郊外にある廃ビルは、窓が割れ、扉も開いたままで薄暗い。
そこに、コサック戦闘員がダンボールを抱えて入っていく。
「首尾は順調のようだな?」
ビルの中で待っていたのは、ロシア海軍の服を着た男だった。その前に山積みのダンボールが並べられる。
その内の一つを戦闘員がビリッとガムテープを破ってダンボールを開ける。中に入っていたのは色鮮やかな包装をされた小さな箱だった。
「よし、良く集めた。作戦は成功だ」
男は一つ取り出し、包みを破る。中から出てきたのは高級感あるチョコレートだった。
「これだけあればどこかに巨大化チョコが入っているだろう……ロシア村に運ぶ準備もしておけ」
男の指示に、戦闘員達は集めたダンボールをビルの外に並べてある荷台へと運んでいく。
「ククッ灼滅者どもは今頃日本の怪人とやりあっているのだろうな。全て我らロシアンの計画通りよ」
男は愉快そうに肩を揺らして笑う。そしてふと思い出したように戦闘員に顔を向けた。
「それで、ちゃんと領収書は貰ってきたんだろうな?」
頷く戦闘員達がずらりと領収書の束を出す。そこにはロシアンカレー怪人様と書かれていた。
「まったく、バレンタインのチョコはどうしてこう高いんだ? こんなのが一粒100円以上するんだぞ?」
トリュフチョコレートを手に、ありえないと首を振る男。
「こんなものを買うのならカレーを食べるべきだろう?」
男の言葉に戦闘員達も一斉に頷いた。
「まあいい、どうせこの金は経費で落ちるのだ。精々今の内にチョコレートを楽しんでおくがいいさ。いずれ全てカレールーに置き換えてやる……クククッ」
カレー皿となっている顔には、ご飯とまるでボルシチのように真っ赤なカレールーが乗っていた。
「巨大化チョコの力で、この日本を我らが支配してくれるわ! ククククク……」
「やあ、バレンタインデーの事件が終わったばかりなのに、また怪人達が動きを見せたんだ」
能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が灼滅者に説明を始める。
「バレンタインの事件で一部の怪人がチョコを食べて巨大化したみたいなんだ、どうやら『巨大化チョコ』がご当地怪人達の目的みたいだね」
どうしてそんな物が、普通に販売されているチョコに存在しているのかは分からない。
「どうもバレンタインの怪人達は囮として使われてたみたいだね、こっちの作戦が本命みたいだよ」
既に多くのチョコレートが集められている。このまま敵の拠点へと運ばれれば大変な事になる。
「巨大化してパワーアップなんて、そんなチョコが大量に怪人の手に渡ったら危険だからね。みんなにはこれを阻止して貰いたいんだ」
チョコレートを奪い、少しでも敵戦力の増強を防がなくてはならない。
「事件が起きるのは郊外の廃ビルだよ。もう誰も住んで居ないし、周囲も人通りは少ない場所だね」
そんなビルの2階を敵は倉庫として使用している。
「今回厄介なのは、コサック戦闘員が大勢いる事なんだ。まともに戦って消耗しては怪人に勝つのが難しくなるよ」
20名程の戦闘員がいるという。
「戦闘員は全員入り口を通って、集めたダンボールをまるで引越しのように外に置いてある荷台へと運んでいるよ。ビル内に居る怪人をどうやって叩くのか作戦を考える必要があるね」
いかに上手く侵入し、戦闘員に気付かれるないよう怪人に仕掛けなくてはならない。
「巨大化チョコレートを敵に渡さないのが目的だけど、チョコレートが大量にあるからね。奪って逃げたりするのは大変そうだね」
静かに椅子に座っていた貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)が立ち上がる。
「今回もわたしが同行させてもらう。先の戦いにはロシア怪人は居なかった。囮は捨て駒だったのだろう。同じ怪人でありながら、使い捨てるとは許せん。奴らの野望を打ち砕こう!」
憤りの籠もったイルマの言葉に、灼滅者たちも強く頷く。
「前は相手がチョコを奪う立場だったけど、今回は反対にこちらが奪う番だよ。女の子にもらった物でもないからね。根こそぎ奪って来て欲しい」
そんな状況に可笑しさを覚えて誠一郎は笑みを浮かべ、現場に向かう灼滅者を見送った。
参加者 | |
---|---|
ポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268) |
龍海・光理(きんいろこねこ・d00500) |
花檻・伊織(日陰の残雪・d01455) |
識守・理央(マギカヒロイズム・d04029) |
黄嶋・深隼(風切の隼・d11393) |
姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118) |
シンゴ・アルバミスタ(闇は泣きそして砕ける・d20952) |
マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200) |
●チョコ強奪
廃ビルの中から男達が次々と荷物を運び出している。その様子を隠れて窺う者達が居た。
今から行くと、メールを送った花檻・伊織(日陰の残雪・d01455)は携帯を仕舞う。
「識守くん、イルマさん、始めるよ」
伊織が2人の仲間へ振り向く。
「さぁ、思いっきり派手にいこう! 特撮番組みたいにね」
「承知した。囮役として目立つとしよう」
識守・理央(マギカヒロイズム・d04029)は楽しそうに、血のように赤い剣を振るう。
隣の貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)は真剣な表情で頷き、白い手袋をはめた。
3人は一斉に近くの荷物を運ぶ男に襲い掛かる。
理央の視界にいる者の熱が奪われ、凍えて動きが止まる。そこへイルマが周囲を黒く染める殺気で多い尽くす。
苦しむ男達に、伊織が接近して雷を帯びた拳で殴りつけた。喰らった戦闘員が吹き飛ぶ。
「横須賀でお仲間と遊んでもらった者だよ。このチョコ、頂きに来た」
倒れた男が落としたチョコの箱を仲間の方へと蹴り、伊織は抜刀しながら不敵な笑みを作って見せる。
その言葉に戦闘員達はチョコを守る為に武器を手に取る。だがそこへ攻撃を受けた。
「ほらほら、早くチョコを出しなよ!」
「無駄な抵抗をするな。大人しくチョコレートを出せ!」
理央が光を放って爆発を起こし、イルマは影の獣で敵を押し倒して箱を強奪する。
離れた場所に居た戦闘員も救援に向かってくる。3人は油断無く獲物を構えた。
「あっちは動き出したみたいやな。こっちも始めよか」
伊織からのメールを確認した黄嶋・深隼(風切の隼・d11393)が、携帯を仕舞いながら周りの仲間に告げた。
ビルの裏側で灼滅者が一斉に動き始める。
「よし、ここならバレずにいけそうだな」
壁を垂直に歩いて廃ビルの裏側を登るポンパドール・ガレット(祝福の枷・d00268)が、3階の窓が割れているのを見つけた。
「そうだな、誰も居ないみたいだし、ここにしようぜ」
同じく壁を歩く姫乃川・火水(ドラゴンテイル・d12118)が中を覗いて賛同すると、2人は素早く窓から中に侵入する。
中は薄暗く、白く埃が積もっていた。
「埃だらけですね」
ポンパドールの肩から1匹の毛並みの良い猫が飛び降りると、少女の姿へと変わる。着地と共に舞い上がる埃に、龍海・光理(きんいろこねこ・d00500)が口を塞いで顔をしかめる。
「こんなところに居たら病気になるピョン」
同じように火水のフードの中から喋る黒い兎が飛び降りると、その姿を男性へと変えた。マサムネ・ディケンズ(乙女座ラプソディ・d21200)が体に付いた埃を叩く。
ポンパドールが窓からロープを垂らす。するとシンゴ・アルバミスタ(闇は泣きそして砕ける・d20952)が跳躍し、空中でももう一度跳ぶと更に壁を蹴り、2階辺りでロープを掴んだ。そのままするすると登り窓から侵入する。
「表の連中は派手に暴れてるみたいだな。こっちも派手に暴れるとするか!」
遠く聞こえる騒ぎの音を聞いたシンゴは口元に獰猛な笑みを浮かべ、先頭に立ってビルの内部へと踏み込み2階の怪人を目指す。
●囮作戦
コサック戦闘員達は一斉に銃を発砲する。灼滅者は散開してそれを避けた。
「チョコを出さないなら痛い目をみてもらうよ」
弾を掻い潜りながら前に踏み込む伊織は、剣で銃弾を弾くとそのまま一閃し、戦闘員の体を斬り裂く。
その後方から、理央は戦闘員の集団に向けて派手に光線を撃ちまくる。
「……いつも連中の非常識に付き合ってるんだし、このくらいはいいよね?」
何か日頃の鬱憤を晴らすかのように攻撃を続ける。だが敵もまた反撃に銃口を向けた。放たれる弾丸の前に、黒い人影が割り込む。
「任せろ!」
イルマは湖面のように青く輝く剣を薙ぎ、襲い来る銃弾を消し飛ばした。
「チョコレートを置いて消えろ!」
警告の声を張るイルマ。だが戦闘員は一歩も引かず、チョコを死守しようと陣を作る。
そこへ伊織が斬り込み、イルマがそれに続く。理央は援護に動きを封じる鋼糸を放った。
だが戦闘員も数の利を活かし、弾幕を張って灼滅者を思うように戦わせない。
戦況が硬直するかと思われたその時、戦闘員達を包囲するように人々が現われた。それは20名を越す灼滅者側の援軍だった。
包囲した灼滅者は、戦闘員に向けて一斉に攻撃を開始する。
「俺達が戦闘員を引きつける」
ヴィランは石化の呪いをかけて敵の動きを止める。続けて弥太郎は刀を手に敵に斬り込み、力丸はその背後から跳躍して縛霊手を叩き込んだ。
「ここは俺達に任せて先に行け!」
白いマフラーを靡かせた太郎がヒーローの如く敵の前に立ち塞がる。
「さあ、私達が相手ですよ」
柊夜は影で敵を縛りつけた。
「バレンタインでは某団員としてお世話になったね。今回はそのお返しだよ。『遠慮せずに、ホワイトデーまでとは言わず今お返しを貰っていけー!』」
法子が手袋をはめた手で銃弾を防いで接近し、敵を押し飛ばす。
「チョコ食べたら巨大化かぁ、オレもチョコ食べたら背が伸びるかな?」
そんな事を呟きながら、朔和は杖で敵を殴りつける。
戦闘員は新たな敵の出現に、苛烈な銃撃で対応する。
エネルギーの障壁を張った篝が立ち塞がり、体を張って銃弾を防いだ。
「っ……また怪我しちまったな」
「怪我をした人は下がってね」
「すぐに治療します」
銃弾を受けた仲間を珈薫とシュヴァルツが癒して前線を維持する。
「黄嶋の頼みだ、ここは炎血部が任された!」
ガトリングを構えた淼はダンボールを積んだ荷台を蜂の巣にする。
「深隼先輩のお手伝いっす」
「こいつらはお任せくださいっ!!」
桜太郎と陽和は同時に炎を撃ち込んで爆炎を起こし敵の目を引く。戦闘員の視線が一斉に集まり、銃口が向けられた。
「チョコレートは普通においしく食べなくちゃ!」
前に出たシエラが槍を旋回させ、銃弾から仲間を守る。
「ふぁいやー!!」
射線を消すように唯も魔術で爆発を起こした。
「甘いものより、カレーの方が好みなのですが……」
その隙にチョコを掻き集め、林檎は仲間の方へと逃げる。戦闘員は取り戻そうとそれを追う。
「ここから先は行かせないよ」
葵が前に出て刀を振るい、敵を一歩も進ませない。
「イルマさん達も行っていいよ。雑魚は任せて」
「後は私達にお任せを」
ライドキャリバーに乗った殊亜が敵を撥ね飛ばす。そこへ絶奈が槍を振るいながら飛び込み、ビルへの道を拓く。
「感謝する!」
「後は任せるよ!」
イルマが軽く目礼し、踵を返して走り出すと、続いて理央は箒に乗って空へ飛翔した。
「入り口までサポート致しやしょう」
「三途の渡しの六文銭、今日はあっしの奢りでさァ!」
ウツロギの影が伸びて、道中の邪魔な敵を斬り刻み、ビルの前を塞ごうとする戦闘員に、娑婆蔵は赤い右籠手で殴って吹き飛ばす。その間にイルマはビルへと辿り着いた。
「頑張ってください、ね……」
小鳩が敵を足止めしながら、すれ違う伊織と視線を合わせる。
「また後でね」
伊織はウィンクを返してビルの中へと姿を消した。
それを見送り、残った灼滅者と戦闘員の戦いは一層熾烈さを増していく。
●奇襲
「馬鹿な!? 領収書の名前が間違っているではないか!」
廃ビルの2階ではカレー顔にロシア海軍の制服を着た怪人が領収書のチェックをしていた。
ポンパドールはその様子に居た堪れない気持ちで飛び出すと、腕に装着した杭打ち機のジェット噴射で加速し、杭で腹を刺し貫く。
「そんなただし書きで領収書切らせるとか、お店の人にはずかしいだろ!? やめろよな!」
「ぼぉ!?」
不意打ちを喰らい怪人は吹き飛び壁にぶつかる。もうもうと舞い上がる埃の中、灼滅者達は一気に間合いを詰めた。
「何者だ!」
「無敵斬艦刀・隼!」
深隼が巨大な剣を取り出す。そして駆け寄る勢いのまま振り下ろした。怪人は巨大なスプーンで受ける。だが勢いに負けて刃は頭の皿に喰い込んだ。
「カレーは美味しいと思うけど迷惑しかかけんのはいらんねん!」
体重を乗せて深隼が押し込める。刃が徐々に深く入っていく。その時怪人が口を開いた。噴出す赤いカレーが深隼の体に掛かると、ジュウッと服が溶け湯気があがる。
「あっついやないか!」
思わず怯んだところへ、怪人が押し返して弾き飛ばす。
「どうだ、ロシアのボルシチを加えた我がカレーの味は。ロシアの寒さも乗り越えられる熱さを楽しめ! しかしこの場所が察知されるとは囮がミスをしたのか。だから日本の怪人どもは役立たずなのだ!」
怪人は起き上がりながら悪態を吐く。
「お前だって元は日本の怪人だろっ」
白と青のバトルコスチュームを纏った火水が懐に飛び込む。怪人の吐くカレーを拳の連打で弾き、そのまま顔面を滅多打ちにした。
「ぷっ顔はやめろ! 顔は! 混ぜカレーになってしまう!」
怪人がスプーンを横薙ぎにして火水を吹き飛ばす。
「食べてしまえば同じですよね?」
光理が大きく息を吸い、美しい歌声を紡ぐ。そのメロディに酔いしれるように、怪人の足取りが怪しくなる。
「ぺちゃんこに砕く!」
そこへマサムネが赤く光るハンマーを頭上で振りかぶる。軌跡に青い光が残像となって残り、一直線に怪人の頭に振り下ろされる。
ごきっと鈍い音。怪人は左腕を盾にしてハンマーを受けた。腕は折れて捻じ曲がる。
「いぎぃっ」
激痛に怪人は唸りながらカレーを噴出す。マサムネは飛び退いて避けると、カレーの落ちた地面が溶けて湯気と共に異臭が立ち上る。
「知ってるか? 手刀ってよ……馬鹿みたいにやり続けりゃ、本当に『斬れる』んだぜ?」
いつの間にか、死角から背後に忍び寄っていたシンゴが何も持たぬ手を構える。怪人は振り向き様にスプーンを振るう。だがシンゴの一閃の方が速かった。金色のエネルギーを宿した手刀が振り抜かれる。
硬い音が地面を跳ねる。見れば白い陶器が地面を転がっていた。
「は? ああ?! 顔が、顔が欠けてるぅ!?」
怪人が顔を触ると、あるべき物が無い。カレー皿が綺麗に割れていた。シンゴの手刀が斬り落としたのだ。
「よーし、一気にたたみかけるぜ!」
ポンパドールが手にしたのは、偶然にもスプーンのような造形の杖。魔力を込めて怪人の胴体に叩き付けた。
「ば、馬鹿な、……だが我輩にはまだ奥の手がある!」
怪人は懐から何かを取り出して口に含もうとする。
「そうはさせません」
それを阻止しようと光理が指を差し魔法の矢を放つ。
「何!?」
矢は正確に手を撃ち抜き、手にしていた黒い粒は宙を舞う。それはトリュフチョコレートだった。
怪人は跳んでそれを掴もうとする。
「させるかよ!」
その後ろからシンゴが跳躍して怪人を踏み台にすると、サッカーボールのようにチョコを蹴り飛ばした。
踏みつけられて落下する怪人。そこにマサムネが黒いお菓子を突き出した。
「ホレ。井の頭の和菓子屋の新商品『貯古齢糖芋羊羹』食う?」
「がぼっ」
無理やり口に突っ込まれた怪人は咽る。
「カレーに羊羹なんぞ入れるか! チョコ、チョコはどこだ!」
ぺっと吐き出した怪人はきょろきょろとチョコを探す。蹴られたチョコは勢い良く壁を跳ね返って更に宙を飛ぶ。怪人は走って追いかける。
「そんなん食べたらばっちいで!」
深隼が行く手を阻み、横薙ぎに大剣を振るった。首を刈られるように怪人は後頭部から床に叩きつけられる。
「あっ……」
ポンパドールの視線がチョコを追っていた。それは偶然にもゆっくりと放物線を描いて、怪人の口へと落ちていく。
「あーん!」
パクリと怪人がチョコを食べた。灼滅者達は動きを止め様子を窺う。暫くの静寂。何も起きないのか、そう思った瞬間、怪人の体が膨らみ始める。みるみるうちに何倍にも巨大化し、起き上がると頭が天井を突き破る。
「……そういや、カレーの隠し味にチョコって話も聞いたことあったな」
現実逃避のように、火水は目の前のとんでもない光景を見ながら呟いた。
●巨大怪人
『クククク、我輩の力を見せてやるぞ!』
軽く3倍以上に膨らんだ巨体が灼滅者を見下ろす。体に合わせて手にしているスプーンのサイズも大きくなっていた。そのスプーンの一撃が横薙ぎに放たれる。灼滅者達は咄嗟に屈んで避けた。スプーンは壁を抉り、風圧で窓が全て割れた。
『さあどうした、先程のように攻めてこないのか、ん?』
怪人が挑発すると、割れた窓から箒に乗った理央が飛び込んできた。
「真打登場……ってね! ヒーローはちょっと遅れてくるぐらいがおいしいのさ」
理央は着地と共に、鋼糸を怪人の周囲に張り巡らせて動きを縛る。
「大きければ強いってものでもないよね?」
部屋に飛び込んできた伊織が勢いのまま跳躍し怪人の右膝を斬った。
『ぬぁ……!』
怪人は思わずバランスを崩し倒れる。その巨体は外壁を突き破って外に落ちようとする。怪人は落ちないよう手を伸ばして建物を掴もうとした。
「その大きさでここは狭いだろう、外に出るといい」
イルマの足元から伸びた影の豹が、その腕に噛み付き引き剥がす。すると怪人は横向きに地面へと落下していく。
それを見上げる下に居た灼滅者達は飛び退き、逃げ遅れた戦闘員が守っていたチョコレートごと踏み潰された。
『このくらいで……倒せると思ったか!』
落下のダメージでふらつきながらも怪人は立ち上がる。
「なら、これでどうだ!」
迷わず2階から飛び降りたポンパドールが落下の勢いに杭打ちをジェット噴射を乗せ、加速した勢いのまま杭を打ち込んだ。
『ぐぁあ!』
頭の皿に穴を開け、怪人は顔を覆ってよろめく。
「This party is getting crazy! Let rock!」
続けてシンゴが飛び降りて手刀を振るう。だが怪人はスプーンを振って迎撃した。シンゴはスプーンを斬り飛ばし、腕に蹴りを叩き込む。
「飛べ、纏隼!」
2階から深隼がオーラの塊を撃つ。それは猛禽のように飛来して怪人の顔を撃ち抜いた。
『ちょこまかと、鬱陶しい!』
怪人は大きく口を開けるとカレーが噴出す。それはまるで噴水のように大量のカレーが周囲に撒かれた。
仲間の前に深隼が立ち、剣を振るってカレーを退ける。だが量が多すぎた。全身にカレーを浴びてしまう。だがそれでも手を休めずにその身をもって仲間への被害を少なくする。
「うわ、全身カレーまみれやん……」
赤くなった自分の姿を見て思わず深隼が呟く。
「カレーは嫌いじゃない……が、激辛はダメだ。ダメなんだからなっ!」
「ほう、ならば味わわせてやる。我がボルシチカレーをな!」
同じく仲間を守る為に体を汚しながらカレーを防いでいた火水に向け、怪人はとっておきのカレーを顔からスプーンによそうと、全力で投げつけた。それは正確に火水の顔を襲い口に入る。
「こ、これがボルシチの味……牛肉と野菜の旨みが溶け合ってうま……」
美味いと言おうと思った瞬間。口の中が激しく痙攣する。それは辛味だった。ただ理解を超えた辛さに口が麻痺したのだ。
「どうだ、その辛さが放つ熱量を持ってすればロシアの極寒など赤子も同然よ!」
「こっちのもチョコレートも溶ける熱さだーぜー?」
そこにマサムネが飛び掛かり、炎を宿したハンマーで頭を殴りつけた。カレーに焦げ目をつけながら怪人はビルにぶつかる。
「……カレー臭いですね」
光理は強烈なスパイスの香りに思わず身を引きながら、放電するような光輪を投げて火水の傷を癒す。
『何故こんなに傷を……このロシアンで巨大でカレーな我輩が、負けるはずがない!』
スプーンを構える怪人に、援軍の灼滅者達が一斉に攻撃を仕掛ける。足に取り付き、腕を縛り、少しずつ動きを封じていく。
「無事勝ったら海軍カレー食いに連れて行ってやるから倒して来い……」
「わかった! 約束だぜ!」
ニコが縛霊手から放つ結界で怪人の動きを封じると、ポンパドールが笑みを浮かべてスプーンを手に駆け出す。
迎撃にカレーを放とうとする怪人に、光理の歌と理央の非物質化させた剣が精神に傷を与えて怯ませる。そこへポンパドールが跳躍して思い切り足に向かってスプーンを叩き込んだ。同時にイルマが反対の足に向かって影の獣の爪を突き立てる。
足がひび割れ怪人は尻餅を突く。だが近づかせないと、横薙ぎにスプーンを振るうのを、深隼が前に出て剣を地面に突き刺して受け止めた。巨大な質量に押され、地面に溝を残しながら踏ん張って耐える。その間にマサムネがハンマーを腕に打ち込んでスプーンを落とさせた。
「最後は派手に行くぜ!」
シンゴは怪人の背後に取り付く。そして自分の何倍もある巨体を持ち上げた。歯を食いしばり跳躍すると地面に叩き付ける。衝撃に地面が揺れた。
「カレーのお返しだ! 奴奈川ビーム!」
そこへ火水が放った光線が直撃する。顔のカレーは焦げ、皿はひびだらけになる。
「これで終わりだ」
剣を手にした伊織が白光を奔らせる。その一撃が顔を砕いた。
『おおおおお……ここで朽ちようとも、我がカレーは不滅なり! カレーに栄光あれ!』
巨大な怪人は最後に叫ぶと爆散した。その体内に大量のカレーを残して。
辺り一体は全て赤いカレー色で染められ、大量のカレーに塗れた灼滅者達が残された。
呆然とお互いがその姿を見合う。そして噴き出すように笑い出し、笑い声の合唱が戦いの終わりを告げた。
作者:天木一 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
|
種類:
公開:2014年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
|
||
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
|
||
あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
|
||
シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
|