伝説の彫師拠点強襲～消せない烙印

■リプレイ

●突入！
「カチコミじゃー！」
　前方……最前線から響き渡った声、そして門を破壊する轟音と共に、門へと雪崩れ込んでいく灼滅者達。
「わたくし達も参りましょう！」
　黒岩・りんご（凛と咲き誇る姫神・d13538）の言葉に頷きかわす、同じ班を組むことになった八人。
「派手な仕事になりそうね……相手も強そうで嫉妬しちゃうわ。リア充相手にする時とは別の感情の高ぶりを感じるし、やり遂げたいものね！」
　いささか不穏当な台詞を吐く浦原・嫉美（リア充爆破魔法使い・d17149）。嫉妬の力って怖い。
「『伝説の彫師』……罪を広げる存在は、ここで止めなければな」
　走りながら、決意を新たにする神條・エルザ（クリミナルブラック・d01676）。
　屋敷敷地内を制圧するために、灼滅者達はあらかじめ決めていた班ごとに散っていく。
「ホテルスさん。もみじ饅頭、美味しかったです」
「そうですか、良かったです。作戦が終わったら、焼き立てでも食べましょう」
　作戦前、待機中に緊張気味だった戸森・若葉（のんびり戦巫女・d06049）に、もみじ饅頭を差し入れていたホテルス・アムレティア（斬神騎士・d20988）。二人は微笑して頷き合う。
「これだけ敵味方がいると、昔を思い出してしまいますね」
　既に小競り合いがあちこちで始まっているのを横目に、川原・香代（虚ろなる・d24304）は呟く。
「……！」
　しかし、彼らの足を止めさせる者があった。前に立ちはだかるのは、年端もいかぬ少女。ポニーテールに、女子高生の改造制服のような出で立ち。この日本庭園とも、戦場ともどちらにも呼べる場所において、明らかに違和感を覚えさせる。
「……何者、だ？」
　ナハトムジーク・フィルツェーン（黎明の道化師・d12478）が問う。
「普通、そう言われて答えないよね」
「それはそうか」
　分かるのは、彼女が普通の存在──一般人ではないということ。
「ま、名前くらいは。私はキリエ。あんた達は、灼滅者？」
「……そう」
　九鬼・宿名（両面宿儺・d01406）が答える。答える義理はなかったが、この場にこうして敵対戦力として存在する以上、自ずと導き出される答えではあった。
「じゃあ殺してもいいよね？　ね？　はりきって殺したーい！」
「……ＨＫＴ六六六か！」
　キリエの台詞から、あっという間に身元は割れた。
「当ったりー。本当はね、私は戦わなくて逃げたっていいんだよ。でもね、ここで活躍すれば、うずめ様に褒めてもらえるかもだもん」
「ウズメサマ……？」
「そう。うずめ様、ひと目みただけで、私はうずめ様の虜なのです♪」
　うっとりと陶酔した表情を浮かべるキリエ。その蕩けるような顔は、見ている者の色欲すらも刺激する。おそらくは──淫魔。
　思わぬところで遭遇した宿敵に、エルザはサイキックソードを強く握りしめる。
「……何にしろ、お前が私達の道を阻むというのであれば……倒すまで」
「決まりだね。私達は敵同士。じゃ、皆出てきてー」
「！？」
　キリエの合図と同時に、彼女の周りに現れる十名程の強化一般人。いずれも旧日本軍風の軍服を身に纏い、日本刀やガンナイフを構えている。
「ＨＫＴの命令にも従うのか、こいつら！」
「そうよ！　さあ、やっちゃって！！」
「はっ！」
　そのキリエの言葉を皮切りに、戦いが始まった。

●予想外の戦い
　相手が誰であろうと、やることは同じ。派手に立ち回り、敵の動きを引き付ける……陽動として。
　しかし相手は何分数が多く、倒した先からどこからか人員が補充されていく。それに加え、敵の頭は援護能力に優れた淫魔。傷ついた兵士を癒し、こちらを催眠に陥れようとしてくる。
「脆いな、こんな程度か」
　ナハトムジークが緋色のオーラを纏わせたバベルブレイカーで強化一般人を突き倒し、灼滅して言い放つ。
「何を……！」
「はいはい、安い挑発に乗らなーい。あんた達はただ敵を倒すことを考えてればいいのよ」
「はっ！」
　一度は煽られた強化一般人だったが、キリエの命令で平静を取り戻し、再び隊列を組み直す。
「ちっ……そう上手くはいかないか」
　ナハトムジークが歯噛みする。
「寒い季節柄悪いわね、凍りなさい！」
　続けて嫉美がキリエと強化一般人達を巻き込んで、その周辺を凍りつかせる。敵の数が多い分、こうした複数対象攻撃は有効だった。
「くっ……」
　歯噛みするキリエ。
「皆さん、まだまだ行けますわよね！？」
　りんごが穏やかな風を巻き起こし、仲間達の傷を癒す。応、との声がそこかしこから上がった。
　元々、持久戦覚悟で戦術を組んでいた灼滅者達は、こうした敵の行動の阻害や自身達の回復に重点を置いていた。キリエ達を引きとめている分、その作戦は成功していた、と言っていいだろう。
「練度は高いが、頭を潰せば……」
　敵陣の隙をついて、キリエに迫ろうとするエルザ。しかし強化一般人に阻まれ、舌打ちした後にその胴を斬る。
「ぐぁ……」
　強化一般人はそのまま倒れ伏した。
「これで何体目だ……？」
　だが一向に強化一般人の数が減る様子がない。一体どこからこんなに湧いて出るのか。
「皆さん、頑張りましょう」
　若葉もまた、りんごと同じ清浄なる癒しの風を。
　更に霊犬の蒼炎に仲間の援護を命じ、蒼炎はそれに応えて六文銭を敵の中へ撃ちこんだ。
「そんなに仲間が欲しいなら、地獄に逝けば鬼がいっぱい居るよ」
　普段通りの柔らかな声で、大鎌を軽々と振り回し、自身もその遠心力でくるくると目まぐるしく回りつつ、強化一般人の首を刈る宿名。
「本当なら、我輩も前に出たいのですがね……」
　しかしその感情は捨て置き、ホテルスもまた風による皆の回復を行う。
「アスラ、援護は任せます」
　香代が霊犬に命じて、自身は敵陣に魔法の弾丸を撃ちこんだ。
「まだ先は長そうですし、確実に数を減らしておきませんとね」
　そしてアスラは若葉に対し癒しの視線を。若葉は微笑み返してアスラへの礼とした。
「うーん……イマイチねぇ。皆、もっと頑張ってー」
「はっ！」
　キリエの号令に、強化一般人達が一斉に動く。前に割って入るりんごと香代、アスラのみならず、ナハトムジークやエルザ、宿名にも迫る。
「ぐっ……」
「きゃあっ……！」
　それでも後衛への攻撃は意地でも通さなかった。
「駄目だなぁ。攻撃ってのはこうするんだよ！」
　と、キリエは自ら歌いだす。その倒錯的な歌声は、若葉に催眠効果を及ぼす。
「う……」
　ふらつく彼女を、蒼炎が支える。
「くっ……このままじゃジリ貧だな……」
「まぁ、私達の役目はあくまで陽動……潜入攻撃班が来るまでの辛抱よ」
「……それにしては、遅くないか？」
　こっそりと言葉を交わす。屋敷での戦闘が始まって既に、潜入攻撃班が挟撃を仕掛けるのに充分な時間が経っていた。
「──まさか、失敗した？」
「その可能性は、高いですね……」
「なら……力押しするしかないよねぇ！」
　ナハトムジークが叫んで斬りこむ。杖を振りかざし、強化一般人を殴りつける。本気の一撃は、強化一般人を勢いのまま吹き飛ばした。
「あら、もしかして今まで手加減でもしてた？」
「まさか。容赦してたら仲間が倒れかねないこの状況で、容赦なんて出来ませんよ」
　キリエに答えるホテルス。
「だよねー」
　そこへ、戦場の核となっている中央から、撤退を叫ぶ声と勝どきの叫びが聞こえてきた。その波紋は徐々に戦場全体へと広がっていく。
「……あら？　ひょっとして負けちゃったのかな？」
「そのようね。あなたも、負けを認めるなら今のうちよ！」
　戦況を悟るキリエと、彼女に指をつきつける嫉美。
「ふーん……私、褒めてもらえるくらい頑張ったよね」
　と呟いて、踵を返すキリエ。
「じゃ、そゆことで、あと、まかせたよっ」
　強化一般人に戦線を任せ、自身は撤退しようというつもりのようだ。
「させないわ！　動きづらくしてあげる！！」
　それを阻むべく、嫉美はキリエを影業で捕縛する。
「きゃあ！　何よコレ！？」
　つんのめって転びそうになるキリエ。その隙に、りんごがキリエを中心に結界を構築、傷を負わせると共にその中の者の行動を阻害する。
「今ですわ！」
「くっ、この……！」
「覚悟しろ、キリエ。その闇を切り裂く！」
　エルザがサイキックソードを振り上げる。その軌跡は光を放ち、キリエを斬る。
「きゃああ……っ」
　断末魔の叫びをあげて倒れ、キリエという淫魔は灼滅された。

●制圧
　持久戦ではあったがいつしか強化一般人もいなくなり、残存戦力も倒された。ひとまず、この場は制圧したと言って良いだろう。
「ふ……リア充とは違うけれど、手強い相手、だったかしらね」
　嫉美が武器を収めつつ呟く。後から後から湧いて出る分、ある意味リア充とは対極の存在だったのではないだろうか。
「他の班は無事でしょうか……」
　他班として行動しているはずの所属クラブや友好クラブの仲間達を思い、香代は呟く。
「少なくとも正面攻撃班の数は少なくなかったようだし、大丈夫じゃないかな。その他の班まではわからないけど……」
　自分にも言い聞かせるような宿名の言葉。
「信じましょう。また会える、と」
　若葉が蒼炎を撫でながら、祈る。他班の仲間の携帯電話番号は知っていたが、向こうの状況がわからない今、自分からかけることは憚られた。
「ともあれ、この場は制圧できたようで何よりですわ。人を強制的に堕とすような事は捨て置けませんものね」
　小袖の胸に手を当て、ほっと一息つくりんご。
「そうだな。これ以上、罪を負う者が出ないことを祈るばかりだ」
　彼女の言葉にエルザが重ねた。
　そして一緒に無線機を操作していたナハトムジークとホテルスが、皆に向かって笑顔で親指を立てる。
「少なくとも、庭園は無事、完全制圧だ」
「邸内も、敵勢力は撤退して行ったようですね」
　決して無事とは言えない、厳しい状況を背負った班もあったが、屋敷は完全に灼滅者達に制圧され、後に伝説の彫師灼滅も知らされることとなったのである。

作者：天風あきら	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2014年3月4日 難度：やや難 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 7／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 1
あなたが購入した「複数ピンナップ（複数バトルピンナップ）」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。