●
とある街の古びた倉庫に、ダンボール箱を抱えた見るからに怪しい男たちが出入りしていた。
だが、出入りは厳重だ。合言葉が必要らしい。ドアを軽くノックすると、中から問いかけがくる。
「合言葉を言え。黒はキャビア」
「赤はイクラ」
「よし、入れ」
音もなくドアが開く。ダンボール箱を抱えた男たちは、周囲の様子を伺いつつ、倉庫の中へ足を踏み入れる。
「マトリョーシカ・キャビアン様。例のものを持ってまいりました」
「ご苦労様」
ロシアの民芸品であるマトリョーシカ人形に手足が生えたような、変な体系をしたマトリョーシカ・キャビアンと呼ばれた人物(?)が、やけに缶高い声でほほほと笑う。ただし、人形に描かれている可愛らしい女性のイラストには変化がない。
可愛らしいのは確かなのだが、何故かそこらじゅうに小さな黒いボツボツしたものが浮いていた。どうやら、高級食材の「キャビア」らしい。
「これだけたくさんの『ちよこれいと』と集められれば、大量の巨大化ちよこを手に入れることができるわね」
どうもこの御仁、「チョコレート」と言えないらしい。「ちよこれいと」になっている。
「間抜けな灼滅者の坊やたちは、まんまと囮作戦に引っかかってくれたわ。あたくしたちのノルマを達成したら、とっととロシア村へ帰還するわよ」
「えいさっさー!」
マトリョーシカ・キャビアンの号令に合わせて、男たちが声を上げた。
「……ところで、ア、レ。買ってきてくれた?」
「地元のスーパーで『おつとめ品』となっていたものを、大量に『保護』してまいりました」
男はスーパーのビニール袋から、大量の赤いつぶつぶが入ったパックを取り出した。
「ちよこれいととの相性はバツグンなのよね」
マトリョーシカ・キャビアンは包装紙を解いたチョコレートの上に赤いつぶつぶを乗せると、目にも留まらぬ速さで平らげた。
「う~ん。このまったりとした味が……が!? な、なんてこと!? あなた! こんなものをあたくしに食べさせるなんて、正気の沙汰とは思えないわ!」
「あ、あの……。どういうことでしょうか、マトリョーシカ・キャビアン様?」
「これは天然ものじゃなくて、人工のイクラじゃやないの! 許さないわよ! ぷぷぷぷぷ!」
マトリョーシカ・キャビアンの口(イラスト)の部分から、黒いつぶつぶが吐き出された。
「う、うわっ。も、もうしわけ……」
男は言い訳をする間もなく、黒いつぶつぶに寄って溶かされてしまった。
「お、恐ろしや、マトリョーシカ・キャビアン様。あの方の逆鱗に触れると、味方であろうとのああなるのだ」
男たちは怯えたように、その場で硬直していた。
●
「バレンタインデーのチョコを狙ったご当地怪人の事件は無事に解決したみたいね」
どこか棒読みである。まるで他人事だ。
「だって、みもじゃは予測しなかったし」
このていたらくである。とはいえ、今度の事件はちゃんと予測できたらしい。木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)は、愛用のタブレットPCの画面をタップする。
「この一連の事件では、一部のご当地怪人がチョコを食べて巨大化したようなのだ。倒される前に巨大化するのは反則だと思うけど、この『巨大化チョコ』こそが、ご当地怪人たちの真の狙いであったようなのだ」
バレンタインデーのチョコを奪うことが目的ではなかったということらしい。
「ご当地怪人たちは、バレンタイン当日の事件を囮にして、日本全国で多数のチョコレートを集めていたのだ。本隊が密かに集めていたチョコレートたちは、彼らの拠点に運び込まれるらしいのだ」
大量の巨大化チョコレートを、ご当地怪人に入手されれば、大きな脅威になるのは間違いない。
「既に手遅れになってしまった事件もあるみたいなのだ。でも、可能な限り阻止しなければいけないので、急いで現場に向かってほしいのだ」
みもざのいう現場は、埼玉県の川口市にある倉庫だった。ここを拠点として、チョコレートを集めているロシアンご当地怪人がいるという。
「マトリョーシカ・キャビアンっていう、マトリョーシカ人形とキャビアのあいのこ怪人なのだ」
世界三大珍味の一角を担う、あの「キャビア」だ。
「チョウザメの卵なのだ。因みに、鮭の卵はイクラなのだ。実はイクラはロシア語なのだ」
ロシアでは、魚卵を総じてイクラと呼ぶ。一般的にキャビアと呼ばれている魚卵は、ロシアではチョールナヤ・イクラーと呼ぶらしい。
「配下のコサック戦闘員は、全部で20人もいるのだ。怪人とコサック戦闘員全部と一度に戦闘するのは、ちょっと大変なのだ」
自分たちに有利な状況で戦うためには、攻撃を仕掛けるタイミングが重要だといえる。
「コサック戦闘員がチョコレートの搬入や搬出で外に出ている隙に、拠点に突入して、マトリョーシカ・キャビアン戦いを挑む方法があるのだ」
この場合、コサック戦闘員が戻る前に勝負を決められるかが重要になるだろう。ご当地怪人さえ倒せば、残りのコサック戦闘員もなんとかなるはずだ。
「外で働いているコサック戦闘員を個別に襲撃して数を減らしていって相手の戦力を削るという、ちょっと姑息な戦法もあるのだ」
ただ、この場合はリスクも高い。敵に作戦が気づかれると正面決戦になってしまう可能性がある。楽に戦える分、充分に注意が必要だ。
「今回の目的は巨大化チョコレートの強奪阻止なのだ。戦いを避けて、チョコレートだけを奪取するという解決法もあるけど、奪われたチョコレートはかなり大量なので、全部を奪取するというのは難しいと思うのだ」
チョコレートを破壊するという方法もあるが、破壊によって巨大化する力がなくなるかどうかは不明なので、あまり効果的な作戦ではないだろう。
「マトリョーシカ・キャビアン配下のコサック戦闘員は、バレンタインの売れ残りチョコを安値で大量に購入しているみたいなのだ。近隣のお店に取っては、ありがたいお客様みたいなのだ」
いつもニコニコ現金払い。決して強引に奪ってきているわけではないらしい。
「バレンタインデーで事件を起こしたご当地怪人に、ロシアのご当地怪人はいなかったみたいなのだ。おそらく、捨て駒にされたと思われるのだ。だけど、マトリョーシカ・キャビアンは正真正銘、生粋のロシアンご当地怪人なのだ」
倒された日本のご当地怪人たちは、自分たちが囮だったとは夢にも思わなかったろう。
「これはかなり周到に準備された計画だと思うのだ。みんな、油断しないで頑張ってきてほしいのだ」
みもざは用意したバレンタインのチョコ(義理)を灼滅者たちに配って、激励するのだった。
参加者 | |
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鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181) |
梅澤・大文字(張子の番長・d02284) |
各務・樹(夢幻槿花・d02313) |
嵯神・松庵(星の銀貨・d03055) |
中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248) |
神守・楼華(旋律奏でる巫女・d03507) |
氷崎・蜜柑(慈愛のヒーロー・d07946) |
狼幻・隼人(紅超特急・d11438) |
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『先着10名のみ、チョコレート激安販売! 手が塞がっている方は無料配送承ります』
電柱やら壁やらに、ぺたぺたとチラシを貼る怪しげな人物。きょろきょろと周囲の様子を窺い、ニヤリと笑みを浮かべる。
「こっちも終わったぜ」
バンカラスタイルにマントと学帽、下駄をカラカラと鳴らしながらやってきたのは、梅澤・大文字(張子の番長・d02284)だ。この寒空の下、素足に下駄では見ている方が寒いのだが、漢はそんな些細なことは気にしない。
「チョコを独占ねぇ、売れ残る店からすれば有り難い話だが、チョコを悪モノにするわけにもいかねーよな!」
中島九十三式・銀都(シーヴァナタラージャ・d03248)がニカッと笑う。
「待機しとる連中と合流やな」
狼幻・隼人(紅超特急・d11438)は答えた。傍らには、リュックサックを背負わされた相棒の超霊犬あらたか丸が行儀良くお座りしていた。このリュックでチラシを運んだらしい。
彼らは何故こんなことをしているのか。もちろん、チラシ貼りのアルバイトに勤しんでいるわけではない。
コサック戦闘員がチョコレートの買い出しをしているのなら、これを逆手にとって時間を稼ぐ、名付けて「チラシ大作戦」。
やっていることはご当地怪人レベルのような気がしないでもないが、相手がご当地怪人なのだから気にしたら負けだ。
「チョコレート激安販売…?」
背後で声がした。弾かれたように3人は同時に振り返ると、
「げっ!?」
段ボール箱を抱えたコサック戦闘員がそこにいた。チラシを貼っている最中に彼らと遭遇するかもしれないというリスクを、これっぽっちも考えていなかった。
「これ、本当?」
「こくこくこく」
3人は揃って、首を激しく縦に振った。主人に習って、あらたか丸もこくこくと肯く。
「ダンケシェーン!!」
コサック戦闘員は何故かドイツ語で礼を言うと、脱兎の如く走り去った。チラシの場所に向かったのだろう。
「ふぅ~」
3人はまたまた揃って、へなへなとその場に崩れ込んだ。寿命が100年くらい縮まった思いだ。
「って、いつまでも脱力してられないぜ、急いで戻ろう」
大文字がすっくと立ち上がると、隼人と銀都も続く。
途中、同じくチラシ貼りを行っていた鹿島・狭霧(漆黒の鋭刃・d01181)と氷崎・蜜柑(慈愛のヒーロー・d07946)とし合流し、仲間たちの持つ倉庫へと向かう。のんびりしていて、またコサック戦闘員と鉢合わせしてしまっては元も子もない。
「今ところ、まだ1人も戻っていてないわよ」
意気揚々と姿を現せた5人に、各務・樹(夢幻槿花・d02313)が言った。つまり、今は倉庫の中には怪人と2体のコサック戦闘員がいるだけだ。
「それでは、突入ですの。ご当地怪人のやぼーをうちくだくですの!」
ちょっと及び腰なのは怖いからなのか。それでも任務を果たそうと、神守・楼華(旋律奏でる巫女・d03507)は気持ちを奮い立たせた。
「合言葉は任せてくれ」
サングラスと帽子で変装した嵯神・松庵(星の銀貨・d03055)が、段ボール箱を抱えた。これで騙されてくれれば御の字だ。同じように、隼人も段ボール箱を抱える。
予知によって、連中が使う合い言葉は分かっている。それを使えば、倉庫の中にすんなりと入れるはずだ。
灼滅者達は倉庫の入り口へと向かう。
扉は案の定鍵が掛かっていた。
「合言葉を言え。黒はキャビア」
扉の向こうから、くぐもった声が聞こえた。待機しているコサック戦闘員だろう。
「赤はカラスミ。あ、黄色はカズノコでもいいや」
サクッと狭霧が合言葉を口にした。仲間達が止める間もなかった。
相手の反応を固唾を飲んで待つ。
「馬鹿なやつ。中に入れるわけにはいかんな」
やっぱり駄目らしい。それならばと扉を蹴破ろうとしたが、さすがにそれは止められた。
気を取り直して、松庵が扉をノックする。
「合言葉を言え。黒はキャビア」
先程と同じ反応が返ってきた。どうやら別の相手だと思ってくれたらしい。
「赤はイクラ」
今度は正解を口にする。カチリと鍵が外された音がした。
「よし、入れ」
扉がゆっくりと開けられた。
別にコサックダンスをする必要は微塵もないのだが、念のために松庵と隼人はコサックダンスをしながら倉庫の中へと踏み込んでいく。
残りの灼滅者達は、すぐに後を追った。
●
突入すると同時に、松庵はドアの脇にいたコサック戦闘員に対し、コサックダンスの体勢からマテリアルロッドで殴り付けた。
「騙して悪いな」
不意打ちを食らったコサック戦闘員は、一撃でのびてしまった。当たり所が悪かったらしい。
もう1人のコサック戦闘員は、勢いよく飛び掛かったあらたか丸に押し倒されると、隼人の尖烈のドグマスパイクの直撃を食らったのち、蜜柑のご当地ダイナミックで吹っ飛ばされ、敢えなく轟沈した。
正に一瞬の出来事だった。
何が起こったのか分からず、ずんぐりむっくりしたマトリョーシカ人形が、こちらを見てポカーンとしている。
「…誰? 坊やたち」
たっぷりと1分程観察したあと、マトリョーシカ人形が尋ねてきた。いや、良く見ると一応手足が生えている。このへんてこりんなのが、生粋のロシアのご当地怪人・マトリョーシカ・キャビアンらしい。更に良く見ると、体の所々に黒い粒々が張り付いている。世界三大珍味のひとつ、キャビアである。
「…あー、何ていうか、某ネコ型ロボットそっくりな体形してるわね」
狭霧の率直な感想である。描かれているイラストは、赤いエプロンをしたお目々ぱっちりな女の子だ。エプロンには、ご丁寧に大きなポケットがデザインされている。
「…そこまでね。あなたたちの行動はすべてお見通しよ」
樹が冷静に言い放った。
「やいッ! おれは業炎番長、漢梅澤! 押忍! そんな安易なデザインで更に巨大化までされちゃあシュールが過ぎるんでな! ちよこれいとは返品してもらおう!」
大文字が勇んで名乗りを上げる。
「例え天が見逃しても、俺達が見逃さなねぇ。平和は乱すが正義は守るモノっ、中島九十三式・銀都参上! てめぇらのチョコ独占作戦もそこまでだっ」
銀都も続く。
「嫌よ」
即答すると、マトリョーシカ・キャビアンはイクラを乗せたチョコを頬張る。表情が変わらないので分からないが、たぶん至福の笑みを浮かべて頬張っているのだろう。
「ちょっと食べてみたいな…」
と、蜜柑がポツリ。イクラ乗せチョコを食べてみたいのではなく、単にイクラやキャビアを食べてみたい。中学生の身分では、どちらもおいそれとは口にできない食材である。
「あたくしの下僕になってもいいんなら、ちょっとだけなら分けてあげる」
「漢なら魚卵は炙りタラコだろ! …キャビアなんて食った事ねぇけど」
「じゃあ、キャビアにする?」
「うっ…」
ちょびっとだけ心がぐらつく大文字。だがここはやはり庶民の味、タラコが勝った。卵でお腹がパンパンに腫れたししゃもも捨て難い。
「おおお、俺を勧誘しようなんざ、100万年早ぇぜ!」
でも声が震えている。
「あら良い子。食べる?」
「ちょっ!? 待て、あらたか丸!!」
高級食材の魅力に打ち負けたあらたか丸が、マトリョーシカ・キャビアンの前でお座りしている。
「ぜー、ぜー」
隼人が慌てて抱えて戻ってきた。
いかん、これでは怪人のペースだ。
灼滅者達は気を乗り直して戦闘態勢に入る。
「Bienvenu au parti d'un magicien!」
茶番は終わりとばかりに、樹が解除コードを口にした。
「光よ、私に癒やしの力を!」
楼華もスレイヤーカードを解放すると、するりと後方に下がっていく。回復役としての自分の立ち位置を決める。
「ぼ、坊や達、もしかして武蔵坂学園の子達!?」
「気付くの遅い!!」
8人から総突っ込みを受けるマトリョーシカ・キャビアンだった。
●
既に集められたチョコレートが詰まっている段ボール箱は、マトリョーシカ・キャビアンの近くに堆く積まれていた。その手前に、樹はするりと身を滑り込ませる。
チョコレートを集めに出掛けているコサック戦闘員が戻ってき始めるのは概ね8分後からだと予測されていた。できればその前に、速攻で怪人を撃破したい。
隼人とあらかた丸、そして大文字がマトリョーシカ・キャビアンの前面に飛び出し、彼女の注意を引きつける。
樹が鬼神変で仕掛けると、同時に松庵がフォースブレイクを叩き込む。
「ふん、日本のご当地怪人囮にして、自分達はこっそりチョコ集めね…」
個人的にそういうのは許せないと、狭霧は2人の攻撃の間に死角に回り込み、ティアーズリッパーを炸裂させた。
「ふぎゃっ」
マトリョーシカ・キャビアンが短い悲鳴を上げる。無残にも体に裂け目が入っていた。
「このくらい何さ。あたくしの体はマトリョーシカなのよっ」
ぱかっ。
割れた体を脱ぎ捨てると、一回りサイズが小さくなったマトリョーシカ・キャビアンが現れた。
「なっ!?」
怯む灼滅者達に、黒いつぶつぶの毒キャビアを投げ付けてきた。前衛陣はキャビア塗れである。本物のキャビアなら贅沢そのものなのだが、これは見た目がキャビアなだけの怪人の攻撃である。
わーい、キャビアだぁ♪ などと喜んでいる場合ではない。
「俺にもキャビア食わせろー!!」
前衛陣がキャビアの海に沈む様が納得できないのか、銀都が半ば嫉妬臭いの妖冷弾を放った。
「キャビアーーーっ」
蜜柑も怒りのご当地ビームだ。
「煩いわね、坊やにはこれで充分」
「うおおおっ!?」
なんかよく分からないビームを浴びせられた銀都がイクラ塗れになる。動くとぷちぷち潰れて気持ちが悪い。怒り爆発である。
「皆さんに愛の癒やしですの♪」
楼華が清めの風を吹かせて、前衛陣の体を蝕む毒を吹き飛ばした。
仕返しだと、松庵は鋭い刃と化した影で、マトリョーシカ・キャビアンの体を引き裂く。
「おほほほほ…!!」
ぱかっ。
怪人は再び外側の人形を外した。中から、また一回り小さくなったマトリョーシカ・キャビアンが出てくる。小さくなったので体力は減っているような気がするが、強さは全く変わっていない。
「表情がまったく動かないってのもやりづらい物があるな」
優勢なのか劣勢なのか、表情からは全く読み取ることができない。
「これ以上は傷つけさせないですの!」
楼華が神薙刃を放つ。怯んでいる場合ではない。短期決戦を狙うならば、ごり押しあるのみ!
一致団結して、皆で総攻撃を仕掛けた。
外側の人形が立て続けに破壊される。それなりの大きさだったマトリョーシカ・キャビアンは、今は初めの1/4程の大きさになってしまっていた。
息が上がっているのか、ぜーぜーと激しく呼吸していた。怪人、絶体絶命の大ピンチである。
「こ、こうなったらあの手しかないわね」
意を決したマトリョーシカ・キャビアンは、どこからともなくチョコレートを取り出した。
「巨大化ちよこれいと!」
どこからともなく、ファンファーレが聞こえた気がした。
「汚ねぇ! 最初から持ってるとか、汚ねぇ!!」
正に後出しジャンケン。だが、このセコさこそが、ご当地怪人の醍醐味なのだ。
大文字がチョコを奪おうと手を伸ばしたが、間に合わなかった。
パクリ。
はむはむはむ。
怪人が巨大化チョコを咀嚼する。
『ジャイアント・マトリョーシカ・キャビアーーーン!!』
怪人の体がみるみるうちに巨大化する。頭が倉庫の天井を突き抜けて――突き刺さったまま身動きが取れなくなった。
●
「馬鹿じゃねーの?」
「こんなところで巨大化するから…」
奥の手という名の卑怯なチートアイテムを使用した怪人だったが、あまりの間抜けっぷりに散々な言われようである。
「ちよこれいと、じゃなくてチョコレートでしょーが。つーか、アンタ本当にロシアンご当地怪人? まぁチョコはロシアのモンじゃないけどさ」
ふぅと肩を竦める狭霧。
「いちいち煩いわね坊や達。巨大化したあたくしは天下無敵!」
手足をじたばた動かす。
体が巨大なだけに、じたばた暴れるだけでもけっこう大迷惑である。
「チョウザメンキック!!」
短い足から繰り出される必殺キックの直撃を食らって、狭霧が吹っ飛ばされた。
「チョコで巨大化、か……こう、微妙におおざっぱなところが怪人らしいな」
「冷静に分析してる場合じゃないでしょ!」
巨大な体を見上げながら顎を撫でる松庵に向かって、壁際まで吹っ飛んだ狭霧が突っ込みを入れた。
優勢だった灼滅者達が、一転劣勢に追い込まれる。
それでも相手は1体。いかに巨大化しようとも、ご当地怪人相手にいつまでもやられ放題の灼滅者達ではない。
「俺の正義が深紅に燃えるっ! チョコをもらえなかった人々の恨みを晴らせと無駄に吠える! くらいやがれ、必殺! いつかはもらうぜ本命チョコをーっ」
銀都がうおお!と吠えながら、怪人の土手っ腹に特攻する。必殺のレーヴァテイン! ……のはずが、放たれたのはバニシングフレア。
「ふ、自分で言っててむなしくなったぜ。って、あれれ?」
何か手違いがあったらしい。
だが、銀都の気迫は本物だ。その気合いに引っ張られて、隼人、樹、大文字が同時に攻撃を叩き込む。
「痛いわね!」
文句を言いつつ、ジタバタ藻掻く怪人。
そうこうしているうちに、コサック戦闘員の1人が帰ってきた。しかし、中にいる者が合言葉を言ってくれないので、入るに入れないでいる。なかなか律儀な連中である。
今のうちだと、灼滅者達は総攻撃を仕掛けた。
「悪い子はめっ! ですの!」
「必殺ビームです、これでもくらいなさいー!」
仲間の回復に専念していた楼華と蜜柑を加えての一斉攻撃だ。
反則気味に巨大化したというのに、マトリョーシカ・キャビアンは最早虫の息だ。
「ロシアン・タイガー様。申し訳ありません!!」
大量のキャビアを撒き散らし、怪人は消滅していった。
松庵と狭霧はハイタッチを交わした。
●
「う~ん。特に情報はなみたいですね」
一通り倉庫内を調査した蜜柑は、少し残念そうに呟いた。
「はい、皆さん温かい飲み物ですの~♪」
楼華が手製のチョコをお供に、飲み物を振る舞う。
1人ずつ戻ってくるコサック戦闘員を撃退するのは、とっても簡単だった。
「ありがてぇ」
バッとマントを翻し、大文字は飲み物を受け取る。
「このチョコ、どうすればいいんだろ。食べてみるか?」
大量に残ったチョコを見つめて、銀都は言った。
「チョコにイクラかぁ今度試してみよっと」
隼人はイクラのパックを発見していた。まだ、けっこう残っている。
期待の眼差しが集中する。
「今か!? いや、待て待て。あ、あらかた丸、食え」
あらかた丸拒否。
「んーじゃまぁこれは、みもじゃにお土産に持ってかえっとこか」
満場一致。
「そういうことで」
イクラのパックをポケットに仕舞い込む隼人だった。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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