伝説の彫師拠点強襲~刺青が刻まれし者の末路は?

    作者:波多野志郎

    「刺青羅刹事件について調査していた灼滅者達が、刺青を彫ることで一般人を強化一般人とする、ダークネスの存在を探り当てたってのは、ご存知っすか?」
     湾野・翠織(小学生エクスブレイン・dn0039)は、そう厳しい表情で切り出した。刺青の力により強化一般人へとされてしまう――これを放置し続けてしまえば、より多くの一般人が犠牲になっていく事となる。
    「放置はできないっす。なんで、敵に察知されない限界の戦力で、一気に拠点を潰して、刺青強化一般人を生み出しているダークネスを灼滅する作戦を行なう事となったんす」
     敵の拠点は鹿児島県の山中、人里離れた場所に作られた和風の屋敷だ。土蔵や幾つかの建物がある事も判明している。
    「どうやら、福岡から運び込まれたらしい一般人は土蔵に捕らわれてるみたいっす。敵の戦力は100体以上……とは言われてるっすけど、詳しい事は不明っす。そんな厳しい状況なんで、今回の作戦は多くのチームが協力して行なう事になるっす」
     重要なのは、自分達が全体の作戦でどんな役割を果たすのかといった事を相談して行動を考える、その点だ。今回の作戦はバベルの鎖によって事前に予見されない規模になっている。しかし、作戦開始後に敵が通信機などで援軍を呼ぶ可能性は高い。
    「人里離れた場所にあるんで、援軍が来るのは時間がかかるはずっす。でも、時間制限があるのは確かなので、速やかな作戦行動が成功の鍵になるっすよ」
     なお、敵の強化一般人は、刺青を施されている。それに加え、まるで昔の軍隊のような規律をもって作戦行動を行うようだ。戦闘力はそれほど高くは無いが、統一された指揮の元に連携して攻撃してくる。そうなると、かなりの強敵になるだろう。
    「状況は、かなり厳しいっす。それでも、これ以上の被害を出さないためには、避けては通れない接触っすから……どうか、頑張ってくださいっす」
     そう翠織は深く頭を下げて、締めくくった。


    参加者
    愛良・向日葵(元気200%・d01061)
    九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)
    黒守・燦太(中学生神薙使い・d01462)
    花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)
    安曇・陵華(暁降ち・d02041)
    ヘキサ・ティリテス(ファイアラビット・d12401)
    プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)

    ■リプレイ


     昼下がりの晴天の下。大きな日本家屋とそれを囲む壁、その出入り口である重厚な門と四人の見張りの姿を注視していたラピスティリア・ジュエルディライト(夜色少年・d15728)は、ふと隣にいた愛良・向日葵(元気200%・d01061)を振り返る。
    「ええっとぉこれを繋げて、こうすればいいのかなー? わーん携帯電話解らないよー!」
     携帯電話の使い方がわからず混乱している向日葵に、ラピスティリアは口を開いた。
    「ここをこうすれば――」
    「あ、聞けた聞けたラピスティリアちゃんありがとー♪」
     そのやり取りの後、ラピスティリアの視線を受けてヘキサ・ティリテス(ファイアラビット・d12401)は呟いた。
    「駄目だぜ、この距離じゃ。まずは門番を片付けないとな」
     射撃攻撃を集中させたとしても、門を突破できる確率は低い。ヘキサの冷静な判断は、この場にいた大多数の代弁だ。
    「だったら、やる事は一つだぜ? あの見張りを倒して、門を破壊出来る距離まで詰める、そんだけだ」
     そう言ってのけたのは、九条・龍也(真紅の荒獅子・d01065)だ。その言葉は、決して楽観からは出ていない――その役割の危険さを、理解しての言葉だ。
    「一般人を強化一般人にするダークネスか、敵はわんさか。良いねぇ。燃えてくるねぇ。負け戦こそ戦の華よ。数が全てじゃないって教えてやる」
    「彫師をこのまま放置するのは危険ですからね。なんとしても倒しましょう」
     決意の表情の花藤・焔(魔斬刃姫・d01510)に、プリュイ・プリエール(まほろばの葉・d18955)はコクリとうなずいた。
    「沢山の仲間とココロは一つ。思い通りにハ、させませン」
     イヤホンの感触、そのここにはいない仲間達とも繋がっているという自覚にプリュイの表情は厳しい。この正面突破の第一歩をしくじれば――それは、多くの繋がった仲間達にも危険が及ぶ、という事だ。
    「さて、彫師倒して誰一人欠けること無く『帰る』ぞ」
     その覚悟を決めて唱えた安曇・陵華(暁降ち・d02041)に、黒守・燦太(中学生神薙使い・d01462)はいつもの無表情のまま言い捨てた。
    「そんじゃ、正面からお邪魔します、と」


     日本屋敷、その門の前。四人の見張りの目の前に、その人影は唐突に舞い降りた。
    「行っけェ!!」
    「もらったぜ」
     プリュイと燦太が、同時に地面へとバベルブレイカーを突き刺す。ドォ! という衝撃のグランドシェイカーが地面を揺るがし、不意を打たれた見張り達の動きが止まった。
    「次だよ!」
     そこへ向日葵の裁きの光条と、ナノナノのノマによるしゃぼん玉が続く。唐突な不意打ちに咄嗟にガンナイフを抜く見張り達だったが、そこへ滑り込んだヘキサの方が一瞬速い!
    「っらああ!!」
     振り払われる槍の一閃、ヘキサの旋風輪が大きく見張り達を切り裂いた。
    「叩き潰していきます」
     そして、アップテンポのリズムに乗ったラピスティリアの肩口から紫水晶化した巨腕の一撃が、見張りの一人を宙に舞わせる。腹部へと一撃、その重く鋭い拳の一撃に耐え切れずそのまま背中から地面に転がった。
    「敵襲だ!」
    「ああ、そうだとも」
     叫びを上げた見張りの胴を、陵華は破邪の白光に輝くクルセイドソードで薙ぎ払った。その一撃に膝を揺らした見張りへ、焔が踏み込む。
    「この太刀から逃げられませんよ」
     居合いの一太刀、その斬撃を受けて見張りが崩れ落ちた。残るは二人、ガンナイフを構えながら退こうとする見張りへ、龍也は駆ける。
    「打ち抜く! 止めてみろ!」
     見張りはガンナイフの引き金を引くが、龍也はそれをわずかに頭を横へそらしてかわした。ヘッドスリップから深く懐へともぐり込み、バチン! と電光の絡んだ右拳を突き上げる!
     ダン、と見張りが門に叩き付けられ、崩れ落ちた。残るは、一人。見張りが覚悟を決めたようにガンナイフを手に前に踏み出した瞬間だ。
    「それは、させませン!」
     プリュイが炎の粉と雪のような白塵をまとう拳で、見張りのガンナイフを大きく弾く。目を見開いた見張りへ、ヘキサは神速の連続蹴りで蹴り上げた。
    「テメェらの呪縛も、彫師の企みも! 纏めて喰い千切ってやらァ!」
     ザザザザザザザザザザザン! と蹴り伏せられた最後の見張りに、焔は告げた。
    「今――」
    「ああ」
    「はい」
     焔の言葉と同時、燦太が咎人の大鎌を振り払い、ラピスティリアが右手をかざす――ゴォ! と巻き起こった二つの旋風が門を軋ませた。
     眼前であったからこそ聞こえたミシリ、という門の悲鳴。その直後に、燦太とラピスティリアの神薙刃が轟音と共に門を破壊した。
     門は、そのまま日本庭園風の広い庭に落ちる前に砕け散る。巻き起こる砂煙、その中を堂々と踏み入った陵華が大声で叫んだ。

    「カチコミじゃー!」

     響き渡る宣言、そこへ見張りの声を聞いて集まってきていた刺青強化一般人達が殺到した。


     背後から、仲間達が殺到してくる気配がする。目の前の刺青強化一般人の数は五十程度――正面攻撃班と、数の上ではほぼ同等に見えた。
     しかし、問題は敵の統率力だ。
    「右翼、左翼、回り込め! まずは、敵の勢いを削ぐのだ!」
    「は! 大佐!」
     明らかに他とは格の違う、赤い軍服姿の女性は鞭で地面をピシリと打ち的確な指示を飛ばしていく。その統率力は、大佐と呼ばれたその女性を中心に恐るべきものだった。
    「おい、てめぇら、どいつもこいつも言いなりで、臆病風にでも吹かれたか? 武蔵坂学園の灼滅者、九条龍也が一騎討ちを望まん!!」
     龍也の挑発に、刺青強化一般人達は乗ってはこない。まさに一軍――あるいは、一群と呼ぶのにふさわしい動きで襲い掛かってくる。
    「なんだ、勇気のねぇ腰抜けばっかだな」
    「弾幕だ、弾幕を張れ!」
     ガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と、銃弾が、雨あられのように灼滅者達へと降り注いだ。一撃一撃の威力はさほどではないが、数が数だ。その中を一気に、龍也は駆け抜けた。
    「伊達や酔狂でこんな物を持ってる訳じゃねぇぞ」
     緋色に輝く直刀・覇龍の一閃が、一人の刺青強化一般人を袈裟懸けに切り伏せる。その一撃に、龍也は確かな手応えを感じて言い放った。
    「雑魚に用はねぇ。次だ次!!」
     そこへ、刺青強化一般人が一人襲いかかろうとする。しかし、それを駆け込んだ燦太の巨大化した怪腕が殴打、そのまま庭園の砂利の上を転がせた。
    「入り口で、詰まっている訳にはいかないぜ?」
    「ああ、こっから中央を突っ切るか」
     燦太の言葉に、龍也は笑って言ってのける。後続の仲間を迎え入れるためには、相手をより切り崩す必要がある――それが分の悪い賭けだと、龍也には確かに自覚があった。
    「しかし、やるしかありませんね」
     Ex Machina Amethyst.を薙ぎ払って叩き付け、刺青強化一般人を吹き飛ばしながらラピスティリアも同意する。その口元に浮かぶ笑みに好戦的なものが混じったのを、本人も気付かなかった。
    「行きましょう」
    「回復なら任せて! 元気にな~れ♪」
     うなずき身構える焔に、向日葵は仲間達へと清めの風を吹かせる。もっとも最初に突入したからこそ――次に繋ぐための、役割も果たさなくてはならない。
    「怖くなんテ、ありまセン」
     震えそうな力は、駆け出すための力へと変えて。プリュイは、精一杯心を奮い立たせて敵を睨んだ。
    「武蔵坂学園、イザ参ル!」
     イマの回復を受けたプリュイが、仲間達と共に駆け出す。日本庭園の中央――その、もっとも激しい戦場へと灼滅者達は挑んでいった。
    「オラオラァ!! どいつもコイツも、オレの殺気に隠れちまったかよ!?」
     挑発しながら、ヘキサは徒党を組む敵の中心へと駆け込んでいく。銃弾は正確にヘキサを打ち抜いていく――しかし、止まる訳にはいかなかった。
     刺青強化一般人の一人を、炎をまとった右回し蹴りで蹴り伏せ、ヘキサは叫んだ。
    「ウサギ一匹にビビりやがって、腰抜けヤロー共が!!」
     そこへ、ガシャガシャガシャ!! と銃口が向けられていく。統率の取れた数、というのは、もはや暴力と言ってもいい。そこへ、焔が駆け込みイクス・アーヴェントを振り上げた。
    「斬り潰します」
     その戦艦斬りの斬撃を、刺青強化一般人は武器で受け止めようとするが、焔は構わない。受け止めた武器ごと、焔は振り抜いた。
    「撃てェ!!」
     そこへ、銃弾が雨のように降り注ぐ。それを受けた焔は耐え切れない――その場へ、崩れ落ちた。
    「焔ちゃん!?」
    「くそ!」
     倒れる寸前、ヘキサが焔を抱きかかえて後方へ跳ぶ。そのタイミングを刺青強化一般人達は、見逃さすはずもない。ガガガガガガガガガガガガ! と、無数の弾丸が、でたらめな軌道でヘキサの肩口を、脇腹を、太ももを撃ち抜いていく。
    「させなイと言ったハズ!」
     最後に一撃、それをプリュイは自らを盾に受け止め、倒れた。薄れていく意識の中、プリュイは呟く。
    「アイツ……危ないでス……気を付け……ノマ、お願イ……!」
     配下に矢継ぎ早に命令を下す大佐を、そう警告してプリュイはそう言い残した。血に塗れる事もいとわずに身を張ったそのわずかな時間、それが大きく明暗を分ける。
    「お前たちの相手は私だ!」
     陵華は魔導書を紐解き、その一文を指先でなぞった。そして紡がれる呪言――陵華のカオスペインが原罪の紋章を敵の群れへと刻んでいく。そして、陵華は止まらない。再行動で、目映く輝くクルセイドソードの下段からの切り上げて刺青強化一般人の一人を切り伏せる。
    (「ここから先に行かせんし、後ろにも下がらせないからな」)
     その一線は自分達だけではない、後に続く仲間達の生命線にもなり得るラインなのだ。だからこそ、陵華は笑って言った。
    「どうした? お前らの力はその程度か? 小娘一匹に良いようにされる程度の力しか無いんか!」
    「!? 待て、そいつではなく――」
     大佐の静止は、間に合わない。原罪の紋章を刻まれ、精神を暴走された刺青強化一般人達は、その猛る怒りのままに陵華へと銃弾を叩き込んでいった。
     そのわずかな間隙、獰猛な笑みを浮かべた龍也とラピスティリアが同時に駆け込んだ。プリュイと陵華が死力を尽くして生み出した、その空白地帯を!
    「どんな相手だろうと、ただ斬って捨てるのみ!」
     龍也が直刀・覇龍を大上段から、一人の刺青強化一般人を雲耀剣によって切り伏せる。ザン! という鋭い斬撃を受けて、刺青強化一般人がその場に崩れ落ちた。
     そこに空いた隙間を埋めようと、一人の刺青強化一般人が反応するがその目の前にはラピスティリアの姿があった。
    「今です」
     非実体化したクルセイドソードの斬撃に、刺青強化一般人は耐え切れない――そして、ラピスティリアの声に応えるように隙間を燦太は駆け抜ける!
    「どの獲物が良い? 気が向いたら選ばせてあげるよ」
    「舐めるな!」
     燦太の言葉に、眼鏡の奥の瞳に怒りを燃やして大佐は吐き捨てた。その言葉を無視して、燦太は横に一回転――咎人の大鎌の大鎌で、大佐の脇腹を切り裂いた。
    「ここまで来たのは褒めてやるが――ぬるい!」
     だが、大佐は素早く鞭を振るい、燦太を吹き飛ばす! そのまま、立ち上がれない燦太に、大佐は声を張り上げようとした。ここに至るまでで半数が落ちてしまった――質量で押し潰すのなら、今が好機だからだ。
     しかし、それよりも速く。ライドキャリバーのエンジン音が、鳴り響いた。
    「ここは任せろ!」
    「下がってください、早く!」
     後続の仲間が、ここまでたどり着いたのだ。全力で駆け抜けたその道、それを仲間へ繋ぐ事が出来たのだと、向日葵は確信した。
    「みんな、退くよ!」
    「……ああ」
     向日葵の言葉に、ヘキサは低く言い捨てる。これ以上、ここに留まるのはむしろ足手まといになりかねない。半数が落ちた時点で、撤退する――その事前に決めていた判断は、正しかった。
     ラピスティリアがプリュイと陵華を抱きかかえ、それをノマがサポートする。そして、龍也が燦太の元へ駆けつけた、その時だ。
    「逃がすか――!?」
     それを阻もうとした刺青強化一般人を、オーラの砲弾が捉え吹き飛ばす。無数の爆音の中、龍也は短く言った。
    「任せた」
     その言葉が届いたかどうかは、わからない。ただ、その想いは繋ぐ事は出来た、と激しい戦闘が続く戦場を灼滅者達は撤退した。


    「……出るぜ?」
    「え?」
     言い切ったヘキサに、思わず向日葵が声を上げた。
     門を出て、戦場を離脱した場所。そこで、向日葵の回復を受けながらヘキサは言葉を続けた。
    「まだ、オレは行ける」
    「おお、そうだな」
     それに、龍也も立ち上がる。戦闘は、まだ続いていた。戦える者が、ここで時間を潰していい状況ではない。戦闘は拮抗状態のまま、押し切れずにいるのは明白だった。
     ならば、少しでも力になるべきだ――その考えに、ラピスティリアも同意した。
    「こちらは、お任せします」
     ラピスティリアの言葉に、向日葵はしばらく考え込んでからうなずく。出来るなら、助力したい――しかし、倒れた仲間達を放置出来ないのも確かなのだ。
    「ナノナノ!」
    「……一緒に、頑張ろうね、ノマちゃん♪」
     倒れたプリュイの盾になるように胸を張るノマに、向日葵は屈託なく笑みを見せる。その笑顔にラピスティリアも微笑し、ヘキサと龍也へ告げた。
    「お待たせしました」
    「おう、もうちょっと暴れてくるぜ!」
     龍也が、ヘキサが、駆け出す。三人は、再び硬直状態へと陥った戦場へと舞い戻っていった……。

    作者:波多野志郎 重傷:花藤・焔(戦神斬姫・d01510) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月4日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
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