二月の学園に冷たい風が吹き込み、生徒達はコートとマフラーで寒さを凌ぎつつ足早に歩いて行く。
エクスブレインの相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は、慌ただしく教室に入ると椅子の一つを引いて腰掛けた。
「よし、じゃあ話を始めるぞ。……刺青羅刹について情報を追っていた灼滅者達の報告は、既に聞き及んでいると思う」
刺青を彫る事で、一般人を強化一般人とするダークネスが居るという話であった。
これを阻止する為、拠点制圧とダークネスの灼滅を行う事となったと隼人が告げる。
「大規模な戦力となると敵にも察知される恐れがある。その為、最低限の人数で一気に拠点を制圧する必要がある」
拠点は人里離れた鹿児島の山中であり、土蔵や幾つかの建物から成る和風の建物であるらしい。
「このうち土蔵には福岡から運ばれてきた一般人が監禁されていて、敷地は百人以上が警護に就いている。今回の作戦は班ごとに動いてもらう事になるから、お前達は何を目的に動くかよく話し合っておいてくれ」
これはバベルの鎖に予見されないギリギリの人数であり、この人数で作戦を行う必要がある。
だが、敵は襲撃を知ると仲間に増援を頼む事も考えられるだろう。
「人里離れた場所だから、増援が来るまでは時間があるはずだ。だがいつまでもノラリクラリしてちゃ、こっちが増援に囲まれて不利になる……ってェ分かるよな?」
それで、今回出没する強化一般人はどのような構成なのか。
灼滅者達に聞かれ、隼人は話し出した。
彼らは軍隊のように規律をもって動いており、襲撃時にも慌てず統一された指揮系統の元事に当たるだろう。
「戦力はもとより、相手は考える能の無いダークネスと違う強化一般人だ。戦闘は苦戦する事が予想される」
こちらもきちんと他の班とも連携を取って作戦を行わなければならない。
隼人はそう話すと、灼滅者達の肩を叩いて送り出した。
参加者 | |
---|---|
迫水・優志(秋霜烈日・d01249) |
鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662) |
赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959) |
櫻井・さなえ(甘党で乙女な符術使い・d04327) |
戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549) |
レイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887) |
阪爪・楊司(爪楊枝の申し子・d11442) |
大豆生田・博士(凡事徹底・d19575) |
冬の鹿児島山中に、戦火が上がった。
あらかじめ調査を行った羅刹の拠点へと、灼滅者は全十五班に分かれて作戦を行う事になり、それぞれ一斉に屋敷の敷地へと突入していった。
敵組織もまた戦力を数人ごとに分けて分隊行動を行うなど、迎撃態勢も行動も迅速で正確。それらに対して、学園の灼滅者は正面からの突入班と後方から屋敷に潜入し挟撃する班とに分ける。
他の班との連絡を取っていた迫水・優志(秋霜烈日・d01249)が、襲撃を前にして仲間を振り返った。
「時間だ、まずは正面7班と俺達が突っ込む事になる」
「入り口側の制圧班も準備okだぜ、入り口側は奴等に任せて一気に屋敷側に突っ込むか」
赤槻・布都乃(悪態憑き・d01959)は仲間とそう話すと、茂みを伝って素早く屋敷側へと駆けていく阪爪・楊司(爪楊枝の申し子・d11442の後ろに続いた。
迎撃を開始した駐車場内の兵の動きを見つつ、屋敷側を警戒していた十名へ阪爪・楊司(爪楊枝の申し子・d11442)が視線を向ける。
今にも飛び出して行きそうな楊司を、後ろから布都乃が組み付くように引き留めた。
「指揮官は誰だ?」
「うーん……とりあえず前にいる奴からやな!」
「おいおい、前のめりすぎんだろ」
布都乃は溜息をつくと、目をこらした。
襲撃を察知した屋敷側から、バラバラと十人ほどが現れるのが見える。その殆どは小銃を所持しており、服装も帝国陸軍のものである。
一人だけ階級章を肩に付けている厳つい男が居るのに気付いた布都乃は、そっと指さした。
こくり、と優志が頷くと八名で視線を交わし、一斉に飛び出した。
ヘッドホンをかなぐり捨てるようにして、鏡水・織歌(エヴェイユの翅・d01662)が駆け出す。駆けながら深呼吸を一つすると、視線を尖らせた。
「退けェェェ!」
襲撃の声を上げる織歌、そして後方にレイン・ティエラ(フローズヴィトニル・d10887)と大豆生田・博士(凡事徹底・d19575)が続くと指揮官の男ははっとこちらに視線を返した。
「迎撃しろ、ここから先は死んでも通すな!」
指揮官が一喝すると、十名は指揮官の前へ並び一斉射撃を繰り出した。突撃した織歌を、兵が銃剣で押し返そうと組み付く。
最初の総攻撃はレインと博士が阻止したものの、弾雨の中をかいくぐった織歌とて全く無事では無かった。
吹き飛ばされた織歌に、櫻井・さなえ(甘党で乙女な符術使い・d04327)が光を放つ。
柔らかな光が織歌の傷を照らし、癒していく。前衛は集中的に狙われており、さなえは仲間の様子を見ながらゆっくりと続けて風を起こした。
屋敷側には更に多数……。
「更に増援、来ます」
「……戦争を思い出すな」
ふ、と笑ったレインを、さなえがちらりと見返す。不謹慎な……と言いかけ、レインの視線は真っ直ぐ敵を見つめている事に気付く。
戦争……だからこそ、油断出来ない状況だとレインも察していた。さなえは肩の力を抜いて、再びレイン達へと風を吹く。
後方支援を受けたレインは果敢に飛び込み、銃剣の懐に入って切り崩した。後方の仲間の隙を造りガードする為、自ら飛び込むレイン。
銃剣の動きは比較的見切りやすく、レインはするりと突きをかわすと拳を叩き込む。横から飛び込んだ兵を、博士がご当地ビームで弾いた。
「あいつが指揮官だべ、迫水さん! 行くべ!」
「分かった、合わせる」
優志もその穂先を指揮官の男へと向け、意識を集中させた。厳つい指揮官が、周囲を見まわして増援を促す。
だがその頃既に屋敷内でも戦いは始まっており、増援が期待出来る状態には無いはずだ。
「……念のため…っ」
狙い定めた優志の氷撃が、指揮官が下げていた通信機を弾き飛ばす。立て続けに更にもう一撃、博士のビームが通信機を地面へ叩きつけた。
ハッと通信機に手を伸ばした指揮官の体に、楊司が力を放つ。
「これが大阪は河内長野の、梅の花ビィーーム!!」
壊れた通信機と崩れ落ちる指揮官に、戒道・蔵乃祐(錆のアデプト・d06549)がガトリング斉射を浴びせる。ゆるりと立ち尽くし、蔵乃祐はガトリングガンの銃口を敵へと向ける。
飛び込んだ織歌が暴れ回るのを見つめ、後ろで蔵乃祐が銃口を静かに上げたまま。
「次はどいつですか?」
「ヒィ、くっ……くそ、撤退しろ!」
転がるように逃げ出した兵の後ろに、ガトリングを放つ蔵乃祐。楊司はその銃口にそっと触れて、降ろした。
もうええ、制圧が目的やと呟く楊司から視線を反らし、蔵乃祐は後ろを振り返った。
向こうもそろそろ、片付いたようだ。
「屋敷側は引き続きオレが残る、お前はバリケード頼むぜ」
布都乃はナイフを構えたまま、蔵乃祐にそう言った。バリケード設置には織歌、蔵乃祐、楊司が向かう事となった。
先ほど撤収していった者がいつ引き返すか分からないまま、布都乃は警戒しつつ駐車場内から屋敷側を監視する事にした。
屋敷側からは声や物音が響いており、まだ激戦は続いているのであろう。
しんとした駐車場にいるのが、少しじれったい。
「増援が来るとしたら、入り口側だ」
ぽつりと優志が言い、ふと布都乃は思いをかき消して視線をあげた。
駐車場内には、輸送されてきたと思われるバス、そしてワゴン車やジープ等の車両が幾つも残されていた。
「真ん中辺りにバスを置いてはどうでしょう?」
蔵乃祐が、ジープを転がしながら織歌と楊司と打ち合わせをする。
完全に封鎖するのは時間的にも難しいが、ある程度進行を阻止出来れば一気に突入されるのだけは避けられるはずだ。
にやりと笑い、織歌がバスに手を掛ける。
博士も車に手を貸せるが、怪力無双の力がなければ転がすのはとても無理である。
「クラッチを切れば動かしやすいと思います」
さなえがドアの鍵が掛かっていない車に入り、博士に言った。それをしてなお、車を動かすのは容易ではないが……。
だが怪力無双を使ってバスを横転させていた織歌が、遠くから聞こえるエンジン音に気付いた。ふと顔を上げると、入り口班も気付いたらしく、慌ただしく動き出すのが見える。
まだバリケードは完成しておらず、このままだと突破される恐れがある。
「おい、どうする!」
織歌が叫ぶと、蔵乃祐が視線を反らした。場内を見ると、まだ幾つか小型の軽自動車が置いてある。
駆け出した蔵乃祐は、その一台を抱え上げた。
よろりと体勢を崩しながら歩き、突っ込んでくるワゴン車の前に立ちはだかった。
「蔵乃祐!」
織歌の叫び声に、蔵乃祐は小さく舌打ちする。
分かって居ますよ……と小声で返し、車両を投げ捨てた。転がった軽自動車が、突っ込んできたワゴン車の前を遮る。
派手に衝突音が響き、バリケードを作っていた楊司が慌てて引き返してくる。その背に轟音が鳴り響き、車両から大きな火が上がると楊司の背を明々と照らしたのだった。
「な、何が起こったんや」
「増援だよ、さっさとバリケード作りな!」
呆然と立ち尽くす楊司を、織歌が叱咤した。
だが彼らもまた、バリケードを完成させる余裕など与えられなかった。屋敷側を警戒していた布都乃から、携帯電話で連絡が入ったのだ。
こちらも増援。
まだ戦闘が続く屋敷の方から、駐車場の方へとふたたび十名ほど駆けてくるのが見えるという。彼らは後ろから追い立てられるようにして駐車場へと逃げ込んで来た。
最後尾から、甲高い声が響く。
「敵に背を向けて逃げるな! 軍人たる者、死んでも敵兵に食らいつけ!」
小銃を仲間に向けて撃ちながら、身なりのいい男が叫んだ。
はなから彼らの事など何とも思わないのか、隊長らしき男は味方にも容赦なく弾丸を浴びせる。視線を落としつつも、布都乃は鼻で笑う。
「仲間を犠牲にしてまで、守りたいものなんてあるってのか」
小さな声であったが、傍にいた者には聞こえただろうか。
一斉に銃を構えたのを見た博士が布都乃の前へと飛び出すと、シールドを展開した。シールドをかすめて弾雨が掃かせに浴びせられ、博士は歯を食いしばる。
更に後方から五人……博士はキャリバーのしもつかれに声を掛けると、一斉射撃で迎撃した。
「しもつかれ、仲間を見捨てて逃げるような奴は許しちゃなんネェ!」
「ふ、敵と意見が合うとはな」
指揮官が笑うと、博士は首を振った。
「お前さんと一緒にすんな、仲間を撃つ武器なんかおらは持っちゃいねェべ!」
指揮官の指示は絶対である。
その指揮官の命令で突っ込むしかない強化一般人たちは、指揮官よりもずっと体格がよく顔つきが悪い。
凍り付いた顔で銃を撃つ彼らを、指揮官は後ろからあおり立てる。
「……そうだ、聞いてもいいか」
レインがふと軽い口調で、指揮官に問うた。
怖い物は何かと。
「お前のトラウマって、どんなものなんだ?」
弾雨を浴びて血を流しながら、レインは影を放った。
ざわざわとさなえから風が送られるのが、レインにも分かる。前衛の負っている傷は、みるみるうちに広がり血だまりが地面を濡らした。
口を閉ざし、さなえはただ祈るように符を握り締めていた。
レインが放った影は指揮官の男を食らい、包み込んでゆく。悲鳴を上げてもがく男を、他の兵士は狼狽したように見つめた。
あとはもう、有象無象。
逃げる者や、まだ残って戦おうとする兵士。
「指揮官は倒したべ、入り口の方の増援とバリケード急いだ方がいいべや」
と、博士はしもつかれに視線を送ると、彼らをバリケードの方へと向かわせた。博士はナイフわ構えて切り込むレインに続き、残った兵士を片付けて行く。
屋敷側の出入り口に布都乃たちが残り、織歌、蔵乃祐、楊司は再びバリケードの設置に取りかかった。これ以上の増援は無いと思いたいが、万が一此処に居る連中に突入されでもすれば、中で戦っている仲間達に支障を来す。
屋敷側から逃げてくる兵士達は博士とレインが設置していた。
「俺達がここに残る、急いで片付けてくれ」
「……ああ、急いでるって……!」
布都乃に言われ、楊司は転がったままのバスを押し遣った。バスの向こうでは入り口班が戦っており、人数は先ほどの屋敷側増援より多めである。
何か、手助けが……。
そう楊司が考えていると、さなえがひらりとバスの上へと飛び上がった。仲間の支援に努めていた大人しいさなえが、凛とした表情で増援を見渡す。
「皆様、微力ながらご助力いたします」
それから、すっと織歌に視線を落とし、後は頼みますと付け加えた。ふわりと風を起こし、さなえは入り口班の仲間へと清めの風を送る。
激戦の仲間の傷と心を癒してくれるように、と……。
さなえに続き優志がバリケードの上へと上がり、妖冷弾で援護射撃を行う。仲間からの報告に気遣いながら、優志とさなえは援護を続けた。
増援からやってきたのは、恐らく福岡からだろうと優志は攻撃を続けながら感じて居た。駐車場側に逃げてきた兵士は阻止したが、裏手から脱出した者はどれ位いただろうか。
おおよそ片付く頃には、屋敷側も静かになっていた。
ここからでは、戦況がどうなったのか確認は出来ない。
「刺青を入れてた奴は見つかったんでしょうかね?」
蔵乃祐は、屋敷の方を見やりながら言った。
見つかって倒した、と思いたい。
考えを巡らせながら歩く蔵乃祐が、堕ちていたヘッドホンを拾い上げて織歌へと放り投げた。空中でキャッチし、織歌がそれを頭に付ける。
ほっと行きをつき、ようやく優しく目を細めた。
「あの人達も、好きで戦っていたんじゃないのにね。無理矢理刺青入れられたせいで」
「安易な気持ち過ぎた力に手を出した、その結果ですよ」
あの刺青は、人には不必要なものであったと蔵乃祐は言う。
「みんな無事であると思いたい」
優志が言うと、無言で布都乃は空を仰いだ。
しかし、羅刹って田舎が好きだんべな…と呟く博士の言葉に、ふと心が和らいで布都乃が笑う。そりゃ、田舎の方が工作しやすいだろうさ、と言い返す布都乃。
楊司はぎゅっと拳を握り、開いた手を見つめた。
堕ちずに戻れた自分を思い、そして屋敷内で戦った仲間の無事を思う。
「作戦は成功しても、皆無事に戻らへんかったら意味ないで…」
「その時はその時」
さらりと言い返し、レインは歩き出す。
その時は、救い出す覚悟もしていた。
作者:立川司郎 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月4日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 9/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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