脅威の巨大化チョコレート~もふもふの野望

    ●悪の秘密基地
    「……間抜けな灼滅者は、囮に引っかかったようだな」
     ロシアンもふもふ怪人は、コサック戦闘員達を引き連れ、大量のチョコレートを前にして上機嫌であった。
     しかも、灼滅者達は囮とも知らず別の怪人と戦って、こちらの存在には全く気付いていない。
     おそらく、囮の怪人を倒して満足してしまい、その裏でこんな恐ろしい作戦が進行していたとは、夢にも思わなかった事だろう。
     こうしている間もコサック戦闘員達によって、大量のチョコレートが集められている。
     その大半がバレンタインで売れ残ったチョコばかり。
     もちろん、すべて現金購入。手荒な真似などしていない。
     そんな平和的な方法を使っていたため、近隣住民でさえ気づいていない、この作戦に!
    「これだけチョコを集めれば、大量の巨大化チョコを手に入れることができるだろう。巨大化チョコの力を使い、この日本の支配を支配し、ゆくゆくは世界を征服するのだ!!」
     ロシアンもふもふ怪人が高笑いを響かせた。
     あと少し……、あと少しで、ロシアンもふもふ怪人の野望は達成する!
    「バレンタインデーのチョコを狙ったご当地怪人は無事に解決したようだね。この事件では、一部のご当地怪人がチョコを食べて巨大化しているが、この『巨大化チョコ』こそが、ご当地怪人達の狙いであったようだ。ご当地怪人達は、バレンタイン当日の事件を囮にして、日本全国で多数のチョコレートを集めており、集め終わったチョコレートを彼らの拠点に運び込もうとしているらしい」
     教室に集まった灼滅者達を前にして、エクスブレインの男が険しい表情を浮かべた。
    「大量の巨大化チョコレートを、ご当地怪人に入手されれば、大きな脅威になるのは間違いない。既に手遅れとなった事件もあるだろうが、可能な限り阻止しなければならないので、急いで現場に向かって欲しい……」
     そう言ってエクスブレインの男が依頼の説明をし始めた。
     コサック戦闘員は頻繁にチョコレートの買い出しに出ており、そのおかげで彼らのアジトが廃工場である事が分かっている。
     ただし、コサック戦闘員の数が多く、そのまま戦った場合は苦戦を強いられてしまうため、勝つ事は困難。
     その上、最悪の場合は巨大化する可能性もあるため、油断は禁物。
     少しでも料率を高めるため、コサック怪人が買出しに行っている間を貰って襲撃を仕掛け、ロシアンもふもふ怪人を倒す事が今回の目的である。
     ロシアンもふもふ怪人は全身がモフモフしており、ほとんどの攻撃が利かないと噂されるほどの強敵。
     それ故に、まともに戦ったのでは勝ち目がなく、もふもふした体に取り込まれ、命を奪われてしまうのがオチ。
     その代わり、炎には弱く、一瞬にしてもふもふがチリチリになってしまうほど。
     逆にロシアンもふもふ怪人との戦いを避けてチョコレートを奪取、もしくは破壊する事で巨大化の阻止を試みる事も出来るが、奪われたチョコレートが大量である為、全てを奪取する事は困難である。
    「未来予測の優位はあったとしても、ダークネスの戦闘力を侮る事はできない。全員で協力して、必ず帰ってきてくれ」
     そう言ってエクスブレインの男が、灼滅者達を見送った。


    参加者
    鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)
    青柳・琉嘉(自由奔放サンライト・d05551)
    藤佐・萬司(登頂戦士フジサンマン・d06246)
    小柏・奈々(ミスティックシューター・d14100)
    緑風・玲那(深紅の先を歩む戦乙女・d17507)
    システィナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)
    藤浪・三保(フジサンガール三保・d21229)
    古凪・静(篝火の黒い鳥・d22713)

    ■リプレイ

    ●もふもふ怪人アジト前
    「ちょっと……、巨大化するってなんなのよ」
     藤浪・三保(フジサンガール三保・d21229)は仲間達と共に、ロシアンもふもふ怪人のアジトである廃工場前に辿り着いた後、事前に配られた資料に目を通してツッコミを入れた。
     ロシアンもふもふ怪人は巨大化する恐れがあるらしく、しかもその方法がチョコレートを食べる事!
     そのチョコレートにどんな秘密が隠されているのか分からないが、何故チョコレート。その上、巨大化。そこに、どんな関連性があるのか、単なるバレンタイン繋がりなのか、ハッキリとした事は分からないが、理由を考えれば考えるほど謎が深まった。
    「でも、巨大化するもふもふだなんて、素敵すぎますわ。思わずお手製のチョコレートを、差し上げてしまいそうですけど、涙を飲んで我慢ですの」
     鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)が、自分自身に言い聞かせた。
     本音を言えば、そのまま飛びついて思う存分もふもふしたいところだが、そういうわけにもいかないのが現実であった。
    「……コサック戦闘員は買い物に行っているようだね」
     そんな中、システィナ・バーンシュタイン(太陽と月のクロス・d19975)は双眼鏡片手に廃工場を見張っていた。
     コサック戦闘員達が買い物に出かけてから、早数分。
     おそらく、向かったのは、近所のスーパー。
     既にバレンタインチョコの処分セールが始まっているため、コサック戦闘員達も落ち着いてはいられなかったのだろう。
    「にゃーん」
     しばらくして、灰色の毛並みの猫に変身していた緑風・玲那(深紅の先を歩む戦乙女・d17507)が、首からぶら下げた携帯電話を揺らして、廃工場の中から姿を現した。
     少し前から猫の姿に変身して、ロシアンもふもふ怪人のアジトに入り込んでいたのだが、もふもふ怪人が板チョコを使ってピラミッドを作っている姿を見て、なんとなく大丈夫だと思ってたらしい。
     しかも、見張りとして残っていたコサック戦闘員も、一緒になってハラハラしており、息をするだけでも一苦労なほどピリピリとしたムードが漂っているようだ。
    「それじゃ、コサック戦闘員達が帰ってくる前に、ロシアンもふもふ怪人を倒してしまおうか」
     警戒した様子で辺りを見回しながら、青柳・琉嘉(自由奔放サンライト・d05551)が玲那に案内されつつ、廃工場の中に入っていく。
     廃工場の中はコサック戦闘員達によって綺麗に掃除されており、奥の部屋からほんのりとチョコレートの甘い匂いが漂ってきた。
    「エクスブレインから、まともに戦ったら勝てないくらいの相手って言われてるせいか緊張しますね……」
     小柏・奈々(ミスティックシューター・d14100)が緊張した様子でアリアドネの糸を使い、逃げる時の経路を表示した。
     夜鈴も買い物に出かけたコサック戦闘員達が慌てて帰ってこないように、サウンドシャッターを使う。
    「誰だ、お前達は!」
     トイレに行く途中だったコサック戦闘員が、驚いた様子で声を上げた。
     それは単なる偶然であった。
     だが、ここで報告に向かえば、トイレが間に合わない。
     コサック戦闘員は、迷った。
     ここで報告に行くべきか、それともトイレに行くべきか。
     どちらを選んでも、待っているのは、地獄。
    「一体、何の騒ぎだ!」
     その騒ぎを聞きつけ、奥の部屋からロシアンもふもふ怪人がやってきた。
     すぐさま、古凪・静(篝火の黒い鳥・d22713)がブレイジングバーストを仕掛け、コサック戦闘員の体を炎に包んだ。
     コサック戦闘員は、泣いた。色々な意味で。
     それを言葉にするのは難しい。ただ、ひとつ言える事は……間に合わなかった。何もかも。
    「それ以上、近づいたらロシアンちりちり怪人化させるぞ」
     静の警告にロシアンもふもふ怪人がたじろいだ。
    「そ、その程度の脅しで、俺が動揺すると思ったか。こ、怖くないぞ」
     そう言いつつも、ロシアンもふもふ怪人は涙目であった。
     ……今にも泣きだしそうだった。
    「だが、お前の悪事もここまでだっ! 悪は正義の前に滅びる運命なのだから!」
     次の瞬間、藤佐・萬司(登頂戦士フジサンマン・d06246)が、『大っ噴っ火!』と叫んでカードをベルトに差し込み、戦闘スタイルに変身した。

    ●ロシアンもふもふ怪人の野望
    「お前達の野望もここまで! チョコレート買い占めるなど言語道断よ。このフジサンガールが成敗してくれる!」
     三保がバッチリとポーズを決めて、ロシアンもふもふ怪人に対して言い放つ。
    「も、もう少しだったのに……」
     ロシアンもふもふ怪人が、グッと唇を噛み締めた。
     コサック戦闘員達も、悔しそうに足踏みをしている。
    「とりあえず、これは処分させてもらう」
     山のように積まれたチョコレートを睨み、静がバニシングフレアを使う。
    「おい、こら! ちょっと待て! チョコに罪はない。こ、これは恵まれない子供達に寄付するために集めたものなんだ。わ、悪い事なんかに使おうとしていないぞ、本当だ」
     そう言いつつ、ロシアンもふもふ怪人の目は泳いでいた。
     コサック戦闘員達の目も泳ぎまくりであった。
     みんな、嘘がつけないタイプ。
     揃いも揃って正直者であった。
    「それにしても、すっげぇもふもふ……! 気持ちよさそう!!」
     琉嘉が思わずロシアンもふもふ怪人に、もふついた。
     予想以上のもふもふ感。もふもふ界のサラブレット。
    「こんなもふもふした奴に、悪い奴がいるわけないだろ?」
     ロシアンもふもふ怪人も、まんざらではない様子。
     だが、霊犬のトウジロウはご機嫌ななめ。
     不機嫌な様子で、ふんふんと鼻を鳴らしている。
    「あ、もちろんトウジロウの抱き心地は最高だよ!」
     慌てて琉嘉がフォローを入れるが、トウジロウはすっかりへそを曲げている。
    「恵まれない子供達……ですか」
     玲那が疑いの眼差しを、ロシアンもふもふ怪人に送る。
    「あ、ああ。これからロシアに送るんだ。あは……あはははは」
     ロシアンもふもふ怪人が、高笑いを響かせた。
     それにつられて、コサック戦闘員達も笑い出したが、あからさまにぎこちない。
    「本当に……? 顔に書いてあるよ、嘘だって」」
     奈々が迫る、ジリジリと。
    「ば、馬鹿な!?」
     ロシアンもふもふ怪人が、慌てた様子で顔をこする。
     コサック戦闘員達も必死になって顔を擦ったが、そこで……気づく。
     これが罠である事を……。
     嘘がバレてしまった事を……。
    「フジサンジャーが来たからには、悪事は終わったも同然だね! さぁ、萬司GOだよ!」
     システィナが指をパチンと鳴らす。
    「ふじさぁぁぁぁんきぃぃぃっく!」
     すぐさま、ライドキャリバー(ボルケーノ二号)に乗った萬司が、ロシアンもふもふ怪人にご当地キックを炸裂させた。
     その一撃は容赦がなかった。
    「ぐばあああああ」
     ロシアンもふもふ怪人が宙を舞い、大量の血が雨の如く降り注いだ。
     それを目の当たりにしたコサック戦闘員達が腰を抜かした。
    「こ、このままでは!」
     ロシアンもふもふ怪人が、ダラリと汗を流す。
     だが、どうすれば……。
     考えなければ、一刻も早く……!
    「クク……、泣こうが喚こうが、助けは来ないのですわー」
     夜鈴が含みのある笑みを浮かべる。
    「あ、悪魔だ……」
     コサック戦闘員は、思った。
     コイツらはマジでヤバイと……。敵に回してはいけない相手だと……。
    「お、おのれ、こうなったら!」
     ロシアンもふもふ怪人が、覚悟を決めた様子で、巨大化チョコをバクバクと食べた。
     それと同時にロシアンもふもふ怪人の体がみるみるうちに大きくなり、廃工場の屋根を突き破って辺りに咆哮を響かせた。

    ●巨大化!
    「大きくなろうが蜂の巣にするだけだが……。焼かせてもらうぞ、チョコレートごと!」
     静は躊躇う事なく、攻撃を仕掛けていった。
     コサック戦闘員達は、右往左往。
     巨大化したロシアンもふもふ怪人に踏まれまいと必死であった。
    「こら、お前達! 俺の周りでチョコマカするな。踏むぞ、ゴラァ!」
     ロシアンもふもふ怪人も必死に踏むまいと頑張っているが、コサック戦闘員達があたふたと逃げ回っているせいで、何も出来なくなっていた。
    「……これはチャンスですね」
     玲那が仲間達と連携を取るようにして走り出す。
    「ちりっちりにしてやんよー!!」
     すかさず、琉嘉が物凄く楽しそうに、ブレイジングバーストを仕掛ける。
    「な、何故だ! 何故、逃げない!」
     ロシアンもふもふ怪人にとっては、何もかもが計算外であった。
     暴れようにも、全身が炎に包まれて、戦うどころではない。
    「あわあわ……、素敵なチリチリパーマですのよ? なうなやんぐにきっとモテモテですわね?」
     夜鈴がロシアンもふもふ怪人を励ました。
    「ええいっ! なうなヤングにモテる必要などない!」
     怒りに身を任せて拳を振り回すが、巨大化したせいで、ほとんど的。
     懐に潜り込んだ琉嘉達が続けざまに攻撃を仕掛けてきたため、身を守るのがやっとのようだった。
     しかも、チリチリ。もふもふしていた時の面影は、既にない。
    「もふもふしてない怪人なんて可愛くないです」
     そのため、奈々も容赦がない。
     慌てふためくロシアンもふもふ怪人めがけて、ブレイジングバーストを炸裂させた。
    「も、もう少しで……、もう少しで俺の野望が……畜生っ!」
     全身を炎に包まれながら、ロシアンもふもふ怪人が吠える。
    「三保の松原ダイナミッククラッシュ」
     それと同時に三保がご当地ダイナミックを放ち、ロシアンもふもふ怪人に尻餅をつかせた。
    「こ、こんなはずでは……」
     ロシアンもふもふ怪人が、怒りに身を任せて、立ち上がろうとした。
    「これでとどめだ、ふじさぁぁぁぁんだいなぁぁぁぁみぃぃぃぃぃぃっく!」
     次の瞬間、萬司がご当地ダイナミックを仕掛けるために跳びあがる。
    「不埒な輩をやっつけます! 必殺ヒロインキック!」
     それに合わせて奈々がご当地キックを仕掛け、萬司と共にロシアンもふもふ怪人の体を貫いた。
     ロシアンもふもふ怪人はその痛みに耐えきれず断末魔を響かせ、コサック戦闘員もろとも大爆発を起こして……消滅した。
    「兵どもが夢の跡……ですわね。もふもふとは、儚いものですのね」
     燃え落ちたもふもふを惜しみ、夜鈴がなむなむと両手を合わす。
     ロシアンもふもふ怪人にとっての敗因は、巨大化した事と、もふもふがチリチリになった事。
     それさえ気を付けていれば、もう少し長く生きる事ができたかも知れない。
    「でも、チョコが駄目になっちゃったね」
     システィナが深い溜息を漏らした。
     ロシアンもふもふ怪人の爆発に巻き込まれ、ほとんどのチョコレートがボロボロ。ほとんど原型を留めていない。
    「でも、どうやって、こんなもので巨大化を……?」
     玲那が不思議そうにチョコを手に取った。
     どこからどう見ても、普通のチョコレート。
     しかも、このチョコレートはコサック戦闘員が、スーパーやコンビニで買ってきたもの。故に、何か特別な力があったとは考えにくい。
     ならば、ロシアンもふもふ怪人が巨大化した時に食べたチョコレートは、と思ったが、例え欠片が残っていたとしても、それを見つけ出す事は困難であった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年2月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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