脅威の巨大化チョコレート~出荷前チョコを狙え!

    作者:君島世界

     ピッキング、梱包、積み上げ!
     ピッキング、梱包、積み上げ!
    「漫然と動かず、意識して働くのです! 仕事が早く終われば、その分グローバルジャスティス様の栄光が近づくのですから!」
    「「ハラショー!」」
     コサック戦闘員たちの統率の取れた返答が、倉庫内のあちこちに響いた。指示を出しつつ己も作業に従事しているのは、ご当地怪人『ロシアン花咲ガニ怪人』である。
     買いだめられたチョコの山から取り出せるだけ取り出す、ピッキング!
     ダンボール一杯にチョコを詰め込む、梱包!
     出来た荷物を出荷しやすいように整頓する、積み上げ!
     怪人はそれらの作業を、戦闘員たちが目を見張るほどのスピードで行っていた。戦闘員たちも感化され、全体の速度が上昇していく。
    「――皆さん、買い置きのチョコが無くなりました。所持金を確認し、売れ残りチョコの買い出しに行くのです! 囮に灼滅者が引き付けられている今のうちが勝負ですよ!」
    「「ハラショー!」」
     世界征服を目指す彼らに休憩はない。怪人は買出し部隊を見送ると、作業の手を止めずにダンボールを組み立て始めた。
    「これだけのチョコが集まれば、巨大化チョコも大量に手に入れられるに違いありません! そして我らの手で日本を支配し、ゆくゆくは世界をも征服するのです!」
     と、怪人は満面の笑顔で言う。……手慣れたもので、口を動かしながらも仕事のスピードは落としていなかった。
     
    「ご当地怪人がバレンタインデーのチョコを狙った事件は、無事に解決を迎えたようですの。一部のご当地怪人たちがチョコを食べて巨大化したと報告にありましたが、どうやらこの『巨大化チョコレート』が狙いだったようですわ」
     教卓で説明する鷹取・仁鴉(中学生エクスブレイン・dn0144)の後ろには、大小二つの棒人間が描かれていた。その間にはハート型の図形を貫く矢印が引かれており、中に『巨大化!』と付け加えられている。仁鴉にしては珍しく、一目でよくわかる説明図であった。
    「ですが、バレンタインデーの一件は氷山の一角……というより、私たちを引きつける囮だったようですの。
     ロシアンご当地怪人たちが、『巨大化チョコレート』の確保に向けて動き出しましたわ。日本全国で多数のチョコレートを集めた彼らは、それらを拠点に運び込もうとしているようですの。
     大量の巨大化チョコレートがロシアンご当地怪人の手に渡れば、大きな脅威となるのは間違いありませんわ。既に手遅れとなってしまった部分もあるでしょうが、出来る限りの対応を行わねばなりません。現場に向かい、彼らの野望の阻止をお願いいたしますわ」
     
     今回の事件は、あるオフィス街にある貸し倉庫を中心に発生する。周囲には菓子問屋のような大口の仕入先こそ無いものの、デパートやコンビニといった小売店は十分に存在しているため、チョコを手に入れるのに不都合はない。首謀者である『ロシアン花咲ガニ怪人』は、配下のコサック戦闘員をお使いに出し、バレンタインデーに売れ残ったチョコを現金一括購入で大量に手に入れているようだ。
     この怪人と共に行動している戦闘員は、その数20人。単純に数が多く、また怪人が巨大化して強化される可能性もあるため、正面から戦いを挑むのは分が悪いだろう。事前に作戦を用意する必要がある。
     想定されるものとしては、まず『戦闘員が買出しや出荷で外に出ている隙に倉庫に侵入し、ご当地怪人に戦いを挑む』というものがある。戦闘員が戻ってくるまでに勝負を決められるかが、この作戦の鍵となるだろう。
     次に、『外に出た戦闘員を倒して数を減らしていく』というやり方が考えられる。地道ではあるが、もし敵に気づかれれば正面決戦となってしまうだろう。
     また、今回の狙いは巨大化チョコレートの収集阻止であるため、『戦闘を可能な限り避け、チョコレートだけを奪取する』いうのも一つの方法だ。が、集められたチョコレートはかなりの量があるため、その全てを奪取するのは難しいだろう。チョコレートを破壊することはもちろん可能だが、それで巨大化の力がなくなるかどうかは不明である。
     どのような作戦を採るにしろ、チョコが集められた倉庫に侵入する必要が出てくるだろう。その際、敵怪人の予知を回避するため、必ず『ドアを使わず窓から入る』ようにしてもらいたい。建物の一階には事務所やトイレが併設されている。
     戦闘となると、怪人はご当地ヒーローに相当するサイキックと基本戦闘術(シャウト、手加減攻撃)、戦闘員は基本戦闘術を使用する。怪人はクラッシャーとして、戦闘員は各自様々なポジションに付いているだろう。
     
    「ご当地怪人たちの一連の動きは、綿密に準備された作戦だと言えますの。それを踏まえ、行き当たりばったりの対応にならないようお願いいたしますわ。
     用意周到に事に当たるのは、私たち武蔵坂学園だって得意なのですから。ね?」


    参加者
    九条・雷(蒼雷・d01046)
    風早・真衣(Spreading Wind・d01474)
    峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)
    有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)
    緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)
    綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758)
    蕨田・優希(ぷるぷにワラビなお散歩ガール・d20998)
    ハチミツ・ディケンズ(殉血のフラワーメイデン・d21331)

    ■リプレイ


     ――ザッ、ザッ、ザッ、ザッ!
     廊下の中だというのに、コサック戦闘員たちは一糸乱れぬ縦列行進を行っていた。左側通行を律儀に守り、角という角を直角に曲がる。
     働き者の戦闘員たちを、猫が一匹、ロッカー上のダンボール箱の影から眺めていた。猫は身を乗り出して鼻先を下に伸ばすと、猫は行列の最後尾が扉から出ていくのを見送る。
    「…………」
     とん、と猫が床に下りた。それから事務所の下に隠れると、猫はいつの間にか、有栖川・へる(歪みの国のアリス・d02923)の姿となっていた。
     猫変身を解除したへるは、そのまま通話中の携帯電話を取り出し、通話口を三度叩く。別の場所に隠れている仲間たちに送る『侵入可』のサインだ。

     それから数分後。灼滅者が一人、発育が良いせいで廊下の窓につっかえている。
    「お、お……おおー?」
    「ごめんね、ボクがさっき使ったルートだからさ……。つい、狭いところを」
     蕨田・優希(ぷるぷにワラビなお散歩ガール・d20998)は、片腕と胸までを辛うじて通すことができていた。それ以上は抜き差しならぬ状態の優希を、へるがばつの悪そうな顔で見上げている。
    (「うん、危ないところだった……。私も間違いなく、あの窓枠ならああなってたな」)
     同じく発育の良い女子である峰・清香(中学生ファイアブラッド・d01705)は、別の窓を使って難を逃れたようだ。安堵を表情に出さず、腕を組んで事態を見守っている。
    「え、ええってええって……。こんくらい力技でどうにか」
     できそうにはなく、優希は宙ぶらりんの体勢を解決すべく頭を捻る。おそらく、引っ張ってもらう力と押してもらう力の両方が必要だろう。そして、別の窓から中に入ったのが六人……ということは、まだ外に一人残っているはずだ。
    「と、いうわけで。アンタ、うちのことそこから押してくれへん?」
    「ぼっ、ぼぼぼ、僕が……!? その、優希さんの――おし」
     そこまで言って、綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758)の顔が耳まで真っ赤になった。うろたえる砌に、緋薙・桐香(針入り水晶・d06788)が声を掛ける。
    「せーので私が適度に引きますから、砌さんはぐいっと押してあげてくださいませね」
    「あの、僕の純情とか葛藤とか関係なしに話進んでるよね……?」
     ――結局、靴裏を押すことでどうにかなった。ある箇所の抵抗を超えると、優希のボディはすぽんと抜けたので、砌も頭を振って後を追う。
    「では、私は作戦通り入り口の封鎖工作をしてきますわ。タイミングは……」
     桐香がそう告げると、ハチミツ・ディケンズ(殉血のフラワーメイデン・d21331)が小さく手を挙げた。その隣で、ナノナノ『ババロア』が彼女の真似をしている。
    「サウンドシャッターは、戦場でないからなのか、まだ使えていませんの。桐香様が怪力無双をお使いになるのは、私たちが怪人と会ってからの方がよろしいかと」
    「判断は……緋薙様にお任せ、します。私たちは、この機を逃さないのが肝心です、から」
     風早・真衣(Spreading Wind・d01474)の言葉に、全員が頷く。灼滅者たちはそこで二手にわかれると、九条・雷(蒼雷・d01046)を先頭とする七人が、一気に倉庫室へなだれ込んだ。
    「おや、忘れ物ですか?」
     天井の高い、だだっぴろい倉庫室。作業服とメガネとカニヘッドを備えたロシアン花咲ガニ怪人が、こちらを振り返った。雷は倉庫内を見回しながら、にこやかに手を振ってみせる。
    「はァい、怪人さんどうもー♪ ……さってと、チョコの山チョコの山はァ、と」
     未梱包のチョコは怪人側のカート内にあるようだ。しかし運のよいことに、チョコが入っているダンボール箱の方が手近に積まれている。
    「見っけ。そんじゃァ怪人さん、あたし達と遊んでくれないかな?」
    「何をおっしゃる。遊んでる暇などありませんよ!」
     と、怪人の厳しい叱咤の声が響いた。目を丸くする雷をよそに、怪人はガムテープを作業台の上に戻し、そこからクリップボードを取ってこちらに歩いてくる。
    「ともかく、名簿に名前と現時刻を記入して作業開始です。仕事は沢山ありますから――」
     シュゴウッ!
     清香は、問答無用で得物を抜いた。放たれるウロボロスブレイドが、水平に空を切り裂く。
    「おや、殲術道具? 応援の作業員か何かではないのですか?」
    「とぼけた事を言うな。ダークネスと灼滅者、出会ったからには闘争が常套だろう」
     啖呵を切る清香の背後で、ダンボールに亀裂が走り始めた。まもなく瓦解を始めるチョコの山を見て、またも怪人は怒声を挙げる。
    「ああ、品物は大事に扱いなさい! 全く、仕事の前に座学から始める必要がありそうですね!」
    「申し訳ありませんが、ロシアン花咲ガニ怪人さん。お仕事は中断してもらい、ます」
     真衣はカードを胸に抱き、力を開放していった。ごう、と彼女から吹き始めた風が、漆黒の長髪を浮かび上がらせる。それに触発されてか、ハチミツもまた気配を変えつつあった。
    「……ククク……さぁ、愉しい戦闘遊戯の始まりだ!」
     うつむきから頭を振り上げると、おさげの横に現れた鋭い眼光が怪人を刺す。怪人はひるむことなく、それどころかまるで余裕の態度で、荷物を作業台の上に戻した。
    「やれやれ、仕方ありませんか。後でここの時給を聞いて、後悔しても知りませんよ」


    「はした金になんざ興味なんてねーよ!」
     ハチミツが突っ掛けていく。両の手に握り締めたクルセイドソードと日本刀とが、それぞれ倉庫内の光をやたらと反射して輝いた。
    「ヒュウ……!」
    「おや、よく研いだ刃物ですね」
     ギィイン!
     高速の行き戻りから脇腹を狙った斬撃と、振り回しの裏拳とがぶつかり合う。衝撃波が走り、裏返る怪人の軍手の下から、デフォルメされたカニバサミハンドが現れた。
    「道具を大切にするのはよい心がけです。しかし……」
    「援護するよ、ハチミツちゃん!」
     その背後、ハチミツとはわずかに軸をずらして、砌が怪人に手のひらを向けている。怪人がサイドステップで角度を取るのを、砌は着実に対処した。
    「こっちだ、怪人! ご当地ビイイイィム!」
     砌は軸足を固定し、ピボットの要領で追いかける。動きの途中で発射されるビームが、横から怪人を飲み込んでいった。
    「砌、貴様も気をつけろ! こいつ、雰囲気の割に結構デキる――!」
     ハチミツの叫びは、刃を交えたからこそ解る真実。光爆の中から、怪人の腕が伸びた。
    「それほどでもありませんがね」
     上下に開いたカニバサミの間に、鮮やかな紅光が集中し始める。数瞬のチャージのあと、砌のよりも数倍大きなビームが発射された。
    「オーチンフクースナ(とてもおいしいです)! ロシアン花咲ガニビィイイイイイインムッ!」
    「うわあああああぁぁぁっ!」
     意趣返しの一撃が、砌を防御の上から吹き飛ばす。怪人が反対の手で器用にメガネを上げると、その隙を突くべく優希が駆け上がっていった。
    「うちの恩人をようやってくれたなあ! わらび餅のヒーロー、蕨田優希が成敗したる!」
    「ふむ……若干やりすぎた気はしますが」
     怪人がゆらりと視線を向けてくるのに構わず、優希はバベルブレイカーをぶちかます。気力充実の一撃が、怪人を空気ごと震わせた。
    「どないや! あんたとは違う、うちの真心こめた一撃の味は!」
    「……いささか、踏み込みが足りないようですねッ!」
     メガネを光らせた怪人が、優希の体を勢い良く弾いた。清香は一瞬そちらを視線で追ったが、彼女がたたらを踏む程度でこらえるのを見て、砌の治療を続行する。
    「――しかしまあ、説教臭いヤツだな、お前。一体なんのつもりだ」
    「はて、なんのことでしょう」
     歌を止め、清香は仲間に肩を貸して立ち上がらせた。それを完全に無視しているかのような怪人に、彼女は内心いらつきに似たものを感じている。
    「なんであれ、私は勝ちに徹するだけだ。大きな闘争のために」
    「勝てるとお思いで?」
    「当然」
     当然、灼滅者たちは怪人に息つく暇さえ与える気はない。その時既にへるが、怪人の周囲を飛び跳ねながら旋回していた。
    「怪人君、チョコがいっぱいのお茶会にアリスを呼んでくれないとは、つれないじゃあないか」
     カートを蹴り飛ばし、コンテナを駆け上がって、へるはついに怪人の頭上を取る。バベルブレイカーを下にする逆落としを、躊躇なく狙った。
    「さあ、いかれたお茶会を始めよう♪」
    「断固拒否します――ぐあっ!」
     言葉とは裏腹に、へるの一刺しが鎖骨辺りを打ち貫く。わずかなふらつきを見せた怪人の足元に、続けて雷が『災歌』の杭を打ち込んだ。
    「出力上がるかなァ……上手く『巻き込めれば』いいんだけど」
    「『巻き込めれば』? あなた、もしや!」
    「ご名答っ。景品は、あたしからの大ダメージだよ!」
     雷がさらに災歌を突き入れると、倉庫の床上を強烈な振動波が駆け抜けた。その余波がカート内のチョコまで砕き始めるのを見て、雷は悲しそうに唇を尖らせる。
    「チョコ好きなのになァ、やァん罪悪感……」
    「そう来ますか……ああもう、仕事が増えて厄介です!」
     怪人はカートを引き寄せると、倉庫の壁に向けて蹴り飛ばした。反動で怪人は跳躍し、ごろごろと走っていくカートの方は、物陰からでてきたコサック戦闘員が回収する。
    「コサック戦闘員! まさか、まだ残ってたんか!?」
    「2人ほどですがね! そしてズドラストビーチェ(こんにちは)、中略カニキック!」
    「あいたあああああ!」
     思わぬ伏兵に硬直した優希が、そのまま派手に蹴り飛ばされた。
    「蕨田様! ……どうか、どうかご無事、で」
     きりもみ状態で飛んでいく仲間から、真衣は意を決して視線を切る。少女の周囲に、すると前よりも鋭い風が吹き始めた。
    「風よ……私を運んで。そして教えて、世界を」
     その正体は、真衣が放出したリングスラッシャーだ。真衣は光輪に指を通すと、体ごと回すサイドスローで怪人に投げつけた。
     殴りつけの弧を描いた光輪が、カニヘッドを強かに打ち据える。なんとか無事に残ったメガネを、怪人は再度ずり上げた。
    「く……フウッ!」
    「――そうやって押し殺した声も、私結構好きよ?」
     唐突の声。怪人が辿った先に、桐香がいた。彼女はクルセイドソードを逆手に構え、瞬発する。
    「でも、一番はやっぱり……ね。Erzahlen Sie Schrei?」
    「新手、ですか……!」
     すれ違いざまの神霊剣を、怪人は奥歯を強く噛み締めて堪えた。桐香が物足りない顔でスピードを緩めると、その時、怪人は奇妙なポーズを取っていた。


    「指笛……?」
     誰かが何とはなしに呟く。カニバサミハンドの先を、口の中に入れて――そのポーズの意味を、ほんの一瞬の間を置いて、全員が悟った。
     手遅れだった。怪人の奥歯が、小さなチョコを一かけら噛み砕く。
    「行きますよ! 新! 感! 覚ゥーッ!」
    「「ハラショー! ハラショー! ハァラショー!」」
     コサック戦闘員たちの声援を一身に受けて、ロシアン花咲ガニ怪人が巨大化を始めた。なぜか一緒に巨大化していくメガネを光らせ、怪人は指令を告げる。
    「戦闘は私が担当します! 皆さんは、手分けして残るチョコを持ち出……ヌ……ヲォッ!」
     備え付けのフォークリフトを弾き飛ばしながら、巨大化怪人の腕が灼滅者たちに迫った。開いた掌が、そして砌の全身を掴み上げる。
    「うわ、わっ! 離せ、離してよー!」
    「チョコハ……ワタシマセン……!」
     ゴ――ズゥウウウウウン……。
     必死の足掻きもむなしく、巨大化怪人のご当地ダイナミックが炸裂してしまう。消え行く意識の中、砌は『なんか今月は巨大なものに縁があるなあ……』と思っていた。
    「砌、みぎり! ――ッ、やられた」
     清香がぐったりとした砌を揺さぶるが、はっきりとした反応はない。仕方なく彼を担いで後方に搬送し、清香はウロボロスブレイドを手に取る。
    「前もって準備をしていた……故の、あの態度か」
     ここで、メディックが倒れてしまうわけにはいかない。清香はほぞを噛む思いでウロボロスシールドを展開した。――せめて、少年を背後に隠す。
    「チィ、このくらいで気圧されてたまるか! ババロア、貴様も手伝え!」
    「ナノナノッ!」
     ハチミツとババロアが、同時に巨大化怪人へ飛び出していった。桐香もまた、湧き上がる嗜虐を手放さず、気配を尖らせていく。
    「そう、ね。それだけ巨大なら、悲鳴もさぞ響くものを出してくれるでしょう」
    「一閃――ズタズタになりな!」
     ハチミツの神速の抜き打ちが、巨大化怪人の脛を裂く。刀身が流れるように鞘に収められると、間をおかず桐香も解体ナイフを走らせた。
    「痛くしてあげるわ。痛かったら、痛いって言いなさいね?」
     ざばん。
    「オ、オ、オオオオオアアアアア!」
     期待通り、巨大化怪人は倉庫全体を震わすほどの絶叫を上げた。雷は思わず耳を塞ぎながら、この事態の情報を整頓する。
    「撤退条件は、満たしてないよなァ……でも、どーしよっか?」
     雷が真衣に視線で訊ねると、真衣はふるふると首を振った。
    「巨大化する怪人さん……テレビで見たことはあります、が。こういうの、野放しにするわけには、行きません、よね」
    「じゃァ決まりだね。巨人退治、続行!」
    「はい。全力で行き、ます」
     二人は肩を並べて殲術道具を構える。振動の感覚が残る床を蹴って雷が突っ走ると、真衣はその援護にマジックミサイルを連射した。
    「風よ、風よ……私たちに、力を」
    「そろそろ大人しくなりなって!」
     着弾の煙を、雷の拳が威力で晴らしていく。手応え、アリ!
    「しかしまあ、こうなるともうお茶会どころじゃないね。いろいろ残念だよ、怪人君」
     と、へるが大げさに肩をすくめてみせた。優希もその意見には全面的に同意のようで、怒りの人差し指をびしいっと巨大化怪人に突きつける。
    「ホンマに、ホンッ……マに、ろくなことしやがらへんな怪人め!」
    「チョコヲ……マモッテ……時給……900エンデス……!」
    「そっ、そないな言葉に誰が惑わされると思ってんねん! ああもう、アリスちゃん!」
    「うんうん。……うん、やろっか」
     一瞬だけ真顔で頷くへる。かくして両名は一斉に巨大化怪人へと飛び出し、バベルブレイカーの切っ先を揃えて突き刺した――。
    「――グ……グローバルジャスティス様ニ……栄光アレ……!」
     ついに致命傷を受けた巨大化怪人が、倉庫内の備品の中に沈み、灼滅されていく。思っていた以上の傷を負った灼滅者たちは、歓声を挙げることもできずにへたり込んだ。
     見回すとしかし、倉庫内のチョコは大部分が持ち去られた後であった。コサック戦闘員たちが、建物入り口の閉鎖を破ったか、あるいは別の窓から入ったかしたらしい。そのようにして、まんまと荷物の持ち出しに成功したのだ。
     巨大化チョコレートの行方は、ようとして知れない。

    作者:君島世界 重傷:綿貫・砌(強く優しいあの人たちのように・d13758) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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