●理想と現実の狭間
「いやぁ、本当に愛樹ちゃんは可愛いねぇ」
でれっとした顔で呟いた教師に、愛樹の手は震える。小学一年生らしい、ふっくらとした愛らしい手がぎゅっと握り締められる。
周りのクラスメイトたちもうっとりと愛樹を見つめてくる。当の本人はと言えば、夜中にゲームをしていたらうっかり寝るのを忘れて寝不足なだけだった。
けれど愛樹を見る人たちは、眠たげな愛樹の様子に勝手に病弱設定を押し付ける。肌が白いのはただ単に外に出るのが嫌なだけだ。
強い風も、雨も、暑いのも寒いのも、ともかく好きじゃない。だったら家の中でだらだらーっとゲームしたりコミックを読みたい。
「俺たちが守るからな!」
勝手に愛樹のナイト気取りになっている同級生たちにうんざりする。放っておいて欲しいのだ。
何でみんな自分に勝手な設定を押し付けるのか……。もう我慢の限界に達していた。
「具合が悪いなら先生が保健室に連れて……」
「黙れ」
ここまで見ているとこの教師が変態に見えてくるのだが、実際は人の良いただの教師だ。愛樹が愛らしいためにちょっと親心みたいなものが生まれてしまっているだけ。
「ん?」
ぼそりと聞こえた声に、教師は首を傾げる。黙れと聞こえた。
「ん? じゃねぇんだよ! 黙れつってんだろ!」
ふっくらと愛らしかった手が異形巨大化して振り回される。悲鳴をあげる生徒たちが逃げ惑う。
だがしかし、四人の生徒だけは別だった。そう、愛樹の自称ナイト。愛樹の闇堕ちにより力を与えられた四人もまた、愛樹のために動く。
静かに授業が進んでいた教室が真っ赤に染まる。そして、また静寂が訪れる。
愛樹は血に濡れた片腕を元に戻し、愛らしい舌でぺろりと舐める。その頭には黒曜石の角が生えているのだった。
●変態のススメ
「ねねねさんは捕まりたくないんや」
ショボーンという感じに肩を落とした東横山・寧々音(次世代型痴女・d22883)がみんなの存在に気づきにこりと笑う。細い瞳がさらに細くなって、どこかほんわかした雰囲気を漂わせる。
そして須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、まりんたちエクスブレインの未来予測が必要になる。
寧々音の予想が的中して小学一年生の美少女、愛樹の闇堕ちが確認できた。愛樹は実際の自分と周りが求める自分へのストレスで怒りのボルテージが上がっていた。
すでに闇堕ちしてしまっていたのだが、ダークネスになりながらも人間としての意識を遺していた。しかし教師の一言により、怒りが爆発してしまったのだ。
この事件により愛樹は完全にダークネスになってしまう。たくさんの人が殺されることにもなってしまうため、みんなにはこれを阻止してもらいたい。
そしてもし、愛樹が灼滅者の素質を持っているのあれば、闇堕ちから救い出してもらえたらと思う。しかし完全なダークネスになってしまうのであれば、その前に灼滅してもらいたい。
まずは愛樹と接触してもらうことになるのだが、小学校に入られてしまうと面倒なことになる。周りに生徒がたくさんいる状態で完全な闇堕ちとなれば、被害は考えたくもない。
そのため、登校中の愛樹を捕まえてもらえればと思う。愛樹は四人の自称ナイトと共に登校している。
決められた通学路ではなく近道と称して違う道で登校している。おかげで他の生徒を巻き込まずに愛樹に接触出来るだろう。
「廃れた工場を通るらしいんや」
そこで愛樹と接触してもらえればと思う。そして接触の方法なのだが、まずは愛樹を怒らせてもらいたい。
みんなには非常に申し訳ないのだが、変態さんと化して愛樹を愛でまくってもらいたい。人間の意識が残る愛樹だけに、初対面のみんなにいきなり怒ることは抵抗がある。
その抵抗を失くすくらいの勢いで怒らせてもらえたらと思う。なぜ怒らせてもらいたいかと言うと、ためていた怒りをみんなに全て吐き出させてもらいたいのだ。
愛樹の心に呼びかけ、今までの怒りを全て吐き出させることである程度弱体化させることが出来る。ただし愛樹を怒らせた時点で、問答無用で愛樹とナイト四人が襲って来るので注意してもらいたい。
愛樹の怒り全てを吐き出させるには行動や問いかけることが必要になってくると思うが、頑張ってもらえたらと思う。また全部吐き出させた状態で倒すことが出来れば、愛樹を殺すことなくダークネスだけを倒すことが出来る。
ダークネスとして灼滅してしまう場合は、駆け引きは必要ない。遠慮なく現れた愛樹を攻撃してもらえたらと思う。
しかし弱体化させていない愛樹が強いことだけは忘れないで頂きたい。愛樹は神薙使いのサイキックとバトルオーラを使ってくる。四人のナイトは二人がサイキックソードに類似したサイキックを、二人が天星弓に類似したサイキックを使ってくる。
「みんなで変態さんになるしかないんやろか……」
ぽそりと呟いた寧々音の不吉な言葉が教室に響くのだった。
参加者 | |
---|---|
稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450) |
編堵・希亜(全ては夢の中・d01180) |
墨沢・由希奈(墨染直路・d01252) |
比良坂・八津葉(迷子さん・d02642) |
風真・和弥(壞兎・d03497) |
平鹿・アソギ(彷徨う青薔薇・d19563) |
東横山・寧々音(愛叫ぶ痴女・d22883) |
影山・弘美(同族恐怖・d23559) |
●天使の通学路
道に繋がる廃工場の入口に工事標識のコーンを置いた稲垣・晴香(伝説の後継者・d00450)か、ふぅっと息を吐いた。言いたい事も言わずにわかってもらいたいと言う愛樹に、何か面倒くさい子ねと思ってしまう。
けれど愛樹はまだ若い。この際きっちり出直させようと、愛樹が来るであろう反対側の道を振り返った。
「こっちの準備は大丈夫よ」
一般人の侵入を抑止するための準備を終えた晴香が仲間に声をかけながら戻る。その時には、小さな足音が聞こえ始めていた。
「あらあら、お嬢ちゃん、勇者ごっこかしら。可愛いから見栄えするわよ」
四人のナイトに守られるように現れた愛樹に、比良坂・八津葉(迷子さん・d02642)が子を上げた。自然と五人の足が止まる。
「おまえら……」
「天使みたいにかわいい」
口の悪いナイトの言葉を遮るように、晴香が感嘆の声を上げた。あっさりナイトのガードを通り過ぎて、愛樹の隣に立つ。
儚げで守ってあげたくなると言われた愛樹の眉がぴくりと反応する。
「わぁ、ほんと! 可愛い子っ」
晴香の声に反応したかのように墨沢・由希奈(墨染直路・d01252)が瞳を輝かせる。
「……あの」
「ひゃっほー! ロリロリの天使がこんなところ歩いとる! 天使! マジ天使!」
愛樹が口を開きかけた瞬間に、いきなり東横山・寧々音(愛叫ぶ痴女・d22883)が輪の中に飛び出す。そして愛樹が嫌がるように天使と連発する。
「天使ってよりは小悪魔の方が適切じゃないか?」
明らかな棒読みで、風真・和弥(壞兎・d03497)が横槍を入れた。なぜ棒読みかと言えば、美少女を愛でたりするのに不慣れなためだ。
清楚な雰囲気の裏で何をしているかわかったものじゃない。実は計算高く立ち回っているのかもしれないと口にする。
可愛い可愛いと勝手なイメージを押し付けられるのも嫌だが、勝手に悪いイメージをつけられるのも面白くない。ぎゅっと強く手を握った愛樹の顔に手が伸びる。
「とても可愛いですね~」
追い討ちをかけるように平鹿・アソギ(彷徨う青薔薇・d19563)が愛樹の頭を撫で撫でしてみせたのだ。こんな可愛いんだもの、計算高いはずはないと言うように笑顔を見せる。
「愛樹ちゃんに勝手に触るな!」
さすがナイトと言うべきか、すぐに反応した四人が噛み付かんばかりにアソギを見る。そんな四人にもアソギは馴れ馴れしいお姉さんのように笑みをみせる。
「こんなに可愛い子を守るなんて偉いですよね~」
自分たちの愛樹だと思いつつも、やはり愛樹が褒められるといい気分になってしまうのか……。褒め言葉に自慢げな表情を見せる四人だ。
そんな様子に愛樹の瞳が細くなる。寝不足のせいか機嫌はもともと良いとは言えない。
「……君達はあの子のどんな所がいいのかな?」
そんな愛樹に気づいていないナイトたちに編堵・希亜(全ては夢の中・d01180)が笑顔で訪ねる。しかし目を良く見てみると、どこか焦点を結んでいない。
心と体が少し離れてしまっている様な、ボタンをかけ間違えている様な印象を受ける。
「ちょっと笑った時とかすげー可愛いんだ!」
「遠足の時にバスで寝ちゃった時の寝顔が可愛くて!」
どうやらそれぞれに愛樹への想いがあるようだ。
「……やっぱり、そうだよね」
そんなナイトたちに同調して見せる希亜に、愛樹の表情が険しくなってくる。
「知らない人とお話したらダメ」
愛樹が口を開いた瞬間、四人が一気に口を閉じた。守っているつもりの四人ではあるが、愛樹の手下と化していることに変わりはない。
「体調悪そうだけど、体が弱いのかな?」
不機嫌さを隠そうとしない愛樹に、由希奈が全く違う判断をして見せる。ちゃんと守ってあげてる? と聞かれた四人は無言で何度も頷く。
「ん、いい子っ」
その様子に由希奈が頭を撫で撫でする。幼いと言っても、立派なナイトと思っている四人は自尊心を傷つけられた気持ちになるのだった。
「ふふふ、ちょっと顔色が悪いかもしれないけど……」
そこがまたいいかもしれないと、影山・弘美(同族恐怖・d23559)がうっとりと微笑むと少し大きめな八重歯がちらりと覗く。あえて吸血鬼であることを隠さない姿の弘美は、この姿をコスプレする人として役になりきることに決めていた。
これも全て同じクラスの寧々音のため。痴女と書いて寧々音と読む。
そんな事案を発生させるわけにはいかないと、自らも頑張って不審者になろう! という訳だ。
「あぁ、こういう子の血……美味しいんだろうな」
極端に白い指がすっと伸びて、愛らしくてたまらないと言うように愛樹の頭を撫でるのだった。
●我慢の限界
「裏表とかに縁のない純粋さを感じるわよね」
とどめとばかりに呟かれた晴香の言葉に、愛樹が眉間に皺を寄せる。今がその時と思った由希奈が愛樹をまっすぐ見つめる。
「でも、こんな事されるの嫌だよね?」
ほぼ全員に頭を撫でられたりした愛樹の視線に合わせて膝を折る。この歳で勝手な理想を押し付けられたら辛い。
幼いために折り合いを付ける術も知らないだろうと思うと、迷わず今みたいに愛樹を肯定してくなる。けれど怒りを吐き出すために必要とあらば、いくらでもお付き合いしてあげたいと由希奈は思うのだった。
「本当は、家でゆっくりしていたいんじゃない?」
ごろごろしたり、たまにはダラダラしたい時だってあるんじゃない? と問いかけられて、愛樹から険しい表情が一瞬消えそうになる。
しかしこのまま満足させるだけでは、愛樹が完全にダークネスになってしまうのを止められない。
「えー、この子はそんなんじゃないよ。絶対違うって」
頭から完全否定する弘美は、由希奈にどうしちゃったの? と言うような視線を送ってみせる。その反応に愛樹の表情が再び険しくなる。
「……そうですよ、そんなわけないじゃないですか」
弘美の言葉にこくこく頷いた希亜が、それはないないとさらにきっぱり否定する。不自然なほど力が入った愛樹の片腕が震える。
けれどまだ踏み切れないのか、俯いた愛樹の表情は見えなくなる。
「こんなかわええ子やから、ダラダラなんてありえんで」
もうひと押しと手を伸ばした寧々音が愛樹を抱き上げた。そしてハグしたままぐりんぐりんと遠慮なく顔を押し付ける。
「んっ!?」
突然のことに言葉を失った愛樹が呆然とする。その間も寧々音は可愛いを連発して愛でまくる。
これだけなら愛樹は我慢しただろう。たまにこんなことをしてくるひともいる。
しかし、これが起きる前にすでに愛樹は我慢の限界に近づいていた。
「離せよ!?」
あっという間に異形巨大化した片腕に、寧々音がその手を離して飛び下がる。さっと魔力を宿した霧を和弥が展開する。
その動きに白を基調とした軍服の様なスカートの裾が揺れる。いや、決して女装癖があるわけではない。
ただネタとしてメイド服などをプレゼントしてくれてしまう知り合いがいて、尚且つネタとわかっていても性能がいい。さらには貰い物は大切にしたいと思ってしまう和弥だ。
「良い意味でも悪い意味でも人間は見た目で相手を判断するもんだ」
怒りに震える愛樹に和弥が話しかける。ある程度の付き合いがなければ他人の中身なんてわからないものだ。
「……俺の格好からも何も感じずに中身で判断しようとしてくれるんなら嬉しいけど、流石に難しいだろ……」
非常に重みがあるというか、実体験を元にした和弥の言葉に愛樹は言葉に詰まる。愛樹を抱きしめた時に負った寧々音の傷を回復させながら、アソギはこういうふうに言葉に詰まってしまうところが、愛樹が堕ちてしまった原因なのだろうと感じていた。
もっと自分の気持ちを表に出すことが出来ればきっと楽になれる。そして愛樹はちょっとくらい我儘なくらいが丁度良いと思うのだった。
「でもお嬢ちゃんは見た目通りでしょうね」
怒り心頭した愛樹ではあるが、未だに否定の言葉が出ていない。そのため八津葉はさらに煽るように言葉を続けるのだった。
●心の中
「黙らせろよ!?」
どう動くべきか戸惑っている四人に愛樹が声を張り上げた。瞬時に動いた四人が一斉に動く。
放たれた矢が八津葉に迫る。ふわりと避けた八津葉の髪が矢が通った風圧で揺れた。
「違うなら否定してみたらどうなの?」
言うのと同時に八津葉がビームを放つ。衝撃に落とした弓を拾う前に、光の刃を避けた晴香が飛び出していた。
制服からプロレスラー姿に変わった晴香のエルボーが決まる。
「誤解されたままって、辛いわよね」
その気持ちはわかる。けれど嫌な事は嫌、違うことは違う。
ちゃんと相手に言えないのかと晴香は問う。
「言ったに決まってんだろ!?」
しかし愛樹が何を言っても周りは冗談を言って笑わせてくれてるのねと、訳のわからない反応をする。
「言葉で伝えられないなら、身体を張りなさい! 私みたいに!」
それならばと、愛樹が地面を蹴った。小さい体は軽く、スピードも早い。
異形巨大化した片腕が、遠慮なしに晴香を吹き飛ばす。仰け反った体を、地面に手を付けて反転させ着地する。
「どいつもこいつも好き勝手いいやがって!」
「いいよっ、もっと気持ちをぶつけて!」
片腕を異形巨大化させた由希奈が、イラつきを隠すことなく晒し始めた愛樹に声をかける。そしてそのままナイトの一人を気絶させた。
「こんなかわええ子の周りにおるんやったらちゃんと守ってやらな!」
同じく片腕を異形巨大化させた寧々音が愛樹をさらに煽りながらナイトを攻撃していく。
「可愛い可愛いって私はペットか!? 人形か!?」
ふざけるなと叫ぶ愛樹の耳に希亜の歌声が響く。思わず耳を塞ぎたい衝動に駆られる。
同時にビハインドがナイトに攻撃を仕掛けた。愛樹のビハインドは、自らの本心。
自分自身を操り人形として、ビハインドが動かしている。そうやって日常を舞台と捉え、希亜は動かされている様なつもりでいる。
吠える愛樹を見ながら、血は本当に美味しそうだと思う弘美だ。そして冷たい炎を出現させ、ナイトに向かって放った。
攻撃に身を震わせるのと同時に、瞳が見開く。死角に回り込みながらの和弥の斬撃を、避けることは不可能だった。
声を出すことも出来ずに、弓を手放して気絶した。
「自分の気持ちを表に出すことも大切ですよ」
ナノナノのナユタが晴香を回復しているのを見ながら、アソギが優しく促す。
「苛々するんは分かるが、自分でその口で嫌なことは嫌と言えんかったのが悪い」
同時に寧々音が厳しく諭すように声をかける。
「これに懲りたら変態は言葉で殺せるようになるんやねっと」
そして残ったナイト二人の温度を急激に下げていく。
「どいつもこいつも……だまれ、黙れ、黙れー!」
全員黙ってろ! と叫んだ瞬間、そこには愛樹ではなく灼滅すべきダークネスが現れていた。
●灼滅
イラつく中にもどこか人間らしい感情があった愛樹とは違って、人間らしさはない。ただ破壊したいという気持ちでダークネスが動く。
オーラを宿した愛樹の拳が和弥に迫る。容赦のない連打に打たれる和弥を、指先に集めた霊力を撃ち出してアソギが回復する。
その間に弘美が禁呪を放つ。起こった爆破に二人の足元がふらついた。
飛び出した由希奈と八津葉がそれぞれのナイトに向かう。
「ちょっと眠っててねっ!」
外傷を残さず、霊的防護だけを由希奈が攻撃する。そして、八津葉が魔術によって引き起こした雷でもうひとりを撃つ。
「残りはあなただけよ」
ふわりと黒髪を揺らした八津葉が口にするのと同時に、希亜が動いていた。石火の呪いを放たれた愛樹が衝撃に眉を寄せる。
さらに駆け出していた晴香の超硬度に鍛えられあげられた攻撃が決まる。その攻撃の重さに愛樹の体がふらついたところに、和弥が迫る。
緋色のオーラを宿した武器で、愛樹を攻撃する。やられてばかりでは我慢ならないと言うように、瞳を険しくした愛樹が激しく渦巻く風の刃を放つ。
「んっ!」
斬り裂かれた痛みに由希奈が微かに息をもらす。けれど痛みを飛ばすように首を振って自らを回復していく。
「受けてはあげるけど、倒れるわけにはいかないよ!」
愛樹が溜め込んだ気持ちを、由希奈はいくらでも受けようと思う。けれど受けることで倒れるわけには行かない。由希奈は愛樹を救いに来たのだから。
両手に集中させたオーラを八津葉が放出する。避けられない愛樹の体が攻撃を受けるのと同時に、寧々音が再び死の魔法を放つ。
一気に全ての熱を下げられた愛樹が震える。
「……これで終わりだ」
愛樹が気づいたときには、死角に回り込んだ和弥に斬り裂かれていた。
「いやぁああ!」
悲痛な叫び声を上げて愛樹が倒れる。そしてゆっくりと起き上がった愛樹が瞬きする。
「大丈夫ね?」
確認する様に八津葉に愛樹はこくんと頷く。その姿はやはり愛らしい。
しかしアイドルみたいな素質を持った子ならいいが、そうじゃなければ望むのは対等な関係。まるで自分は違う存在と言うように愛されたいわけではない。
きっとこれからも愛樹の周りにはそんな人が存在する。けれどはっきり言葉にすることが出来た愛樹なら、対等な関係を築けると八津葉は思う。
「……自分自身をわかってくれなくても、自分をしっかり持っていれば大丈夫」
その姿とギャップを楽しんでくださいと言ってしまえばいいと、希亜が笑顔で頷く。しかし相変わらず瞳は焦点を結んでいないのだが……。
「……誰が何を言おうと、どう思われようと関係無い」
希亜の言葉を肯定して和弥がまっすぐ愛樹を見る。そう、例えいまバニースーツを着ていようと和弥は和弥。
他の誰でもなく自分自身だ。見た目や周りの評価に左右されない。
「これからわかってもらえばいいんです。ゆっくりと、ね?」
吸血鬼の姿から、人間形態に戻った弘美が大丈夫と言うように頷く。
「……わかってくれないなら、それはそれですよ」
少なくとも自分たちはわかっていると希亜が伝える。
「私で良ければ、お話とかいつでも付き合うよっ」
にこりと笑った由希奈やみんなの言葉に、愛樹の笑顔を見せる。
「ありがとう」
「っちゅうかちょっとばかし面がええからって自惚れたらあかんで」
ずいっと愛樹に迫った寧々音がもうたまらないというようにくねくねしながら愛を叫び始める。赤い髪の可愛い巻き巻き女子がいるらしい。
その声に重なって、どこからかサイレンが聞こえてくる。夢中で話していた寧々音の表情が一変する。
「ねねさんは捕まりたくないんや!」
走り出した寧々音をきょとんとした瞳で見た愛樹から、笑い声が溢れる。その笑い声にアソギがほっと胸を撫で下ろす。
「愛樹さん、怒らせようとしてしまったことお詫びしますね」
真摯なアソギの言葉に、愛樹は静かに首を振るのだった。
作者:奏蛍 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2014年3月4日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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