弥生の祝宴は夜桜と

    作者:御剣鋼

    ●弥生の祝宴は夜桜と
    「日頃から頑張っております灼滅者様方に、わたくし何か出来ないか、真剣に考えました」
     穏やかな笑みを浮かべながら教室に入ってきた里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)が、バインダーから取り出したのは、桜色の招待状だった。
     自称、執事と言うだけあって、和紙にしたためられた筆跡は美しくもあった、が……。

     ――弥生(3月)の夜桜を楽しむ会。
     3月26日(水)18時から20時。日本家屋のお座敷から夜桜を堪能しませんか?
     当日は貸し切りですので、お友達やサーヴァントもお誘いのうえ、奮ってご参加下さい。
     わたくし里中も、当日は紅茶持参で皆様の執事として、然りと給仕させて頂きます。
     
     ※追伸でございます。
     わたくし、料理の才能はさらさらでございますので、皆様方の持ち込みに期待大!
     花札等のゲームのお誘いには、わたくし里中、大人げなく本気を出させて頂きます。

    「弥生の夜桜を楽しむ会かぁ……名づけのセンスは置いといて、うん、いいな!」
     貴方のすぐ後に招待状を受け取ったのだろう、ワタル・ブレイド(小学生魔法使い・dn0008)もちょっと嬉しそうに、口を緩ませていて。
     3月末なら武蔵坂にも桜前線がやって来る時期だから、綺麗な夜桜が見られるだろう。
     ……と、その時だった。ワタルがイタズラめいた笑みを、清政に見せたのは。
    「大好きなヒト達と誕生日を迎えたいって気持ちは、オレみたいなガキでも分かるぜ?」
    「……え、いや、そんな下心は……ももも申し訳ございませんっ!!」
     その日は執事エクスブレインこと、里中・清政が15歳を迎える日。
     なるほどと笑みを浮かべた学生達の視線を集め、清政も年相応に動揺してしまっている。
     視線を避けるように踵を返した清政は、少し危なげな足取りで教室の扉に手を掛けた。
     この男、外見と事務処理は優れていても、それ以外と運動神経は壊滅的に等しいよう。
    「ぜひぜひ来てくださいね、そしてぜひぜひ美味しい持ち込み有りで♪」
    「やっぱり、持ち込み前程かよおおおおおッ!!」
    「たくさんの灼滅者様がきてくれますと、わたくしとても嬉しゅうございます♪」
    「ああ、初見の奴らが無残にならな……じゃなくって、オイ幹事出て行くなッ!!」
     灼滅者を尊敬している清政だからこそ、自身の誕生日に皆が喜ぶことをしたいのだろう。
     嬉しそうに教室を後にした清政を、ワタルは心配そうな眼差しで見つめていた。
     
    「アイツだけだとカオスなオチになりそうだからな、オレはスコーンでも持っていくぜ」
     清政が貸し切りにした日本家屋のお座敷は、特に夜桜が見事に映える穴場だという。
     和風の庭に植えられた桜と、春の月が織り成す幻想的な息吹は、この時期だけの特別で。
     一人一品何かを持ち寄って、花見を楽しむ感じになればいいなと、ワタルが告げる。
     楽しみにしているのはワタルも同じで、まだ見ぬ宴に想いを馳せているよう……。
     けれど、それも一瞬。集まった学生達を見回すと「そういえば」と、短く切り出した。
    「清政は給仕に専念するっていったケド、カードゲームする奴は誘ってみると面白いぜ?」
     実は、清政は大のギャンブル好き♪
     トランプのようなゲームを特に好んでいるとのことだが、こちらも壊滅補正付きだとか。
    「負けることねえというか……アイツを勝たせる方が、かえって難しいくらいのレベルだ」
     オレみたいなガキでも楽勝だったと、ワタルは遠い目を浮かべる。
     学生の1人が他にも何か知っているか訪ねてみると、ワタルは首を横に振ってみせた。
    「そんなに付き合い多い方じゃねえし、この機会に仲良くなってみるのもいいと思うぜ?」
     弥生が織り成す、春の祝宴。
     クラブの仲間やクラスメイト、気になる人がいれば誘ってみては如何だろうか。

     日本家屋と夜桜と過ごす、弥生の祝宴。
     桜を眺めながら、君は貴方は誰と過ごし、何を想い、何を聞いてみる?


    ■リプレイ

    ●花宵の祝宴
     給仕に専念していた清政は沢山の祝辞を掛けられ、照れを隠せずにいて。
     春と桜に絡めた菓子で両手いっぱいになった清政は、恭しく頭を下げていた。
    「誕生日のお祝いに夜桜と舞ってみたいけど、どうしようかねぃ?」
     小さい時から日本舞踊をやっていたと楽しく告げる光也に、梨乃は快く頷く。
     記憶喪失で想い出話はできなくても、これからの思い出を大切にしたいから。
    「光也様の舞を見られるのなら、是非見てみたいですわ」
     一人だと勇気が足りなくても、二人ならきっと――。
     何よりも、光也に楽しんで欲しかったから。

    「何だか、桜の花が夜の中に浮かぶ灯りみたい」
    「本当。桜、浮かンで……キらきラ、綺麗ヨ! うットり……」
     揃いの夜桜着物と各々の色の袴で夜桜と甘味を楽しんでいたのは、チセと夜深。
     清政の紅茶と桜クッキーを味わいながら、霊犬のシキテを笑いながら撫でる。
    「寒かったら暖取ってね」
    「あイや! 御気遣イ、多謝! シキテ、ヌくぬク……♪」
     遠慮しながらも夜深はシキテに身を寄せていく。
     桜飾りの組紐をつけたシキテは「任せろ」と嬉しそうに尻尾を振っていた。

    「誕生日おめでと。プレゼント、何がほしい?」
     縁側に腰掛けて月夜に映る夜桜を堪能していた律花に、春翔が柔らかく微笑む。
    「桜も、隣の花も一緒に愛でる事が出来るのが、俺にとって何よりの祝いだ」
     春翔の言葉に律花は「隣の花?」と首を傾げ、直ぐに顔が紅くなっていく。
    「花より団子でも堪能してください」
     照れ隠しに団子を勧めた律花に春翔は小さな笑みを隠せずにいて。
     律花が作った団子を一つ手に取ると、春翔は花々を楽しむように瞳を細めた。

    「早く食わないと俺が肉取っちまうからな」
     夜桜の下ですき焼きパーティーの準備をしていたのは【廃ビル】のシグマ達。
     徹と戀が作った桜と筍のお握りに舌鼓を打ちながら「出来たぞ」と声を掛けた。
    「ってコラ、シグマくんはお肉ばっか食べるんじゃないの!」
    「いただきます……って、皆がっつき過ぎでしょ!」
     満面の笑みで春陽はシグマの皿に野菜を盛りつつ、自分の皿にはガッツリ肉を乗せる。
     急ぐように自分の皿に肉を盛った戀も、春陽に甘酒を勧めて箸止めを仕掛けていた。
    「お野菜、春菊もたべないとだめです」
    「野菜ばっかり持ってくんな!」
     まさに弱肉強食ッ!
     背が伸びるからと徹も笑顔で自分の皿の野菜を、シグマの皿に移さんとしていて!
     紙皿を持ったままシグマが皆の猛攻から逃げようとした時、不意に夜風が横切った。
     ひらひらと。風に舞う花びらにシグマは足を止め、春陽は魅入るように箸を休めて。
     戀は微笑みながら小さな手を伸ばした徹の頭に乗った花びらに、指先を伸ばした。

    「むがーい♪ お弁当の中身なにかしら?」
     弟の无凱が開けた重箱をとってもイイ笑顔で覗くのは、双子の姉の静謐。
     弁当要員に強引に誘われた无凱は溜息をつきながら、口を開いた。
    「ちょっと気になるレシピを見つけたので……」
     菜の花とエビの春色お握りには、マヨネーズが隠し味。
     照り焼きつくねにピリッと効いた山椒には、静謐も満足そうで。
    「褒めても何もでないぞ」
     満面の笑みで褒める姉に桜漬けで飾ったデザートを渡した无凱は、瞳を細める。
     月夜を舞う、桜吹雪に――。

    「美味しい」
     ビニールシートの上で碧と神楽の料理に舌鼓を打つのは【扇】の由布。
     様々な逸品を詰めた神楽のオードブルに箸を伸ばす由布の口を碧がハンカチで拭った。
    「そう言えば、何気に皆にお弁当を作るのは初めてかしら?」
     碧の家事歴も6年になる。
     中身も唐揚げを中心にサラダや炒め物、煮物。口直しにリンゴやミカンが入っていて。
     その横には魅代が用意した飲み物や、紙パックの御茶とジュースが並べてあった。
    「こういう場合は「キミの方が綺麗だよ」ぐらい言っても罰が当たらないわよ」
     夜桜を眺めながら、魅代は悪戯っぽく男二人に笑って。
     神楽と由布は顔を見合わせ、苦笑した。
    「んじゃま。夜桜と今後の僕らに。あと、誕生日を迎える清政に乾杯!」
     今後も無事に過ごしていこうと告げる神楽、魅代も楽しむようにコップを掲げる。
     由布も夜桜を見上げ、月明かりとの幻想的な光景に身を委ねていった。

    「僕弁当作ってきたんだ~」
     これぞ創作料理と朔之助は超誇らしげ。
     だが、お重の蓋が開くと見た目カラフルで元型すら以下略の世界が広がっている。
    「料理さっぱりだから人の事はいえないけど……」
    「暗い夜空に桜色が凄く映えているな」
     初めは嬉しそうに歓声をあげていた要すら、お重から視線を逸らす。
     和菓子を振る舞っていた葵も、花と星々の共演に現実逃避するレベルでして。
    「今……何っつった?」
     爽やかな朔之助に葵は何でもないと小声で返し、要は意を決して手を伸ばす。
    「ライトアップされた桜にキラキラの夜空。いいコラボなのですね」
     由愛は初めての夜桜をしっかり愛でつつ、雫の桜餅もしっかり頂いちゃっていて。
     のんびりまったり【宵空】の仲間と夜桜と星空を鑑賞――。
    「とでも思ったかあ!」
     桜茶を振舞っていた七がご機嫌で持ってきたのは、ロシアンお握り!?
     大きな皿に乗せられた一口サイズの中身は鮭、明太子、昆布、ハバネロの何れか一つ。
     要が軽いノリで選ぶと、女は度胸と朔之助も思い切って口の中へ!
    「受けて立とう」
     宵春の席での運試しも一興、峻烈な味もまた思い出になる、はず。
     急須の中で開く春一輪に笑みを浮かべた士騎が中央から一つ取り、葵も恐る恐る摘む。
    「どれを頂くか悩んでしまいます」
     雫は暫し考えた後、一番端のお握りを取ると度胸を決めて一口ずつ。
     桜茶と和菓子。賑やかなお重の味と共に、思い出を噛み締めるように――。
     ――刹那。何でも来いの意気込みで挑んだ由愛と七が同時に桜茶に手を伸ばした。
     見上げれば、寄り添うような花と星。
     様々な色が織り成す景色。夜に浮かぶ花色に雫は瞳を細め、士騎も笑みを深めた。

    「お前ら料理出来たのかよ……」
     清政を囲んで花見を楽しんでいたのは【塩屋】の仲間達。
     塩屋のオカン慶一のお重にも、十分気合いが入っていた、が。
    「チラシの押し寿司と串揚げてきた! 食うて食うてー!」
    「つーかオカン埜渡は当然として、典鏡院も器用だなオイ」
     高校卒業組の祝いもかねて腕を振ったと蓮生が胸を張れば、切って焼くしか出来ないと素直に感心していたダグラスも、さっそくちらし寿司にありつく。
    「えだまめはそこらの桜の花びらでもつまんでて下さい」
     美味しいものの前では観賞に浸りたい想いなんて、実に無力ッ!
     赤いウインナーに感嘆を洩らすほの花の横で、霊犬のえだまめがか細く鳴いて。
     見かねたダグラスが骨ガムを投げると、嬉しそうにかじりついた。
    「皆料理うまいな。俺、ミカンしかもってこなかったわ」
     豪華で美味しい手料理にザジは感謝しつつ、一通り皿に乗るだけ盛っていく。
     お重の団子に手を伸ばすと、足元には岩塩入り団子で撃沈した清政が……。
    「清政も、おたべ」
    「うぅ……恐縮でございます」
     夜空に浮かぶ白い花は寂しげだけど、皆と眺める花は輝いてるかのよう。
     清政に桜の塩漬けクッキーを渡したスヴェンニーナは、綾子の塩むすびを少しづつ口に運んでいく。
    「塩むすびの塩はね、塩屋で扱ってるロンロンを使ってるのよ」
    「……い、今はちょっと」
     慶一の卵焼きに舌鼓を打った綾子は宣伝も兼ねて清政に塩むすびを勧め、一味欲しい時に使って欲しいとソルトミルを握らせた。
    「あ、桜!」
     ふわり舞う桜にほの花は息を飲み、カップへ落ちた花びらにザジは願掛けて。
     串揚げに添えた岩塩のしょっぱさと共に、蓮生も口いっぱい幸せを噛み締める。
     豪華な宴の席。慶一は次から手伝って貰おうと、心に誓ったのだった。

    「さあさ、カラオケの点数で勝負勝負!!! 負けた人は罰ゲームな!!」
     初めてクラスの皆と遊ぶためなら、何だって惜しまないのが、モットー。
     この日のためにカラオケセットを用意した亀之丞が早速歌おうとする、と。
    「ふふふ、こう見えても歌はそれなりに得意なんですよ」
     亀之丞が歌ってる所に横から2本目のマイクを持った弘美が歌い出す。
     喉が渇いた所でトマトジュースを取ると、視線が【御殿山1-4】の仲間に止まった。
    「肉じゃがとは、かの東郷平八郎が留学先で食べたビーフシチューの味を――」
     持参した肉じゃがに、黒乃が海軍を絡めたうんちくを活き活きと語っていて。
     美味しいものを食べたいと思っていた綾が肉じゃがに手を伸ばそうとした時だった。
    「えっ? 零?『私も食べたい?』仕方ないなぁ……皆に迷惑かけないでよ?」
     と、呟いて一拍。黙々と肉じゃがを口に運び、健護のサンドイッチにも手を伸ばす。
    「どこかにあたしも混ぜてもらおっかなーっ?」
     桜も綺麗で御飯も美味しくて、何より皆と一緒のアイリスは、とても楽しそうで。
    「アイリス様、寒くないですか? ほら、デザートですよ~」
     健護がバスケットからデザートを取り出すと、アイリスは嬉しそうに歓声をあげる。
     全力で楽しむ少女を満足げに見守っていた健護は、おもむろにカメラを取り出す。
     月明かりの下、和気藹々なクラスメイト達に向けて、シャッターを下ろした。

    「ちゃんと桜も見ろよ。その間にお前らの分まで桜餅食ってるから」
     夜になると少し肌寒い。
     千佳のブランケットに入った【スキマ】の千尋は桜餅と桜クッキーを広げていて。
    「分かってますよ、メインはお花見だってことくらいは!」
    「桜もちゃんと見てますよー」
     側で揚げ餅を広げていた紅葉も千尋と競うように桜餅を摘んでいく。
     同じく食が進んでいた璃音も、緑茶の水筒と紙コップを取り出した。
    「やはりおにいさんおねえさんがつくった奴の方がきれい」
     誰よりも大きいチョコパイを広げた千佳も、食べ比べに勤しんでいて。
     ふと、高校三年生になる先輩達に訪ねた。
    「お三方の抱負はなにかありますか?」
     四月から中学二年生の千佳の問いに、紅葉は瞳を細める。
    「そうね、卒業までに何か見つけられるといいんですけど」
    「シフォンケーキで失敗しない」
     千尋は投げやりに応えつつ、桜で飾って貰って嬉しそうな葛桜に満更でもなさそう。
    「ま、今まで通り過ごすだけっすよ」
     ふと璃音が紙コップを見ると、水面に花が一枚、揺れていた。

    「おぉ、どれも美味そうじゃな!」
     夜桜を背景に【露草庵】は持ち寄りの料理を広げていて。
     皆が風邪を引かないように篠介が膝掛けを敷くと、壱琉が手作りクッキーを広げ、御伽が甘味を並べて豪華に彩っていく。
    「あ、これ俺がリクエストした卵焼きじゃね?」
     嵐の弁当に舌鼓を打った御伽は、唐揚げを嬉しそうに頬張る篠介にも卵焼きを勧める。
    「あ、コレうめ。誰が持って来たの?」
    「おばあちゃん特製の甘酒です、よろしければどうぞ!」
     口に入れた和菓子や甘酒の美味しさに、嵐の頬も弛んでいて。
     今この時の桜と光景は一度きり。そう思うと感慨深い。
     初めての夜桜と楽しい時間に、音雪の口元にも自然と笑みが零れていた。
    「ふふ、僕も夜桜初めてなんだ~」
     素敵な体験と御馳走で心と体がいっぱいになった壱琉は景色を眺める。
     皆と来れたことに喜んでいた壱琉に、篠介も良いスタートが切れたと瞳を細めた。
    「毎年見てるが、何回見ても飽きねーな」
     才蔵の桜茶を珍しそうに眺めていた御伽は、ふと桜を見上げる。
     優しく瞳を細めた御伽に釣られるように、音雪も視線を追った。
    「これを幸せと言わずして、何と言いましょう」
     胸に灯る暖かさを噛み締めるように感嘆を洩らすと、気持ちが湧き上がった嵐も……。
    「来年もまた、桜。見に来よーな」

    「こんなに賑やかな花見は初めてだな」
     花びらが増えた桜茶に才蔵は瞳を細め、皆の笑顔を焼き付けるように甘酒を飲む。
     夜風に花吹雪が舞う中、傍らの白髪の女に小さく呟いた。
     お前にはこの景色、見えているのかと――。

    ●春の真剣勝負!
    「わたくし、紅茶が好きですの。早速頂ける?」
    「はい、少々お待ちくださいね」
     清政からカップを受け取った【連雀通り高校2年2】の白雪は上品な香りに瞳を細めて。
     紅茶の湯気を朧の月に透かし、宵の桜に一つ、溜息を洩らす。
    「僕らは病院から移ってきたばかりだけど……ふふっ、このクラスは賑やかで楽しいね」
     腕を掛けたスコーンを振舞いながら、黎は幼馴染の真夜のお握りに舌鼓を打っていて。
     唐揚げに手を伸ばそうとしたら、真夜が卵焼きを黎の口元へ運んだ。
    「昔のボクとは違って料理もできる事を見せてあげよう。はい、あーん」
     拒むことなく口を開いた黎は真夜を膝の上に乗せると、幸せのお返し♪
     と、その時だった。
    「俺とカード遊びしようぜ、勝ったら言う事1つ、聞いてやんよ」
    「ほう……」
     誕生日という名目にカード勝負を挑んで来た適に、清政の瞳が勝負師に変わる。
    「ふふ、運動が苦手な里中くんにスピードで勝負とは……なかなかやるねえ」
     白雪のカップに紅茶を注いでいたジェレミアも、黎の桜スコーン片手に見学に混ざって。
     二人の勝負に真夜も茶々を入れ、白雪も勝敗にそわそわしつつ和やかに見守る。

    「こらトリくん、華凛くんお手製桜餅を一番乗りするのはボクだぞ!」
    「ぶっぶー、こういうのは早いもの勝ちなんですー」
     煉火がほぼ手作りを要求しただけあって【LP】のお座敷の上は豪華絢爛♪
     美味しそうに桜餅を頬張る奏とサムズアップした希沙に、華凜に笑みが零れて。
     唐揚げを添えた納豆カレーを持ってきた奏には「共食い?」の洗礼が待ってましたが。
    「きりこは桜のジャムを頑張って作ってみました」
     霧湖の桜ジャムを煉火のクッキーとイヅナの桜マカロンに添えれば、美味しさ無限大!
    「紅生姜で赤くなった部分旨いぞ」
     譲の赤飯は小豆の代わりに甘納豆が使われ、脇に紅生姜が添えられている。
     甘納豆入りの赤飯に華凜と霧湖が瞳を大きくし、イヅナも見入ってしまった。
    「北海道では入れるって聞いたことがあります、やっぱりブームなのかな」
     同志をみる目で声を掛けてきた煉火に、桜マカロンをお裾分けした時だった。
     おかず担当の希沙が持ってきたミニオムレツに、一際大きな歓声が沸いたのは。
    「へへ……お口に合えば幸い」
     希沙が照れる中、7人は御飯と甘味の葛藤で悩むことになった。

    「次はお菓子を賭けて勝負しましょう」
    「望む所でございます!」
     トランプでボロ負けの清政に、一途が花札での一戦を申し出る。
     一途のマントに付いた花びらに見入っていたアロアや【LP】も興味津々で集まって来て。
    「うん? 花札ですか……♪ 良いですねぇ……」
     テーブルゲーム研究会の腕が鳴ったのだろう。
     桜餅を味わいながら花を眺めていた流希も花札を手に取ると、初めての人に説明する。
     清政も何時もの畏まった口調で補足するけれど、鬼気迫るものがあって……。
     ハワイ育ちのアロアに云々と丁寧に教えていた一途も気持ちを切り替えて、いざ勝負!
    「初心者が揃って猪鹿蝶とかおかしいだろ!」
     開始早々ルールブックガン見の煉火と霧湖に手加減していた奏は己の過ちに気づく。
     鳥だけに奏はカモられ、速攻でネギられた清政は既に真っ青で倒れる阿鼻叫喚♪
    「花見に花札も風流だな」
     譲は希沙に教えながら、何とか役を揃えようとする奏を妨害し攻め上げる。
     イヅナも役を揃えるので手一杯と洩らすが、こういうタイプが実は手強かったりする。
     華凜に至っては絵が綺麗という理由で、花見酒と猪鹿蝶を狙う猛者ぶりだッ!
    「よし霧湖ちゃん、トリ先輩カモろ」
    「わかりました頑張って短冊を集めます!」
    「ちょっとわたしめっちゃ強くない?」
     再び揃えた猪鹿蝶で一途から巻き上げた菓子を得意げに頬張るアロア。
     清政と一途、負けず嫌いの華凜も再戦を挑み、大いに盛り上がる。
    「遊びがてらに、お握りとサンドイッチはどうですか?」
     皆で摘めるよう、深夜は色とりどりのお握りやサンドイッチを配り歩いていて。
     花より食べるのがメインになっていた少女達は、嬉しそうに手を伸ばした。

    「こ、こら。食べものじゃない。食べるな。食べちゃだめ」
     ドキドキの中で龍之介と始めたトランプ。
     花には興味がない狭霧だけど、誘われた言葉の意味は知っていて。
     そんな中、ナノナノの望月は至ってテンション高めだった。
    「あんまり高い所まで行っちゃだめだよ?」
     少し緊張気味だった龍之介も桜の花を食べようとした望月に、慌てながら桜餅を渡す。
     再びトランプに集中する二人。狭霧の胸の高まりも静まっていった。

    ●花宵の銀光
    「うおお、先輩見て見て夜桜綺麗だなー!」
    「まあ食えよ、花見っつったらこれなんだろ」
     はしゃぐ維の微笑ましさに、レナードは冗談っぽく笑うと本気買いした団子を並べる。
     維から渡されたペットボトルで乾杯。言えずにいた言葉と願いを口にし、目を伏せた。
    「……たまにはまた会い行っていいか」
    「勿論いつでも会いに来てよ。俺も寂しくなったら先輩のとこ突撃するし!」
     ――いってきます!
     レナードの言葉に維は目を瞬かせ、満面の笑みで応えた。

    「たまに話に来てもえぇか」
     神妙な表情から一変、笑顔の悟から御茶と桜餅を受け取った清政は頷く。
    「はい、わたくしでよければ喜んで」
     見上げれば、寄り添うような花と空。
     賑やかな春宴を背に、銀光受けて舞う桜吹雪を、二人は静かに見つめていた。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年4月9日
    難度:簡単
    参加:67人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 13
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