海境に響くは藍の調べ

    作者:示看板右向

    ●precognition
     小さな波が寄せては返す。
     海が上下し、岩に付いたフジツボが出たり隠れたりを繰り返していた。
     ここはとある海辺。町の近くにある、一点ほどちょっと変わった所があるが、それ以外はどこにでもある様な岩場だ。
     いくらかの水が岩場に溜まっており、その水面に白い影が映った。
     ほとんど揺れない水面の中でさえその姿が不規則に揺れるのは、そいつ自身がちろちろと燃えているからだ。顔に歌舞伎の化粧のような、真っ赤なクマドリのあるスサノオは、じっと水面をにらんでいる。
     実は地熱の関係で湯と言える程温かいのだが、そんなことには興味がないとばかりに視線を海原に向けると、端的に唸って身をひるがえした。
     スサノオが海辺を去ると、そこに楽器の音が響き始めた。
     
    ●meeting
    「集まったか灼滅者たち。では、説明を始めよう」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は一度教室に集まった灼滅者たちを見渡すと、説明を始めた。
    「スサノオが生み出した古の畏れの起こす事件を予知した。相変わらず、スサノオの方に関してははっきりした予測ができていない。こっちに関しては頭を下げるばかりだが、どうか目の前に現れることを一つ一つ乗り越えていってほしい。お前たちが歩みを止めない限り、俺たちも全力で光へと導いて見せる」
     今回の相手は、人魚だ。
    「人魚といえば悲しみの涙とともに泡になる様なイメージが強いだろうが、残念ながらと言っていいのか、現れたのは、なんだ、直立する巨大なオオサンショウウオみたいなやつだ。まあ、古の畏れだからな。ははは。一応人の皮を被って美男美女になりすますっていう伝承はあるらしいぞ?」
     そいつらが海辺の岩場を占拠しているそうだ。
     問題はまず、彼らがたまに宴会を開き、それが人を引き込むらしい事。放っておけば場所の珍しさや音に引かれた一般人が人魚と出会ってしまう。被害が生まれるのは確実だ。
    「どうやらここ、珍しい事に温泉がわいているらしい。地元に住んでいる者ならすぐにこの場所に思い当るだろう」
     加えて人魚が複数いる事。
     一つ所に固まっているのでいちいち探し出す必要はないが、複数体を相手取る厄介さは灼滅者たちの知っての通りだ。
    「それと接触については、そうだな、探しても見つかるだろうし、わざわざ探してやらなくても自然と騒ぎ出す。そうすれば見つけるのは簡単だ」
     だたし、音につられて一般人が来ないとも限らない。後者を選択するなら一般人に対する対策をしておいて損はないはずだ。
    「戦闘となれば一体一体は他の古の畏れ程強くはない。が、その分連携や数を活かしてくるだろう」
     人魚の数は三体。
     一体は奇妙なホラ貝を使って広範囲を巻き込む攻撃で積極的に攻めてきて、一体は回復したり手に持った両刃の剣で攻撃しながら仲間を庇い、一体は結界や聞くだけで調子を崩す妨害を重視した歌を使う。
    「古の畏れを放っておけば被害が出ることは確実だ。どうかしっかり灼滅してきてほしい」
     そこまで言うと、目を逸らして頬をかく。
    「さっきも言ったが、珍しく海の近くに温泉がわいてるそうだ。……ああ、まだ寒いだろうし別に入ってこいとは言わない、だからその目はやめてくれ。とにかく、珍しいものだから人生で一度くらい見といて損はないだろう」
     ヤマトは薄っぺらい観光パンフレットを投げた。


    参加者
    結城・創矢(アカツキの二重奏・d00630)
    九凰院・紅(堕月流丙三種第一級戦鬼・d02718)
    暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)
    ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)
    興守・理利(明鏡の途・d23317)
    レオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)

    ■リプレイ

    ●異界の住人を見つける。
    「あ、いました。温泉浸かってますよ」
     双眼鏡をのぞいて、興守・理利(明鏡の途・d23317)が言った。潮風に少しだけ湯気が乗って通り過ぎた気がした。
    「人魚と言えば、琴を奏でて歌声で船人を惑わすイメージなのですが、日本では海辺の湯に浸かり宴を催しますか」
     理利の言葉にフランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)が感嘆する。至極まじめな顔なので、彼女の制服の下が『はるべると』のネームプレート付きのスク水だという事は考えない事にしたい。
    「あれが日本の人魚のスタンダードと思われるのは、この上なく遺憾ですね」
    「オオサンショウウオみたいな人魚……。確か、中国の歴史書にそんなのが書いてあったか。広くて狭い世界でも、結局似たような話はあるもんだ」
     ぶっきらぼうに、九凰院・紅(堕月流丙三種第一級戦鬼・d02718)がこぼした。つまり、この人魚たちは昔の中国らしいのだろうか。
    「……魚に手足、……直立不動?」
     そもそもオオサンショウウオを知らない暴雨・サズヤ(逢魔時・d03349)は、想像力を駆使して理利の言う人魚を思い描いてみるが、よく分からないものが頭の中で仮装してハロウィンを始める。
    (「人魚姫という事では、ないらしいが。温泉の人魚は……微妙かもしれない」)
    「見てみます?」
    「ん」
     サズヤは理利から双眼鏡を受け取って覗いた。と、
    「あ、あれ一般の人ですね」
     同じく双眼鏡で反対側を見ながら言ったのは御火徒・龍(憤怒の炎龍・d22653)。双眼鏡のレンズの向こうには看板の前で迷っているらしい一般人が見えていた。
    「立ち入り禁止の看板の前で悩んでるみたいですね」
    「……来られても困るか」
     話を聞いたライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)が、そちらに向かって行く。
    「手伝います」
     結城・創矢(アカツキの二重奏・d00630)と、紅も続く。声をかけ、調査で近くにいない方がいいと説明すると、そういうものかと納得して返って行った。一般人の後ろ姿が見えなくなるのを確認すると、仲間の所に戻る。
    「納得してくれたようなので、殺気も使えば戻ってこないと思いますよ」
     古の畏れは、異常に殺気に敏感だったり、一般人が無意識に逃げて行く光景を見せつけない限り気付かないだろうが、一応戦闘直前まで抑える。
    「了解。さて、僕も見せてもらってもいいかな?」
     作戦を意識しつつレオン・ヴァーミリオン(夕闇を征く者・d24267)がサズヤから双眼鏡を受けとった。双眼鏡を覗き、交代で人魚の様子を探りながら、灼滅者たちは人魚と距離を詰めて行く。
    「……『人魚詐欺じゃねえか!』と大変叫びたい」
     何だこの幻想クラッシュ、と小さく唇が動いた。
    「あれは人魚より魚人ですね。頑張ればゆるキャラとして張れそうです」
    「え?」
     理利の発言に、移動しながら龍も温泉につかる人魚たちの方を覗いてみる。レンズの中には温泉で泳いだり使ったりしている巨大なオオサンショウウオが見えた。
    「あのナマモノの宴会。……やばい見てみたい。ああいや、ちゃんと仕事はしますけどね。宴会が始まって人が寄ってきたら困りますし」
     とはいえ幸か不幸か、事前に情報をうまく集めたおかげで発見は早かった。しばらくは騒ぎ出しそうにない。
    「人魚、と聞くと麗しいそれを想像するけれど……。まあ、現実はこんなものだよね」
     肉眼で確認できる距離まで接近し、創矢が呟いた。声はひそめて理利が返す。
    「おれ、嫌いではないですよ……、可愛くないですか?」
     小声で話しながら近づいて行くと、鼻歌だろうか、一定の旋律に乗った声が聞こえ始めた。
    「共に宴席を囲める相手であればよかったのですが、是非も無し。相容れぬならば討ち果たすまで」
     と、不意に人魚の歌が止まる。
     辺りは物陰も多いが、人間がすっぽりと姿を隠すほどの死角はない。こちらを認識した人魚たちが温泉から水を引いて上がってきた。
     フランキスカとレオンは素早くESPを展開。ライラが拳を鳴らす。
    「……くつろいでいる所を失礼。歌は素晴らしい。けど、人を死に誘うならやめて貰うね」
     戦闘の気配を濃く感じる。人魚たちも感じたのだろう、各々の得物を構えた。
    「……一応、女性というのは若干引っかかるけども……やることはやらせてもらわないと、ね」
    「ん。よろしい、築地のマグロみたくきれいさっぱり解体してやる。慈悲はない」
     創矢とレオンの言葉が通じたのだろうか。人魚と灼滅者たちは同時に動いた。

    ●剣戟のメロディーが聞こえる。
    「……それじゃあ、あとはキミに任せるね……」
     創矢は意識のバトンを渡す。
    「キミらにとっては最後の宴会だ。悔いの無いよう、全力で歌い踊るといい」
     巨大なチェーンソー剣を掲げるレオン。灼滅者たちはそれぞれ戦闘モードに入り、前衛陣が飛び出す。
    「ち、遠いか」
     紅はまず支援をかけるが、飛び出して行った前衛たちには流石に遠くて届かない。翼のように広がった炎は紅と同じく距離を取って戦う創矢と理利に力を与えた。
    「……魚とはいえ、陸に上がればただのまな板の魚よ」
     ライラが風を切って接敵する。巨大に膨れ上がった片手で剣を持った人魚を打ち抜くと、人魚はかろうじて剣で受けながらも衝撃で吹っ飛んだ。
    「可愛い外見なれど、此処で倒させて貰います」
     理利の殺気が膨れ上がる。殺気は細かく空気を揺らし、人魚たちに傷を与えると同時に、理利の体をなじませて動きやすくする。
     空気の震えがピタリと止まった。少し後方に控えた人魚が結界で灼滅者たちの動きを止める。前衛たちの隙をついて、別の人魚がホラ貝を地面にたたきつけ炸裂させた。
    「やば……」
    「おっと、そう簡単にはいきません」
     爆発の中、盾を伸ばしたのは龍。完璧に防ぎきるまではいかずとも、シールドを広げて被害を軽減する。煙を突っ切り、盾を構える龍に剣を持った人魚が斬りかかった。龍が強引にシールドを押しつけて凌ぐと、攻撃の一瞬の隙をついてサズヤが二人の間に踏み込んだ。
     踏み込んだ足に体重を移し、人魚に雷を纏った拳が突きささる。
    「……ぬるっとしている」
    「嬉しくない感想だな。……だが、握り潰させてもらう!」
     距離が空いた所を創矢が追撃。巨大化させた手で捕まえるが、人魚は手と身体の間に剣を滑り込ませ、締め上げるとすぐに掌から逃れる。
    「防いだからって止まらないんだよねぇ」
     さらに振るわれたレオンのチェーンソー剣を人魚が剣で受けるが、武器を赤熱させるほどの炎は止まらない。
    「そいじゃまぁ、――アゲていこうかッ!」
     炎が人魚を包み込んだ。
    「ひとまず、先に動きを止めましょう。咎持つその身、炎霊の戒めを受けよ!」
     フランキスカが絶妙の距離から、後ろにいる人魚を結界で狙う。だが防御役の人魚は炎の中から抜け出すとわが身を晒して割り込み、結界を受けた。
     防御役の人魚の後ろから、妨害役の結界が飛んだ。重ねられた結界が、灼滅者たちの動きを阻害する。攻撃の緩んだ間に、防御役の人魚は薬を取り出し傷を癒す。もちろん剣で攻撃を受ける構えをとったままだ。
     創矢は呟く。
    「好きなようには動かせてくれないな」
    「正面からぶつかった以上仕方ないだろ。一つずつ崩す」
     ひとまずは防御役の構えを解かせる。紅は狙いやすい高所に構えると、ガトリングをぶっ放した。剣を構えて急所への射撃を止められるも、足の止まった所に創矢が一撃。
    「それしかないか。弾けろ……そして消え去れ」
     ガードの上から攻撃を叩きつけ、魔力を流し込む。内側からの攻撃に、思わず人魚は構えを崩した。
    「上手いね、貰ったァ!」
     レオンがチェーンソー剣を上段に振りかぶった。防御役の人魚に振り下ろす直前、ホラ貝を持った人魚が躍り込み、横からホラ貝でレオンを殴り飛ばす。
    「回復はおれに任せて、攻撃に専念して下さい」
     理利の符が宙に浮いたレオンを追い掛け、空中で張り付いた。
    「オッケェ、ありがとう。いいねぇ、盛り上がってきたぁッ!」
     レオンは着地すると同時にスタートを切り、接敵し斬りつけた。
    「早めに崩してしまいたいですね」
     龍の重量級バベルブレイカーが火を噴く。ジェットの推進力を使い杭を打ち込む事を狙うが、人魚は龍に向かって駆け、タイミングをずらし龍をかわした。龍の影からサズヤが飛びだした。
    「ん。早めに崩す」
     龍の後ろに回り込んだ人魚を、殺意を乗せた一撃で斬り裂く。
    「……そこね」
     構えをとれず、体勢を崩した防御役の人魚をここで落とす。ライラの魔力を込めた打撃が届く直前、結界が攻撃の軌道をずらす。ライラの攻撃はかわされた。
     動きを縛る結界を挟みこんだ防衛役の人魚の笑い声が聞こえた。
    「だが、貴様には届いたぞ」
     笑った人魚の隣には、武器に炎を纏わせたフランキスカ。今度は庇わせない。
     後ろに控えた人魚に炎の一撃を叩き込んだ。

    ●決着はビートを刻む。
    「お前も、もうきついだろ」
     紅の放つ、炎を纏った弾丸が人魚にくらいつく。着実にダメージを重ねるが、人魚の方も薬を使い怪我を治し炎を抑えた。
    「くっ、こっちが先に崩れるわけには、いきません!」
     理利の巻き起こした癒しの風が前衛を癒す。しかし面で押してくる相手に対してこのままでは押し切られることは明白だ。
    「人魚も回復しっぱなしってことは、もう後がないって事だ! 切り裂く、何枚にでも下ろしてやろう……!」
     創矢の影から刃が跳ね、人魚の肌を傷つける。
    「そういう事だね。……しまった」
     レオンの追撃、横薙に振るわれたチェーンソー剣を人魚は難なく受け流した。攻撃する前から、構えられていた。連続して似た技を使ったため、見切られているのだ。
     後悔を呟く声は聞こえなかった。
     人魚の歌が、灼滅者たちの聴覚を揺さぶる。海の向こう、人の知りえない場所を思わせる歌は、旋律だけで人間を拒絶し、灼滅者たちの体勢を崩させた。
     防御力の下がった所に、人魚はホラ貝を投げ込む。
    「させません!」
     爆発の直前、フランキスカは剣に刻まれた言葉を風に解放する。風は頭に響く歌声を弱め、灼滅者たちの足が岩場をしっかりとらえた。ホラ貝の爆発が襲った。
    「……ありがとね」
    「ん」
     爆風のおさまらないうちに、ライラが飛びだした。サズヤはライラを、龍は盾を構えてレオンを爆発から庇っていた。
    「……滅びるといい。宴会はこのたびで永久中止よ」
     非物質化した『ミストルティン』が光線をまとい、防御役を一刀のもとに両断した。人魚が一体倒れ、風に消える。
     人魚たちの連携が崩れた。
    「押し切ります」
     今まで攻撃にだけ回ってきた人魚に、龍が尖列の一撃をぶちこむ。それを契機に灼滅者たちの追撃が続く中、レオンだけが一歩とどまる。
    「ここは……抑えないとだねぇ」
     見切られた動きを再び取り戻すために、あえて積極的に攻めない。
     人魚の反撃が爆発する。龍は盾を構え、仲間の分も攻撃を庇った。
    「皆、後一押しだ!」
    「体勢は完璧に整えます」
     理利の符が舞い、フランキスカの聖句が風に乗る。傷の回復は一人ずつではあるが、今できる最良の状態を目指して身体を回復させる。
     爆発の炎を突っ切ってサズヤは人魚の死角にまわった。自分の一撃では落としきれなくとも、布石にする。繰り出された斬撃が、人魚の足を止め、その場に縫いつける。
    「落とすか」
    「だな。流石に飽きた」
     狙いを定め、紅と創矢は足元を鳴らした。ガトリングと魔法弾をぶっ放す。連射のリズムを即興で合わせる。威力よりも正確さを重視した攻撃だが、急所を正面からとらえる攻撃は、与えるダメージを何倍にもする。
    「まだ、まだだ!」
     人魚を連射がとらえ続ける。押して、押して、追撃を重ね、それぞれの最後の一発が人魚の顔面に突っ込んだ。人魚は仰向けに転がり、次第に消えていく。
     連射の硝煙が消えきらぬうちに、またしても人魚の歌が脳を揺さぶった。仲間を庇い続けた龍とサズヤが膝を付く。
    「さあ、これでクライマックスだよ」
    「……終わりにするね」
     庇われたのは、レオンとライラ。
     ライラの打撃が、人魚を浮かせる。蒼い魔法の光に照らされ、体内で魔力が荒れ狂う人魚に、炎を纏ったチェーンソー剣で一閃。
    「援護より、ここは押す時ですね。とどめを持っていくようで少し気は引けますが」
     クルセイドソードに何重にも纏わせた炎が、足元に溜まった海水を蒸発させる。
    「祓魔の騎士・ハルベルトの名において汝を討つ。水底に眠れ!」
     フランキスカの刃が走り、炎が人魚を飲み込んだ。後に残ったのは、炎と共に消えゆく人魚だけ。

    ●視界は遠く。
     辺りには波の音が響いていた。
    「複数現れるタイプの畏れは珍しかったかな。……ともあれ、犠牲者が増えてしまう前に始末できてよかった」
     戦闘後の処理も済ませ、いつもどおりに戻った創矢が言った。
    「折角ですし、温泉見て行きませんか?」
     理利がおずおずといった感じに手を挙げる。
    「いいんじゃないかい」
    「ん」
     レオンはすかさず、サズヤも表には見えづらいが積極的に賛成する。
    「……温泉はいいところね。ぜひ行ってみたい」
    「その温泉セットどこから出したんですか?」
     と、身体を解しながら言うライラと、ライラが片手にちゃっかり持った温泉セットにツッコむ龍。
    「入って来いとは言わない、とは言われましたが、入って来るなとも言われませんでしたね……」
    「何で既に水着を着こんでるんですか?」
     ばさぁっ、と防具を脱いだフランキスカ。下には『はるべると』のネーム入りスク水。
     などとやっている間に、紅はさっさと一人で温泉の温度を確かめていた。確かに、暖かい。
     ただ海水が付くのは嫌なので持ってきたペットボトルの水でさっさと手を洗っていると、サズヤも隣にやってきて、温泉に手を突っ込む。
    「……ぬくぬく」
    「海なのに暖かいというのは不思議な感覚です。観光地として売り出さないのが勿体ないですね」
     理利もこちらに来る。温泉につかり始めた女性陣から離れた所で、男たちが本当に温泉だと確かめ合う。むこうで、
    「海辺に湧く温泉、試す価値有り。いざ!」
    「……いい湯ね」
     水の跳ねる音が聞こえた。
    「なんだか、珍しい場所に珍しい古の畏れでしたね」
    「――次は、お仕事抜きで来たいもんだね」
     温泉の側に立って、海を眺めながらレオンがぽつりと呟く。
     視線の先には、遠すぎて向こう側の見えない水平線。しばらく過ごしていると、凪の海の上で太陽がオレンジ色に変わり始めた。

    作者:示看板右向 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2014年3月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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