな。だからって無制限に時間があるわけじゃない。速やかな作戦行動が必要だろう」
     敵の強化一般人は、刺青を施されており、まるで昔の軍隊のような規律をもって作戦行動を行うようだ。戦闘力はそれほど高くは無いが、統一された指揮の元に連携して攻撃してくる為、かなりの強敵になるだろう。
    「……正直、今回の作戦は難易度が高い。相手の内部情報が完全に明るみに出ているわけじゃないから、事の転び方によっては、失敗の可能性も十分にある」
     そうなった場合の被害は、決して軽視できるものじゃないと、沙汰は改めて告げる。
    「だから、覚悟をもって、挑んでほしい」
     沙汰は一人ひとりの目を見つめ、そしてその覚悟を感じて頷いて。
    「無事に帰ってくる時を、待ってるよ」


    参加者
    六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)
    両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)
    黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)
    若菱・弾(キープオンムービン・d02792)
    栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)
    城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)
    霧野・充(月夜の子猫・d11585)
    宍戸・源治(揺るぎな鬼魂・d23770)

    ■リプレイ

    ●籠の家
     歴史滲む屋敷を目前に。草葉に身を隠し、刻の流れを見逃さぬように意識を研ぎ澄ませて。
    (「あちこちの班に、友達が参加してる……」)
     城守・千波耶(裏腹ラプンツェル・d07563)にとって、それは心強い反面、自分らの陽動が上手くいかなければ、安否を左右しかねない責任、緊張を感じて。胃の辺りが苦しい。
     でもやるしかない。
     いや、やるためにここにいる。
     作戦成功の為にも、大事な人達を護る為にも。
     そんな千波耶の決心の固まりを感じ取ったかのように、濁流の様に門へと向かう人の影。
    「カチコミじゃー!」
     高らかに鬨の声を響かせる安曇・陵華(暁降ち・d02041)。先行襲撃班が強化一般人へ攻撃を仕掛ける合図。
    「頃合いだな」
     奇襲にほぼ等しい一方的な戦闘。なだれ込むなら今、黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)は突入の機と判断して。
    「精一杯ひきつけて、成功させましょう」
    「おう。やってやるぜえ」
     霧野・充(月夜の子猫・d11585)と宍戸・源治(揺るぎな鬼魂・d23770)、皆と頷き合い、成功を誓い。
    (「――恐れるな、私の心。震えるな、私の体」)
     敷地内へとなだれ込んでゆく背を守り、追うようにして。自身を奮い立たせながら、栗橋・綾奈(退魔拳士・d05751)は大地を蹴って。
    「負けられない!」
     飛びこんでゆく、禍根の褥へ。


    ●崖(カゴ)の中
     大きく開かれた門の奥へと滑りこむ。
     広い庭先に溢れる、軍隊を装う強化一般人の群れ。女の罵声が飛ぶと同時に、規律の整った動きでこちらを押し返そうと突撃を仕掛けている最中だ。
     渦中の戦端を担う一班の背。そうであるが故に、その負担は戦闘不能者の出現として顕著に表れて。
    「ここは任せろ!」
    「下がってください、早く!」
     若菱・弾(キープオンムービン・d02792)が自身のライドキャリバーと共に、間断なく続く攻撃から後退の手助けする様に庇って。綾奈のオーラの弾丸が、追撃を行う兵士の一人にめり込んだ。九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)の唇が、礼の言葉を形作ったことだけは、この爆音の中でも感じ取る。
    「このまま前線を担いますよっ!」
    「おう、気張っていくぜえ」
     引き寄せるにしても此処が持たなければ話にならない。六乃宮・静香(黄昏のロザリオ・d00103)は血染刀・散華の柄に手を。源治がカミの風を下ろして。
    「さぁて、いっちょ派手に暴れてやろうかね。ヤるぜお藤!」
     両角・式夜(黒猫ラプソディ・d00319)は、霊犬・お藤に徹底した回復とディフェンス言いつけると、目立った負傷を持つ一兵へと影をけしかければ。吹き上がる様な嫉の指先に穿たれ、よろけるその身。静香はきりりと顔を引き締めながら、滑る様に地を駆け、鋭き刃に気を込めて。
    「血染斬鬼――救うが為、黄昏の祈りを身に、推して参ります」
     黄金と茜に輝く刀身。紅蓮巻き上げながら討ち取って。
     おおと、兵士たちが声をあげ。連携による援護射撃と切り崩すための一点集中。
    「神威」
     瞬の指示も同時に。エンジンを唸らせ、波状攻撃をせき止める為唸るライドキャリバーの神威。お藤と弾のキャリバーも、主の勝利の為、我が身顧みずの徹底した防御に奮起して。
    「いいぞお前ら」
    「回復は任せろ! その代わり俺の分もぶちのめして来やがれ!」
     ほぼ主力メンバーの怪我はないに等しい。サーヴァントたちの頑張りに、弾は応える様にWOKシールドの出力上げて耐性障壁を展開させ。源治は普段漲らせる鬼気を清浄なカミの風へと変換させ勇気を鼓舞して。徹底的に、衝撃ダメージを癒しきる、こちらもそんな気概だ。
    「次は僕たちの番です」
     充が目を閉じ、纏う空気は清く。
     少年の声に重なる、メゾソプラノ。充と千波耶の不快な爆破音すら打ち消し合う様な、絶妙な波長で。
     千波耶の指先が弦を弾く様に流れれば、弾とライドキャリバー、絶妙なコンビネーションで繰り出される野太い音が破裂する。
     敵前衛が崩れ、持ち味の連携も左程脅威ではく。しかし少ないながらも、敵の攻撃に乱れがないことから、間違いなく司令官はいるはずなのだ。
    「くっそ、何処だ敵の親玉は」
    「隠れているのでしようか」
     なかなか発見できずに、唇を噛む瞬。綾奈も神薙刃で一人を倒しながら、油断なく周囲を見回して。挟み撃ちまでにはまだまだ時間がかかるだろうから、早々の攻撃で指揮系統を乱したいのは、誰もが同じ気持だ。
    「ならもうちっとド派手に行っとくか」
    「はい。そうしましょう」
     式夜は不敵な笑み零しながら、影の腕で大きく薙いで庭木ごと倒し。充はマテリアルロッドに魔力を込めると、庭の燈篭もろとも破壊する。
    「何をしている。さっさと潰さんかブタども」
     女の怒声。鋭い鞭の音。音楽を嗜む故、耳の良い千波耶が、敏感に声の方向を聞きつけて。そこには真赤な軍服に身を包む、メガネをかけてひっつめ髪の美人。人を虐げるもともとの気質を隠すことなく吐き出しながら、兵士の尻を叩く。
     どうやらその女は、大佐と呼ばれているらしい。軍人階級から考えても、かなり上の地位。実力がそれに見合っているのかは、刃交えねばわからないが。ただ指示に関しては徹底している。
    「おおおぉぉ!!」
     その声に反応する様に、一斉に声を張り上げながら、兵士たち援護射撃をする傍ら、残る四人が一点集中で切り崩そうとする戦法で押し返そうと。
    「この隊列の最奥にいるのが指揮官で間違いないようだわ」
    「ひとまず目の前潰さんと、炙り出せねぇみたいだがよお」
     千波耶へと頷き返し、とっとと片付けちまおうぜえと、回復で戦線を支える源治。
    「さあ、次はどなたがお相手ですか?」
     充が高らかにそう言い放てば。届いたのだろうか、大佐の鳴らした鞭の音が響き渡る。
    「ええーい。次! 第二隊準備、突撃せよ!」
     日本刀を構えた男の強化一般人が、小編成を組んで突撃してくる。
     しかし決して大佐は動かない。
    「私達の剣を怖れて隠れる程度の指揮官なら程度が知れますね」
     一人を斬り伏せつつ、静香は最奥で口汚い罵声飛ばしては鞭を打ち、ふんぞり返っている大佐と呼ばれる女へと挑発を。
     反論と一撃を受けるは覚悟だが、程度の低い女の安い挑発だと鼻で笑っただけで、大佐はその場から動く気配はない。完全に高みの見物というふてぶてしさだ。
     小出しにすることによって、戦力を温存されていて厄介だ。だが逆に、相手の連携さえどうにかいなしてしまえば袋叩きにはされにくい編成、作戦も綿密。一個人の能力は低い為、挟み撃ちまでの持久戦を持ちこたえるには十分。
    「まだ一人でも救える人がいるのなら、私は戦火に身を投じましょう」
     かつて救えなかった、孤児院の兄弟たちの代わりに。静香は血染刀・散華へ黄昏の様に燃える炎を纏わせ振るう。
     仲間を、そして罪なき人々の命を。一つの行動の積み重ねによって、勝利を得る為――。
     正面班の戦闘は順調だった。
     あとは、挟み撃ち班の到達を待ち、一気に制圧するのみ。
     その時は、そう誰もが思っていたのだ。

    ●神籠(かご)の島
     潜入攻撃班からのアクションがない。作戦行動がうまくはまっていても、戦闘時間が長期にわたれば疲弊は避けられない。
     門側へと引きつけ、部隊数からいっても余裕を持って戦う事ができたが――しかしあと一歩が足りない。挟み撃ちできればどんなに統率がとれた軍隊でも浮足立つ。たとえそれが僅かな時間であろうとも、攻略は可能なものとなるはずだったのだが。
    「もしや……」
    「可能性は、充分にありますね……」
     綾奈の脳裏によぎる嫌な予感。充は幼い顔に厳しい色を滲ませながら、挟み撃ち班の敗退を予感する。
     しかし、このまま引き下がるわけにはいかない。屋内に侵入している、暗殺班や捜査班の安否や成功の是非がわからぬうちは。
    「仕方ありませんね」
    「ああ、このまま力押しでいくしかねぇよな」
     静香と弾は歯軋りした。潜入組が壊滅した可能性が高いと考えて、力押しする以外にない状態なのだが、実はその力も足りないのだ。最低ライン半数、つまり8チームが力を合わせてこそ達成できるだろうとの通達が、エクスブレインより事前にあった為だ。けれど今はそうする以外活路は見いだせないと決断する。
    「神威!」
     そんな矢先に、瞬の叫び虚しく、兵士の居合に駆動部分を破壊され、神威が派手に地面を滑りながらその形を失ってゆく。こうしてサーヴァントも全滅に。
     そしてディフェンダーの薄くなった隙を付かれる様に、二つの刃が鋭く襲いかかって。
    「ちぃっ!」
    「ぐっ!」
     脇腹に日本刀を埋められて、顔をしかめる弾と瞬。返しの刃を放たれる前に、千波耶と充の歌が兵士の意識を完全に奪って。
    「頼む」
    「任せな」
     疲弊の状況激しいことから、弾は式夜とポジション交代。
    「私も出ます」
     さすがに式夜一人でディフェンダーを任せるのは負担が大きすぎる。サーヴァント全滅の中では機転利かせなければと、綾奈も一拍ずらして前衛の一端を。
    「むう……」
    「……厳しい、ですね」
     弾と静香は眉寄せる。
     未だ小競り合いが続くこの状況では、とてもサーヴァントを復活させている余裕もない。当然心霊手術もだ。戦闘区ともいえるこの場所では、それら二つを行うために心身を落ち付かせる暇もなく、混戦の中を抜けるに抜けられない現状
     かなり切迫した状況であるものの、それを悟られるわけにはいかない。
     そして望みを、信頼を、捨てるわけにも。
    「一人じゃこんな大掛かりな事出来ねえけどよう、皆でやりゃあ、やれるよなあ?」
     源治の雄々しい声が、戦場に響くと同時に吹き抜けるカミの風。
    「鬼の彫る悪夢、その褥を斬り裂きましょう」
     静香の剣技、鋭く兵士へと斬り込んで。この状況の中でも突破口こじ開けんと。余裕に陰りの無い、むしろ楽しんでいるかのような式夜の笑みが、黒鉄黐の葉陰の向こう、酷く際立つ。
     鞭をしならせ、忌々しげな視線を向けていた大佐だが。ふいに耳打ちする伝令の言葉に、眉を跳ねあげる。
    「お前達は私に続け。残りの者は、防衛線を維持せよ。各自、死力を尽くして戦い抜け」
     鞭を一つ鳴らし、突如後退を始める大佐とその取り巻き。さすがに兵士も無限ではないだろう。そして内部での異変もあったのかもしれない。けれど、それがここの部隊を一掃する力になりうるかといえば、否だ。
     このままでは。
     退路遮断を据えていない今回の作戦。主力の一部がそのまま無傷で脱出される――。
    「指揮官を追え! 尖兵共は僕達が引き受ける」
     サイキックを放ちながら決死隊の動きを怯ませて、伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)が叫ぶ。
    「任せろ。必ず討ち取る!」
     瞬は身の軽さを利用して、先陣を切って回り込もうと。前を塞がなければ必ず逃げられる。式夜も猫のようにしなやかに駆けながら、黒鉄黐の葉陰を渦巻く様に広げて。反撃をしようと構えた兵の一人へ喰らいつく。
     その隙に、充と綾奈が回り込み。
     千波耶の解き放つオーラの弾丸が、逃がすまいと大佐の右足を穿った。
     大佐は鬱陶しげに、鞭を振るって。細かな刃が仕込まれているのか、肉まで削いでゆく威力。
     顔をしかめる千波耶。ぎろりと睨む刺青の眼、刹那に合う。
    (「子供の頃、刺青は神仏の力を――加護を身に宿す意味があったって聞いた事がある」)
     そんな知識が千波耶の脳裏に浮かぶ。実際に刺青に、力を求めるものはいるだろう。任侠に生きるものたちなどはいい例だ。
     しかしこの一種の儀式的で呪術的なものに頼って力を手にしたところで、ただ操られる一つの駒のような扱いを受けることが『力』だとするならば、それはなんて滑稽なものなのだろう。
    「そんな『力』で、何をしようっていうの!?」
     千波耶の足元からしなる漆黒の蔓。静香が紅蓮逆巻かせ、蔓の中を舞う様に詰めれば。炎綻ぶ園のよう、充のフォースブレイクに火炎狂い咲く。
     丁寧な連携にディフェンダーを一人倒し、決まる一撃は大佐の身に炎症植え付け。しかし怯みもせず、ブレイドサイクロンにも似た攻撃を仕掛けてくる大佐。
    「はっ。低能なブタどもに理解できるわけがなかろうよ」
    「『力』に飲まれる事を望んでいたわけじゃないでしょう!?」
    「飲まれている覚えはないが」
     源治から荒々しく吹き上がる清めの風に乗せる様に、千波耶は歌を乗せるものの。それは兵に阻まれて。笑う大佐の鞭が大きくしなる。
    「這いつくばれ、ブタめが!」
     大佐の斬撃が、鋭く瞬に巻き付いて。ぎざぎざの鞭に肌を引き裂かれ、もともとの殺傷ダメージの蓄積もあって、耐えきれず地に伏す瞬。すかさず源治が被弾避ける為に背に庇い。
    「次はそこのブタだ!」
     今度は充へと鋭い一撃を振り下ろす。年齢関係なく、男が嫌いなのだろうか。執拗に男性陣ばかりを狙う大佐。
    「ええーい、邪魔するなブス!」
    「この手は緩めません! 仲間が土蔵を攻め落として、捕まっている人を助け出すまで!」
     庇いに入った綾奈は、綺麗に無視して抗雷撃。
    「ブスはどっちかねぇ」
    「邪魔なのもそっちだろうが」
     揶揄する様な目を向け、はっきりきっぱり、ティアーズリッパーのプレゼント付きで言って差し上げる式夜。祭霊光を下ろしながら、苦言を突き刺す弾。二人とも遠慮はない。
    「私の胸の黄昏の焔は、この程度の痛みと傷で消えません」
     激しい消耗の中でも、静香の闘志衰えない。静香だけではない。全員がギリギリの淵で戦っていながらも、希望の勝利への執念と生還の希望を消さぬまま。
    「救いたいと祈る緋願の閃光にて、鬼の夢をも斬り裂いてみせます」
     冴え渡る連打。静香の閃光百裂拳が大佐の腹を激しく打ち。
    「ちぃっ!」
     充へと突き刺すように、鞭の一端を差し向けて。どうにかこうにか脱出しようとする大佐。
     突き刺さった刃もそのままに、充は手向けの刃を手に。
     体ごと打ちつけるときお出で、大佐へと鋭利な一撃を。
     鈍い音。
     そして。
    「ぐ……はっ……馬鹿な……この私が……」
     血を吐きだしながら、大佐は身を大きく折って。
    「せめて。貴女に安寧の時が訪れますよう……」
     つい先ほどまで、口汚い言葉吐き出していた彼女も。結局は改造され利用された元一般人。充は神霊剣を押し込んだままの体勢で、憐れみを浮かべながら、そっと、呟いて。
    「こんな、ジャリブタなんぞ……に……」
     力を失い崩れゆく大佐。彫られた刺青部分から、ぐじゅぐじゅと音を立てて腐敗してゆく。
    「あ、大佐……」
    「大佐が……」
     完全な統率を失って、付近の兵の動きが鈍る。
    「おお、大佐の首、討ち取ったぜえ」
     源治がとどめの様に、高らかに吠えた。明らかな動揺が、戦場全体に波紋のように広がってゆく。
     頭を失えば、結局は烏合の衆。残兵を討ち取るのも時間の問題。
     伝説の彫師灼滅の一報が入るのも、そう遠くないこと。
     けれど――苦い勝利であることも、事実だった。



    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ