ホワイトデー・クッキー

    作者:カンナミユ


    「…………」
     オレンジ色に包まれたトースターの中を三国・マコト(正義のファイター・dn0160)はじっと見つめていた。
     トースターの中にはクッキングシートを敷いた天板が入っており、その上に並ぶ四角と丸をいびつに融合させた分厚い何かがじわじわと焼かれている。
     微動だにしない彼の背後には小麦粉の袋やバターが調理器具と一緒に乱雑に置かれたまま。今のうちに片付ければいいのに、マコトにはそこまで思考が回らない。
     焼きあがり時間は徐々に短くなり、完成が近付いてくる。
     2分……1分30秒……1分。
     30秒……。
     チーン♪
     軽やかな音にマコトはトースターを開けるが、もわっと煙が室内に広がり、思わず目を瞑ってむせてしまう。
     鍋つかみを手に天板を取り出し、焼きあがったそれを皿に移し、冷めるのを待つ。
     が、
    「…………」
     出来上がりが気になって、冷めるまで待てない。皿の上に乗るそれを一つ摘み……熱い。冷めるまで待つことしばし。
     ようやく冷めたそれを口にし――
     マコトは沈した。
      

    「なあ、クッキーを作らないか?」
     資料ではなく胃薬を手に結城・相馬(超真面目なエクスブレイン・dn0179)は集まった灼滅者達を前にそう話を切り出した。
    「戦いじゃないのか?」
    「ある意味、戦いだ……」
     ダークネス、あるいは都市伝説などの戦いを期待していた灼滅者の言葉に相馬は苦虫を噛み潰すような顔のまま、事の顛末を話し出す。
     相馬の後輩にマコトという灼滅者がいる。
     マコトはバレンタインに母親と妹からチョコレートをもらい、お返しに手作りクッキーを贈る事にしたのだが……
    「あいつは料理ができない」
     それを知らずに彼が作ったクッキーを食べた相馬はこれはいけないと考え、みんなと作れば何とかなるだろうと思ったそうだ。
    (「ああ、だから胃薬……」)
     よほど悲惨なクッキーを食べたのだろう。胃薬を手にする理由に気付いた灼滅者達は思わず彼の心境を察してしまう。
    「まあ、暇だし俺はいいぜ。クッキー作り」
    「僕も構わないよ」
    「そう言ってくれると助かるよ」
     その言葉に相馬は胸を撫で下ろし、説明を続ける。
     場所は学校の調理実習室。材料や型抜きなどの調理器具は用意するので持参する必要はないと相馬は話す。
    「私達も参加していいの?」
    「構わないさ」
     女性灼滅者の問いに相馬はさらりと答えた。
    「ホワイトデーとかそういうのは気にしないでさ、気軽に参加して欲しいんだ」
     皆で楽しくクッキーを作ろう! そんな内容である。
     なおクッキーは多めに作り、焼いた後は味見と称したお茶会も計画している。
    「みんなでクッキー作ろうぜ。絶対楽しいから」
     相馬はそう言うと胃薬を口に放り込み、ペットボトルの水と共に飲み込んだ。


    ■リプレイ

    ●クッキーを作ろう!
     休日の学園内は人影もまばらだが、この日は調理実習室から明るい声が聞こえてくる。
     さあ、今日は皆でクッキーを作ろう!
      
    (「ウッ、なんだこの……ホワワンとした空気はァ!」)
     和気藹々、ほわーんとした空気の中で大文字はえらく困惑していた。
     漢(おとこ)たるものや台所には立たぬ! ……と、言いたい所なのだが彼女から手作りチョコをもらった以上は手作りクッキーで応えなければ! 漢として!
     一世一代の漢クッキーを作るべく、料理経験のない大文字はプリントを手に悪戦苦闘である。
     材料が並ぶ中から薄力粉の袋を手に取り、
    (「何だよ『うすりき粉』って。弱そうだな……」)
     首を傾げる。薄い力の粉なのだろうか。訳が分からない。
     きょろきょろと周囲を見回し、近くにいる人に恥を忍んでこそっと聞いてみる。
    「『はくりきこ』って読むんですよ」
    「そ、そうか……助かったぜ!」
     聞いた甲斐があった。大文字は礼を言い、隅に戻り彼女の為にクッキー作りを再開させる。
     見た目がおかしくてもレシピ通りである。味は何とかなるだろう……多分。
     混ぜた砂糖とバターが白っぽくなったのを確認し、流希は振るいにかけた薄力粉を何回かに分けてざっくりとゴムベラで混ぜる。
     流希には思いと共にクッキーを渡したい相手はいない訳ではないのだが……
    (「分からない人に色々と教えつつ自分の分も作りましょうかねぇ……」)
     考えながら視線を巡らせると、料理が得意ではないようで四苦八苦しているのが見えた。
     家事全般をこなせる流希はお菓子作りも得意だ。少しでも他の人のが美味しくなるようにアドバイスとアイデアを出してやる。
     ちょっとした工夫一つでプレーンクッキーは様変わりする。
     ジャムを入れたジャムクッキーにチョコチップを入れたチョコチップクッキー。アーモンドを乗せるのも美味しそうだし、アイシングやチョコペンシルで模様を入れるのも楽しそうだ。
    (「いやはや、楽しいものですよ……」)
     あれこれ思案しつつ、流希のクッキー作りはまだはじまったばかりだ。
      
    「最初から本格的にやろうとするなよ、お前」
     優志は思わず溜息をつく。
     視線の先には粉ふるいに失敗し、派手に小麦粉を散らすマコトがいた。
    「最初はホットケーキミックスとかクッキー専用の粉とか使えって……」
     もっと簡単に作ればいいのに。内心で嘆息しつつ、最初から本格的に行くところがマコトらしい気もするけど、と手伝いながら優志もクッキー作りをはじめた。
     作るのはシンプルなプレーンとココア。動物の形をしたクッキーで、アイシングで飾るのも可愛いが今回は素朴に焼いたままで渡そう。
     妹のような小さなお姫さん様もきっと喜ぶに違いない。
     焼き上がったら、一つ三国に差し出して、お裾分けしよう。
     充分に熱を取ってから透明の袋にそっと割れないように詰めて、金と淡い紫のリボンで封をして……
    「また小麦粉散らしてるって……」
     優志の気苦労は続きそうである。
     銀嶺は自分などでよかったのだろうかと思いながら、誘ってくれた純也とレシピが印刷されたプリント交互にを見つめた。
     並べられた材料を計量する純也からレシピ手順に則った進行を依頼され、
    「あまり調理は得意ではないが……生地作るくらいならばなんとか」
     と、手順通りにクッキー作りを開始する。
     必要な材料は純也が用意し、銀嶺が生地を作成した。
    「で、これを伸ばしてこの型で抜けばよいの――」
     言葉が途切れる。持ち方が悪かったのか、銀嶺はクッキー型で指先を切ってしまったのだ。
    「……すまないが、型抜きは任せてよいだろうか」
    「流石武蔵坂、クッキー型に至るまで殲術道具化が進んで……いや、了解した。請け負おう」
     灼滅者の手にかかればクッキー型も恐ろしい凶器となる。血が滲む指を舐める銀嶺の言葉に純也は応じ、伸ばした生地に型を押し当てた。
    「レシピ通りに進めれば問題などそう発生しない。三国という先達は、見ずに製菓を行ったのではないかと思う」
     黙々と作業する中ぽつりと言う純也の視線の先には、自分さえも口にできないクッキーを作ったというマコトが一生懸命にクッキー作りに取り組んでいた。
    「レシピ通りに、か。あいつもそうしているつもりで全然出来ない奴だったな」
     純也から視線を向けられ、独りごとだと気にしないよう言う銀嶺は自分の幼馴染もそんな奴だったと口にする。
     縁ある知人だろうか。推測しながら純也は丁寧に型を抜き、シートを敷いた天板に乗せていく。
    「機会があれば其方が協力すれば良い」
    「……機会があればな。いつになるかはわからないが」
     温めておいたオーブンの中に天板を入れ、温度と時間を設定し、スタート。
     焼き上がったクッキーをどうするか思案しながら二人はオーブンの前で完成を待った。
      
    「俺も最初はひどかったぞ。バターや砂糖、粉の量の間違いや焼き加減。味がないわ、焦げてまずいわ」
     常温に戻したバターをボールに入れ、ゴムベラで混ぜるのを苦闘するマコトに玖真は自分がやる様子を見せながら昔の自分を思い出し、自らの失敗談を語った。
    「それでも何度も繰り返してやることで作れるようになった。そしてそうやって努力して上手く作れたからこそ、食べたやつの笑顔が見られるってもんだ」
     言いながら蘇る失敗作と成功を思い浮かべ、にやにやと視線を向ける。
    「まあ、そんな努力のとばっちりを受けた娘もそこにいるわけなんだがな」
    「玖真ママの作った失敗作は激マズじゃったのぅ……結城どの胃薬の件には同情するのじゃ」
     彼の視線の先では、明がマコトが失敗しないよう材料を用意し手伝っていた。
     言葉を交わす中、ふと玖真が作った失敗作を食べた記憶が蘇り、思わず犠牲者と自分を重ねてしまい苦笑する。
    「現在では玖真ママは料理スキルが上がって美味しいチョコレートタルトが作れる様になったのじゃよ」
     実は料理を上手く作れるのだが、明は基本的に食べるのが専門だ。最初は不味かったものが徐々に美味くなっていった玖真の料理を思い出し、思わず顔がほころんでしまう。
    「オレも作れるようになれるかな?」
     マコトの呟きに二人はもちろんと頷く。
    「三国どのは猫が好きみたいじゃから猫の型のクッキーもよいかもの?」
    「うん、ありがとう! 明さん、昂式先輩」
     明の手には、猫の顔の形をしたものから可愛らしく座る形の型まで色々と揃っている。嬉しそうに受け取るマコトがにこりと笑うと、明と玖真の顔から自然と笑みがこぼれた。
    「ほらほら、早くしないと皆作り終わっちゃうよー? ボクが手伝ってあげようか?」
    「大丈夫。こういうのは自力でつくらないと!」
     からかいながらも手伝おうとするリコの言葉を夏樹はやんわりと断った。
     助力は欲しい所だが、夏樹にも意地がある。レシピが印刷されたプリント片手に去年貰ったのを参考にし、チョコクッキーを作ろうと頑張っている。
    「リコは大丈夫なの?」
    「ふっふー、ボクはもう焼けるの待つだけだよー?」
     自信満々の言葉。元気いっぱいの笑みを浮かべる彼女の言葉に思わず驚いてしまう。自分はようやく生地をまとめたというのに、もう焼いているなんて。
    「え、本当?」
    「ボクが嘘言う訳ないでしょ?」
     ニヤニヤと言うリコの言葉に夏樹は振り向くと、既にオーブンでクッキーが焼かれているのが見えた。バターと砂糖の甘い香りがふわりと鼻孔をくすぐる。
     去年作った事もあるし、時々練習もしている。経験があるリコは夏樹より手際よくクッキーを作る事ができたのだ。
    「あれ? ちょっと煙が出てない?」
    「や、やだなぁまさかそんなことするはずないでしょ? せっかくデキる所を見せるチャンスなんだしそんなのないない」
     夏樹の言葉に慌てて振り向きオーブンを見ると、何やら嫌な煙が。心なしかくすぐる香りも焦げた匂いになってきたような……
    「だ、大丈夫だって! ボクが焼くクッキーが焦げるはずないでしょ?」
    「リコの手作りならたとえ消し炭になってても食べますよ。絶対に!」
     にこりと微笑む夏樹だが、リコが立てたフラグは果たして折れるかどうか。
     作りたてを食べる彼女の顔を思い浮かべながら夏樹はクッキー作りを再開した。
      
    「大丈夫ですか?」
     レシピを見ながらクッキーを作っていた優歌だったが、ふと、型抜きに苦戦しているマコトが目に付き声をかけた。
     よく見てみると、生地が柔らかくなってしまっている。
    「こういう場合は一度、生地を冷蔵庫で冷やすとやりやすくなりますよ」
    「詳しいんですね」
     マコトの言葉に優歌は微笑む。
     優歌は家庭科クラブの部長だ。料理やお菓子作りが好きな彼女からすれば、これくらいの問題は簡単に解決できる。
    「お菓子作りは料理の中でも、レシピを守ることが特に大切ですよ。だから、それを丁寧に実行していくことできっと作っていけますから」
     彼女の言葉に頷き、マコトはもう一度レシピを確認する。
    (「少しでもお料理に感心を持ってもらえるといいのだけど」)
     料理が苦手だという彼に少しばかり不安になってしまうが、レシピを真剣に見つめる表情を目にする限り、どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。
    「よぅし、たくさん作って驚かせちゃいますよっ!」
     葉月は目の前に並ぶ材料を前に腕をまくりして気合を入れる。
     今日は仲間達が食べたいと言っているクッキーを友達と3人で作るのだ。
    「楽しみですね」
    「頑張ろうね、スヴィータちゃん、葉月ちゃん」
     葉月の言葉にスヴェトラーナと蘭も頷き、クッキー作りの準備をはじめた。
    「リナヤちゃんはどんなクッキー作るの?」
    「私? 私は普通のクッキーとバタークッキーよ」
     葉月に聞かれスヴェトラーナは生地を作りながら答えた。彼女が作るのは甘さ控えめのプレーンとチョコチップを入れたクッキーにナッツを入れたロシア風のバタークッキー、そして生姜クッキーだ。
    「あれ? これだけすっごく丁寧に作ってる? ……スヴィータちゃん、もしかして~?」
    「あ、あの、これは……」
     蘭に指摘され、思わず顔が赤くなってしまう。様々な種類を作るスヴェトラーナだったが、プレーンクッキーは恋人へのプレゼント用なのだ。
     喜ぶ恋人の顔を思い浮かべながら作っていたからか、顔に出てしまったのだろうか。
    「そういえば葉月ちゃんは何を作るの?」
    「私も気になります」
     葉月が作るのは紅茶にチョコチップ、プレーンに餡子、それから自分好みのココアのクッキー。
     蘭とスヴェトラーナが気になっているのは水を張ったボールだ。中には細い短冊状のものが入っている。
    「これ? 大根クッキーに使う切り干し大根だよ」
     二人の言葉に葉月は答えた。彼女が作る目玉のクッキーは聞き慣れない名前だが、実在するクッキーである。
     水で戻した切り干し大根を水気を切ってから刻み、調べた通りに生地の中へざっくりと混ぜる。
    「大根とあんこが不安なんだけど、大丈夫かな?」
    「葉月ちゃんなら大丈夫だよ」
     不安そうな葉月に蘭は声をかけるとスヴェトラーナも頷いた。
     3人は他愛のない話で盛り上がりながら作っていたが、
    「できた!」
     クッキーを天板に乗せ終えた蘭は言うと、それを二人に見せた。
     天板には星や動物の形をしたクッキーが並ぶが、妙なクッキーが乗っているではないか。
     丸くて白い、ヒレのついた生物らしき、何か。
    「蘭ねえさま、まさか、これは……」
    「邪神……?!」
     スヴェトラーナと葉月の言葉に周囲が驚き、ざわめいた。邪神かどうかは本人の口から明らかになるだろう。
     焼きあがったら味見をして、皆でクッキーを交換して食べよう。焼きあがる前から3人は期待に胸が膨らみ、自然と会話も弾んでいく。
      
     作り方が印刷されたプリントを見ながら一人黙々とクッキーを作った京介だが、焼き上がるのを待っていると、天板を持つマコトと目が合った。
    「七橋先輩はもう作り終わったんですか?」
    「後は焼き上がりを待つだけですよ」
     声をかけられた京介は自分が入れたオーブンを指差すとマコトはオーブンに近付き、中を覗き込む。
    「先輩は誰にクッキーをあげるんですか?」
    「僕? 僕は武蔵坂に来てからお世話になった人に渡せたらって考えていますよ」
     天板を手にしたままのマコトに尋ねられ、京介は答えた。
     チョコレートをもらっていないのでお返しではなく、お世話になった人達へ感謝の気持ちとしてクッキーを渡せたらと考えているのだ。
    「オレはお母さんと妹にあげるんですけど、オレも先輩みたいにお世話になったみんなにあげようかな」
    「きっと喜ぶと思いますよ」
     京介からの言葉に表情を明るくしたマコトはオーブンに天板を入れようとし、……温めるのを忘れていた。
     オーブンが温まるまでの間、他愛のない雑談を交わす。
    (「……? どれがどれだろう……」)
     クッキーどころか物を作るのが初めてのホワイトはレシピが印刷されたプリントを手に、並ぶ材料をじっと眺め首をかしげた。
     いつもは誰かが代わりにやってくれるので、今回は一人で最後までやってみようとレシピとにらめっこしながら手順通りに黙々と作る事に。
    (「材料を混ぜていけば問題ないはず」)
     レシピ通りの材料を揃え分量を量り、手順通りに混ぜる。
     バターを混ぜ、砂糖を混ぜ、卵を混ぜ、小麦粉を混ぜ、まとめて冷蔵庫で休ませる。
     温めたオーブンを前に、ホワイトが持つ天板に並ぶのはシンプルな丸い形のクッキー。型を使う必要もないので料理初挑戦の彼女でも簡単に作る事ができた。
     ちょっぴり不揃いなクッキーが並ぶ天板をオーブンに入れ、スイッチオン。待つことしばし。
     チーン♪
     期待と不安を胸にオーブンを開け、焼き上がりを確認。
    (「……後で一人反省会決定」)
     どうやら温度設定を間違えてしまったらしい。ちょっぴり焦げたクッキーを目にホワイトは少し悩み、内心でぽつりと呟いた。
      
    「……もう少し味が濃いほうがいいような。しかしあまり薄味だとクッキーのパサさが目立ってしまうような」
     荒熱の取れたクッキーを公平は一つ、また一つと口にしては感想を呟く。
     皿の上にはプレーン、チョコチップ、ジンジャークッキーが並べられており、納得できるまで何度も作り直していた。
    「片桐先輩、クッキーなくなっちゃいませんか?」
     何度も作っては食べを繰り返すものだから見ていたマコトが心配そうに声をかけてきた。食べ過ぎて持ち帰る分がなくなってしまうのではと不安そうだ。
    「あぁ、大丈夫です。分量は計算しているので」
     その言葉に納得したらしい。彼女へクッキーを贈るのかと聞かれ、
    「そんなんじゃないですよ。バレンタインに友人からもらったのでそのお返しを」
     そう応える公平は動物型のクッキーを作り、オーブンへ。待つことしばし。
    「ええと、鳥、猫? 虎かな? 先輩これは……亀?」
    「竜は……やはり無理です」
     四神のクッキーを作ろうとしたのだが、竜を作る事はできなかった。
     公平謹製、四神ならぬ三神クッキーの完成である。
      
    ●焼けました!
     調理実習室にはバターと砂糖、ココアなどの甘い匂いが広がり、各自オーブンから焼き上がったクッキーを取り出した。
     完成したクッキーを並べ、紅茶やコーヒーと共に味見と称したお茶会の始まりである。
      
    「趣味って事はないけど、食べられればいいレベルなら大体の物は作れるかもな」
    「料理もお菓子作りも普段しない私からすると、大條くんはとっても出来る人に見えるよ」
     科学の実験感覚だと言う修太郎の言葉に感心しながら、郁は並ぶ修太郎お手製のクッキーを見つめた。
    「さーできた。食べよう」
    「今日はご馳走になります!」
     皿の上にはプレーンとチーズ風味のクッキー。ゴマが入ったきな粉味におから入りクッキーもある。
    「なんとなくプレーン以外だとチョコとかナッツが入ってるイメージしてたんだけど予想外ね。チーズ……はチーズケーキみたいな感じ?」
     飾り気がないし、全部丸いと修太郎が言うクッキーの中から郁はチーズ風味を手に取り口にする。あまり甘くない。
    「紅茶と緑茶どっちが合うだろう」
    「紅茶もいいし緑茶もいいねー」
     どちらでも飲めるよう、急須とティーポットを用意していた修太郎はひとまず緑茶を淹れる事にした。
     茶葉が開き、香りがふんわりと漂う中、郁は並ぶクッキーを一つ、また一つと口にする。
    「どれが一番マシってか口に合う?」
    「どれもおいしいけど、きな粉&ゴマが好きかも」
     気持ちばかりでプレゼントにもならない出来だけど今日だけの限定品って事で、と修太郎は言うが、彼が自分の為に色々考えて作ってくれたのがすごい嬉しい。
     他愛のない会話と共にクッキーは少しずつ減っていく。
    「あと最後にこれ」
     頃合を見計らって、修太郎は隠していたそれをテーブルから取り出した。
     皿にはハートのクッキーが並んでいる。
    「実はハート型も作ったんだ。良かったらどうぞ」
     彼の、彼女への思いが詰まったクッキー。
    「ありがとう」
     ふふっと笑って受け取る郁に、修太郎も思わず表情をほころばせた。
      
     それぞれに楽しい時間を過ごし、クッキー作りはトラブルもなく終了した。
     皆で片付けして、色々な思いが込められたクッキーをお持ち帰り。
     クッキーと共に皆の思いが届きますように!

    作者:カンナミユ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月13日
    難度:簡単
    参加:18人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 4
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ