呼ばれしは幽響の怪

    作者:泰月

    ●銀の尾、三度
     雪の残る山林に、動く影があった。
     林にある背の高い樹にもするすると平気で登り、降る様子は猿を思わせる。
     だが、その頭部は猿というより犬に近く、その足には樹の根元の地面に伸びる鎖が絡まっていた。
     ――ホォォォォン。
     『猿の様な何か』が声を響かせれば、空気が震えて木々から雪が落ちた。
     その音を聞く存在がいた。
     其れを呼び出したる存在、スサノオは満足気に銀の尾を揺らすと、山の奥へと姿を消して行った。

    ●深山幽谷に響く音
    「来てくれてありがとう」
     教室に集まった灼滅者達を出迎えた天野川・カノン(中学生エクスブレイン・dn0180)は、早速用件を切り出した。
     過去に雪女と火車を呼び出した銀の尾のスサノオが、古の畏れを呼び出したのが判った、と。
    「ところで、皆は、山に行って『ヤッホー!』って叫んでみた事あるかな?」
     かと思えば、突然こんな事を聞いてくる。
    「何で聞いたかって言うとね。今回予知出来た古の畏れが『山彦』みたいなんだ」
     山彦。
     反響した音が遅れて返って来る事で起こる現象であるが、そうと解っているのは現代だからこそだ。
     そのような知識のない時代には、深い山に住む何者かの声が引き起こす現象だと考えられていた。
     其れこそが、怪異・妖怪としての山彦。
     或いは、幽谷響と書かれる事もある。
    「外見は『犬みたいな頭の猿』って感じだったよ。大きさは、私と同じくらいだと思う」
     続いて、カノンは仁左衛門のモニターに地図を表示させる。
    「場所は長野県の安曇野の辺りだよ。近くまで登山道が通ってるらしいから、皆ならそんなに苦労しないで行けると思うよ」
     山彦も足に鎖が絡まっており、そのせいかは判らないが当分はその山林に留まっていると言う。
     人里に出る心配がほぼないのは良いが、林の中で探すのは中々骨が折れそうだ。
    「山の中から山彦を探す方法はね。大きく響く声を出せば良いんだよ」
     大きな声を響かせれば、返して来るのは伝承の通り。
     その音を頼りにすれば山彦の居場所はすぐに知れると言う訳だ。
     助けになる反面、今の内に灼滅すべき理由でもあった。
    「戦いにも声、と言うか音を武器にしてくるよ」
     綺麗な音に激しい音、騒々しい音もあれば、音を通り越して衝撃だったり、風を渦巻かせたりもする。
    「皆の動きを妨げる効果が多いから、そこに注意してね。威力はそんなに高くはない筈だよ」
     相手は1体である事と回復能力を持たない点は、付け入る隙になるかもしれない、とカノンは付け足した。
    「銀の尾のスサノオは、今回も皆が着く頃にはもういないの。やっぱり予知が上手くできなくって」
     申し訳なさ半分、悔しさ半分と言った様子で少し目を伏せて告げるカノン。
     そんな素振りを見せたのも束の間。
     ぱっと顔を上げると、いつもの子供っぽい様子に戻ってこう続けた。
    「安曇野の辺りって、日帰り温泉多いんだって。帰りに寄って来ても、怒られないと思うよ」


    参加者
    榎本・哲(狂い星・d01221)
    六六・六(極彩色の悪猫アリス症候群・d01883)
    夕永・緋織(風晶琳・d02007)
    風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)
    外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)
    多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)
    オリシア・シエラ(桜花絢爛・d20189)
    西園寺・めりる(花舞う・d24319)

    ■リプレイ


     まだ雪の残る山道に、8人の灼滅者達の姿があった。
    「ではここからは、わたしが風華さんと先頭を行きます!」
     やや緊張したような面持ちで、西園寺・めりる(花舞う・d24319)がとてて、と仲間達の前に進み出る。
     続いて風華・彼方(小学生エクソシスト・d02968)も同じく仲間達の前に出ると、2人は登山道の境界を示すロープを潜り抜けた。
     その先は雪の下から伸びる草や膨らみかけた芽を持つ枝が生い茂っているが、それら全てが自ら形を変えて、草木の路を作り出した。
     足を進める2人に続いてロープを越え、山の奥を目指す灼滅者達。
    「古の畏れってよくわかんねえけど、昔の都市伝説みたいなもんなのかな」
     多鴨戸・千幻(超人幻想・d19776)が誰に言うでもなく呟く。
     今回の様に、古の畏れが、古来より言い伝えられて来た妖怪に似た姿と能力を持つケースは、何度か確認されている。確かに都市伝説に似ているとも言える。
    「どうなのかしら……ただ山彦さんの意志と関係なく呼び出されただけなら、何だか可哀想な気がするね……」
     応えた夕永・緋織(風晶琳・d02007)はどこか憂うような視線を山の奥へと向ける。
     敵が古の畏れであっても、内心、討つ事に心苦しさを覚える彼女の感受性は変わる事はなかった。
    「しかし、幽谷響とは、これまためんずらしい存在が来ましたな」
     こちらはどこか面白がっているような調子で外道・黒武(お調子者なんちゃって魔法使い・d13527)が言う。
    (「魔力情報を保有させる為に構造体を定義し、この構造体を読み取る為のインプット関数は……」)
     しかし内心では、実に目まぐるしく魔術的な思考をフル回転中。
     と言うのも、幽谷響と言う妖怪は、覚――人の心を読む妖怪と同一視されている事もあるからだ。
     同じ声を返すのは人の心を読んだから、と言う事なのだろう。
    (「リードした構造体のマスタ情報を別変数に代入させて……」)
     今回の古の畏れがその様な能力を持っていると言う情報はなかったのだが、黒武の思考は留まる所を知らない。
     そんなこんなで山を登り続けて、小一時間。
     一行は、山彦の居るはずの山林に辿り着いていた。
    「誰か居ますかー!」
     まず彼方が声を張り上げるが、僅かな反響が残るくらいで何も聞こえない。
    「大声を出せば向こうも僕達が近づいているって気づく筈だから、不意打ちに警戒しながら進もう」
     注意を促す彼方に頷いて、まずは六六・六(極彩色の悪猫アリス症候群・d01883)が大きく息を吸い込んだ。
    「やまびこさん! こーんにちわーあぁああ!!」
     元気良く大声を響かせる。
     ――わーあぁああ……。
    『――ァァ』
     ぼんやりと遠く響く反響に混じる、別の音。
    「そうか。普通の反響もしちゃうんですね」
     耳を澄ませていたオリシア・シエラ(桜花絢爛・d20189)が、小さく手を叩いた。
     そう。妖怪としての山彦の伝承があると言う事は、そう言う場所であると言う事だ。
     とは言え、カノンが何も注意を伝えてないのだから、山彦の返す声と反響の区別は明らかなのだろう。
     灼滅者達は思い思いに叫び始めた。
    「おなかすいたーぁあ!」
    「ケーキ食べたいですーっ!」
     六とめりるが、実に己に正直な声を上げる。
    「腹減ったー」
     榎本・哲(狂い星・d01221)も、似た様な事を叫んでいた。まあ、丁度お昼時だしね。仕方ない。
     かと思えば、アニメソングを歌ってる彼方や、なにやら英語で歌っている黒武の姿もある。
    「皆、自由だな……俺、やっほー以外に何て言えばいいのか思いつかなかったのに」
     フリーダムに叫ぶ仲間達の姿に、少し呆気に取られる千幻。
    「いやー……ぶっちゃけさ、山で『やっほー』なんてやったことねーよ?」
     そんな千幻に、振り向いた哲がどこかダルそうに告げる。
    「つーかそもそもあんまり山に来ねえし。ま、適当でいいんじゃね?」
     そう言うと、丸めた雑誌を口元に持って行く。
    「実はあんまりやる気ねぇー」
     哲がダルそうな事を叫ぶのを聞きながら、千幻はふと足元を見下ろす。
     そこには、霊犬のさんぽがじーっとこっちを見ていた。
    「お前もやっぱ吠えたりすんのか?」
     吠えた所を見た覚えがないと問いかけるが、当のさんぽは首を傾げて何を考えているのか。まだどこかよそよそさが漂う。
     と、その時だ。
    『ヤルキネェェェェェ』
    「え?」
     明らかに反響とは違う音が響いた。哲に視線が集まるが「俺じゃねーぞ?」と首を振る。
    「今のが山彦かな」
    「向こうからです」
     念の為にと聞く事に専念していた緋織とオリシアが指差した林の奥へと一斉に駆け出す。
    「みーつけたっ……えへへー」
     気づいた六が、幼さの残る笑みを浮かべる。
     そこには犬の様な頭を持つ大柄な猿の様な姿が『ヤルキネェェェヤルキネェェェ』と連呼していた。


     ついに姿を現した古の畏れ、山彦。
     灼滅者達に気づいて木の上からするすると降りて来ている。
    「犬さんの顔におさるさん……へんなのー」
    「犬猿の仲の動物が合体したんですね。面白いようなそうでもないような……」
     犬とも猿ともつかない姿に、六とめりるが同時に感想を漏らす。
    「でもかわいいかも?」
    「でもちょっと可愛いです」
     続いた評価も一致して、思わず顔を見合わせ笑みを浮かべる2人。
    「にゃーお」
     一転。六は威嚇する猫の様に一声啼いて、カラフルな忍者衣装と猫型の縛霊手を身に纏う。
    (「そうです。戦わないと」)
     それを見ためりるの手が、2、3度、躊躇うように宙を泳いでからクルセイドソードの柄を掴んだ。
    『ヤルキネェェェ!』
     次々と殲術道具を構えて囲むように布陣を取る灼滅者達に対し、大きく口を開いて叫ぶ山彦。しかし、言葉が言葉なだけに今ひとつ締まらない。
    「いや、言ったけどよ……よりによって何度もそれ返して来んのかよ」
     適当に叫んだしょうもない言葉を山彦に連呼され、哲のヘラヘラとした笑いが誰も気付かない程度に、僅かに引きつる。
    「……大丈夫ですよ。ああ言ってますけど、やる気ありそうって判りますから」
     そっとフォローを入れる緋織。
     とは言え、いつまでも談笑している場合ではない。
    「さあ、かかって来なさい! その舌ごと撃ち抜いて差し上げます!」
     血塗られた歴史を彩るかのような深紅のオーラを纏いオリシアが言い放ったその直後。
     まず山彦が動いた。やおら大きく開いた口を足元へと向ける。
    『ギィァァアァァッ!』
     地面へ向けて放たれた咆哮。
     地を這う様に低く発せられた『声』は、空気はおろか足元の地面すら振るわせる衝撃となり、灼滅者達の足を叩いた。
    「そうか……貴様も『声』の使い手か……」
     散らされた雪が舞い上がる中、咄嗟に前に出た千幻が低く告げる。
     同時に、手の甲から障壁を広げ、仲間達を護る盾と為す。
     前日から考えていたかっこいい台詞をキリリと言えて満足なのは、顔に出てない筈だ。
    「先ずは威力重視でいきます!」
     足に残る痺れを無視して、オリシアが跳んだ。
     周囲の木々を蹴り、山彦の頭上を取るとその腕から轟音を立てる。
     落下の勢いにジェット噴射の勢いを載せて、古代の塔の名を冠した騎士槍の様な杭が山彦に叩き込まれる。
    「にゃろう。やってくれるじゃねえか!」
     こちらも痺れの残る足で地を蹴って、哲が駆け出す。
     色々とお返しと言わんばかりに縛霊手の拳を叩きつけ、霊力の網を絡める。
     その背中に、、緋織の指から守護と癒しの力を備えた符が飛んだ。
    「いくよー? つぶれちゃえ!!」
     さらに六の体から放たれたどす黒い殺気が、山彦を押し潰すように覆い尽くす。
    「そこだっ!」
     その中から飛び出した山彦を、彼方の放った魔力の矢が撃ち抜いた。
    「彼方んナイス!」
     山彦のバランスが崩れた所を、今度は黒武の槍が螺旋を穿った。
    「もこもこ、しゃぼん玉!」
     めりるの声と同時に、ナノナノから飛んだ大きなしゃぼん玉が山彦の顔の前でパチンと弾ける。
     同時に、めりるの指が構えた刃をなぞる。刻まれた言葉の力を解放すれば、浄化の風が吹き渡った。


    『ホォォ――ォォンッ!』
     山彦の口から、甲高い音が紡がれる。
     目眩ましになれば、とオリシアが蹴り上げた雪をあっさりと散らして届いた音が、彼女の頭の中にまで響く。
    「くっ――このっ!」
     グネグネと歪んで物の境が曖昧になった視界の中、気配を頼りに手に馴染む杖を突きこんだ。
     触れるか触れないかの、とても打撃とは呼べない一撃。しかし、その一瞬で流し込んだ魔力が、山彦の内側で爆ぜる。
    「オリシアさん、大丈夫?」
    「さんぽも彼女を!」
     催眠状態にあると見た緋織が、オリシアを中心に優しい風を招き、千幻の指示で霊犬も魂を癒す視線を送る。
    「ちっ。厄介だな」
     千幻自身は、少しでも山彦の攻撃に対する抵抗力を高めようと、仲間を護る盾を広げ続ける。
     だが、前衛を多く布陣した結果、広げた障壁に薄い部分が生まれてしまい思うように盾を張り切れずにいた。
     敵の攻撃も味方の支援も共に分散されてしまうのは、人数を偏らせる事の弊害と言えるだろう。
     その結果、霊犬とナノナノの力だけでは回復が足りない状況になり、千幻、緋織、めりるの3人は攻撃に転じる機会を掴めないでいた。
    「にゃー! よーけるなー!」
     鋭い爪の付いた猫の手での一撃をひらりと避けられ、六が悔しげに叫ぶ。
    「お猿さんは素早いですね!」
     見ている限り、自分で当てられる自信が抱けない山彦の動きに、めりるが思わず感心したような声を上げた。
    「ウキャキャキャッゥ!?」
     嗤う様に鳴きながら木を登っていた山彦の足を、彼方の放った矢が彗星の様に撃ち抜いた。
    「でも、サトリの力はないみたいだね」
     足を撃たれ滑り落ちそうになる山彦の姿を見て、彼方が呟く。
     先の様に攻撃を避けられる場面もあったが、それは心を読んだと言う訳ではなさそうだ。
     事実、1人距離を取って、山彦の動きを観察しその隙を狙った彼方の攻撃はこれまで一度も外れていない。
     それに内心で考えていたプリンとか温泉の事も、山彦の口から発せられる事はなかった。
    「やっぱりそうか……」
     それに残念そうに反応したのは、誰であろう黒武である。
     小さく溜息を1つ吐くと、噴き出した膨大な影が手にした槍に一気に宿った。
    「えぇい、貴様のせいで余分な思考回路をフル活動させただろうが!?」
    「ギャゥッ!?」
     影を纏った槍を手に猛然と迫る黒武の姿に、驚いたような声を上げる山彦。
     道中であれこれと頭の中で考えていた事が無駄になったのだ。彼の怒りも止むを得ないか。
     まあ、思い込みって怖いよね。
    「殴らせろ! 全力で殴らせろゴルゥア!?」
    「黒武の奴、急にどうしたんだか……まあいいか」
     山彦に対する態度を豹変させた黒武に何事か言おうとして――言葉が見つからなかった哲は、ダルそうにガトリングガンを持ち上げた。
     行く手に放たれた爆炎の弾丸に、山彦の足が止まる。
     そこを見逃さず黒武が横殴りに振るった槍が、山彦を爆炎の中へ叩き込んだ。


    「ゥゥゥ――ギィァッ!」
     大きく息を吸い込んだ山彦が、一気に解き放った声は大気を震わせ、渦巻かせる。
     声で生み出された風の渦が灼滅者達を飲み込んで行くが――6人を飲み込む程に大きくした渦は、その勢いを僅かに減じてもいた。
     その風の中から音がする。ギターの音が。
    「貴様の『声』はこの程度か?」
     ギターを弾きながら、千幻が山彦を見据える。奏でているのは何とも言い難い不可解な曲調であったが、その音は確かに仲間に活力を与えていた。
    「毒も喰らっとけ!」
    「大分弱ってんな……っと」
     風が収まりきる前に、黒武の放った漆黒の弾丸が山彦を蝕み、続けて飛び出した哲が光を纏った拳を連続で叩き込む。
    「わたしも少しは役に立てる筈です」
     めりるも、刃から風を呼び出し吹き渡らせる。
     山彦の声の強さには及ばずとも、仲間の助けになると信じて刻まれた力を何度でも解放する。
     こうして回復を欠かさず被害を最小限に抑え続ける灼滅者達に対し、傷と疲労が重なるばかりの山彦。どちらに分があるかは、明白だ。
     戦いの趨勢は、ほぼ決しつつあった。
    「ギャァァァァ!」
     気付いているのかいないのか、足掻く様に息も吐かずに山彦が耳障りな声を発する。
     オリシアへ迫る声の前に、緋織がすっと進み出た。
    「っ……山彦さんは、何か無念とか、したい事があって呼び出された、の……?」
     張られた障壁を砕く声に顔を顰めながら訊ねるが、返答はなく、耳障りな音が続くだけ。
     それでも訊いておきたかった。
     緋織は金色の瞳を一度伏せると、白亜の弓を引く。
     放たれた矢が、空間に残る『声』を撃ち抜いた。羽根の軌跡が残るそこを、後方から彼方の放った矢が更に貫いて残る『声』をまとめて撃ち壊す。
     驚く暇も与えずに、オリシアが飛び出すと同時に騎士槍の様な杭をぴたりと突きつける。
     直後に響く轟音。
     ジェット噴射の勢いも余す所なく叩き込まれて、山彦の体が木々に激突する。
    「……ごめんね、バイバーイ」
     その声を、山彦は聞いただろうか。
     木の陰から六の手が伸びて、すとん、とぴんくいろの刃が山彦の首筋に吸い込まれ、引き抜かれた。
    「……ゆっくり休んで、安らかに」
     消え行く姿を送る様に、緋織は両手を組んで祈りを捧げた。

     それからしばらくが過ぎて、麓の温泉街に灼滅者達の姿があった。
    「ここで一旦解散か?」
    「悪いが、俺はちっと用事あってな。土産に温泉饅頭でも買って先に帰るわ。皆で楽しんでくれ」
     千幻の言葉に頷きひらひらと手を振って、哲は1人土産物屋に消えて行った。
    「行ってらっしゃい。私は、そこの足湯でのんびり待ってるね」
     こちらもちょっとした事情で温泉に行かない緋織に見送られ、残る6人は温泉へ。
     そして――。
    「ふわぁぁぁ」
     彼方の口から気の抜けたような声が漏れる。
     帰りの山道も元気良く先頭を行っていたが、流石に電池が切れたか。
    「まあ、依頼の後くらいは気を抜いてもいいだろ……」
     敢えて好物を口にしない等、ストイックな面のある千幻も広い湯船で手足を伸ばし寛いでいた。
    「いや、ほら戦闘後の疲れを取るのって、大事じゃん?」
     その言葉に、洗い場から黒武が応える。戦場の林から迷わず山を降りられたのは、彼が箒で上空からナビゲートを続けたおかげであった。
     降りる時に木々に突っ込んだりしたが、それもここで洗い流そう。
    「疲れをしっかり取りたいですね。戦士にも急速は必要なのです」
     一方、女湯でもオリシアが同じような事を口にしていた。
    「ふわわわ~……あたたかくて気持ちいいねー」
     六は温泉の温かさに陥落寸前。2人のピンクの髪が、湯船に広がり色を加える。
    「もこもこ、おつかれさまでした」
     めりるは他の人がいないのを幸いにと、呼び出したナノナノをわしゃわしゃと洗っていた。
     彼女達には、いずれ次の戦いが待っているのだから。
     今は、一時の休息を。

    作者:泰月 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ