リヴィアタン・メルビレイ~守れ、イルカ!

    作者:那珂川未来

     とある海沿いにある水族館。
     何十種類もの海洋生物が展示され、イルカショーを行うプールもあって。季節ごとに変わったイベントも催され、この都市ではご家族連れや恋人達に人気のお出かけスポット。
     そんな水族館の今季のイベントは、過去の海洋生物の化石の展示会。
    「これ、歯の化石……リヴィアタン・メルビレイっていうのの歯なんだー。なんかカッコよさげな名前ー」
     近所の女子高生が友達と鑑賞中。
    「ホントだー。クジラなんだね、一応」
    「歯が生えてたクジラなんだー。餌はヒゲクジラやイルカ、サメとか……って……え?」
    「それって完全共食いじゃね……?」
     生物学的にそうなのかどうかと言われれば、ちょっと違うのかもしれないが。
    「イルカとか食べるなんてちょぉこわ!」
    「イルカはないよねー」
     
     なんて、ちょっとした女子高生の会話が――。
     
    「イルカプールのイルカを喰おうと、太古のクジラが蘇る話に飛躍したみたいだー」
    「すごい飛躍したな……」
     何処をどう弄ったらそうなるんだと、仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)はサングラスの位置をただしながら、呆れたような口調で。
    「いや、ホントだよな!」
     激しく同意の大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)。
    「けれどリヴィアタン・メルビレイという名前がカッコイイことは同意する」
    「な、戦闘機っぽいよな!」
     そして個人的感想も、そうかもーなんてノリで同意し合う二人。
    「とにかく解析の結果、エマちゃんの聞きつけた噂は、現実化する。これは由々しき事態だよね。イルカの他に人間まで食べてしまうかもしれないし、出現間際に灼滅すべきだ」
     沙汰は現地までの地図を広げて、
    「で、リヴィアタン・メルビレイ……長いのでリヴィアタンにするけれど。リヴィアタンは、海岸沿いに併設されたイルカプールの近くにある岩場に、深夜一時に現れる」
     施設外なので、侵入などに気にする要素はなく、殺界形成あたり使用すれば特に一般人は問題ない。イルカは危機にさらされたままだが。
    「そして現れるリヴィアタンも、太古の大きさそのまま。全長15メートル」
    「でか!」
    「ああ、でかいよな……けれどでかいことと、元は海の生物だっていうせいなのか、出現間際は、クジラの思ったようには動けないという状態だったりする」
    「あ、それって上手くやればボコ殴りパターン?」
     なんだかんたんじゃねーか。そんな感じのエマですけれども。
    「いや。そういうわけでもない。アザラシの様に転がりながら回避するっていう……こう、ころころと」
     15メートルのクジラが岩場の上を転がる光景って……シュール。
    「しかも近接攻撃してきた人がいたら、クジラの攻撃の手番で、ころころ転がりながら押し潰す近接攻撃を繰り出す。複数いればそのうちの誰かに。いなければ使わないから、高威力の攻撃を封じるならば、全員で遠距離から撃つことをお勧めする。で、これも重要。リヴィアタンは空を泳ぐために、自身の周りに幻影の水をつくりだすから、それが完成する前に倒さないと」
    「ないと?」
    「幻の水を手にしたリヴィアタンは、自由を手に入れる。とっととイルカを食い散らかし、何処かへ消えるだろうね」
    「こりゃ、ぜってー失敗できねーな」
     なんつー噂作ったんだ、近所の女子高生! とエマは叫びたくなった。
    「幻の水を作り上げるまでに、12分かかるから。それまでに始末して」
    「うん。ちゃんと灼滅してイルカを守ってくるから、まかせろー」


    参加者
    迫水・優志(秋霜烈日・d01249)
    烏丸・奏(宵鴉・d01500)
    万事・錠(ベルヴェルク・d01615)
    日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)
    小瀬・雅史(紅狂・d15254)
    椎名・梅生(梅暦・d19084)
    行方・千代子(詠み人知らず・d19331)
    大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)

    ■リプレイ

     星零れる夜、穏やかな海原。心地よい波音が響いている。
    「旧約聖書に出て来る怪物の名前を冠したクジラ、か……」
     少し大きな岩の上、迫水・優志(秋霜烈日・d01249)は空を見上げ。見事な春の大三角形。太古のリヴィアタンも見ていたのだろうかと思い馳せながら。
    「イルカの為にもきっちり倒してやらねばのう」
     ふわりふわりと、霊犬・八千代と一緒に、行方・千代子(詠み人知らず・d19331)は岩を渡る。
    「古代のクジラが現代に蘇る、なんて凄く浪漫ですね」
    「しかも、その太古のクジラ退治なんていうのも、なんだかオトコのロマンだよな」
    「デカい生き物って子供心にワクワクするよな」
     光源にスイッチを入れながら椎名・梅生(梅暦・d19084)は興味を零し、大須賀・エマ(ゴールディ・d23477)は目を輝かせ、出現を今か今かと待ちわびて。小瀬・雅史(紅狂・d15254)も気分が高揚しているのが手に取る様にわかる。
    「滅多にない機会だから写真撮りたいくらいだけど……そもそも都市伝説って写真に残るんかな?」
     一応カメラは持ってきたんだけどと梅生。日野森・沙希(劫火の巫女・d03306)はこくりと頷きながら、
    「写りますです」
     ただバベルの鎖効果で、過剰に伝達しないだけ。
    「私も本当は写真を撮って大切にしたいところですが……」
     イルカも守らなくちゃならないから、きっとそんな暇ないだろうなと、しょんぼり気味の沙希へ、
    「だったら出現間際に撮ってやろうぜー」
     エマ、スマホ構え、攻撃開始される前に激写の構え。
    「だったら、万が一の時は俺と宵月でディフェンスするからな!」
     任せろーと軽い調子で言ってのける烏丸・奏(宵鴉・d01500)、人懐っこい笑みで。
    「さて、現れおったぞ……」
     時の訪れと共に始まる具現化。千代子が曖昧に揺らぐ波際をじっと見つめる。
     急激に存在感を確立してゆく巨体。奏はクジラを見た瞬間に目を見開き大きさに瞠目。
     リヴィアタンが不自由に憤っているように。巨大な顎を大きく開ければ、真黒な喉の奥からぶおおと地響きのような声。
     地球の歴史上、史上最大級の捕食者、若しくは捕食に用いる歯としては最大と謳われる鋭い歯が、辺りに散らした人口の光に生々しく浮かぶ。
    「うっわ何アレ超カッケェ! 大昔のクジラって結構アグレッシブな外見してたのな。コイツァバラし甲斐がありそうだぜ!!」
    「でかすぎだろー!」
     太古のクジラ一本釣りってロマンじゃねと不敵に笑み零す万事・錠(ベルヴェルク・d01615)、大歓喜。一緒になって驚きの声をあげる奏。
     何故か対抗意識を燃やし、吠えている霊犬・梅丸を見て、
    「残念、お前はあんなでっかくはなれないよ」
     梅生は梅丸を宥める様にぽんと頭に手を乗せて。お隣ではカメラを構える皆さん、手早くシャッターをきって。けれど上手く撮れたかなんて確認する余裕なんてない。すぐに殲術道具を手に。
    「例え弱肉強食の世界でも、都市伝説にイルカを食われちまったんじゃ納得いかねぇんだわ」
     野性的な鋭気をその磨かれた筋肉に漲らせながら、ガトリングガンを小脇にかかえる雅史。沙希はきりりと顔を引き締めて。
     千代子は凛としたお面持ちで、紫檀の三味線抱き、
    「さて、捕鯨の時間じゃな。きっちり灼滅してやろうぞ」
    「全力でお相手させていただきますですよ!」
     リヴィアタンの転がる攻撃は後衛陣には届かない。力の盲点を突いて、沙希は瞬間的に訪れた瞬発力を以て、スナイパーの命中精度を如何なく発揮し、初撃から強烈な炎の一撃を浴びせてヒットアンドアウェイ。下手に後衛陣に攻撃集中してもいけないから一回のみだが。退避の瞬間は、千代子の奏でる三味線の音撃に頼って。
     目の前の灼滅者達を敵と認識したリヴィアタンは、ぶおおと吠えるなり大きく尾をしならせる。届く範囲に居ないとなれば、他の攻撃を代用するだけ。
     飛沫の刃鋭く。奏は霊犬・宵月と共に体を張って。青紫の目が生物の死点を探る様に輝き、影をしならせ脇を打つ。
     どちらかと言うと、前でガンガン刃物を突き合わせるのが得意そうな錠だけど、今回はお預け。ウロボロスブレイドをしなやかに振るい、リヴィアタンを釣りあげるくらいの勢いで蛇咬斬。
     鋭い顎を縫うように残る捕縛の戒めであるが、それすら喰い尽くさんばかりの勢いで、ガジガジと歯を立てるリヴィアタン。
    「怪物の名の通り、だな」
    「腕がなるぜ!」
     クジラがもつ優しそうなイメージをまさに噛み砕く、凶暴な牙の羅列。優志はきりりと相手を見据えながら平を翳し制約の弾丸を放てば、エマの足元より伸びる影が巨大な頭から朱を引いて。
     梅生の癒しの祝詞唄う様に響かせ。梅丸もやわらかなハートでお手伝い。
     連携によって、次々に打ち込まれる衝撃。リヴィアタンは軽く仰け反るなり、ゆらりゆらりと体をゆすり、体を転がすために勢い付け。
     宵月の放つ六文銭を、巨体を岩に打ちつけながら凄まじい勢いで転がり回避して。
    「……つーか転がるだけならスゲェ機敏じゃね?」
    「ころころの領域越えてますですよ!」
    「目が回りそうじゃの……」
    「おいおいワイルドさは何処へ行ったんだ……」
     微妙に口元ひきつらせる錠。沙希は思わず声をあげ、千代子は瞼押さえ、雅史は一つ言わずにはいられない。
     大きさや形から、転がる時も、ごろ~んごろ~んというのを想像していたに違いない! 
     しかしサイキックをかわすくらいのスピードで転がるのだから、まぁ可愛いなんて程遠いのはお察し。アザラシがころころと転がってゆく様を見て、可愛いと思うのは、キュートな顔と愛らしい体型があればこそ。
    「可愛くねぇ……転がって可愛い範囲越えてるだろ……」
     見ているだけで精神的な何かを削ぎ落されそうなビジュアルに、げんなりしそうな奏。
    「そしてシュール」
    「……うん」
     何とも言えない顔で、ようやく感想を吐きだせた梅生。辛うじて返答し、転がる巨体に物凄く微妙な顔の優志。
     巨大な顎から滲む凶暴性と、拭いされないコミカルさという、対極属性を持つ今回のクジラであるが――飛んできた超音波と、そして腹の周りにじわじわと広がる水の揺らぎ、止めなければここのイルカは喰われ、いずれ人の味すら覚えてしまうだろう。
     沙希は神楽鈴を掲げれば、涼やかな響きに誘われ天より振り落ちる轟雷。
     闇に伸びゆく電光の中、錠と優志、奏は一斉に、斬影刃を解き放って。右に左に、影と影が乱れ踊る。
     連続で振り下ろされる刃に傷口を広げられ、吠えるリヴィアタン。遠距離にいる灼滅者たちを憤慨するように、不自由ながらも、大きく身を振ることによって顎の先端に並ぶ歯で、錠へと喰いつきにかかって。咄嗟に庇いに入る奏。食いちぎられずとも、鋭い威力。
     宵月が主人へと浄化輝かせ、梅生が防護符を放って。手厚い援護で戦況を維持していた矢先――攻防の最中、夜であったということも相まって、事前に気付いたものはなく。ただ気が付いた時にはもう、八千代は斬魔刀を使いリヴィアタンへ斬撃を繰り出していた。
     ぶおおと、鼓膜に痛み走る様な声。
     巨体を反りかえらせるなり、その大きな体を勢いよく転がす体勢へと。
    「くっ」
     千代子は奥歯を噛んだ。すっかり失念していた。ディフェンダーとして身を張る八千代。接近して斬魔刀を繰り出せば、リヴィアタンに押し潰される間合い。攻撃寄りに指示をしていたが、見切り対策の為という意味合いも含めて回復の手伝いにも気を配る様にしておくべきだったか、と。
     動きを鈍らせ、八千代の退路を守ろうと、優志は制約の弾丸を撃ち込み、エマと雅史はブレイジングバーストを仕掛けて、もしかしたら火を嫌って攻撃の手を止めるのではないかという微かな希望を乗せて。
     炎巻こうとも、リヴィアタンの攻撃の意志は揺るがない。その巨体を振り落として押しつぶそうとしてくる。
     転がって行く先へと、すかさず走る奏。怪我を気にせず壁になろうと。
     危ない。そう思った直後。優志や奏の気迫が届いたのかリヴィアタンの体が痙攣する。
     制約の弾丸が功を奏し、誰も奇跡的に押しつぶされずに済んで。そして押してゆく好機でもあって。
     ぐっと拳握る優志。恋人の大好きなイルカの前で犠牲など何一つ出すものかと、漆黒の猟犬差し向け斬影刃。さすがと錠は歓喜しながら、
    「負けちゃいられねェ!」
     まずは鰭からバラしてやるぜと、黒鋼でできた尾の様にしなる刀身を巻き付け、食い千切る様に切りつけて。
    「手間を掛けてすまぬ」
    「気にするな」
    「これがチームプレイってヤツだな!」
     千代子へ、奏は微かに口元に笑み浮かべながら影を撃ち、エマが笑顔を向けて。
     改めて、誰もが射撃による灼滅の意志をしかと刻み、徹底させようと意識する。
     響く轟雷、火炎の塊が幻に揺るがし、宵月と八千代の放つ六文銭に弾ける鮮血、巨大なガトリングガンから撃ちだされる弾丸の衝撃すらにも動じぬほどの筋力を見せつけながら、楽しげに口元をあげる雅史。
     リヴィアタンが苛立つように吠えた。
     執拗に服破りを重ねられては、削られる体力も馬鹿にはならない。空を飛び立つ水は半分までできているから。なんとか耐え忍ぼうとシャウト連続で防戦に入って。
    「空を泳いでいる姿も拝みたいところですが……」
     相手が防戦になるならば、こちらはそれを上回る攻撃を叩きこまねば勝利はない。梅生は足元から枝の様に影を伸ばし、
    「命を犠牲にするなど言語道断ですから」
     梅丸が発生させた竜巻を追う様に、影の刃が地を割る根の様に這ってゆく。巨体を撫でた風の衝撃、次いで裂く漆黒の梅花に、噴く血潮。
     戒め全てが振り切る保証などない。振りほどいても、引き千切っても、重なる攻撃にざんざんと切り裂かれ、分厚い皮膚の防御力を削がれ続け、曝け出された脆い中身。
     千代子がすぐさま三味線爪弾いて。
    「八千代! 放て!」
     鋭く薙いでゆく影、鮮血纏うその傷に六文銭が食い込んだ。
     初めてリヴィアタンが悲鳴のような声をあげる。巨体を誇るリヴィアタンの体力も、底が見え始めているのは薄明。
     しかし満ちゆく水の幻も、完成は近い。
     あと四分。
    「なぁ、お前どうしてこんなことしに出てきたんだよ」
     エマはブレイジングバーストを撃ちながら、答えの無い思いを問う。太古の記憶のまま夢を見ていれば、それこそ自由に空を飛べたのにと。
    「もう一度、仮初の目覚めを終わらせて眠りにつくです」
     ホーミング駆使して。沙希は的確にリヴィアタンの脳天へと轟雷振り落とす。
     噴き上がる血飛沫、そこへ錠の蛇咬斬が絡みついた。
    「生まれてこなけりゃ、こんな鉄の味を知る必要もなかったのにな……」
     言葉と共に、一気に手首を翻せば、ずるりと引き剥がされる肌の色。
     絶叫に重なる様に、リヴィアタンが苦し紛れの水刃を解き放つ。
     身を苛む魔氷など、もう無視して。このまま一気にたたみかけようと、優志が繰り出す漆黒の猟犬に合わせる様に、雅史は火炎の塊をぶっ放す。
    「さっさとあるべき姿に戻って貰いましょう。過去は過去、今は今です」
     火炎弾ける巨体へと、梅生の斬影刃が朱を薙いで。
     優志の指先によって織り込まれた、制約の弾丸がひときわ輝きを放って――。
     鈍い音。
     吸い込まれた弾丸の衝撃に、折れるのではないか、そう思うほど。リヴィアタンは大きく仰け反った。
     次いで幻影の水が爆発した様に、辺りへと飛散する。
     ぶおおと吠えれば、肉体がどろりと溶け爛れ、支えを失った骨格が、がらがらと壊れ始める。
     おお、おお、と。
     見たこともない空と大地にしがみつく様に、リヴィアタンは生きる本能を震わせるけれど――砂よりも細かく崩れる体。波にさらわれ、そして知らぬ時代の土となる。
    「――終わったな」
     最後を見定め、ゆっくりとガトリングガンを下ろす雅史。ふうと息を付き、お疲れさんと宵月を撫でる奏。千代子もほっと一安心。錠と沙希は、未だ醒めぬ興奮を追う様に、白波運ぶ浪漫の先を見つめて。
     梅生は先程撮ったリヴィアタンを静かに見つめ――形ある様でないような、そんな姿を人知れず持つ秘密、そっと懐にしまいこんで。
    「大丈夫かー」
     エマはイルカの無事を確かめに。でもさすがに柵を乗り越えて施設の中まで入って確認できないけど。
     人口の光の中、イルカは人の気配に水面から顔を出し、キューキュー言いながら近づいてきてくれて。ぱちゃぱちゃ鰭を動かす仕草がまたいい。
    「わぉ、ちょー可愛いし!」
     なんとなく心が通じ合っている様な気がして、エマはほっこり笑み零し。
    「お前ら食われなくてホント良かったな……」
     波の音が、静かに辺りを包んでいる。
     優しく、優しく、遥か昔に出会ったクジラを悼む様に。
     

    作者:那珂川未来 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 5
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