白い獣と人食樹

    作者:陵かなめ

     リィン。
     鈴が鳴る。
     夕陽の差す石畳の道に、白い獣が現れた。
     リィン。
     白毛の耳には、飾り鈴が光る。オオカミのような容貌のスサノオだ。
     スサノオは静かに辺りを見回した。
     すると、一本の木が揺れ始める。はっきりと意思を持った動きだった。木の根には、ジャラジャラと鎖が巻き付いていた。
     程なく、枝の先に人の首を模した様な花が咲く。
    「シャァアアアアアア」
     枝に付いた人面花は、口を大きく開け妖しく吼えた。
     
    ●依頼
    「スサノオが古の畏れを生み出そうとしている場所が、判明したんだよ」
     くまのぬいぐるみを抱えた千歳緑・太郎(中学生エクスブレイン・dn0146)が話し始めた。
     スサノオはブレイズゲートと同様、エクスブレインの予知を邪魔する力を持っているけれど、スサノオとの因縁を持つ灼滅者が多くなったことで、不完全ながらも介入できるようになったと言うのだ。
    「今回は、スサノオと戦えるんだ。その方法は二つだよ。一つ目は、スサノオが古の畏れを呼び出そうとした直後に襲撃を行うこと」
     この場合、六分以内にスサノオを撃破出来なかった場合、古の畏れが現れてスサノオの配下として戦闘に加わる。
     古の畏れが現れた後は、古の畏れに戦いを任せ、スサノオは撤退してしまう可能性もある。短期決戦が必要になるだろう。
    「もう一つは、スサノオが古の畏れを呼び出して去っていこうとするところを襲撃すること」
     古の畏れからある程度はなれた後に襲撃すれば、古の畏れが戦闘に加わることは無い。ただし、この場合、スサノオとの戦闘に勝利した後、古の畏れとも戦う必要がある。
     スサノオと戦う場合の時間制限は無いが、必ず連戦となるため、それ相応の実力と継戦能力が必要となる。
    「どっちを選ぶのか、皆で決めてね」
     次に、太郎は古の畏れの戦闘能力について触れた。
    「スサノオの攻撃方法は、多彩だと思う。まずは、唐傘での突き刺し」
     思い出すのは、血の雨小僧だ。
    「それから、口を狙って裂いてきたり」
     口裂き女も居た。
    「回転している刃を飛ばして、首斬りを狙ってくることもあるんだよ」
     それは、首斬り馬だったか。
     それぞれ、スサノオが生み出した古の畏れを思い出す攻撃だ。
    「それから、古の畏れについてだけど、こちらは人面花を咲かせ自由に動く木だよ。人面樹という妖怪を知ってる? この古の畏れは、人間を食べちゃうから、人食樹……かな」
     もし古の畏れとも戦うことになった場合、人食樹は噛み付きや体当たりなどで攻撃をしてくるだろう。
    「僕からの説明は、以上です。危険な任務だと思うけど、皆頑張ってね」
     最後に、太郎は集まった面々を順番に見た。
    「今がスサノオを倒せるチャンスだよ。だから、必ず、倒してほしいんだ」


    参加者
    加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    村瀬・一樹(叶未紳進・d04275)
    赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)
    月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)
    守御・斬夜(護天の龍華・d20973)

    ■リプレイ

    ●追いかけて
     リィン。
     鈴が鳴る。
     夕日の差す石畳の道を、白い獣が通る。
     古の畏れを呼び出し終え、どこかに去っていこうとしているのだ。
    「あれがスサノオですか」
     あれは意思や目的があるのかわからない妖獣。けれど、人に害為す存在と言う。
     スサノオの動向を見守っていた月光降・リケ(魍魎猖獗・d20001)が静かに言った。
    「鈴の音が動いていくわね。つけましょう」
     身を潜めていた灼滅者達が頷き合った。スサノオを追うように、行動を開始する。
    「ようやくスサノオの尻尾を掴めました。まだ謎が多い相手ですが、必ず倒しませんと」
     狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)は白い獣をその目で確かめながら考える。
    (「それにしても以前の畏れの攻撃を使うなんて……彼らの力を取り込んでいたりするのでしょうか?」)
     リィン。
     鈴が鳴る。
    (「古の畏れを復活させて回っている目的は一体何なんでしょうか……」)
     謎は尽きない。
     人食樹までの道のりに目印を残しながら、東風庵・夕香(黄昏トラグージ・d03092)も疑問が浮かんでいた。
    (「でも、ようやく掴んだスサノオに接触できる機会です」)
     しかし、と首を振る。
    「これ以上、被害を広げないためにも確実に倒しましょう」
    「スサノオ灼滅の絶好のチャンス。ここできっちり仕留めないとね」
     必ず倒す。その思いは真白・優樹(あんだんて・d03880)も同じだ。物陰に隠れながら追跡をする。
    「おまけに強敵相手の連戦だし、気合入れてこう」
     背後に人食樹、目の前にはスサノオ。優樹は帽子に触れながら言った。
     自然に気合が入る。
    「何が相手でも問題ない。剣士は斬るのみ」
     普段のゆるさを見せない。
     守御・斬夜(護天の龍華・d20973)は真剣な口調でそう返した。
    「スサノオと、古の畏れとの2試合ですね。どちらも完全勝利といきましょう」
     皆の動きに合わせスサノオを追っている赤松・鶉(蒼き猛禽・d11006)も、高らかに宣言する。
    「人食樹から随分離れたな」
     これだけ距離を開ければ、人食樹を巻き込むことは無いだろう。
     確認するような加藤・蝶胡蘭(ラヴファイター・d00151)の言葉に、村瀬・一樹(叶未紳進・d04275)がしっかりと頷いた。
    「そうだね。いいタイミングじゃないかな」
     スサノオと古の畏れを順番に相手するのは大変だけれども、頑張ろうと。手袋の下の指輪の感触を確かめるようにそっと触れた。
     リィン。
     鈴が鳴る。
     皆が顔を合わせ、頷き合った。
     一斉に地面を蹴る。
    「やっと尻尾を掴んだな、スサノオ。これ以上畏れを生み出されない為にも、ここできっちりカタをつけてやるぞ!」
     一気に距離を詰め、スサノオの前に躍り出た。破邪の白光を放ち、強烈な斬撃を放つ。
    「……ッ」
     咄嗟に、スサノオが身を翻す。掠った一撃に、敵は小さく唸り声を上げた。
     蝶胡蘭の一撃で戦いは始まった。

    ●仕掛けて
    「呼びだして何を狙うのですか!」
     翡翠が呼びかける。
    「その考え、聞かせて欲しいです」
     夕香もスサノオの思考を知ろうと探りを入れた。
     二人は揃って片腕を巨大異形化させ、狙いを定める。
    「斬る」
     走り込んで来た斬夜も、鬼神変を構えた。
     三者が三方向からスサノオを殴り、撃ち付ける。勢いの付いた攻撃に、敵の躯体が吹き飛んだ。
    「……」
     翡翠の呼びかけには答えが無かった。思考を探ろうとした夕香に、その内側を見せることも無かった。
     背後の大木にぶつかったスサノオは一瞬よろめき、すぐに体勢を立て直す。
    「さぁスサノオ! 10カウントを聞かせてあげますのよ!」
     そこへ、鶉が身体を滑り込ませた。
     青いリングコスチュームを身に纏い、高揚感に胸を高鳴らせる。
     鶉にとって、これは大きな試合なのだ。
     リングシューズに仕込んでいたマテリアルロッドを素早く握り、勢い良く殴りつける。同時に魔力を流し込むと、敵の一部が爆ぜた。
     傷ついた部分を庇いながら、スサノオが後ずさる。
     その背後に回りこんでいたのはバベルブレイカーを手にした優樹だ。
     二つステップし死角に入ると、急所めがけて杭を叩き込んだ。
    「根こそぎ抉り取る!」
     高速回転で暴れる杭を押さえ込み、敵の肉体をねじ切る。
     スサノオが頭を左右に振った。
     悲鳴を上げるわけではなかったが、確実にダメージを与えた様子だ。
     だが、それも一瞬。
     スサノオは後ろ足を大きく蹴り上げた。咄嗟に優樹は身を引く。二人の間に距離が出来、スサノオが大きく身体を震わせた。
     リィン。
     鈴が鳴る。
    「気をつけろ、来るぞっ」
     現れたいくつもの回転する刃を見て、蝶胡蘭が声を張り上げた。あれは、切り刻む刃だ。
     身構えた前列の仲間に、斬撃が襲い掛かった。
    「ぐ……」
     分かっていたけれど、身を刻まれる感覚は不快だ。小さく声を漏らし、斬夜は仲間を見た。回復は足りるだろうか? 疑問に答えるように、リケが声を上げる。
    「回復は任せてください。攻撃に専念して! カズキ、ここは私がいきます」
    「任せるよ」
     同じポジションにいる一樹と声を掛け合い、重複を防ぐ。
     リケの生み出した優しい風が、仲間の傷を癒した。
    「なら僕は、攻撃しよう」
     これ以上の回復は不要と見て、一樹は影を武器に宿す。スサノオのトラウマを摺り出すべく、殴りつけた。
     吹き飛ばされ一つ回転したスサノオは、すぐに起き上がる。また、鈴が鳴った。スサノオの傍らに唐傘が現れる。スサノオが駆け出すと同時に、強烈な突きが飛んできた。
     聞いていた通り、攻撃の手は多彩な様子だ。スサノオは受けた傷などかまわないと言った様子で、攻撃を繰り返す。
     灼滅者達もまた、攻撃態勢を整える。斬り、突き、薙ぎ払い、白い獣を攻め立てる。
     両者の力がぶつかり合い、苛烈な戦いは続いた。

    ●続けて
     必殺のビームを放った蝶胡蘭を狙い、スサノオは執拗に攻撃を繰り返す。
     顔を狙って飛びついてくる姿を見て、蝶胡蘭は腕で受け流そうと構えた。だが、流した先から敵は強引に向きを変え、噛み付いてきた。
    「ず、ぁ……」
     口を狙って裂くと言うよりも、食いちぎられるような痛みだ。痛みをねじ伏せ攻撃の姿勢を取ったが、寸での所で敵が飛びのく。蝶胡蘭は知らずたたらを踏んだ。
    「一旦距離を取れ」
    「了解だ」
     刀身に雷を宿した斬夜が、庇うように割り込む。流れるような身体捌きで、下からスサノオを打ちあげた。敵が吹き飛び、距離ができる。
    「すぐに回復を」
     剣をタクト代わりに、リズムを取る。左胸に手を当て、一樹が癒しの歌を歌い上げた。
    「ふう、ありがとうな」
     積み重なったダメージは癒えないが、それでもまだ戦える。武器を手に、蝶胡蘭は再び駆け出した。
     その間にも、攻撃の手は休めない。
     夕香が影を伸ばし、敵を絡め取った。
     身をよじって逃れようとするところを、鶉が槍で穿ち、優樹がマテリアルロッド・コメットストライクで殴りつける。
     スサノオからの攻撃が飛んでくれば、その都度リケと一樹が回復した。
     畳み掛けるような仲間の攻撃で、徐々にスサノオを押し込んでいく。
     リィン。
     また一つ、鈴が鳴った。
     スサノオは、よろめきながらも唐傘を構えてみせる。
    「赤い雨はもう降らせません」
     それを見て、翡翠が走り出した。無敵斬艦刀を大きく構える。足を踏ん張り、めいっぱいの力で振り抜く。超弩級の一撃が、スサノオに綺麗にヒットした。身をよじる敵から、躯体が砕ける音が聞こえた。
     力なく地面を転がるスサノオには、もはや立ち上がる力が感じられない。
     鈴の音も聞こえない。
     ただ、消えて行く。
     夕日の差す石畳の道に、飾りの鈴さえ残らず、スサノオは消えた。

     スサノオの最後を見届けた灼滅者達は、休息と心霊手術を済ませ古の畏れを目指した。
    「居ました。まだあの場所に留まっていたようですね」
     自身のつけた印を確認しながら夕香が片腕を巨大に異形化させた。
    「シャァアアアアアア」
     人食樹に咲いた人面花が妖しく咆哮を上げる。じゃらじゃらと、根に巻きついた鎖が鳴った。
    「では、行きましょう」
     リケもまた、片腕を巨大異形化させる。
    「もう一息、頑張ろう」
     一樹がチェーンソー剣・鮮血輪舞を唸らせた。三人はポジションをディフェンダーに変更して参戦する。
     仲間達は一度顔を見合わせ、攻撃を開始した。
    「おまえはただのけだものなの? 言葉のひとつも言えないのかしら?」
     力任せに殴りつけながら、探りを入れてみる。だが、リケの言葉に返事は無かった。
     代わりに、枝の人面花が口を大きく開けて食いついてきた。
     言葉を理解していないのか、通じないのか。これ以上呼びかけても仕方がないと、ダメージを負いながらリケは返事が無いことを流した。
    「……っ」
    「引き剥がす」
     言いながら、スナイパーの位置に移動した斬夜が人食樹を殴りつける。リケに食いついていた敵が、大きく傾いだ。
    「続けて、行きます」
    「そうだね、きっちり仕留めよう」
     翡翠と優樹が攻撃を繰り出した。
    「完全勝利まで頑張りますの」
     さらに、鶉が畳み掛ける。三人は、揃ってクラッシャーのまま人食樹へと挑むのだ。
    「回復はまかせろな」
     メディックに移動した蝶胡蘭が護符を飛ばした。ひらり舞う符は、リケの傷を癒した。

    ●消えて
     いくつか回復のサイキックを潰したが、火力はほぼ保ったままだ。前衛の仲間の力強い攻撃が、確実に人食樹の体力を削り取って行った。
     しかし、敵もただやられるばかりではない。
    「シャァアアアアアア」
     人食樹が大きな身体で体当たりをかけてきた。
    「やらせません」
     翡翠を庇い、夕香が攻撃を受け止める。受けたダメージは、決して小さくない。けれど、夕香は膝を折ることなく、耐えた。
    「有難うございます。こちらからも、行きますよ」
     短く礼を述べ、翡翠が前へ躍り出た。勢いのまま無敵斬艦刀を振り抜く。その威力は、先の戦闘でスサノオを打ち砕いた勢いそのままだった。
    「ッ、シャ、アァァァァ」
     人食樹の身体の一部が、鈍い音と共に崩れていく。
     枝に咲いた人面花は、それでも噛み付こうと暴れた。
    「動きを止めます」
     指輪を構え、リケが狙いを定める。打ち出した魔法弾が、真っ直ぐに敵に命中する。
     次に、鮮血輪舞をわざと大きく唸らせ、一樹が迫った。
     敵は、唸る音に視線を向けたようだ。
    「残念。こちらが本命なんだ」
     もう片方の手に装備したクルセイドソード・Bleed Roseこそが、本命だと。言葉通り、一樹はBleed Roseで敵の霊魂を破壊した。
    「しっかり、もうひとふんばりだぞ」
     攻撃を受けた仲間に符を飛ばしつつ、蝶胡蘭が声を上げた。事実、人食樹は動きが鈍り始めている。灼滅者達は確認するように視線を交わし、頷き合った。
    「これで終わる」
    「こっちも、行くね」
     斬夜の鋭い斬撃が人食樹を斬り裂く。
     反対側から、優樹の閃光百裂拳も飛んだ。
     じゃらじゃらと、鎖の音が耳に残る。二人の攻撃で、人食樹が大きく体勢を崩した。
    「シャァアアアアアア」
     すでにその身体は崩壊が始まっていると見て取れる。
     けれど、人食樹は最後まで攻撃をあきらめていない。動きは鈍いが、近くに居るものに噛み付こうと、迫ってきた。
    「さあ、この拳に耐えられますの?」
     敵の攻撃を避け、鶉がファイティングポーズをとった。腰を落とし、勢いをつけ鍛え抜かれた拳を繰り出す。
     守りごと撃ち抜くような強烈な一撃が決まった。
     じゃらりと、一度だけ鎖が鳴る。
     もう枝についた人面花は吠えない。
     人食樹は、跡形も無く消え去った。

     静けさを取り戻した石畳の道を歩く。
     いつの間にか、日が暮れていた。
     獣が走る姿はもう無い。妖しの人食樹も、もう居ない。
     スサノオと古の畏れを撃破し、灼滅者達は帰路についた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月11日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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