栃木県宇都宮市は広い。
広いが、市街地と呼べるエリアは意外と小さい。駅から車で少し外れれば、そこには田や畑が広がっている。
さらにドーナツ化現象が拍車をかけており、まあつまり何が言いたいかというと、人の目を盗める所なんていくらでもあるという事だ。
「フッフッフ、随分と集まったようだな」
「ダー!」
市中心部から少し離れた倉庫のような建物で多数の人影が蠢いていた。
一段高い場所からそれを指揮しているのは顔が麺の塊のような――いや、これは焼きそば。焼きそばの塊の頭部に黒いサングラスを掛けた、どう見ても怪人であろう男。
「宇都宮餃子怪人は散ったようだが、所詮奴は捨て駒。ロシアンタイガー様とグローバルジャスティス様の為に犠牲となったのは光栄だろうが、な」
「ダー!」
指揮されているのは皆お馴染みコサック戦闘員。
コサック戦闘員は10、いや20はいるだろうか。
それぞれ外から段ボール箱を搬入していたり、中身の確認、あるいは詰め替えをしている者もいる。
「これだけのブツが揃えばこの俺、ロシアン宇都宮焼きそば怪人によりこの世界が征服される日も近いだろう」
「ダー!」
自らをロシアン宇都宮焼きそば怪人と呼んだ怪人は、箱の中から何かを1つ取り出した。
まさか非合法的な危険物だろうか。健全なメディアでは発信できない何かだったら困るのだが。
「フッフッフ、包装紙の上からもわかる甘露な芳香。たまらないな」
「ダー!」
「このチョコレートってヤツは」
超健全物質だった。
「この中にいくつの巨大化チョコが入っているのか、今から楽しみだな」
「ダー!」
「ところで」
ロシアン宇都宮焼きそば怪人は側近らしきコサック戦闘員に真剣な口調で尋ねた。
「領収書は貰ってきたのだろうな?」
「……理解できませんね」
武蔵坂学園の高層階、その一室で高見堂・みなぎ(中学生エクスブレイン・dn0172)は平坦な表情で呟く。
「……なぜ、わたしの所には全身をチョコでコーティングした女の子が来なかったのでしょう」
普通来ない。
「それはそうと……バレンタインデーチョコを狙うご当地怪人たちは撃破されたようです。灼滅者の皆さんはお疲れ様でした」
何故かバレンタインデーのチョコだけを奪おうとしていたご当地怪人。
その中にはなんとそれを食し、巨大化した怪人もいた。
「怪人はピンチになると巨大化するのはお約束ですが……現実でそれをされるととても迷惑です」
特撮の世界では毎週街が甚大な被害を受けている気がするが、次の週にはなかったことになっているケースが多い。
「……実はその事件、全て『囮』だったようですね」
ご当地怪人たちを目立つ所で暴れさせ、それを隠れ蓑にして裏で別の作戦を遂行していたようだ。
実に怪人らしい事をしてくれるものだ。
「今回はロシア化したご当地怪人が主導して動いているようなので……こちらが本命の部隊、というわけでしょうね」
やっている事はやはりチョコ集めだが、その規模はバレンタインデーの比較にならない。
集め方、数がとてつもないのだ。
「……その方法といえば、バレンタインデー後、売れ残ったチョコを安価で大量に購入しているようですよ」
安価で、『購入』……。
「……お店はウハウハですね」
変な所が律儀だ。
とにかく大量にチョコを集めているという事は、怪人を巨大化させるチョコを集めているという事実に他ならない。
「なので、皆さんにはロシア化したご当地怪人……今回はロシアン宇都宮焼きそば怪人、ですが……これにチョコを持ってどこかに行ってしまうのを阻止して欲しいのです」
場所は宇都宮市の中心部から少し離れた倉庫。
周辺には建物がぽつりぽつりとある程度で、人通りは少ない。
倉庫にはコサック戦闘員21体が配備されている。が、それら全てが常駐しているのではない。
コサック戦闘員は7体1チームとなり、各所からチョコを運び込んでいる。
最低でも1チームは倉庫で作業しているようだ。タイミングさえ掴めば倉庫内の人数が少ない時に強襲もできるだろうが、時間がかかれば戻ってきた戦闘員に囲まれてしまうデメリットもある。
「……薄手となった倉庫を狙って殲滅するか、外に出てきた戦闘員から倒してしまうか。それは……お任せします」
ご当地怪人だけ倒してしまえば後は烏合の衆なので、一点集中という手もある。
「今回の作戦はあくまでも『チョコレートの奪取阻止』なので、戦闘を避けてチョコだけをどうにかする方法もありますよ」
倉庫は大きく2フロア存在する。
1つは正面に大きなシャッターがあり、両側面に1つずつ扉がある倉庫スペース。
かなりの広さがあるが、棚などがあり死角は多い。
両側面の扉から入っても棚や壁によりすぐには気付かれないだろう。
シャッターはつねにフルオープンであり、戦闘員はそこから出入りしている。
ロシアン宇都宮焼きそば怪人もこの倉庫スペースにおり、シャッターから最奥部の壁際に鎮座している。
2つ目のフロアはロシアン宇都宮怪人が背にしている壁の奥、事務所スペースになる。
こちらは狭い。倉庫と出入りする扉の他、外に通じる非常口もある。
「……どうにかして見つからずにチョコを掠め取ったり、食べたり、壊しちゃったりする方法ですね」
チョコは倉庫フロアの中心部に集められている。
ロシアン宇都宮焼きそば怪人は常にそれを見ているわけではなさそうだ。
「チョコの数は段ボール箱にして100箱はあるでしょうから、全てをどうにかするのは難しい上に……チョコを溶かしたり粉々にしても巨大化する力が失われるかどうかはわからないんです」
ロシアン宇都宮焼きそば怪人の強さはそれなりに強く、また巨大化もされる可能性もある。
戦闘を行う場合は十分に気を付けたい。
「……そんな感じで、皆さんのご武運をお祈りします」
みなぎは頭を下げると、
「あと、もし全身チョコまみれになりましたら……その写真をわたしまで送付してください」
どうでもいい一言を添えた。
参加者 | |
---|---|
陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760) |
長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287) |
狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782) |
星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321) |
阿久沢・木菟(灰色八門・d12081) |
比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994) |
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372) |
八重沢・桜(咲かずに散る・d17551) |
●おんみつ!
倉庫から威勢良く飛び出したコサック戦闘員たち。
その目的は市民を恐怖のドン底に叩き込む悪事――ではなく、チョコの大量購入。
戦闘員はそれぞれ楽しそうだったりちょっとダルそうだったり、微妙にバラついた足取りで市街地へと向かっていく。
ふと、列の中頃を歩いていた戦闘員が後ろを振り向いた。
おや、何人かいた筈の仲間がいない?
深く考えずに戦闘員は再び正面を向く……事はなかった。
「こういうのっていかにも工作員って感じだな!」
遮蔽物に隠れる長谷川・邦彦(魔剣の管理者・d01287)は周囲の警戒を怠らないようにしつつ、どこか楽しそうに心情を吐露する。
「特に比良坂の倒しっぷりがサマになっててもう、な」
「これは昔取った何とかってやつかな」
殲術道具を暗器のように扱い、戦闘員に組み付いて音も無く倒していくなど、実にステルス性に長けた戦い方を見せた比良坂・逢真(スピニングホイール・d12994)。
ふと、逢真は思い出したように呟く。
「そういえば、こいつら別に何一つ違法なことも悪事もしてないよな」
「言われればそうやね。チョコも奪うんと違くてちゃんと買ってるみたいやし」
小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)も腰に手を当て、同意するように頷いた。
「まぁ、そんなん関係なく全力で潰すけどな」
「そうだね。所詮は戦闘員や怪人だし」
そこへ倉庫を偵察していた狗神・伏姫(GAU-8【アヴェンジャー】・d03782)が現状を報告する。
「こちら伏姫。倉庫に動きの変化は確認できない」
何故か片膝を付き、片手を耳のあたりに置きながら。
「ありがとう、狗神さん。つまり、今のところ倉庫にいる怪人たちには気付かれていない、と」
一先ず最初の仕事は成功したと星野・優輝(戦場を駆ける喫茶店マスター・d04321)は安堵する。
灼滅者たちがとった作戦は、まず外に出てきた戦闘員らを殲滅してから倉庫に突入するというもの。
倉庫側に悟られては迎撃態勢を整えられるかあるいは逃亡されてしまうだろう。
「しかし電話は不通のようでござるな。これを使った妨害工作もと考えたでござるが……」
阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)が残念そうに首を振る。
どういった経緯で怪人が倉庫を使っているのかはわからないが、暫く使われていない空き倉庫を使ったのであれば電話がないのも仕方のない話だ。
「地下通路も確認してきたんだったな」
邦彦の問いに木菟が首肯する。
「地下からの脱出は定番でござるからな。この周囲には大きな地下道はなく、ここから一番近いマンホールはあれでござる」
灼滅者たちがいる場所から近い位置にそれはあった。
「下水道に通じているでござるが、人が通るのは困難でござる。一応、簡単に開かないように細工はしておいたでござるよ」
「これで逃走ルートが1つ減ったね。それにしても、移動用の車くらいあるかなって思っていたんだけど」
陽瀬・瑛多(中学生ファイアブラッド・d00760)は一度言葉を区切り、倉庫の駐車スペースを見る。
「そもそもこの辺りに車が1台も停まってないなんて、かなり意外だったよ」
栃木県は車がないと通常の生活にかなりの支障をきたす程の車社会。
特にこの倉庫の周辺にはバス停や駅もなく、公共交通機関も当てにできない。そもそも戦闘員や怪人がバスやタクシーに乗って移動というのはそれこそシュール極まる。
「戦闘員さんも歩いて買いに行っていたみたいですし……車を買うお金までチョコに充てているのでしょうか……?」
先程倒した戦闘員を思い出す八重沢・桜(咲かずに散る・d17551)。
倉庫の中に車両が隠されているのではとも考えられるが、エクスブレインの話にはそういった情報がなかった事からその可能性は排除してもよさそうだ。
では、集めたチョコも自分たちの脚でどこかへ搬送するつもりだったのだろうか。とことんよく分からない怪人だった。
「でもタイヤの空気を抜いたりする手間がなくなったのはよかったよ」
「そうですね……いつもう1グループが戻ってくるかわかりませんし……」
実は1度彼らは買い出し集団を見送っている。
その第1集団から暫くしてから出てきた第2集団を今しがた倒したのだ。つまり、破壊工作をしている間に第1集団と鉢合わせになってしまう状況にもなり得たのだ。
「噂をすれば、とはこの事だな」
遠方を偵察していた伏姫の声に、一行は声を潜めた。
「数は7。間違いなく始めに出て行った配下だ」
まだ倉庫まで数百mはある道を怪しげな一団が手に手に段ボール箱を抱え、歩いている。
「本当に歩いて運んでるんだ……」
こっそり様子を窺う瑛多はどこか感心したように呟いた。
健脚なのは、しかし灼滅者にとっても好都合。
集団は徐々に近付いてきて――。
「さっきの通りにやれば上手くいく。ミッション・スタート!」
優輝の合図に、静かなる襲撃者たちは行動を開始するのだった。
●濃厚ソース(ただしロシア分は稀薄)
「遅い。遅いぞ!」
灼滅者たちが2度目の戦闘を始めてから暫く。
倉庫内ではロシアン宇都宮焼きそば怪人が焦れていた。
「購入遊撃班の帰還予定時刻はとうに過ぎているぞ。まさかどこかで道チョコ、もとい道草でも食っているのではなかろうな!」
怒気の篭った声に付近の戦闘員は「さあ」といった様子で肩をすくめている。
「そこのお前、様子を見てこい!」
「ダー!」
指名された戦闘員は手をビシリと挙げると、駆け足で倉庫の外へと飛び出した。
そして飛んでいった。
「……ん? アイツ空飛べたのか」
「んなワケあるか!」
「むう!?」
思わぬツッコミに周囲を見渡す怪人。
その声の主は、倉庫の入り口に立っていた。
「さぁさ、死神様のおでましやでぇ!」
身の丈をも超える程に大きな鎌を軽々と振り回し、小町は宣戦布告とばかりに叫んだ。
「死神だと!?」
「そう。今の戦闘員はあたいがボコした!」
「よもや、他のコサック戦闘員も……!」
歯噛みする怪人に邦彦が煽る。
「はーっはっはっ俺達の作戦に引っかかったな。その通り、全て倒した!」
これで諦めてただ撤退してくれればそれでいい。
が、やはり往生際は悪いようで。
「こうなれば長居は無用。総員、持てるだけ持って撤収!」
「それを持って行かれては困るのでな」
しかし、倉庫の隅で段ボールを被って偽装していた伏姫はそれを剥ぎ捨てると、壁際の屋内消火栓から伸ばしたホースから水を噴射。
段ボールは万能であるが、やはりそこは紙。大量の水には弱い。
戦闘員が抱えていた、あるいは置いてあった段ボールは底が抜けたり破けたりしてことごとく使い物にならなくなっていった。
「そういうこと!」
小町もまた、放水の威力が弱い場所の箱を潰していく。
「クッ……考えたな。箱が使えなければチョコは運べない、か。ならば邪魔をする貴様らを叩き潰せばいいだけよ!」
「バカめ、まんまと誘き出されたな」
「!?」
身構える怪人らを一笑に付す逢真。
「お前たちがグズグズしている間にこの倉庫内へ爆弾を設置させてもらった」
「何ィ!!」
それっぽいスイッチを見せつけられ、怪人は大きく仰け反った。
「だがその辺の爆薬なぞ我々に効くと思っているのか?」
「確かに俺達やお前は爆発を受けても無事だろう」
しかし、と逢真は口角を上げた。
「ここのチョコ達はどうなるかな?」
「き、貴様……!」
「目線を変えれば俺達って思いっきり悪人だな」
ぽそりと呟く邦彦。
無論、爆弾とはハッタリだが心理的な揺さぶりにはなったに違いない。
「フッフッフ……爆破されたとて、また集めればいい」
「倒す前に一つ聞こう」
ワナワナと震える怪人に瑛多が指を突き付ける。
「仕入先はどうなっているんだい!」
「スーパーや百貨店の安売り品、それにこの近くには問屋街があるからな……大量に安く買う事ができるのだよ」
壮大な野望を暴露する悪役のように語ったが、
「お、おう……」
「うわぁ、思っていたよりも地味」
「ふつう」
「えっと……地域の活性化に貢献してますね……!」
そりゃこんなリアクションになるのは当然だった。
「とにかく貴様ら全員叩き出してやるわ! コサック戦闘員!」
怪人の指示に灼滅者たちへと向かってくる戦闘員。
「さてと、ロシアン狩りの時間でござるな」
ガンナイフを構え、まずは軽く一発ヴォルテックスを放つ木菟。
魔力の竜巻で数体の戦闘員を薙ぎ払っていく。
「やられっぷりはまさしく戦闘員だな」
跳躍と共に一気に接敵した優輝は、細身の槍を強烈に回転させて一団を穿つ。
「お前らにチョコを渡すなんてもったいない。チョコは俺のもんさ!」
チョコは略奪だー、とヒャッハーな感じに暴れる瑛多は、2人の攻撃を耐えた戦闘員を片っ端から殴り飛ばしていく。
桜のシールドリングで支援を受けた邦彦は、残った1体を叩き斬った。
「チョコは俺達が美味しく頂いてやる。だから大人しくここから出て行け!」
刀を撫でるように手を流し、怪人に啖呵を切る。
「クッ、我がコサック戦闘員がこの短時間で全滅だと……貴様らは一体!」
応えるべく伏姫は何かのカードを怪人へと投擲した。
鋭く飛んでいったそれを片手で取ったのを確認すると、伏姫は堂々たる姿で宣告する。
「横濱より推参、伏姫THEアヴェンジャー! それは名刺代わりのSレアカードだ」
それは全国ご当地ヒーロートレカNo.000『伏姫 THE AVENGER』と表記された伏姫のイラスト入りの立派なカードに他ならなかった。これは欲しい!
「Sレア、だと……!」
「多くは語らないが、光栄に思って構わぬよ」
「ならばこちらも名刺代わりだ。受け取れ!」
とても濃い、もはやダークマターと表現するのが適切と言えよう黒いソースを発射する怪人。
それをWOKシールドで受ける伏姫。
「なるほど、これは塩分過多だの」
「悪いな、撃破させてもらうぞ」
脇をすり抜け、最前線へと躍り出る邦彦。後方への攻撃を逸らさんと積極的に刀を振るい、立ち塞がる。
「大体何でもかんでもロシアンにするのがダサいよね」
「何!」
「だからいろいろごっちゃになって群馬と一緒にされるんだよ!」
不自然に濃いソースを一瞥して、デモノイドの力により刀剣化した腕を叩きつける瑛多。
北関東3県は非常に混同されやすい。解せぬ。
「余り物の安物で巨大化出来るとは思えないけどなぁ」
「侮るか、貴様!」
やはり前線に飛び込む逢真は杭打ち機を、怪人は焼きそば状の鞭を互いに振るい、交差させる。
何度か切り結んだ後、何を思ったのか怪人は後方へと下がった。
「だが……ええい、これは非常事態だ、仕方ない!」
「あ、おい!」
「逃げていったのでしょうか……」
そしてそのまま、後方に置いてあった1箱の段ボールを抱えて事務所に通じる扉を蹴り開け、奥へと消えていった。
「事務所側にも外への出入口があったな。どうする、様子を見てこようか?」
優輝の言葉に灼滅者たちはしばし思案する。逃げたものは追いかけない方針だったからだ。
その時。
「……待つでござる。何か、揺れてないでござるか?」
「地震、じゃないみたいやね」
まさか、と木菟と小町は顔を合わせ、急いで事務所を抜け、外へと飛び出した。
そこには。
「えー……」
2本の大きな柱がそびえ立っていた。
●巨大化戦はロボの販促だし
「フッフッフ、余り物の安物が何だと言ったかぁ!?」
真上から大きな声が響いてきた。
眼前の柱は怪人の脚であり、つまり。
「え、本当に巨大化しちゃったの?」
「何だ貴様、その『うわ引くわー』みたいな顔は!」
逢真の表情が見えるあたり、わりと視力はありそうだ。
「そういえば、怪人の巨大化って正直負けフラグじゃないの?」
「えっと、そうですね……ピンチになったら巨大化して、数分も経たずにやっつけられちゃいます……」
優輝の何気ない一言に、戦隊モノが好きだという桜が頷く。
人間サイズの方が苦戦するパターンが大抵である。
「……でも、私たちには巨大ロボがありませんし……」
「さあ、無力さに嘆き潰れよ!」
怪人は巨大化した麺を桜へと振り下ろす!
「怪人さん、そのトッピング……おしゃれですね……。とても素敵だと思います……!」
「む」
かと思いきや、桜の『お褒め作戦』に気を取られたのかその動きを止めた。
「見えないところには、どんな素敵なトッピングが、隠れているのしょう……?」
「心得ているな、貴様。いいだろう、貴様を倒すのは最後に――」
「あたいにも見せろぉ!」
「ぐっは!?」
その隙を小町の大鎌が断ち斬る。
桜も「これもトッピングに加えてください……!」とオーラキャノンで追い撃ち。
「ところで拙者思うんでござるけど、怪人の強さってご当地知名度に関係ないんでござるか?」
攻撃を加えながら疑問を口にする木菟。その理屈だと餃子のほうが強くなりそうなものだがと不思議に思っていたようだ。
「それは焼きそばがマイナーだと言いたいのか!?」
「平たく言えばそうでござるが――」
「許さん!」
「沸点低いでござるな! カルシウムが足りないでござるよ!」
「流石に牛乳味は売れんだろ!」
激情の一撃を何とか耐え忍ぶ木菟。
「味は気にしていたのか」
弧を描くように槍を躍らせる優輝。その先端からは光弾が射出され、次々と怪人を穿っていく。
「ちょこまかと。これでトドメだ!」
それはまるで天から突き刺される暗黒のカーテン。
ソースだ。
「フ、ご当地ヒーローに同じ技は2度通用せん。八房!」
しかし彼女、伏姫は体を傾け、するりと避ける。
そのまま攻撃態勢にシフトすると、彼女の霊犬・八房と共にご当地キックを見舞った。
それは芯から捉えた一撃となり。
「ば、馬鹿な! ロシアンタイガー様、申し訳ございませ――」
怪人は派手に爆散した。
「食っても食っても無くならない。夢のような状況だな」
「巨大化……はしなくていいから少しくらい背、伸びないかな……」
戦いが終わり、邦彦と瑛多は遺されたチョコを食べ、いや処理していた。
「色んなチョコが集まってるみたいやなぁ。お、これはあの高級チョコの!?」
「売れ残れば叩き売りされる、か。無常な世界よ」
目を丸くする小町の隣で、伏姫が目を閉じる。
(「しかし、この大規模行動に如何なる意図があったのか……」)
「当初の作戦とは異なり、灼滅したでござるが」
「問題無いと思うよ」
「結果的にほぼ全てのチョコがここに残されたのだしね」
逢真と優輝は一面のチョコ絨毯を前に、それ以上の懸念事項があると考えていた。
後処理どうしよう。瑛多たちが全部食べてしまえばそれでいいのだが。
「でも、これを食べていたらある意味巨大化しそうですよね……」
チョコを1つ手に取ると、桜が独りごちる。
「……横に……」
上手い事を言った桜は美味いチョコを恥ずかしそうに一齧りするのだった。
作者:黒柴好人 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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