脅威の巨大化チョコレート~阻止せよ、ロシアな野望!

    作者:悠久

    ●世界征服は現金一括払いから
     住宅地の外れにある1軒の空き家へ、怪しげな人影が出入りしていた。
     頭にはコサック帽、胸元には『ろしあん』の文字――コサック戦闘員である。
     しかも、1人や2人ではない。20人はいるだろうか。
     チョコレートのぎっしりと詰まったダンボールを背負い、次々と室内へ運び込んでいる。
    「ククク……間抜けな灼滅者達は囮に引っかかったようだな」
     薄笑みを浮かべ、戦闘員達を指揮するのはロシアン大福怪人。白くてもっちりした頭部の大福の中にはジャム……もといロシア風果実の砂糖煮、ヴァレーニエがぎっしりと詰まっている。
     中身は甘いが、計画はけして甘くない。
     戦闘員によって運び込まれたチョコレートは、もはや室内を埋め尽くすほど。
    「予定数が集まり次第、ロシア村へ帰還する。持ち運びやすいようチョコレートは整理しておけ!」
     手際よく指示を飛ばせば、戦闘員からは『ハラショー!』と一斉に応答が返る。
     ククク……と、怪人は再び満足そうな笑みを浮かべた。
    「これだけの量を集めれば、大量の巨大化チョコを手に入れることができるはず! この力さえあれば日本を……ゆくゆくは世界をも支配できることであろう!! ククク……ハーッハッハッハ!!」
     ――と、高笑いを続ける怪人の肩を、とんとん、と戦闘員が叩いて。
    「……なんだ? ああ、領収書はそこにまとめて置いておけと言っただろう!」
     戦闘員の手に束となって握られた領収書を見て、怪人はそう怒鳴りつけたのだった。

    ●武蔵坂学園の新たなる危機
    「バレンタインデーのチョコレートを狙ったご当地怪人の事件、ひとまずは無事に解決したようだね」
     と、宮乃・戒(高校生エクスブレイン・dn0178)は微かな笑みを浮かべて。
    「この事件では、一部のご当地怪人が奪ったバレンタインチョコレートを食べて巨大化しているようなんだけれど、どうやらこの『巨大化チョコ』こそが、ご当地怪人の真の狙いだったみたいだ。
     彼らは今、バレンタインの事件を囮として、日本全国のチョコレートを集めているらしいよ」
     ちょうどバレンタインが終わったこともあり、時期的に、あちこちで大量のチョコレートが安売りされている。怪人は主にそれらの買い占めを行っているようだ。
    「大量の巨大化チョコレートがご当地怪人の手に渡れば、大きな脅威になるのは間違いない。既に手遅れとなった事件もあるだろうけど、可能な限り、事態は阻止しなければいけない。だから、君達には速やかにチョコの集められている現場へと向かって欲しいんだ」
     と、戒は灼滅者達へ数枚の資料を配った。
     今回、事件が予測された場所は、住宅街の外れにある1軒の空き家。人通りはほぼ皆無であり、隠れ家としては絶好の場所だったようだ。
    「そこでは、ロシアン大福怪人が配下のコサック戦闘員20名の指揮を執っているみたいだね。
     ただ、今回は戦闘員の数も多いし、怪人が例のチョコで巨大化する可能性もある。無闇に正面から攻めた場合、多分、勝つのは難しい」
     そこで、いくつかの作戦が考えられる。
     1つ目は、コサック戦闘員がチョコレートの搬入や搬出で外に出ている隙に空き家へ突入し、ご当地怪人に戦いを挑む方法だ。
     この場合、戦闘員が戻る前に勝負を決められるかが重要になるだろう。
     また、ご当地怪人さえ倒せば、残りの戦闘員の撃退も難しい話ではない。
     2つ目は、外で働いているコサック戦闘員を個別に襲撃することで、徐々に戦力を減らすという方法だ。ただしこの場合、敵に作戦が気づかれると正面決戦になってしまうだろう。
     また、今回は巨大化チョコレートの強奪を阻止することが目的のため、怪人達との戦いを避け、チョコレートだけを奪取するという解決法もある。
     が、奪われたチョコレートはかなり大量である為、全てを奪取するというのは難しいだろう。
    「チョコレートを破壊するという手段もあるけれど、破壊によって巨大化する力がなくなるかどうかは不明……と、まあ、こんなところかな。癖の強い作戦ばかりになってしまったけれど、ご当地怪人はそれを上回るほど癖が強いから。充分な策を練るに越したことはないと思う」
     ロシアン大福怪人はご当地ヒーローと同じサイキックに加え、頭部に詰まったヴァレーニエを足元に撒くことでこちらを足止めしてくる。
     また、コサック戦闘員は妖の槍とガトリングガンのサイキックを使用するものが半々ずつとなる。
    「バレンタインデーの事件を起こしたご当地怪人の中にロシアのご当地怪人はいなかった。恐らく、彼らは捨て駒として利用されたんだろうね。……これはかなり周到に準備された計画だと思う。だから、くれぐれも気を付けて。僕は、君達の活躍に期待しているよ」
     深々と頭を下げる戒の表情が、緊張のためか、僅かに強張っていた。


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    白鐘・睡蓮(黒天焔之迦具土・d01628)
    リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)
    清浄院・謳歌(アストライア・d07892)
    七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)
    カリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)
    奏川・狛(狛犬楽士シサリウム・d23567)
    アレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)

    ■リプレイ


     午後1時。灼滅者達は、ロシアンご当地怪人が潜伏する空き家近くの雑木林に身を隠していた。
     全員がお揃いのコサック帽とシンプルな服を着用。その胸元には『ろしあん』と切り抜いた紙や布を貼り付けている。簡素ではあるが、コサック戦闘員に変装しているのだ。
     加えて、傍らには人数分のダンボール箱が並ぶ。
     因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)とカリル・サイプレス(京都貴船のご当地少年・d17918)は、用意したチョコレート型の食品サンプルをESPビスケットで増やし、箱の中へと積み上げていた。
     戦闘を前にしながらも、2人は楽しそうに作業を進める。
    「こういうビックリな悪戯、大好きだよ」
    「怪人さんの秘密のチョコパーティー、なんとしても阻止するのです! ね、ヴァレン!」
     増やした偽チョコを霊犬の口にも咥えさせ、カリルが意気込みを見せる。
    「……む、静かに。どうやら動きがあるようだ」
     その時、双眼鏡で空き家を見張っていた白鐘・睡蓮(黒天焔之迦具土・d01628)が、しっ、と人差し指を立てた。
     息を潜めて見守る前で、コサック戦闘員達はぞろぞろと空き家を出て行った。
    「18、19……20。どうやら全員出払ったようだな。突入するぞ!」
     睡蓮が号令を飛ばす。
     顔を隠すようにダンボール箱を抱えると、灼滅者達は一斉に空き家へと走り出した。
    (「潜入任務か。うむ、カッコいい言葉の響きだ」)
     とはいえ、気を抜くわけにはいかない。睡蓮は表情を引き締めて。
     到着と同時に素早くドアを開けた彼らは、室内の様子に思わず圧倒された。
     壁にも床にもうず高く積まれた、ダンボール100箱分のチョコレート。
     そして、その奥には――。
    『ム……もう戻ったのか、随分と早いではないか』
     机に向かい黙々と作業をする、白い大福のような何か……もとい、ロシアン大福怪人がいた。どうやら領収書の整理をしているらしい。
    「は、ハラショー」
     リュシール・オーギュスト(お姉ちゃんだから・d04213)は深く被ったコサック帽の下、咄嗟にそう返して。
     緊張の一瞬。
    『うむ、ご苦労ご苦労……って、お前達、何者だ!』
     ――さすがに誤魔化せなかった。
     だが、振り向いた怪人が2度見した隙を突き、灼滅者達は手にしたダンボール箱を次々と投げ付ける。
    「ハッピーバレンタイーン! 僕達からの遅いプレゼントだよー!」
     と、ニッコリ笑顔の亜理栖。
    「ズドラーストヴィチェ(※こんにちは)♪」
     ずごーん!
     リュシールが勢いよく投げ付けた箱は、見事怪人の頭へと命中する。
    「どうもこんにちは、数の暴力のお時間です」
     薄笑みを浮かべたアレン・クロード(チェーンソー剣愛好家・d24508)が投げた箱からは、どさどさーっと偽チョコが雪崩れ落ちて。
     姿勢を崩した怪人の体がぶつかり、周囲のダンボール箱も次々と崩れていく。
     床に出来上がったのは、本物と偽物が混ざってしまったチョコの山。いや、海だろうか。
    『まさか、灼滅者……!?』
    「そういうこと」
     チョコを掻き分けて起き上がろうとした怪人へ、七峠・ホナミ(撥る少女・d12041)もトドメとばかりに箱を投げ付けた。
     鈍い音。再び床へと沈む怪人。
     と、はずみでぶつかった机から、綺麗に整理された領収書が床へと散らばった。
    「あら、ごめんなさい♪」
     ホナミがくすりと笑う。
     ようやく立ち上がった怪人の頭からは、中身が少しはみ出していた。
    『灼滅者め! よくもこのワシを騙そうとしたな!』
    「それはこちらの台詞です! 転身っ!」
     鋭い掛け声と共に、奏川・狛(狛犬楽士シサリウム・d23567)の体が光に包まれる。
     次の瞬間、彼女は狛犬楽士シサリウムへと姿を変え、怪人へびしっと指を突き付けた。
    「人々が胸躍らせるバレンタインを囮に悪事を働くなど、言語道断グース!」
     その姿に、ご当地ヒーローに憧れる清浄院・謳歌(アストライア・d07892)は大興奮。
    「うわーっ! わたしも負けてられないよ!」
     スレイヤーカードから巨大なガトリングガンを出現させると、狛と並び、きりっとポーズを決めた。
    「ロシアン大福怪人! あなたの野望もここまでだよっ!」
    『ほざけ! 我らが隠れ家へ飛び込んだこと、後悔させてやるわ!』
     激昂した怪人が頭部からロシア風果実の砂糖煮、ヴァレーニエをぶちまける。
     ――それが、戦闘開始の合図だった。


     放たれたヴァレーニエを、前衛の灼滅者達は素早く回避した。
     厄介な足止めを防ぐため、あらかじめ装備を整えていたのだ。
    「その攻撃、既に予測済みだ!」
     雷を纏った睡蓮の拳がロシアン大福怪人の胴に深々とめり込む。
    「戦闘員が戻ってくる前に、速攻で仕留めさせてもらうぞ!」
    「チョコの買い占めはよくないのですよー!」
     跳ね上げられた怪人を、カリルが掬うように斬り上げる。合わせて、ヴァレンも斬魔刀を振るった。
    「ロシアン大福、かぁ……美味しそうではあるけれど、私的に1番は日本のよね」
     仰け反る怪人にどこか爛々とした視線を向けたホナミが、足元の影を伸ばして怪人を包み込む。
    『くっ……あんこなど認めんぞっ! あんなもの、ただの豆ではないか!!』
    「失礼ね、あんこに謝りなさい!!」
     付与されたトラウマに苦しむ怪人の発言に、ホナミは甘党の1人としてかんかんに怒った。
     動きの鈍った怪人へ、謳歌のガトリングガンが容赦なく爆炎を噴く。
    『あちちちっ!』
    「そのまま焼き大福になっちゃえ!」
     だんだん焦げ始めた怪人へ、謳歌はぱちりとウインクした。
     だが、怪人とて負けてはいない。
    『ロシアを……舐めるなぁっ!』
     半分キツネ色になった頭から、再び発射されるヴァレーニエ。
     ちなみにヴァレーニエの特徴は、果実の形がそのまま残っていること。
     つまり、だ。
     ――べちゃ。避け切れなかったリュシールとアレンの顔や服に、柔らかな苺がぶつかり、潰れる。
    「おお、これは甘い」
     口元に垂れた苺を舐め、アレンは微かに笑った。彼もまた甘党なのだ。
    「個人的に色々と親近感を覚えるのですが……仲間を傷付けるのであれば容赦しません」
     多少動きづらくなったものの、攻撃に支障はない。汚れた服は後で拭けば問題ないだろう――と。
     アレンのチェーンソー剣は、凄まじい音と共に怪人の胴を薙いだ。
     一方のリュシールは、といえば。
    「ところでさ、あなた達。囮の為にバレンタインデーを襲撃させた訳?」
     柔らかな金髪を汚す苺もそのまま、満面の笑みで怪人にそう尋ねた。
    『当然であろう! おかげで、我らの野望は達成へと近付い……』
    「……女は恐いとか、乙女心にちょっかい無用って、首領から教えて貰わなかった?」
     次の瞬間、その笑顔が迫力を増した。ぼきぼきと指を鳴らす。
     ぼたり。苺の落ちる音すら、なんだか不穏な響きを帯びて。
    「なら、これからたっぷり教えてあげるわ! さ、天誅の時間よ……!」
     リュシールは影業で怪人の体をきつく締め上げながら、汚れた頭を拭う。
     続けて放たれた亜理栖の戦艦斬りが、容赦なく怪人の体を押し潰した。
    『ぐっ、このままでは……!』
    「おっと、逃がさないよ!」
     怪人がふらふらと立ち上がるのを見て、亜理栖は素早く退路を塞ぐ。
     他の仲間達も、怪人と周囲のチョコを遮るように立った。
     だが、怪人は懐へと手を差し入れ、剥き出しのチョコを取り出す。
    「貴方に食べさせるチョコは1つもないグース!!」
     瞬時に反応した狛が、吹奏楽器のようなバスターライフルでその手を撃ち抜いた。
     怪人の手からチョコが落ちる――が。
    『……ひとつだと、誰が言った?』
     ニヤリと浮かぶ、厭らしい笑み。
     怪人は再び懐からチョコを取り出し、一気にそれを飲み込んだ。
     兆候はあった。周到に準備された計画と予測されていたのだから。
     対する灼滅者は、既に後手へと回っている。もはや止められる状況ではなかったのだ。
    『我らが野望を遮る者はなし!』
     灼滅者達の前で見る見るうちに巨大化する怪人。その体が、天井をも突き抜けて。
    『戦闘員達よ! 今すぐ隠れ家へ戻り、チョコレートを運び出すのだ!!』
     無情な声が、頭上で響き渡る。


     巨大化した怪人を追い、家の外に出た灼滅者達。
     まだ、周囲に戦闘員の姿はない。ホナミがあらかじめ展開していたサウンドシャッターが、怪人の号令を遮ったのだ。
     だが、戦闘員達は遅からず怪人の巨大化に気付き、戻ってくるはず。
    『ハーッハッハッハ!』
     怪人が、高笑いと共にヴァレーニエをぶち撒けた。
     巨大化したためか、威力、命中率共に上がった攻撃がその後も次々と降り注ぐ。
    「ど、どうすればいいのよ……!」
     呆然と怪人を見上げながらも、ホナミは必死に仲間達を癒した。
     ホナミだけではない。誰もが呆気に取られる中――。
     睡蓮は猛攻を掻い潜るように怪人へ接近すると、太い木の幹のようなその足を力任せに持ち上げた。
    「どうもこうも、戦うしかあるまい」
     傷を負った体が痛もうと、ここで怯むわけにはいかない。
    「私達はテレビの中のヒーローではない。だが!」
    『なっ……!』
     バランスを崩した怪人が、勢いよく空き地へと倒れ込む。
    「戦隊物と同じくらいの連携くらいはしてみせるさ! そうだろう、皆!?」
     凛とした睡蓮の呼びかけは、仲間達の戦意を取り戻したのみならず、それ以上へと高揚させていく。
    「ええ、同感です」
     アレンは倒れた怪人の守りを削ぐように、素早い斬撃を放った。
     穏やかな笑みが、どこか冷たく研ぎ澄まされていく。
    「僕達は灼滅者、お前はダークネス……」
    「絶対に、負けるもんですか!」
     怒りに燃えた叫びは、リュシールのものだ。
     構えた槍の穂先、素早く撃ち出された妖冷弾が怪人の体を凍らせる。
    『面白い、あくまで足掻くか! ……だが、その強がりがいつまで続くかな!』
     立ち上がった怪人が、大きな足を振り上げて。
    『食らえ、ロシアン大福キーック!』
    「って、それどう考えてもキックじゃないよね!?」
    『問答無用!』
     驚愕の表情を浮かべたまま、亜理栖はその足に踏み潰され――てはいなかった。
     緋色の闘気を宿した『vorpal sword』で瞬時に足を斬り付け、ぎりぎり脱出に成功していたのだ。
     とはいえ、受けたダメージは大きく。
    「痛たた……まったくもう、灼滅者じゃなかったら死んでたよ!?」
     む、と頬を膨らませて怒る亜理栖。
     その周囲を包み込むようにいくつもの光輪が飛来した。ホナミの放ったシールドリングだ。
    「本当よ! チョコで巨大化なんて、ご当地怪人ってどこまで意味不明なのかしら!?」
     きつく怪人を睨み付ける。最初こそ驚いたものの、今は落ち着いていた。
     たとえ目の前の敵が巨大化しようと何だろうと、灼滅者のやるべきことはひとつだけ。
    「絶対に、あなたの好きにはさせない! ね、狛ちゃん!?」
    「そのとおりグース!」
     互いの思いを確認するように頷いて、謳歌と狛はそれぞれの武器を構えた。
     怪人の足を止めるような、ガトリングガンの凄まじい連射。
     それが収まると同時に怪人へと喰らいついたのは、狛の放ったホルン型の影だった。
     流れるような連携攻撃は狙いを違うことなく怪人へ命中し。
     付与された炎や氷、トラウマも、じわじわとダメージを深めていく。
    「真のご当地愛、しかとその目に焼き付けるグース!」
    『ええい、生意気な! こうなったら……!』
     と、怪人の手が狛目掛けて伸ばされて。
    『食らえ! ロシアン大福ダイナミ……』
    「そうはさせないのですよ!!」
     だが、彼女が掴まれる直前、カリルが2人の間へ立ち塞がった。
     大きな怪人の手を跳ね返すように、無数の連打を叩き込むカリル。
     彼を助けるように、ヴァレンも六文銭を発射して。
     たまらず怯んだ怪人目掛け、睡蓮が勢いよく跳躍した。
    「これで終わりだ、怪人!!」
     絶叫と共に、力の限りマテリアルロッドを叩き付ける――!
    『ば、馬鹿なぁーっ!!』
     着地した睡蓮は、積み重なる負傷のためか僅かにふらつく。
     だが、しかし。
     彼女の背後、巨大化怪人は無念の絶叫を残し、爆発四散したのだった。    


     巨大化怪人を無事に倒した灼滅者達は、急いで空き家へと戻った。
     天井が抜け、半壊した空き家。
     そこでは、怪人の巨大化に気付き帰還した多数のコサック戦闘員が、箱詰めされたチョコを急いで外へ運び出している最中だった。
     だが、彼らも戻ってきたばかりらしく、室内のチョコはほぼ手付かずのままだ。
     戦闘するか、否か――。
     少しだけ迷った末、灼滅者達が下した結論は『戦闘』だった。
     残された体力はぎりぎり半分。判断を分ける境目だ。
     とはいえ、当初の作戦である待ち伏せや、チョコだけを運び出すことは、現状不可能。
     おまけに怪人亡き今、統率を失った戦闘員を倒すのはそう難しくない。

     だが、戦闘員は灼滅者との戦いよりもチョコの運び出しと逃亡を優先していた。
     その結果、灼滅者達が撃退した戦闘員の数は、およそ3割。
     室内に残るチョコもさほど多くはない――と思いきや。
    「わわっ、怪人さん達、僕らの偽チョコに見事騙されてくれたのですね!」
     カリルが笑顔を浮かべる。室内には、半数を大きく超えるほどのチョコが残されていたのだ。
     慌てていた戦闘員達は、本物と偽物の区別もつかないままチョコを運び出したらしい。
     また、室内を散らかしたことも妨害に効果があったようだ。
    「うむ。苦労して作戦を練った甲斐があったというものだ」
     睡蓮は、傷だらけの顔で満足そうに笑った。
    「正義の勝利グース! ……やりましたぁっ!」
     シサリウムへの変身を解いた狛も、ぐっと拳を上げて。
    「ふふっ、女の子を怒らせると怖いのよ?」
    「ねーっ!」
     リュシールと謳歌は見つめ合い、明るく笑った。
     と、激戦の跡を示すように薄汚れた武器が2人の手から消え、スレイヤーカードへ封印される。
     一方、アレンは室内に残された大量のチョコを物色するように見て回っていたが。
    「……気持ちは分かるけど、止めておいた方がいいんじゃないかしら。私達まで巨大化したら嫌だし」
    「まあ、それもそうですね」
     同じく甘党のホナミにやんわりと止められ、2人で残念そうに肩を竦める。
     室内に残されたチョコの中には未だ、灼滅者達が持ち込んだ偽チョコも混ざっていた。
     床に落ちていたそれを拾い、亜理栖は楽しそうに微笑む。
    「偽物のチョコでも、巨大化ってできるのかな?」
     ――まあ、さすがに無理だろうが。
    (「そうなったら、面白いのに」)
     目を閉じて考える。想像するのは自由だから。

     でも。
     ひとまずは、武蔵坂学園へと帰ろうか。

    作者:悠久 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 4
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