●
その怪人は巨大なバケツのような風貌をしていた。
鮮やかな黄色をしたそのバケツには目と口があり、その間、顔で言えば鼻に当たる部分には、ロシア語で『マヨネーズ』と書かれている。
そう、彼はロシアンマヨネーズ怪人。
それも、正確に言うならば、エカチェリンブルクマヨネーズ怪人!
マヨネーズ消費量世界一を誇るロシアにあって、中でも更に世界一のマヨネーズ消費量を誇る都市、エカチェリンブルクのマヨラー代表! マヨラーの中のマヨラー、マヨラー皇帝、ツァーリ・マヨラーと言っても過言ではない存在なのだ!
……と、自称している。
彼は今、配下の戦闘員たちとともに、とある地方の廃倉庫の中に潜伏していた。
「マヨマヨマヨ……同志コサック戦闘員よ。シャカラート! ……の回収状況はどうであるかな?」
『ダー!!』
ずらり、と整列したコサック戦闘員達が、一斉に返事を返した。
シャカラートとはロシア語でチョコレートのことである。
「成程成程……現時点で約3200キロ相当を確保。更にもう1000キロは確保できる見込み、と。
ハラショー! 見事な働きなのである!
それでは、直ちにすぐそこの地方大型量販店での売れ残りシャカラートッ! ……買い占めプランの最終段階に入れ! その後、ロシア村へと帰還する!」
『ダー!』
戦闘員達は規律正しく一斉に行動を開始した。ある者は店に向かい、ある者は周囲を見張りに行き、ある者は倉庫に残って回収済みチョコの仕分けを行う。
怪人はチューブ状のマヨネーズ容器の形をした右手を自身の口元へと運び、じゅルルルっ、とマヨネーズを啜り上げた。
「オォ、ハラショー……。
これだけの数の、シャカラアァトッ! ……があれば大量の巨大化シヤァカラアァトォッ! ……を入手することができよう。
……しかし、何故巨大化マヨネーズではダメだったのだ……」
『ダー……』
自身の背後に山と積み重ねられたチョコレート入りダンボールの山を見て、エカチェリンブルクマヨネーズ怪人は少しだけ寂しそうな顔を見せた。
●
「エカチェリンブルクと言えば、フィギュアスケートで話題のあの娘もエカチェリンブルクの出身らしいよ」
本題と無関係な時事ネタをぶっこみながら、鳥・想心(心静かなエクスブレイン・dn0163)は灼滅者達に今回の予測についての詳細を語りだした。
「知っての通り、一部のご当地怪人がチョコを食べて巨大化した、という報告が相次いでる……どうも、この『巨大化チョコ』こそ、ご当地怪人の狙いだったというわけらしいね」
バレンタイン当日のご当地怪人の中にロシアン怪人が一人も居なかったことも合わせて考えれば、恐らくあれらの事件は全て囮。狙いはその裏で、大量のチョコレートを確保することにあったようだ。
「既にある程度の数は確保されてるだろうけれど、今からでも可能な限り敵の妨害はするべきだ」
今回の目的は敵のチョコレート回収を阻止することである。
しかし、今回は敵の数が多い。ロシアン怪人にコサック戦闘員がおよそ20名――これだけの数を相手取って戦うのは余りに厳しい。
「そこで考えられる手段は三つある。
敵将を暗殺する。
敵兵をゲリラ戦で倒す。
敵の目的そのものを奪取する」
まず一つ目。怪人暗殺。
コサック戦闘員はチョコレートの搬入や搬出、その他雑用のために出入りが激しい。隙を見て怪人が一人になった時に襲いかかり、一気に倒してしまうのだ。コサック戦闘員が戻る前に勝負を決められるかどうかが鍵になる、短期決戦。
敵の潜む山中の廃倉庫へと完璧に忍び寄ることができたなら、おそらく3分程度は怪人と一対八で戦う時間を稼げるはずだ。
「次に、二つ目。ゲリラ戦」
外に出ているコサック戦闘員を各個撃破し、敵の手足を奪ってしまう作戦だ。ある程度の戦闘員を撃破してしまえば、敵はチョコを集めてもそれを運ぶことはできなくなる。
強力な怪人と戦わずに済むメリットはあるが、こちらの作戦に気づかれれば戦闘員達は互いに連絡をとって怪人の元へと集結し、正面決戦を強いられることになるだろう。同時多発的な襲撃が必要と考えられる。
「そして、三つ目。戦いを避け、チョコレートだけを奪取するんだ」
大きな廃倉庫に山と積まれたチョコレート入りのダンボールの山。こっそりと盗み出すには大きすぎるが、怪力無双で一度に運ぶには持ちづらい。怪人は基本的にチョコレートの前から動くことはないし、容易にできることではないだろう。
チョコレートを粉砕、爆破、焼却、凍結させるなどして破壊することも可能ではあるが、果たしてそれで巨大化効果が失われるかどうかはわからない。
「もしくは……私の思い付かない、画期的アイディアがあるなら、それを実行してもらってもいい」
なお、敵怪人とその配下のコサック戦闘員達のサイキックは、主に相手にマヨネーズを無理やり投与することで発揮される。ちょっと変わった殺人注射器のようなものと思っていただければいい。
「今回の敵の計画は、組織だった周到なものだ。こちらも油断せず、出来る限りの準備を怠らないことを勧めるよ」
そう言って想心は、灼滅者達を見送った。
参加者 | |
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不知火・レイ(シューティングスター・d01554) |
神凪・朔夜(月読・d02935) |
聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936) |
天峰・結城(全方位戦術師・d02939) |
杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385) |
蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806) |
宮武・佐那(極寒のカサート・d20032) |
災禍・瑠璃(最初の一歩・d23453) |
●
「ダー! ダー、ダー!」
「ダー!」
「ダー! ダー!」
七人のコサック戦闘員が和気藹々と帰路につく。
その腕に抱えるのは、ダンボール。それも、各々が四箱も五箱も縦に積み上げているのだ。
中身は当然、全てチョコレート。たった今、お店にあったバレンタインの売れ残りをまとめ買いしてきた所だった。
作戦の成功を革新していた戦闘員達は、速やかに山中の廃倉庫へ戻るため、人気のない裏道へと踏み込んだ。
――と。
そんな彼らの眼前に、立ち塞がる影がある。
「悪いが、そのチョコは持って帰らせるわけには行かない。
倒させて貰うぞ」
「ダ、ダーッ!?」
言うが早いか、その影――不知火・レイ(シューティングスター・d01554)は、困惑する戦闘員に向かって一息に飛びかかった。
放たれる、近寄りがたい殺気。
振りかぶられる、青く歪んだ刃の腕。
戦闘員の胴を横薙ぐ、DMWセイバーの一撃!
「ダッ……!?」
両腕の塞がった状態では防御姿勢を取ることもできない。まともに致命傷を受けた戦闘員は、チョコの詰まった箱を取りこぼしながら、膝をついた。
「ダッ、ダー!?」
「ダーッ!!」
待ち伏せからの奇襲攻撃に、戦闘員達は狼狽する。
迎撃のため大切なチョコを放り出すことへの一瞬の躊躇が、致命的な隙を晒し続ける愚行となった。
「……今だ!」
ぶわり、と白衣を翻し、災禍・瑠璃(最初の一歩・d23453)が戦地へ飛び込む。
戦闘員達を射程に捉える。怪猫爪を振りかざし、その祭壇を展開する。
(「ちゃんとお店で買ったチョコを奪うのは、少し、心が痛むけど」)
気持ちの切り替えは、既に済ませた。
ピンッ、と気魄を張り詰める。弛まず展開された除霊結界が、居並ぶ戦闘員達の強化神経を一瞬の内に鈍らせた。
ぐらり、と戦闘員達の体が揃って傾ぐ。
「……あ」
と、声を漏らしたのは誰であったろうか。
――ドサッ、バサバサバサッ、ドドドッ!
『ダ、ダァ――ダーッ!?』
戦闘員達の悲痛な声が戦場内にこだまする。
バランスを崩した戦闘員達が、忽ち自分達が抱えていたチョコレートの下敷きになって潰されていったのだ。
「こ、これはちょっと悲惨ですね……」
宮武・佐那(極寒のカサート・d20032)は思わず同情の言葉を口にしたが、チョコの山を見る目に油断はない。
「……ッ、タチアナ!」
――キュイ!
と、ライドキャリバーのタチアナが、鋭く高い音を発したかと思うと、エンジンを吹かし、自らの身体をチョコの山へと突撃させた!
――ズガンッ!
鋼のボディが生身の肉に弾ける音がして、チョコの山の中から戦闘員の一人が吹き飛ばされる。
その手の中には、古めかしいトランシーバーじみた通信機がしっかと握られていた。
「連絡は、取らせませんよ!」
佐那の手にしたマテリアルロッドの先端からパチリ、と弾けるような音がする。次の瞬間、激しい轟雷が吹き飛ばされた戦闘員を打ち据えた。
戦闘員の体が、そして通信機が黒焦げとなって、ぷすりぷすりと煙を吐き出す。
「ダ……ニェートゥ!」
通信機を手にした――手にしていた戦闘員が絶望を叫ぶ。
「ダー……」
……その陰で、一人ゆっくりと這う者がある。
最初にレイの一撃を受けた戦闘員が、チョコの雪崩に巻き込まれなかったのを幸いに、ゆっくりと戦場から逃げ出そうとしていたのだ。
無論、物事はそう上手く行くものではない。
「おぉっと、悪いがここは通さねぇぜ!」
神凪・朔夜(月読・d02935)は戦いの中で荒ぶっていても、その身につけた戦術眼を見失うことは決してない。一人でも敵を逃してしまえば、全てが崩れうるこの作戦で、どんな状況であっても逃げ出す敵を見落とすことなどありえなかった。
手にした大鎌――三日月の刃が、不気味なほどに眩く輝く。
「ハァッ!」
――シュッ、と。
風を切る音がして、伏せた戦闘員の命は、狩られた。
「ダ、ダー……!」
「ダー!!」
事ここに至り、戦闘員達はチョコの山から這い出して、灼滅者達に向かって必死の形相でマヨネーズを構えてみせた。
突如襲いかかって来た強敵から、仲間を、そしてチョコレートの山を守ろうとしているのは明らかだ。
その様子に、うぅん、と佐那はやりにくそうに顔をしかめた。
「なんだか……私たちの方が悪いことをしているみたいで罪悪感が……」
「あぁ……俺も、バレンタインの妨害をしてる悪者になった気がしてきた」
「そんなっ、思ってても言わなかったのに!?」
佐那の言葉にレイまで同調し、皆に気を使ってそういうことを言わなかった瑠璃の立つ瀬はいともあっさり奪われる。
「言ってる場合じゃねぇって……来るぜ」
荒々しい朔夜の物言いに、気を入れ直す灼滅者達のポケットの中で、携帯がブルルッ、と数回震える感触があった。
「……向こうもまず一人、倒したみたいだな」
離れた場所で戦っている、仲間に思いを馳せるのは一瞬だ。
レイはすぐに眼前の敵に目を移し、次の攻撃の為の得物をその手に強く握りこんでいた。
●
「ダー……」
大通りの傍にありながら、開発から取り残された山中の廃工場。
落ち葉の赤茶と多年草の緑とに視界を囲まれた中で、通信機とマヨネーズを手に持ったコサック戦闘員が一人、警戒の目を光らせていた。
――だが。
その戦闘員を、茂みの陰から逆に見つめる者がある。
殺意のこもった鋭い視線。ギラリと鋭い鮫の笑み。そして、それら以外を覆い隠す闇の黒――。
「!?」
「意味もなく宇宙規模な発音をして遊ぶでない」
杵島・星子(プロキシマより愛をこめて・d15385)は些か呆れ気味な声で闇の黒の人の頭を掴むと、しゅぽんと一気に引っ張った。
果たして、闇の色をした黒タイツの下から現れたのは、蓬莱・金糸雀(陽だまりマジカル・d17806)である。
「……安心なさいな。仕事はちゃんとやるわ」
山の落ち葉に紛れさせるには些か明るすぎる髪の乱れをほぐしている間に、天峰・結城(全方位戦術師・d02939)がそよ風程度の音だけ立てて、隠された森の小路のESPで作られた茂みの中の区画にすぃ、と飛び込んだ。
「……見える範囲に、他の戦闘員はいませんね」
「でしたら、早速奇襲をかけますの……もう慣れたものですの」
じっと伏せて森の小路を展開していた聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)が、小さく呟く。
――廃工場の周辺を警戒する戦闘員達は、各自が通信機を持った上で、それぞれ自分の持ち回りの区域を単独で見張っていた。
なので、こちらに向かった灼滅者達は戦闘員を各個撃破することにしたのだ。無論、可能な限りの連携は忘れていない。
「オーケー。それじゃあサニー、出番よ」
主の命に無言で頷き、霊犬サニーは茂みの中から弾丸のように飛び出していった。
「ダッ!?」
戦闘員がそれに気が付き、マヨネーズを構えた時にはもう遅い。
薄茶色の弾丸毛玉と化したサニーの斬魔刀は狙い違わず、戦闘員の腰につけていた古めかしい通信機を一刀のもとに切り捨てていた。
バチバチとスパークの爆ぜる音を立て、ガラクタとなった通信機が地に落ちる。
「ふぅん……何度もやってる内に、大分ビビらなくなってきたじゃない」
金糸雀の頬にホンの少し浮かんだ微笑に、サニーは嬉しそうにぶんぶんと尻尾を振って応えてみせる。
「ダ……ッ!」
「遅いわよ」
自らが奇襲を受けたのだと戦闘員が気付いた時には、既に灼滅者達の照準はピタリと戦闘員を捉えていた。
「さて……手際よくやらないとだわね」
金糸雀の冷めた紫の眼差しが、戦闘員を射抜いたその時。
「ダ、ダー……ッ!?」
戦闘員の全身が、そして手にしたマヨネーズがピシリピシリと音を立てて凍りつき始める。
見えぬ力で死を招く恐るべき魔法、フリージングデスが戦闘員を襲う……しかし、これさえも灼滅者達の連撃の前奏曲でしかない。
「プロキシマ・ケンタウリに選ばれし我が宇宙規模の一撃、その身で受けられることを光栄に思うがいい!」
星子の異形の縛霊手が、ぱかりと口のようなものを開く。果たしてその奇怪な機構から撃ち出される強烈な酸――DESアシッドの一撃は、戦闘員の体を容赦なく灼き、溶かす。
「捕縛する、トドメを」
冷徹な響きの言葉と同時に結城が振るった刃の機動を、奇襲により混乱している一戦闘員に見極めろというのは、余りに酷だ。
蛇咬斬。
その手に握ったウロボロスブレイドの刃は、死角から戦闘員の全身に巻きつき、その身を縛り上げていた。
「ダ、ダ、ァ……」
「この一撃で、もうおしまいですの!」
ごわり、とヤマメの腕が膨らむ。袖から覗く片腕が胴より太く膨れ上がり、この拳を振り下ろされればただでは済まないことは知恵を持たぬ獣にも分かる、そんな圧倒的な暴力。
鬼神変によって鬼のそれと化したその拳は当然、ためらいなく戦闘員の頭上へと振り下ろされた。
――ずごぉ!
響く轟音は、この戦場の外には決して漏れない。灼滅者達は二手に分けたその両チームで徹底して外部に情報を漏らさないよう、ESPや戦術を準備しきっていたのだから。
「……これで、七人目ですの」
大地に減り込んだ拳の感触を確かめるようにしながら、ヤマメは静かにそう言った。
「周辺警戒班は、これで全員倒したわけね」
ふぅ、と人心地つく金糸雀の足元にサニーがじゃれつく。
これまで倒した六人も一斉に攻撃することでスピード決着を付けられたが、全ての戦いで全くの無傷とはいかなかった。
敵を倒す合間にヒールサイキックで傷は治療したが、幾らかのダメージは残っている。
小さくため息を付いたその時、灼滅者達のポケットの中で携帯電話が小さく震えた。
買い物班の勝利を告げる、朗報である。
「ほしこ様、こちらも……」
「ふふ、その指示は4.2光年遅い!
我らの作戦成功も、今恙無く宮武達に伝えた。急ぎ合流するとしよう!」
●
「マヨマヨマヨ……よくもやってくれたな、灼滅者の諸君……」
灼滅者達が互いに連絡を取り合いつつ、山中で合流を果たした正にその時。
エカチェリンブルクマヨネーズ怪人がただ一人、怒りの形相に顔を歪ませてのそり、とその姿を表した。
その出で立ちに思わずハッ! としたのは、佐那である。
「あっ! どうも、あちらではお世話になりました」
「マヨ……? 同郷ではあるようだが、誰だ貴様は?」
「いえ、お会いしたことはないですが、よく食べていたメーカーのデザインだったものですから」
「佐那さん、悪いんだけどちょっと後ろに……」
えっ、ですけど……と言い渋る佐那を、激戦を一度終え落ち着いた朔夜がゆっくりと後衛まで押しやっていく。
マヨネーズ怪人は少し所在なさげにチラチラと回りを見た後、コホンと咳払いして話を続けた。
「集めたシャカラートッ! ……は残った戦闘員に運ばせてはいるが……同志は貴様達に相当やられてしまった。予定していた量の四分の一も運び出せまい。今回の作戦は……失敗した」
怪人は、己の敗北をあっさりと認めた。
ならば、とヤマメは口を開く。
「それを承知ならば、お退きになってはいかがですの?」
「笑止! ロシアンタイガー様の為、俺の無能が故に散っていった同志の為!
せめても、僅かなれどもシャカラァトォ! をロシア村へと運ぶ同志達のシンガリを務めるのが、この俺の役目よ!」
有無を言わせぬ物言いで、マヨネーズ怪人はその両腕を灼滅者達へと向けた。
「説得は無理なようですね。
――ならば」
「やるしかねぇってことじゃん!」
結城が、朔夜が、戦いの始まりを感じて、その身に纏う気配を変える。
「中々、響く名文句だった……が、悪いな。
俺はマヨネーズよりケチャップが好きなんだ」
そう言ってレイは、マヨネーズ怪人へと刃の腕を振り向けた。
●
マヨネーズ怪人の強さは一ご当地怪人として特別に突出したものではなかったが、如何せん灼滅者達は連戦だ。
特に、買い物班への攻撃を敢行した面々は、既に体力の半分近くを心霊手術を必要とする傷で削られている。
それでも際どい戦いを続けていられるのは、灼滅者達が連戦を想定し、合流時に陣形を再考していた結果だ。
「チューブごとぶった切ってやるぜ!」
ディフェンダーへとポジションを移した朔夜だが、その戦闘スタイルに変わりはない。
夜空の花糸に織り込まれた七色の鋼線でマヨネーズ怪人を惑わし、一瞬の虚を突いて振るわれた無色の斬弦糸が怪人の右腕のチューブに深い切り傷を付けた。
「こちらも、頂く」
クラッシャーに立ち続ける結城の振るうボーイナイフが、怪人の左腕をジグザグ状に切り裂いていく。
両の腕からぼたりぼたりとマヨネーズを零すその姿は、マヨネーズ怪人の灼滅が迫っていることを感じさせる光景だ。
「マヨォ……! このまま大人しく、灼滅されるというのもつまらん……シンガリを務めるだけのつもりだったが……貴様らの一人も道連れにしてやろうか!」
怪人の両腕から、マヨネーズはこぼれ落ち続け、ついには透明な容器のその中が覗けてしまう。
その中には――ハート型のチョコレートが一つ、マヨネーズ塗れになって残されていた。
「巨大化シャカラァットォォォオオ!」
●
ごぉぉぉん、と巨大化したマヨネーズ怪人は実に全長15mにも達する巨大さであった。
「チョコは心を贈るもの! 巨大化なんかのために使わないで!」
「ええい、俺とてできるならばマヨネーズで巨大化したかったわ!」
瑠璃の心ある言葉に、返す怪人の言葉は、どうにもピントがずれている。
「マヨネーズの卵黄にはリジンというアミノ酸が含まれ、カルシウムの吸収を良くする。
宇宙規模の時間で見れば、巨大化も可能であるやもしれんぞ」
もっともらしく言い放つ、星子の言葉もどこかがおかしい。
だが、やはり一番おかしいのは、そんな言葉に心震えたマヨネーズ怪人であった。
「そ、それは――盲点であった……!」
「え、真に受けるのか」
「やはり、俺はここでは死ねん! 食らえ、致死量カロリーマヨネーズ、BIGBAG!」
ボン、と怪人の頭部から、巨大なマヨネーズ塊が撃ち出される。一旦空中で制止したその黄白色の粘体は、重力に引かれるまま灼滅者達の頭上へとまっすぐ落ちてきた。
「う、嘘でしょぉぉぉ!?」
「……この素晴らしいアイディアをロシアンタイガー様に具申せねば!
生き残った同志達も、既に安全圏へと離れた頃だろう……ダスヴィダーニャ!」
そう言い残し、マヨネーズ怪人はドスンドスンと地鳴りを響かせ戦場から立ち去ったのである。
●
「油落としタオル……使う人、いる?」
そう言って瑠璃がとりだしたタオルは、マヨネーズ色に染まっていた。
かくして、エカチェリンブルクマヨネーズ怪人は取り逃したものの、大半のチョコは廃倉庫に残されたままであり、灼滅者達は全身をマヨネーズにまみれさせながらも、作戦を無事成功に導いたのである。
作者:宝来石火 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 3/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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