血刀

    作者:立川司郎

     その日、俺は闇に墜ちた。
     祥一郎兄さんは、何でも抱え込んでしまう人だから。そう、妹は言った。
     祥一郎は真面目すぎる。そう、親父が言った。分かっている、俺は妹と違って、親父の『一水流抜刀術』を自分のものにできなかった。
     俺ができるのは、ただ習ったことを辿るだけ。
    「始、おまえはわたしの祖父の剣に似ている」
     親父はいつもそう妹に話していた。そう話す親父の目は俺に話す時よりもずっと優しく、どこか懐かしそうにしていたっけ。
     なぜだ?
     俺は言われた通りにした。
     俺は祖父の残した書物も、道場に代々残る一水流の書物も全部読みあさった。それでもなぜ、妹に勝てないというんだ!
     心の均衡を保っていたのは、ただ妹の言葉だけであった。『兄さんの剣はまっすぐだから、私は兄さんの剣が好き』だと。
     大切な妹と、そして超えられない妹と。
     俺はその狭間で苦しみ続けた。

     ポタリと血が滴った。
     心の均衡が崩れたというのに、俺はどこか満足だった。
     いつからだ、こうなってしまったのは。
    「俺の方が一水流を大事にしていた。俺の方が、おまえを大事にしていた。俺の方が……」
     わめき散らすように、俺は妹の亡骸に叫んだ。
     やがてしんと静まりかえった深夜の道場に転がる親父と妹の骸と、そして血だまりに転がった一本の刀。
     ああ……なんだか、頭がぼんやりしている。それでもこの闇に墜ちる感覚が心地よくて、いつまでもこのまどろみに居たい気分であった。
     俺は刀を拾い上げ、しげしげと見つめる。
     黒く鈍く輝くその刀は、いつも親父が大事にしていた刀であった。道場を継いできた人間が持ち続けてきた、一水流の証であると。
    「……なんだ、単なる刀だ」
     すさまじい切れ味だとか、何か不思議な力が宿るとか、そういったものは感じられない。それなのに、この刀、この流派一つがすべてを狂わせた。
     ほんとうにこれで、取り戻せたのか?
     しらずうち、俺は笑い出していた。
     取り戻せてなんか居ないじゃないか。
     俺は全部失ったんだ。

     そして俺に、六四三という数字が与えられた。

     姫子は静かに、目を閉じて思案していた。
     窓から吹き込む風が、姫子の髪をなびかせる。それは瞑想する巫女のように、神秘的な表情であった。
     やがて静かに目を開き、一呼吸。
    「みなさんお待たせしました。……一人の少年を、救いに行ってもらえますか?」
     彼の名は、碓氷・祥一郎。
     高校1年生で、一水流抜刀術という流派の道場の息子である。母親は早くに亡くしたらしく、父親と妹と道場兼自宅に住んでいた。
     ところが、異変が訪れる。
    「同じように剣を習っていた妹さんが後を継ぐ事になったからか、それとも自分の中のもっと深い部分で何か心の変化が起きたのか分かりません。ただ、この方は妹さんもお父さんも殺して、この道場で一人苦悶しています。このまま放っておくと、さらに多くの人を傷つける事になるでしょう」
     彼はそれでもまだ、自分の心を失っていなかった。まだ今なら、完全にダークネスになってしまう前に助け出す事ができる。
     姫子は眉を寄せて、こちらをじっと見上げた。
     彼は今、道場で瞑想しているという。愛する人の骸と血に囲まれたまま、ただそこで心の整理をつけようとしているだろう。
    「ですが彼の心に宿る闇は押さえようもありません。こちらが接近すれば、おそらく迎撃してくるでしょう。……何をすればいいと思いますか?」
     言葉。
     行動。
     そして手を取る事。
    「どうやって彼を『こちら』に引き戻すかは、あなた方に任せます。必ず連れ戻してくださいね……闇に墜ちた彼は、とても手強いでしょうから、くれぐれもお気をつけください」
     彼がこちらに耳を傾ければ、力を弱める事ができるかもしれない。しかし彼の本能を揺さぶれば揺さぶっただけ、彼は手強くなるだろう。
     再び彼が、笑顔を取り戻しますように。
     そう、姫子は薄く笑顔を浮かべて言った。


    参加者
    凌神・明(Volsunga saga・d00247)
    歪・デス子(非売品・d00522)
    龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176)
    大松・歩夏(影使い・d01405)
    黒川・賽(暗闇の人形・d01686)
    森本・煉夜(高校生魔法使い・d02292)
    綾崎・騎衣(灰色の万華鏡・d05298)
    織元・麗音(ピンクローズ・d05636)

    ■リプレイ

     外はまだ日が差していた。
     庭先に集う小鳥の囀りや、木々のざわめく音といった心安らぐ環境音ですら、一歩同情に足を踏み入れればかき消されてしまうような気さえ湧いてくる。
     かの少年は、ただ道場に座して瞑想していた。
     周囲の血だまりは少し乾いていたが、そこに転がった骸は生々しい。最初に踏み込んだ龍海・柊夜(牙ヲ折ル者・d01176) は、そろりと静かに進んで足を止めた。
     何と声を掛けようか、相手の様子を伺いながら考え込む。
     慎重にならねばと思えば思う程、柊夜の口から言葉は出てこなくなった。その沈黙を破ったのは、大松・歩夏(影使い・d01405)であった。
    「ちょっと邪魔するよ」
     と、歩夏はふらりと知人の家に立ち寄ったかのように声を掛けたのである。
     道場の空気が、ふと変わった。彼女に続いて入った綾崎・騎衣(灰色の万華鏡・d05298)も、ぐるりと上々を見回すとほっと息をついて笑った。
    「古いが、よく使い込まれた良い道場だね」
     人が入ってきた事には気付いていたであろうが、物怖じしない歩夏や騎衣の態度に祥一郎の意識が少し、現実に戻されたようだ。
     振り返った祥一郎のその顔は、二人の方をじっと見ていた。
    「……何だ」
     短く、低い声で彼が問う。
     最後に道場へと入った黒川・賽(暗闇の人形・d01686)は、即座に攻撃に入るべきか周囲の意見を求めるように見回した。話を聞いた限りでは、いつ攻撃してきてもおかしくないが……。
     周囲に合わせて動かねば、単独で突っ込むのは危険極まりない。賽の視線に気付いたのか、歩夏が口を開いた。
    「さて、ちょっと話を聞いてもらいたいんだ」
     言い終わるか終わらないかの間で、祥一郎が切り込んできた。すんでの所で歩夏はそれを彼女の『影』で受け止めると、ふと笑った。
     ……ああ、怖いのか。
     そうだよな。
     小さく歩夏は呟いたが、それはきっと聞こえては居まい。再度振り上げた刃、今度は避けきる事が出来ずに歩夏の肩を抉った。
     彼女の闇と、したたる血が混じり合うように地面に零れる。
    「全員展開しろ! ……お前等は下がってな」
     歪・デス子(非売品・d00522)と森本・煉夜(高校生魔法使い・d02292)をちらりと見て、凌神・明(Volsunga saga・d00247)が叫んだ。道場の扉前にいた賽は、すぐにデス子を後ろに引き下げる。
     煉夜が下がったのを見て、賽はようやく刀を引き抜いた。
     まあ、こっちの方が話が早い。
     賽はそう心中で零し、意識を集中させた。

     周囲に、ミストが広がってゆく。織元・麗音(ピンクローズ・d05636) から流れ出た、ヴァンパイアの魔力が含まれた霧である。戦いへの本能を奮い立たせる、高揚感が胸を揺さぶる。
     祥一郎の左右を明と歩夏が挟み、その周囲から攻撃の隙を三名が伺う。柊夜は前衛のフォローの為に一歩下がっていたが、歩夏が話を続けるつもりであるのは柊夜にも分かって居た。
     早い……上に重い。
     歩夏と明を相手にする祥一郎の剣を見て、柊夜は刀を握りしめる。死と血の臭気に包まれた殺気が、周囲を包み込んでいく。
     祥一郎を食い尽くす為に。
     そして、自分の精神を研ぎ澄ます為に。
     ここに潜む『闇』の正体を、柊夜本人は知っている。
     ここに広がる『闇』に潜むものを、仲間も知っている。だから、ここにいるのだ。だから、連れ戻そうと思ったのである。
    「まずはお手並み拝見といきましょう」
    「どうかな」
     歩夏はそう柊夜に返すと、祥一郎の切り裂いた刃を『影』で掴んだ。掴みきれず、体を貫かれる。死を覚悟した人間の剣ほど重くて嫌なものはないな、と歩夏は苦笑いを浮かべる。
    「あんたがどれだけ努力していたか、親父さんだって妹さんだって分かって居た。だから親父さんは、その子を選んだんじゃないのか。お前に、妹の方を向いてほしくて……」
     支えて欲しくて。
     二人で頑張って道場を護ってほしいと、そういう思いがあったんじゃないかと歩夏は問いかけた。歩夏なりの考えであり、そうであって欲しいという願望……もあったかもしれない。
    「それじゃあ、結局俺はあいつのオマケにしか過ぎないじゃあないか。俺には何一つ残らない。奪い返す方が、遙かに楽だった」
    「違う、そんなのは苦しいだけだ」
     歩夏は叫んだ。
     1か0かしか選べない、そんな性格だから恨むしかなかったのだろう。でも、何もかも捨てる事が出来る程器用じゃないんだな。
     歩夏の刃は、まだ祥一郎に届くと思っていたからわずかに加減をしていた。その隙を、祥一郎が貫く。
     少しずつ祥一郎の刃は歩夏の手足を切り、動きを鈍らせていた。暗い闇の底のような目が歩夏を見つめ、刃をぎらりと光らせた。
     しかしその間に割って入ったのは、明であった。
     ふうっと息を吐いて、チェーンソーの剣を突き立てる。
    「盾にならいくでもなってやる。だが……」
     これ以上手加減するのは無理だ、と賽が明に続いて言った。手加減は性に合わないし、説得を考えずに戦う方が余計な事をせずに済む。
     明が剣を振り上げると同時に、賽は刀を抜いて踏み込んだ。多方向からの攻撃に対して、祥一郎はよく立ち会っていた。
     周囲の状況をよく見ている。
     実は騎衣も、説得しつつの攻撃ではなく全力で立ち向かう方が良いと思っていたから、賽が痺れを切らせてくれて助かった部分があった。
     大なり小なり、殺しの技を持った自分達殺人鬼は、自分の中の殺意というものと戦わずに生きられない。
    「戦うのは楽しいかい? そうだろうとも、よく分かる。だが、墜ちてしまえば君の心からは本当に何も無くなってしまう」
     少なくとも、今はまだ人の心が残っているじゃないかと騎衣は言った。唇をかみしめているように見える祥一郎に、騎衣の糸が絡みつく。
     糸をふり払うようにして、祥一郎は奮迅していた。
     ならば。
    「戦って戦って、言いたい事言いたい人の分まで動くだけさ!」
     じわりじわり、と騎衣の糸は祥一郎に迫った。

     ひたすら、黒死斬を打ち込み続けた歩夏の剣が鈍ってきたのは、暫くしてからであった。見切った祥一郎の剣が歩夏を捉えると、歩夏の体がぐらりと傾いだ。
     体勢を崩した歩夏への追撃を、明が止めに入る。明の拳も血に染まっていたが、麗音は龍砕斧を横凪ぎに振り込んで祥一郎の懐に踏み込んだ。
     躱されたと見ると、麗音は身を引きつつ歌声を漏らす。凜とした声で、呼吸に合わせて一呼吸、二呼吸麗音の歌声が流れ出す。
     だが祥一郎は全く声に耳を貸さず、麗音に上段から剣を振り下ろした。袈裟懸けに上からざっくりと斬りつけられながらも、麗音は片手に斧を引きずって笑む。
    「やっぱり、私の『声』では貴方を動かす事は出来ないようです」
     ならばと麗音はひたすら、攻撃に徹する事にした。この攻撃が鈍るまでは、ひたすら斧を振るう。ただ、麗音が砕くか祥一郎が倒れるか、その為に全てを尽くそう。
     戦いを本分とする麗音では、そちらの方が心地よい。
     切り結ぶ麗音の耳に、柔らかな旋律が流れる。
     背後で、誰かが歌っているようだった。
     これは……童謡?
    「ふざけてるのか」
     祥一郎がそう苛ついたように言ったのも無理はない。
     デス子が歌っていたのは、子供の頃に聞いた童謡だったのだから。デス子の歌は麗音の傷を癒し、そして聞いていた仲間の心をすこし和ませた。
     デス子は歌を止め、手をポケットに入れたままじっと祥一郎を見据える。
    「今の貴方に、歌を馬鹿にする権利はあるのデスカ? ……なんて」
     ぺろりと舌を出して笑うと、デス子は不敵な笑みを浮かべた。
     曰く。
     確かに歌は稚拙であるが、仲間を支える事は出来ると。
     曰く。
    「あなたのその刀、中身のない空っぽデスネ。……デス子さんには剣の流派とか全然分かりませんケド。でも託される刀、受け継ぐべき物トハ、形ばかりの刀なんかじゃなくて、心。意志だったのではありませんカネ」
     武器を構える事もなく、デス子はただじっと祥一郎を見据えていた。
     その刀をナマクラだと言い、デス子は笑う。
    「今はそのナマクラが、あなたの手に収まっていまスネ。父や妹の気持ちが込められた、唯一残った刀。それを破棄するつもりデスカ」
    「そもそも、その力すら貴方自身のものではありませんしね」
     麗音が肩をすくめて、言った。
     これだけの人数を相手に渡り合ったのは素晴らしいが、それは自分が培ってきた力ではなく『別の何か』の力だと麗音は思っている。
     確かにその力は魅力ではあるが、その先に幸せなど待っていない事は重々承知していた。
    「そんなものなど無く、純粋に斬り合う方が楽しいというものです。……それと」
     くすりと笑い、麗音はちょいと指した。
    「その苦悩している顔が、とても素敵ですよ」
    「戯れ言を!」
     斬りつけた祥一郎であったが、麗音やデス子の言葉に心が揺らいだのかもしれない。少し、その表情が和らいで見えた。
     さて、ここからが本番である。
     斧を構え、麗音は賽の後ろに着いて声を掛ける。
    「さて、後は楽しむだけって訳ですね」
    「お前に合わせる事を期待するな。俺は刃を交えるのが勤め、言葉を交えるのは他の連中の役目だ」
    「だったら同じでしょう」
     同時に二人は飛び出すと、麗音が斧を振り下ろした。それが避けられる事は、麗音は百も承知である。
     すうっと懐の剣を引き上げて、麗音の体を貫く……刀が抉る感触と同時に、麗音の前にいた祥一郎の表情が変わったのが見えた。
     彼女の攻撃に気を取られた隙に、賽が祥一郎の背後に回り込んだのである。賽の一撃は、仲間の囮あってのもの。
     連携攻撃には不慣れであるが、賽もようやく呼吸を掴んできた。
    「……お前の剣も、見えてきた。一水流抜刀術とは、柔の性質。だがお前は剛の性質……水のように柔軟な性質がないお前では、先代のまねごとしか永遠に出来やしない」
     賽も、戦いを通してしか相手に何かを伝える事は出来ない質である。しかし、戦いを通して知った事もあった。
     切り裂いた一撃は、賽からの言葉。

     振り払うような咆哮が、道場をビリビリと振動させる。
     意識を集中させ、再び祥一郎が刀を腰に据えて一水流の構えを取った。先ほどからバスタービームで様子を見ていた煉夜であったが、相手の動きが速くてなかなか捉えきれない事は気に掛けていた。
     ここにきて少し彼の精神が落ち着いてきたように見えるが、こちらも大分疲弊している。
    「同時に腕を狙って、剣を鈍らせる。抜刀は相手の方が早くても、その後には隙があるはずだ」
     煉夜は賽に言うと、彼の後ろから祥一郎に向けてライフルを構えた。下がるなら下がって撃て、と賽は言ったが、煉夜は相手の足止めをする為にここに残るつもりであった。
     もはや我が身の傷を心配している段階ではなく、総攻撃で落とした方が早い。
    「心配ない、まだ倒れるつもりはない」
    「……」
     賽が無言で斬りかかると、煉夜がその背後に隠れるようにしてライフルを撃ち込んだ。祥一郎の刀が鞘から抜き放たれ、賽の手元を切り裂く。
     一瞬反撃が遅れたものの、賽はするりと横に躱して煉夜の射線から逸れた。祥一郎も相手を変え、斧で斬りかかった麗音の攻撃を返し手で払うと、明と組み合った。
     祥一郎の動きを追いつつ、煉夜は痺れをきらしたように声をあげた。
    「お前が望んでいたのは、本当にこんな事だったのか! 足下を見ろ!」
     煉夜の声を聞き、祥一郎がちらりと見ると道場の端に父親と妹の骸が横たわっていた。これが失ったもので、永遠に戻らないものだと煉夜は言った。
     失った物は取り戻せなくとも、まだ運命に抗う事は出来る。
     墜ちるか墜ちないかの境目に居るなら、救ってやりたい。これ以上誰かが悪夢を見るのは沢山だった。
    「お前の剣は本当に真っ直ぐだ……だから、その剣を穢すな」
     煉夜に見えていたのも、多分闇に墜ちていく感覚。誰かがそれに墜ちるのも、自分が墜ちるのも御免被る。
     煉夜のライフルが祥一郎に降り注いだ。
     失ってしまった事、奪ってしまった事。
     彼を見ていると……どうにも放っておけなかった。
     祥一郎の刀が、明の横をすり抜けて煉夜に迫る。回避は出来そうにない……が、煉夜の視線には明が見えていた。
     刀を振り下ろすより先に、明の拳が祥一郎に叩き込まれていた。
    「いいか、家族の死を無駄な結末としたくないのなら、完全に闇に呑まれることは許さない。自分の罪を忘れるなど、手にかけた相手を貶める行為だ」
     だから、辛くともその嘆きを忘れるな!
     祥一郎の振り上げた刀は、からんと手からこぼれ落ちた。

     気がつくと、祥一郎の側に明がしゃがみ込んでいた。飛び起きた祥一郎の肩を押さえて落ち着かせると、明はにんまりと笑みを浮かべた。
    「よう、目が覚めたか。まだあちこち痛いだろうから、無理して動くなよ。……ま、こっちも大分痛めつけられたからキツイぜ」
     ひたすら盾として体を張っていた明と歩夏の体は、他の誰よりも傷だらけになっていた。だが一番元気そうなのも明であるが。
     明は仲間に何かあった場合、どうやってでも阻止しなければと気負っていた。
     しかしそれが杞憂に終わって、ほっとしていた。どうあれ、今の祥一郎には先ほどまでの殺意は感じられず、闇墜ちからも救われた。
    「お前は人間なんだ、泣きたければ泣けばいいし悔やみたければ悔やめばいい」
     そっと顔を道場の端に向けると、そこで騎衣が妹や父親の服を払っていた。そっと寝かせ、ちらりとこちらを振り返った。
     安堵させようとしたのか、騎衣が少し表情を和らげる。
    「君は全てを失ったと思っているようだけど、苦しんでいるというのならそれは人の心が残っているという証左になるだろう」
     騎衣の側の遺体はとても穏やかな顔であった。
     祥一郎はじっと二人の顔を見て、ただ蹲るようにして涙を流したのだった。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2012年9月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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