ときめきながら撲殺

    作者:雪神あゆた

     巨大なハンマーを私は勢いよく振りあげた。
    「あはははっ。私ねぇ30年間生きてたけど、人を殺すの今日が初めてだったの、ちょっとドキドキしちゃう!」
     目の前で転んでいる少年に、ハンマーを勢いよく叩きつける。
    「うんうん。こういうのって思い切りが大事よね、えいえいっ。あはははっ」
     相手が完全に動かなくなったのを確認し、私は額の汗をぬぐう。
     状況を整理してみよう。
     数時間前。私はここ――やたらと広い校舎内の教室で、一人、目を覚ました。
     手元にはハンマー。
     そして教室に設置されたスピーカーから男の声がした。
    「今から学校にいるもの全員で殺しあえ。そうしないと外には出れないし、殺す」
     と。
     教室の窓や一階の玄関扉を試してみたが、開けることはできなかった。窓ガラスを割ろうとしてみても、上手くいかない。
     外に出れないのも、殺されるのも困っちゃう。
     だから、私はハンマーを使うことにした。廊下を歩いてたらおじさんにであったから、ぼかぼかぼかーんと殴った。教室にいた女の子を殴った。男の子も殴った。全部殺した。
     生き残りは、後、何人だろうか――。
    「やだ、年甲斐もなく、ときめいちゃう!」
     
     武蔵坂学園の教室で。
     姫子は集まった灼滅者たちに話題を斬りだした。
    「先日は武蔵坂の灼滅者を六六六人衆が襲撃してきましたが、皆さんの活躍で多くの敵を返討ちに出来ました」
     そして姫子は表情を険しくする。
    「しかし、それに危機を覚えたのでしょうか。縫村針子とカットスローターという2体の六六六人衆が新たな動きを始めました。
     二人が行っているのは、新たな六六六人衆を生み出す儀式らしいのです」
     姫子は俯き、しばらくためらってから顔をあげた。
    「その儀式とは、一般人に閉鎖空間で殺し合いをさせるというもの。
     そして、生き残った一人が六六六人衆となって、閉鎖空間から出てきます。
     この六六六人衆は、完全に闇堕ちしており救うことはできません。
     その上、六六六人衆の中でも特に残虐な性格を持つようになり、放置しておけば、大きな被害を出すでしょう」
     姫子は、ですが、と言葉を続けた。
    「ですが出てきたばかりの六六六人衆は、ある程度ダメージを受けており、配下もいません。灼滅する好機と言えます。
     彼女による虐殺を防ぐためにも、確実に灼滅してください」
     儀式により六六六人衆になった彼女の名は、マツナガ。年齢は30歳。
     元は陽気な性格の主婦だったが、今は殺すことを喜びと感じる邪悪な存在に変わってしまった。
     戦闘では、マツナガは六六六人衆の技の技を使いこなす。
     さらに「キャハハ、とっても楽しいわあ」等と笑いながらロケットスマッシュ相当の技を放ってくる。これはかなりの威力。
     また、己を癒すシャウトも使う。
     強敵だ。
     しかし、閉鎖空間から出た直後の彼女は、ある程度消耗している。
     この状態なら、勝てる可能性はあるだろう。
    「なので、皆さんは閉鎖空間となる富山県の廃校に赴き、玄関前で待機してください。皆さんがついて10分程すれば、閉鎖空間は解け、玄関前にマツナガがやってきます」
     玄関前は広々とした空間で、障害物は特にない。
     ここでマツナガを倒さなくてはならないが、マツナガは傷ついているとはいえ強敵。
     しかも、本格的な危機になれば、逃げる恐れもある。その点にも留意する必要がある。
     
    「強制的に闇堕ちさせられたという境遇には同情の余地はあります。
     しかし、他の一般人を皆殺しにして六六六人衆になった以上、助ける術は無いでしょうね。これ以上の被害がでる前に灼滅してください
     どうか御武運を!」


    参加者
    平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650)
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    左藤・四生(覡・d02658)
    蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)
    槌屋・透流(トールハンマー・d06177)
    九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)
    七蛇・虚空(はわわ軍師・d15308)
    此花・大輔(ホルモン元ヤンキー・d19737)

    ■リプレイ


     古びた校舎は、壁のあちこちにツタが絡まっていた。
     校舎の前の空間は、運動場だったのだろうか、広く開けている。ところどころに雑草が生えていた。
     灼滅者たちのうち三人は、錆ついた玄関扉の前にたち、残りの五人は壁に張り付くようにして、それぞれ待機している。
     玄関扉が音を立て、開く。
     出てきたのは、赤いセーターを着た女。赤いセーター? 否。元は白のセーターが、血に染まっているのだ。
     この女が、六六六人衆となった、マツナガだ。
     玄関の前に立っていた灼滅者三人は、マツナガに歩み寄る。
     うち一人、彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)は彼女を見、目を細めた。口の中だけで何事か呟いた後、はっきり声を出す。
    「待って。あなたをここから先へ、通すことはできない」
     此花・大輔(ホルモン元ヤンキー・d19737)の眼光は鋭い。片足を半歩前に出しながら、
    「よぉ、あんたがこの儀式の生き残りか? もしそうなら、生かしておけねェンだよなぁ……!」
     女――六六六人衆のマツナガは瞬きをし、そして首をこくんと傾けた。
    「通さない、生かさない……あらまあ。どうしてぇ?」
     甘えるような媚びるような言葉遣い。
     七蛇・虚空(はわわ軍師・d15308)は魔導書をとりだし、ページをめくる。
    「マツナガさんが強制的に殺し合いさせられたのは同情しますが、だからといって、被害者を増やす訳にもいけません。ですから」
     闘気を漂わせながらそう告げた。
    「殺される人なら、どんどん増えるわよぉ? あなた方だってそうなるもの♪」
     マツナガは愉快そうに言うと、2メートルもあるハンマーを軽々と振り上げる。
     一方、蜂・敬厳(エンジェルフレア・d03965)は気配を忍ばせながら、状況を観察していた。が、マツナガがハンマーを振りあげたのを見て薔薇色のボディの、ギターを掲げた。
    「今です、いきましょう!」
     敬厳の動作と鋭い声は、仲間への合図。
     平・等(眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡眼鏡・d00650)が眼鏡の縁に触れながら頷く。
    「了解だ。さっさと片付けちまおうぜ、促成栽培されちまったアイツをな」
     隠れていた五人と最初から姿を現していた三人。八人は颯爽と動き、彼女の前後左右をそれぞれ取る。
    「あぁら?」
     マツナガは灼滅者の動きに気付き、素早く構える。
     不意は打てなかったが、それでもマツナガを二重に囲むことはできた。
     マツナガは不満そうな声を出す。
    「折角あのゲームを終わらせたのに、邪魔をするなんて……」
     左藤・四生(覡・d02658)は相手が言い終わるのを待たず、首を左右する。
    「いいや、まだ殺人ゲームは終わってないよ。ここからが本番だ」
     槌屋・透流(トールハンマー・d06177)は息を吐き、ナイフを構えた。
    「アンタだって被害者だろうが……でも、アンタはどこかで間違えた。だから……ぶっ壊す」
     九十九坂・枢(飴色逆光ノスタルジィ・d12597)の藍の瞳には、悲しみの色。
    「私らには貴女をたすけてあげられへん……こうするしか、ない……ごめん」
     枢は、指輪を嵌めた手を持ち上げる。
     それぞれに想いを持ちながら、八人は攻撃を開始する。


     透流はナイフを地面に突き立てた。土にひびが入る。
     ひびからもうもうと霧が湧く。霧は後衛の仲間を包んだ。
    「援護だ……存分にぶち抜いてやってくれ」
     透流の言葉に頷く、虚空と枢。
    「ええ、最初から全力でいきます」
    「せやな。……おもいきり、やるしかないんやね」
     虚空は、透流の霧に包まれた腕をもう片方の手でさすった。腕が巨大化する。虚空の隣で、枢も腕を異形化させていた。
     枢と虚空、二人の拳がマツナガの腹と顔に――めり込む。
     マツナガは数歩退きながらも、にぃと笑う。
    「うふふふふっ、殺し合い♪ 殺し合いって楽しーわねぇっ!」
     そんな彼女を見て、四生は唇を動かした。
    「……」
     だが、声は出さない。
     四生の視線を感じたのか、マツナガは彼を見返した。
    「あらぁ? そんなにみられちゃ照れちゃう。体からなにか出ちゃうかも!」
     マツナガは体から黒い気を噴出させる。気が四生たち前衛の灼滅者を襲う。
     四生は気を浴び、額や腕から血を零した。
     しかし四生はあえて前にでる。地を蹴って敵に接近。
     杖を取り出し、フォースブレイク!
     敬厳もまた、気を受け傷ついていた。一瞬ふらつくが踏みとどまる。
    「手ごわいの……じゃが、わしらがやられっぱなしと、思うでないぞ!」
     雄々しい声。両手を広げた。
     敬厳が生み出したのは、白い霧。霧の中に含まれる力で皆に癒しと戦士の力を付与。
     大輔も己が強化されるのを感じていた。バベルブレイカーを持ち上げ――、
    「あんたの思い通りにはさせねぇ、痺れろッ!」
     杭を打ちだした。高速回転する先端でマツナガを狙う。さらに、ビハインドの実理も顔を晒し大輔に加勢。
     はたして、大輔の杭がマツナガの腹を、刺す。手ごたえは十二分にあった。
     が、マツナガははしゃいだ声をあげる。
    「あははは♪ 面白い、面白い、いやーん胸がキュンキュンしちゃう!」

     攻めつづける灼滅者。
     だが、彼らの目の前で。
     マツナガはハンマーを振りあげた。
    「楽しい、楽しい。だから次は、私の番。えいえいっ」
     あどけなさすら感じる掛け声。繰り出すのは、大地すら砕かんばかりの打撃。
     さくらえの脳天にハンマーの先端がめり込んだ。直撃だ。
     倒れるさくらえ。
     等は後方から様子をうかがっていた。さくらえのダメージは深いが、けれど、取り返しがつかないほどではない。
    「やるじゃないか、お母さん?」
     相手を言葉で挑発しながら、等は影を操る。
     鎧姿の影を立体化させ、相手の体を呑みこんだ。影の中でもがき、なんとか脱出するマツナガ。
    「煎兵衛、今のうちに!」
     等の声に従い、ナノナノの煎兵衛はさくらえに駆け寄った。しゃぼん玉を吹き、さくらえを治療する。
     完全には癒えきらなかったが、それでも、さくらえは立ち上がる。
     さくらえはマツナガを細めた目で見、かすかな声で言う。
    「(救うとか、綺麗言なんて言えない。ワタシも、ただの人殺しだから。けれど、貴方の命と業は背負える……だから、貴女を、ここで……)」
     さくらえは迷いを振り切る様に、跳んだ。影から抜け出したばかりの相手の背後に着地。
     流れるような動きで剣を操り、マツナガの脛を斬る。血が飛んだ。マツナガの赤いセーターがさらに赤く、染まった。


     灼滅者たちの傷は増えていく。
     マツナガの攻撃の殺傷力は大きい。回復は必ずしも追いつかない。
     それでも、灼滅者たちはマツナガへ着実なダメージを与えていた。マツナガは口元こそ笑顔を浮かべているが、額に大粒の汗を浮べている
     敬厳が真上に跳んだ。
     落下と同時、ギターを相手の肩へ振り落とす!
    「痛ぁい!」
     マツナガが、この戦闘で初めて、顔をしかめた。
     これぞ好機、と追い撃ちをかけようとする敬厳。
     が、次の瞬間、敬厳の皮膚から血が噴き出した。
     マツナガの左手が防具と肌を裂いたのだ。
     さらに右腕を振りあげ、ハンマーで――殴打!
     敬厳の体が崩れ落ちる。意識を失う直前彼は言う。
    「皆、包囲をといてはならん。すまぬが、後は任せ……た」
    「わかりました。絶対に勝ってみせますから」
     敬厳に応えたのは、虚空。
     虚空はロッドを振りあげる。
     杖の先からほとばしる雷!
     勝ち誇った笑顔をしたマツナガを感電させる。

     仲間一人を倒されても、灼滅者はなお執拗な攻撃を続けた。
     さくらえもまた、クルセイドソードをふるう。
    「……これで……おやすみ……」
     破邪の光を放つ刀身で、鋭い斬撃!
     マツナガの胴に横一文字の傷をつける。
     マツナガの脚がふらつく。
    「もう、失礼しちゃう。なんなのよ、なんなのよ、なんだっていうのよーっ」
     マツナガはハンマーをでたらめに振り回しながら叫ぶ。
     叫ぶことで、己の体勢を立て直させる。
     そして次の一分後に、片手で黒死斬を見舞ってくる。
    「これでだいぎゃくてーん☆」
     大輔の脚が斬れ、血が飛んだ。
     マツナガは再び笑うが、
    「アンタには、これ以上やらせない。ぶっ壊れてでも私が守る」
     透流が宣言する。
     透流は弓を強く引き、一本の矢を放つ。
     それは癒しの矢。大輔の傷が塞がっていく。
     大輔は拳を硬く握りしめた。
    「悪いが逆転なんてさせねえ。いくぜ、これが炭火ビームだ!」
     大輔の体から光が放たれる。大輔の隣の実理も同時に動き、霊障波を放った。
     一人と一体の力が、マツナガの体に激突。土煙が舞う。
     両膝を地面につけるマツナガ。
    「な、なんで……あなた達は……」
     等は煎兵衛に大輔の治療をさせつつ、等自身は槍の穂先をマツナガの顔面に向けた。
    「仲間全員で連携をとりフォローしあう……促成栽培のオマエには、まだ難しいか?」
     等は皮肉げに言いながら、マツナガの顔を氷の塊で――撃つ!
     両膝をつけたマツナガの体が揺らぐ。
     だが――マツナガはハンマーを杖のようにして立ち上がる。
     肩で息をしながら、なお、闘志を失っていない。
     それからの二分間は、マツナガの死に物狂いの抵抗が行われた。
     けれども、メディックの透流の活躍もあり、灼滅者たちはその後は犠牲者を出さず踏みとどまる。
     マツナガは、周囲に視線をめぐらせた。逃げ道を探しているのか?
     しかし、灼滅者たちは彼女の逃亡を予想し、包囲網を維持し続けていた。敬厳が倒れて出来た穴は後衛が埋めている。
     マツナガは唇を噛む。悔しそうに。そして喚く
    「なら――もう一人二人倒すだけ……っ!」
     ハンマーを振る。風切り音。
     四生の顔面に、ハンマーの先がめり込む。鈍い音。
     しかし、
    「残念だけど、僕は倒れない」
     四生は額から血を零しながら、なお立っていた。傷は深い。耐えれて後一撃。
     四生はあえて回復しない。
     右拳でマツナガの顎を打ち、左拳で顔面を殴る。さらに右拳を鳩尾に。打撃のコンビネーション!
     マツナガは仰向けに倒れ込む。けれど、まだ生きていた。顔をあげる。限界まで見開いた目で灼滅者を見る。
    「まだ……まだよぉ……」
     両手を地面に着く。起き上がろうとしているのだ。
     彼女の横に、枢が立つ。静かな声。
    「ごめん……逃がしてあげられへん。私にできるんは……貴方を消してまうことだけ……」
     枢は影をマツナガの首に巻きつけた。強く絞めあげる。
     枢の影は、マツナガの力を奪い――消滅させた。


     虚空はマツナガがいた場所に近づき、彼女が完全に消滅したのを確認。
    「倒せたようですね、強敵でしたが……無事に終えれて何よりです」
     体から力を抜き、息を吐く虚空。額に浮かぶ幾つもの汗の粒。
     その後、灼滅者たちは、校内に入った。
     廊下に転がる死体はいずれも損傷がひどいものであった。
     さくらえは一つの死体の前で立ち止まる。
    「……っ」
     さくらえの口から言葉は出ない。代わりに目を閉じて彼らに祈りを捧げる。
     枢と大輔も、また祈っていた。
    「みな……家に帰りたかったやろな」
     ポツリ、呟く枢。
    「こんなゲーム、許しちゃならねぇよ……!」
     いきどおる大輔。
     四生も死体を見、首を横に振る。
    「人々を守るための戦い……だったのかな、これは」
     答えるものはいない。
     やがて、灼滅者たちは玄関前へと戻る。
     等は敬厳を担いで、皆に呼び掛けた。
    「他にも栽培場があるんだろうな。怖いもんだが、ま、今回の件は終わった。ウマイ魚でも食って帰ろうぜ」
     残り七人が等の言葉に頷き、その場を後にする。
     透流も皆に続きながら、校舎を振りかえる。
    「仇は討つ……ってのは、傲慢かもしれないが、アンタ達をこんな目に合わせた奴らは、いつか必ずぶち抜く」
     透流の灰の瞳には、確かな、決意。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月2日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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