「ダワイダワイ!(急げ)」
かつては食品工場であったらしい廃工場に、次から次へと運び込まれる段ボールの山。
そこには、メジャーな物からマイナーな物まで、ともかくチョコレートであるらしい品名が記されている。
「同志カニ怪人、チョコの収集は順調です。程なく、全員が帰還するものと思われます」
「よろしい、これだけあれば、大量の巨大化チョコを手に入れることができるだろう。日本を征服する日も近い」
背中に甲羅を背負い、鋏状の手をしたその怪人は、満足げに口角を持ち上げた。
「バレンタイン当日の作戦失敗も良い囮となろう。これでロシアンタイガー様の地位が高まれば、我らとて安泰よ」
そして、器用にチョコを一つ摘まみ上げると、包装紙に包まれたままのそれを、口の中へと放り込んだ。
「バレンタインデーの事件解決、お疲れ様でしたわ。一部のご当地怪人はチョコを食べて巨大化した様ですけれど、この『巨大化チョコ』こそが彼らの狙いだった様ですわね」
有朱・絵梨佳(小学生エクスブレイン・dn0043)の説明によると、バレンタイン当日に沈黙を守っていたロシアン怪人達が、コサック戦闘員らの人海戦術によって、多数のチョコレートを収集しているとの事。
巨大化チョコレートを入手されれば、大きな脅威になることは想像に難くない。
「後手に回った状況ではあるけれど……可能な限りは阻止しなくてはなりませんわ」
急ぎ現場へ向かわねばなるまい。
「あなた達に向かって頂きたいのは、北海道の稚内……かつては食品加工工場で今は使われていない廃工場ですわ」
カニ怪人と配下のコサック戦闘員らは、そこにチョコレートを収集している。
現在、市内各地でチョコの買い占めを行っている戦闘員が、チョコを持ち帰りつつある状況の様だ。
「コサック戦闘員が集結しきる前に、カニ怪人を倒すと言うのが最もシンプルな手ですわね。怪人さえ倒してしまえば、後の戦闘員は逐次撃破していけるでしょう」
逆に、倉庫の外に居る戦闘員や帰ってくる戦闘員を先に撃破し、最後にカニ怪人を撃破する方法も考えられる。
「あー……後は、彼らのチョコレートを逆に奪い取ると言うのも作戦としては面白いかも知れませんわね」
しかし奪われたチョコは段ボール100箱分にも及ぶ。それを盗み出すには、かなりの工夫も必要だろう。
チョコを破壊すると言う手もあるが、破壊されたチョコが巨大化の力を失うかどうかは判然としていない。
「さぁ、急いで彼らの計画を阻止して下さいまし。……それにしても、段ボールに大量のチョコ……じゅる」
物欲しそうにぽつりと呟きつつも、絵梨佳は灼滅者達を送り出すのだった。
参加者 | |
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渡・ガザ美(ギャルキャンサー・d02764) |
瑠璃垣・恢(崩壊症候群・d03192) |
鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864) |
ホセ・ロドリゲス(マカロニ弾丸特急・d10060) |
アーデルハイド・ゲーリング(ヘクセ・d12238) |
八乙女・小袖(鈴の音・d13633) |
磯貝・あさり(海の守り手・d20026) |
足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101) |
●
日本最北の市である稚内。
現在は観光産業にシフトしつつあるが、漁業・水産業は今も市の主力産業を担い続けている。
「日本で最も~」と言う冠を多く有する稚内市だが、日本で最もロシアに近い土地でもあり、市内の標識には日本語とロシア語の併記が多く見かけられる。
ロシアンカニ怪人にとっても、この地は日本支配の格好の足がかりだったのかも知れない。
しかしながら、今回エクスブレインが察知した彼らの動きは、いつものような侵略行動ではなく、「チョコレート集め」であった。
「これで8割くらいか? 町中のを買いあさってきたから、さすがに凄い量だぜ」
「さっさと梱包しないと、俺達の座る場所も無いぞ」
「チョコがあると暖房も使えねぇしなぁ……急ぐべ」
かつては水産加工に用いられていたらしい廃工場。今はカニ怪人らの秘密基地と化したその場所の外で、着々とチョコレートの梱包作業が進められている。
「作業に夢中で、警戒はしていないみたいね」
アーデルハイド・ゲーリング(ヘクセ・d12238)の言葉通り、戦闘員らは見張りを立てるでもなく作業に勤しんでいる様だ。
彼らにしてみれば、バレンタインの一件を隠れ蓑とした隠密作戦であり、バレているとは考えて居ないのだろう。
「あの位置なら、音さえ封じれば中に気づかれる危険も少ないだろう」
瑠璃垣・恢(崩壊症候群・d03192)も頷きつつ、作業場と工場内の位置関係を確認する。
チョコを運び出す都度、すぐに扉を閉めており、こちらにとっては好都合の状況だ。
「しかし、カニ怪人とは……北海道で稚内だからカニなのか」
八乙女・小袖(鈴の音・d13633)は作業に従事するコサック戦闘員から、工場の看板に視線を移し、改めて納得したように呟く。
錆びて文字も良く読み取れないその看板には、カニとタコ(恐らく特産のミズダコだろう)の絵が描かれている。
「蟹はなぁガザミ(ワタリガニ)が1番美味ぇんじゃ。魚介系ネームとして、あんな蟹にゃぁ負けれんで。なぁ、あさりちゃん先輩!」
と、先輩に同意を求めつつ言うのは渡・ガザ美(ギャルキャンサー・d02764)。
瀬戸内海に接する岡山出身であり、その名もガザミと言う彼女なのだから、カニには一家言ある。
北海道ブランドのズワイガニ等と比べると安価だが、味に関しては引けを取らないと対抗心も露わだ。
「はい。カニは大好きですね。でも、怪人となれば話は別です」
一方同意を求められたのは、海女の家系に育った磯貝・あさり(海の守り手・d20026)。
彼女にとってもカニは浅からぬ縁を持つ生き物だが、怪人とあらば手心を加えてやる道理も無い。
「幹部級が巨大化したら大変やし、ちゃちゃっと片づけてチョコ押収せんとね!」
準備良く、人数分の携帯カイロを持参した足利・命刻(ツギハギグラトニー・d24101)は、自身もカイロで手を温めつつ呟く。
「えぇ、それでなくてもこの寒さですしね」
にこやかな笑顔を浮かべつつ相槌を打つのは、鷹合・湯里(鷹甘の青龍・d03864)。
言うまでも無く冬の北海道は、関東の温暖な気候に慣れた人間にとっては厳寒の世界である。
「……ホセさんは、その格好で寒くないのですか?」
「Oh! ミーは鍛えてるからノープロブレムデース!」
ホセ・ロドリゲス(マカロニ弾丸特急・d10060)は湯里とは別方向のスマイルで、タンクトップに覆われた自らの肉体美をアピールする。
ヒョウ柄コートを羽織っただけのガザ美を、更に凌駕する薄着のホセだが、寒さは感じていない様なので放っておこう。
「作業員はあの5人で全てだ。さっさと終わらせよう」
工場に出入りする戦闘員らを観察していた恢が、確信を帯びた様子で静かに告げる。
丁度、5人全員が梱包作業を行っているのを確認すると、灼滅者達は足音を殺しつつ行動を開始した。
●
小袖のサウンドシャッターが展開されるが早いか、一斉に間合いを詰める灼滅者達。
「あー、腰が痛くなってくるな……ん?」
作業を続けていた戦闘員が、雪を踏む音に気づいて振り返ると、そこに居たのはスマイルで空を舞うマッチョマン。
――めきょっ。
「ごぶぶぁっ!?」
巨体に似合わぬ跳躍力で大ジャンプしたホセの、ボディプレスが直撃し、吹き飛ぶ戦闘員A。
「な、なんだお前達は?!」
「OH! ぶんぶんっ!」
戦闘員の問いかけに対し、ガザ美の返答は龍翼の一閃。
「て、敵だ! 同志カニ怪人に報せ――っ?!」
漆黒の霧を纏いつつ間合いにスルリと飛び込んだ恢は、戦闘員をそのまま投げ飛ばす。
「そうは行きませんよ」
相変わらず笑みを湛えたままの湯里も戦闘員の行く手を塞ぐと、鬼神の力を宿した腕でこれを殴りつける。
「ひ、ひいっ!」
「狙った獲物は逃がさないわ」
アーデルハイドの魔法矢と、あさりの斬影刃が、逃走を図った戦闘員の背中に次々と直撃する。
「敵襲! 敵襲だぁーっ! がふっ!?」
同様に、叫び声を上げながら倉庫の扉へ向かおうとした戦闘員を背後から抑え付けた命刻。得物である殺人注射器で敵の脊椎を貫く。
この間僅かに1,2分。
作業に当たっていたコサック戦闘員達は、工場内に異変を報せる暇さえ与えられず、あっさりと片付けられた。
「……こいつらが何時までも帰ってこないと、中の連中が怪しむだろうな」
物陰に戦闘員達を引きずり込んだ恢だが、少し考えてからそう呟く。
外で暫く作業をしては工場内に戻って、また出てきてを繰返していた戦闘員達が、余りに長い時間戻ってこないとなれば、怪人らが怪しむのは必定だろう。
「では……」
湯里の言葉に頷き、目配せをし合うと、灼滅者達は一斉に工場の出入り口へと向かう。
●
「うーむ、それにしても日本のチョコは美味いな。甘すぎず苦すぎず、舌触りは極めて滑らかだ」
「同志カニ怪人、我々にも少し……」
「同志ザツヨウスキー、ツカイステビッチ。残念だが君たちの分は無い。これは世界征服の為の一歩を踏み出す貴重な物資なのだ」
「自分は食べまくってるくせに……ん?」
――ガラガラッ。
扉を細く開けると、一気に工場内へなだれ込んだ灼滅者達。
恢は、巨大な冷蔵庫と思しき物体を出入り口へと移動し、塞ぐ。
「クラブ怪人サーン! そこまでデース! チョコはみんなで食べまショウ!」
「な、なんだお前達は!? 外の同志達は……!?」
輝くスマイルと肉体美もまぶしく言い放つホセ。怪人らは、慌てて座っていたソファから腰を上げる。
「悪巧みもここまでじゃけぇ。覚悟してもらうで」
「ぬぅ、どこからともなく湧いては邪魔をする、うるさい奴らよ! だがこのカニ怪人に勝てるかな?」
びしっと言い放つガザ美に対し、ハサミを上下に揺らしながら負けじと威嚇するカニ怪人。
「なかなか身の詰まってそうなハサミね、カニは大人しく鍋にでもなっていたらどう?」
「だ、黙れぃ! 貴様こそ無駄に肉をつけおって! 行くぞ!」
「「お、おうっ!」」
ダイナミックに揺れるアーデルハイドの胸に若干気圧されつつ、怪人らは臨戦態勢を取る。
「鬼の掌(たなごころ)に人の心を握り、神に代って闇を薙ぐ青龍の巫女・鷹合湯里……その闇を払う為、参ります!」
膨大な魔力を帯びた鬼屠の薙刃を手に、疾駆する湯里。
「洒落臭いわ! 粛正してやれぃ!」
「「おおっ!!」」
怪人の前に立ちふさがる様に進み出るコサック戦闘員。その辺にあったスコップを手に構える。
――ガキィン! ザシュッ!
一合撃ち合うと、戦闘員の脛を打ち払う湯里。
「一斉攻撃デスネー!」
――ゴッ!
「がはぁっ!!」
ぐらりとバランスを崩した戦闘員をガシリと掴むや、跳躍。スクリューパイルドライバーを見舞うホセ。
「おのれ……我々の力を見せてや――」
「世界よ凍れ」
スコップを手に何か言いかけた戦闘員だが、フリージングデスによって急速に体熱を奪うアーデルハイド。
「覚悟!」
――ドッ!
間髪入れず、小袖の槍が螺旋状に戦闘員を抉る。
「くっ……中々やるようだな。お前達はチョコの運び出しを! こいつらは俺が片付けてやるわ!」
配下の1人が瞬く間に倒されたのを見て、カニ怪人は懐に持っていたチョコを口へと放り込む。
すると、みるみるうちに巨大化してゆくカニ怪人。
「そっちがその気なら……」
カニ怪人に対抗心を燃やしたのか、命刻は近場に積んであるチョコレートを手に取ると、頬張り始める。
「な、何をしている」
「うちも巨大化すんで」
「馬鹿め! 巨大化チョコレートを探し出す事は容易ではないわ! と言うか勝手に人のチョコを食べるな!」
「けち」
残った二人の戦闘員らは、持てるだけの段ボール箱を手にすると、封鎖されていない出入り口へと向かう。
「カニさんから倒すしかなさそうですね。それー、この攻撃を見切れますか?」
あさりは速やかに判断を下すと、神秘的な歌声で旋律を紡ぐ。
「足利流威療術、臨床開始や!」
チョコを諦めた命刻もこれに合わせて、殺人注射器をカニの関節部に突き立てる。
「このガキどもがぁっ!」
――ブオンッ!
巨大化したハサミを、渾身の力で振り下ろすカニ怪人。
――ガキィンッ!
「守りはガザ美ちゃんに任しねぇ」
WOKシールドでこれを受け止めるガザ美。
「OH! ぱーんっ」
「ぐっ!?」
のみならず、そのままシールドバッシュで反撃を見舞う。
「一気に片付ける」
「はい。その闇……浄化します!」
フラトリサイドを手に、怪人の死角へ潜り込む恢。湯里も同時に間合いを詰めると、それぞれ左右の足(下半身は人間同様二本足)に、渾身の一撃を見舞う。
「おのれちょこまかと……!」
「ノースシー(north Sea)のクラブは実がしまってて美味しいデース。um? 食べられないデスカ? Oh……」
せっかくこんなに大きいのに、と若干落胆しながらホセは、体重を乗せたドロップキックを繰り出す。
「ぐうっ……この程度で!」
多少よろめきつつも、体勢を立て直すと、両腕のハサミを思い切り振り回すカニ怪人。
――ドガァッ!
叩きつけられた爪によって、錆び付いていた大型機械がグシャリと潰れる。
「遅い!」
「援護するわ……刈り取る」
素早く死角に回り込んだ小袖が妖冷弾を放つのに呼応し、デスサイズを振るうアーデルハイド。
――ザンッ!
「ぐわあぁぁーっ!!」
凍り付いた腕部が、咎人の大鎌によって切断される。
「まだ……せめてチョコレートの運び出しが終わるまで、貴様らを通しはせん!」
「流石はカニさんですね、硬い鎧です。でも私達も負けません!」
もう片腕の間接部を狙い、斬影刃を放つあさり。
「くっ?!」
「うちの炎は甘ないで!」
――ドシュッ!
ぐらりとよろめいた怪人の眉間に、炎を纏わせた殺人注射器を突き立てる命刻。
「む、無念……ロシアンタイガー様……」
――ドカーン!
灼滅者の集中攻撃によってついに倒れたカニ怪人は、お約束のように大爆発を起こして跡形も無く砕け散ったのだった。
●
「こんだけあれば、大半は確保出来たと思ってええやろね」
その後、買い出しから戻って来た戦闘員達も順次倒し、大量のチョコレートを確保した灼滅者達。命刻は先ほどから、段ボールの中身を物色している。
半数の確保が作戦の成功ラインと考えれば、大成功だろう。
「ガザ美ちゃんの夢はもっともっと成長して100メートルくれぇ大きゅうなる事なんじゃ。じゃけぇ大きゅうなれるチョコゆんは興味あるでぇ」
ガザ美はいくつかのチョコを口に放り込むが、さすがに変化は無い。それ以上大きくなってどうするんだろうと思わせるスタイルではあるが。
「そうね。甘いものは嫌いじゃないけど、流石に量が多すぎるわ」
と、こちらも十分に大きい(謎)アーデルハイド。
「外部に漏れたら大変ですし、出来るだけ持って帰っちゃいましょう」
「そうだな、幸い力持ちも居る事だし」
あさりの言葉に同意すると、小袖は男性陣へ視線を移す。
「Oh……コンナニたくさんのチョコがあると困りマース! これは、恵まれない子どもたちに配りまショウ!」
ホセはそう言うと、軽々段ボールを抱え上げる。
「恵まれない子……やっぱり絵梨佳のお土産にするかしら」
「そうだな。害がなければ、有朱の土産としようか」
出発前の絵梨佳の様子を覚えていたのか、アーデルハイドと恢もそれぞれに段ボール箱を持ち上げる。
「これで巨大化チョコの謎を解き明かせればいいのですが……」
思案気な表情で出入り口の扉を開ける湯里。
兎にも角にも、巨大化チョコの大量搬送を阻止した灼滅者達。
今後の動きから目は離せないが、一先ずその目論見の一角を挫いた彼らは、北海道を後に帰路に就いたのだった。
作者:小茄 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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