伝説の彫師拠点強襲~刺青まとう者の巣窟

    作者:六堂ぱるな

     バレンタインの喧騒さめやらぬ冬の午後、召集はかかった。
     教室では眉をひそめた埜楼・玄乃(中学生エクスブレイン・dn0167)が、もの思わしげに一同を待っていた。
    「刺青持ちの羅刹事件について調査していた灼滅者たちが、刺青を彫ることで一般人を強化一般人に仕立て上げるダークネスがいる、と突き止めてきたのは知っているだろうか?」
     それは最近報告書で出回っていたので、知っているものも多かった。
     もちろん放置できるような内容ではない。
    「今回、敵に察知されない限界戦力で、一気に拠点を急襲する作戦が行われることになった。ついてはここでも参加者を募りたい」
     目標は刺青で強化一般人を生みだすダークネスの、灼滅。
     
     場所は鹿児島県の山中だ。
     人里離れた場所に作られた屋敷で、敷地内には母屋や土蔵など建物がいくつかある。中でも土蔵には福岡から連れ去られてきた一般人が捕えられているらしい。
    「敵勢力だが強化一般人が100体以上と思われ、いずれも刺青を施されている。特徴的なのは、かなり昔の軍隊のような規律で作戦行動をとっている点だ」
     さほど強いわけではないが、統一された指揮のもと、連携のとれた攻撃をしてくるので難物であろう。作戦自体はバベルの鎖によって敵に予見されない規模に抑えているが、いざ戦いが始まれば敵は通信機器で援軍を呼ぶと考えられる。むろん山中の屋敷のこと、援軍が到着するまで時間はあるだろうが、ゆとりがあるとは決して言えない。
    「諸君らには自分たちのチームが、全体の作戦の中でどんな役割を果たすのかという点を相談し、相談を詰めてもらいたい」
     
     作戦で何をするかには幾つか選択肢がある。何をするかを選び、実際にどう動くか。その確実性が高ければ作戦は成功に近づく。相手は軍隊式に組織化が行き届いているのだ、こちらも綿密さが必要だろう。
    「これ以上、一般人が刺青持ちの強化一般人にされることは避けたい。危険を冒して仲間が入手してきた情報だ、活用して……無論、皆、無事に戻ってきてくれ」
     私には、帰りを待つことしかできないが。
     玄乃はぽつりと呟いた。


    参加者
    黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)
    鳳来・夏目(鳳蝶・d06046)
    御厨・司(モノクロサイリスト・d10390)
    人形塚・静(長州小町・d11587)
    ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)
    富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)
    牧瀬・麻耶(中学生ダンピール・d21627)
    神隠・雪雨(あきゑさんに人類グシャー・d23924)

    ■リプレイ

    ●人を救うべく
     森が切れて突如現れた塀の前で、灼滅者たちは伏せていた。
     鹿児島県の山中。一般人に刺青を入れて強化一般人にしている、彫師の拠点である。
     伏せるはわずか八人。土蔵に囚われた一般人たちを救出すべく単独行動となったが、仲間との連携さえ確かなら、そう難しい任務ではない。
     彫師がいるはずの屋敷に襲撃をかける部隊と打ち合わせ、時計も合わせている。
     御厨・司(モノクロサイリスト・d10390)は時刻を確認しながら黙して待機していたが、鳳来・夏目(鳳蝶・d06046)は不愉快さに唇を噛んだ。
    (「こんな所でこそこそと……気に食わんね」)
     双眼鏡で土蔵の警備をしている強化一般人の様子を確認してみる。今も土蔵の中に囚われた人がいると思うと、怒りが湧きあがってきた。
    (「これ以上好き勝手さへんよ」)
     夏目の隣で同様に布陣を確認している牧瀬・麻耶(中学生ダンピール・d21627)も気持ちは同じだった。所持品の光が反射したり、音が漏れないよう気をつけて、手早く片付けたいところだ。調査隊が侵入した件があったせいか、報告よりは数がいる。
     相手の布陣を確認すると、あとは突入タイミングまで待つだけ。人形塚・静(長州小町・d11587)はふと、他の部隊のことが気にかかった。敵の正体や事情はまだ把握できていない。チャンスには違いないが、不透明な部分が多いのが気にかかる――どうあれ、これ以上犠牲者を出さない為には、ここで頑張るしかない。
     神隠・雪雨(あきゑさんに人類グシャー・d23924)がスレイヤーカードを解放する。
    「赤い雪に忍ぶれど……さてさて、少々強引に参りましょうか」
     仮面に忍装束。続いて皆が戦うための準備を整える。

     と、敷地の奥のほうから鬨の声があがった。
     時間も打ち合わせ通り、ここまで聞こえたからには土蔵の警備班も気を取られただろう。
     作戦行動開始だ。

     ジオッセル・ジジ(ジジ神様・d16810)は素早く身を起こすと、仲間とともに塀をひと息に乗り越えた。こんな大掛かりな作戦に参加するのは初めてだが、だからこそ仲間や他所の班との連携が重要だ。
     土蔵の前に陣取る四人、離れた場所に四人。ほとんどの者が屋敷の方を見ていたが、上官らしき化粧の派手な女と、堅気という雰囲気ではない男の二人と目が合う。
     防犯ブザーで仲間を呼ばれないよう、すぐさま富山・良太(ほんのーじのへん・d18057)がサウンドシャッターを展開した。あとは取り逃がさないよう殲滅するだけだ。
    「侵入者を発見! 総員、排除せよ!」
    「そうはいくか!」
     女の声に男たちが振り向くより早く、黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)がハインを引き連れ斬り込んだ。

    ●軍隊という過去の亡霊
     身に纏っているのは軍服、人によってはその襟元や袖口から除く刺青。どうもアンバランスな感じが否めない組織だ。疑問は胸にしまったまま、良太は姿を現した中君と前衛に立った。中君が顔を晒すと悲鳴があがる。
     高校生ぐらいのちょっとやんちゃですと顔に書いてあるような青年が二人と、あまり活発そうではない大学生らしき青年が頭を抱えているのへ、どうもぱっとしない風貌の男性が叱咤する。
    「戦線を維持せよ、新兵ども! 子供だと思って油断するな!」
    「はっ、了解であります!」
     苦痛に顔を歪めながらも、トラウマに襲われた者たちが立ち上がる。
    「探すの面倒なんで指揮官は名乗り出ちゃもらえねーっすかぁ?」
     どのみち全員ブッ倒すけど、という麻耶の言葉を無視して、ガトリングガンを構えながら指示を飛ばす女がいた。
    「数が多いわ。大尉、すぐに増援を要請しなさい!」
     彼女もまた、異色というか場にそぐわないというか、浮いた感じがする。化粧は濃く、髪も綺麗にカールしてネイルアートもしているようだ。
     しかし彼女の言葉に、男たちは誰も異を唱えなかった。それどころか鞭打つような声音に姿勢を正したほどだ。
    「了解であります!」
     防犯ブザーの音が鳴り響くが、この戦場の音が外へ漏れることはない。その返事をした男はといえば、全身で堅気ではないと主張しているようななりだった。顔には傷跡、大柄な身体を軍服に包んではいるが手にはナイフ。その手も傷跡だらけだ。
     良太はすぐさま、影喰らいを大尉と呼ばれた男へと放った。他の武装はガンナイフや日本刀、女にしてもガトリングガンだ。仲間を回復させる手段があるとすればこの男だろう。その意図を悟った静も光の輪を生みだして男へと連続でぶつけた。
     紅一点の女が銃弾を雨の如く浴びせかけてくる。被弾しかけたジオッセルの前に滑り込んだ蓮が弾を浴びながらも、霊犬ハインと大尉とやらを挟みうちにして六文銭と冷気の弾を続けざまに撃ち込む。遅れじとばかり雪雨の繰りだした神の力を宿す風の刃に切り裂かれ、男は倒れた。
    「大尉殿! おのれ、小童めらが!」
     振り返った前衛の男たちが吠える。この早さで仲間が倒れれば士気も落ちようというものだが、そうでもないらしい。
     前衛も厄介なので、ジオッセルは手近な青年へとロッドで打ちかかった。軽々と捻じ込まれたロッドから魔力が流しこまれ、青年が地面へと叩き伏せられた。追い討ちに彼女の霊犬ギエヌイが六文銭を撃つ。
     夏目を庇って鉛玉を受けはしたものの、さほどの怪我ではない司の傍らに腰までもある長い髪の少女が顕現した。縛霊手から祭壇を展開し、除霊結界を放つと同時にその少女の攻撃で、再び前衛の青年たちがのたうち回る。
    「何で力を望んだか知らんけどね、こんな振るい方は間違うとる。今目ェ覚ましたる――覚悟しぃや!」
     青年たちを叱咤していた一人へと狙いを定め、夏目は炎そのもののような燃える弾丸を連射で叩きこんだ。全身を燃え上がらせて吹き飛び、男が動かなくなる。
    「伍長殿が! 少佐殿、危険では……!」
    「怯むな! 有事の際はここの一般人どもを人質に使って止めねばならんのだ、何としても死守せよ!」
     大尉と呼ばれた男の軍服のポケットから鍵束を取りながら、女が檄を飛ばす。
     気を取り直したように青年たちが上官を援護する為に銃弾を撒き散らし始めた。その支援を受けて小太りの男がお返しとばかり静めがけて発砲したが、その火線には良太が立ち塞がった。

     女の言葉に、灼滅者たちは背筋が冷たくなるのを感じていた。
     一般人が人質として使われるのではないか。その懸念があったから土蔵の制圧を選んだのだが、判断は正しかったらしい。
     だがだとすれば、屋敷に襲撃がかけられている今、一般人を連れて行く部隊が向かってきているかもしれない。

    「急ぎましょう」
     静の言葉に異存もなく、良太は少佐と呼ばれた女目がけてオーラの奔流を放っていた。中君が遅れずコンビネーションで霊障波で挟撃する。
     怪我をした者たちには静から傷を癒す風が送られ、ジオッセルの腕の寄生体が繰り出す一撃が青年の一人を打ち倒す。主に続けとばかりギエヌイの斬魔刀もまたもう一人に傷を刻み、夏目の放った影が縛りあげて切り裂いた。
    「少佐殿、保ちません! 屋敷へ増援を求めに行って下さい!」
     どう見てもさえない中間管理職のような男の言葉に、女は少し考えたようだった。身を翻して駆け出す、その先には麻耶が回りこんでいた。
    「行かせると思うんッスかぁ?」
     言いざまのオーラキャノンが女に膝をつかせる。その背に司の放った魔力弾が食いこみ、司の傍らの少女が放つ霊撃が突き刺さり、上官を守ろうと立ち塞がる男へ蓮とハインが連携攻撃を仕掛けた。雪雨の霊魂を斬る一撃に男が悲鳴を上げる。
     ここまでくると、もう形勢は覆らない。
     女は良太にガトリングの連射で応戦したが、返す刀を食らう形で撃ち込まれた轟雷の威力に崩れ落ちた。残った二人の男も居合斬りや雲耀剣で抵抗したが、ほどなく灼滅者の前に力尽きたのだった。

    ●亡霊は未だ消えず
     女が持っていた鍵束で土蔵の鍵を開け、灼滅者たちは避難を呼びかけた、のだが。
     土蔵の中に閉じ込められていた一般人たちは、事情をまったく把握していなかった。歓楽街で意識を失って、気がついたら土蔵の中だ。これでわかれと言うのも無理ではある。中にはあまりの環境の悪さに、怒りで我を失っている者すらいた。
    「こんな臭くて狭いとこに閉じ込めやがって、ふざけるな!」
     掴みかかられた司の方は淡々としたものだ。顔色一つ変えるでも、弁解するでもない。
    「俺たちじゃない」
     襟首を絞め上げられてもそれだから、却って仲間のほうが慌てて割って入ることになった。
    「私たちは助けに来ました。安全な場所まで誘導しますので、指示に従って下さい」
     静の言葉に一般人たちが顔を見合わせる。
     交戦時の銃声などを聞いている者もいるので、危ない場所にいるらしいことはわかったようだ。だがどこをどう見ても彼らからすれば子供、ほんの少女についていくかとなるとそうも行かない。ここへは拉致されてきているのだから余計だ。
     ざわつく一般人たちへ、今度は良太が口を開いた。
    「あなた達の事情は分かりません。ですが、ここに居たら人間ではない物にされますよ。使い捨ての道具になりたくなければ、逃げてください」
     誠実な言葉ではあったが、いまいち現実感を伴って感じられないようだ。
     その時、土蔵の外で警戒を続けていた夏目から鋭い声がかかった。
    「奴らや! こっちへ来るようやね」
    「危ないぞ、扉を閉めろ!」
     同じく警戒についていた蓮の声がかかり、灼滅者たちが飛び出して土蔵の扉を閉める。
     ほぼ同時に、ばらばらと屋敷の方から軍服を着た男たちが姿を現した。
    「なんだ、何者だ!」
     驚きの声をあげる者もいたが、土蔵の前で倒れた部隊の死体を目にして一人の男が目を吊り上げた。
    「こいつら、襲撃してきた奴らの別働隊だな! 隊を組んで対応しろ!」
    「そうだ、土蔵の人質がいればまだ目はあるぞ、処理するんだ!」
     どうやら最初から一般人を連れにきたというわけではないらしい。ということは屋敷の戦いから逃げてきた敗残兵たちか。
    「上官の仇も討たずに敵前逃亡とはねぇ」
     麻耶の挑発に男たちがいきり立つ。実際に屋敷から逃げてきたには違いないので、余計に勘に障ったようだった。
    「貴様らの襲撃のせいではないか! 血祭りにあげてくれる!」
    「二等兵、一等兵、前へ出ろ!」
     そうした指示をしているほうが階級が上、ということらしい。先ほどと同じ、八人ほどであろうか。時間をかければまだ出てくるだろう。早めに指揮系統を潰して片をつけなくてはならない。
    「何処からこんな人数集めたのやら」
     ため息をつく麻耶に並び、司が呟いた。
    「始めるぞ」

     戦法は変わらず、回復役と指揮官を最初に倒す。灼滅者たちはすぐさま連携をとって攻撃を始めた。
     前に出てきた二等兵だか一等兵だかは、相変わらずうっかり拉致されて刺青を施された大学生や高校生らしい。それよりも彼らに指示を出している曹長だの、少尉だのが先だ。
     良太は中君と標的を絞り、影喰らいと霊撃で襲いかかった。静がオーラを撃ち出して日本刀を持った少尉とやらを撃ち、蓮の妖冷弾が続けざまに着弾する。ハインが前衛を務める青年に斬魔刀で切りかかると同時に、ジオッセルが鳩尾へマテリアルロッドを捻じ込んで魔力を流しこんだ。
     吹き飛ぶように倒れる青年をかすめるように司の放った影が滑っていき、少尉を切り裂いて防御力も引き下げる。
     もはや灼滅者たちの傷は、ギエヌイだけでも癒せるほどに軽い。
     麻耶が死角から回り込んで前衛の青年の身体を引き裂く。と、少尉と呼ばれたさえない男が避けられない間合いから居合斬りを挑んできていた。
    「いくぞ、小娘!」
    「させねえよ!」
     蓮が代わってその一撃を受け止める。よろけた少尉へ、雪雨が異形化した腕を振り上げた。
    「おいたが過ぎますよ」
     轟音の一閃。一撃はしたたかに入り、吹き飛んだ少尉が動かなくなる。
    「曹長殿! ご指示を!」
     うろたえた青年たちがそう訴えたが、どう見ても繁華街にいるチンピラのような『曹長殿』は青ざめて返事を返せない。

     ほどなく、敗残兵たちは一人残らず、動かなくなった。

    ●祈りを残して
     立っている敵がいなくなったのを確認して、灼滅者たちは土蔵に避難させていた一般人たちを外へと連れ出した。また敗残兵が来るかもしれないし、あの少佐とやらの言葉が確かなら、攻撃班の足を止める為にこの一般人たちを連れに別の部隊が来ないとも限らない。
     急いで一般人を守りながら撤退しなくてはなるまい。 
     駐車場にもこちらと同様、敗残兵や援軍がやってくる可能性が高いと踏んだ蓮は眉を寄せた。今交戦中だとしたら、ハンドフォンを使うのも考えものだ。
    「駐車場側から脱出できればと思ったが、森からのほうがよさそうだな」
    「隠された森の小路なら用意があります」
    「では、塀を壊して脱出しましょう」
     静の言葉で方針が定まる。良太が塀の破壊に向かい、その間に雪雨とジオッセルで一般人を取りまとめ始めた。
     さすがに先ほどの二度目の戦闘で、一般人たちも避難が必要だということは身に沁みてわかったようだ。一部話がまだわからないものもいるにはいたが、雪雨が王者の風を使うと至って素直に従う。衰弱がひどいものには夏目が手を貸した。
     静が先に立って森の植物に道を開いてもらう。弱った一般人も多い今、これで移動はかなり楽になるだろう。
    「行くぞ」
     静と共に先に立つ司の言葉に従って、避難は始まった。麻耶と蓮で周辺の警戒と追撃がないかの確認をしながら、彫師の拠点を後にする。
     足に力の入らない一般人に肩を貸していた夏目はふと振り返り、屋敷の襲撃に向かった班のことを想った。

     今は仲間を信じて、無事を祈るしかない。
     誰一人欠けることのない帰還を願っているのは皆同じだ。

    「――武運を、祈っとるよ」
     呟きだけを残し、夏目も前を向く。
     後ろ髪を引かれる思いで、救出班は一般人を連れ、彫師の屋敷を離脱した。

    作者:六堂ぱるな 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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