深夜の、寂れた集落へとやってきた一匹の獣。左耳には、噛み千切られたような古傷がある。
ひと気のない夜道を探索するうち、獣は使われなくなった古井戸を見付けた。
蓋として被せられた鉄の板を器用に外し、真っ暗な井戸の中を覗き込みながら鼻をひくつかせる獣。
そうして満足したのか、獣は井戸を離れ、そして集落からも去っていく。
しばらくして、古井戸の中から何者かが頭を覗かせる。闇夜に輝く双眸で周囲を見回したそれは、再び井戸の中へと潜んでいった――。
「諸君、新たな古の畏れが発生したようだ」
教室へとやってきた宮本・軍(高校生エクスブレイン・dn0176)は、灼滅者たちへと事件の概要を告げる。
「今回古の畏れが発生したのは、この集落だ。
ここにはもう使われていない古びた井戸があるのだが、その井戸には河童が潜んでいるという言い伝えがあってな、どうやらそれが実体化したらしい」
集落の場所を地図で示しながら説明をする軍。
実体化した河童は何者かが井戸に近付くと、井戸の中へと引きずり込んで溺れさせようとするらしい。
「この井戸は使われていないとはいえ、集落の中に存在しているのだ。いずれ蓋が開け放たれていることを不審に思った住人が、犠牲になってしまうかもしれない。
その前にこの集落へと赴いて、河童を消し去ってきてほしい」
そして次に軍は、河童の能力について説明を始めた。
「河童は相撲が強いとよく言い伝えられているが、この河童も例に漏れず力が強い。その剛力を駆使してロケットハンマーの技を使ってくるようだ。
また井戸の水を操って、影業のように己の武器としてくることも予測されている。注意してくれ」
そして河童は、誰か一人が井戸を覗き込めるほどの距離まで近付けば、姿を現す。だが相手を引きずり込むのに失敗すると、井戸の底へと逃げてしまう、と軍は告げる。
「井戸に逃げ込んだ河童は姿を消して、そのまましばらく現れない。戦うならば、逆に井戸の外へと引きずり出してしまうべきだろう」
また井戸は集落の中に存在しているため、一般人を巻き込まないための工夫も必要だろう。
「意思を持たず、ただ言い伝えの通りに人を襲う物の怪というのは、ある意味ダークネスよりも厄介かもしれないな。
なんとか犠牲者が出る前に、この古の畏れを退治してきてくれ」
軍の激励を背に、灼滅者たちは行動を開始した。
参加者 | |
---|---|
長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465) |
鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568) |
ゲイル・ライトウィンド(赫き剣携えし破魔の術剣士・d05576) |
冴凪・勇騎(蒼黒の陰魄・d05694) |
青和・イチ(藍色夜灯・d08927) |
大御神・緋女(紅月鬼・d14039) |
久安・雪(灰色に濡れる雪・d20009) |
花咲・ウララ(春生まれ・d22366) |
●
古の畏れが発生したとされる集落へやってきた灼滅者たち。彼らは戦闘に一般人を巻き込まぬよう、事前に周囲の探索を行っていた。
「……さすがに小さな集落だな。もうそんなに人の気配はなさそうだぜ」
周囲に目を光らせながら、冴凪・勇騎(蒼黒の陰魄・d05694)が言う。
「そう、だね……。これなら、集落の人、傷付かずに済む……かな?」
あまり感情の見えない表情で、青和・イチ(藍色夜灯・d08927)が応じる。
「うむ、これでわらわ等の本領が発揮できるというものじゃな! では、いよいよ河童を見にいくとするかのう」
見掛けた一般人を、片っ端から魂鎮めの風で眠らせた大御神・緋女(紅月鬼・d14039)。口調は古めかしい彼女だが、その実好奇心が強い少女だ。まだ見ぬ河童への期待を隠せずにいた。
そして灼滅者たちは、河童が出現するとされる井戸の前へと集まった。
手近な木と自身を、頑丈そうなロープで結ぶ緋女。そして単身、井戸へと近付いていく。
「ほーれ、河童や河童ー、出てくるがいいっ」
緋女は底の見えぬ井戸の中を覗き込みながら、河童へと呼び掛ける。
――すると彼女は、水面から何者かの視線を感じた。そして直後、触手と化した水が飛び出し、緋女の体を拘束する。さらに凄まじい力で、彼女を井戸の中へと引きずり込もうとし始めた。
「にゃぎゃ――!! な、なんのぉ……!」
突然の襲撃に猫のような悲鳴をあげながらも、怪力無双を発揮してなんとか踏み止まる緋女。だがそこで、両者の力は拮抗してしまった。
「引きずり込ませは……せんぞ!」
耐えている緋女を、後方から抱き抱えた久安・雪(灰色に濡れる雪・d20009)。彼もまた怪力無双を発動し、緋女ごと敵を引きずり出しにかかる。
足を地面にめり込ませながら、井戸全体が軋むほどに力を込める雪。そして遂に、緋女を井戸から引き剥がすことに成功した。また彼女を引っ張っていた敵も、その姿を灼滅者たちの前に晒すのだった。
それは全身が暗い青緑で、井戸水で濡れて光っている。全体的に爬虫類然とした姿をしていながら、顔はクチバシの生えた猿のようだ。頭髪も生えているが、頭頂部は皿のように丸く禿げている。
「いやぁ、本当にいかにもって感じの河童っすね。でも甲羅を背負ってないのはちょっと意外っす」
敵――河童と井戸との間に陣取りつつ、殺界を形成する長久手・蛇目(憧憬エクストラス・d00465)。
「こうして河童が実体化してるのを見ると、何でもありって感じでびっくりだね。というかかなりメジャー所で攻めてきたなぁ」
蛇目と同じく河童の退路を塞ぎつつ、キャリバーの機銃で敵を牽制する鈴木・総一郎(鈴木さん家の・d03568)。
「――済まないけど、井戸に戻らせる訳にはいかないんだ」
そしてその隙に、イチと花咲・ウララ(春生まれ・d22366)が井戸の傍へと駆け寄っていた。
「もっと、怖いかと思ったけど……こうして見ると、結構ひょうきん、だね。河童……」
「うーん、どうなんだろう……。これは割とキモ可愛い、のかなぁ?」
爬虫類と猿の中間のような姿の河童をどう評すべきか悩みながら、井戸の傍に置かれた鉄の蓋を、イチと協力して井戸に被せるウララ。申し訳程度だが、多少は河童の逃走を妨害できるだろうと判断したのだ。
そして彼女らの傍らでは、それぞれのサーヴァントが戦闘に備えていた。
●
「ほほう、これが話に聞く河童とやらか。まさかこの目で見ようとは。
ではこの緋女が、見事きゃっちあんどりりーすしてみせようぞっ!」
真紅の大剣『暁紅』に炎を纏わせながら、真っ先に敵へと飛び掛かる緋女。熱気を帯びた刃で、舞うように斬撃を放つ。
「いや、リリースしちゃマズいでしょう。早いとこ仕留めて帰りましょう」
前衛で敵と対峙する緋女を支援すべく、護符を飛ばして守護を施すゲイル・ライトウィンド(赫き剣携えし破魔の術剣士・d05576)。
「でも真面目なお仕事って疲れるんですよねぇ。もっとこう、綺麗なお姉さんとか凛々しいお姉さんとか、とにかく目の保養になるような伝承ならよかったんですが……」
それでも来たからには働きますよ、とりあえずは――そうぼやきながら、ゲイルは実体化させたビハインドを敵へと突っ込ませる。
ビハインドの攻撃を凌いだ河童は、井戸に撤退すべきか否か迷っているようだった。
そして周囲を見回しながら、その場で相撲の構えを取る。足を高く上げ、力強い四股を踏む。――するとその衝撃が凄まじい波となって、前衛の灼滅者たちへと襲い掛かった。
「っく! 中々効くっすね、でもそう簡単にやられませんぜ!」
ディフェンダーとして仲間を衝撃波から庇った蛇目は、クルセイドソードに刻まれた祝詞を読み上げて、仲間へと癒しの風を吹かせる。
「――くろ丸、行くよ」
傍らの霊犬に語り掛けながら、クルセイドソードを抜き放つイチ。霊犬『くろ丸』の斬魔刀と共に河童へと斬り掛かった。
「ウララも負けてられないねー。いくよー、ケリー!」
同じサーヴァント持ちのイチに負けじと、ウララもまたナノナノ『ケリー』と共に敵へと挑む。ケリーにしゃぼん玉で牽制させつつ、自身は黒いブーティ型の影業より触手を放ち敵を捕縛する。
前衛多数の布陣で攻撃を仕掛ける灼滅者たち。対する河童は逃げられぬと判断したのか、灼滅者たちを迎え撃つことにしたようだ。
身に纏った水を操る河童は、自身の頭上に巨大な水の塊を形成する。そして手近な灼滅者を飲み込むべく、猛烈な水流を放った。
「今日の……僕は、ディフェンダー。仲間は……守る、よ」
クルセイドソードの力で肉体が強化されているイチが、仲間を庇うべく水流へと立ち塞がった。そして霊犬による治療を受けながら、反撃とばかりに巨大な影を河童へと放つ。
「みんなのサーヴァントも頑張ってるようだし、俺たちもいくよ!」
イチの影に飲み込まれている敵へと、キャリバーを突撃させる総一郎。さらに自身も、影を込めた得物による一撃を見舞った。
「悪いな……。てめぇに罪の意識がなかろうが、ここは俺も全力で行かせてもらうぜ……。戦いに情けかけられる程、強かねぇんでな」
右腕を異形と化した勇騎も、仲間に続くように敵へと飛び掛かった。そして鬼の腕で殴打を見舞う――かと思いきや、もう一方の腕に仕込まれた注射針を突き刺していた。
河童は堪らず後方へと飛び退くが、流し込まれた無色透明の猛毒は、着実にその体を蝕んでいく。
「――難を逃れたと思うたか? ここはわしの射程じゃぞ」
毒に苦しむ敵へと畳み掛けるように、雪はロッドを振って雷撃を放った。
「大いなる雷じゃ。避けれるものなら避けてみるが良い……避けさせぬがの」
狙い澄ました雪の一撃は、河童へと痛烈なダメージを与えた。
●
相撲や水を駆使する河童に対し、灼滅者たちは連携して着実にダメージを蓄積させていく。
「ほらほら、こっちっすよ! 俺が相手です!」
敵と前衛で対峙し続けるながら、仲間への攻撃を逸らしている蛇目。さらに周囲の状況にも目を配りながら、敵への包囲を崩さぬよう立ち回っている。
そんな彼へと、河童は刃のように鋭い水流を射出する。水の刃に斬り裂かれた蛇目は、オーラで自らの傷を癒やす。
「これだけの攻撃を受け続けてるんだ。そろそろ苦しいんじゃないか?」
ゴーグル越しに敵を見据える総一郎は、両手にオーラを集めると、敵へと一気に射出した。主の攻撃を、キャリバーも機銃で援護する。
これまでは、バッドステータスを与える攻撃を重視していた総一郎。だがここに来て敵の体力も僅かと判断し、命中に優れる攻撃で致命打を狙う戦法に切り替えたのだ。
「加減はしねぇ! さっさと終わらせるぜ!」
勇騎もまた右腕を鬼に変え、渾身の殴打を叩き込む。
「きみ、珍しい動物だと思って見れば悪くないかもねー。もうちょっと小さかったら連れて帰りたかったかなぁ?」
ナノナノに仲間の治療を任せながら、無骨な鉄製縛霊手による霊力の網を見舞うウララ。
「でも残念、ウララにはもうケリーがいるからね!」
そうして灼滅者たちによる猛攻に晒されながら、しかし河童もまた怯むことなく反撃をしてくる。
後方に水を噴射させながら、ロケットのように突っ込む河童。そして眼前の灼滅者へと、強烈な張り手を食らわせる。
「――うみゅ! さすが相撲が強いという河童、見事な張り手じゃ。……じゃが効かぬ、この紅月鬼の緋女が、灼き尽くしてくれようぞ!」
敵の張り手を真正面から受け切った緋女は、燃え盛る炎の如き紅蓮のオーラを総身から放つ。そしてそのオーラを両手に集めると、目にも留まらぬ乱打を見舞った。
「むぅ……。そこはいい感じに影業チックな井戸水でずぶ濡れになって、恥ずかしいことになっちゃうところでしょうに……」
井戸水による攻撃を女性陣が受けていないことに不満を漏らしつつ、影業の刃で敵を斬り付けるゲイル。そんな軟派な主とは対照的に、ビハインドは淡々と敵を追い詰めていく。
「お、おぬしはなんと腑抜けたことを言っておるんじゃ!」
言いつつ、愛槍『雪風』を振い風の刃を巻き起こす雪。風が、河童の全身を切り裂いていく。
「逃がさぬよ――!」
そして度重なる攻撃を受け、もはや満身創痍の河童。ここが攻め時と判断した灼滅者たちが、全員で一斉に畳み掛ける。
「今まで回復ばっかりだからって、俺のこと弱いとか思ってもらっちゃ困るっすよ!」
最前線で仲間を庇い続けた蛇目も、攻撃へと転ずる。ロッドを抜き放ち、渾身の魔力を込めて叩き込んだ。
そして蛇目の魔力爆発によって吹き飛ぶ敵へと、ゲイルとイチによる巨大な影が襲い掛かる。さらに主たちの猛攻に負けじと、くろ丸の斬魔刀とビハインドの霊撃が、続け様に見舞われる。
「古は伝承の中にあってこそ……。さぁ、現から還るんだ!」
総一郎の声に応じるように、影業の刃が敵を深々と斬り裂く。
そしてその隙に、敵の背後へと回り込んだ勇騎が、錫杖様のロッドを河童の背に軽く当てる。ほんの微かな接触だが、しかしそこから膨大な魔力が流れ込み、敵の内部で爆発を起こした。
「……ぬふふー、その皿割ったらどうなるのじゃろ。興味あるのぅ」
大剣『暁紅』を紅く輝かせながら、緋女は優雅な動きで軽々と振う。
「――煌めけ、暁紅。その紅に彼奴めを染めあげるのじゃ。紅蓮の如く燃ゆるがよい、灰も残さぬ!」
そして敵の頭上から、超弩級の斬撃を叩き込んだ。
「こっちも一気に、いっくよー!」
ウララもまた、ロッドによる渾身の魔力を見舞う。極大の魔力爆発を受けながら、しかし河童はまだ倒れない。
「――ならばこれで終いじゃ。滅っ……!」
両手に収束させたオーラを、敵の急所に向けて放つ雪。狙い澄ました一撃が、遂に河童を撃ち抜いた。
●
河童が完全に消滅したことを確認した灼滅者たちは、各々その場で傷を癒やす。さらに井戸水を浴びた衣服は、イチがESPで綺麗にしていた。
「サンキューっすよ、イチさん!」
最も敵からの攻撃を受けており、全身ずぶ濡れだった蛇目だが、すっかり乾いた姿でイチに礼を告げる。
「はぁ、結局何の役得もなかったし、疲れるだけでしたね。次はもっと楽しそうな事件がいいなぁ……」
軽薄そうにぼやくゲイル。だがその様子はまるで、周囲に自分はそういう人間なのだと示しているようにも見えた。
「意思を持たねぇ物の怪、ね……。なんというか、哀れと言えなくもねぇ奴だったな」
誰にともなく、そんなことを呟く勇騎。
「ぬふふ、にしても河童じゃったのう、それも実物の。なかなか面白い体験じゃったぞ」
そう言う緋女は、河童と戯れることができたと満悦そうである。
「でもどうせ実体化させるなら、もうちょっとマスコットっぽい姿でもよかったんじゃないかなー、って思うな」
一方ウララは、河童のデザインに若干の不満が残るようだった。
「この河童も、スサノオが呼び起こし古の畏れ……。あのスサノオ、一体何処へ向かうのじゃろうか……」
「いくつかの事件では、スサノオ本体と戦う事もあるみたいだけど、これからどうなるのだろうね」
スサノオへと関心を向ける雪の言葉に、同調した総一郎も応じる。
そしてイチは、最後に今一度井戸の蓋を確認していた。
「よし……! これで、大丈夫」
しっかり固定されているのを見届けると、腰に手を当てながらどことなく満足げな表情を見せる。
「でも河童……、いいやつ、なら……、友達に、なりたかった……」
そう呟きながら、傍らのくろ丸を撫でる。
――こうして河童を無事退治した灼滅者たちは、学園へと帰還するのだった。
作者:AtuyaN |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月25日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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