決戦! 大阪城

    作者:刑部

     大阪城に現れしブレイズゲート。
     その地下に豊臣方の敗将達が彷徨っているという噂話。
     そして調査に向った幾多ものスレイヤー達の手で、既に都市伝説と化した十七名の武将が討ち取られた。
     彼らが陣幕を張る穴は石垣の下へと埋もれ、探索は出来ないが、エクスブレインの目に映る大阪城は、依然白き炎の柱に遮られたまま……ブレイズゲートは消滅していなかったのである。

     休日の大阪城公園。
     ランニングする人や家族連れ、思い思いに人々が過ごす公園の北東側、流れる第二寝屋川に水上バス『アクアライナー』の船着き場があった
     その船着き場に、虚無僧の如き深編笠を被った船頭が櫂を握る一艘の舟が止まっている。
    「……次が最後……なのか」
     いまだ消えぬその姿を確認した一人の灼滅者は、そう呟いて踵を返す。
     他にも通りすがりにそれを見て首を傾げる者は居るが、舟に用のある者はそうそう居るものではない。観光船とも異なる舟に近付く者など、まずいないのだが、それでも、船頭は舟の上で微動だにせず舟に乗る者を待っている。
     何かの間違いなどで乗ってしまうと、舟はゆっくりと川面をすべり大阪城の地下に続く穴へと消えてゆく。不思議な事にこの穴は、この舟が通る時しか姿を現さない様だ。
     第二寝屋川から穴を抜け北外堀へと到った船は、大阪城の天守閣を左手に反時計回りで堀を巡り、天守閣の丁度真南、豊国神社の真下、宇喜多秀家が居た辺りの隣に開いた穴へ、吸い込まれる様に入ってゆく。

     穴の中は今までの様な陣幕ではなく畳の敷かれた大広間。
     その奥、一段高くなった所に、着物を着た女性が肘掛に体を預けしな垂れている。
    「ようこそ……歓迎はしておらぬが、出迎えはしようぞ」
     口元を扇で隠した女性が、入って来た者達を確認すると気だるそうに立ち上がる。
    「妾の名は茶々。織田と浅井の血を引く者、そして秀頼君の母でもある。……そなたらはこの城を無暗に攻め、頼みとする将達を屠って妾の前に罷り越した」
     そう言って肩を揺らした茶々の体から、どす黒いオーラが漏れ立ち込め始める。
    「故に……妾自らの手で葬ってしんぜよう。豊家千年の礎の為に……」
     茶々の背、黒いオーラに引っ張られる様に九つの狐尾が現れて揺らめくと、部屋の中に凍る様な殺気が充満してゆくのが感じられる。
     その行く末に見えるは、血の海に浮かぶ骸と哄笑する茶々の姿なのでであろうか?


    参加者
    天崎・祇音(霊山の戦乱姫・d21021)
    一色・紅染(穢れ無き災い・d21025)
    天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382)
    化野・十四行(述べて世はこともなし・d21790)
    鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)
    ルプス・ラウィーニア(ゆめおいおおかみ・d21943)
    双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)
    木場・幸谷(純情賛火・d22599)

    ■リプレイ

    ●1年9組の遠足
    「大阪城、しかも茶々と言えば秀吉の話で有名……だよね」
     ルプス・ラウィーニア(ゆめおいおおかみ・d21943)が振り返ると、
    「はいっ、チーズ! ……なんてな」
    「こう……ですか? なんか遠足みたいですね」
     木場・幸谷(純情賛火・d22599)が大阪城の天守閣をバックにポーズをとる天堂・リン(町はずれの神父さん・d21382)の写真を撮っていた。
    「なにやってるんだよ、真面目にやりましょう真面目に!」
     その様に、腰に手を当てた双見・リカ(高校生神薙使い・d21949)がツッコミを入れる。
    「天下統一をした武将の正室か……敵で無ければ色々な事を教えてもらいたいのぅ……」
    「ほんと茶々殿と、茶ぁしばいて仲良く……って訳にはいかんか。ここはひとつ、この城の秘密を乱妨取りさせてもらおう!」
     髪を結ぶ天崎・祇音(霊山の戦乱姫・d21021)の後ろ、ニタリと笑った化野・十四行(述べて世はこともなし・d21790)が返す。
    「乱妨取りか、確かに押し込みみたいよね。でも、やらなきゃならないのが私達のお仕事の辛い所! ……なんてね」
    (「お城、入るの、初めて、です……」)
     鷹成・志緒梨(高校生サウンドソルジャー・d21896)が嘆息しつつ十四行を見、一色・紅染(穢れ無き災い・d21025)がわくわくを押さえて見上げる中、舟を降りた一行は、茶々の待つ大広間へと進んでゆく。

    「ようこそ……歓迎はしておらぬが、出迎えはしようぞ」
     肘掛に体を預けしな垂れ、口元を扇で隠した茶々がそう口にすると、羽織を肩から落としてゆっくりと立ち上がる。
    「お邪魔します、土足でごめんね」
    「あ、お邪魔、します。……お邪魔、してます、かな?」
     緊張感を感じさせぬ間延びした口調でルプスが応じ、雪の如き白い着物の裾を揺らし紅染が頭を垂れると、続いて志緒梨も頭を下げ、
    「ごめんなさい、ご城主様。でもね、もうあなた達は誰の手も届かない所で名高く眠ってるの。今さら噂の好き勝手にさせて、ただの民百姓の血で名を汚す事なんかないわ」
     と語り掛ける。
    「そなたは間違うておるぞ。この城の主は秀頼君であって妾ではない」
     少しだけ苛立たしげにそう返す茶々。
    「先手必勝ッ、必殺・畳返しー! 悪戯は1年9組の名物だぜ、ちなみに俺はやられる側だぁぁッ!」
     次の瞬間、幸谷が声と共に目の前の畳を叩こうとするが、
    「! ストォープ!」
     声を張り上げ動作を止める。ふざけながらも警戒を怠らなかった幸谷は、畳の下から漏れる殺気を感じ取ったのだ。その声に同じ動作をしようとしていたリカとルプスが、動きを止める。……その昔、秀吉の築いた聚楽第は畳の下に兵を伏せていたという。
    「ほう……なかなかに目端が効く様じゃ」
     茶々が目を細めると、
    「小細工が無理なら推し通るまで、天崎祇音……参る!」
    「待って、祇音。一人じゃ、危険」
     愛槍『竜血の槍』を一閃した祇音が畳を蹴り、慌てて紅染が彼女に続くと、
    「さっさとお前さんを倒して、お宝を頂く事にするかね」
    「神よ……拳を振るうことをお許し下さい」
     左腕を異形巨大化させた十四行と、拳に雷を纏わせたリンが2人を追う。
    「勇ましい事じゃ。じゃがこの城と妾の事……侮って貰っては困るのぅ。さぁ、葬ってしんぜよう。豊家千年の礎の為に……」
     茶々の背に九つの狐尾が揺らめき、4匹の管狐達が飛び出した。

    ●力と技と
    「私達は、あなたを打ち破って笑顔で帰ってみせるわ」
     志緒梨がその身を包む夜霧の中から茶々を睨む中、牙を剥き襲い掛かる管狐を裂く祇音と紅染の横を抜け、茶々に一番槍を突き付けたのはリン。
    「あなたには、自分の幸せのため、生きたい様に生きて欲しかった」
    「妾は妾の生きたい様に生きているぞえ」
     穏やかな頬笑みを浮かべたまま振るう拳から、雷が迸り茶々の顎を狙い、茶々は扇を振るって風を起こしそれに抗する。
    「その動き、止めさせてもらうよ」
     その足元に広がる除霊結界。近づけないと判断したリカが後方から展開したもので、扇を振るう茶々の手がビクンと跳ね、リンの拳が顎を捉える。……かに見えたが、ギリギリのところでかわされ、茶々の黒い髪を一房、宙に散らした。
    「痴れ者が……」
     すうっと目を細めた茶々の尾がドリル状の穂先になってリンに襲い掛かる。
     その狐尾の穂先を弾くのはやはり穂先。祇音が弾き上げた勢いのまま槍を旋回させ茶々に突き入れる。距離をとる茶々だが、穂先から氷柱がい出て襲い掛かる。
    「紅染、追い撃つのじゃ!」
    「……人使いが、荒い、よ」
     祇音に言われるまでも無く、距離を詰めた紅染がその刃を振るう。
    「狐が守るお宝……油揚げじゃないだろうな?」
     その後ろでは彼らが裂いた管狐を、五星結界を張った十四行が押し留め、
    「未来に幸せあれアーメンっ! 俺、頑張りまーすっ!」
    「初めての依頼……だけど、クラスメイトと一緒だからがんばるんだよ」
     幸谷のガトリングガンが容赦なく火を噴き、それらに鳴いた管狐にルプスの放った漆黒の弾丸が爆ぜ、1匹、また1匹とその姿を消滅させていた。

     最初の管狐4匹は消滅させたが、また茶々の元から4匹の管狐が現れ襲い掛かってきた。
    「狐を始末してもきりがありません。茶々さんに攻撃を集中……」
     言い終わらぬうちにリンの体を4つの尾が貫いた。
    「なるほど、お主がこの部隊の大将かぇ? 頭を潰すのは基本よのぉ」
     茶々の口元が妖しく歪み、振るった扇からリンに烈風を叩き付け、赤く染められた着衣から鮮血を巻き散らしたリンの体が吹っ飛ぶ。
    「うわっと、今、回復するね」
    「世話が焼けるな」
     ルプスが素早く番えた癒しの矢を放ち、十四行も防護符を飛ばす。
    「いたた……」
     もんどりうったリンは、その着衣『月光』を血と泥で汚しながらも、気丈に立ち上がる。
    「大丈夫だな? 俺は攻撃に回るぞ!」
    「おれでも力になれる……かな。みんなの為、精一杯頑張るよ」
     十四行はリンに向かって叫ぶと、芦刈を振るい畳ごと茶々を裂き、ルプスは茶々と剣戟を繰り広げる仲間達に、次々と癒しの矢を放ってその後押しをする。

    「リン殿! それ以上はさせぬのじゃ」
    「貴方の身にも、紅い、花。咲かせて、あげます」
     リンを吹き飛ばした茶々に対し、間髪入れず左右から斬り掛ったのは紅染と祇音。
    「次から次へと……」
     茶々も次々と尾の槍を繰り出し、共に押し出してくるスレイヤー達と2人を押し返す。
    「えっと……みんな、無事で、帰り、たいので、早く、倒れて、もらえる、と、嬉しい、です……」
    「妾も不躾な侵入者供を片付けゆっくりしたいので、お主こそ早く倒れて貰えると嬉しいのぅ」
     手を変え品を変え次々と攻撃を繰り出す紅染の言に、応じた茶々が烈風を叩きつける。
    「そこじゃ!」
     その隙を突いた祇音が異形の腕を振るうが、読んでいたのか2本の尾が振るわれた腕に突き刺さった。
    「それしきの事では妾に触れる事も叶わぬぞえ」
     ルプスによって癒される祇音に茶々は妖艶な瞳を向ける。

    「ほっほっほ、妾にばかりかまけててよいのかのぅ」
    「次々と鬱陶しいぜ!」
     扇で口元を隠した茶々が笑い、幸谷が新たに現れた管狐を屠り悪態をつく。
     志緒梨の夜霧の効果で幾分避けれてはいるものの、次々と現れる管狐は鬱陶しい事この上なく、茶々は九つの尾を巧みに使ってスレイヤー達の攻撃を防ぎ、次々と管狐を生み出していた。
    「ねぇ、幸谷君。相手は防衛に徹して、狐でこっちの体力を削りに来てる様に思えるのよね?」
    「だな。けど、管狐優先しても次々と出てくるだけじゃねぇの?」
     防護符を飛ばしながら問う志緒梨に、傷口から炎を揺らめかせた幸谷が応える。
    「じゃあ、纏めて攻撃できる人が管狐を狙えばいいのかな? ……こんな風にっと」
     リカがギターを掻き鳴らし、不協和音の音波を3体の管狐にぶつけると、次の瞬間、十四行の大鎌から放たれた無数の刃が、その管狐達を裂いて地に落とす。
    「よし、狐は任せたぜリカ」
     十四行に目礼を返した幸谷は、そう言って得物に焔を宿すと、祇音を押し返した茶々へと踊り掛る。
    「いーい、これだけは覚えておいて! 私達は徳川の世の人間じゃない……今はもっと後、あなた達が伝説になった世の中! 惨めに敵に破れるんじゃなくて、伝説として敬意を払われて堂々と逝ってね!」
     続く志緒梨がズビシィ! と人差し指突き付けてのたまうと、影を伸ばして茶々の身を縛りに掛る。
    「戯言を……」
     茶々の背後から次々と管狐が現れ、その九尾も尾先を尖らせ仕寄る者達に襲い掛かる。
    「何度出そうと同じだよ」
     だが管狐達はリカの張った除霊結界によりその動きを緩慢なものにし、手近な者たちに屠られてゆく。

    ●窮狐
    「助かったぜラウィ。この恩はネギ焼き3人前で返すっ!」
     弾き飛ばされた幸谷は、後方からのルプスの回復にそう返すと、ガトリングガンを構え焔の力を込めた弾丸を連射する。その弾丸を狐尾と扇で弾く茶々に対し、紅染と祇音により、左右から挟む様に振るわれた異形の腕だったが、剛腕は頭上から降り畳に突き刺さった狐尾に押し留められた。
    「止められる……じゃと!」
     呻いた祇音の目配せに素早く腕を戻し、両掌を突き付けた紅染。その掌からオーラが迸る。
    「猪口才なッ!」
    「……まだまだ、です」
     ギロリと睨む茶々に白い着物『雪景色』を血染めの斑に染めた紅染が睨み返す。その紅染の背後から躍り出たのは十四行。
    「へっ、女じゃ偽首にもならんな。大将首は何処だ!」
     振るわれた芦刈から生じた刃が2本の狐尾を斬り飛ばす。
    「貴様ッ!」
     眉を顰めた茶々が扇を振るい、巻き起こった烈風が、紅染と十四行の体を吹き飛ばす。
    「最初ほどの勢いは無い、畳み掛けるのです!」
     その様を見たリンが声を上げ、剣を振るって光刃を飛ばした。
     茶々の体には、皆の攻撃で様々なバッドステータスが刻まれており、その能力を著しく阻害していたのである。言われれば最初は4匹ずつ現れていた管狐も、今は2匹ずつしか現れていなかった。
    「邪魔はさせないよ」
    「言われなくても、俺はいつでも全力だぜ!」
     現れた管狐の周囲の温度がリカの手によって急速に下がり、その管狐に一閃を加えた幸谷が茶々に肉薄する。
    「慮外者供が、妾に近寄るでない」
     茶々の顔には焦燥の色が見て取れる。次々と繰り出される波状攻撃に加え、いくらダメージを与えても回復し、戦線を支える数の優位の前に、徐々に押し込まれてつつあるのを自覚しているのであろう。
    「もう少しよ、がんばって!」
    「これ以上、血は流させないよ」
     鍔迫り合いを演じるリンと十四行に、志緒梨とルプスから回復が飛ぶ。
    「妾が、妾がこんなところで……」
     胸に突き刺さったバベルブレイカーに視線を落とした茶々が呻く。
    「神の御許へ……帰るのです」
     そのバベルブレイカーの主……リンが静かな声で告げるが、茶々の体を貫いて現れた三本の狐尾がリンの体に突き刺さる。
    「攻め手の大将よ、せめて汝は道連れよ……」
     口の端から一筋の鮮血を垂らした茶々が妖艶に笑う。……が、
    「茶々よ。流石は秀吉公の正室……自らの体を顧みぬその攻撃、敵ながら天晴れなり。じゃが、これで終わりじゃ……!」
    「若い命に縋るのは年増女の悲しい性か? 黄泉路へは独りで行くんだな」
     祇音と十四行をはじめ皆の攻撃が集中し、茶々の身に穿たれる傷と共に、狐尾が次々と斬り飛ばされてゆく。最後の一撃は紅染……死角からの一閃が茶々の命脈を絶ったのである。
    「そ……そ、ん……な……」
     崩れ落ちた茶々の体が霞の如く消滅する中、仲間達が深手を負ったリンを回復するのだった。

    ●道の先
    「ふむ。これで一件落着かのぅ?」
    「なんで躯が消えるんだ?」
     槍を突き立て扇で仰ぐ祇音の目の前、最初に茶々が立ち上がった時に落とした羽織を拾い上げた十四行が、そう首を傾げる。
    (「夢の中『すべて』なんだよ」)
     その問いにルプスは、茶々にも語る様に心の中でそう返す。
    「そう言えば、偉い人のいる部屋には抜け道って基本よね。ここはどうなのかしら?」
     志緒梨が直ぐ様、『巣作り』を始め、リカも被らない様に距離をとって『巣作り』を始める。今までの報告から予想される倒壊を防ごうとしているのだ。
    「何か、いいもの、あるで、しょうか……」
     槍状になった茶々の狐尾を拾い上げ、少しだけ楽しそうな表情を浮かべた紅染が言う様に、仲間達は部屋の探索に掛る。
    「不自然なところはありませんね」
    「茶室もねぇみたいだぜ」
     視線を這わせ、傷口をさすりながらリンが呟くと、やれやれのポーズで幸谷が応じる。
     都市伝説として蘇った彼らは、その武具は具現化していたが、文化までは具現化していないのだろう。
     そして響いていくる振動。
    「……耐えれるか?」
     志緒梨とリカの作った巣に入り、推移を見守るスレイヤー達。
     リンが呟くが、残念ながら強度として落ちてくる石垣の石を支えるものではなく、スレイヤー達は命からがら逃げ出したのだった。
     そして彼らは後日、エクスブレインから次の言葉を聞いたのである。
    「大阪城を覆う白き炎の柱が消えた」
     と、それは大阪城のブレイズゲートが消滅した事を意味していた。

    作者:刑部 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月10日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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