婿取り桜~桜姫の泪~

    作者:篁みゆ

    ●雪桜の姫
     雪がちらついている。桜の季節にはまだ早い。なのにこの高台には、大きな桜の木が今が盛りとばかりに花を咲かせている。
     いや、よく見るとこの桜の木は、花弁はうっすらと透けていて。根元付近に切り株の姿が二重映しになって見えた。切り株付近からは、若木が一本だけ生えだしている。
     その桜を見つめている狼がいた。その大きな狼は白きの炎のような体毛の足先だけが黒く、まるでブーツを履いているようだ。血の色の瞳が見つめるのは桜。
     狼はひとつ、遠吠えをする。それに応えるように桜の前に姿を表したのは、時代劇に出てくるお姫様のような姿をした少女。影を纏ったその容貌は美しいが、悲しげだ。
    「……帰りたい、帰りたい……婿などいらぬ。わらわは帰りたいだけじゃ……」
     じゃらり、少女の着物の下から伸びていると思しき鎖は、地面に繋がれていてその場から遠くへ動くことは出来ないようだった。
     狼はそれを見て、満足気にその場を去った。
     

    「来てくれてありがとう。また、スサノオによる事件が起ころうとしているんだ。向かってくれるかい?」
     教室を訪れた灼滅者達に、和綴じのノートをめくりながら神童・瀞真(高校生エクスブレイン・dn0069)は告げる。
    「その高台の広場にはね、昔、偉い人のお屋敷があったらしいんだ。その偉い人は高台の下にあった村で咲いていた大きな桜の木がどうしても自分の家の庭に欲しくなって、部下や村人達に命令して高台の上に植え替えさせたという」
     しかしその桜は上手く根付かず、しだいに元気がなくなっていった。夜、庭に出た警備の者達から次々と「桜の下でお姫様が泣いていた」という報告が上がってきた。村の者に桜のいわれを尋ねると、この桜には『桜姫』という木霊が宿っているとされ、大切にされてきたのだという情報を得ることが出来た。
    「でもね、何を勘違いしたのかその偉い人は、桜姫が一人で悲しくて泣いていると思ったらしいんだ。そこで若い男を一人、また一人と桜姫の婿として桜の根元に埋めていった……そうすれば桜姫の許しを得られると思ったんだろうね」
     しかし桜は一向に元気にならず、最終的には枯れ果ててしまい、今は切り株が残っているのみだ。ここに住んでいた偉い人は、大きな失敗をしてこの地を追われたとか、不可解な死を遂げたとか、様々な形で伝えられている。
    「帰りたいと泣く桜に宿った木霊――桜姫が、今回古の畏れとして生み出されてしまったんだ」
     高台には今は建物はない。だが今の地主がマンションを建てようとしているようで、その準備に立入禁止のロープが張られている。桜の切り株も掘り返すつもりなのか、重機が用意されているようだ。
    「本格的な建設工事はまだだけどね、問題は高台の下に今もある村の村人達なんだ。高台にマンションなんか立てられたら、太陽が遮られると言って連日抗議を続けているんだけど……皆に向かってもらうこの日は高台へ上がる道の入り口で、村人達と建設会社の人たちがもめているんだよ。今のところ高台へ登る道はここだけでね」
     マンション建設に合わせて他の道も作られるようではあるが、今はこの道を通るしかないとか。つまり桜姫の元へ辿り着くには村人数人と建設会社の人数人を何とかしなくてはならない。
    「桜姫は『影業』相当のサイキックと、花吹雪や嘆きで攻撃してくるよ。単体だけど、注意してね」
     瀞真はパタンとノートを閉じた。
    「長く生きた樹木には木霊が宿るというから……昔の村人達は木霊である『桜姫』を敬って生きてきたんだろうね」
     瀞真は息をついて続ける。
    「最後に、この事件を起こしたスサノオのことだけど……申し訳ないけど前回までと同様、ブレイズゲートのように予知がしにくい状況なんだ。けれども引き起こされた事件をひとつひとつ解決していけば、必ず事件の元凶のスサノオに繋がっていくはずだよ」
     まずは目の前の事件に専念して欲しい、そう告げると瀞真は頼むね、と頷いてみせた。


    参加者
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)
    神凪・朔夜(月読・d02935)
    西道・桐馬(陣風・d03635)
    笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)
    モーガン・イードナー(灰炎・d09370)
    倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)
    月岡・悠(銀の守護者・d25088)

    ■リプレイ

    ●姫君の元へ
     少しずつ風も暖かさを増してきたように思えるが、まだまだ寒の戻りも多く、本物の桜が咲くにはもう少し掛かるかもしれない。高台では桜姫が狂い咲いてはいるが……。
     問題の道に差し掛かると、人々の諍うような声が聞こえた。耳を澄まさなくてもその内容はわかっている。村人と建設会社の人が言い争っているのだろう。笹銀・鐐(赫月ノ銀嶺・d04707)と神凪・朔夜(月読・d02935)がそっと近づくと、『マンション建設反対!』などの文字が書かれた横断幕や紙を持った村人達が、スーツと作業着姿の建設関係者達に詰め寄っているところだった。
    「なんやお前ら? よそもんはあっちいっとき」
    「失礼、民話などを調査しています。この上の婿取り桜の件で……」
     二人の姿を見咎めた村人に鐐は穏やかに声を掛けた。すると村人達の動きがピタッと止まる。それは桜姫の言い伝えが今も語り継がれているんだなと確信するのに十分な反応だった。建設会社の人達は言い伝えを知らないのか、不思議そうにしている。その時。
     さわ……。
     風が、通りすぎようとした。その風は村人と建設会社の人を見つけてその場に留まり、彼らを包み込む。パタリ、パタリと力を失って倒れていく大人たち。最後の一人が魂鎮めの風で眠ったのを確認し、朔夜は振り返って頷いた。
    「ありがとうだよ」
     ぴょんと姿を現したのは、土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)を始めとした仲間の灼滅者達。
    「道の真ん中では危ないですしね♪」
     璃理は怪力無双を利用して眠ってしまった人々を次々と道の端によけていく。他の者もできるだけそれを手伝い、終えると高台に向かって歩き出した。桜姫はそこで待っているはずだ。
    (「依頼に出るのは初めてだから色々気をつけないとね。足手まといにならないように……」)
     最後尾を歩く月岡・悠(銀の守護者・d25088)は初依頼ゆえの緊張感を抱いていた。前へ行く仲間達や辺りに十分に気を払いつつ、一歩一歩踏みしめていく。
    「……哀れな美しい桜、か」
    「なんというか……こういう切ないお話って泣けてくるわよね」
     道の続く先を見据えつつ呟かれたモーガン・イードナー(灰炎・d09370)の言葉に続けるように心情を吐露したのは倉澤・紫苑(返り咲きのハートビート・d10392)だ。
    「なんで古の畏れ関係は毎度毎度……でも、ちゃんと倒さないと」
     歪められ、無理矢理古の畏れとして顕現させられたモノもたくさんいるだろう。倒さなければならない、それはしっかりわかっていさえすれば、悲しさに心寄り添うことを止める者はいない。
    (「この前は銀杏の木で、今回は桜の木。樹木との戦いが続くなぁ」)
     なんて不思議な縁を感じていた華宮・紅緋(クリムゾンハートビート・d01389)の耳に、モーガンの声が入ってくる。
    「桜の機嫌を取るために若い男を『婿』と称して埋めるとは……伝説の真偽はどうあれ、正気とは思えん地主だな……役目も果たせず、ただ埋められた婿殿達が不憫だ」
    「そうですね。本当に桜の木の下に死体を埋めて、何がしたかったんですかその昔の人」
     昔、桜を移動させたその偉い人とやらの考えは全く理解できない。紅緋は続けて零す。
    「桜は見頃になったらお花見に出かけるくらいでちょうどいいのに。屋敷に植え替えて枯らせるなんて本末転倒ですね」
     確かに、と同じ思いを抱いている仲間達が歩きながら頷いた。
     ああ、半分透けた桜の花が風に揺れるのが見えてきた。その木の下に見えるのは、鮮やかな衣。姫君が、待っている。
    「それにしてもスサノオ……か。色んな所でこういうことをして……何を考えているんだろうな」
    「ほんと、スサノオの奴、所構わずやりたい放題ですね、まったく! けれど、今はこの桜の事に集中しましょう。桜の命を紡ぐことができれば最良かな」
     悠の言葉に璃理は大きく同意を示した。そして歩みを進めるごとに鮮明に見え始める姫の姿を視界に収め、思考を対桜姫に切り替えた。
    「ああ……帰りたい、帰りたい……」
     着物の袖を目に当てて、よよよと泣くその姿は美しい。人ならざる気配のする美しさは、桜の木に宿った木霊だと言われれば納得できる。
    「いざ」
     殺界形成の遣われた空間にて、西道・桐馬(陣風・d03635)が先陣を切った。

    ●姫君を助けるために
    (「嘆き悲しむ娘を傷付けるのは少々気が引けるが……畏れとなって現れた以上、放ってはおけぬ」)
     姫の懐に入った桐馬は闘気の雷を宿した拳を思い切り振り上げる。手応えは十分あった。仰け反るように体制を崩した姫の目元から、涙が飛び散る。
    「その悲しみごと、必ずや鎮めてみせよう」
     視界の端に入った涙。桐馬は低く告げる。
    「華宮・紅緋、これより灼滅を開始します」
     サウンドシャッターを展開し終えた紅緋はしっかりと姫を見据える。『WOKシールド『コート・ドール』』を広げ、前衛の守りを固めた。鐐はバベルブレイカーを手に姫へと急接近し、躊躇うことなく打ち込む。
    「誰しも望郷の念は持つもの。だが、それが歪んで被害を生む前に……眠ってもらう」
     鐐が姫から引くのと入れ違うように璃理が白光を纏った斬撃を刻む。ああ、あああと嘆く姫。
    「桜姫、どうか気を静めてください。私達は貴方を戻すために来ましたので」
     灼滅者達の声は、どれだけ届いているのだろうか。
    「目の前にいるのは古の畏れ……スサノオにつながる道なのよね。それなら、いくら切ないお話でも手加減無用!」
     紫苑から発せられたどす黒い殺気は舐めるように姫を包み込む。それを吹き飛ばそうとでもするように姫が放ったのは、純白の桜の花弁。渦を巻くような桜吹雪は前衛に襲いかかり、その皮膚を切り刻む。
    「ミーシャ、行け!」
     シールドを前衛に広げたモーガンはライドキャリバーのミーシャに声を投げる。承知したとばかりにミーシャは姫の懐へと飛び込んだ。
    「……」
     鎖に繋がれた姫、嘆き悲しむ姿を見て朔夜は一度瞑目した。戦闘中ゆえ長い時間のことではないが、思うことは沢山。自らの姉の現状、同居人の過去を考えると、桜姫のことはなんだか他人事だと思えないのだ。だからこそ、救ってあげたいという思いも強くなる。
     朔夜の『月光』から放たれた魔法弾が姫の肩を穿つ。悠は姫が痛みに苦しんでいる間に、自らに防護の札を遣わせた。
    「ああっ……!」
     殴りつけると同時に姫を縛り上げたのは桐馬の縛霊手から伸びる網状の霊力。苦しげに呻く姫に接近した紅緋は、異形巨大化させた腕を力任せに振り下ろした!
     耳を塞ぎたくなるような悲鳴が桜の木を揺らす。鐐の喚んだ雷が、追い打ちを掛けるように姫の身体に落ちる。痙攣のように身体を揺らす姫を、璃理が剣で切り裂いた。
    「帰してあげることはできないかもしれないけど、解き放ってあげることは出来るはず! だから、大人しくやられてちょうだい!」
     それは、願い。璃理と入れ替わるように姫に迫った紫苑は、『サウンドコネクト』の高速回転する杭を打ち込んだ。
     悲鳴に呼応するように姫の足下から影が伸びる。伸びたそれは鋭利な切っ先をもってして、鐐を切り裂いていく。
    「狙うなら俺を狙えっ!」
     シールドを振りかざしたモーガンは、力任せにそれを振り下ろす。追うようにミーシャが攻撃を仕掛けた。
    「苦しいだろうね、勝手に縛られて」
     まるで姫を解き放つ刃となることを目指すかのように、朔夜の『対具「鳳」』は鋭い刃をもって姫を傷つける。
    「大丈夫、攻め手を休めないで」
     告げた悠はほんの刹那、躊躇うような素振りを見せた。だが何かを覚悟したかのように歌い始めたその表情は、凛と前を向いて。透き通るように優しく柔らかい歌声が、鐐の傷を癒していく。
     あああ……あぁぁ……――姫は未だ、癒やされてはいない。

    ●断ち切り、逃れる力
     姫には灼滅者達が、ただ自分を害する者にしか見えていないのだろうか。姫の繰り出す攻撃は体力を奪っていくが、嘆きや悲鳴は精神を削られていく思いさえした。
     自分達のこの行為が桜姫を助けることに繋がればいい、こうするしか、救う方法がないから……そんな思いで戦っている者達もいるはずだ。古の畏れとなってしまった桜姫にはその心は通じないのだろうか。だとしても、その手を止めることはない。
     被害を出さぬために、ここに来たのだ。
    「! 桜吹雪が来る」
     それが灼滅者達を襲うのは何度目のことだろうか。姫の動作に注視していた桐馬はふと、気がついた。彼女が桜吹雪を放つ前、彼女の周りの空気が不自然に震えることに。
     今回狙われたのは後衛――だが声掛けがあったおかげか、ディフェンダーのモーガンとミーシャ、そして桐馬は素早く後衛の三人を庇う事ができた。すかさず反撃に転じたモーガンは炎纏わせた刃を振るい、ミーシャはその身を姫へとぶつける。朔夜の影が追いかけて姫の美しい衣を切り裂く。悠の掻き鳴らすギターの旋律が、前衛の傷を癒やし奮い立たせる。
    「……帰りたい、帰りたいだけなのじゃ……」
     姫の身体がぼろぼろになるのに連動して、半透明の桜の花弁は地面へと散り落ちていた。
    (「早く鎮めてやりたいものだ」)
     桐馬はオーラを収束させた拳を無数に繰り出し、ぐらり揺れる姫を見て思う。璃理のロッドが触れると、魔力に内側から蹂躙された姫は身体を捻るようにして苦しみを見せた。素早く死角に回り込んだ紫苑が与えた斬撃が、姫の悲鳴を長引かせる。
    「……偽善、自己満足、なんとでも呼べばいいさ」
     呟きつつも鐐の心中は、姫を思っている。寂しがり屋の姫が若木の輿に乗り、故郷に帰れるようにしてやりたい、と。その思いが実ったか、叩きつけたロッドから流れ込む魔力は常以上で。灼滅者達の猛攻で息も絶え絶えとなっていた姫から体力を搾り取る。
    「桜のように儚く綺麗な桜姫さん、悪いけど散らさせてもらいます。伝説は伝説の中だけにしましょう」
     迫った紅緋の利き手がキラリ、陽の光を纏ったように見えた。異形巨大化したそれを、躊躇いなく振り下ろす。
    「すみませんね、救いのないお話で」
     姫の身体は花びらのように舞い上がり、そしてさわりと地面へと落ちた。
    「桜姫、力付くの鎮め申し訳なく。されど貴女の足下、若木の輿が準備されております」
     薄く消えゆく姫の前に鐐は跪く。
    「我らは其れと共に貴女を連れ帰る為に参りました……」
     その言葉に姫が、薄く笑んだかのように見えた。
    「もう苦しまなくていい、おやすみ、お姫様。君の事は忘れないよ」
     さわり、風が姫の姿を攫っていくのを、朔夜はそっと声を掛けて、見送る。
    「山川草木悉皆成仏。和歌山のお館ではそう教えられました。世界の全てには仏性が宿っていると。だから、桜の木に木霊が宿っていることも不思議には思いません」
     風に流される髪をそっと片手で抑え、紅緋は風の流れ行く方向を見つめる。
    「その木霊を歪めて顕現させるスサノオは許せませんが」
     その思いはきっと、ここにいる皆も同じだろう。
    「スサノオがいなければ、私達はここに来ることもなく、桜姫という木は完全に死ぬ運命だったのかな……」
     ぼそり、璃理が呟いた。普段の彼女の明るさは影を潜め、魅力的な瞳には釈然としない思いが抱かれている。
    「そう考えると、スサノオのおかげで桜姫は命を紡いだ……認めたくないなぁ、奴のおかげっていうのは!」
     吐き出すように告げられた先には、若木が揺れている。

    ●居るべき所へ
    「桜の若木はどうしましょうか? 村の人たちに託して帰るのが一番かな」
    「そうだな。掘り起こして下まで持って行こう」
     覗きこむ紅緋の視線を感じつつ、鐐は若木を傷つけぬように周りの土ごと掘り起こした。その様子を静かに見つめながら、モーガンは思う。
    (「マンションの建…築か…俺達にはおいそれと口を出せる問題でもないな。何にせよ、この行いが正しいものであれと願うばかりだ……或いは独り善がりだと言われてしまうかもしれん」)
     けれども将来立派な花を見せるかもしれない若木を救うのだと思って、用意してきた話に騙されてはくれないだろうかと願う。
    「若木を使って、桜の命を紡いでいきたいですね。桜姫の事を敬ってくれそうな人がいれば託しましょう」
     先導する璃理について皆で坂を降りる。そして眠っている人々を、皆でそっと起こしていった。
    「あれ、わしらは一体……」
     何で眠っていたのかわからない、そんな様子で事情を把握しようとする村人たちに灼滅者達は、民話調査に来た学生を装って話かけた。
    「婿取り桜……桜姫の伝承を聞いてきたのですが、今も伝わっているのですか?」
     悠の問いに村人たちは顔を見合わせて。祖父母やその前の代からずっと言い聞かせられて来た話だと教えてくれた。木が生きていれば、素晴らしい桜が見れただろうに、というのが話を伝える老人達の口癖だったとか。その口癖までもが息子に孫にと伝わっているということは、村人たちが桜姫を惜しむ心も伝わってきているのだろう。
    「今回の謎の昏倒は、祟りかもしれないな」
     モーガンの言葉にぎくりと肩を震わせる村人達。やっぱりマンション建設は反対せねば、切り株があるのだから――そんな風に強固に意思を固めた村人たちを、建設会社の人達が困ったように見ていた。
    「その桜の木、泣いていたよ。ここにいたくない、村に帰りたいって。桜の木に宿る姫が大事なら、意味は分かるよね? 貴方達のしていた事は桜姫の恨みを呼んでいたんだ。これ以上、貴方達が桜姫が嘆かせるような事をしたら……」
     朔夜の言葉は村人と業者、両方に向けたもの。どうしたら、蒼白になった村人に伝承なんてと鼻で笑う業者の者達。鐐は若木を手にしたまま、すっと前へ出た。
    「伝承曰く、元は高台の下の桜だと。これはその子でしょう。植えるか、接ぐか出来る地があれば教えて頂きたいのです」
    「折角芽吹いた新たな若木……このまままた朽ちさせるのは忍びない。よければ植えさせてもらえぬだろうか」
     桐馬もまた言葉を添える。自分達は関係ないという顔をしている業者に、鐐はそっと近づいて囁いた。
    「桜木の保護は融和手段に。居住日照権よりは樹木日照権の方が調整も容易でしょう」
     悪どく、利己的なのは自覚している。それでも、桜が本当に融和の礎になれればと願って。
    「桜の木を大切にしないと、桜姫の祟りがこれからもあるかも。それに、若木もまだ生きてるんだし……大切にして欲しいな」
     自分達にできることは限られているから出来るだけのことを精一杯。紫苑も言い添える。
     最終的に、村人たちはいつか開花することを願ってその若木を受け入れてくれることとなった。
    「この木が大きくなりますように」
     紅緋と璃理がそっと願って若木に背を向ける。その背には優しく、慈しむような悠の歌が流れている。
     この桜がいつか、綺麗な花を咲かせますように。

    作者:篁みゆ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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