●依頼
くまのぬいぐるみを抱えて、千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
「刺青羅刹事件の調査をしていた仲間がね、刺青を彫ることで一般人を強化一般人にするダークネスを探り当てたんだよ」
これを放置すれば、罪の無い一般人が刺青持ちの強化一般人にされてしまう。そんな事は、許されないと思う。
「それで、敵に察知されない限界の戦力で、一気に拠点を潰して、刺青強化一般人を生み出しているダークネスを灼滅する作戦を行うんだ。その作戦に、協力してもらえないかな?」
太郎は続けて、今回の作戦の概略を説明した。
「敵の拠点は、鹿児島県の山中だよ。人里離れた場所に作られた和風の屋敷で、土蔵やいくつかの建物があることが判明しているんだ」
どうやら福岡から人間が運ばれてきているようで、土蔵には一般人が捕らえられている。敵の戦力は100体以上と思われるが、詳しいことは分からない。
「それから、この作戦は、沢山のチームが協力して行うことになるよ。自分達が全体の作戦で、どんな役割を果たすのか相談して、行動を考えてほしいんだ」
今回の作戦は、バベルの鎖によって事前に予見されない規模になっているけれど、作戦開始後に、敵が通信機などで援軍を呼ぶ可能性は高い。
人里離れた場所にあるため、援軍が来るまでには時間があるだろうけれど、無制限にあるわけではないので、速やかな行動が必要になる。
「敵の強化一般人は、刺青を施されているんだ。それで、まるで昔の軍隊のような規律をもって作戦行動を行うみたいなんだよ。戦闘力はそんなに高くないんだけど、統一された指揮の元に連携して攻撃してくるから。かなりの強敵になるかもしれないよ」
作戦について話し終えると、太郎は熊のぬいぐるみを握る手に力をこめた。
「どんな行動をとるのか、よく話し合って、みんなで協力してね。頑張ってきて!」
参加者 | |
---|---|
紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147) |
伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695) |
結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781) |
神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738) |
久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715) |
ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872) |
アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426) |
雨宮・栞(雨と紡ぐ物語・d23728) |
●突入
屋敷の門の前に、人影が見える。
先行するグループが行動を始めたのを見て、いつでも突撃できるよう灼滅者達は備えた。
やがて、轟音と共に扉が破壊される。
「カチコミじゃー!」
先のグループから、強襲の合図の声があがる。
皆が顔を見合わせ、一気に駆け出した。
「我が名に懸けて!」
アルディマ・アルシャーヴィン(詠夜のジルニトラ・d22426)がスレイヤーカードを開放する。
無理矢理刺青で従わされた者達には胸が痛む。しかし、被害を拡大させないためにも全力で任務に当たろうと思う。
「チェンジ! カラフルキャンディ!」
ソフィ・ルヴェル(カラフルジャスティス・d17872)がカードデッキを高らかに掲げた。ベルトのバックル部分にデッキを装着し、戦う姿を開放する。
「彩り鮮やかは無限の正義! ソフィ参ります!」
そのまま、足を止めず屋敷になだれ込んだ。
先行したグループの後退と入れ替わるように、広い庭に立つ。
「これほどの大人数での戦闘となると、前の戦争以来か」
メディック に位置を取った伐龍院・黎嚇(ドラゴンスレイヤー・d01695)がざっと辺りを見回した。
敵の強化一般人が50名ほど。最後尾には、鞭をふり檄を飛ばす指揮官らしき女性が見えた。
その他にもいくつか強い力を感じる。
突入してきた灼滅者を見て、指揮官が戦闘の指示を出したようだ。
勇ましい掛け声と共に、強化一般人達が行動を開始した。数人でグループを組み、指示通りに右へ左へと突撃する。その様は組織的で、聞いていた通り軍隊のようだ。
「指揮官は、あそこですね」
結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)がバベルブレイカーを構える。
どうやら、指揮官は指示を出す場所から動かない様子だ。戦いには出てこず、こちらからの攻撃も届きそうに無い。
指揮官を目指そうにも、向かってくる強化一般人達に対処しなければ。
「さあ来いよ、てめえら! 派手に喧嘩と行こうじゃねーか!」
向かってきた敵グループに、紅月・チアキ(朱雀は煉獄の空へ・d01147)が不敵な笑みを向けた。
「御神楽の聖地、やったっけ? ほな、ウチもたっぷり踊ってエエよね♪」
ひらり、舞うように神座・澪(和気愛々の癒し巫女・d05738)がクラッシャーの位置に立つ。
「とにかく、敵を引き付けなきゃ、だねっ」
久志木・夏穂(純情メランコリー・d06715)はチェーンソー剣を構えた。
狙うは潜入攻撃班との挟撃。
そのためにも、しっかりとこちらで敵を引き付ける。
「はい。今回の作戦、今後の為にもなんとしても成功させないと……」
雨宮・栞(雨と紡ぐ物語・d23728)も緊張した面持ちで向かってくる敵を見据えた。
戦いはやはり緊張する。覚悟は決めても未だ慣れる事は無い。けれど、足手まといにはなりたくない。
自分達と共に正面から攻撃をするのは、先行したグループを含めて7つ。
先行したグループは、後退して支援に回る。淫魔や六六六人衆と戦闘を始めたグループもある。その他、左側の敵に対処すべく、2グループが向かった。
自分達と、もう一つのグループで、指揮官の下突撃してくる強化一般人に対処することになりそうだ。
敵の数は多いが、戦う事を主軸に作戦を練ってきたのだ。
「さあ来るがいい、邪悪の尖兵共め。僕が神の身許に送ってやろう」
果たすべきことを果たす、それだけだ。
黎嚇の言葉と共に、激しい戦闘が始まった。
●轟音舞う戦場
最初に、4人の強化一般人が向かってきた。
「大佐の命を実行するっ!! 突撃ー」
「突撃ー」
ガンナイフを構え、迷い無く走り込んで来る。
「おおおおぉっ、いっけぇー!!」
対するチアキは、ハンマーのロケットを噴射させ、大きく雄たけびを上げた。
近づいてきた敵の突きを避け、ハンマーを勢い良く振り下ろす。
その一撃は、確実に敵を捕らえた。
「あ、……ぐ、ぁ」
吹き飛んだ敵が、回転して地面に倒れこむ。
「これで、一気にっ」
畳み掛けるように、夏穂が倒れた敵めがけて踏み込んだ。
チェーンソー剣に炎を纏わせ、思い切り振り回す。炎が派手に舞い、赤く燃え上がった。
ようやく立ち上がった敵は、炎と斬撃に翻弄され、再び武器を構えることなく地面に伏す。
「た……大佐……。くっ、我等に、栄光……あ、れ……」
途切れ途切れに最後の言葉を口にし、崩れ落ちた。
「ちぃっ、怯むな!! 目標を制圧しろっ」
しかし、残された敵の意思は揺らがなかった。倒れた強化一般人を越え、さらに攻撃が飛んでくる。
「任せてください」
敵の弾丸を浴びながら、静菜が声を上げた。
大規模な作戦に、高揚半分、心配半分な気持ちだ。情報の少ない屋敷へ潜入した班も気になる。けれど、今は自分に出来ることをしよう。
静菜のバベルブレイカーが、射撃を行っていた敵を捕らえた。
ドリルの如く高速回転させた杭を向かう相手に容赦なく突き刺す。
「は……あっ」
腕部に装着した巨大な杭打ち機は、唸る様な轟音を上げ敵の肉体をねじ切った。
「そ……っ、ず……あぁぁああ」
痛みにのた打ち回る敵を、すかさずソフィが持ち上げた。
「な……、は、なせっ……」
敵の言葉は聞かない。大きく身体を反らし、派手に地面に叩きつける。
「アメちゃんダイナミック!」
「……ぁ」
強化一般人は、一度だけピクリと身体を揺らし、動かなくなった。
「今、回復します」
栞は傷を負った仲間へ温かな癒しの光を向ける。
「ありがとうございます」
まだまだ、倒れるわけには行かない。静菜がしっかりとした表情で礼を言うと、栞も頷き返した。
「さぁ、かかってくるのです!」
敵の注意を引き付けるべく、ソフィが周囲に声を張り上げる。
その時、敵の後方から鋭い女性の声が響いてきた。
「何をしている。さっさと潰さんかブタども」
イラつきを現すように、ぴしりと鞭を地面に打ちつける。
「「はっ、大佐殿」」
指揮官の言葉に、強化一般人達の顔つきが引き締まった。2人揃ってガンナイフを構え、突撃してくる。
「さ、今日はたっぷりウチがお相手するえ♪ 踊ってズドって大暴れや♪」
その真正面に、笑みを浮かべた澪が舞う。
「まずはコレで開戦の合図と行こか♪」
ちょうど敵が一列に並んだところを狙い打った。
ズドン! と放った矢が、並んだ敵の頭上から降り注ぐ。
「ぁ……、散れっ散れー!」
敵は慌てて声を上げるが、もう遅い。2人の強化一般人を巻き込み、矢が爆ぜた。
「刺青によって従わされたお前たちをからすれば、我々は理不尽に見えるだろう。だがこれ以上犠牲者を出さないためにも、此処は押し通らせてもらおう!」
「なにをっ」
傷を受け逃げ腰になった強化一般人に、アルディマが迫る。構えたクルセイドソードで、敵の霊魂を破壊した。
「裁きの光を受けるがいい」
続けて、黎嚇が裁きの光条を放つ。
「く……ぁ」
2人の強化一般人が崩れ落ちた。これで、向かってきた強化一般人は全て倒した。どうやら、隣で戦っているグループも敵を撃破したようだ。
アルディマと黎嚇は、奥に立つ指揮官を見る。
しかし大佐と呼ばれた指揮官は、すぐに次の配下に指示を出した。
「ええーい。次! 第二隊準備、突撃せよ!」
「了解。突撃ーっ」
大佐の鞭が地面を打つ音が響く。
次の敵が隊列を組んでこちらに向かってきた。その後ろから、新たな強化一般人が駆けつけてくる姿も見える。
「これは、長い戦いになりそうだな」
「そうだね。でも、頑張ろうっ」
チアキと夏穂の言葉に、仲間達は武器を構え直した。
●仲間達
くのいち装束から覗く肌に珠のような汗を浮かべ、澪がしなやかに腕を伸ばす。傍らにはたつまきを放つらぴらぶ(ナノナノ)の姿。夏穂が影を伸ばし、ソフィがフォースブレイクで止めを刺した。チアキの強烈な閃光百裂拳が敵を打ち、アルディマが敵の真ん中で剣を振るった。
静菜の影が敵を捕らえる。その隙に、黎嚇と栞が仲間の傷を癒していった。
一対一では決して負けない。攻撃を二つ三つ重ねれば、敵個体は確実に撃破できる。
しかし――。
「また来ます」
栞の言葉を受け、再び攻撃の態勢を整えた。数人の強化一般人を倒した途端、新しい敵がこちらへ足を向ける。
庭に突入してから、ずいぶんと時間が経った。軍隊のように統率の取れた敵は、指揮官である大佐の命令の下、戦力を小出しにしてくる。向かってくる敵の対処に追われ、灼滅者達はこれ以上進むことが出来なくなっていた。
あの指揮官を倒すことが出来れば、場を混乱させることが出来るのかもしれないが、どうしてもそこまでが遠いのだ。
それは隣で戦っているグループも同じで、癒せないダメージだけが重なっていく。
「潜入した攻撃班は、どうしたのでしょうか?」
敵の攻撃をステップでかわし、必殺のビームを放つ。
ソフィの言葉に、黎嚇が首を振った。
「分からない。だが、……確かに遅すぎるな」
もしかしたら、屋敷の中で何かあったのかもしれない。しかし、こちらも通信を入れる余裕が無い。携帯や無線のボタンを一つ押すことすら出来ないような、連戦が続いていた。
一旦潜入攻撃班との挟撃を頭の隅に追いやり、黎嚇が夜霧を展開する。積み重なるダメージに、回復の手が増えてきた。
「あと少し、少しだけ隙が出来たら、攻略できるのにっ」
チェーンソー剣を振り回しながら、夏穂が叫ぶ。
次から次に増援が来ていると言う事は、十分に敵を引き付けているのだ。
もしこの状態で背後から敵を撃つ事が出来れば、一気に制圧も可能なはずだ。
「ほら、もうひとふんばり、頑張って行こか♪」
皆を鼓舞するように澪が明るい声を上げた。ともあれ、今は目の前の敵に集中しなければ。
マテリアルロッドで敵を殴りつけ、全力で魔力を流し込む。敵は体内で爆発を起こし、倒れていった。
「そろそろ30分になるか」
アルディマが、炎を纏う剣を敵に突き立て呟いた。彫師は灼滅できたのだろうか。潜入班はどうなったか。このまま戦闘を続けて、果たして制圧できるのか。
崩れていく敵を確認して、また新たな敵に剣を向ける。
その時、ついに敵に動きが見えた。
「お前達は私に続け。残りの者は、防衛線を維持せよ。各自、死力を尽くして戦い抜け」
奥に陣取っていた指揮官が、良く通る声で命令を下した。
「「「おおおっ。了解であります、大佐殿!!」」」
庭にいた多数の強化一般人が、声を揃えて攻撃の態勢を取る。
大佐と呼ばれている指揮官は、近くにいた数名の仲間を連れ後退し始めた。
「なっ、逃げるのか?!」
チアキの大きな声にも、指揮官は反応しない。
「このまま逃がすわけには行きませんよね」
静菜が確認するように仲間を見る。
庭に残った強化一般人が、もはや陣形も無く一斉に攻撃を始めた。
それは、指揮系統が放棄されたということだ。
向かってくる敵の数の多さは今までの比ではない。けれど、これは敵の隙にもなりうる。一斉に戦い始めた強化一般人を一つのグループが引き受けることが出来れば、もう一つのグループは指揮官を狙える。
自分達の蓄積したダメージと、庭に残る敵総数を数え、黎嚇が声を張り上げた。
「指揮官を追え! 尖兵共は僕達が引き受ける」
隣で戦っていたグループに、指揮官の撃破を託す。
「任せろ。必ず討ち取る!」
黒路・瞬(残影の殻花草・d01684)の力強い返事と共に、隣のグループは指揮官を追っていった。
●果たすべきこと
「話は簡単やな♪」
「そうだね。皆、やっつけちゃえばいいんだよっ」
澪と夏穂が頷き合った。一斉に攻めてきた強化一般人を前に、最後の力を振り絞る。
ズドン! と大きく音を立て、澪が矢を放った。前衛として切り込んできた敵の頭上から、矢の雨を降らせる。
負った痛みに軋む身体を奮い立たせ、夏穂は膝を付いた敵に向かって斬り込んで行った。チェーンソー剣から繰り出す斬撃で、確実に敵の数を減らしていく。
「頑張りましょう。もう一息です」
必死に仲間に声をかけ、栞は仲間の傷を癒す。
「よっし! てめえら、かかって来い!!」
回復を受け、チアキが足に力をこめた。
身体がそこかしこから、痛みを訴えてくる。それをねじ伏せ、しっかりとロケットハンマーを手にした。ロケットを噴射させ、弱った敵に止めをさす。
「今、私達にできることをしましょう」
静菜が影で作った触手を伸ばす。攻撃の姿勢を取っていた敵に絡みつき、その行動を制限した。
すかさず、アルディマが斬り込む。
「恨んでくれて構わない。せめて安らかに眠れ」
振り下ろしたクルセイドソードが、敵の霊魂に直撃する。また1人、敵が崩れ去った。
「覚悟です! アメちゃんダイナミック!」
ソフィが敵を持ち上げ、地面に叩きつける。
「ぎゃんっ」
弱っていた敵を撃破した。
攻撃力なら確実に灼滅者が勝っている。統率を失った敵の群れに、負けはしない。
「10、……12、13」
撃破した敵の数を数え、黎嚇が戦場を確認していた。
傷を負った仲間には、癒す光条を向ける。
このグループの仲間は、まだ誰も倒れていない。
「また1人撃破だな」
気を抜けば、足元がふらつきそうになる。けれど、それを隠し灼滅者達は戦い続けた。
「ふ……、これで、最後っ」
最後の敵を撃破し、チアキが座り込んだ。
ついに、庭に立つ強化一般人の姿がなくなったのだ。
「皆さん、無事ですか?」
静菜が仲間を見回す。
「なんとか、な」
アルディマがゆっくりと片手を挙げた。
「あ……、通信では?」
栞が無線を確認する。
「こちら潜入攻撃班のシーゼルだ。思ってたよりも被害がでかくて正面攻撃班との合流は出来そうにねえ……悪いがこっちは撤退させてもらう。……後は頼んだぜ」
途切れ途切れに、潜入攻撃班の状況が伝えられた。
気づけば、あれほど聞こえていた戦闘音がなくなっている。
彫師はどうなったのか? 屋敷の状況は? 指揮官の大佐は?
まだ確認できないことが多いけれど、ともあれ、庭の制圧だけは終わった。仲間達は、それを強く確信した。
作者:陵かなめ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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