蛟と呼ばれし守り神

    作者:猫御膳

     とある冬の山奥に湖がある。水は澄んでおり、湖の底は時折、青白く光るという噂も流れているのでちょっとした名所になっているが、普段は人が来る事は滅多に無い。そしていつもなら水面に太陽や月を浮かべるのだが、今日の湖は太陽も月も水面に浮かべる事は無い。
     水面に浮かぶは、白いオオカミ。
     不思議な事に、オオカミは湖の上に立っている。オオカミが遠吠えを上げれば、水面には幾つもの波紋が広がって波紋が大きくなり、水面が騒がしくなれば次第に水柱が起きる程になっていた。
     そのオオカミを良く見れば普通のオオカミよりも大きく、白い体毛と思えるものはまるで炎のように周囲を歪ませ、額には赤色と金色の色違いの二房がある。
     遠吠えが終わればオオカミは姿を消し、水柱の中から出てくるのは、見た事も無い大きな鹿のような角が生えた蛇。その蛇には手足があり、片方の足には鎖が巻き付いていた。

     昔はこの湖も、向こう岸が見えないの大きな川だった。氾濫も起きた事も無く、水も常に澄んで、自然と近くに人が住むようになり、自然と村が出来た。村の子供は、この川には龍神様が住んでおり、助けられた事があると大人達に言った。その所為か、村人達は守り神として感謝を毎日捧げ奉った。
     しかし現代では川も埋め立てられ、汚され、少ししか残らない湖となっていた。

    「守り神と呼ばれているもの、ですか。人の行いで住処を追われ、汚され、放置される。……許せないのかもしれませんね」
     少し寂しげに、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は言う。
    「集まってくださりありがとうございます。今回もまたスサノオにより、『古の畏れ』が生み出された場所が判明しました。皆さんには、この古の畏れを灼滅していただきたいのです」
     姫子は集まった灼滅者達に礼を言い、今回の事件の事を述べる。
    「場所はこちらの山奥です。この山奥には湖があり、そこに古の畏れが居ます。1時間ほどの山道ですが、看板などがありますので迷う事は無いと思います。今から向えば日中には着くでしょう」
     地図を見せながら、丁寧に山道を説明する姫子。
    「外見は蛟(みずち)、と言えば分かるでしょうか? 龍の一種とも言われています。大きさは4m以上で大きいですね。能力は水を鋼糸のようにして攻撃と、龍砕斧の龍翼飛翔みたいな攻撃、それと噛み付いて体力を奪い回復する強力な攻撃をしてきます」
     姫子は古い本を持ち出し、絵を見せながら敵の能力を説明する。
    「湖に人が近寄ると姿を現します。敵は1匹だけですが、守り神と呼ばれるほど強いので、どうか注意してください」
     一息付きながら、と本を閉じる。
    「今回もですが、スサノオの行方は追えませんでした。申し訳ありません」
     申し訳なさそうに謝り、姫子は頭を下げる。
    「ですが、後少しで分かりそうなのです。スサノオも決して、追えない相手ではありません。ですから」
     今回もどうか無事に帰って来てください、と姫子は灼滅者達を見送った。


    参加者
    帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)
    フゲ・ジーニ(永遠に続く幸せの迷宮回廊・d04685)
    戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)
    真波・尋(高校生ダンピール・d18175)
    居木・久良(ロケットハート・d18214)
    灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)
    牙鋼・侍狼(ヴェノムズゲノム・d20111)
    上池・乙葉(心に愛を両手に銃の花束を・d21658)

    ■リプレイ

    ●春は近く
     時期は微かに春を感じ取れる頃。殆ど擦れ違う事も無く、8人の少年少女が山道を登っていく。年齢もバラバラだが、足並みを揃えているのと見ると、彼等は一緒に行動しており何かしら共通の目的があるのだろう。それもその筈、彼等は灼滅者であり、スサノオが引き起こした事件の古の畏れを灼滅する為に目的地へと向かっているのだ。
    「お、あったな。此処からざっと20分ぐらいか。どうする、このまま進むか?」
     牙鋼・侍狼(ヴェノムズゲノム・d20111)が道案内の看板を見つけ、残りの距離を簡単に計り、振り向きざまに仲間に言う。
    「後20分ぐらいですか。まあ、前よりはマシですねー。最近ようやくちょっと暖かくなってきたし!」
     以前のスサノオの古の畏れの事を考え、あの時は寒かったと思い出す真波・尋(高校生ダンピール・d18175)は笑う。その表情から、どことなくうきうきしてるようにも見える。どうやらピクニック気分なのだろう。
    「それでしたら一度休憩にしない? 辺りには人も居ないっぽいし」
     のんびりしたように休憩を提案し、帆波・優陽(深き森に差す一条の木漏れ日・d01872)はにっこりと微笑む。その提案に何人かは賛同して休憩が決定すると、魔法瓶からアップルティーを注げば紅茶の良い香りがふわっと広がり、見ている人にも差し出す。
    「ありがとう……ございます」
    「ありがとうございます、帆波さん」
     お礼を言いながら受け取り、冷ましながら一口ずつ飲む上池・乙葉(心に愛を両手に銃の花束を・d21658)と、同じくお礼を言いながら受け取る灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)は、何やらお互いのサーヴァントの事に付いて談笑している。お互いのサーヴァントいうと、フゲ・ジーニ(永遠に続く幸せの迷宮回廊・d04685)も黙っていない。
    「久遠さんのわんこ見せてー」
    「霊犬の事だな。湖の近くまで行ったら見せよう。周囲に人が居なくても、流石に今はな」
     宥めるように戯・久遠(悠遠の求道者・d12214)が言うと、フゲは笑いながら頷く。
    「少し残念かな。一ヶ月後とか来れたら、ここはもっと自然を楽しめたかもしれないのに」
     微笑ましい仲間の様子から周囲へと視線を向け、居木・久良(ロケットハート・d18214)はぼんやりと考える。周囲の自然を見ていれば、守り神と呼ばれる蛟へと思考は移り行く前に休憩は終わり、再び足並みを揃えながら一同は歩き始める。

    ●山奥の湖
     目的地の湖に辿り着けば、そこは街や学校とは違う静謐が保たれている。日中だからか、人を不安にさせる静かさではなく、人を安心させるような静けさである。時折風が吹けば木々がざわめき、心を落ち着かせるような雰囲気に少しだけ呑まれるように、足を止める灼滅者達。
    「これは想像以上だ」
     周囲を見渡し、感心しながらも戦いに備えて静かに気を練り始める久遠。その横には霊犬の風雪が、主人と同じように戦いに備えるように静かにしている。
    「これなら龍神様が居てもおかしくないわね」
    「……凄いです」
     道中でお姉さん気質が発揮したのか、最年少の乙葉の手を自然と繋いだ優陽も同じく感心しながら周囲を見渡し、納得する呟く。まるで、龍神様に会う事を楽しみにしてるようだった。
     乙葉はこの場の雰囲気に呑まれるように周囲を見る。花を育てる自分だからこそ分かるこの雰囲気に、少しだけ感動する。その横では何故かナノナノのオレンジが胸を張っていた。
    「なんて言うか、ちょっと複雑だよね」
     確かにこの場は静謐が保たれている訳だが、この湖は本来は川だったのだ。スサノオによって引き起こされた古の畏れとはいえ、人の手で埋め立てられ、追いやられた龍神様を倒さなければならない。そんな風に複雑な心境を久良は思わず零してしまうが、それでも振り切るように表情を引き締め、真面目な顔を見せる。
    「自然破壊云々に想いを馳せる気はねえ。結局スサノオが引きずり出した面倒事だ」
     雰囲気に呑まれないように一刀両断な意見をする侍狼。考え無しの環境開発が叩かれるのは当然だが、安住の地を築く為に人間が知恵を絞るのは、決して悪い事ではない、と言いたいのだ。
    「古の畏れ……不思議な存在ですが、人に危害を加える前にきちんと灼滅しなければ……」
     相手は古の畏れであり、人に危害を加える存在だという事を忘れない為に、改めて灼滅する事を決意してライドキャリバーのスーパーカーボを呼び出す硝子。
    「マイナスイオンに癒やされてるばかりでは駄目ですね。それにしても今回は、サーヴァントが多くて賑やかです」
     尋は慌てて気を引き締めて同じくライドキャリバーを呼び出すが、その顔はつい微笑んでしまう。そしてこっそりと自分のライドキャリバーと、硝子のライドキャリバーを見比べたりしている。
    「みんな準備は良い? じゃあ行け! 天照!」
     間の確認を取った後に、君に決めたー、と楽しそうに霊犬に指示を出すフゲ。主人の言葉に若干嫌そうな顔をするが、言われた通り湖に近づいても反応が無い。
    「やっぱり人じゃないと駄目なのかな。……ッ」
     警戒しながら湖に近づいてみれば、この場の雰囲気が一変し、穏やかな雰囲気が息苦しいものへと変わる。激しい水飛沫と共に水柱が起き、水柱の中から鞭のようにしなる巨大な尻尾が薙ぎ払われるが、天照が主人の服を噛んだまま大きく下がる。そして先ほど居た地面が尻尾の薙ぎ払いで抉れ、蛟は鎖を引き摺るようにして、その姿を現す。
    「さて、どれ程の強さなのだろうな? 武装瞬纏」
     続けて薙ぎ払われる尻尾を、前に出ながらスレイヤーカードを開放した久遠が紺青の闘気を纏い、御魂封で受け流すように防御する。
    「これは一筋縄ではいかんな」
     完璧に受け流した筈なのに痺れる腕を抑え、我流・紅鏡地大と言いながらも大極練核の障壁を、灼滅者達を覆うように大きく展開し守りを固める。
    「資料によると蛟は四メートル。ちょっと大きいなぁ……」
     蛟を見上げて思わず呟いてしまうが、気を取り直すように硝子はスレイヤーカードを解放する。
    「童話系ヒーロー、灰神楽硝子が討ち取らせて頂きます!」
    「蛟さん、そんな鎖が付いてたら飛べないよね。飛び立てる為にも、大神見習い小神フゲ、いざ参る!!」
     剣を高速で振り回し剣圧を飛ばし、続くようにフゲがスレイヤーカードを解放させながら霧を発生し、灼滅者達の力を高める。
    「ごめんね……守り神さんは悪くないけど……」
     脳の演算能力を高速化し、蛟の動きを捕捉しようとする乙葉。その横ではスーパーカーボがオレンジを乗せて突撃し、応援団服に赤鉢巻き姿のオレンジはしゃぼん玉を放ちながら肩で風を切っていた。
    「私達人間の招いた事象からなった荒魂、巫女の端くれとして頑張って鎮めるよう努めなさせて貰うわ」
     普段からの言動と思えない程に激しくギターをかき鳴らし、音波を蛟へと放つ。その音波に対抗するように細い水糸が幾重も重なり、結界となって弾く。蛟は漸く灼滅者達が自分の敵だと確信し、大きく吠えるのであった。

    ●蛟と呼ばれし守り神
     蛟が水糸を目に見えないほどに高速に操り、その身を切り裂こうとする。
    「独りよがりだろうけど、全力で相手をするよ」
     久良は体中を切り裂かれながらも、致命傷を避けるように横に飛びながら454ウィスラーでファニング撃ちをし、連射された爆炎の弾丸は蛟を貫き炎上させる。
    「蛟さん、格好良いし綺麗……サーヴァントにしたい」
     フゲはそんな風に思わず呟いてしまうが、誤魔化すように慌てて仲間を治癒の力を宿した温かな光で癒やす。
    「積年の怒りや妄執、想いを具現化する。スサノオはそんな想いを叶えようとしてるだけなのかしら? それとも私達への警告?」
     何にしても今は止めないと、等と思いながらも優陽は影業に炎を纏わせ、その巨体を横薙ぎで斬り払いながら炎上させる。
    「はぁあああ!!」
     続くように尋がロケットハンマーで弧を描くような回転殴打で吹き飛ばすが、蛟も負けてられないとばかりに大きな口を開き牙を突き立てようとする。だがしかし、尋のライドキャリバーが突撃しながら主人を庇う。
    「我流・堅甲鉄石!」
     空かさず久遠が半壊となったライドキャリバーを守るように回復し、雪風も浄霊眼で回復させる。
    「てめぇは怒ってるかもしれないが、解決できる面倒を馬鹿みたいに放置し、苦しみながら生きてやる義理がどこの誰にある!」
     侍狼は影(Cougar).28を寄生体に飲み込ませ、巨大な刀に変化させたまま一気に振り下ろす。蛟は避けられず斬り裂かれるが、大きく吠えると水糸を幾重も重ねて結界を作り、多くの灼滅者やサーヴァントを覆うように閉じ込めて切り裂き、動きを制限させる。その攻撃はサーヴァントが庇ったりするが、当然中には瀕死になるものも出始める。
    「全弾撃ち尽くす……纏めて持っていって!!」
    「駆け抜けて! ガラスの靴!!」
     乙葉はガトリングガンの銃口を向け、硝子は光を足に纏わせ、2人同時攻撃し、蛟を蜂の巣にしながら光の刃で斬り裂く。その隙にオレンジとスーパーカーボは、ふわふわハートとフルスロットルでそれぞれ回復に走る。
     その回復しているサーヴァントへ蛟が飛翔し、大きく体を捻って尻尾で薙ぎ払おうとするが、
    「ぐッ……このまま俺が抑える! 今が攻勢に出る時だ!」
     久遠が飛び出して1人で受け止め、体中を軋ませながらも捕まえる。口から血が溢れ出るが、仲間を促すように叫ぶ。
    「獲ったるゥウーーーーーッ!!!」
     その言葉に侍狼が2本の妖の槍を構えて駆け出し、螺旋の如き捻りを加えた突きで蛟の鎖を巻き込み絡ませ、胴体を刺し貫き固定させる。
    「一気に行きます! ガラスの靴、オーバードライブ! オーバーフロー! いっけえぇぇぇ!」
    「ターゲット確認……この距離からでも外さない……撃ち抜く!」
     バトルスーツ姿の硝子は跳躍して白銀のオーラを両足に集中させ、乙葉はバスターライフルで魔法光線で、息を合わせて同時に発射させる。
    「私達も合わせます! せぇーのっ!!」
    「全力で行くぞ! これで止めだ!!」
     尋と久良は同時に跳躍し、一斉にモーニング・グロウとロケットハンマーのロケット噴射で急降下するように叩き付け、打撃音を周囲に響かせる。蛟は角まで粉砕されて仰け反るように吹き飛び、ゆっくりと姿を消していくのだった。

    ●静謐が保たれる場所で
    「蛟、か。このような形では無く、正式な力試しとして挑みたかったものだ」
     久遠がそう言いながらも仲間を手当し、回復させる。古の畏れを灼滅すれば、湖は以前のような静謐を取り戻したのだ。
    「人が信仰を忘れなければ蛟さんこんなにならなかったのかな?」
     そっと手を合わせ祈った後に、フゲは天照を抱きしめながら呟く。その主人に、先程までは雪風や蛟にやきもちを焼いていたが、慰めるように顔を寄せる天照。
    「多分だけど、そうかもね。だからこそ、この湖を綺麗にしていかない?」
     優陽が頭を撫でながらそう提案すれば、早速みんながゴミが無いか探して回る。少し探せば、やはりゴミは隠れており、何とも複雑な気分になる。
    「今までここを守ってくれて、ありがとう」
     ゴミを拾いながら掃除し、湖に向かって呟く久良。その横ではサーヴァント達も協力しながら掃除をしている。
    「食べれるか分かりませんけれど、どうぞ。今度は安らかに眠ってください」
     持ってきたおやつをお供えとして、祈りながら捧げる尋。硝子も乙葉も掃除が終わった後に祈る。
    「それじゃ、さようなら。どうか安らかに」
     その言葉を残し、灼滅者達はのんびりとその場を離れるが、優陽は離れる前に魂鎮めの風を優しく吹かす。
    「龍神様、会えて良かったわ。心安らかに眠ってね」
     その風に乗せられた祈りは周囲に溶け込むように消える。そしてその言葉に答えるように水面には小さな波紋が広がったのだった。

    作者:猫御膳 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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